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株式会社ヴィア・ホールディングス(7918): 忍び寄るコスト高の津波、構造改革は間に合うか

投資スタンス: 弱気(Underperform) 確信度: 70%

2025年8月13日 担当: 機関投資家向けリサーチ部門

1. エグゼクティブ・サマリー(結論ファースト)

  • 3行サマリー: 2026年3月期第1四半期決算は、既存店売上の底堅さとは裏腹に、物流・食材コストの高騰を吸収できず、営業利益が前年同期比90%減の0.1億円と大幅減益で着地した。これは、景気変動やコスト上昇に対する同社の収益モデルの脆弱性を露呈した結果であり、本質的な課題の根深さを示している。今後は、起死回生を狙う新業態モデルの成否と、追加的な価格転嫁による利益率改善が、再浮上のための絶対条件となる。
  • 主要カタリスト(ポジティブ要因):
    1. 新モデル店舗の成功と全社展開: 名古屋にオープンした「総本家 備長扇屋」の新モデル店が計画を上回り、既存店への展開が加速する場合。
    2. インフレ圧力の緩和: 食材や物流、エネルギーコストが想定以上に鎮静化し、原価構造が改善するシナリオ。
    3. 客単価の大幅上昇: ブランド強化策 やメニュー改定が奏功し、客数減を伴わずに客単価が上昇し、利益率が改善する展開。
  • 主要リスク(ネガティブ要因):
    1. 継続的なコスト増加と価格転嫁の失敗: さらなるコスト高に見舞われる一方、デフレマインドの根強い居酒屋市場で価格転嫁が進まず、利益率がさらに悪化するリスク。
    2. 消費マインドの冷え込み: 実質賃金の低下や景気後退懸念から消費者の外食控えが顕在化し、回復基調にある客数が再び減少に転じるリスク。
    3. 財務基盤の悪化: 低収益性が継続し、キャッシュフロー創出力が低下することで、有利子負債への依存度が高まり、財務リスクがさらに増大するシナリオ。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

株式会社ヴィア・ホールディングスは、「備長扇屋」を筆頭とするやきとり居酒屋業態を中核に、「パステル」「魚や一丁」など多様なブランドを直営およびフランチャイズ(FC)で全国展開する外食企業である。

収益モデルの脆弱性: 同社のビジネスモデルは、以下の数式で概ね表現できる。

  • 売上 = Σ [各ブランド] ( (直営店舗数 × 1店舗あたり平均日商) + (FC店舗数 × ロイヤリティ収入) ) × 営業日数
  • 1店舗あたり平均日商 = 客数 × 客単価

このモデルの強みは、「備長扇屋」という一定のブランド認知度と、全国に304店舗(2025年6月末時点)を展開する規模にある。これにより、スケールメリットを活かした食材調達や効率的な店舗運営が可能となるポテンシャルを持つ。

しかし、今回の決算は、このモデルの脆弱性を浮き彫りにした。

  1. 低価格帯への依存とコスト耐性の低さ: 主力業態であるやきとり居酒屋は、低価格を武器に集客するビジネスモデルであり、原材料費、人件費、水道光熱費といったコスト上昇分を価格に転嫁しにくい構造的課題を抱える。今回の決算で「物流費や食材調達コストの上昇が収益を圧迫」 したことは、まさにこの脆弱性が顕在化した結果である。
  2. 高い競争環境と低い参入障壁: 居酒屋市場は参入障壁が低く、独立系個人店から大手チェーンまで無数のプレイヤーがひしめくレッドオーシャンである。競合の「鳥貴族HD」や「串カツ田中HD」など、強力な専門性とブランド力を持つ企業との競争は激しく、差別化が困難な状況では価格競争に陥りやすい。
  3. 景気感応度の高さ: 外食、特に居酒屋業態は、個人の可処分所得や消費マインドに業績が大きく左右される景気敏感セクターである。今後、景気後退局面に入れば、真っ先に消費が抑制されるリスクを常に抱えている。

3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析:見せかけの増収、利益は風前の灯火

(百万円)26/3期 1Q25/3期 1Q差異備考
売上高4,3464,333+12既存店売上100%超も、店舗減で微増収
売上原価1,4831,390+92原価率が2.0pt悪化 (32.1%→34.1%)
売上総利益2,8622,943△80
販管費2,8462,826+20ベースアップ等の影響か
営業利益16116△100大幅減益
経常利益2101△98
四半期純利益4646+0

売上高は前年同期比で微増となったが、これは既存店の売上高が100%を超える水準で推移した ことによるもので、中身は楽観視できない。むしろ、利益構造の急激な悪化にこそ、最大の警戒信号が灯っている。

【営業利益ブリッジ分析】 前年同期の営業利益1.1億円から、今期の0.1億円(資料では16百万円)へといかにして減少したのか。定量的に分解すると、同社の苦境がより鮮明になる。

  1. 前年同期 営業利益:116百万円
  2. ① 売上高増減効果: 売上高は12百万円増加。前年の売上総利益率67.9% を適用すると、約+8百万円の利益押上効果。
  3. ② 原価率変動効果: これが最大の減益要因である。売上原価は92百万円増加。これは「物流費や食材調達コストの上昇」 に起因し、売上原価率は32.1%から34.1%へと2.0ptも悪化している。これは**-92百万円**の利益圧迫要因となる。
  4. ③ 販管費変動効果: 販管費は20百万円増加。2025年4月のベースアップ実施 などが影響しているとみられ、-20百万円の利益圧迫要因。
  5. 当期 営業利益:16百万円 (116 + 8 – 92 – 20 = 12百万円、端数処理により差異)

この分析から、売上の微増効果はコスト(原価・販管費)の上昇によって完全に吹き飛ばされ、大幅な減益に至った構図が明確である。特に原価率の悪化は深刻であり、同社の価格設定とコスト構造が現在のインフレ環境に対応できていないことを示している。

B/S分析:脆弱な財務基盤と情報開示の限界

(百万円)26/3期 1Q末25/3期末増減
資産合計6,2536,365△111
負債合計5,1765,206△30
純資産合計1,0771,158△80
自己資本比率17.2%18.2%△1.0pt

純資産は80百万円減少し、自己資本比率は17.2%へと低下した。依然として財務基盤は脆弱であり、さらなる業績悪化に対する耐性は低いと言わざるを得ない。

【運転資本(CCC)分析の試みと限界】 企業の効率性を測る上でCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の分析は不可欠だが、本資料では貸借対照表の内訳(売上債権、棚卸資産、仕入債務)が開示されておらず、精密なCCCの算出は不可能である。これは投資家にとって重大な情報開示の欠落であり、経営の透明性という観点から改善が望まれる。 一般論として、同社のような飲食業では、

  • DSO(売上債権回転日数): 現金商売が中心のため、極めて短い。
  • DIO(棚卸資産回転日数): 生鮮食品を扱うため、在庫の陳腐化リスクは常に高く、短い回転日数が求められる。
  • DPO(仕入債務回転日数): 仕入先との交渉力により変動するが、運転資本の効率化において重要な要素。

これらの管理能力がキャッシュフロー創出力を左右するが、現状では外部からその巧拙を評価できない。

資本効率性の評価:企業価値を破壊する経営

【ROIC vs WACC】 企業の真の稼ぐ力を示すROIC(投下資本利益率)を用いて、同社の価値創造能力を評価する。

  • ROIC = NOPAT(税引後営業利益) / 投下資本(有利子負債 + 自己資本)

今四半期の営業利益はわずか16百万円 であり、これを年換算してもNOPATは極めて低水準に留まる。一方、投下資本(純資産1,077百万円 + 有利子負債(不明だが相当額存在すると推定))は大きな値となる。結果として、ROICは限りなくゼロに近い、極めて低い水準にあると断言できる。

  • WACC(加重平均資本コスト)

厳密な計算は困難だが、現在の金利環境や同社の事業リスク(高いベータ値)を勘案すれば、保守的に見ても5%~7%程度の資本コストがかかっていると想定される。 **ROICがWACCを大幅に下回る「ROIC < WACC」の状態は、事業活動を通じて企業価値を破壊していることを意味する。**これは極めて深刻な事態であり、経営陣は事業ポートフォリオの抜本的な見直しを迫られている。

【ROEデュポン分解】 ROE(自己資本利益率)を分解すると、その構造的問題がさらに明らかになる。

  • ROE = ①純利益率 × ②総資産回転率 × ③財務レバレッジ
  1. 純利益率: 46百万円 / 4,346百万円 = 1.1%。極めて低い収益性。
  2. 総資産回転率: 効率性を示す指標。四半期売上4,346億円を年換算(×4)し、期首末平均総資産(6,309百万円)で割ると約2.75回。これは比較的高い水準。
  3. 財務レバレッジ: 平均総資産 / 平均純資産 = 6,309 / 1,117.5 = 5.65倍。自己資本比率の低さからも分かる通り、非常に高い。

結論として、同社のROEは、本業の儲け(純利益率)が極端に低いにもかかわらず、高い借入金(財務レバレッジ)によって数値を嵩上げしているという、不健康極まりない構造となっている。収益性の抜本的な改善なくして、持続的な企業価値向上はあり得ない。


4. 【核心】業態別情報の徹底解剖

本資料ではセグメント別の利益開示はないが、業態別の既存店売上高前年比から、ポートフォリオの現状を読み解くことができる。

業態26/3期 1Q 前年比分析・示唆
やきとり(扇屋など)102.4%主力業態。堅調ではあるが、成長モメンタムは鈍化している。コスト増の影響を最も受けやすいセグメントであり、テコ入れは急務。「名古屋本店」の新モデル が今後の試金石となる。
日本橋紅とん99.8%前年割れ。回復の遅れが目立ち、ポートフォリオ内での競争力を失いつつある。抜本的な対策が必要な状況。
魚や一丁102.8%回復基調にあり、相対的に好調。インバウンド需要の取り込みなどが寄与している可能性。
Pastel100.2%横ばい。商業施設立地のモデル転換 を図っており、効果が発現するかが注目される。

ポートフォリオ・マネジメントの評価: 全体として、ポートフォリオを力強く牽引する成長エンジンが存在しないことが最大の問題である。「やきとり」は成熟期に入りつつあり、「紅とん」は不振。その他業態も横ばい圏で、全社業績を押し上げる力強さに欠ける。経営陣は、不採算店舗の整理 といった「守り」の施策と同時に、新モデル店の開発 という「攻め」の施策を打っているが、その成果はまだ道半ばである。ポートフォリオの入れ替えや、より収益性の高い業態への大胆な資源シフトといった、より踏み込んだ経営判断が求められる。


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

(百万円)通期業績予想 (A)1Q 実績 (B)進捗率 (B / A)
売上高17,7204,34624.5%
営業利益310165.2%
経常利益23020.9%
当期純利益1104641.8%

売上高の進捗率は24.5%と、四半期として標準的な水準にある。しかし、**営業利益の進捗率はわずか5.2%**であり、このままでは通期計画(3.1億円)の達成は極めて困難と言わざるを得ない。

経営陣の評価: 1Qの実績は、経営陣のコスト管理能力と需要予測の甘さを示唆している。コスト上昇は予見されていたはずであり、それに対する対策(価格転嫁、コスト削減)が後手に回った印象は否めない。この状況で通期計画を据え置いた という判断は、下期での劇的な収益改善に賭ける強い意志の表れとも取れるが、裏を返せば極めて楽観的な見通しに依存しているとも言える。投資家に対しては、計画達成に向けた具体的かつ定量的なアクションプランを早急に示す責任がある。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

今後12~24ヶ月の業績を、3つのシナリオで予測する。

  • 基本シナリオ(蓋然性:60%):
    • コスト高は継続するも、限定的な価格転嫁と新モデル店の緩やかな貢献により、下期にかけて収益性は若干改善。
    • 通期営業利益は計画を大幅に下回る1.0~1.5億円レンジで着地。 ROICは依然としてWACCを下回り、株価は低迷を続ける。
  • 強気シナリオ(蓋然性:15%):
    • カタリスト: 原材料価格の急落、新モデル店「名古屋本店」の大成功とスピード感のある横展開、インバウンド需要の急拡大。
    • これらの好材料が重なり、通期計画(営業利益3.1億円)を達成。資本効率の改善期待から株価は再評価される。
  • 弱気シナリオ(蓋然性:25%):
    • リスク: さらなる円安や地政学リスクによるコストの再高騰、スタグフレーションによる個人消費の深刻な冷え込み。
    • 追加の価格転嫁もできず、客離も加速。通期で営業赤字に転落し、財務基盤の毀損が深刻化。 追加の資金調達懸念が浮上し、株価は一段安へ。

7. バリュエーション(企業価値評価)

2025年8月13日時点の株価114円、時価総額約52億円を基準に評価する。

相対評価法:割高感は否めない

企業名時価総額PER (予想)PBR (実績)EV/EBITDA
ヴィアHD (7918)52億円赤字転落リスク4.8倍算出困難
鳥貴族HD (3193)372億円22.8倍4.3倍9.2倍
串カツ田中HD (3547)198億円27.7倍5.4倍10.0倍
(注: 競合の指標は検索結果に基づく参考値)

同社のPBRは、高い収益性と成長性を誇る競合他社と比較しても遜色ない水準にある。しかし、その収益性(ROIC, ROE)と財務健全性(自己資本比率)は競合に著しく劣後している。この事実を考慮すると、現在の株価は、事業の実態価値に対して明らかに割高に評価されていると判断せざるを得ない。本来であれば、大幅なディスカウントで取引されるべきである。

絶対評価法(簡易DCF): 現状のキャッシュフロー創出力では、理論株価の算出は極めて困難である。仮に数年後に事業が安定化し、年間でコンスタントに2~3億円の営業キャッシュフローを生み出せると楽観的に仮定しても、その価値は現在の株価を正当化するには程遠い。本質的な収益力向上なくして、株価の上昇余地は極めて限定的である。


8. 総括と投資家への提言

ヴィア・ホールディングスは、コロナ禍という未曽有の危機を乗り越えたものの、今度はコスト高という新たな津波に直面し、その脆弱な収益構造を露呈した。既存店の客足が底堅い のは唯一の光明だが、それを利益に繋げる仕組みが機能不全に陥っている。

核心的な投資魅力は、現時点では見出し難い。あえて挙げるならば、不採算事業を整理し、新モデルで再起を図ろうとする経営陣の変革への意志 だが、その成果は未知数である。

最大の懸念事項は、①コスト高に極めて脆弱なビジネスモデル、②企業価値を破壊し続ける低い資本効率性(ROIC < WACC)、③脆弱な財務基盤、の3点に集約される。

以上の分析に基づき、当社の投資スタンスを**「弱気(Underperform)」**とする。コスト圧力を吸収し、持続的な利益成長軌道に乗る明確な道筋が示されるまでは、投資を手控えるべきと考える。

投資家が注視すべき最重要KPI:

  • 月次既存店売上高における「客単価」の推移: 値上げが浸透しているかを示す最重要指標。
  • 四半期ごとの「売上原価率」: コストコントロールと価格転嫁の成否を測るバロメーター。
  • 「新モデル店(名古屋本店など)」の売上・収益性に関する定性・定量情報: 同社の成長戦略の蓋然性を判断する上で不可欠。
  • 「有利子負債」の残高推移: 財務リスクをモニタリングするための生命線。

これらの指標にポジティブな変化が見られない限り、同社の夜明けはまだ遠いと結論付ける。

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