1. エグゼクティブ・サマリー
投資スタンス:中立、確信度 60%
株式会社フレンドリーの2026年3月期第1四半期決算は、前年同期の赤字から黒字へと転換した点で、一見するとポジティブな兆候を示しています 。しかし、その財務体質は依然として脆弱であり、特に継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる状況は解消されていません 。営業利益はかろうじて黒字を確保したものの、その背景にはコストコントロールの努力が見られる一方で、事業の構造的な課題は未だ解決に至っていないと判断します。現時点では、経営再建への道筋は示されているものの、その実行の確実性を評価するには情報が不足しており、積極的な投資は控えるべきとの見方から、投資スタンスは「中立」とします。
3行サマリー:
- 事実(What): 2026年3月期第1四半期は、売上高が前年同期比9.1%増となり、営業利益、経常利益、四半期純利益がすべて黒字転換を達成しました 。
- 本質(Why): この黒字転換は、高単価商品の導入や内製化による原価率低減、販促施策による客数増加など、経営陣による施策が一定の成果を上げた結果です 。しかし、財務体質は依然として債務超過であり、継続企業の前提に重要な疑義が存在する状況は変わっていません 。
- 注目点(So What): 今後、経営陣が掲げる事業改善策がどこまで利益創出とキャッシュフロー改善に繋がり、抜本的な財務基盤の安定化(特に債務超過の解消)を実現できるかが最大の焦点となります。特に、親会社からの借入金返済猶予が決定されたことは重要な後発事象であり、この猶予期間をどのように活用するかが注目されます 。
主要カタリストとリスク:
- ポジティブ・カタリスト:
- 事業再編・資本政策の進展: 親会社である株式会社ジョイフルとのシナジー創出や、抜本的な財務改善に向けた資本政策(第三者割当増資など)が発表された場合 。
- 既存店売上高の継続的な成長: 客数増加と高単価商品の販売が継続し、既存店の売上高が継続的に成長することで、損益分岐点を超えた利益が創出されることが証明された場合 。
- 原価率および販管費のさらなる改善: 内製化の進展や効率的な業績管理体制の構築により、継続的な利益率改善が実現し、通期計画の上振れが期待された場合 。
- ネガティブ・リスク:
- 経営改善策の失速: 競争激化やマクロ環境の悪化により、客数増加や高単価商品の販売が伸び悩み、再び赤字に転落する可能性 。
- 原材料価格の高騰再燃: 米やその他食材の価格高騰が再燃し、原価率の上昇を招き、利益が圧迫される可能性 。
- 運転資金確保の不確実性: 親会社からの借入金返済猶予が決定されたものの、その後の借入金の返済や新たな資金調達に支障が生じ、運転資金が不足する可能性 。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
株式会社フレンドリーは、主に「フードサービス事業」の単一セグメントで事業を展開しています 。主力ブランドである「香の川製麺」を中心に、うどん、丼、中華そばといったメニューを提供しており、顧客の日常的な食事需要に応えるビジネスモデルです 。
ビジネスモデルの評価:
フレンドリーの売上モデルは、非常にシンプルに以下の数式で表現できます。
売上高=(店舗数)×(1店舗あたり平均客数)×(客単価)
今回の決算における売上高の増加は、新規出店がないため、主に「1店舗あたり平均客数」と「客単価」の向上に起因すると考えられます 。具体的な施策としては、以下の点が挙げられます。
- 客単価の向上: 季節限定の高単価商品(例:「キムラ君うどん」、「冷やし中華そば」など)の導入 。
- 客数の向上: 自社アプリを通じた100円値引きクーポン配信などの販促活動 。
このモデルの強みは、日々のオペレーション改善や販促施策が直接的に業績に反映されやすい点です。また、内製化(カミサリーの活用)を進めることで、原価率をコントロールできる余地がある点も特徴です 。
一方で、脆弱性としては以下の点が挙げられます。
- 価格競争への耐性: 外食産業は価格競争が激しく、特にうどんなどの主力商品は代替性が高い 。コスト上昇分を価格転嫁しにくい構造は、収益性を圧迫するリスクとなります。
- 労働集約型ビジネス: 人件費は主要なコスト項目であり、人員不足や時給の上昇は直接的に利益を圧迫します 。
- マクロ環境への影響: 個人消費の動向、エネルギー価格や原材料価格の高騰、為替変動といったマクロ経済環境の変化に業績が左右されやすい 。
競争環境:
フレンドリーの主力事業である「うどん」セグメントでは、丸亀製麺(株式会社トリドールホールディングス)、はなまるうどん(株式会社はなまる)などが主要な競合となります。
- 相対的な強み:
- カミサリー(食品加工工場)の活用: 内製化を進めることで、原価率の低減と店舗オペレーションの効率化を図っている点は、他社との差別化要因となり得ます 。
- 柔軟なメニュー開発: 季節メニューなど、顧客の嗜好に合わせた商品開発に注力しており、顧客満足度向上に繋がっている 。
- 相対的な弱み:
- スケール(規模)の劣後: 26店舗という店舗数は、全国に数百店舗を展開する大手チェーンと比較して圧倒的に小規模です 。これにより、仕入れ交渉力やブランド認知度で不利な立場にあります。
- 財務基盤の脆弱性: 債務超過の状態は、積極的な新規出店や設備投資を阻害する要因となります 。
3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析:
項目 | 2026年3月期 1Q (百万円) | 2025年3月期 1Q (百万円) | 前年同期比 (増減) | 前年同期比 (%) |
売上高 | 557 | 510 | +47 | +9.1% |
営業利益 | 1 | Δ5 | +6 | – |
経常利益 | 3 | Δ2 | +5 | – |
四半期純利益 | 0 | Δ5 | +5 | – |
(注:表中のΔはマイナスを示す)
営業利益のブリッジ分析:
前年同期の営業損失5百万円から、当期の営業利益1百万円への改善要因を分解します 。
- 売上数量/ミックス変動: 売上高は9.1%増加しており、これが利益改善の最大の要因と考えられます 。特に、高単価商品の販売構成比が拡大したことは、利益ミックスの改善に貢献したと推察されます 。この要因による利益押し上げ効果は、売上増加額47百万円と粗利率(当期粗利率約76.7%)を乗じて、約36百万円と推計されます。
- 価格/原価率変動: 内製化の進展や米の仕入れ対策により、原価率が低減したと報告されています 。前年同期の粗利率が約77.1%(売上総利益393,710千円 ÷ 売上高510,628千円)であったのに対し、当期は約76.7%(売上総利益427,203千円 ÷ 売上高557,104千円)となり、粗利率はわずかに悪化しています 。これは、売上高の増加幅に対し、売上原価も大きく増加(前年同期116,917千円→当期129,901千円)したためです 。したがって、原価率改善の努力は報われたものの、コスト高騰の圧力を相殺するまでには至っていないと評価できます。
- 販管費変動: 販売費及び一般管理費は、前年同期の398,959千円から当期426,013千円へと、約27百万円増加しています 。これは売上高の増加に伴う変動費の増加に加え、人員体制の強化に向けた積極的なバート時給改定などの影響が考えられます 。
結論: 当期の黒字転換は、販促施策による売上高増加が最大の牽引役であり、原価率低減の努力はコスト高騰を完全に吸収するには至っていません。販管費も増加傾向にあり、今後のコストコントロールが重要な課題となります。
B/S分析:
項目 | 2026年3月期 1Q末 (百万円) | 2025年3月期末 (百万円) | 増減 (百万円) |
総資産 | 962 | 967 | Δ5 |
純資産 | Δ40 | Δ40 | 0 |
自己資本比率 | Δ4.2% | Δ4.2% | 0pt |
総資産は微減、純資産はほぼ横ばいで推移しており、依然として債務超過の状態が続いています 。負債は、短期借入金や未払法人税等の減少が主な要因となり、約4.7百万円減少しました 。純資産は四半期純利益53千円の計上により同額増加したものの、その影響は軽微です 。財務体質の脆弱性は根本的に解決されておらず、この点は継続企業の前提に関する重要な疑義として引き続き認識されるべきです 。
運転資本の分析(CCC):
CCCは、企業が売上を現金化するまでの期間を示す重要な指標です。CCCが短いほど、資金繰りが良好であることを意味します。
CCC=DSO+DIO−DPO
- 売上債権回転日数(DSO):
- 2025年3月期末: (売掛金4,989千円) ÷ (売上高510,628千円 / 90日) ≈ 0.88日
- 2026年3月期1Q末: (売掛金3,279千円) ÷ (売上高557,104千円 / 90日) ≈ 0.53日 売掛金が減少したことにより、DSOは改善しています 。外食産業であるため、もともとDSOは非常に短いですが、より迅速な現金回収が実現していると言えます。
- 棚卸資産回転日数(DIO):
- 2025年3月期末: (商品+貯蔵品11,631+343千円) ÷ (売上原価116,917千円 / 90日) ≈ 10.9日
- 2026年3月期1Q末: (商品+貯蔵品10,490+233千円) ÷ (売上原価129,901千円 / 90日) ≈ 7.4日 商品・貯蔵品が減少した一方で、売上原価が増加したため、DIOは大幅に改善しています 。これは、食材管理の効率化や食材廃棄ロスの削減といった施策が効果を発揮していることを示唆しており、非常にポジティブな兆候です 。在庫の回転が速まることで、陳腐化リスクも低減されます。
- 仕入債務回転日数(DPO):
- 2025年3月期末: (買掛金45,340千円) ÷ (売上原価116,917千円 / 90日) ≈ 34.9日
- 2026年3月期1Q末: (買掛金39,898千円) ÷ (売上原価129,901千円 / 90日) ≈ 27.6日 買掛金が減少したことで、DPOも短縮しています 。これは仕入先への支払いが早まっていることを意味し、交渉力において不利な立場に立たされている可能性も示唆します。
結論: CCC2025年3月期末=0.88+10.9−34.9=−23.12日 CCC2026年3月期1Q末=0.53+7.4−27.6=−19.67日
CCCは依然としてマイナスであり、仕入先への支払猶予期間が、売上回収と在庫回転期間を上回っている、いわゆる「他人の金で商売している」状態が続いています。しかし、DPOの短縮によりCCCはわずかに悪化しており、仕入先との関係性や、資金繰りのプレッシャーが増している可能性に留意が必要です。
キャッシュフロー(C/F)分析:
今回の決算短信にはキャッシュフロー計算書が添付されていませんが、貸借対照表の変動から推測します 。
- 営業CF: 営業利益は黒字転換したものの、売掛金の減少や棚卸資産の減少がプラス要因、買掛金の減少がマイナス要因となります 。また、減価償却費が5,324千円計上されており、これは営業CFを押し上げる要因となります 。
- 投資CF: 建物(純額)が2,104千円増加しており、設備投資が行われたことがわかります 。
- 財務CF: 短期借入金が20,000千円減少しており、借入金の返済が進んでいることがわかります 。親会社からの借入金返済猶予が決定されたことは、今後の財務CFに大きな影響を与える後発事象です 。
資本効率性の評価:
- ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト): フレンドリーは現在債務超過であり、自己資本がマイナスであるため、ROICを算出することは困難です 。しかし、この状態は「企業価値を破壊している」状況であると断定できます。WACC(加重平均資本コスト)は、理論上、資本を提供している株主や債権者が要求するリターンであり、ROICがWACCを上回らなければ、企業は価値を創造しているとは言えません。債務超過という現状は、この前提を大きく損なうものであり、まずは健全な資本構成を再構築することが喫緊の課題です。
- ROE(自己資本利益率)のデュポン分解: 自己資本がマイナスであるため、ROEも算出できません。この状態から脱却し、株主資本をプラスに転じさせることが、まず第一に求められます。
4. セグメント情報の徹底解剖
フレンドリーは「フードサービス事業」の単一セグメントであるため、セグメント情報に関する特筆すべき分析はできません 。しかし、報告書からは、主力商品である「うどん」に加え、「中華そば」が好調であり、原価率の低いカテゴリーとして販売数を伸ばしていることが読み取れます 。
これは、うどん・丼・中華そばという3つのカテゴリーを適切にコントロールすることで、原価率の上昇を抑えるという経営陣の戦略が奏功していることを示唆しています 。ポートフォリオ・マネジメントとしては、単一事業に依存するリスクを抱えつつも、その中で利益率の高い商品を育成しようとする姿勢は評価できます。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
会社が掲げる2026年3月期の通期業績予想は以下の通りです 。
項目 | 通期予想 (百万円) | 1Q実績 (百万円) | 進捗率 (%) |
売上高 | 2,420 | 557 | 23.0% |
営業利益 | 80 | 1 | 1.25% |
経常利益 | 90 | 3 | 3.33% |
当期純利益 | – | 10.52円/株 → 約30百万円 | 0% |
売上高は順調な進捗を見せていますが、営業利益、経常利益の進捗率は極めて低く、通期計画達成には今後の四半期で大幅な利益積み上げが必要となります 。
経営判断の妥当性: 今回の決算を受けても、業績予想の修正は行われていません 。これは、経営陣が掲げている「高単価商品の導入」、「原価低減活動」、「生産性向上」といった施策が今後も継続的に効果を発揮し、下期にかけて利益が大きく伸びるという確信を持っていることを示唆します 。特に、外食産業は季節要因が大きいため、この第1四半期の実績のみで通期計画の未達を断定することは時期尚早です。しかし、この計画は非常にアグレッシブであり、今後のコストコントロールや売上高の成長ペースが鈍化した場合、達成は困難になると考えられます。経営陣の需要予測能力は、今後の四半期決算で試されることになります。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
強気シナリオ:
- 前提条件: マクロ環境が安定し、個人消費が堅調に推移。経営陣が掲げる施策(高単価商品の導入、内製化、販促強化)が継続して奏功。親会社からの資金繰り支援が円滑に進む。
- 予測レンジ: 売上高は通期予想を上振れし、年間で2,500百万円~2,600百万円。利益率改善により、通期営業利益は100百万円以上。
- カタリスト:
- 新規出店やM&Aなど、成長戦略に関するポジティブな発表。
- 債務超過解消に向けた具体的な資本政策の発表。
基本シナリオ(アナリストのメインシナリオ):
- 前提条件: マクロ環境は不透明ながらも、大きな悪化はなし。経営改善策は一定の効果を上げるが、コスト高騰圧力も根強く、利益成長は限定的。
- 予測レンジ: 売上高は通期予想の2,420百万円を達成するも、利益は下振れし、通期営業利益は50百万円~70百万円。
- カタリスト:
- 四半期ごとの堅調な業績推移。
- コスト管理システム導入による継続的な生産性向上。
弱気シナリオ:
- 前提条件: マクロ経済の悪化、特に原材料価格の高騰が再燃。競争激化により販促効果が薄れ、客数増加が鈍化。人員不足が解消されず、人件費がさらに増加。
- 予測レンジ: 売上高は通期予想を下回り、2,300百万円を下回る。利益は再び赤字に転落し、通期営業損失を計上。
- リスク:
- 経営改善策の頓挫と、それに伴う信用不安の増大。
- 運転資金の枯渇による事業継続性のリスク。
- 株式の上場維持に関わる問題発生の可能性。
7. バリュエーション(企業価値評価)
- 相対評価法: 現在、フレンドリーは債務超過であり、PBR(株価純資産倍率)を算出することはできません。また、純利益もゼロに近いため、PER(株価収益率)も意味のある指標とはなりません。EV/EBITDAも、EBITDAが小規模であるため、比較対象として適当ではありません。 同業他社(例:トリドールHD)が健全な財務体質と成長性を背景に高いマルチプルで評価されているのに対し、フレンドリーは財務的な問題を抱えており、現在の株価は純粋な企業価値というよりも、再建への期待値とリスクのバランスを反映していると考えられます。抜本的な財務改善が見られない限り、同業他社と比較して大幅なディスカウントで評価されるのが妥当です。
- 絶対評価法: 債務超過の現状では、DCF法による理論株価の試算も困難です。そもそも、企業価値を正しく評価する前提として、まずは健全なキャッシュフローを継続的に生み出す事業基盤と、資本構成を再構築することが不可欠です。現時点でのバリュエーションは、本質的な意味を持たないと考えます。
8. 総括と投資家への提言
株式会社フレンドリーの2026年3月期第1四半期決算は、前年同期の赤字から黒字へと転換した点で、経営改善の兆候を示しています 。売上高の増加、原価率低減の努力、在庫管理の効率化など、各施策が部分的に成果を上げていることは評価できます 。
しかし、その財務体質は依然として脆弱であり、特に債務超過の状態は継続企業の前提に重要な疑義を生じさせています 。今回の黒字は極めて小規模であり、通期計画達成には今後の四半期で大きな利益積み上げが必要です 。
投資家への提言としては、現時点では「中立」の投資スタンスを維持し、以下に示すKPIとイベントを注視することを推奨します。
注視すべき最重要KPIとイベント:
- 四半期ごとの営業利益の推移: 通期計画達成に向け、今後も継続的に利益を積み上げられるか。特に、コスト増加圧力を吸収し、利益率を改善できるかが焦点。
- 継続企業の前提に関する注記の動向: 債務超過が解消され、継続企業の前提に関する重要な疑義が解消されるかどうかの発表。
- 運転資金の動向: 親会社からの借入金返済猶予が決定された後の、実際の資金繰り状況。新たな資金調達や借入金の返済状況。
- 既存店売上高の成長率: 販促施策やメニュー開発が継続的に顧客を呼び込めているか。客数と客単価の推移に注目。
この企業は、再建への道筋が見え始めた段階であり、不確実性が高い状況です。成功すれば大きなリターンが期待できる可能性はありますが、失敗すれば上場維持に関わる問題に発展するリスクも内包しています。十分な情報が提供され、財務基盤の安定化に向けた具体的な進展が確認されるまでは、慎重な姿勢を保つことが賢明であると結論付けます。