1. エグゼクティブ・サマリー(結論ファースト)
- 投資スタンス:弱気(確信度:70%)
- 第1四半期決算は、一見すると前年同期比で増収を確保したものの、その牽引役は本業の店舗運営ではなく、持続性に不透明感が残る「本部の外部卸売」である。主力の直営店・フランチャイズ(FC)事業は既存店売上の不振が続いており、収益構造の根本的な課題は解決されていない。コスト増を吸収できず営業赤字が拡大し、運転資本の悪化によるキャッシュフローへの懸念も大きい。現時点では、株価の本格的な上昇を期待するのは時期尚早と判断する。
- 3行サマリー:
- 何が起きたのか: 外部卸売の急増によりQ1売上は前年同期比3.7%増となったが、人件費等のコスト増が重く、営業損失は68百万円から82百万円へと拡大した 。
- なぜそれが重要なのか: 本業である店舗事業の不振(直営既存店売上0.8%減、FC国内既存店末端売上4.0%減)を、新たな収益源がカバーする構図だが、この新事業の利益率や持続性は未だ不透明であり、収益の「質」に疑問符が付く 。運転資本の悪化は深刻で、キャッシュ創出力の低下を示唆している。
- 次に何を見るべきか: ①外部卸売事業の売上高と利益率の推移、②冬場の本番に向けた既存店売上高の回復度合い(特にインバウンド客の動向)、③悪化している棚卸資産回転日数の改善に向けた経営の取り組み。
- 主要カタリスト(ポジティブ要因)
- 外部卸売事業の大型契約獲得: 現在の成長ドライバーである外部卸売で、安定的な収益基盤となる大型契約が獲得されれば、業績の持続性への信頼が高まる。
- インバウンド需要の爆発的再燃: 想定を超える円安の進行や旅行需要の回復により、客単価の高いインバウンド客が冬場に急増し、既存店売上を劇的に押し上げる。
- 効果的なコスト構造改革の断行: 現在進行中の人件費増を上回る店舗オペレーションの効率化や、本部のスリム化を断行し、損益分岐点を大幅に引き下げる。
- 主要リスク(ネガティブ要因)
- 外部卸売事業の失速: 1Qの好調が一過性のものであり、競合の参入や需要一巡によって成長が鈍化し、本業の不振をカバーできなくなる。
- 消費マインドの深刻な冷え込みと暖冬: 物価高騰による節約志向の更なる高まりで、高単価業態である「玄品」が敬遠される。加えて、暖冬により冬のふぐ需要が盛り上がらず、最大の書き入れ時を逃す。
- 運転資本の更なる悪化: 意図した在庫積み増しが需要の低迷により滞留在庫と化し、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)がさらに悪化。キャッシュフローを圧迫し、財務リスクが高まる。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
株式会社関門会は、とらふぐ料理専門店「玄品」を主力ブランドとして、直営およびFC形式で国内外に店舗展開する外食企業である 。同社のビジネスモデルは、以下の要素で構成される。
- 収益モデルの数式表現:
総売上 = (直営店売上) + (FC関連売上) + (その他売上)
直営店売上 = Σ (店舗数 × 平均顧客数 × 平均客単価)
FC関連売上 = Σ (ロイヤリティ収入 + 食材等卸売売上)
その他売上 = 本部による外部への食材卸売売上 等
- ビジネスモデルの強みと脆弱性:
- 強み:
- 専門性とブランド: 「とらふぐ」という専門性の高い食材に特化し、「玄品」という一定のブランドを確立している。これにより、一般的な居酒屋チェーンとの直接的な価格競争をある程度回避できている。
- 仕入れ・加工能力: 本社工場での一括加工や、長年の経験に基づく仕入れ網は、新規参入者に対する一定の障壁となる 。このインフラを活用した「外部卸売」は、新たな成長の核となる可能性を秘める。
- 脆弱性:
- 極端な季節変動: ふぐ料理の需要は冬場に集中するため、業績は第3・第4四半期に極度に偏重する 。このため、上期は構造的に赤字となりやすく、通期での収益性を確保するためには冬場の需要動向に極めて大きく依存する。
- 景気・消費マインドへの高感応度: ふぐ料理は嗜好品・贅沢品の側面が強く、景気後退や消費者の節約志向の高まりによる影響を受けやすい 。
- 天候リスク: 暖冬はふぐ需要の低迷に直結し、売上を直撃するリスクを常に抱える。
- 限定的な成長機会: 「ふぐ」という市場自体の成長性は限定的であり、国内での大幅な店舗数拡大は難しい。インバウンドや海外展開、そして今回の「外部卸売」のような新たな収益源の開拓が不可欠となっている。
- 強み:
- 競争環境: 同社の直接的な競合は、同じくとらふぐ料理を専門とする「とらふぐ亭」などが挙げられる。しかし、より広範に見れば、記念日や会食などで利用される中~高価格帯の和食レストラン(例:木曽路など)全てが競合となる。これらの競合と比較した場合、同社の強みは「ふぐ」への特化による専門性と、それに伴うコスト効率(大量仕入れ・加工)にある。一方、弱みは、ふぐ以外の選択肢がないことによる顧客層の限定と、極端な季節変動による経営の不安定さである。
3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析:増収減益の裏側にある構造的問題
主要損益項目サマリー(百万円) | 項目 | 2026/3期 1Q | 2025/3期 1Q | 前年同期比 | 会社計画(2Q累計) | 2Q計画進捗率 | | :— | :— | :— | :— | :— | :— |
| 売上高 | 954 | 920 | +3.7% | 1,840 | 51.8% |
| 営業利益 | △82 | △68 | -21.0% | △241 | 34.0% |
| 経常利益 | △87 | △78 | -11.5% | △255 | 34.1% |
| 四半期純利益 | △56 | △49 | -15.0% | △170 | 32.9% |
売上高は前年同期比3.7%増とプラス成長を確保した 。しかし、その中身を見ると、本業の直営店が2.2%減、FC既存店が4.0%減と苦戦する一方、本部の外部販売などを含む「その他」が57.3%増と急伸したことが要因である 。これは、ビジネスモデルの転換点となる可能性を秘める一方、本業の地盤沈下という深刻な問題を浮き彫りにしている。
利益面では、全ての段階で赤字幅が拡大。売上増にもかかわらず、従業員待遇改善に伴う人件費増、広告宣伝費の増加といった販管費の増加(前年同期比+5.7%)を吸収しきれていない 。
【必須】営業利益ブリッジ分析(百万円)
前年同期の営業損失(△68百万円)から当期の営業損失(△82百万円)への変動要因を定量的に分解する。
- 前年同期 営業損失: △68
- ① 売上増に伴う粗利増効果: +24
- 売上高は34百万円増加した (954 – 920) 。これに前年同期の粗利率69.3% (638/920) を乗じると、約+24百万円の増益効果があったと試算される。
- ② 原価率改善効果: +3
- 当期の売上総利益は664百万円、粗利率は69.6% (664/954) であり、前年同期から0.3pt改善した 。これは、売上高34百万円の増加を考慮した後の実際の粗利増(+27百万円)から、上記①の売上増効果(+24百万円)を差し引いた差額に相当する。うなぎ料理などの新メニューや外部販売の構成比変化が寄与した可能性がある。
- ③ 販管費増加による減益効果: △40
- 販管費は707百万円から747百万円へと40百万円増加した 。これは「従業員待遇改善による昇給や賞与などの人件費関連や広告宣伝費等」によるものであり、今回の赤字拡大の最大の要因である 。
- ① 売上増に伴う粗利増効果: +24
- 当期 営業損失: △82
結論: このブリッジ分析が示すのは、売上増と僅かな原価率改善によるプラス効果(合計+27百万円)を、それを大幅に上回る販管費の増加(△40百万円)が完全に打ち消してしまったという厳しい現実である。コスト管理の徹底を謳いつつも 、インフレ環境下でのコスト増圧力に抗しきれていない。
B/S分析:キャッシュを喰う運転資本
項目 | 2025/6/30 | 2025/3/31 | 増減 | ||||
総資産 | 2,789 | 3,316 | △527 | ||||
現金及び預金 | 801 | 1,403 | △602 | ||||
棚卸資産 | 637 | 574 | +63 | ||||
負債 | 1,558 | 2,027 | △468 | ||||
短期借入金 | 600 | 900 | △300 | ||||
純資産 | 1,230 | 1,289 | △59 | ||||
自己資本比率 | 44.1% | 38.9% | +5.2pt |
総資産は、現金及び預金が602百万円と大幅に減少したことを主因に、3ヶ月で527百万円減少した 。負債サイドでは短期借入金を300百万円返済している 。自己資本比率は44.1%へと改善しているが、これは資産・負債の圧縮によるものであり、収益力向上を伴う質の高い改善ではない。
【必須】運転資本の分析:CCC悪化が示すキャッシュ創出力の低下
キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)を算出し、その変化がキャッシュフローに与える影響を分析する。 ※季節変動の大きい事業のため、単純な年換算には限界があるが、期間比較のための指標として算出する。日数は四半期(90日)ベースで計算。
項目 | 2025/6/30 (当期) | 2025/3/31 (前期末) | 変化 | 示唆 |
DSO (売上債権回転日数) | 18.5日 | 24.6日 (参考値) | 短縮 | 回収が進んでいる |
DIO (棚卸資産回転日数) | 197.6日 | 177.8日 (参考値) | 悪化 (長期化) | 在庫滞留リスク増大 |
DPO (仕入債務回転日数) | 38.3日 | 47.5日 (参考値) | 短縮 | 支払いが早まっている |
CCC = DSO+DIO-DPO | 177.8日 | 154.9日 (参考値) | 大幅悪化 (+22.9日) | 資金繰りへの圧力増 |
- 計算根拠:
- DSO = 売掛金 196,642 / (四半期売上高 954,920 / 90)
- DIO = 棚卸資産 637,179 / (四半期売上原価 290,167 / 90)
- DPO = 買掛金 123,805 / (四半期売上原価 290,167 / 90)
CCCは前期末比で約23日も悪化(長期化)している。これは、商品を仕入れてから販売し、その代金を回収するまでの期間が3週間以上も延びたことを意味し、運転資本がキャッシュを大きく喰っている状態を示す。
最大の悪化要因は
棚卸資産回転日数(DIO)の長期化である。在庫は3ヶ月で63百万円増加し、回転日数は約20日も悪化した 。会社側は「外部流通卸への加工食材等の販売が順調に推移しており、今後を見据え本社工場の人員の確保など体制強化を進めております」と説明している 。これが冬場の需要や外部販売拡大を見越した戦略的な在庫積み増しであればポジティブに解釈できる。しかし、DIOが200日近い水準にあることは、資金効率の観点から極めて問題である。万が一、需要が想定を下振れした場合、これらの在庫は一気に陳腐化・評価損のリスクに晒される。
キャッシュフロー(C/F)分析
当第1四半期において、連結キャッシュ・フロー計算書は作成されていない 。しかし、以下の点からキャッシュフローは極めて厳しい状況にあると推測できる。
- 純損失の計上: 56百万円の純損失を計上している 。
- 運転資本の増加: 上記CCC分析の通り、棚卸資産の増加と仕入債務の減少がキャッシュを圧迫している。
- 現金及び預金の激減: わずか3ヶ月で現金及び預金が602百万円も減少している 。これは、営業活動によるキャッシュアウトに加え、借入金の返済(300百万円) 等によるものである。
減価償却費(のれん除く無形固定資産含む)は22百万円 と損失額に比べて小さく、営業キャッシュフローは純損失額以上にマイナスであった可能性が非常に高い。
資本効率性の評価
- 【必須】ROIC vs WACC:深刻な企業価値破壊の状態
- ROIC(投下資本利益率): 当四半期は営業損失(△82百万円)であるため、NOPAT(税引後営業利益)もマイナスとなる 。したがって、ROICはマイナスであり、議論の余地なくWACC(加重平均資本コスト、通常プラスの値)を大幅に下回っている。これは、同社が投下した資本(有利子負債と株主資本の合計約23.3億円)からリターンを生み出すどころか、価値を破壊していることを明確に示している。季節性を考慮し通期での評価が必要だが、Q1時点の状況は極めて悪い。
- ROEデュポン分解:財務レバレッジ低下の中、収益性の悪化が響く
- 当四半期のROEはマイナスであり、前年同期の△3.8%からさらに悪化している。その要因を分解する。 | 項目 | 2026/3期 1Q | 2025/3期 1Q | | :— | :— | :— | | 純利益率 | △6.0% | △5.4% | | 総資産回転率(四半期) | 0.34回 | 0.28回 | | 財務レバレッジ | 2.27倍 | 2.57倍 |
- ROE悪化の主因は、**純利益率の悪化(△5.4% → △6.0%)**である。総資産回転率は改善しているものの、本業の収益性低下をカバーするには至っていない。借入金返済により財務レバレッジが低下したことは財務の安全性向上に寄与するが、同時にROEを下押しする要因ともなっている。
4. 【核心】事業別情報の徹底解剖
同社は単一セグメントであるためセグメント情報は開示していない 。しかし、報告書内の記述から事業別の状況を分析することは可能であり、ここに同社の現状を理解する鍵がある。
事業(分析目的で分類) | 売上高(百万円) | 前年同期比 | 状況と示唆 | |
直営店舗事業 | 754 | △2.2% | インバウンド客の落ち着きが影響し、既存店売上高は0.8%減 。依然として事業の柱であるが、成長が停滞しており、収益性の抜本的な改善が急務。 | |
フランチャイズ事業 | 62 | +2.1% | 食材販売は増加したものの、国内既存店の末端売上は4.0%減と不振 。中国店舗の閉店もあり、FCモデルによる拡大戦略も壁に直面している。 | |
その他事業(本部卸売等) | 138 | +57.3% | 唯一の成長ドライバー。本部の加工インフラを活用した外部への食材販売が急増 。この事業の収益性と持続可能性が、今後の同社の浮沈を左右する。 |
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分析の核心: 本業である店舗運営事業(直営・FC)が明確な縮小・停滞局面にある一方で、「その他」に分類される本部の外部卸売が急成長している。これは、同社が「BtoCのレストラン運営企業」から、「BtoBの食材加工・卸売企業」へとビジネスモデルの軸足を移しつつある可能性を示唆している。
経営陣への問い: この外部卸売事業の利益率はどの程度か?本業の店舗運営よりも高いのか、低いのか。そして、この成長は一過性のものではないのか?経営陣は、この新たな事業の柱をどのように育成し、ポートフォリオ全体のリスクとシナジーを管理していくのか、明確な戦略を示す必要がある。現状では、この「一条の光」がどれほど明るく、長く照らしてくれるのか、投資家は確信を持てない。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
同社は、当第1四半期決算を受けても、2025年5月14日に公表した通期業績予想を据え置いている 。
- 計画に対する進捗評価:
- 第2四半期累計計画に対し、売上高の進捗率は51.8%と順調である 。
- 一方で、営業損失、経常損失、純損失の進捗率はいずれも33-34%程度に留まっており、赤字幅は計画よりも抑制されている 。
- 経営陣の判断評価:
- 一見すると、利益は計画を上回るペースで進捗しており、上方修正も考えられる状況である。しかし、経営陣が計画を据え置いた判断は**「妥当かつ慎重」**であると評価する。
- 理由1:不透明な成長ドライバー: 1Qの好調は外部卸売という、まだ収益性や持続性が見通しにくい事業に支えられている。これが今後も同様のペースで成長する保証はない。
- 理由2:極端な季節変動: 同社の業績は、最大の需要期である冬場(第3・第4四半期)の動向に全てがかかっている 。1Qの実績だけで通期を見通すのは極めて困難であり、リスクが高い。
- 理由3:コスト増圧力: 今後も人件費をはじめとするコスト増圧力は続くと予想される。1Qの利益超過分は、今後のコスト増のバッファーとして確保しておきたいという意図も考えられる。
- 総じて、経営陣は需要予測や事業環境の変化に対して、楽観に傾くことなく、保守的なスタンスを維持していると評価できる。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
今後12~24ヶ月の業績について、3つのシナリオを提示する。
- 基本シナリオ(蓋然性:50%):会社計画を達成
- 前提: 外部卸売事業は堅調に推移するも、成長率は次第に鈍化。インバウンド需要は緩やかに回復し、冬場の既存店売上は前年並みを確保。
- 業績予測: 会社計画通り、売上高5,360百万円、営業利益265百万円に着地 。株価は現状維持、もしくは横ばい圏での推移。
- 強気シナリオ(蓋然性:20%):外部卸売の本格化とインバウンド回復
- 前提: 外部卸売で安定的な大型顧客を獲得し、高利益率の柱に成長。歴史的な円安を背景に冬場のインバウンド客が急増し、店舗売上も計画を大幅に超過。
- 業績予測: 売上高は5,800百万円、営業利益は350百万円を突破。ROICがプラスに転じ、株価は大きく見直される展開。
- カタリスト: 外部卸売に関する大型契約のIR発表、政府のインバウンド促進策、記録的な寒冬。
- 弱気シナリオ(蓋然性:30%):本業不振と在庫問題の顕在化
- 前提: 外部卸売の伸びが一巡し、本業の店舗事業は消費マインドの冷え込みでさらに悪化。暖冬で冬場の需要も不発。積み増した在庫が滞留し、評価損を計上。
- 業績予測: 売上高は5,000百万円を下回り、営業利益は100百万円台まで落ち込む。キャッシュフローが悪化し、財務への懸念が再燃。
- リスク: 景気後退、暖冬、鳥インフルエンザ等の原材料供給リスク、競合による価格競争の激化。
7. バリュエーション(企業価値評価)
- 相対評価法:
- 同社は現在赤字であり、PERでの評価は不可能。PBRは前期末実績(2025/3/31の純資産1,289百万円 )を基に算出する必要があるが、株価次第で変動する。
- EV/EBITDAも、EBITDA(営業利益+減価償却費)が赤字に近い水準であり、評価指標として機能しにくい。
- 競合となる外食企業と比較しても、収益性の低さ(赤字)、成長性の不透明さから、プレミアムを付けて評価される理由は見当たらず、むしろディスカウントされるのが妥当である。
- 絶対評価法(簡易DCF):
- 将来のフリーキャッシュフロー(FCF)を予測するのは現時点で極めて困難である。営業キャッシュフローがマイナスと推測され、運転資本の悪化も続いているため、安定的なプラスのFCFをいつから生み出せるか見通せない。
- 仮に基本シナリオ通りに通期で黒字化し、将来的に年間1.5億円~2億円程度のFCFを生み出せると仮定しても、WACC(資本コスト)を考慮すると、現在の企業価値を正当化するのは容易ではない。特に、事業の脆弱性や季節変動リスクを考慮すると、高い割引率を適用せざるを得ず、理論株価は低位に留まる可能性が高い。
8. 総括と投資家への提言
株式会社関門会は、今、大きな岐路に立たされている。本業である店舗運営事業が構造的な不振に喘ぐ中、「外部卸売」という新たな可能性の光が見えてきた。しかし、この光はまだ弱く、持続性も不透明である。
- 核心的な投資魅力:
- 長年培ってきたふぐの加工・流通インフラを活用した「外部卸売事業」の成長ポテンシャル。これが本格的なBtoB事業として確立されれば、季節変動リスクを平準化し、新たな成長軌道に乗る可能性がある。
- 最大の懸念事項:
- 本業の店舗事業の止まらない地盤沈下と、それに伴う収益性の根本的な低さ。
- 棚卸資産の急増に象徴される運転資本管理の甘さと、それに起因するキャッシュ創出力の欠如。ROICが示す通り、資本を効率的にリターンへ繋げる経営ができていない。
明確な投資スタンス:弱気
1Q決算は、増収というヘッドラインの裏に、本業の脆弱性とコスト増を吸収できない利益構造の問題を隠している。新たな成長ドライバーである外部卸売も、その収益モデルが確立されるまでは期待先行とならざるを得ない。キャッシュフローへの懸念も大きく、現時点で積極的に投資する理由は見当たらない。
投資家が注視すべき最重要KPI/イベント:
- 月次既存店売上高: 本業の回復度合いを測る最も重要な指標。特に冬場の前年比トレンドに注目。
- 四半期ごとの「その他売上」の推移: 外部卸売事業の成長持続性を確認する。もし可能であれば、会社側にこの事業の利益率に関する情報開示を求めたい。
- 棚卸資産回転日数(DIO): 200日近い水準から改善が見られるか。四半期ごとのB/Sを注視し、在庫管理能力を評価する。
- インバウンド客数と客単価の動向: 冬場の業績を左右する最大の変数。観光統計と合わせてウォッチする。
本業の再生、あるいは外部卸売事業への本格的な転換、いずれかの道筋が明確になり、それが財務諸表上の「質の高い利益」と「キャッシュフローの改善」に結びつくまでは、様子見を推奨する。