1. エグゼクティブ・サマリー(結論ファースト)
投資スタンス:中立、確信度60%
株式会社総医研ホールディングスは、2025年6月期において、赤字幅を大幅に縮小し、複数の事業で黒字化を達成するという構造改革の成果を示しました 。しかし、依然として連結全体では赤字であり、特に中国市場への依存度が高い化粧品事業の戦略見直しが進行中であることから、2026年6月期の業績予想を「未定」とせざるを得ないなど、今後の不確実性は依然として高い状況です 。構造改革の進捗は評価できるものの、その成果が連結業績全体を黒字化させる段階には至っておらず、現時点では明確な投資判断を下すには情報が不足していると判断し、
中立のスタンスを取ります。
3行サマリー 2025年6月期は、事業部門の収益性改善により赤字幅が大幅に縮小した。しかし、主力の化粧品事業の構造改革が不透明であり、2026年6月期の業績予想が未定であるため、将来的な成長の蓋然性は低い。今後、ヘルスケア事業のM&A戦略の具体化と、健康補助食品およびヘルスケアサポート事業の成長継続性、そして化粧品事業の新しい戦略を注視する必要がある。
主要カタリストとリスク
- ポジティブ・カタリスト
- ヘルスケア事業のM&A実行と成果: 医療DXを中心としたヘルスケア事業領域での積極的なM&Aが、事業規模拡大と収益貢献を早期に実現した場合 。
- 健康補助食品事業およびヘルスケアサポート事業の成長加速: これら高収益事業の売上拡大が、連結全体の黒字転換を牽引する水準に達した場合 。
- 化粧品事業の構造改革の成功: 経営陣が中国市場の厳しさに対応した新たな戦略を策定し、早期に収益貢献可能な状態になった場合 。
- ネガティブ・リスク
- 構造改革の停滞: 既に改善が見られた事業部門の収益性が再び悪化するか、構造改革の対象となっている事業の見直しが進まない場合。
- 中国市場のさらなる悪化: 中国市場の景気減速や規制強化が想定以上に進み、主力事業の再建が困難になる場合 。
- M&A戦略の遅延または失敗: 医療DX分野でのM&Aが計画通りに進まず、成長戦略が停滞したり、買収後の統合(PMI)に失敗して追加の損失が発生したりする場合 。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
株式会社総医研ホールディングスは、健康・医療分野における多角的な事業を展開しています 。報告セグメントは「生体評価システム」「ヘルスケアサポート」「化粧品」「健康補助食品」「機能性素材開発」の5つに分かれており、それぞれが独立した事業単位として機能しています 。
ビジネスモデルの評価
同社のビジネスモデルは、**「イミダペプチド」
などの機能性素材や化粧品といった自社製品販売(B2C)と、臨床試験の受託や特定保健指導といったヘルスケアサービス提供(B2B)**のハイブリッド型です 。
- 売上モデルの分解:
- B2C事業(化粧品、健康補助食品):
売上高 = 顧客数 × 購入単価 × 購入頻度
。 - B2B事業(生体評価システム、ヘルスケアサポート、機能性素材開発):
売上高 = 顧客数 × 契約単価
。
- B2C事業(化粧品、健康補助食品):
- 強みと脆弱性:
- 強み: * エビデンス(科学的根拠)に基づく事業展開: 大学発のバイオマーカー技術を活用し、機能性表示食品制度といった国策を追い風に事業を拡大する方針は、他社との差別化要素となり得ます 。これは、特にB2C事業における顧客からの信頼獲得に寄与し、価格決定力の維持に繋がります。
- 既存顧客からの安定した収益: ヘルスケアサポート事業は、特定保健指導やレセプト解析といったサービスを健康保険組合等に提供しており、安定的な受注基盤を維持しています 。この継続的なサービス提供は、一定のサブスクリプション型収益モデルに近い構造を持ち、収益の安定化に貢献します。
- 脆弱性:
- 特定市場への依存と変動リスク: 化粧品事業は中国市場に大きく依存しており、中国の景気減速や規制強化が直接的な業績悪化に繋がっています 。これは特定の地域・市場に集中しすぎたポートフォリオの脆弱性を示しています。
- 価格競争と広告宣伝費の効率性: 健康補助食品事業では、集客方針を継続的な購入顧客に絞ることで広告宣伝費を抑制し、利益率を改善しました 。これは利益を確保するための一時的な対応策であり、新規顧客獲得のための投資を抑制していると解釈でき、将来の成長を阻害する可能性があります。
- 強み: * エビデンス(科学的根拠)に基づく事業展開: 大学発のバイオマーカー技術を活用し、機能性表示食品制度といった国策を追い風に事業を拡大する方針は、他社との差別化要素となり得ます 。これは、特にB2C事業における顧客からの信頼獲得に寄与し、価格決定力の維持に繋がります。
競争環境
同社が事業を展開するヘルスケア・化粧品市場は、大企業からスタートアップまで多数のプレイヤーがひしめく激戦区です。
- 健康食品・化粧品事業: サントリー、ファンケル、DHCなどの大手企業が競合となります。これらの企業は巨大な広告宣伝予算とブランド力、強力な販売チャネルを持ち、顧客獲得において圧倒的な優位性を持ちます。総医研ホールディングスは「イミダペプチド」などのニッチな機能性素材に強みを持つものの、市場全体でのシェアは限定的です。
- ヘルスケアサポート事業: 特定保健指導サービスを提供する企業は多数存在しますが、同社は専門医ヘルスケアネットワークとの共同事業により、専門性を強みとしています 。
- 生体評価システム事業: 臨床試験受託機関(CRO)などが競合となります。同社の強みは、大学発のバイオマーカー技術を活用したエビデンス構築能力にあります 。
3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析
2025年6月期は、売上高が前期比6.0%減の4,848百万円となりましたが 、営業損失は前期の△610百万円から△137百万円へと大幅に縮小しました 。これは、各事業セグメントにおける収益性改善努力の成果と評価できます。
項目 | 2024年6月期 (百万円) | 2025年6月期 (百万円) | 前期比増減 (百万円) | 前期比増減率 (%) | |
売上高 | 5,158 | 4,848 | △310 | △6.0% | |
売上総利益 | 2,482 | 2,410 | △72 | △2.9% | |
営業損失 | △610 | △137 | +473 | +77.5% (赤字幅縮小) | |
経常損失 | △565 | △129 | +436 | +77.2% (赤字幅縮小) | |
当期純損失 | △662 | △210 | +452 | +68.3% (赤字幅縮小) | |
注: 百万円未満切捨てのため、差異は生じます |
営業利益のブリッジ分析
前年同期(2024年6月期)の営業損失△610百万円から、当期(2025年6月期)の営業損失△137百万円への変動要因を分解すると、利益構造の改善が明確に見て取れます 。
要因分析:
- 売上総利益の変動: 売上高が310百万円減少したにもかかわらず、売上総利益の減少幅は72百万円に留まりました 。これは、売上原価が前期比で△238百万円減少したことによるものです 。健康補助食品事業における原材料価格高騰に対応した販売価格の値上げや、利益率の高い商品へのアップセル施策が奏功したと考えられます 。
- 販管費の変動: 販売費及び一般管理費は、前期の3,092百万円から当期は2,548百万円へと、544百万円の大幅な削減が実現しました 。特に、化粧品事業における国内外の広告宣伝費・販売促進費の抑制や、フラッグシップショップの閉鎖が大きく寄与しています 。また、健康補助食品事業でも広告宣伝費の効率化が図られました 。
この分析から、当期の営業損失大幅縮小は、主に販管費の抑制と、原価率改善による利益率向上という、コスト構造改革の成果によるものだと結論付けられます。一方で、売上高の減少が続いている点は懸念材料であり、今後の持続的な成長には売上回復が不可欠です。
収益性の深掘り
- 粗利率: 2024年6月期は48.1%(2,482/5,158)、2025年6月期は49.7%(2,410/4,848)と、売上総利益率が改善しています 。これは、健康補助食品事業における販売価格の値上げと、利益率の高い商品へのシフトが貢献したと考えられます 。
- 営業利益率: 2024年6月期は△11.8%、2025年6月期は△2.8%と大幅に改善しました 。これは、売上原価の減少と、より大きな販管費の削減によって達成されたものであり、費用対効果を厳しく見直した経営判断の成果と言えます。
B/S分析
当連結会計年度末の総資産は、前期末に比べて133百万円減少し、6,812百万円となりました 。これは、主に流動資産の減少によるものです。
- 資産: 受取手形、売掛金及び契約資産が205百万円、その他流動資産が236百万円それぞれ減少しました 。一方で、有価証券が300百万円、現金及び預金が168百万円増加しており、流動性の高い資産へのシフトが見られます 。
- 負債: 負債合計は775百万円で、前期末から78百万円増加しました 。これは契約負債が91百万円増加したことなどが主な要因です 。
- 純資産: 純資産は211百万円減少して6,037百万円となりました 。これは当期純損失210百万円の計上によるものです 。
- 安全性指標: 自己資本比率は前期の89.7%から88.4%へとわずかに低下しましたが、引き続き高い水準を維持しており、財務基盤は強固です 。
運転資本の分析とCCC
運転資本の効率性は、企業のキャッシュ創出力を見る上で非常に重要な指標です。CCC (Cash Conversion Cycle) は、事業活動に必要な運転資金が回収されるまでの期間を示し、短いほど効率的です。
CCC = DSO + DIO - DPO
- 売上債権回転日数 (DSO: Days Sales Outstanding):
- 2024年6月期: (428,934千円 / 5,158,458千円) * 365日 = 30.3日
- 2025年6月期: (223,883千円 / 4,848,534千円) * 365日 = 16.9日
- 分析: 売上債権回転日数が大幅に短縮しており、売上代金の回収が非常に迅速になったことを示しています 。これはキャッシュ・フローに大きく貢献しており、経営努力の成果と評価できます。
- 棚卸資産回転日数 (DIO: Days Inventory Outstanding):
- 2024年6月期: (443,711+244,500+432,658千円) / (2,676,085千円) * 365日 = 153.8日
- 2025年6月期: (369,947+216,275+340,293千円) / (2,438,059千円) * 365日 = 138.8日
- 分析: 棚卸資産回転日数も約15日短縮しています 。これは、在庫管理が効率化され、商品や原材料がより速く現金化されていることを示唆します。ただし、健康補助食品事業では集客方針を転換し、売上高が減少している中で在庫水準を維持できているか、在庫の質(特に陳腐化リスク)には注意が必要です。
- 仕入債務回転日数 (DPO: Days Payable Outstanding):
- 2024年6月期: (206,654千円 / 2,676,085千円) * 365日 = 28.2日
- 2025年6月期: (191,051千円 / 2,438,059千円) * 365日 = 28.6日
- 分析: ほぼ横ばいです 。仕入先への支払サイトに大きな変化はないと見られます。
結論: CCCは前期の155.9日から当期の127.1日へと大幅に改善しました。これは、売上債権の早期回収と棚卸資産の効率化によって、企業がより少ない運転資本で事業を回せるようになったことを示しており、キャッシュ創出力の向上に繋がっています。
キャッシュフロー(C/F)分析
- 営業活動によるキャッシュ・フロー (OFCF): 前期の△880百万円から、当期は+557百万円と大幅に改善し、プラスに転じました 。これは、売上債権の減少額205百万円、棚卸資産の減少額194百万円など、運転資本の効率化が主な要因です 。
- 投資活動によるキャッシュ・フロー (ICF): 前期の△14百万円から、当期は△389百万円と支出が大幅に増加しました 。これは、短期運用目的の有価証券取得に300百万円を投下したことによるものです 。この投資は、手元資金を有効活用し、収益機会を模索する経営姿勢を示しています。
- 財務活動によるキャッシュ・フロー (FCF): 前期の△260百万円から、当期は0百万円となり、大きな資金の動きはありませんでした 。これは過年度の配当金支払額が0であったことによるものです 。
結論: 営業CFがプラスに転じ、事業活動でキャッシュを創出できるようになった点は非常に評価できます。創出されたキャッシュは、短期有価証券の取得に充当されており、資産運用による財務戦略を強化していると見られます 。営業CFと純利益の乖離(アクルーアル)を見ると、当期純損失は210百万円ですが、営業CFは557百万円のプラスです 。この乖離は、売上債権や棚卸資産の減少といった非現金項目によるものであり、利益の質そのものが低いわけではなく、むしろキャッシュ創出力は高いことを示しています。
資本効率性の評価
ROICとWACC
ROIC(投下資本利益率)は、事業活動のために投下した資本(有利子負債+株主資本)がどれだけの利益を生み出したかを示す指標です。これをWACC(加重平均資本コスト)と比較することで、企業が価値を創造しているか(ROIC > WACC)を評価できます。
- ROIC (Return on Invested Capital):
ROIC = 税引後営業利益 / 投下資本
- 当期は税引後営業損失であるため、ROICは計算上マイナスとなります。この時点で、同社は投下資本のコストを上回るリターンを生み出せておらず、企業価値を創造できていない状態です。
- WACC (Weighted Average Cost of Capital):
- 同社は有利子負債がないため、WACCは実質的に株主資本コスト(CAPM等で計算)に等しくなります 。
- 現状、ROICがマイナスであるため、WACCの具体的な数値がどうであれ、ROIC < WACCの関係が成り立ち、投資家が期待するリターンを生み出せていないことは明らかです。
この分析は、連結営業損失が続く限り、同社が価値創造企業へと転換する道半ばにあることを明確に示唆しています。
ROEのデュポン分解
ROE(自己資本利益率)は、当期純損失を計上しているため、計算上マイナスです 。デュポン分解は、ROEを「純利益率」「総資産回転率」「財務レバレッジ」の3つの要素に分解し、ROE変動の要因を特定します。
- 純利益率: 当期純損失のためマイナスです。利益率の改善は、最終的な純利益の黒字化に向けた最重要課題です。
- 総資産回転率: 売上高が減少しているため、総資産回転率は低下傾向にあります。これは、効率性の改善が売上高の減少を補うには至っていないことを示します。
- 財務レバレッジ: 有利子負債がないため、財務レバレッジは低く、ROEを押し上げる効果はありません。
結論: 当期純損失の計上が、ROEがマイナスとなる最大の要因です。まずは、売上高を回復させつつ、利益率を向上させて最終的な黒字転換を達成することが、ROE改善への第一歩となります。
4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖
2025年6月期は、各セグメントの損益構造に大きな変化が見られました 。特に、これまで赤字であったセグメントが黒字化を達成した点は注目に値します。
セグメント名 | 売上高 (百万円) | 前期比増減 (%) | 営業損益 (百万円) | 前期比増減 (百万円) | 損益改善の背景 |
生体評価システム | 242 | +9.6% | +8 | +78 (赤字→黒字) | 医薬臨床研究支援事業の廃止と、評価試験事業の売上増 |
ヘルスケアサポート | 688 | +15.7% | +106 | +14 (増益) | 特定保健指導等の安定受注と新規契約増加 |
化粧品 | 1,506 | △2.7% | +27 | +179 (赤字→黒字) | 広告宣伝費・販促費抑制と旗艦店閉鎖によるコスト削減 |
健康補助食品 | 2,127 | △14.7% | +91 | +248 (赤字→黒字) | 集客方針転換による広告費効率化と原価率改善 |
機能性素材開発 | 282 | △5.4% | △28 | △15 (赤字幅拡大) | 原料販売の伸び悩みと研究開発費増加 |
注: 百万円未満切捨て |
好調セグメントと不振セグメントの要因分析
- ヘルスケアサポート事業: この事業は、唯一売上・利益ともに成長を達成した優良セグメントです 。社会の高齢化に伴う予防医療のニーズ増加と、データヘルス計画といった国策が追い風となっています 。これは、同社のエビデンスに基づくビジネスモデルの強みが最も発揮されている領域であり、今後の連結業績の成長を牽引するドライバーとなる可能性が高いです。
- 化粧品事業と健康補助食品事業: 売上は減少したものの、コスト削減努力により営業損益が大幅に改善し、黒字転換を達成しました 。特に化粧品事業は、前期に赤字の主因であった中国市場での販売不振に対し、コスト抑制で対処した結果です 。しかし、これは根本的な売上不振を解決したものではなく、事業再編や新たな成長戦略が不可欠です。健康補助食品事業は、収益性の高い商品へのシフトと広告効率化で利益を出しましたが、新規顧客獲得の投資を抑制した結果、売上は減少しており、今後の成長性に疑問符が付きます 。
- 機能性素材開発事業: 売上減少に加え、先行投資としての研究開発費が増加したことで、赤字幅が拡大しました 。フェムテック関連の新規受注は好調とのことであり、投資フェーズにあると見られますが、その投資がいつ収益に結びつくか、予断を許しません 。
ポートフォリオ・マネジメントの評価
経営陣は、事業ポートフォリオの見直しを公言しており、今回の決算はその成果の一端を示しています 。採算の取れない事業(医薬臨床研究支援事業)を廃止し、不採算セグメント(化粧品、健康補助食品)でコスト削減を断行しました。これは、短期的な収益性の改善にフォーカスした堅実な経営判断と評価できます。
しかし、今後の成長戦略の中心に据えている
医療DX領域でのM&Aについては、具体的な進捗が示されておらず、未だ計画段階に留まっています 。また、依然として連結全体が赤字であること、そして主力事業であった化粧品事業の将来像が不透明なままであることから、事業ポートフォリオのリスク分散とシナジー創出は、まだ道半ばと評価せざるを得ません。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
2026年6月期の連結業績予想は「未定」とされています 。これは、中国市場での事業環境の厳しさ、そして化粧品事業の戦略的な見直しを進めているため、合理的な算定が困難であると判断されたためです 。
経営判断の妥当性
この「未定」という判断は、一見ネガティブに受け取られがちですが、不確実性の高い状況下で不適切な予想値を掲げ、後から下方修正を行うよりも、誠実かつ妥当な判断であると評価できます。特に、主力事業である化粧品事業の業績回復が見込みづらいという厳しい認識を共有し、戦略的な見直しを公言している点は、経営陣が現実を直視している証拠です 。
しかし、投資家としては、次の成長戦略の柱として掲げている
医療DX関連のM&Aや、ヘルスケア事業の成長見通しについて、具体的な数値やタイムラインが示されなかったことは、失望感に繋がります。経営陣は「黒字化への転換を見込んでいる」と述べていますが、その根拠となる具体的な事業計画の開示が待たれます 。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
今後12~24ヶ月間の業績について、以下の3つのシナリオを提示します。
シナリオ1:基本シナリオ(蓋然性60%)
- 前提条件: 中国市場の景気減速は緩やかに継続。円安基調は維持される。国内の健康・予防医療への関心は継続的に高まる。
- シナリオ: 構造改革の効果は継続し、健康補助食品事業とヘルスケアサポート事業が引き続き利益を牽引。化粧品事業は再建に時間を要し、売上減少は続くものの、コスト削減で黒字を維持。医療DX分野でのM&Aは小規模な案件からスタートし、徐々に事業規模を拡大。
- 売上・利益予測レンジ: 売上高48億~51億円、営業損益は横ばいまたは微黒字(0~50百万円)。
シナリオ2:強気シナリオ(蓋然性20%)
- 前提条件: 予想外に中国経済が回復し、化粧品事業の再建が加速。または、医療DX分野で大型のM&Aが成功し、早期に収益貢献を果たす。
- シナリオ: 好調なヘルスケアサポート事業に加え、健康補助食品事業が新たな顧客層の開拓に成功し、売上回復と利益成長を両立。化粧品事業の戦略見直しが奏功し、売上回復の兆しが見える。
- 売上・利益予測レンジ: 売上高50億~55億円、営業利益は黒字化(50~200百万円)。
シナリオ3:弱気シナリオ(蓋然性20%)
- 前提条件: 中国市場の景気減速がさらに深刻化し、化粧品事業の売上が大幅に減少。ヘルスケアサポート事業の成長が鈍化。
- シナリオ: コスト削減努力も限界に達し、売上減少分を補填できず、連結営業損失が再び拡大。医療DX分野でのM&Aが遅延するか、買収後のPMIに失敗し、追加の損失が発生。
- 売上・利益予測レンジ: 売上高45億~48億円、営業損失は拡大(△150~△300百万円)。
7. バリュエーション(企業価値評価)
同社は当期純損失を計上しているため、PERやPBRといった指標を用いた相対評価は適切ではありません。
- 相対評価:
- 同社のビジネスモデルは多岐にわたるため、単純な競合比較は困難です。しかし、ROICがマイナスである現状では、他の黒字企業と比較して株価がディスカウントされるのは当然です。
- キャッシュ・フローベースの評価(EV/EBITDA)も、営業損失のためマイナスとなり、有効な指標とはなりません。
- 絶対評価:
- 簡略DCF法を用いる場合、将来の営業利益を予測する必要があります。基本シナリオでは、2026年6月期にようやく微黒字転換すると見込んでいるため、企業価値は非常に不透明です。
- 現状では、財務基盤が強固であり、多額の現金及び預金を保有している点が評価の基盤となります 。手元資金の有効活用と事業の黒字化が、将来の企業価値を決定する鍵となります。
8. 総括と投資家への提言
株式会社総医研ホールディングスは、2025年6月期において、不採算事業の整理と徹底したコスト削減により、連結営業損失を大幅に縮小させることに成功しました 。これは、新経営体制のもとで実行された構造改革の成果であり、経営陣の実行力を評価できるポイントです 。
しかし、現在の株価は、今後の不確実性を織り込んでいると判断します。主力事業である化粧品事業の再建がまだ見通せないこと、そして今後の成長戦略の柱となる医療DX分野でのM&Aが未だ計画段階に留まっていることが、最大の懸念事項です 。
明確な投資スタンス:中立
構造改革による収益性改善というポジティブな側面と、将来の成長戦略の不透明性というネガティブな側面が拮抗しているため、現時点では明確な投資判断は難しいと結論付けます。
今後の監視ポイント
投資家が今後注視すべき最重要KPIやイベントは以下の3点です。
- 2026年6月期 第1四半期決算: 業績予想が未定であるため、第1四半期の実績が今後の成長戦略を占う上で極めて重要です。特に、健康補助食品事業とヘルスケアサポート事業の売上・利益成長が継続しているか、そして販管費が再び増加していないかを確認する必要があります。
- 化粧品事業の戦略発表: 経営陣が公言している化粧品事業の戦略的見直しについて、具体的な計画が示されるか。中国市場への依存度をどのように下げ、新たな収益源を確保するのかに注目すべきです。
- M&Aの進捗: 医療DX分野でのM&Aの進捗状況。単なる発表だけでなく、買収対象企業とシナジー効果が期待できるか、そして買収後の具体的な収益貢献計画が示されるかを見極める必要があります。