1. エグゼクティブ・サマリー
投資スタンス: 中立、確信度 60%
3行サマリー: 株式会社かんなん丸は、不採算店舗の業態転換と新規出店を進めることで売上高を増加させたものの、減損損失の計上などによる財務的負担が重く、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる状況が継続している 。投資が一巡したことと、既存店強化による収益性改善への取り組みは評価できるが、その効果が本格的に利益に結びつくか不確実性が高く、現時点では慎重な姿勢を維持すべきである 。今後の株価は、既存店の黒字転換の兆しと、財務基盤の安定化に向けた進捗に大きく左右される。
主要カタリストとリスク:
ポジティブ・カタリスト:
- 「じんべえ太郎」業態の収益化: 当社運営店舗で最多となった「じんべえ太郎」のメニュー改善、オペレーション効率化、コスト管理徹底が奏功し、計画を上回る収益改善が実現した場合 。
- 上場維持基準適合への進捗: 流通株式数の増加に向けた取り組みが具体化し、株価の上昇と合わせて上場維持基準の達成が視野に入った場合 。
- 財務安定化の進展: 投資が一巡し、保有現預金水準の維持と長期借入金の更なる返済が進み、自己資本比率の改善が明確になった場合 。
ネガティブ・リスク:
- 「継続企業の前提に関する疑義」の解消遅延: 既存店の業績改善が遅れ、経常利益の黒字転換が実現せず、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象または状況」が解消されない場合 。
- コスト上昇の継続と価格転嫁の失敗: エネルギー・原材料価格の高騰や人件費の増加が続き、それを価格転嫁できず収益性がさらに悪化する場合 。
- 減損損失の追加計上: 収益改善が見込まれない店舗がさらに発生し、減損損失が追加で計上され、財務負担が増大する場合 。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
株式会社かんなん丸は、主に料理飲食事業を展開する企業であり、複数のブランドを運営するフランチャイズ(FC)および独自業態のポートフォリオを構築している 。収益モデルは、非常にシンプルであり、売上は「売上高 = 客単価 × 来客数」で表現できる。このモデルの強みと脆弱性は以下の通りである。
ビジネスモデルの評価:
- 強み(競争優位性):
- 業態ポートフォリオの柔軟性: 複数の業態(大衆割烹、イタリアンキッチン、大衆すし酒場、カラオケ、フィットネスジム)を運営することで、多様な顧客層のニーズに対応し、地域特性に応じた出店戦略を可能にしている 。不採算店舗を他業態に転換することで、事業の最適化を図っている点が強みである 。
- 「じんべえ太郎」の成長: 自社ブランドである「大衆すし酒場 じんべえ太郎」が最多業態となっており、独自の商品開発やオペレーション設計、価格戦略を通じて競争力を高めようとしている 。
- 脆弱性(リスク):
- 価格競争への耐性: 外食業界は競争が激しく、原材料費や人件費の高騰を価格転嫁しにくい環境にある 。特に大衆向けの業態が中心であるため、顧客は価格に敏感であり、値上げは客離れのリスクを伴う。
- 特定ブランドへの依存: 「庄や」「日本海庄や」といったFCブランドへの依存度が高く、FC元の方針変更やブランドイメージの毀損が事業に直接影響するリスクを抱えている 。一方で、自社ブランド「じんべえ太郎」への投資を強化しており、ポートフォリオの健全化を試みている。
競争環境: 外食業界は大手チェーンから個人経営店まで多岐にわたる競合がひしめく激戦区である。同社の主要競合は、同じ大衆酒場や居酒屋、寿司店を展開する上場企業や未上場企業、さらにはテイクアウトやデリバリーといった新たなサービスを提供するプレイヤーも含まれる。同社の強みは、地域に根ざした多業態展開であるが、一方でブランド認知度や資金力では大手チェーンに劣る。特に、原材料や人件費の高騰が続く中、スケールメリットを持たない同社はコスト面で不利な立場にあると言える 。
3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析: 2025年6月期は、売上高が前期比13.5%増の18億7,100万円となり、大幅な増収を達成した 。これは、不採算店舗の業態転換と新規出店が奏功した結果である 。しかし、営業損失は1億3,900万円、経常損失は1億3,600万円、当期純損失は2億1,800万円といずれも損失計上を継続している 。前期比で損失額は縮小したものの、依然として厳しい状況である。
- 営業利益のブリッジ分析(概算):
- 前期営業損失:1億8,000万円
- 変動要因:
- ①売上数量/ミックス変動: 売上高の増加(2億2,200万円増)は主に店舗数の増加と既存店売上の持ち直しによるもの 。売上総利益は1億5,400万円増加しており、これは利益改善に貢献した。
- ②価格/原価率変動: 売上原価率は、売上高の増加率(13.5%)に対し、売上原価の増加率(13.3%)がほぼ同水準であり、原価率そのものに大きな変動はない。しかし、外食業界全体のコスト高を考慮すると、効率的な仕入れやメニュー設計が一定の効果を発揮している可能性がある 。
- ③販管費変動: 販売費及び一般管理費は前期比1億1,300万円増の14億3,500万円 。給料及び手当、法定福利費、地代家賃、減価償却費などの固定費が増加しており、新規出店や業態転換に伴うコスト増が営業損失の縮小幅を限定した 。
- 当期営業損失: 1億3,900万円
- 分析: 増収効果による粗利益の改善が、販管費の増加を上回ったため、営業損失は縮小した。しかし、販管費の増加は恒常的な費用増であり、今後も収益性を圧迫する要因となりうる。
- 収益性の深掘り:
- 粗利率は前期の約69.2%から当期は約69.2%とほぼ横ばい 。原材料費やエネルギーコストの上昇が続く中、この粗利率を維持していることは、メニューの適正化やコスト管理が一定の効果を上げていることを示唆する 。
- 営業利益率は、前期の△11.0%から当期の△7.5%へと改善 。しかし、この改善は売上増によるレバレッジ効果が主であり、依然として絶対的な収益性は低い。今後、既存店の売上増加とコスト削減がさらに進まない限り、黒字化は困難な状況にある。
B/S分析:
- 財政状態:
- 総資産は前期末の17億8,200万円から15億3,900万円に減少 。これは主に現金及び預金の減少(2億5,000万円減)によるものである 。
- 純資産は前期末の6億4,900万円から4億2,600万円に大幅減少 。主な要因は当期純損失2億1,800万円の計上である 。
- 自己資本比率は前期末の36.5%から27.7%へ悪化 。純資産の減少が直接的な要因であり、財務の健全性は低下傾向にある。
- 運転資本の分析:
- 売上債権回転日数(DSO):
- 2024年6月期:(41,761千円 / 1,649,628千円) * 365 = 約9.2日
- 2025年6月期:(46,914千円 / 1,871,516千円) * 365 = 約9.1日
- ほぼ横ばいで、売上債権の回収期間に大きな変化はない。
- 棚卸資産回転日数(DIO):
- 2024年6月期:(12,917千円 / 508,583千円) * 365 = 約9.3日
- 2025年6月期:(14,456千円 / 575,944千円) * 365 = 約9.2日
- こちらもほぼ横ばい。飲食業の特性上、在庫回転は速い。
- 仕入債務回転日数(DPO):
- 2024年6月期:(42,669千円 / 508,583千円) * 365 = 約30.6日
- 2025年6月期:(47,086千円 / 575,944千円) * 365 = 約29.8日
- こちらも大きな変動はない。
- CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル):
- 2024年6月期:9.2日 + 9.3日 – 30.6日 = -12.1日
- 2025年6月期:9.1日 + 9.2日 – 29.8日 = -11.5日
- 考察: 同社のCCCはマイナスであり、これは運転資本が効率的に管理されていることを示唆する。顧客から現金を得る前に仕入業者への支払いを済ませる必要がないため、運転資金の負担が少ない優良なビジネスモデルである。ただし、これは飲食業という業界の特性によるものであり、他業種との比較には注意が必要である。
- 売上債権回転日数(DSO):
キャッシュフロー(C/F)分析:
- 営業活動によるキャッシュ・フロー(CF): 前期は4億8,800万円のプラスであったのに対し、当期は△5,300万円と大幅なマイナスに転じた 。これは、税引前当期純損失の拡大(前期1億9,800万円→当期2億700万円)、そして前期に計上された補助金収入5,200万円や保険解約返戻金7,700万円といった一時的な収入が剥落したことが主因である 。
- 投資活動によるCF: 前期は△3億1,600万円の支出であったが、当期は△1億400万円の支出に縮小 。これは、前期に積極的に行われた有形固定資産の取得(2億6,900万円)が一巡し、当期は支出が1億1,400万円に減少したことが主な理由である 。投資フェーズから、回収フェーズへと移行しつつあることが示唆される。
- 財務活動によるCF: 前期は2億6,400万円の収入であったが、当期は△4,300万円の支出に転じた 。前期は短期借入金や長期借入金の調達(合計5億円)が資金源であったが、当期は長期借入金の返済(5,000万円)が支出の主因となった 。
- 考察: 営業CFのマイナス転落は極めて深刻な事態である。本業で資金を生み出せておらず、投資が一巡したにもかかわらず、手元の現金及び現金同等物は2億900万円減少している 。これは財務基盤の弱体化を意味し、継続企業の前提に関する疑義を裏付ける事実である。
資本効率性の評価:
- ROICとWACC:
- ROIC(投下資本利益率)は、NOPAT(税引後営業利益)を投下資本で割って計算される。当社の2025年6月期営業利益は△1億3,900万円であり、NOPATも大幅なマイナスとなる 。投下資本も相応にあるため、ROICは大きくマイナスであると推定される。
- WACC(加重平均資本コスト)は、株主資本コストと負債コストの加重平均である。同社は長期借入金や短期借入金があるため負債コストは発生しており、株主資本コストもリスクの高い企業として高くなる傾向がある。
- 結論: ROIC < WACCの状況が続いており、同社は企業価値を破壊していると判断せざるを得ない。この状況を反転させるためには、抜本的な収益改善が不可欠である。
- ROEのデュポン分解:
- ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
- 2024年6月期:ROE = (△206,628千円 / 1,649,628千円) × (1,649,628千円 / 1,782,578千円) × (1,782,578千円 / 649,873千円) = △12.5% × 0.925 × 2.74 = △31.7%
- 2025年6月期:ROE = (△218,524千円 / 1,871,516千円) × (1,871,516千円 / 1,539,769千円) × (1,539,769千円 / 426,215千円) = △11.7% × 1.215 × 3.61 = △51.3%
- 分析: 純損失が拡大したにもかかわらず、純利益率の悪化幅は限定的であったが、純資産の減少により財務レバレッジが大幅に上昇した結果、ROEはさらに悪化した。これは、企業がリスクの高い財務構造に陥っていることを示唆する。
4. セグメント情報の徹底解剖
- 料理飲食事業: 売上高は前期比11.9%増の18億2,900万円 。セグメント利益は6,100万円と、前期の2,000万円から大幅な増益を達成した 。これは、不採算店舗の業態転換(特に「じんべえ太郎」)が売上に貢献し、利益構造の改善に寄与したことを示している 。
- その他(FURDI事業): 売上高は前期比196.3%増の4,200万円と急増している 。しかし、セグメント損失は△1,600万円と、前期の△1,800万円から損失幅は縮小したものの、依然として赤字である 。
- ポートフォリオ・マネジメントの評価: 経営陣は、収益性の低い店舗を積極的に「じんべえ太郎」や「VANSAN」といった成長性の高いブランドに転換し、ポートフォリオの最適化を進めている 。料理飲食事業が利益を生み出し始めたことは、この戦略が一定の成果を上げていることの証明である。一方で、「その他」に分類される「FURDI」事業は、売上は伸びているものの依然として赤字であり、今後の収益化に向けた明確な道筋が見えない点が懸念される 。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
- 2026年6月期業績予想: 同社は2026年6月期について、売上高20億5,000万円、経常利益900万円、当期純利益500万円の黒字化を見込んでいる 。
- 経営判断の妥当性: 今回の決算では、売上高は増加したものの、減損損失計上や営業CFのマイナス転落など、財務基盤の弱体化が明確になった。このような状況下でも、同社は2026年6月期の黒字化計画を据え置いた。この判断は、投資が一巡し、今後は既存店テコ入れとコスト管理の徹底により、収益が改善していくという強い自信の表れと捉えることもできる 。しかし、過去の計画達成状況を鑑みると、この予測は楽観的である可能性も否定できない。特に、継続企業の前提に関する疑義が払拭されていない状況で、黒字化への確固たる道筋を示すには、より詳細で具体的な施策と数値目標の提示が求められる。経営陣の需要予測能力は、これまでの実績から見ると慎重に評価すべきであり、今後の計画進捗を厳しく監視する必要がある。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
- 強気シナリオ(確率20%):
- 前提: 「じんべえ太郎」や「VANSAN」といった成長ブランドの既存店売上が予想を上回るペースで伸長し、メニュー改定やオペレーション効率化が奏功。原材料費や人件費の高騰を価格転嫁し、コスト管理も徹底される。結果として、2026年6月期の黒字化計画を早期に達成し、営業CFもプラスに転換する。上場維持に向けた取り組みも進捗し、投資家からの評価が高まる。
- 売上・利益レンジ: 売上高21億円~22億円、営業利益1,000万円~3,000万円。
- カタリスト: 既存店売上のV字回復、コスト削減策の具体的な成果発表、上場維持に向けたポジティブなIR。
- 基本シナリオ(確率60%):
- 前提: 業態転換と既存店強化の効果は限定的。売上高は微増にとどまり、コスト高の影響を十分に吸収できない。減損損失の追加計上はないものの、黒字化計画は達成できず、営業損失は継続する。財務基盤の弱体化は続くが、緊急的な資金繰りの問題は発生しない。
- 売上・利益レンジ: 売上高20億円~21億円、営業損失△5,000万円~△10,000万円。
- カタリスト: 特になし。ネガティブ・リスクが顕在化しないこと自体がプラスに働く可能性。
- 弱気シナリオ(確率20%):
- 前提: 既存店の売上回復が滞り、客足が遠のく。原材料費や人件費の高騰が収まらず、収益性がさらに悪化。収益改善の見通しが立たない店舗が増加し、大規模な減損損失が追加で計上される。資金繰りが悪化し、財務安定化に黄信号が灯る。
- 売上・利益レンジ: 売上高18億円~20億円、営業損失△1億5,000万円以上。
- リスク: 既存店売上の低迷、コスト高の継続、減損損失の追加計上、資金繰りの悪化。
7. バリュエーション(企業価値評価)
- 相対評価法:
- 同社は現在赤字であり、PER(株価収益率)は算出不能である。PBR(株価純資産倍率)は、純資産が大幅に減少したことにより、前期末の株価(終値553円、自己株式を除く発行済株式数3,811,506株)を基に計算すると、時価総額21.08億円 / 純資産6.49億円 = 約3.2倍 。しかし、当期末の株価(終値451円、自己株式を除く発行済株式数3,811,485株)を基に計算すると、時価総額17.18億円 / 純資産4.26億円 = 約4.0倍となる 。これは、赤字企業としては非常に高い水準であり、割高感がある。
- 同業他社と比較すると、多くの飲食業が黒字を達成している中、同社は赤字であり、財務健全性も低い。このため、同社の株価は同業他社に対してディスカウントされるべきであると考える。現在のPBR水準は、将来の黒字化期待を織り込んでいる可能性が高いが、財務リスクを考慮すると割高と評価する。
- 絶対評価法:
- 同社は現在赤字であり、かつ将来のキャッシュフロー予測の不確実性が高いため、DCF法による理論株価の算出は現実的ではない。将来の収益が安定的にプラスに転じない限り、企業価値を正しく評価することは困難である。
8. 総括と投資家への提言
株式会社かんなん丸は、不採算店舗の業態転換と新規出店により増収を実現し、料理飲食事業では利益を創出するなど、事業再構築への努力は評価できる 。しかし、減損損失の計上による財務負担、営業CFのマイナス転落、そして「継続企業の前提に関する疑義」の継続は、投資家にとって看過できないリスクである 。
投資スタンスは**「中立」**である。経営陣が掲げる2026年6月期の黒字化計画は、現時点では不確実性が高い。投資家は、計画の達成可能性を判断するために、以下のKPIやイベントを注視すべきである。
- 最重要KPI:
- 四半期ごとの営業利益の推移: 計画達成に向け、営業損失の縮小ペースが加速しているか、または黒字転換の兆しが見えるか。
- 既存店売上の動向: 新規出店効果だけでなく、既存店のリバイバルが本当に収益改善に繋がっているか。
- 現金及び現金同等物の残高: 営業CFのマイナスが継続する中、保有現預金がどこまで維持できるか。
- 今後の注目イベント:
- 2026年6月期第1四半期決算の進捗状況と、経営陣からの業績見通しに関するコメント。
- 上場維持基準適合に向けた具体的な施策と進捗状況の発表。
現時点では、事業再構築の途上であり、不確実性が高いため、積極的な投資は推奨しない。しかし、計画通りに黒字化が実現すれば、株価は大きく上昇する可能性があるため、今後の動向を慎重にウォッチしていくべき銘柄である。