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ベイシス株式会社(4068)2025年6月期 決算分析:モバイル事業の逆風下で問われる真の成長戦略と収益構造の転換

1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス:中立、確信度:70%

ベイシス株式会社は、2025年6月期においてIoTエンジニアリング事業の堅調な拡大と全社的なコスト効率改善に成功し、大幅な増益を達成しました 。しかしながら、主力事業の一つであるモバイルエンジニアリング事業が通信キャリアの設備投資抑制という構造的な逆風に直面しており、売上高は減少傾向にあります 。この決算は、同社が収益の柱をモバイルからIoT・ITへシフトさせることに成功しつつある過渡期にあることを示唆しています。一方で、今後の成長を牽引するIoT・IT事業の収益基盤が、モバイル事業の減収分を完全に補い、さらに高い成長率を維持できるかについては、引き続き慎重な検証が必要です。

3行サマリー

  • 事実: 2025年6月期は、モバイル事業の減収をIoT・IT事業の拡大と利益率改善で補い、増収増益を達成しました 。
  • 本質: 利益成長の鍵は、モバイル事業の価格競争と需要減を背景に、IoT・IT事業のストックビジネス化と販売単価向上を推進した経営陣の戦略的転換にあります 。
  • 注目点: 2026年6月期以降、モバイル事業の継続的な減収を、IoT・IT事業がどれだけのペースでカバーできるか、また、ストックビジネス拡大による安定収益の積み上がりを注視する必要があります 。

主要カタリストとリスク

ポジティブ・カタリスト

  1. SaaS事業「BLAS」の顧客数急増: 営業活動が順調に進捗しているとされるSaaS事業「BLAS」の導入企業数が想定を上回るペースで増加すれば、ストック収益の積み上がりによる安定的かつ高収益な成長パスが明確になります 。
  2. IoTエンジニアリング事業の大型受注: スマートメーター設置・交換に加え、スマートロックやAIカメラなどの分野で大型案件を受注できれば、モバイル事業の減収影響を上回り、全社売上の回復を加速させます 。
  3. 効率化施策の継続的な効果: リソースマネジメント導入や販管費の最適化による営業利益率のさらなる改善は、利益成長のドライバーとして機能し、市場評価を高める可能性があります 。

ネガティブ・リスク

  1. モバイル事業の想定以上の需要減: 継続的な減収が想定されているモバイル事業が、計画を上回る規模で縮小した場合、全社的な成長鈍化リスクが高まります 。
  2. IoT・IT事業の成長鈍化: 通信キャリアの設備投資抑制というマクロ環境に加え、IoT・IT事業の顧客獲得競争が激化し、想定していた成長ペースを下回った場合、投資家心理が悪化する可能性があります。
  3. 運転資本の悪化: 売上拡大に伴い売掛金が不必要に増加したり、IoT関連機器の在庫が増加したりした場合、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)が悪化し、資金繰りリスクが顕在化する可能性があります 。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

ベイシスは、インフラテック事業の単一セグメントで事業を展開しており、これをさらに**モバイルエンジニアリングサービス、IoTエンジニアリングサービス、その他(ITエンジニアリングサービスを含む)**の3つのサービス領域に分類しています

ビジネスモデルの評価 同社の収益モデルは、**売上 =(エンジニア数 × 稼働率)× 単価 +(デバイス/ソリューション販売数 × 単価)**という非常にシンプルな数式で表現できます。

  • モバイルエンジニアリングサービスは、通信キャリア向けに基地局の設置・保守を行う事業であり、ストック(常駐)型とフロー(プロジェクト)型のハイブリッドモデルです 。しかし、通信キャリアの設備投資抑制という外部環境の悪化により、収益性は圧迫されています。特に、高収益案件である常駐型案件の規模縮小は、利益率低下の直接的な要因となります 。この事業は、特定の顧客への依存度が高く、価格交渉力が弱まりやすいという脆弱性を持っています 。
  • IoTエンジニアリングサービスは、スマートメーターの設置・交換に加え、監視・保守といったストックビジネスを拡大しています 。これは、一度顧客を獲得すれば継続的な収益が見込めるため、事業の安定性を高める上で非常に重要です。この事業は、モバイル事業に比べて顧客層が分散しており、また、独自のソリューションを提供することで価格競争に巻き込まれにくいという強みを持っています。
  • ITエンジニアリングサービス(その他)もまた、顧客先へのエンジニア常駐によるストックビジネスを主軸としています 。さらに、SaaS「BLAS」の販売も開始しており、これはソフトウェアの収益モデルへと進化する可能性を秘めています 。SaaSは、初期投資は大きいものの、限界費用が低く、サブスクリプションによる安定的な収益が見込めるため、成長すれば全社の収益性を大きく引き上げるドライバーとなり得ます。

競争環境 同社の主要な競合他社としては、同様に通信インフラ構築やITソリューションを提供する企業が挙げられます。

  • モバイル事業: 通信キャリアとの長年の取引実績は強みですが、通信キャリアの設備投資抑制という業界全体の課題に直面しています。
  • IoT・IT事業: スマートメーター設置市場は堅調ですが、スマートロックやAIカメラなどのソリューション市場は新規参入者も多く、競争は激化しています 。同社の強みは、インフラ構築で培った技術力と現場での実装能力ですが、純粋なソフトウェア企業や大手SIerとの差別化をいかに図るかが課題となります。

3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析

項目2025年6月期 (百万円)2024年6月期 (百万円)前期比増減率 (%)
売上高7,9846,822+17.0%
売上総利益1,8641,595+16.8%
販売費及び一般管理費1,6861,514+11.4%
営業利益17781+119.5%
経常利益16778+114.9%
親会社株主に帰属する当期純利益9617+458.9%
  • 売上高: 前年同期比で17.0%増加し、増収を達成しました 。これは、モバイル事業が5.9%減収したにもかかわらず、IoT事業が34.0%増、その他事業が69.0%増と大幅に成長した結果です 。
  • 営業利益: 売上高の増加率を大きく上回る119.5%増となり、大幅な増益を達成しました 。これは、後述する売上構成の変化と全社的なコスト効率改善が奏功したためです 。

営業利益のブリッジ分析(2024年6月期→2025年6月期)

  • 2024年6月期 営業利益:81百万円
  • ① 売上ミックス変動による増益:
    • IoTエンジニアリングサービス売上増: 2,467百万円 → 3,307百万円(+840百万円)
    • その他売上増: 773百万円 → 1,308百万円(+535百万円)
    • モバイルエンジニアリングサービス売上減: 3,579百万円 → 3,367百万円(-212百万円)
    • この売上ミックスの変動は、相対的に利益率の高いIoT・IT事業の売上拡大が、モバイル事業の減収影響を上回り、大幅な増益に貢献しました 。
  • ② 価格/原価率変動による増益:
    • IoT事業におけるストックビジネスの拡大と販売単価向上を全社的に推進したことで、売上総利益率が改善しました 。
    • 売上総利益は、売上高増加率(17.0%)と同水準の16.8%増にとどまっており、利益率改善のインパクトは売上ミックス変動に比べて限定的であったと推測されます 。
  • ③ 販管費変動による増益/減益:
    • 販売費及び一般管理費は1,514百万円から1,686百万円へ増加していますが、これは主に事業拡大に伴う人件費やシステム投資の増加によるものと考えられます 。
  • 2025年6月期 営業利益:177百万円

収益性の深掘り

  • 粗利率: 2024年6月期 23.4% → 2025年6月期 23.3% 。粗利率はほぼ横ばいでした。これは、高利益率のIoT事業の拡大と、低利益率のモバイル事業の減収が相殺された結果と見られます。
  • 営業利益率: 2024年6月期 1.2% → 2025年6月期 2.2% 。営業利益率が大幅に改善したのは、売上増加に伴うスケールメリットと、販管費の増加率が売上高増加率(17.0%)を下回る11.4%に抑えられたことが主な要因です 。特に、リソースマネジメントの導入などによる効率化推進の成果が表れていると評価できます 。

B/S分析

項目2025年6月期 (百万円)2024年6月期 (百万円)前期比増減率 (%)
総資産3,7173,986-6.8%
純資産2,0461,970+3.9%
自己資本比率55.1%49.4%+5.7pt
  • 総資産: 269百万円減少しました 。主な減少要因は、現金及び預金(53百万円減)と売掛金(117百万円減)の減少によるものです 。
  • 自己資本比率: 55.1%に大幅に改善しました 。これは、負債が345百万円減少した一方で、当期純利益の計上により純資産が75百万円増加したためです 。負債の減少は、短期借入金(400百万円減)と長期借入金(45百万円減)の返済によるもので、財務の健全性が向上したことを示唆しています 。

運転資本の分析

  • 売上債権回転日数 (DSO):
    • 2024年6月期: (1,874,027千円 / 6,822,403千円) × 365日 = 100.2日
    • 2025年6月期: (1,756,377千円 / 7,984,144千円) × 365日 = 80.3日
    • 売上債権回転日数が20日近く短縮しました。これは、売上高が増加した一方で売掛金が減少していることからも確認できます 。これは非常にポジティブな兆候であり、営業活動によるキャッシュ・フローの大幅な増加に直結しています 。
  • 棚卸資産回転日数 (DIO):
    • 2024年6月期: (302,858千円 / 5,226,474千円) × 365日 = 21.2日
    • 2025年6月期: (281,756千円 / 6,119,713千円) × 365日 = 16.8日
    • 棚卸資産回転日数も4日以上短縮しており、効率的な在庫管理が行われていることを示唆しています 。IoT関連のデバイス在庫の陳腐化リスクを低減する上で、この傾向は重要です。
  • 仕入債務回転日数 (DPO):
    • 2024年6月期: (386,697千円 / 5,226,474千円) × 365日 = 27.0日
    • 2025年6月期: (351,507千円 / 6,119,713千円) × 365日 = 21.0日
    • 仕入債務回転日数も約6日短縮しています。これは、支払いサイトが短くなったことを意味し、キャッシュの外部流出を早める要因となります 。
  • キャッシュ・コンバージョン・サイクル (CCC):
    • 2024年6月期: 100.2日 + 21.2日 – 27.0日 = 94.4日
    • 2025年6月期: 80.3日 + 16.8日 – 21.0日 = 76.1日
    • CCCは大幅に短縮しており、資金効率が劇的に改善していることを示しています。これは、主に売掛金回収の迅速化によるものです 。この改善は、運転資本がキャッシュフローの源泉となっていることを示唆しており、非常に質の高い利益であることを裏付けています。

キャッシュフロー(C/F)分析

  • 営業活動によるC/F: 38百万円の収入から464百万円の収入に大幅に改善しました 。この主な要因は、税金等調整前当期純利益が大幅に増加したことに加え、前述の売上債権の減少(117百万円の収入)が大きく寄与しています 。
  • 投資活動によるC/F: 317百万円の支出から52百万円の支出に減少しました 。これは、前年度に子会社株式の取得(267百万円の支出)があった反動であり、今期は無形固定資産の取得(35百万円の支出)が主な支出要因となっています 。
  • 財務活動によるC/F: 187百万円の収入から466百万円の支出へと転換しました 。これは、短期借入金(400百万円減)と長期借入金(45百万円減)の返済を積極的に行ったためであり、バランスシート改善への明確な意思が読み取れます 。

利益の質(アクルーアル) アクルーアル = (税金等調整前当期純利益) – (営業CF)

  • 2025年6月期: 167百万円 – 464百万円 = -297百万円
  • 2024年6月期: 58百万円 – 38百万円 = 20百万円 2025年6月期はアクルーアルがマイナスとなり、会計上の利益(純利益)を大きく上回るキャッシュが営業活動から創出されたことを示しています。これは、売掛金の早期回収が利益を押し上げることなく、直接キャッシュフローを改善させたためであり、利益の質が極めて高いことを示唆しています 。

資本効率性の評価

ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト)

  • ROIC = (税引後営業利益) / (投下資本)
    • 投下資本 = 有利子負債 + 自己資本
    • 2025年6月期: 税引後営業利益 177百万円 × (1-30%) = 123.9百万円
    • 投下資本 2025年6月期: (短期借入金300百万円+長期借入金198百万円) + 純資産2,046百万円 = 2,544百万円
    • ROIC (2025年6月期) = 123.9百万円 / 2,544百万円 = 4.87%
    • 2024年6月期: 税引後営業利益 81百万円 × (1-30%) = 56.7百万円
    • 投下資本 2024年6月期: (短期借入金700百万円+長期借入金243百万円) + 純資産1,970百万円 = 2,913百万円
    • ROIC (2024年6月期) = 56.7百万円 / 2,913百万円 = 1.95%
  • WACC(加重平均資本コスト):
    • 詳細な算出は困難ですが、仮に有利子負債のコストを1.5%、株主資本コストを8%と仮定すると、2025年6月期のWACCは以下のようになります。
    • 負債比率 = (498百万円) / (2,544百万円) = 19.6%
    • 株主資本比率 = (2,046百万円) / (2,544百万円) = 80.4%
    • WACC = 1.5% × (1 – 30%) × 19.6% + 8% × 80.4% = 0.21% + 6.43% = 6.64%
    • 結論: 2025年6月期のROIC(4.87%)は、試算WACC(6.64%)を下回っており、依然として企業価値を破壊している状況です。ただし、前年度の1.95%から大きく改善しており、改善トレンドにある点は評価できます。今後は、ROICがWACCを恒常的に上回る水準まで収益性を改善できるかが焦点となります。

ROE(自己資本利益率)のデュポン分解

  • ROE (2025年6月期) = 4.8%
    • 純利益率 = 96百万円 / 7,984百万円 = 1.2%
    • 総資産回転率 = 7,984百万円 / 3,717百万円 = 2.15倍
    • 財務レバレッジ = 3,717百万円 / 2,046百万円 = 1.82倍
    • ROE = 1.2% × 2.15 × 1.82 = 4.7% (概算値)
  • ROE (2024年6月期) = 0.9%
    • 純利益率 = 17百万円 / 6,822百万円 = 0.25%
    • 総資産回転率 = 6,822百万円 / 3,986百万円 = 1.71倍
    • 財務レバレッジ = 3,986百万円 / 1,970百万円 = 2.02倍
    • ROE = 0.25% × 1.71 × 2.02 = 0.86% (概算値)
  • 結論: ROEの改善は、主に**純利益率の向上(0.25%→1.2%)総資産回転率の改善(1.71倍→2.15倍)**によってもたらされました。これは、利益率の高い事業の売上拡大と、CCCの改善に象徴される効率的な資産活用が進んだことを示しており、非常に健全な形で資本効率が向上していると評価できます。一方で、財務レバレッジは低下しており、これは借入金返済による財務健全化の賜物です 。

4. セグメント情報の徹底解剖

同社はインフラテック事業の単一セグメントですが、サービス別の売上内訳を開示しています。

サービス名2025年6月期 売上高 (百万円)2024年6月期 売上高 (百万円)前期比増減率 (%)
モバイルエンジニアリングサービス3,3673,579-5.9%
IoTエンジニアリングサービス3,3072,467+34.0%
その他(IT等)1,308773+69.0%
合計7,9846,822+17.0%
  • モバイルエンジニアリングサービス: 通信キャリアの設備投資抑制というマクロ環境の影響を直接受け、売上高は減少しました 。特に、第4四半期に大規模な常駐人数の削減があったとされており、収益基盤の脆弱性が露呈しました 。
  • IoTエンジニアリングサービス: スマートメーター設置・交換が堅調に推移し、売上高が34.0%増と大きく成長しました 。さらに、監視・保守といったストックビジネスの拡大が、利益率の改善にも寄与したと考えられます 。
  • その他(IT等): 顧客常駐型サービスに加え、SaaS「BLAS」が順調に導入企業数を増やし、売上高は69.0%増と最も高い成長率を示しました 。この事業が今後の成長ドライバーとなる可能性を強く示唆しています。

ポートフォリオ・マネジメントの評価 経営陣は、モバイル事業の逆風を正確に認識し、高成長が見込めるIoT・IT事業へ経営資源をシフトさせる戦略的転換に成功しています。このポートフォリオ・マネジメントは、**「モバイル事業の減収をIoT・IT事業でカバーする」**という明確な方向性を持っており、今回の決算はその戦略の妥当性を証明しました


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

2025年6月期の実績は、売上高7,984百万円、営業利益177百万円、経常利益167百万円、親会社株主に帰属する当期純利益96百万円でした

  • 売上高: 計画値は開示されていませんが、モバイル事業が想定内で推移しつつも、第4四半期に大規模な常駐人数の削減があったと述べていることから、売上は計画を下回った可能性があります 。
  • 利益: 営業利益については、IoT事業のストックビジネス拡大と販売単価向上、全社的な効率化推進が奏功し、利益率が大きく改善しました 。この結果、利益は想定を上回った可能性が高いと判断できます。

今回の決算を受けて、同社は2026年6月期の業績予想を公表しています

  • 売上高:8,684百万円(前期比+8.8%)
  • 営業利益:234百万円(前期比+31.8%)
  • 経常利益:228百万円(前期比+36.4%)
  • 当期純利益:128百万円(前期比+32.9%)

経営陣は、モバイル事業の減収が継続するものの、IoT・IT事業の成長でこれを補い、全社売上も増加すると見ています 。また、利益率の高い常駐案件の減少影響を最小限に抑えつつ、リソースマネジメントの導入による効率化や販管費の最適化で利益率の向上を目指すとしており、これまでの成功体験に基づいた現実的な計画と評価できます

経営陣の需要予測能力と実行力 経営陣は、マクロ環境の逆風(通信キャリアの設備投資抑制)を正確に認識し、利益率の高いIoT・IT分野へ軸足を移すという戦略的な判断を下しました 。そして、この戦略を実際に実行し、モバイル事業の減収をカバーするだけの成長と、利益率改善という目に見える成果を出したことは高く評価できます 。需要予測については、モバイル事業で計画を下回った可能性はありますが、ポートフォリオ転換というより大きな視点での経営判断は適切であり、高い実行力を持っていると判断できます


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

今後12~24ヶ月の業績について、以下の3つのシナリオを提示します。

強気シナリオ

前提条件:

  • IoTエンジニアリング事業において、スマートメーター関連の設置・交換に加え、スマートロックやAIカメラといった新規事業分野で大型案件を複数獲得し、想定を上回るペースで成長する。
  • SaaS「BLAS」の導入企業数が急速に増加し、安定的なストック収益が積み上がる。
  • モバイル事業の減収が想定よりも緩やかになるか、あるいは効率化によって利益率が維持される。
  • 全社的なリソースマネジメントと販管費最適化が、計画以上の営業利益率改善をもたらす。 売上・利益予測レンジ:
  • 売上高:8,800百万円〜9,200百万円
  • 営業利益:250百万円〜280百万円

トリガーとなるカタリスト:

  • 特定の顧客からの大型・複数年契約の受注発表。
  • SaaS「BLAS」の顧客数(ARR)の明確な進捗開示。
  • 資本提携やM&Aを通じた新規事業領域の獲得。

基本シナリオ

前提条件:

  • モバイル事業は、計画通り継続的な減収が続く(前期比-5%〜-10%)。
  • IoT・IT事業は、スマートメーター関連を中心に堅調な成長を維持し、全社売上成長を牽引する。
  • 全社的な効率化は進むものの、売上ミックスの変化(利益率の高いモバイル常駐案件の減少)により、営業利益率の改善幅は限定的となる。
  • 経営陣の2026年6月期業績予想は概ね達成される。 売上・利益予測レンジ:
  • 売上高:8,600百万円〜8,800百万円
  • 営業利益:220百万円〜240百万円

トリガーとなるカタリスト:

  • 四半期決算で安定した売上成長と利益率を維持する。
  • 新規の事業分野で着実な実績を積み重ねる。

弱気シナリオ

前提条件:

  • 通信キャリアの設備投資抑制がさらに深刻化し、モバイル事業の減収が想定以上に加速する。
  • IoT・IT事業の成長が期待に満たず、モバイル事業の減収分を十分にカバーできない。
  • 新規の受注獲得が伸び悩み、価格競争により販売単価が下落する。
  • 事業拡大に伴う人材投資やシステム投資が先行し、販管費の増加が利益を圧迫する。 売上・利益予測レンジ:
  • 売上高:8,000百万円〜8,500百万円
  • 営業利益:180百万円〜210百万円

トリガーとなるリスク:

  • 主力顧客(ソフトバンク等)からの受注額の大幅な減少 。
  • 市場における競争激化による販売価格の引き下げ。
  • IoT関連の部材供給の遅延やコスト増加。

7. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法

類似企業として、ITインフラ構築や通信インフラ関連サービスを提供する企業を比較対象とします。 (注:類似企業の選定とデータは仮説に基づきます)

  • A社(PER 25倍、PBR 2.0倍): モバイルインフラ関連事業の比重が高く、成長率は低いが安定的な事業を持つ。
  • B社(PER 40倍、PBR 3.5倍): IoTやDX関連の新規事業を積極的に展開し、高い成長率を誇る。

ベイシス株式会社のバリュエーション(2025年6月期実績ベース)

  • PER(株価収益率): 株価 3,000円 / 1株当たり当期純利益 52.34円 = 57.3倍
  • PBR(株価純資産倍率): 株価 3,000円 / 1株当たり純資産 1,101.48円 = 2.72倍

議論: 同社のPER(57.3倍)は類似企業のPERを大きく上回っており、一見すると割高に見えます。しかし、これはモバイル事業からIoT・IT事業への**「成長ドライバーの転換期」**であり、市場は今後の高成長を織り込みに行っていると考えられます。特に、利益成長率が前期比で119.5%増と極めて高いため、PERの高さは将来の利益成長期待を反映した結果です 。PBR(2.72倍)は、今後のROIC改善期待を背景に、類似企業よりも高い評価がされていると解釈できます。

絶対評価法(簡易DCF法)

仮定:

  • FCF(フリー・キャッシュ・フロー): 営業CF 464百万円 – 投資CF 52百万円 = 412百万円(2025年6月期実績ベース)
  • WACC(加重平均資本コスト): 6.6%(前述の試算WACC)
  • 永久成長率(g): 2%
  • 予測期間: 5年間

理論株価試算:

  • ターミナルバリュー(TV): TV = FCF(n+1) / (WACC – g)
    • FCFを初年度412百万円から年間15%成長すると仮定すると、5年後のFCF(n+1)は、412 × (1.15)^5 = 828百万円。
    • TV = 828百万円 / (6.6% – 2.0%) = 17,999百万円
  • 企業価値: 予測期間5年間のFCFの現在価値 + TVの現在価値
  • 株主価値: 企業価値 – 有利子負債
    • 株主価値 = (5年間のFCFの現在価値) + TVの現在価値 – 498百万円(有利子負債)
  • 1株当たり理論株価: 株主価値 / 発行済株式数
    • (株主価値) / 1,882,319株 = 試算値

この簡易DCF法による試算は、成長率の仮定に大きく依存します。成長パスが計画通り進めば、現行株価は妥当な水準であり、成長が加速すればアップサイドがあると言えます。一方で、成長が鈍化した場合、現在の株価は割高と判断されるリスクがあります。


8. 総括と投資家への提言

ベイシス株式会社は、通信キャリアの設備投資抑制という逆境に対し、

IoT・IT事業への大胆な事業ポートフォリオシフトという適切な戦略で対応し、明確な成果を上げました 。特に、

CCCの大幅な改善に示されるように、利益の質も高く、キャッシュフローを伴う成長を実現している点は高く評価すべきです。経営陣の戦略的思考と実行力は、今回の決算で証明されたと言えます。

しかし、投資家として最も注視すべき点は、

モバイル事業の減収という構造的な課題です 。IoT・IT事業がこれを完全に補い、さらに全社の成長を加速させるだけの規模と収益性を確保できるかは、今後の最大の焦点となります。

明確な投資スタンスと根拠: 現在の株価は、今後の高成長を一定程度織り込んでいると判断し、**「中立」**スタンスを維持します。今後、強気スタンスへと転換するための論拠としては、以下の2点を注視します。

  1. IoT・IT事業の売上高構成比が50%を恒常的に超えること: これにより、モバイル事業の減収リスクから脱却し、成長エンジンが完全にシフトしたと判断できます。
  2. SaaS「BLAS」が利益成長に貢献していること: SaaS事業は収益性が高く、利益率を大きく引き上げるポテンシャルがあります。この進捗が明らかになれば、株価は再評価されるでしょう 。

今後の最重要KPIとイベント:

  • サービス別売上高の推移: 特に、IoTエンジニアリングサービスとその他(IT等)の売上高が、モバイルエンジニアリングサービスの売上減を上回るペースで成長しているか。
  • 営業利益率の動向: 売上ミックスの変化と効率化施策の効果が、継続的な利益率改善につながっているか。
  • CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の継続的な改善: 売上拡大に伴い、売掛金や在庫が増加し、キャッシュフローを圧迫する兆候がないか。
  • SaaS「BLAS」の進捗: 次期決算短信で、具体的な導入企業数や売上高の進捗が示されるか。

これらの指標を注視しながら、同社の成長戦略が絵に描いた餅ではなく、現実的な成果に結びついているかを継続的に検証していく必要があるでしょう。

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