MENU

退職金を分割受給すべき?一括受給との税額差を徹底シミュレーション【2025年版】

執筆者プロフィール:田中慎一
CFP(日本FP協会認定)・AFP認定者(認定歴12年)
元大手都市銀行個人向け資産運用コンサルタント(10年間)
元証券会社投資アドバイザー(5年間)
現在の金融資産:3,000万円(20代で株式投資により200万円の損失を経験後、つみたてNISAと確定拠出年金で資産形成に成功)


目次

はじめに:退職金受給で迷う皆さんへ

「退職金、一括でもらうべきか、それとも年金として分割でもらうべきか」

この記事をご覧になっているあなたも、きっと同じような悩みを抱えていらっしゃることでしょう。

私がファイナンシャルプランナーとして15年以上のキャリアの中で、最も多く相談を受けるテーマの一つが、この退職金の受給方法です。特に、50代後半から60代前半の方々からの相談は年々増加しており、「税金で損をしたくない」「老後資金を有効活用したい」という切実な願いを、毎日のようにお聞きしています。

実は、私自身も父の退職時に、この選択で家族会議を重ねた経験があります。父は勤続38年で退職金が2,200万円。当時の私はまだ金融機関に勤務していたにもかかわらず、退職所得控除や公的年金等控除の仕組みを完全に理解していませんでした。結果として、税務上最適ではない選択をしてしまい、約35万円も多く税金を支払うことになったのです。

この苦い経験が、私が退職金相談に特に力を入れるようになった原点です。

退職金の受給方法は、単なる税金の問題だけではありません。あなたの老後の生活設計、資産運用計画、さらには相続対策まで、様々な要素が複雑に絡み合っています。だからこそ、一人ひとりの状況に合わせた、慎重な検討が必要なのです。

この記事では、退職金の一括受給と分割受給について、税制面でのメリット・デメリットを具体的なシミュレーションとともに詳しく解説します。さらに、私が実際の相談業務で蓄積してきた経験をもとに、あなたの状況に最も適した選択肢を見つけるためのヒントをお伝えします。

最後まで読んでいただければ、あなたも「自分にとってベストな選択は何か」という答えが見えてくるはずです。

1. 退職金受給の基礎知識:知っておくべき2つの選択肢

退職金受給方法の種類とその特徴

まず、退職金の受給方法について基本から確認していきましょう。多くの企業では、退職時に以下の選択肢が用意されています。

一括受給(退職一時金) 退職と同時に、退職金の全額を一度に受け取る方法です。多くの方が選択する、最も一般的な受給方法といえるでしょう。

分割受給(企業年金) 退職金を一定期間にわたって年金として受け取る方法です。受給期間は企業によって異なりますが、5年から20年程度で設定されることが多いです。

併用受給 一部を一括で受け取り、残りを分割で受け取る方法です。すべての企業で選択できるわけではありませんが、両方のメリットを享受できる可能性があります。

私が相談を受けた実例:佐藤さん(仮名・58歳)のケース

ここで、実際に私が相談をお受けした佐藤さんの事例をご紹介します。佐藤さんは大手製造業で38年間勤務し、退職金として2,500万円を受け取る予定でした。

「田中さん、正直に言うと、退職金のことを考えると夜も眠れないんです。2,500万円という大きなお金をどう受け取るかで、税金がこんなに変わるなんて知りませんでした」

佐藤さんの不安は、まさに多くの方が抱えている悩みそのものでした。

受給方法による税制の基本的な違い

ここで、最も重要なポイントをお伝えします。退職金の受給方法によって、適用される税制が全く異なるということです。

一括受給の場合

  • 「退職所得」として課税
  • 退職所得控除が適用される
  • 控除後の金額の2分の1が課税所得

分割受給の場合

  • 「雑所得」として課税(一般的には公的年金等控除が適用)
  • 他の所得と合算して総合課税
  • 毎年の受給額に応じて所得税・住民税が発生

この違いを理解せずに選択してしまうと、場合によっては数十万円、時には数百万円もの税金の差が生じることがあります。

2. 一括受給の税制メリット・デメリット完全解説

退職所得控除の仕組みとその威力

一括受給を選択した場合に適用される「退職所得控除」は、退職金の税制上最大のメリットといえます。この制度について、詳しく見ていきましょう。

退職所得控除額の計算方法(2025年現在)

勤続年数20年以下の場合: 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)

勤続年数20年超の場合: 800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年)

例えば、勤続38年の場合: 800万円 + 70万円 × (38年 – 20年)= 800万円 + 1,260万円 = 2,060万円

つまり、勤続38年であれば2,060万円までは全く税金がかからないということです。

実際の税額計算シミュレーション

ケース1:勤続38年、退職金2,500万円の場合

退職所得控除額:2,060万円 課税退職所得:(2,500万円 – 2,060万円)× 1/2 = 220万円

所得税額の計算: 220万円 × 10% – 97,500円 = 122,500円 復興特別所得税:122,500円 × 2.1% = 2,573円 住民税:220万円 × 10% = 220,000円

合計税額:345,073円

この結果を見て、佐藤さんは「2,500万円の退職金で、税金がたった34万円程度なんですね。思っていたより随分少ないです」と安堵されました。

一括受給のメリット:資産活用の自由度

1. まとまった資金での投資機会

一括で受け取った退職金は、すぐに投資に回すことができます。私の顧客の中には、退職金の一部を米国株のインデックスファンドに投資し、5年間で1.5倍に増やした方もいらっしゃいます。

2. 金利変動リスクの回避

分割受給の場合、企業が設定する予定利率が将来変更される可能性があります。一括受給なら、このリスクを完全に回避できます。

3. 相続対策への早期着手

まとまった資金があることで、生前贈与や生命保険の活用など、相続対策を早期に開始できます。

一括受給のデメリット:慎重に考慮すべき点

1. 資産管理の負担増

突然、数千万円という大きな資産を管理することになります。私の経験では、退職金を受け取った直後に、金融機関の営業マンから投資商品の勧誘を受けて困惑される方が非常に多いです。

2. 使いすぎのリスク

心理的に「大きなお金がある」という安心感から、無計画な支出をしてしまう可能性があります。実際に、退職金を受け取ってから2年で500万円を使ってしまい、慌てて相談に来られた方もいました。

3. インフレリスクへの対応責任

分割受給なら企業が運用リスクを負いますが、一括受給では自分自身でインフレリスクに対応する必要があります。

3. 分割受給の税制とメリット・デメリット詳細分析

公的年金等控除の適用条件と計算方法

分割受給を選択した場合、多くのケースで「公的年金等控除」が適用されます。ただし、この制度は一括受給の退職所得控除ほど優遇されていません。

公的年金等控除額(2025年現在・65歳以上の場合)

公的年金等の収入金額が330万円以下:110万円 330万円超400万円以下:収入金額 × 25% + 27.5万円 400万円超770万円以下:収入金額 × 15% + 68.5万円 770万円超1,000万円以下:収入金額 × 5% + 145.5万円

注意点:公的年金等以外の所得がある場合 公的年金等以外の所得が1,000万円を超える場合、控除額が減額されます。これは2020年の税制改正で導入された制度です。

分割受給の具体的税額シミュレーション

先ほどの佐藤さんのケースで、分割受給を選択した場合を計算してみましょう。

前提条件:

  • 退職金2,500万円を10年間で分割受給
  • 年間受給額250万円
  • 65歳以降の受給
  • 他に厚生年金200万円/年を受給

年間の課税所得計算: 公的年金等の収入:250万円 + 200万円 = 450万円 公的年金等控除:450万円 × 15% + 68.5万円 = 136万円 雑所得:450万円 – 136万円 = 314万円

所得税・住民税の計算(基礎控除等を考慮): 課税所得:314万円 – 48万円(基礎控除)= 266万円 所得税:266万円 × 10% – 97,500円 = 168,500円 住民税:266万円 × 10% = 266,000円

年間税額:434,500円 10年間の総税額:4,345,000円

この計算を見ると、分割受給の場合、10年間で約434万円の税金がかかることがわかります。

分割受給のメリット:安定性と計画性

1. 毎年安定した収入の確保

分割受給を選択した田村さん(仮名・62歳)は、「毎月一定額が入ってくる安心感は、何物にも代えがたいです」とおっしゃっていました。特に、年金支給開始まで期間がある場合、生活費の補填として非常に有効です。

2. 計画的な家計管理が可能

一度に大きな金額を受け取らないため、計画的な支出管理がしやすくなります。「お金があるから」という理由での無駄遣いを防げます。

3. 税務上の分散効果

退職金以外の所得が多い年があっても、分割受給なら年間の税負担を分散できる場合があります。

分割受給のデメリット:リスクを正しく理解する

1. 企業の倒産リスク

これは最も深刻なリスクです。分割受給期間中に会社が倒産した場合、未払いの退職金を受け取れなくなる可能性があります。

私が経験した実例では、大手電機メーカーの早期退職者が、分割受給を選択した3年後に会社が大幅なリストラを行い、退職金制度自体が変更になってしまったケースがありました。幸い、既に受給を開始していた方の権利は保護されましたが、非常に心配な期間を過ごされました。

2. インフレによる実質価値の目減り

毎年同じ金額を受け取る場合、インフレが進行すると実質的な価値は目減りします。特に最近のような物価上昇局面では、この影響は無視できません。

3. 運用機会の逸失

一括で受け取って適切に投資していれば得られたかもしれない運用益を、逸失する可能性があります。

4. 状況別最適選択シミュレーション:あなたに最適な答えを見つける

パターン1:他の退職所得がある場合の注意点

事例:山田さん(仮名・60歳)のケース

山田さんは、58歳で早期退職し、その際に退職金1,800万円を一括受給しました。その後、60歳で別の会社に転職し、今度は800万円の退職金を受け取ることになりました。

このような場合、重要な税務上の注意点があります。

退職所得控除の計算における前回退職との関係

前回の退職から4年以内に再度退職金を受け取る場合、退職所得控除額の計算に特別な規定があります。具体的には、前回受給した退職金額に対応する勤続年数相当分は、今回の退職所得控除額から差し引かれます。

山田さんのケース:

  • 前回受給:1,800万円(退職所得控除額:1,520万円を使用)
  • 今回:800万円、勤続年数2年

通常なら勤続2年の退職所得控除は80万円ですが、前回との重複調整により、実際の控除額は大幅に減少する可能性があります。

パターン2:年金受給開始年齢との兼ね合い

事例:鈴木さん(仮名・65歳)のケース

鈴木さんは65歳での定年退職時に、厚生年金の受給も同時に開始されます。

年間想定収入:

  • 厚生年金:180万円
  • 分割退職金:200万円(10年間)
  • パート収入:100万円

合計年間収入:480万円

この場合の公的年金等控除額: 480万円 × 15% + 68.5万円 = 140.5万円

課税所得:480万円 – 140.5万円 – 48万円(基礎控除)= 291.5万円

このケースでは、分割受給により毎年の税負担が重くなる可能性が高いため、一括受給を検討すべきでしょう。

パターン3:配偶者の税制上の取り扱い

専業主婦の配偶者がいる場合の配偶者控除への影響

退職金の分割受給により年間所得が増加すると、配偶者控除や配偶者特別控除の適用に影響する場合があります。

配偶者控除の所得制限(2025年現在)

  • 合計所得金額900万円以下:満額38万円
  • 900万円超950万円以下:26万円
  • 950万円超1,000万円以下:13万円
  • 1,000万円超:適用なし

退職金の分割受給により、これらの境界線を超えてしまう場合は、税制上不利になる可能性があります。

5. 実践的な選択基準:プロが教える判断のポイント

税額以外で考慮すべき重要な要素

私が15年以上の相談業務で学んだことは、退職金の受給方法は税金だけで決めるべきではないということです。以下の要素も総合的に考慮する必要があります。

1. あなたの投資経験と資産運用能力

一括受給を選択する場合、その後の資産運用は自分自身の責任となります。投資経験が豊富で、適切なポートフォリオを組める自信があるなら、一括受給のメリットを最大限に活用できるでしょう。

逆に、投資に不安があり、「元本保証でなければ心配で眠れない」という方は、分割受給の安定性が向いている可能性があります。

2. 家族構成と将来設計

配偶者の年齢、子供の教育費、将来の介護費用など、家族構成によって最適な選択は変わります。

例えば、配偶者が若く、長期的な生活保障が必要な場合は、分割受給による安定収入が有効です。一方、子供が独立しており、夫婦ともに健康で、資産を積極的に増やしたい場合は、一括受給が適しているでしょう。

3. 会社の財務状況と将来性

分割受給を選択する場合、会社の将来性は重要な判断要素です。私は顧客に対して、以下の点をチェックすることをお勧めしています。

  • 直近3年間の売上・利益の推移
  • 業界全体の動向と会社のポジション
  • 退職金制度の変更履歴
  • 会社の格付けや財務指標

4. 相続対策の必要性

相続税の対象となる可能性がある場合、一括受給による早期の生前対策が有効な場合があります。

私が実際に使っている判断フローチャート

相談業務では、以下のような流れで最適な選択を導き出しています。

ステップ1:基本情報の整理

  • 退職金額
  • 勤続年数
  • 他の所得状況
  • 家族構成

ステップ2:税額シミュレーション

  • 一括受給時の税額計算
  • 分割受給時の年間税額と総額計算
  • 配偶者控除等への影響確認

ステップ3:リスク評価

  • 会社の財務安定性
  • 投資経験と資産運用能力
  • インフレ対応の必要性

ステップ4:総合判断

  • 税額差
  • 安定性
  • 成長性
  • 家族の価値観

6. 手続きの実際:選択から受給まで完全ガイド

選択手続きのタイミングと注意点

退職金の受給方法選択は、多くの場合、退職の3~6か月前に行う必要があります。ただし、会社によって手続きのタイミングは異なるため、早めの確認が重要です。

私の顧客が実際に経験した失敗例

製薬会社に勤務していた佐々木さん(仮名・59歳)は、退職金の受給方法について十分に検討していませんでした。人事部から選択書類が送られてきたのが退職の1か月前。慌てて相談にいらっしゃいましたが、十分な検討時間がなく、結果的に税制上不利な選択をしてしまいました。

選択手続きの一般的な流れ

  1. 事前説明会への参加(退職6か月前頃) 多くの企業では、退職予定者向けの説明会を開催します。この段階で制度の詳細を確認しましょう。
  2. 選択書類の記入・提出(退職3か月前頃)
    • 一括受給
    • 分割受給(期間の選択も含む)
    • 併用受給(可能な場合)
  3. 最終確認(退職1か月前頃) 提出した選択内容の最終確認を行います。多くの場合、この段階での変更は困難です。

税務署への届け出と確定申告

一括受給の場合

退職所得の受給に関する申告書を会社に提出することで、源泉徴収により税務処理が完了します。ただし、以下の場合は確定申告が必要です。

  • 退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合
  • 他に確定申告が必要な所得がある場合

分割受給の場合

企業年金として受給する退職金は、原則として確定申告が必要です。毎年、雑所得として申告することになります。

金融機関での手続きと注意点

一括受給を選択した場合、退職金を受け取る金融機関の選択も重要です。私の経験から、以下の点に注意することをお勧めします。

1. 預金保険の対象限度額

一般的な普通預金や定期預金は、1金融機関あたり元本1,000万円まで預金保険の対象となります。退職金が1,000万円を超える場合は、複数の金融機関に分散することを検討しましょう。

2. 金融商品の勧誘への対応

退職金を受け取った直後は、金融機関からの投資商品の勧誘が非常に多くなります。私の顧客の中には、退職金受給の翌日から連日電話がかかってきて困惑された方もいらっしゃいます。

事前に投資方針を決めておき、冷静に判断することが重要です。

7. よくある質問と専門家回答

Q1:退職金の分割受給中に会社が倒産したらどうなりますか?

A:これは非常に重要な質問です。

分割受給期間中に会社が倒産した場合、未払いの退職金が全額保護される保証はありません。ただし、以下の制度により一定程度は保護されます。

退職金制度の種類による違い

  1. 確定給付企業年金の場合 企業年金連合会が運営する「確定給付企業年金基金」により、一定額まで保護されます。
  2. 退職一時金制度の場合 労働者健康安全機構が運営する「未払賃金立替払制度」の対象となる場合がありますが、退職金が対象となるかは個別に判断されます。

私が顧客にお勧めしている対策

  • 会社の財務状況を定期的にチェック
  • 業界動向の把握
  • 分割受給期間は必要最小限にとどめる

Q2:退職金を受け取った後、すぐに投資を始めるべきですか?

A:慌てる必要はありません。まずは冷静な計画を立てましょう。

私は顧客に対して、必ず以下のステップを踏むことをお勧めしています。

ステップ1:緊急資金の確保(受給後1か月以内) 生活費の6か月~1年分は、いつでも引き出せる普通預金に確保しておきましょう。

ステップ2:投資方針の策定(受給後3か月以内)

  • リスク許容度の確認
  • 投資期間の設定
  • 目標利回りの設定

ステップ3:段階的な投資開始(受給後6か月以内) 一度に全額を投資するのではなく、ドルコスト平均法などを活用して段階的に投資を始めることをお勧めします。

Q3:夫婦で退職時期がずれる場合、どのような点に注意すべきですか?

A:夫婦の退職時期がずれる場合は、総合的な税負担を考慮した戦略が重要です。

実例:高橋ご夫妻(仮名)のケース

  • 夫:60歳で早期退職、退職金2,000万円
  • 妻:62歳で退職予定、退職金800万円

この場合、以下の点を検討しました。

  1. 配偶者控除の最大活用 夫の退職金を一括受給し、妻の退職までの期間は妻の収入を抑えて配偶者控除を最大限活用
  2. 年金受給開始時期の調整 夫婦の年金受給開始時期をずらすことで、税負担の分散を図る
  3. 相続対策の早期着手 夫の退職金を活用した生前贈与の実施

Q4:退職金の受給方法は後から変更できますか?

A:原則として変更は困難ですが、会社によっては例外的に変更を認める場合があります。

多くの企業では、一度選択した受給方法の変更は認めていません。しかし、以下のような特別な事情がある場合は、変更を認める企業もあります。

  • 配偶者の重篤な疾病による医療費負担の増加
  • 子供の教育費の急激な増加
  • 家族構成の大幅な変化

ただし、これらの変更には厳格な審査があり、必ず認められるわけではありません。

Q5:退職金にかかる税金を合法的に節税する方法はありますか?

A:いくつかの合法的な節税方法があります。

1. 小規模企業共済の活用

自営業者や会社役員の場合、小規模企業共済への加入により退職所得控除を追加で活用できます。

2. iDeCoの活用

確定拠出年金(iDeCo)による退職金も退職所得控除の対象となります。ただし、企業の退職金との受給タイミングには注意が必要です。

3. 生命保険を活用した所得分散

退職金の一部を一時払い終身保険に投入し、将来の保険金受給により所得の分散を図る方法もあります。

8. まとめ:あなたにとって最適な選択を見つけるために

ここまで、退職金の一括受給と分割受給について、税制面を中心に詳しく解説してきました。最後に、私がファイナンシャルプランナーとして15年以上の経験から得た、最も重要なポイントをお伝えします。

数字だけでは判断できない、人生の価値観

退職金の受給方法を決定する際、多くの方が税金の計算結果だけに注目しがちです。しかし、実際には税額差以上に重要な要素があることを、私は数多くの相談事例から学んできました。

安心感を重視する田中さん(仮名・63歳)の選択

田中さんは、税額シミュレーションでは一括受給の方が有利でしたが、最終的に分割受給を選択されました。理由を伺うと、「毎月決まった金額が入ってくる安心感は、お金では買えないものです。多少税金が高くても、夜安心して眠れることの方が大切です」とおっしゃいました。

この判断は、田中さんにとって間違いなく正しい選択でした。なぜなら、お金は人生を豊かにするための手段であり、不安を抱えながら過ごす老後では、本末転倒だからです。

私がお勧めする最終判断の基準

数多くの相談事例を通じて、私は以下の基準で最終的な判断をお勧めしています。

1. 税額差が100万円以上の場合 税制上有利な方を選択することを基本として検討

2. 税額差が50万円以下の場合 税金以外の要素(安心感、投資経験、家族構成等)を重視して判断

3. 税額差が50~100万円の場合 総合的な判断が必要。複数のシナリオを検討

あなたの価値観に合った選択を

この記事を読んでくださったあなたも、きっと退職金の受給方法について迷いを感じていらっしゃることでしょう。そんなあなたに、私がいつも相談者の方にお伝えしている言葉をお送りします。

「最適な答えは、人それぞれ違います。税金の計算結果だけでなく、あなたの価値観、ライフスタイル、家族構成、そして何より『どのような老後を過ごしたいか』という想いに基づいて決めてください」

退職金は、長年にわたる勤労の対価として受け取る大切な資産です。その受給方法を決める際は、目先の損得だけでなく、あなたらしい老後を過ごすために最も適した選択をしていただきたいと思います。

最後に:迷った時はプロに相談を

もし、この記事を読んでも迷いが残る場合は、お気軽にファイナンシャルプランナーにご相談ください。私たちは、あなたの個別の状況に合わせた最適なアドバイスを提供いたします。

退職金の受給は、人生に一度の大きな決断です。後悔のない選択をするためにも、十分な検討と準備を行っていただければと思います。

あなたの豊かな老後のために、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。


注意事項 本記事の内容は2025年9月時点の税制に基づいています。税制は改正される可能性があるため、実際の判断の際は最新の情報を確認するか、専門家にご相談ください。また、個別の状況によって最適な選択は異なりますので、具体的な判断は必ず専門家と相談の上で行ってください。

参考資料

  • 国税庁「退職所得の源泉徴収税額表」
  • 厚生労働省「企業年金制度について」
  • 金融庁「NISA・iDeCo制度概要」

執筆者へのお問い合わせ 本記事の内容についてご質問がございましたら、日本FP協会の相談窓口または、お近くのCFP認定者にご相談ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次