1. エグゼクティブ・サマリー
投資スタンス: 弱気、確信度 70%
エスクリ(2196)の2026年3月期第1四半期決算は、ブライダル事業における施行件数の減少を主因とする大幅な減収減益となりました。売上高は前年同期比11.1%減の50.87億円、営業損失は4.56億円と、前年同期の1.77億円の損失から赤字幅が拡大しています。ブライダル事業は単価は堅調に推移したものの、前期の受注件数減少の影響が顕在化し、施行件数が落ち込んだことが直接的な原因です。建築不動産事業も工事取扱高は増加したものの、前期の不動産販売の反動減で減収となりました。
この結果、通期業績予想に対する進捗率は売上高で20.3%、売上総利益で20.4%と計画を下回るペースで推移しており、会社は通期予想を据え置いているものの、達成には相当な上振れが求められます。特に、ブライダル事業の受注残件数が前年同期比で80.9%に減少している点は、今後の施行件数の減少を示唆しており、通期目標達成への不透明感を強めています。
ただし、ティーケーピー(TKP)やラオックスホールディングスとの資本業務提携は、既存事業の強化(平日空き枠の活用、インバウンド需要取り込み)やシナジー創出に繋がる可能性を秘めています。また、「ビルイン型」施設に強みを持ち、DX戦略やコラボレーションを通じて新たな価値を創出しようとする姿勢は、業界の構造的課題(少子化、晩婚化)に対応しようとする前向きな動きと評価できます。しかし、これらの取り組みがP/Lに貢献するには時間を要すると見られ、足元の業績悪化を食い止めるには至らないと判断し、弱気な投資スタンスを取ります。
主要カタリスト
- TKPとの提携によるシナジー発現: 平日空き枠の活用や共同ブランド「CIRQ」の成功による収益向上。
- ラオックスホールディングスとの提携: インバウンド集客の本格化と収益貢献。
- 新たなM&Aや提携の発表: 新規事業領域への進出や事業規模拡大による市場の評価向上。
主要リスク
- ブライダル事業の構造的な業績不振: 受注件数の減少が継続し、下期も施行件数が低迷するリスク。
- 販管費の増加: 売上減少に対するコスト抑制が追いつかず、損失がさらに拡大するリスク。
- 通期計画の未達: 会社計画の大幅な下振れによる市場からの信用失墜。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
エスクリは、結婚式の企画・運営を主軸とする
ブライダル事業と、店舗・オフィスの設計施工や建材・古材の販売を行う建築不動産関連事業を展開しています。
ビジネスモデルの評価
エスクリの売上は、主にブライダル事業における**「施行件数(Q)」×「1組あたりの単価(P)」**というシンプルな構造で成り立っています。このビジネスモデルの強みと脆弱性は以下の通りです。
強み:
- 高単価ビジネス: 結婚式は一生に一度のイベントであり、顧客は単価の上昇を受け入れやすい特性があります。エスクリは値引き抑制や「アイテムのランクアップ提案」により単価を堅調に維持できています。
- 強固な集客力: ディズニー、サンリオ、ポケモンなどの有名IPとのコラボレーションにより、強力なブランド力を確立し、特定のファン層からの集客に成功しています。
- 都市型・ビルイン施設の強み: 主要駅近隣に「ビルイン型」の施設を多く展開しており、「交通の便の良さ」を重視する顧客ニーズに応えています。この戦略は、少子化による婚姻件数減少の影響が比較的緩やかな都市部での事業展開を可能にしています。
脆弱性:
- 需要の季節性・マクロ環境依存: 結婚式は季節性が高く、特に少子化や晩婚化といったマクロトレンドの影響を直接受けます。新型コロナウイルス感染症拡大のような外部要因によって、施行件数が大幅に減少するリスクも顕在化しました。
- 施行件数と売上・利益の強い連動: 結婚式の売上は施行件数に強く依存しており、一旦受注が減少すると、売上や利益に与える影響が大きくなります。今回の決算は、この脆弱性が如実に表れた形です。
- 建築不動産事業の収益変動: 建築不動産関連事業は、工事の取扱いが増加したものの、不動産販売の有無によって売上高が大きく変動する不安定な側面があります。
競争環境
ブライダル業界は、大手企業が不在で、業界トップ5社の売上高合計が市場全体のわずか13%を占めるなど、未だに「ガリバー企業が不在」の状況です。このことは、エスクリが
シェア拡大の余地を持っていることを示唆しています。主要な競合他社と比較した際の強みと弱みは以下の通りです。
- 強み:
- ビルイン型施設: 大手競合他社が「一棟建て」施設に偏る中、エスクリは施設数の約5割を「ビルイン型」が占めており、この特異な事業ポートフォリオは、アクセスの良い都市部への出店戦略を可能にしています。
- DX戦略への先行投資: デジタル技術を活用した「新しい結婚式のカタチ」の創出や生産性向上、働き方改革を掲げており、業界の旧態依然としたビジネスモデルからの脱却を図っています。
- 弱み:
- 規模の経済性: 業界トップクラスのシェアを誇る企業ではないため、広告宣伝費や仕入れコストにおいて、規模の経済性を十分に享受できていない可能性があります。
- ブランド力: 地域密着型で一棟建ての独立したブランドを築いている競合と比較すると、エスクリ全体のブランド認知度や高級感のイメージで劣る可能性があります。
3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析
項目 | 2026年3月期1Q (百万円) | 2025年3月期1Q (百万円) | 前年同期比 (百万円) | 前年同期比 (%) |
売上高 | 5,087 | 5,721 | △633 | △11.1% |
売上総利益 | 2,815 | 3,348 | △532 | △15.9% |
販売費及び一般管理費 | 3,271 | 3,526 | △254 | △7.2% |
営業利益 | △456 | △177 | △278 | △157.0% |
経常利益 | △498 | △204 | △293 | △143.6% |
当期純利益 | △330 | △142 | △187 | △131.6% |
*売上高、営業利益、経常利益、当期純利益は決算短信から抜粋し、千円単位を百万円単位に変換して四捨五入しています。 |
営業利益のブリッジ分析: 前年同期の営業損失(△1.77億円)から当期の営業損失(△4.56億円)への変動要因を分解すると、利益構造の悪化が明確になります。
- 売上数量/ミックス変動:
- ブライダル事業の施行件数減少による売上減:約6.2億円の減収。
- 建築不動産事業の不動産販売の反動減による売上減:約0.07億円の減収。
- 合計売上減:約6.3億円
- 価格/原価率変動:
- 売上高減少幅(△6.3億円)に対して売上原価の減少幅はわずか1.01億円にとどまっており、原価率が41.5%から44.7%に悪化しています。これは、売上に比例しない固定費(人件費や施設維持費など)の存在を示唆しています。原価率悪化による影響は、利益に対して約2.8億円のマイナス要因と推測されます(売上減6.3億円 * 44.7% – 6.3億円 * 41.5% = 約0.2億円の原価改善)。これは単純な計算であり、売上総利益の減少額5.32億円から判断すると、売上減による利益減少分(6.3億円 * (1 – 41.5%) = 3.69億円)に加え、原価率悪化分(売上高50.87億円 * (44.7% – 41.5%) = 1.63億円)が影響したと推測できます。
- 販管費変動:
- 販管費は前年同期比で2.54億円減少しており、これはコスト削減努力の結果と見られます。特に人件費(△1.15億円減)と広告宣伝費(△1.13億円減)の削減が大きく貢献しています。販管費の抑制は利益に対して約2.5億円のプラス要因です。
結論: 売上高の減少が利益を圧迫する中、販管費の削減は評価できるものの、原価率の悪化がそれを相殺し、結果として営業損失の拡大に繋がった構造が明らかになりました。
B/S分析
項目 | 2026年3月期1Q末 (百万円) | 2025年3月期末 (百万円) | 増減 (百万円) |
資産合計 | 20,064 | 21,329 | △1,265 |
負債合計 | 14,122 | 15,058 | △935 |
純資産合計 | 5,941 | 6,271 | △329 |
自己資本比率 | 29.6% | 29.4% | +0.2pt |
*単位は千円から百万円に変換して四捨五入しています。 |
資産合計は12.65億円減少しました。主な減少要因は
現金及び預金の12.14億円減少と、完成工事未収入金の3.06億円減少です。これは営業活動によるキャッシュアウトと、建築不動産事業の売上減少を反映していると考えられます。負債合計も9.35億円減少しており、支払手形及び買掛金の減少が目立ちます。赤字計上により純資産は3.29億円減少したものの、自己資本比率は微増しており、これは負債の減少幅が純資産の減少幅を上回ったためと見られます。
運転資本の分析(CCC): CCCを構成する主要指標を算出して分析します(以下は概算)。
- 売上債権回転日数(DSO):
- 2025年3月期末: 777,050千円 / (26,179百万円 / 365日) = 10.8日
- 2026年3月期1Q末: 848,693千円 / (5,087百万円 / 90日) = 15.0日
- DSOは増加しており、売上高の減少にもかかわらず売掛金が積み上がっていることを示唆しています。これは、回収サイトの長期化や特定の顧客からの回収遅延リスクを示唆する可能性があります。
- 棚卸資産回転日数(DIO):
- 2025年3月期末: 308,475千円 / (2,373,241千円 / 365日) = 47.5日
- 2026年3月期1Q末: 312,590千円 / (2,272,225千円 / 90日) = 12.4日
- DIOは大幅に減少しています。これは棚卸資産の効率的な回転を示唆しているように見えますが、売上原価が減少しているにもかかわらず棚卸資産が微増している点には注意が必要です。**在庫の質(滞留期間、陳腐化リスク)**については詳細な情報がないため断定できませんが、今後の推移を注視する必要があります。
- 仕入債務回転日数(DPO):
- 2025年3月期末: 607,595千円 / (2,373,241千円 / 365日) = 93.4日
- 2026年3月期1Q末: 451,309千円 / (2,272,225千円 / 90日) = 17.9日
- DPOは大幅に減少しています。これはサプライヤーへの支払いが早まっていることを意味し、短期的なキャッシュアウトを加速させる要因となります。
CCCの結論: DSOの悪化とDPOの急激な減少により、CCCは大幅に悪化していると推測されます。これは、本業のキャッシュフロー創出力が低下していることを強く示唆しており、企業の資金繰りにとって懸念材料です。
キャッシュフロー(C/F)分析
当四半期連結累計期間に係る四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成されていないため、詳細な分析は困難です。しかし、B/Sの現金及び預金の減少額(12.14億円減)は、営業活動によるキャッシュアウトが主要因であると推測されます。純損失が3.3億円であるのに対し、現金が12.14億円減少していることから、営業活動による非現金支出(減価償却費など)を差し引いても、
利益の質は低いと評価せざるを得ません。
資本効率性の評価
ROIC vs WACC:
- ROICは、投下資本(有利子負債+自己資本)からどれだけの利益を生み出したかを示す指標です。
- 2025年3月期: 8.03億円(有利子負債) + 62.71億円(純資産) = 70.74億円(投下資本)。営業利益8.03億円から税金を引いた後のNOPATは約5.6億円と仮定。ROIC = 5.6億円 / 70.74億円 = 約7.9%。
- WACCは、資金調達コストを示す指標です。具体的な数値は開示されていませんが、一般的にROICがWACCを上回れば企業価値を創造しているとされます。
- 2026年3月期1Qは営業損失のため、ROICはマイナスとなり、企業価値を毀損している状況です。
ROEのデュポン分解:
- 2025年3月期実績: ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
- 純利益率: 3.14億円 / 261.79億円 = 1.2%。
- 総資産回転率: 261.79億円 / 213.29億円 = 1.23回転。
- 財務レバレッジ: 213.29億円 / 62.71億円 = 3.4倍。
- ROE = 1.2% × 1.23 × 3.4 = 5.0%
- 2026年3月期1Qは純損失のため、ROEはマイナスです。
- 総じて、過去のROEは低い水準に留まっており、今回の赤字転落で資本効率性は大きく悪化しています。
4. セグメント情報の徹底解剖
セグメント | 2026年3月期1Q 売上高 (百万円) | 2025年3月期1Q 売上高 (百万円) | 前年同期比 (%) | 2026年3月期1Q 営業損益 (百万円) | 2025年3月期1Q 営業損益 (百万円) |
ブライダル関連 | 4,352 | 4,979 | △12.6% | △177 | △60 |
建築不動産関連 | 735 | 742 | △1.0% | △55 | 26 |
調整額 | – | – | – | △223 | △144 |
連結 | 5,087 | 5,721 | △11.1% | △456 | △177 |
*単位は千円から百万円に変換して四捨五入しています。 |
好調セグメントと不振セグメントの要因分析
- ブライダル関連事業(不振):
- 売上高: 43.52億円(前年同期比12.6%減)。これは、前期の受注数減少の影響が顕在化した結果です。ブライダル事業は「受注」から「施行」までに時間差があるため、過去の受注状況が現在の売上に影響を与えます。
- 営業損益: 1.77億円の損失(前年同期は0.6億円の損失)。売上総利益の減少が主な要因です。単価は堅調に推移していることから、売上総利益率の低下は、売上規模の縮小による固定費(施設維持費など)の負担増が影響していると見られます。
- 建築不動産関連事業(不振):
- 売上高: 7.35億円(前年同期比1.0%減)。工事取扱高は増加したものの、前期の不動産販売の反動減が減収の主要因となりました。
- 営業損益: 0.55億円の損失(前年同期は0.26億円の利益)。売上減と、売上原価(未成工事支出金の増加など)とのバランスの悪化が利益を圧迫しました。
ポートフォリオ・マネジメントの評価: エスクリは、結婚式というライフイベントに依存するブライダル事業の脆弱性を補完するため、建築不動産事業を推進しています。しかし、今回の決算では、建築不動産事業も減収減益となり、ポートフォリオとしてのリスク分散が機能しているとは言えません。むしろ、
両事業が同時に不振に陥っており、リスク分散のシナジー効果がまだ十分に発揮されていないことが明らかになりました。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
会社は2026年3月期の通期連結業績予想を据え置いています。しかし、第1四半期の進捗率は売上高、売上総利益ともに約20%にとどまっており、通期目標達成には今後の四半期で大幅な売上回復が必須となります。
売上高: 250.53億円(計画)に対し、50.87億円(1Q実績)
- 進捗率: 20.3%。単純な四半期均等ペース(25%)を下回っています。
営業利益: 3.8億円(計画)に対し、△4.56億円(1Q実績)
- 進捗率: 計画比で大幅なマイナスです。
経営陣の評価: 今回の決算は、過去の受注減少という先行指標が示す通りの結果であり、経営陣の需要予測能力に大きな問題があったとは言えません。むしろ、施行単価を維持しながら販管費を抑制し、収益悪化を最小限に食い止めようとする努力は評価できます。しかし、通期計画を据え置いた経営判断には、疑問が残ります。
- 据え置きの根拠: 決算短信では、「直近に公表されている業績予想からの修正の有無:無」と記載されており、具体的な理由の開示はありません。しかし、決算説明資料のP.15には「受注数は前期比較で増加見通し」とあり、下期以降の回復を見込んでいる可能性があります。
- 妥当性: ブライダル事業の売上は施行件数に依存するため、受注件数の回復が売上回復に繋がるという論理は妥当です。しかし、受注残件数は減少傾向にあり、下期以降の大幅な回復には不確実性が高いと判断します。強気の据え置きは、市場からの信頼を損なうリスクを内包しています。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
3つのシナリオ
- 強気シナリオ(蓋然性 10%):
- 前提: ティーケーピーとの提携による平日稼働率の飛躍的な向上や、ラオックスホールディングスとの提携によるインバウンド需要の急速な取り込みが成功。また、ブライダル事業の受注数が予想を大幅に上回って回復し、下期の施行件数が急増。
- 業績予測: 売上高 240億~260億円、営業利益 2億~5億円。
- 基本シナリオ(蓋然性 60%):
- 前提: ブライダル事業の受注は緩やかに回復するものの、前期の受注減が響き、下期も施行件数の減少傾向が続く。提携によるシナジーは部分的に発現するも、本格的な収益貢献には至らず。コスト削減は継続するが、売上減少を補うには不十分。
- 業績予測: 売上高 210億~230億円、営業利益 △1億~0億円。会社計画は未達と見込む。
- 弱気シナリオ(蓋然性 30%):
- 前提: 婚姻件数の構造的な減少トレンドが加速し、受注件数の回復が遅れる。新たな提携による収益貢献が想定以下に留まり、競争激化による客単価の下落リスクも顕在化。コスト削減も限界に達し、売上減少による固定費負担がさらに悪化。
- 業績予測: 売上高 190億~210億円、営業利益 △3億~△1億円。
カタリストとリスク
- カタリスト:
- TKPとの提携による新たな共同事業の成功発表: 平日稼働率の向上を具体的に示すKPIの発表。
- ラオックスグループとの提携成果発表: インバウンド顧客からの大型受注の獲得。
- 四半期ごとの受注件数の顕著な回復: 決算資料で開示されるKPIの動向に注目。
- リスク:
- 計画未達による下方修正: 通期計画を下方修正した場合、市場からの信用が大幅に失われる可能性がある。
- ブライダル事業における単価下落: 競争激化により値引き競争が再燃するリスク。
- 提携シナジーの遅延: 協業が計画通りに進まず、収益貢献が想定より遅れるリスク。
7. バリュエーション(企業価値評価)
相対評価法
- エスクリはPERやPBRといった指標で評価することが困難な状況です。PERは赤字のため算出不能。PBRは、自己資本比率が29.6%であり、株価が簿価(BPS)を下回る可能性が高いと見られます。
- 業界比較: ブライダル業界の主要な競合他社と比較すると、エスクリの企業規模は中堅クラスであり、独自の出店戦略とアライアンスを強みとしています。しかし、今回の決算で示された収益性の低さと将来的な不確実性は、競合と比較してディスカウントで評価されるべき要因です。
- EV/EBITDA: 営業利益がマイナスであるため、この指標も現時点では有効ではありません。
絶対評価法
簡易的なDCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)を用いて理論株価を試算する場合、フリーキャッシュフロー(FCF)の予測が最も重要となります。
- 2026年3月期のFCFは、営業利益がマイナスであるため、大幅なマイナスになる可能性が高いです。
- 永久成長率の仮定は、業界の構造的な縮小トレンドを考慮すると、マイナスまたはゼロ近辺と置くのが妥当です。
- これらの前提に基づくと、現在の事業構造ではマイナスの企業価値となる可能性が高く、理論株価は算出できないか、または大幅な下方修正が必要となります。
8. 総括と投資家への提言
今回の決算は、エスクリが直面しているブライダル事業の構造的な課題を改めて浮き彫りにしました。ブライダル事業の収益性は、単価は維持しているものの、施行件数の減少により固定費負担が重くのしかかり、大幅な悪化を招いています。さらに、建築不動産事業も業績の安定化には至っておらず、事業ポートフォリオとしてのリスク分散機能はまだ十分に機能しているとは言えません。
一方で、強みである都市型・ビルイン施設への出店戦略や、TKPやラオックスホールディングスとの資本業務提携、DX戦略の推進といった取り組みは、将来的な成長の可能性を秘めています。しかし、これらの戦略が実際に収益に貢献するには時間を要すると考えられ、足元の業績不振を補うには力不足です。
したがって、当レポートはエスクリに対して**「弱気」な投資スタンス**を推奨します。経営陣が通期計画を据え置いた判断は、市場の期待を過度に高めるリスクを伴うものであり、今後の計画未達リスクが高いと判断します。
今後の株価動向を監視する上で注視すべき最重要KPIとイベント:
- 受注残件数: 決算説明資料で定期的に開示される受注残件数の推移。これが回復基調に乗るかが最大の注目点です。
- 四半期ごとの営業利益の推移: 売上回復とともに、固定費負担の軽減が進み、営業損失が縮小するかが重要です。
- 提携シナジーの具体的な成果発表: TKPやラオックスとの提携が、インバウンド集客や施設の稼働率向上にどの程度貢献したかを示す具体的な指標。
- 次四半期以降の決算における通期計画の見直し: 会社が強気な姿勢を維持するか、現実的な計画に下方修正するか。
投資家は、これらの指標を慎重に分析し、事業の構造的な転換が実際に進んでいるかを判断する必要があるでしょう。現時点では、リスクがリターンを上回ると判断します。