1. エグゼクティブ・サマリー
投資スタンス:中立(確信度60%)
株式会社アイスタイルは、2025年6月期において国内事業の力強い成長に牽引され、過去最高の売上高および営業利益を達成しました。特にマーケティング支援とリテール事業のシナジー効果が顕著であり、プラットフォームの競争優位性がさらに強固になったことが確認できます。しかし、積極的な成長投資の継続とグローバル事業の依然として不透明な収益性が、短期的な利益の伸長を抑制する可能性があります。経営陣が掲げる中期事業目標の達成には、投資効果の確実な刈り取りが必須となりますが、その進捗には引き続き注視が必要です。
3行サマリー:
- 事実: 2025年6月期は、国内事業の好調に支えられ、売上高・営業利益ともに過去最高を更新し、業績予想を大幅に超過達成。
- 本質: リテール事業で獲得した顧客接点と購買データを、高収益のマーケティング支援事業でマネタイズするプラットフォーム戦略が機能し、資本効率が改善するフェーズに移行。
- 注目点: 今後、積極化する成長投資(人材、システム、新規事業)が、収益を押し上げる形で成果として現れるか、そしてグローバル事業の構造的な赤字が解消されるか。
主要カタリストとリスク:
- 主要カタリスト(ポジティブ要因)
- 「@cosme HONG KONG」の黒字化早期達成: グローバル事業における旗艦店の成功は、海外展開の成否を占う試金石となり、市場の成長期待を大きく高める。
- 新規サービス「データコンサルティング」の本格的な収益貢献: 高利益率のBtoBサービスにおける新柱の確立は、連結利益率のボトムアップに直結する。
- 「TOKYO BEAUTY WEEK」の成功: 業界を横断するイベントの成功は、プラットフォームの価値をさらに向上させ、マーケティング支援事業の収益機会を拡大させる。
- 主要リスク(ネガティブ要因)
- 成長投資の先行と利益化の遅延: 積極的な人材採用やシステム投資が、売上成長を上回るペースで販管費を押し上げ、短期的な利益の圧迫が続く可能性。
- マクロ経済の減速による個人消費の鈍化: リテール事業の売上は、景気動向に左右されやすく、化粧品市場全体の成長鈍化が業績に影響する。
- 競争激化とプラットフォームの陳腐化: 他のSNSやECプラットフォームが美容領域に進出し、@cosmeの競争優位性が侵食されるリスク。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
株式会社アイスタイルは、「@cosme」を中核とした美容領域のプラットフォーム事業者です。そのビジネスモデルは、大きく「マーケティング支援事業」と「リテール事業」、「グローバル事業」、「その他」の4つのセグメントに分かれています。
ビジネスモデルの評価:
アイスタイルのビジネスモデルは、以下のシンプルな数式に分解できます。
売上高=アクティブユーザー数×(ユーザーアクション総数)×(顧客単価)×(ブランド企業数)
このモデルの中核をなすのは、「リテール事業」がユーザーとの接点と購買データを獲得し、それを「マーケティング支援事業」でマネタイズするという、極めて強力なプラットフォーム・エコシステムです。
- 強み(競争優位性):
- データドリブンな競争優位性: 2,230万件のクチコミと1,060万人の登録会員という圧倒的なデータ量と、それを支える公正なランキングシステムは、ユーザーにとっての信頼の源泉であり、参入障壁として機能します。
- ハイブリッドな顧客体験: オンラインのメディア(@cosme)とEC(@cosme SHOPPING)、そしてオフラインの店舗(@cosme STORE)をシームレスに連携させることで、顧客は情報収集から購買までを一気通貫で体験できます。これにより、高いスイッチングコストが生じ、顧客の囲い込みに成功しています。
- 高収益なマネタイズ: リテール事業で蓄積したユーザー行動データは、高利益率のマーケティング支援事業における広告やソリューションサービスとして、ブランド企業に販売されます。この構造は、単純なECや小売事業者が実現し得ない高い収益性を生み出す源泉となります。
- 脆弱性(リスク):
- 特定セグメントへの依存: 売上高の大部分を占めるリテール事業は、マクロ経済の動向や個人消費の変動に影響を受けやすい性質を持ちます。また、ブランド企業への依存度が高く、大手ブランドとの関係が悪化した場合のリスクも無視できません。
- グローバル事業の収益性: 海外事業は、中国越境ECの復調が見られるものの、依然として構造的な赤字が続いています。今後の成長投資が先行するため、早期の黒字化が実現しなければ、連結利益を継続的に圧迫する要因となります。
競争環境:
美容EC/小売市場の主要な競合としては、Amazon、楽天、ZOZOなどのECプラットフォーム、そしてマツモトキヨシ、サンドラッグなどのドラッグストアチェーンが挙げられます。
- Amazon/楽天: 圧倒的な商品ラインナップと物流網を持つ一方、美容に特化したコミュニティやデータに基づいた高付加価値な体験提供には劣る。
- ドラッグストアチェーン: 実店舗ネットワークの強みを持つが、ECとの連携やデータ活用においてはアイスタイルに一歩劣る。
- アイスタイルの相対的優位性: 競合他社が個別の強み(ECの利便性、店舗の物理的接点)を持つ一方、アイスタイルは「情報と購買の融合」という独自のポジションを確立しています。ユーザーは@cosmeで得た信頼性の高いクチコミを参考に、ECや実店舗で商品を試したり購入したりすることができます。このエコシステムは、他の追随を許さない強固な参入障壁となっています。
3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析
項目 | 2025年6月期 通期累計 (百万円) | 前期比YoY (%) | 計画比 (%) |
売上高 | 68,768 | +22.6% | +7.5% |
売上総利益 | 29,634 | +20.2% | – |
営業利益 | 3,164 | +63.1% | +31.9% |
経常利益 | 3,310 | +92.3% | +37.9% |
親会社株主に帰属する純利益 | 2,327 | +91.6% | +45.4% |
売上高は前年同期比で+22.6%と力強く成長し、期初計画の64,000百万円を7.5%も超過達成しました。営業利益に至っては、前年比で63.1%増と大きく伸長し、計画を31.9%も上回る着地となりました。これは、国内事業(マーケティング支援、リテール)の増収増益が牽引した結果です。
営業利益のブリッジ分析(前年同期のFY24からFY25への変動)
変動要因 | FY24営業利益 (百万円) | 変動額 (百万円) | FY25営業利益 (百万円) |
スタート | 1,940 | ||
売上総利益増加 | +5,000 | ||
販管費増加 | -3,743 | ||
エンド | 3,164 |
※概算値
売上総利益は、売上高の増加に伴い、約50億円増加しました。しかし、販管費も約37億円増加しており、その内訳は主に
人材関連費用と物販関連費用でした。特に、成長加速のための国内店舗人員増強やマーケティング支援事業の体制強化、そしてリテール事業の増収に伴う変動費(配送費、手数料など)が増加要因となっています。
収益性の深掘り:
- 粗利率: FY24の43.9%からFY25の43.1%へと、わずかに低下しました。これは、相対的に粗利率の低いリテール事業の売上構成比が高まったことによる製品ミックスの変化が主因と考えられます。しかし、リテール事業はプラットフォームへのユーザー誘導という戦略的な役割を担っており、一概にネガティブな変化とは言えません。
- 営業利益率: FY24の3.5%からFY25の4.6%へと、1.1ポイント改善しました。売上高の増加ペースが販管費の増加ペースを上回った結果、テコ入れ効果が発現したと評価できます。これは、高利益率のマーケティング支援事業がリテール事業とのシナジーを通じて効率的に利益を拡大させたことの証左です。
B/S分析
項目 | 2024年12月 (百万円) | 2025年6月 (百万円) | 増減 (百万円) |
現金及び預金 | 6,856 | 7,187 | +331 |
受取手形、売掛金 | 5,535 | 5,535 | 0 |
商品 | 6,074 | 6,415 | +341 |
負債合計 | 18,515 | 17,594 | -921 |
純資産合計 | 13,850 | 17,007 | +3,157 |
現金及び預金は3.3億円増加し、流動性を確保しています。特筆すべきは、純資産が大幅に増加している点です。これは、親会社株主に帰属する純利益の計上に加え、転換社債型新株予約権付社債の発行による影響が大きいと考えられます。自己資本比率は、FY24の39.2%からFY25の49.2%へと大幅に改善しており、財務健全性が飛躍的に向上しています。
運転資本の分析(CCC):
- 売上債権回転日数(DSO): 売上高の増加に対して売掛金が横ばいであったため、DSOは改善傾向にあると推測されます。これは、売上増加に伴いキャッシュ回収が効率的に行われていることを示唆します。
- 棚卸資産回転日数(DIO): 商品在庫はFY24.6の6,415百万円からFY25.6の6,415百万円と微増しています。売上高の増加を考慮すると、DIOは改善しています。これは、リテール事業の販売イベント成功などにより、在庫が効率的に回転していることを示しています。
- 仕入債務回転日数(DPO): 買掛金はFY24.6の4,707百万円からFY25.6の3,409百万円と減少しています。これは、購買戦略の見直しやサプライヤーとの取引条件の変更などが影響している可能性があります。
- CCCの評価: 上記の分析から、DSOとDIOの改善傾向がDPOの減少を相殺し、CCCは安定または改善している可能性が高いです。これは、事業規模の拡大に比べて運転資本の増加が抑制されており、キャッシュ創出能力が向上していることを示しています。
キャッシュフロー(C/F)分析
CF項目 | FY25累計 (百万円) | FY24累計 (百万円) | 増減 (百万円) |
営業活動によるCF | 3,139 | 3,336 | -197 |
投資活動によるCF | -2,658 | -4,569 | +1,911 |
財務活動によるCF | 1,012 | 160 | +852 |
営業CFは、税金等調整前当期純利益が大幅に増加したものの、減価償却費の増加や、売上債権の増加によるキャッシュの減少などにより、前年同期比で微減となりました。投資CFは、主に有形・無形固定資産の取得による支出が継続しているものの、前期に比べて減少しています。財務CFは、長期借入による収入が増加したことで、大幅なプラスとなっています。これは、事業拡大に向けた投資資金を外部調達で賄っていることを示しており、今後の成長に対する経営陣の強い意志が窺えます。
利益の質(アクルーアル):
営業CF(3,139百万円)が純利益(2,327百万円)を上回っており、アクルーアルはネガティブ(-812百万円)です。これは、利益が現金として手元に残っていることを示唆しており、利益の質は高いと評価できます。
資本効率性の評価
- ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト):
- FY25の営業利益(3,164百万円)と投下資本(有利子負債+自己資本)を基にROICを概算すると、**約10%**と算出されます。
- 一方、想定株主資本コストはCAPMで10〜11%とされており、WACCも同程度の水準にあると推測されます。
- 評価: ROICがWACCをわずかに下回るか、ほぼ同水準であり、現状では企業価値創造は限定的です。しかし、FY24のROICが約8%であったことを考慮すると、改善傾向にあることは評価できます。積極的な成長投資の成果がROICをWACC以上に引き上げられるかが、今後の企業価値創造の鍵となります。
- ROE(自己資本利益率):
- FY25のROEは**17.3%**と、当社の想定資本コスト10-11%を大きく上回っています。
- デュポン分解:
- 純利益率: FY24の2.2%からFY25の3.4%へ改善。
- 総資産回転率: FY24の0.7回からFY25の0.7回と横ばい。
- 財務レバレッジ: FY24の3.4倍からFY25の3.1倍と健全化。
- 評価: ROEの改善は、主に純利益率の向上によってもたらされました。これは、事業の収益性が改善したことの明確な証左であり、資本効率性の観点からも高く評価できます。
4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖
FY25のセグメント別業績は、以下の通りです。
セグメント | 売上高 (百万円) | YoY (%) | 営業利益 (百万円) | YoY (%) |
マーケティング支援 | 9,651 | +15.7% | 2,822 | +74.5% |
リテール | 53,463 | +26.9% | 3,115 | +18.2% |
グローバル | 4,174 | +6.1% | -176 | – |
その他 | 1,480 | -10.9% | 188 | -25.4% |
連結合計 | 68,768 | +22.6% | 3,164 | +63.1% |
- 好調セグメント:マーケティング支援とリテール
- マーケティング支援: 売上高は15.7%増と堅調に推移し、営業利益は74.5%増と大幅に伸長しました。これは、リテール事業とのシナジーによってユーザーエンゲージメントの価値訴求が進み、高い利益率で効率的に利益を拡大できたためです。
- リテール: 売上高は26.9%増と連結業績を牽引しました。特に、オンラインの「@cosme SPECIAL WEEK」イベントの成功と、オフラインの既存店成長が貢献しました。利益は、マーケティング支援へのライセンス料計上という内部取引があったものの、増収効果により18.2%増益となりました。
- 不振セグメント:グローバルとその他
- グローバル: 売上高は6.1%増と成長したものの、依然として1.76億円の営業赤字です。韓国事業の成長や中国越境ECの復調が見られる一方、香港旗艦店のオープン前費用などが先行したことが赤字幅縮小を限定的にしています。
- その他: 売上高は10.9%減、営業利益も25.4%減と苦戦しました。これは、一部BtoC課金サービス(BLOOM BOX)の終了が主な要因です。しかし、これは想定内の推移であり、事業ポートフォリオの見直しの一環と捉えることができます。
ポートフォリオ・マネジメントの評価:
経営陣は、国内事業の収益基盤を盤石にしつつ、グローバル事業という新たな成長機会に積極的に投資する、バランスの取れたポートフォリオ戦略を実行しています。
- シナジー創出の成功: リテール事業の成長がマーケティング支援事業の利益拡大に直結するという、強力なシナジーモデルが確立されています。これは、各事業が単独で存在するのではなく、プラットフォーム全体として機能していることを示しています。
- リスク分散: グローバル事業は、現状では赤字セグメントですが、海外市場という新たな成長エンジンを獲得するための重要な投資と位置づけられます。国内事業が順調な間に海外事業を育成することで、将来的な事業ポートフォリオのリスク分散を図っていると評価できます。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
株式会社アイスタイルは、2025年6月期の通期連結業績予想を売上高640億円、営業利益24億円、経常利益24億円と設定していました。
- 実績と進捗:
- 売上高: 実績687.6億円(計画比107.5%)と超過達成。
- 営業利益: 実績31.6億円(計画比131.9%)と大幅超過達成。
- 経常利益: 実績33.1億円(計画比137.9%)と大幅超過達成。
評価: 今回の実績は、期初計画を大幅に上回る非常に力強いものであり、経営陣の需要予測能力は保守的であったと評価できます。しかし、これはネガティブな意味ではなく、不確実性の高い事業環境下において、堅実な計画を立てていたと解釈できます。特に、リテール事業における「@cosme SPECIAL WEEK」イベントの成功や、店舗の既存店成長が想定を上回ったことが、この大幅な超過達成の主因であると考えられます。
2026年6月期については、売上高830億円、営業利益38億円と、更なる増収増益計画を掲げています。香港旗艦店のオープン前費用など先行投資の負担があるものの、国内事業の継続的な成長とグローバル事業の収益化がこの計画の前提となっています。経営陣は、今回の好調な実績を受けても、安易な計画修正は行わず、中期的な成長基盤構築に向けた投資を継続する姿勢を示しています。この判断は、短期的な利益変動に一喜一憂せず、長期的な企業価値向上を志向する点で妥当であると評価します。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
シナリオ分析(今後12~24ヶ月)
- 強気シナリオ(蓋然性30%):
- 前提条件: マクロ経済の安定、個人消費の堅調な推移、化粧品市場の5%以上の成長。グローバル事業の赤字が想定以上に早く縮小し、香港旗艦店が下期に収益貢献を始める。新規事業「データコンサルティング」が早期にスケールし、高収益に貢献する。
- 予測レンジ: 売上高850~880億円、営業利益42~48億円。
- カタリスト:
- 「@cosme HONG KONG」の黒字化達成を早期にアナウンス。
- 「TOKYO BEAUTY WEEK」が想定を上回る規模で成功し、メディア露出が拡大。
- 大規模なブランドとの「データコンサルティング」契約締結。
- 基本シナリオ(蓋然性60%):
- 前提条件: マクロ経済は横ばい、個人消費は緩やかな成長。国内事業は堅調な成長を維持するが、グローバル事業は依然として赤字が継続。積極的な成長投資により販管費は高止まりするが、売上総利益の増加で相殺される。
- 予測レンジ: 売上高830~850億円、営業利益38~42億円。
- カタリスト:
- リテール事業における新規出店と既存店改装が計画通り進捗。
- 「@cosme SPECIAL WEEK」などのイベントが再び成功し、EC売上を牽引。
- 人材関連費用の増加率が想定を下回る。
- 弱気シナリオ(蓋然性10%):
- 前提条件: マクロ経済の急減速、円高の進行、化粧品市場の成長鈍化。成長投資が先行する一方で、リテール事業の売上が伸び悩み、販管費の増加が利益を圧迫。グローバル事業の赤字が拡大する。
- 予測レンジ: 売上高750~800億円、営業利益28~33億円。
- リスク:
- 景気後退による個人消費の落ち込み。
- 競合他社(EC、SNS)の美容領域への本格的な参入。
- 新規事業への投資が期待した成果を生み出せず、費用だけが先行する。
7. バリュエーション(企業価値評価)
- 相対評価法:
- 競合他社として、D2C支援事業を手掛けるトレンダーズ(6069)、美容専門商社のミルボン(4913)、大手ドラッグストアのマツモトキヨシ(3088)を比較します。
- トレンダーズ(6069):PER約40倍、PBR約10倍
- ミルボン(4913):PER約25倍、PBR約5倍
- マツモトキヨシ(3088):PER約20倍、PBR約3倍
- アイスタイル(3660):FY25実績に基づくPERは約28倍、PBRは約2.5倍。
- 評価: アイスタイルのPERは、成長期待の高いトレンダーズには劣るものの、安定成長のドラッグストアよりは高い水準にあります。PBRは依然として割安感があります。これは、過去の赤字や財務不安定性が市場にディスカウントとして織り込まれている可能性を示唆します。しかし、ROEが想定資本コストを上回る水準まで改善した今、このディスカウントは解消されるべきです。特に、マーケティング支援という高収益事業を持つことから、将来的にはPER、PBRともにプレミアムが付与される余地があると判断します。
- 絶対評価法(簡易DCF):
- 仮定:
- WACC: 8%(株主資本コスト10-11%と負債コスト2-3%を考慮)
- 永久成長率(g): 2%(日本の長期GDP成長率を考慮)
- FCF: FY25の営業CFをベースに、成長投資を差し引いた額を仮定。
- 試算: 上記の仮定に基づき、今後のFCF成長率を考慮すると、現在の株価はほぼ妥当な水準にあると試算されます。市場のコンセンサスも現在の株価水準に収斂していると見られます。ただし、この試算は今後の成長投資の成功を部分的に織り込んでおり、投資の失敗は株価に大きな下押し圧力となるでしょう。
- 仮定:
8. 総括と投資家への提言
株式会社アイスタイルの2025年6月期通期決算は、国内事業の成功が牽引する力強い内容であり、プラットフォーム戦略の有効性が改めて証明されました。特に、ROEが想定資本コストを上回る水準に到達したことは、経営改善の最も重要な成果であり、長期的な企業価値創造への期待を高めます。
しかし、株価評価においては、積極的な成長投資の費用先行や、グローバル事業の赤字という不確実性が依然としてディスカウント要因として存在しています。今後、これらの投資が具体的な収益として結実し、連結利益率のボトムアップが実現すれば、株価は新たな評価フェーズに移行するでしょう。
投資家への提言:
現状では、投資スタンスは「中立」とします。これは、好調な国内事業の成長は高く評価するものの、積極的な投資フェーズにあるため、利益のブレが生じる可能性があり、その投資効果を見極める必要があるためです。
今後、株価動向を監視する上で、以下の最重要KPIとイベントに注視すべきです。
- グローバル事業の四半期別営業損益: 特に下期に収益貢献が期待される香港旗艦店の動向と、事業全体の赤字幅が縮小傾向にあるかを継続的に確認。
- 新規事業「データコンサルティング」の進捗: 成功事例の件数、売上高、そして利益貢献度を注視し、高収益事業の新たな柱が確立されているかを見極める。
- 四半期別の人材関連費用とシステム関連費用の推移: 費用増加が売上増加を上回るペースで進んでいないか、費用対効果が適切に管理されているかをチェック。
- 「ユーザーアクション総数」の月次推移: 中長期成長の源泉となるこのKPIが、プラットフォームの成長とともに継続的に拡大しているかを定期的に確認する。
これらの指標が計画通り、あるいは計画を上回るペースで推移する場合、投資スタンスを「強気」に引き上げることを検討します。