1. エグゼクティブ・サマリー
投資スタンス: 強気 (確信度: 80%) 3行サマリー:
- 何が起きたのか(事実): 2025年9月期第3四半期累計の連結業績は、売上高が前年同期比19.7%増、営業利益が同20.1%増と好調に推移し、通期営業利益計画に対する進捗率は86.1%に達した 。しかし、第3四半期単期では、M&A関連費用やソリューションプラットフォーム基盤構築費用といった一過性費用により、営業利益は前年同期比で横ばい圏に留まった 。
- なぜそれが重要なのか(本質): 短期的な利益の鈍化は「成長痛」であり、M&Aを駆使した事業ポートフォリオの変革と、将来に向けた先行投資が順調に進んでいることの証左である。特に、粗利率の高い戦略領域(コンサルティング・受託開発)の売上高構成比が40.6%に達し、収益構造転換が加速している点は極めてポジティブなシグナルである 。
- 次に何を見るべきか(注目点): 短期的な懸念は、第4四半期に予定されている「持続成長に向けた先行投資」の内容と規模である 。これが一時的なコスト増に留まるのか、あるいは構造的な利益圧迫要因となるのかを精査する必要がある。また、M&Aで獲得したHCフィナンシャル・アドバイザーとのクロスセルやシナジー創出の具体的な進捗が、中長期的な成長シナリオの蓋然性を高める鍵となる。
主要カタリストとリスク:
- 主要カタリスト(ポジティブ):
- M&Aによる非連続的な成長の実現: HCフィナンシャル・アドバイザー(HCFA)買収後のPMI(Post-Merger Integration)が計画通りに進み、グループ全体でのシナジー創出が加速すること。
- 戦略領域の収益性向上: 高単価・高付加価値の戦略領域の売上高構成比がさらに上昇し、全社的な粗利率および営業利益率が改善すること。
- 持続成長に向けた先行投資の成果: 第4四半期に予定されている先行投資が、2026年9月期以降の利益成長に明確に寄与することが示されること 。
- 主要リスク(ネガティブ):
- 先行投資の費用対効果の不透明性: 第4四半期および2026年9月期以降の先行投資が、期待したほどの収益に繋がらず、収益性を圧迫するリスク。
- M&A後の人財流出とPMIの失敗: 買収したHCFAからの人財流出や、組織文化の融合に失敗することで、期待したシナジーが得られないリスク。
- 主要顧客であるIT業界の投資抑制: マクロ経済の減速等により、主要顧客であるシステム開発企業のDX需要が減退し、SES(システムエンジニアリングサービス)事業や受託開発事業が失速するリスク 。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
同社は純粋持株会社制の下、ITを基軸とした「ソリューション・インテグレーター」として、多様な顧客の経営課題解決を図っている 。中核となるのは、エンジニア派遣を担う株式会社ブレーンナレッジシステムズ(BKS)を筆頭とした、複数子会社による事業ポートフォリオである 。
ビジネスモデルの評価: 同社の収益モデルは、以下のように分解できる。 売上高 = (SES事業売上) + (戦略領域事業売上) SES事業売上 = (SES人員数) × (SES契約単価) × (稼働月数)
戦略領域事業売上 = (コンサル・受託開発案件数) × (案件単価)
このモデルの強みは、
「エンジニア派遣(SES)」を起点とした多角的な顧客接点にある 。SES事業を通じて顧客の「現場」に入り込むことで、顧客の経営課題や技術的ボトルネックを深く理解できる 。この知見を活かし、受託開発やITコンサルティングといった「上流工程」へのサービス提供へと繋げるという、ボトムアップ型の変革アプローチが可能となっている 。これにより、単なる人財提供に留まらない、高付加価値なソリューションを提供できるという競争優位性を構築している。また、約450社に及ぶ顧客基盤は、特定の顧客への依存度を低減し、ロングテールなリスク分散を実現している 。
一方、脆弱性としては、依然として収益の大部分をSES事業が占めているため、景気変動によるIT投資の抑制や、単価交渉力に左右されるリスクは残る 。また、M&Aによる事業拡大を掲げる中で、買収後のPMIの失敗や人財流出リスクは常について回る 。
競争環境: ITサービス市場は、大手SIerから中小規模の専門企業まで、多岐にわたるプレーヤーが存在する。同社の直接的な競合としては、コムチュア(3844)、セラク(6199)、エスユーエス(6554)などが挙げられる 。
- 相対的な強み:
- ポートフォリオの多様性: 競合他社がSESや受託開発に特化していることが多い中、同社はM&Aを積極的に活用し、経営コンサルティング領域まで事業を拡大している点がユニークである 。
- 高い資本効率性: ROEは30%超と、類似企業と比較して非常に高い水準を維持している 。
- 相対的な弱み:
- 規模の小ささ: 売上高や時価総額は、コムチュアやSHIFTといった大手競合に比べるとまだ小さい 。これにより、大規模な案件獲得やブランド認知度で劣る可能性がある。
- 評価のディスカウント: PERは9.1倍と、類似企業群の中で最も低い水準で評価されており、市場からその成長性や収益構造転換が十分に評価されていない状況にある 。
3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析: 2025年9月期第3四半期累計(2024年10月1日~2025年6月30日)の連結業績は、以下の通り。
項目 | 2025年9月期 3Q累計 | 2024年9月期 3Q累計 | 前年同期比増減率 | 通期計画 | 進捗率 |
売上高 | 6,298百万円 | 5,263百万円 | +19.7% | 8,906百万円 | 70.7% |
営業利益 | 547百万円 | 455百万円 | +20.1% | 635百万円 | 86.1% |
経常利益 | 541百万円 | 455百万円 | +18.9% | 635百万円 | 85.2% |
親会社株主に帰属する四半期純利益 | 265百万円 | 290百万円 | △8.6% | 327百万円 | 81.2% |
親会社株主に帰属する四半期純利益は、投資有価証券評価損77百万円を特別損失として計上したことにより、前年同期比で減益となっている 。この一過性要因を除いた「調整後EPS」の進捗率は84.1%と非常に好調である 。
営業利益のブリッジ分析(3Q累計):
- 2024年9月期 3Q累計営業利益: 455百万円
- 売上増による利益増: 売上高は1,035百万円増加(5,263百万円 → 6,298百万円) 。粗利率は前年同期の28.9%から29.2%へと微増 。売上増による利益貢献額は、約302百万円と試算される。
- 販管費増による利益減: 販管費は1,066百万円から1,291百万円へと、225百万円増加 。この増加要因は、M&A付随費用、採用関連費用、そしてHCFA買収に伴うのれん償却費など、一過性の費用増が主である 。
- 2025年9月期 3Q累計営業利益: 455 + 302 – 225 = 532百万円。実際の営業利益547百万円とは若干の乖離があるが、概ねこの構造で説明できる。利益増加の大部分は売上増加によるものであるが、販管費の増加が利益を一部相殺する形となっている。
B/S分析:
- 資産合計: 3,044百万円から4,355百万円へと、1,311百万円増加 。増加要因は、HCFA買収に伴うのれん708百万円の増加 。現金及び預金も156百万円増加している 。
- 負債合計: 1,691百万円から2,947百万円へと、1,255百万円増加 。これは主にM&Aのための長期借入金654百万円の増加による 。
- 自己資本比率: 前期末の43.8%から31.8%へと大幅に低下 。これは、M&Aに伴う借入の実行と、約2.2億円の自己株式取得による影響である 。この水準は同社が掲げる「自己資本比率40%以下の維持」という財務資本戦略に沿ったものであり、レバレッジをかけて成長投資を加速する意志の表れと解釈できる 。
キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)分析: (単位: 千円, 2024年9月期実績)
- 売上債権回転日数(DSO)= 売掛金(876,002)/売上高(7,165,000)×365 = 44.6日
- 棚卸資産回転日数(DIO)= 棚卸資産(7,097+6,414)/売上原価(5,087,000)×365 = 0.97日
- 仕入債務回転日数(DPO)= 買掛金(87,603)/売上原価(5,087,000)×365 = 6.3日
- CCC = DSO + DIO – DPO = 44.6 + 0.97 – 6.3 = 39.27日
(単位: 千円, 2025年9月期第3四半期累計)
- 売上高(6,298,233)/売上原価(4,459,569)/売掛金(854,836)/契約資産(195,040)/棚卸資産(6,137)/買掛金(103,721)
- CCCの詳細は開示情報から正確に算出できないが、売掛金回転は安定しており、棚卸資産も僅少であるため、キャッシュフローへの影響は軽微と判断される。
- 特筆すべきは、買収に伴うのれんの増加であり、これは無形固定資産として計上され、将来的に償却負担としてキャッシュフローを伴わない費用計上となる。M&Aが続く限り、この傾向は継続する見込みである。
資本効率性の評価:
- ROICとWACC: 正確なWACCは開示情報から算出できないが、借入を積極的に活用していることから、WACCは比較的低い水準と推測される。同社のROEは30%超であり 、これは一般的にROICも高い水準にあることを示唆している。M&Aによるのれんが増加しているものの、買収が成功し買収先企業の収益がグループ全体に貢献すれば、投下資本を上回るリターンを生み出し、企業価値創造に繋がると考えられる。
- ROEのデュポン分解(2024年9月期実績):
- 純利益率 = 404百万円 / 7,165百万円 = 5.6%
- 総資産回転率 = 7,165百万円 / 3,044百万円 = 2.35回
- 財務レバレッジ = 3,044百万円 / 1,333百万円 = 2.28倍
- ROE = 5.6% × 2.35 × 2.28 = 30.0%(開示値33.9%と乖離あり。自己資本の変動を考慮した期中平均自己資本で再計算が必要だが、ここでは概算としておく。)
- デュポン分解から、同社のROEは収益性と総資産の効率的な活用によって支えられていることがわかる。財務レバレッジの拡大は、M&Aによる借入増加により、今後もROEを押し上げる要因となりうる。
4. セグメント情報の徹底解剖
同社グループは「システムソリューションサービス事業」を単一の報告セグメントとしているため、詳細なセグメント別の売上・利益の開示はない 。ただし、決算説明資料において、事業を「SES」と「戦略領域(コンサルティング・受託開発)」に分けて解説している 。
SES事業:
- 売上高: 第3四半期累計で前年同期比2.8%増の1,322百万円 。
- 主要KPI: SES人員数は前年同期比で1.4%減の688名と純減したが、契約単価が同3.5%増の675千円に上昇したことで、売上増を確保した 。
- 考察: 人員数が減少している点は短期的な懸念だが、これは高付加価値な「中級レイヤー以上」に特化した採用戦略と、一部人員を粗利率の高い戦略領域案件へシフトさせていることの裏返しである 。これにより契約単価が上昇しており、質の高い成長へのシフトが読み取れる。
戦略領域事業:
- 売上高: 第3四半期累計で前年同期比62.0%増の904百万円 。
- 要因: 株式会社HCフィナンシャル・アドバイザー(HCFA)の新規連結効果が大きく寄与している 。これにより、全社売上高に占める戦略領域の構成比は40.6%にまで上昇した 。
- 考察: 戦略領域の売上高はHCFAの寄与を除いても前年同期比21.4%増と順調に拡大しており、ポートフォリオの重心が高収益事業へと確実にシフトしている 。M&Aを駆使して経営コンサルティング領域まで業容を拡大するという経営陣の戦略が、明確な成果を出し始めている 。
ポートフォリオ・マネジメントの評価: 経営陣は、SES事業をキャッシュカウとして安定させつつ、そのキャッシュをM&Aや先行投資を通じて、高成長・高収益の戦略領域に振り向けるという、明確なポートフォリオ戦略を実行している 。HCFAの買収は、この戦略の成功事例であり、今後のシナジー創出に成功すれば、企業価値を非連続的に高める可能性を秘めている 。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
同社は、2025年5月12日に通期業績予想を修正しており、今回の第3四半期決算において、その予想に変更はなかった 。
項目 | 2025年9月期 通期修正予想 | 3Q累計実績 | 3Q進捗率 | 4Q達成に必要な増減率(YoY) |
売上高 | 8,906百万円 | 6,298百万円 | 70.7% | +40.3% |
営業利益 | 635百万円 | 547百万円 | 86.1% | +16.0% |
- 売上高: 進捗率は70.7%と、目安の75%を若干下回る 。第4四半期で残りの2,608百万円を達成するには、前年同期比で約40%もの成長が必要となる。これは容易な目標ではない。
- 営業利益: 進捗率は86.1%と非常に高い 。残り88百万円を達成するには、前年同期比16%程度の成長で十分であり、達成の蓋然性は高いと判断できる 。
経営陣の判断の妥当性: 売上高の進捗率は見劣りするものの、営業利益の進捗率が86.1%と極めて高いため、通期計画を据え置いた経営判断は妥当である 。経営陣は「持続成長のための先行投資」を第4四半期に見込んでおり、これが一時的に利益を圧迫する可能性があるため、上方修正を控えたものと推察される 。この判断は、短期的な利益の最大化よりも中長期的な成長を優先する姿勢を示すものであり、高く評価できる。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
強気シナリオ:
- 前提条件: マクロ経済が安定し、DX需要が継続。HCFA買収後のPMIが順調に進み、グループシナジーが計画を上回るペースで発現。先行投資が早期に収益貢献を始める。
- 売上・利益予測: 2026年9月期以降、売上高は年率15%以上で成長。営業利益は年率20%以上の成長を継続する。2030年9月期のEPS1,000円(株式分割後500円)という中長期経営方針の目標を早期に達成する 。
- カタリスト:
- HCFAのM&A仲介事業を起点とした、グループ内子会社へのクロスセル案件が具体的に開示されること 。
- SES事業の単価上昇と人員数増加が同時に実現し、利益率改善とトップライン成長が加速すること。
- 第4四半期に実施される先行投資の詳細(ソリューションプラットフォームの具体像など)が開示され、投資家がその将来性に納得すること。
基本シナリオ:
- 前提条件: 景気は緩やかに回復し、IT投資も堅調に推移する。M&Aによる成長は続くが、PMIには時間を要する。先行投資は計画通りに実行され、2026年9月期から徐々に成果が出始める。
- 売上・利益予測: 売上高は年率10%程度で成長し、営業利益もこれに準じて成長する。2030年9月期には、EPS1,000円(分割後500円)の達成は可能となる 。
- カタリスト:
- M&Aの継続的な成功(例えば、年間1社程度の買収) 。
- 経営コンサルティング事業戦略室が、グループ内のノウハウを活かしたコンサルティングサービスを確立し、受注を拡大すること 。
弱気シナリオ:
- 前提条件: マクロ経済の悪化、特にIT業界の投資サイクルが減速。M&A後の人財流出やPMIの失敗が顕在化。先行投資が利益を圧迫するコスト要因となる。
- 売上・利益予測: 売上成長率は5%未満に鈍化。販管費が増加する中で、営業利益は横ばい、あるいは減益となる。中長期経営計画の達成は困難となる。
- リスク:
- M&A先のHCFAから、創業者利益を得たキーパーソンや、売上を担っていた人財が流出すること 。
- DX需要の減退により、SESの単価上昇が頭打ちとなり、価格競争に巻き込まれること 。
- M&A戦略が空回りし、のれんの減損リスクが表面化すること 。
7. バリュエーション(企業価値評価)
相対評価法: (2025年7月31日時点)
- ヒューマンクリエイションホールディングス: PER 9.1倍, ROE 33.9%
- コムチュア: PER 16.8倍, ROE 17.9%
- SHIFT: PER 53.4倍, ROE 16.4%
- セラク: PER 12.9倍, ROE 21.6%
同社のPERは類似企業と比較して著しく低い水準にある 。これは、SES事業への依存度が高いこと、M&Aによるのれん増加、そして先行投資による短期的な利益圧迫を市場が懸念しているためと推察される 。しかし、高いROEとROEを支える資本効率性、そして高成長の戦略領域への収益構造転換が順調に進んでいる点を考慮すれば、現在のPERは明確なディスカウント状態にあると判断できる 。
8. 総括と投資家への提言
同社は、短期的な「成長痛」を伴いながらも、中長期的な企業価値向上に向けた大胆な戦略を実行している。M&Aによる事業ポートフォリオの変革は、高成長・高収益の戦略領域の売上構成比を40%超にまで引き上げ、収益構造転換が具現化しつつある 。
現在の株価は、先行投資費用やのれん増加といった短期的な懸念により、類似企業に比べて過小評価されている 。しかし、経営陣が掲げる「自己資本比率40%以下の維持」と「EPS1,000円」という目標は、資本効率を重視した明確な価値創造の意思を示唆している 。
投資家への提言:
- 投資スタンス: 短期的な業績の振れ幅に惑わされることなく、中長期的な視点で投資すべきである。現在の株価は、将来の成長ポテンシャルを考慮すると、魅力的なエントリーポイントであると判断する。
- 注視すべきKPIとイベント:
- 戦略領域の売上構成比: これが50%に近づくにつれて、市場からの評価が大きく変わる可能性がある。
- M&Aの進捗: 買収後のPMIの成功事例(HCFAとのクロスセルなど)が具体的に示されるか。
- 先行投資の費用対効果: 第4四半期および次期以降の決算で、先行投資が収益貢献を始めているか、その進捗を継続的に確認する必要がある。