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株式会社マサル (1795) 2025年9月期 第3四半期決算分析レポート

1. エグゼクティブ・サマリー(結論ファースト)

投資スタンス:強気 (Bullish) 確信度:80%

本レポートでは、株式会社マサル(以下、同社)の投資スタンスを「中立」から「強気」へ引き上げる。2025年9月期第3四半期(3Q)決算は、売上・利益ともに市場コンセンサスを大幅に上回る力強い内容であり、特に設備工事業の爆発的な成長と利益率改善は、同社の収益構造が新たな成長ステージへ移行したことを示唆する。豊富な受注残を背景に通期業績の上方修正はほぼ確実とみられ、現在の株価は来期以降の成長ポテンシャルを未だ十分に織り込んでいないと判断する。

  • 何が起きたのか(事実) 3Q累計の連結業績は、売上高75.5億円(前年同期比+27.3%)、営業利益3.5億円(同+81.4%)と大幅な増収増益を達成した 。特に設備工事業の受注高が前年同期比約10倍の42.4億円に達し 、全社の受注高も110億円と通期売上計画95億円を既に超過している 。
  • なぜそれが重要なのか(本質) これは、従来の安定的な「建設工事業(主に解体)」に、高成長・高収益の「設備工事業」という第二の柱が確立されたことを意味する。事業ポートフォリオの変革が収益性と成長性を同時に押し上げており、単なる景気循環に依存したビジネスモデルからの脱却が始まった。経営陣は業績予想を据え置いているが 、この保守的なスタンス自体が、来るべき決算発表での大幅な上方修正と来期計画への期待を高める「ポジティブ・サプライズの源泉」となっている。
  • 次に何を見るべきか(注目点) 次回の通期決算(2025年11月発表予定)における①2025年9月期業績の上方修正の幅、②2026年9月期の業績予想、③高水準の受注残を背景とした運転資本(特に契約資産)のマネジメントとキャッシュフロー創出力、の3点が最大の注目点となる。

主要カタリスト

  1. 通期業績の大幅な上方修正と増配発表: 3Q時点で営業利益進捗率83.6%に達しており 、通期決算発表時の大幅な上方修正と、それに伴う株主還元強化(増配)の発表は株価の強力な刺激材料となる。
  2. 来期(2026年9月期)の強気な業績予想: 110億円の受注残 を背景に、来期の2桁増収増益計画が提示されれば、成長の継続性が評価され、バリュエーションの切り上がりが期待される。
  3. 設備工事業の継続的な大型案件受注: 今期の爆発的成長が一時的ではないことを示す新たな大型受注の開示は、同社の成長ストーリーに対する市場の信頼を決定的なものにする。

主要リスク

  1. 建設業界の急激な景況感悪化: 金利の急上昇や世界経済の後退により、民間の設備投資や再開発案件が凍結・延期された場合、同社の受注環境に直接的な打撃を与える。
  2. 資材価格・人件費の想定を上回る高騰: 粗利率の低下を通じて、増収ながらも利益が伸び悩むリスク。特に固定価格での長期契約案件では利益が圧迫される可能性がある。
  3. 運転資本の非効率化とキャッシュフローの悪化: 受注好調に伴い契約資産(未入金売上)が急増しており 、この回収が滞る、あるいは不採算案件の発生によりキャッシュフローが利益に見合わない状況に陥るリスク。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

ビジネスモデルの評価:総合力による付加価値創出モデル

同社のビジネスモデルは、単なる建設・解体業者ではなく、「社会インフラの再生と価値創造」を担う総合エンジニアリング企業と定義できる。その収益モデルは以下の数式で表現される。

売上 = Σ (Pᵢ × Qᵢ)

  • i: 事業セグメント(建設工事業、設備工事業など)
  • P (Price): 平均受注単価。これは工事の規模、技術的難易度(例: アスベスト除去、耐震補強)、工期、契約形態(元請け/下請け)に左右される。
  • Q (Quantity): 受注件数。これはマクロ経済環境(公共投資、民間設備投資、再開発需要)や同社の競争力(営業力、技術評価)に連動する。

強み(Moat)

  • ワンストップ・ソリューション: 同社の最大の強みは、ウェブサイトで謳われている通り、建物の調査・診断から解体(アスベスト・ダイオキシン除去含む)、土壌汚染対策、そして跡地の有効活用(不動産仲介・リフォーム)までを一気通貫で提供できる点にある 。これにより顧客は複数業者と交渉する手間が省け、プロジェクト全体でのコスト最適化と工期短縮が図れる。これは強力なスイッチングコストとして機能する。
  • 高度な技術力と許認可: 特にアスベスト除去や汚染土壌処理といった環境規制対応型の事業は、高度な専門技術と許認可が必要であり、参入障壁が高い。これらの領域で実績を積んでいることは、価格競争に陥りにくい高付加価値サービスを提供する基盤となっている。
  • 顧客基盤の多様化: 決算短信では「直接受注顧客の増強」に注力していると記載がある 。これは、利益率の低い下請け依存から脱却し、発注者と直接関係を築くことで価格交渉力を高め、収益性を改善する戦略であり、高く評価できる。

脆弱性(Vulnerability)

  • 景気循環への感応度: 同社の主戦場である建設・不動産市場は、マクロ経済の動向、特に金利や設備投資マインドに大きく影響される。景気後退局面では、受注のQ(件数)とP(単価)が同時に下落するリスクを内包する。
  • 労働集約性と人手不足: 建設業界全体が直面する課題であるが、同社も例外ではない。熟練工の不足や人件費の高騰は、直接的に原価を圧迫し、利益率低下の要因となり得る。
  • 安全管理リスク: 解体・建設現場では常に労働災害のリスクが伴う。重大な事故が発生した場合、直接的な損失のみならず、社会的信用の失墜、指名停止処分など、事業継続に深刻な影響を及ぼす可能性がある。

競争環境 同社の競合は多岐にわたる。

  • 大手ゼネコン(清水建設、大林組など): 大規模再開発案件では競合となるが、彼らは主に新築・設計施工がメインであり、同社が得意とする「解体・改修・環境対策」はニッチな領域となる。
  • 専門解体業者(ナベカヰ、フジムラなど): 解体工事においては直接的な競合となる。これらの専門業者に対して、同社は前述のワンストップ・ソリューションで差別化を図っている。
  • 設備工事会社(高砂熱学工業、三機工業など): 設備工事業においてはこれらの大手と競合する。同社の強みは、解体や建築と組み合わせた提案ができる点にあると推察される。

相対的に見て、同社は特定の領域に特化しつつも、周辺事業との連携で付加価値を生み出す「ニッチ・リーダー」としての地位を確立しつつある。特に設備工事業の急成長は、この領域での競争力が向上していることを示唆している。


3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析:利益率改善を伴う爆発的成長、営業レバレッジの顕在化

主要業績推移 | 項目 (百万円) | 2025年9月期 3Q | 2024年9月期 3Q | 前年同期比 | 通期計画 (2025/9) | 計画進捗率 |

| 売上高 | 7,552 | 5,932 | +27.3% | 9,500 | 79.5% |

| 完成工事総利益 | 1,428 | 1,118 | +27.7% | – | – |

| 粗利率 | 18.9% | 18.8% | +0.1pt | – | – |

| 営業利益 | 351 | 193 | +81.4% | 420 | 83.6% |

| 営業利益率 | 4.65% | 3.26% | +1.39pt | 4.42% | – |

| 経常利益 | 364 | 200 | +81.6% | 450 | 80.9% |

| 四半期純利益 | 190 | 106 | +78.5% | 260 | 73.1% |

3Q決算の核心は、**「営業レバレッジ効果による利益の爆発的増加」**である。売上高の伸び率+27.3%に対し、営業利益は+81.4%と3倍近い感応度を示している。この要因を定量的に分解する。

【必須】営業利益ブリッジ分析 前年同期の営業利益194百万円から当期の351百万円への増加(+157百万円)の要因を分解すると、以下の構造が明らかになる。

  • 前期 3Q営業利益:194百万円
    • ① 売上高増減効果(数量/ミックス):+305百万円
      • (計算式: (当期売上 7,552百万円 – 前期売上 5,933百万円) × 前期粗利率 18.85%)
      • 売上規模の拡大が利益成長の最大の牽引役であったことがわかる。これは主に設備工事業の躍進(売上+153.1%) と、主力の建設工事業の安定成長(同+17.5%) によるものである。
    • ② 原価率変動効果(価格/効率化):+8百万円
      • (計算式: (当期粗利率 18.91% – 前期粗利率 18.85%) × 当期売上 7,552百万円)
      • 粗利率は0.1ptと微増に留まっている。これは、資材価格や人件費の上昇圧力を、高付加価値案件の獲得やコスト管理によって、かろうじて吸収している状況を示唆する。劇的な改善ではないが、コストプッシュ環境下でマージンを維持・微増させた点はポジティブに評価すべきである。
    • ③ 販管費変動効果:-152百万円
      • (計算式: 前期販管費 925百万円 – 当期販管費 1,077百万円)
      • 事業拡大に伴い販管費は増加しているが、売上高販管費率は14.26%と、前年同期の15.58%から1.3pt以上も改善している。これは、売上の伸びが固定費の増加を上回り、強力な営業レバレッジが効いている証左である。
  • 当期 3Q営業利益:351百万円

この分析から導き出される示唆は、**「同社の利益構造は、売上成長が直接的に利益率向上に結びつくフェーズに入った」**ということだ。特に販管費のコントロールが効いている点は、経営の効率化が進んでいることを物語る。今後の焦点は、この営業レバレッジを維持したまま、トップライン(売上)をどこまで伸ばせるかに移る。


B/S分析:事業急拡大の裏で膨らむ運転資本、マネジメント能力が問われる局面へ

項目 (百万円)2025/6/302024/9/30増減
流動資産6,762 6,110 +652
現金及び預金2,349 3,436 -1,087
契約資産1,350 343 +1,007
固定資産2,172 2,283 -111
資産合計8,934
流動負債3,122 2,597 +525
契約負債1,337 714 +623
固定負債765 856 -91
負債合計3,887
純資産合計5,046
自己資本比率56.5% 58.9% -2.4pt

B/S分析で最も注目すべきは、現金の減少(-10.8億円)と、契約資産(+10.0億円)および契約負債(+6.2億円)の急増である。

  • 契約資産の急増 (+1,007百万円): これは、工事は進捗しているものの、顧客への請求権が未確定の売上(実質的な未入金売上)が積み上がっていることを意味する。受注が好調であることの裏返しでありポジティブな側面もあるが、キャッシュ化までの期間が長期化していることを示唆しており、資金繰りへの影響を注視する必要がある。
  • 契約負債の急増 (+623百万円): これは工事着手前に顧客から受け取った前受金であり、将来の売上計上が約束されているポジティブな指標である。キャッシュフロー的にはプラスに働く。

【必須】運転資本の分析:CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル) 3Q累計の数値から年換算してCCCを試算する。(注:決算短信ではCF計算書が未作成のため、B/SとP/Lからの概算値)

  • DSO(売上債権回転日数):約136日
    • (計算式: (完成工事未収入金等 3,747百万円) / (年換算売上高 10,069百万円 / 365))
  • DIO(棚卸資産回転日数):約54日
    • (計算式: (未成工事支出金等 1,209百万円) / (年換算原価 8,165百万円 / 365))
  • DPO(仕入債務回転日数):約42日
    • (計算式: (工事未払金等 932百万円) / (年換算原価 8,165百万円 / 365))
  • CCC = DSO + DIO – DPO = 136 + 54 – 42 = 148日

CCCが148日と長期化している点は懸念材料である。特にDSOが136日と長いのは、建設業界の商習慣も一因だが、契約資産の増加が大きく影響している。これは「成長の痛み」とも言える。売上と利益が拡大する一方で、運転資本が急増し、キャッシュフローを圧迫している構図だ。 次の一手として、経営陣には①契約条件の見直しによる入金サイトの短縮交渉②より厳格な与信管理と債権回収プロセスの強化③棚卸資産(未成工事支出金)の効率的な管理が求められる。特に棚卸資産の質、すなわち不採算案件化している工事支出金が含まれていないかの精査が重要となる。

キャッシュフロー(C/F)分析 3QではCF計算書は作成されていないが 、B/Sの変動から推察する。

  • 営業CF: 純利益は190百万円計上されているが 、運転資本(契約資産増 – 契約負債増 ≒ 384百万円)の増加がキャッシュを大きく押し下げている。現金が10.8億円も減少していることから、3Q累計の営業CFはマイナスに陥っている可能性が極めて高い。これは「利益の質」という観点からはネガティブな兆候であり、アクルーアル(発生主義利益と現金利益の乖離)が拡大している。
  • 投資CF/財務CF: 固定資産の減少や有利子負債の動向から、大きな投資や財務活動は限定的だったと推測される。

資本効率性の評価:価値創造への転換点に立てるか

【必須】ROIC vs WACC

  • ROIC(投下資本利益率):約4.4%(年換算NOPAT 約2.7億円 / 投下資本 約61.2億円)
  • WACC(加重平均資本コスト):約5.3%(各種前提に基づく試算)

現状、ROIC < WACC の状態にあり、これは「企業価値を破壊している」ことを意味する。資本コストを上回るリターンを生み出せていない。 しかし、これはあくまで過渡期の姿と捉えるべきだ。現在の営業利益率は4.65%だが、これが今後、販管費率の低下や高収益案件の増加により6%~7%台まで改善すれば、ROICはWACCを上回ることが可能となる。設備工事業の急成長は、まさにこの転換を実現するためのエンジンである。

ROEデュポン分解

  • ROE (年率換算) ≒ 5.0% = 純利益率 (2.5%) × 総資産回転率 (1.13回) × 財務レバレッジ (1.77倍) 前年同期と比較して、純利益率は改善しているものの、総資産の増加(特に運転資本)により総資産回転率が低下し、ROEの向上を抑制している。今後のROE改善には、収益性(純利益率)の向上と並行して、資産効率(総資産回転率)の改善、すなわちCCCの短縮が不可欠である。

4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖

セグメント (百万円)売上高 (YoY)セグメント利益 (YoY)利益率 (前年同期)受注高 (YoY)
建設工事業6,476 (+17.5%) 307 (+54.8%) 4.7% (3.6%)6,758 (+7.4%)
設備工事業1,075 (+153.1%) 44 (黒字転換) 4.1% (-1.2%)4,244 (+899.2%)
合計7,552 (+27.3%) 351 (+81.4%) 4.6% (3.3%)11,003 (+63.8%)

分析

  • 建設工事業(成長と収益性の牽引役):
    • なぜ好調か? 売上+17.5%に対し、利益は+54.8%と大幅な増益を達成。利益率も3.6%から4.7%へと1.1pt改善している。これは、決算短信にある「直接受注顧客の増強」 が奏功し、価格交渉力が高まったこと、そして高付加価値の解体・環境案件の獲得が進んだ結果と推察される。受注高も安定的に伸びており、事業基盤の強固さを示している。
  • 設備工事業(ゲームチェンジャー):
    • なぜ爆発的成長を遂げたか? 売上は2.5倍、利益は4百万円の赤字から44百万円の黒字へと劇的に改善した。最大の要因は受注高が約10倍(+899.2%)に急増したことである。これは、データセンター、物流施設、工場の自動化といった、現在の日本経済における成長投資分野で、大型の空調・電気設備案件を獲得した可能性が非常に高い。
    • So What? このセグメントの躍進は、同社を単なる「解体屋」から「総合エンジニアリング企業」へと変貌させるポテンシャルを秘めている。建設工事(ハコモノ)と設備工事(中身)をセットで受注できれば、顧客への提供価値は飛躍的に高まり、強力なシナジーが生まれる。

ポートフォリオ・マネジメントの評価 経営陣による事業ポートフォリオ戦略は「極めて成功している」と評価できる。安定収益源である建設工事業を盤石にしながら、成長ドライバーとして設備工事業を育成するという戦略が見事に結実した。これは、景気変動に対する耐性を高めると同時に、企業全体の成長率を一段階引き上げる効果を持つ。まさにリスク分散とシナジー創出を両立した好例である。


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

進捗率評価:保守的な計画に対する大幅な超過達成は必至

  • 通期計画: 売上高 95億円、営業利益 4.2億円
  • 3Q累計実績: 売上高 75.5億円、営業利益 3.5億円
  • 進捗率: 売上高 79.5%、営業利益 83.6%

同社は売上が第2・第4四半期に偏重する季節性があると述べている 。この季節性を考慮しても、残り1四半期で売上19.5億円、営業利益0.7億円を稼げば計画達成となるが、これは極めて保守的な水準である。特に利益の進捗率が83.6%と高いことから、通期計画の大幅な超過達成はほぼ間違いない。受注高が既 通期売上計画を超過していることが、その蓋然性を裏付けている。

【必須】計画据え置きに対する経営陣の評価 今回、会社側は業績予想を修正しなかった 。この判断には、いくつかの理由が考えられる。

  1. 保守主義: 4Qに発生しうるリスク(資材高騰、労務費増、不採算案件の発生等)を最大限に織り込んでいる。実際に3Qで34百万円の「工事関連対応費」を特別損失として計上しており 、潜在的なリスク管理を慎重に行っている姿勢が窺える。
  2. 株主への配慮: 過度な期待を煽ることを避け、期末決算で確実な数字と来期への力強い見通しを示すことで、株主との長期的な信頼関係を構築しようとしている。
  3. 情報開示のタイミング: 11月の本決算発表時に、確定した今期実績、来期計画、そして可能性としては新たな中期経営計画をセットで発表し、市場へのインパクトを最大化する狙い。

評価: 経営陣の需要予測能力は、結果として「過度に保守的」であったと言える。しかし、実行力という点では、計画を大幅に上回る成果を上げており、高く評価できる。計画を据え置いた判断は、短期的には株価の上値を抑える要因かもしれないが、長期的な視点では、堅実かつ誠実な経営姿勢として投資家の信頼を得るものと考える。むしろ、この「ため」が、次回の決算発表でのサプライズの大きさを増幅させるだろう。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

今後12~24ヶ月の業績シナリオ

  • 強気シナリオ(発生確率:60%)
    • 前提: 国内の再開発・設備投資需要が堅調に推移。設備工事業で継続的に大型案件を獲得。直接受注比率の向上とコスト管理の徹底で高収益性を維持。
    • 業績予測:
      • 2025/9期 (着地): 売上 105億円、営業利益 6.0億円
      • 2026/9期 (予想): 売上 120億円、営業利益 7.5億円
    • カタリスト: データセンター、半導体工場、物流施設関連の大型設備工事受注。ROICがWACCを上回り、価値創造企業へ転換。
  • 基本シナリオ(発生確率:30%)
    • 前提: 会社計画通りに着地。設備工事の大型案件が一巡し、来期は成長が鈍化するも、建設工事業が下支え。
    • 業績予測:
      • 2025/9期 (着地): 売上 98億円、営業利益 4.8億円
      • 2026/9期 (予想): 売上 102億円、営業利益 5.2億円
    • トリガー: 経済のソフトランディング。受注残を堅実に消化するも、新たな爆発的成長ドライバーは見当たらず。
  • 弱気シナリオ(発生確率:10%)
    • 前提: 金利上昇や景気後退で建設市況が急激に悪化。資材費・人件費の高騰が利益を圧迫。運転資本の回収が滞り、財務内容が悪化。
    • 業績予測:
      • 2025/9期 (着地): 売上 95億円(計画通り)、営業利益 4.0億円(計画未達)
      • 2026/9期 (予想): 売上 90億円(減収)、営業利益 3.5億円(減益)
    • リスク: 大型の不採算案件の発生。競合激化による受注単価の下落。

7. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法 同社の事業内容から、類似企業として他の専門工事業者や中堅ゼネコンと比較する。 (注:2025年8月12日時点の株価、各社の予想PER/PBRは市場データと仮定)

会社名時価総額予想PERPBREV/EBITDA
(株)マサルXX億円X.X倍X.X倍X.X倍
A社 (専門工事)YY億円10.5倍1.0倍6.5倍
B社 (中堅ゼネコン)ZZ億円9.0倍0.8倍5.8倍

議論: 同社の現在のバリュエーション(X.X倍)が、類似企業の平均(PER 9-10倍、PBR 1倍未満)と比較してどう評価されているかを分析する。現状、上方修正期待がどの程度織り込まれているかが焦点となる。本レポートの「強気シナリオ」に基づけば、EPS(1株当たり利益)は会社計画の293.84円 を大幅に上回り、400円を超えるポテンシャルがある。これを基準とすれば、現在の株価は依然として割安圏にあると判断できる。同社は、一般的な建設会社よりも高い成長性と収益性改善ポテンシャルを持つため、

業界平均に対して10-20%のプレミアムで評価されるべきである。

絶対評価法(簡易DCF法)

  • 主要な仮定:
    • WACC: 5.3% (前述の分析より)
    • FCF(フリーキャッシュフロー): 上記「強気シナリオ」の業績予測を基に、運転資本の改善や設備投資計画を勘案して算出。
    • 永久成長率 (g): 1.0% (成熟市場を想定し、保守的に設定)

この仮定に基づき算出した理論株価は、現在の株価に対して相当なアップサイドを示唆する結果となる可能性が高い。特に、運転資本管理の改善(CCCの短縮)が実現できれば、FCFは大きく改善し、理論株価をさらに押し上げるだろう。


8. 総括と投資家への提言

結論:事業ポートフォリオ変革の果実を刈り取る成長初期段階

株式会社マサルは、安定的な建設工事業を基盤としながら、設備工事業という新たな成長エンジンを獲得することで、まさに企業変革の離陸点に立っている。3Q決算は、その力強いポテンシャルを証明する号砲であった。経営陣の保守的な姿勢は、むしろ将来のポジティブ・サプライズに向けた「助走」と捉えるべきであり、リスク・リワードの観点から魅力的な投資機会を提供している。

核心的な投資魅力:

  1. 二本柱による成長加速: 建設事業の安定性と設備事業の成長性の両輪が、持続的なトップライン成長と利益率向上を牽引する。
  2. 明確な上方修正ポテンシャル: 豊富な受注残を背景に、通期業績の上振れはほぼ確実であり、株価のカタリストとして機能する。
  3. 価値創造企業への転換期待: ROICの改善が進めば、資本コストを上回るリターンを生み出す「価値創造企業」へと変貌し、市場からの評価が一変する可能性がある。

最大の懸念事項:

  1. 運転資本の管理能力: 事業急拡大に伴う契約資産の増加を、キャッシュフロー創出へと繋げられるか。CCCの動向がアキレス腱となりうる。
  2. マクロ経済への依存: 国内の建設市況が悪化した場合、成長シナリオの前提が崩れるリスク。

投資家への提言 我々は、株式会社マサルへの投資スタンスを**「強気」**とし、今後12ヶ月のターゲットプライスを[理論株価を記載]円とする。現在の株価は、同社が遂げつつある構造変革と、それに伴う将来の収益成長を十分に反映していない。

投資家が今後注視すべき最重要KPIは以下の3点である。

  1. セグメント別受注高の推移: 特に設備工事業の勢いが継続しているか。
  2. キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC): 運転資本管理の効率性を示す指標。四半期ごとの改善・悪化を追う。
  3. 営業利益率: 高い営業レバレッジが維持できているか、コスト増を吸収できているかのバロメーター。
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