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ティア (2485) 2025年9月期 第3四半期決算分析:M&A効果で外形は急拡大も、収益性の真価を問うフェーズへ

投資スタンス:中立

確信度:70%

1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス:中立(確信度:70%)

3行サマリー: 2025年9月期第3四半期決算は、M&Aによるグループ会社の通年寄与が主因となり、売上高・各段階利益が前年同期比で大幅な増収増益を達成した。しかし、利益率の改善は売上高の伸びほどではなく、葬祭事業における葬儀単価の頭打ち傾向や、販管費の増加が収益性改善の重しとなっている。今後は、単なる外形的な拡大から、買収したグループ会社とのシナジーを最大限に引き出し、本質的な収益力と資本効率を向上させられるかが、投資判断の鍵となる。

主要カタリストとリスク:

  • 主要カタリスト:
    1. M&Aシナジーの具現化: 買収した八光殿および東海典礼との間で、コスト削減やサービス連携によるシナジーが計画以上に進捗し、利益率が大幅に改善する。
    2. 既存事業の利益率改善: 既存会館の稼働率向上と、人件費・広告宣伝費の効率的な配分により、葬祭事業の収益性が向上する。
    3. 新規事業の収益貢献: 不動産やリユースといった「その他事業」が計画を上回る成長を遂げ、収益の多角化に成功する。
  • 主要リスク:
    1. M&A後のPMI(統合プロセス)の遅延: グループ会社の経営統合が円滑に進まず、想定したシナジー効果が発現しない、あるいは統制コストが増大する。
    2. 葬儀単価のさらなる下落: 核家族化や葬儀規模の縮小傾向が加速し、収益の根幹である葬儀単価が想定以上に低下する。
    3. のれんの減損リスク: 買収によって計上された多額ののれんが、事業計画の未達により減損処理される可能性。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

ビジネスモデルの評価: ティアの主要な収益源は、葬儀の施行から得られる収益である。このビジネスモデルは以下の数式で表現できる。

売上高 = 葬儀件数(Q)× 葬儀単価(P)+ その他事業売上 このモデルの強みは、人口動態を背景とした葬儀需要の安定性にある。また、地域に根差したドミナント出店戦略は、ブランド認知度と顧客の利便性を高め、高いスイッチングコストを生み出す。一方で、脆弱性としては、核家族化や小規模な葬儀の増加による葬儀単価の減少傾向が続いている点である。これはPの低下圧力となり、Qの増加だけでは補いきれない可能性がある。M&Aによる事業拡大は、このPの低下トレンドをQの急増で補う戦略であり、現時点では奏功していると言える

競争環境: ティアは、全国展開の「小規模専門葬儀社」として、大手冠婚葬祭互助会や地域密着型の葬儀社と競合している。

  • 大手互助会(例:アルファクラブなど): 資金力や広範なネットワークを持つが、画一的なサービスになりがち。
  • 地域密着型葬儀社: サービスが柔軟で小回りが利く一方、スケールメリットに乏しい。

ティアの競争優位性は、「明瞭な価格体系」と「徹底した人財教育」による差別化戦略にある。特に、M&Aにより獲得した大阪府や愛知県のドミナントエリアは、今後も競合との差別化を強化する上で重要な資産となる。しかし、葬儀市場は依然として寡占化が進んでおらず、価格競争に陥るリスクは常に存在している。


3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析

2025年9月期第3四半期連結累計期間の業績は、M&Aによる事業拡大効果が顕著に表れた結果となった。

項目2024年9月期 第3四半期2025年9月期 第3四半期前年同期比(%)
売上高13,912百万円16,760百万円+20.5%
営業利益1,244百万円1,823百万円+46.5%
経常利益1,060百万円1,803百万円+70.1%
親会社株主に帰属する四半期純利益668百万円1,131百万円+69.2%

営業利益のブリッジ分析: 前年同期の営業利益1,244百万円から当期の1,823百万円への増加要因を分解すると、以下のようになる。

  • ①売上数量/ミックス変動: 葬儀件数の増加(葬祭事業で前年同期比12.6%増の15,321件)およびその他事業の拡大による増収効果が、利益を大きく押し上げた。M&Aで子会社化した八光殿と東海典礼の寄与が特に大きい。
  • ②価格/原価率変動: 葬儀単価は祭壇売上の低下を葬儀付帯品や供花売上が補う形で前年同期比1.5%増と微増にとどまった。一方で、売上原価率は1.0ポイント上昇している。これは、商品原価率と労務費率の上昇が影響していると推察される。単価上昇が限定的な中でコストが増加しており、P/L上の利益率改善は売上高の伸びほどではない。
  • ③販管費変動: 販管費は前年同期比で9.2%増加している。これは主に、のれん償却費の通年計上や、M&Aで子会社化した八光殿・東海典礼の通年寄与に伴う経費増加が要因である。M&Aにかかる一時的な費用が減額されたことを考慮すると、恒常的なコストが増加していることが示唆される。

収益性の深掘り: 売上総利益率は、前年同期の約40.4%(5,625百万円 / 13,912百万円)から当期の約39.4%(6,606百万円 / 16,760百万円)へと1.0ポイント低下した。これは、売上原価率の上昇によるものとされており、商品原価や労務費の増加が影響している。葬儀単価の低下トレンドが続く中で、コストコントロールの重要性が増している。

B/S分析

項目2024年9月30日(前連結会計年度末)2025年6月30日(当第3四半期末)増減
総資産27,326百万円27,944百万円+618百万円
流動資産5,740百万円6,717百万円+977百万円
固定資産21,585百万円21,227百万円△358百万円
総負債19,140百万円19,151百万円+11百万円
純資産8,186百万円8,793百万円+607百万円
自己資本比率30.0%31.5% +1.5pt

運転資本の分析: 運転資本は、現金及び預金の増加(9.17億円増)により大きく増加した。これは、M&Aによる買収効果が主因と考えられる。また、総資産に占めるのれん(M&Aに伴い発生)の比率は、5,438百万円と依然として高い水準にある。これは、将来的に事業計画が未達となった際の減損リスクを内包していることを示唆する

CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)分析: 今回の決算短信には、売上債権や棚卸資産の詳細な内訳がなく、CCCを正確に算出することは困難である。しかし、売上債権(売掛金及び契約資産)が958百万円から963百万円へとほぼ横ばいである一方、売上高が大幅に増加していることから、売上債権回転日数(DSO)は短縮していると推測される。これは、キャッシュ創出力の向上を示唆するポジティブな兆候である。

キャッシュフロー(C/F)分析

当第3四半期連結累計期間のキャッシュフロー計算書は開示されていない。ただし、現金及び預金が9億17百万円増加している。これは、親会社株主に帰属する四半期純利益11億31百万円の獲得と、剰余金の配当4億50百万円の支払いがあったことなどによる

資本効率性の評価

ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト): M&Aにより多額ののれんが発生し、投下資本(IC = 有利子負債 + 自己資本 – 余剰現金)が増加している。M&A後のROICを評価するためには、買収対象会社の収益貢献分を考慮する必要がある。仮に税引き後営業利益(NOPAT)がM&Aによる増加分を上回れば、ROICは改善する。しかし、買収に伴う販管費増加や原価率上昇を考慮すると、短期的にはROICの改善は限定的となる可能性が高い。今後、シナジー創出によってNOPATが大幅に増加しなければ、WACCを下回るROICとなり、企業価値を破壊していると評価されかねない。

ROE(自己資本利益率)のデュポン分解: ROE = (純利益 / 売上高) × (売上高 / 総資産) × (総資産 / 自己資本)

  • 純利益率: 当期連結累計期間の純利益率は6.7%(1,131百万円 / 16,760百万円)。前年同期の4.8%(668百万円 / 13,912百万円)から大幅に改善している。これは主に、売上高の急拡大による利益の絶対額増加が要因である。
  • 総資産回転率: 当期の総資産回転率は約0.6回(16,760百万円 / 27,944百万円)。前年同期の約0.5回(13,912百万円 / 27,326百万円)から改善しており、資産効率が向上している。
  • 財務レバレッジ: 総資産/自己資本比率は、前年同期の約3.3倍から当期の約3.2倍へとわずかに低下しており、財務の健全性が改善している。

全体として、純利益率と総資産回転率の改善がROE向上に寄与している。これは、M&Aによる売上高の急増と、利益の絶対額増加がもたらしたもので、財務のテコ入れによるものではない点が評価できる。


4. セグメント情報の徹底解剖

ティアの報告セグメントは「葬祭事業」「フランチャイズ事業」「その他事業」の3つである

セグメント2025年9月期 第3四半期 連結累計期間全社への貢献度主な要因分析
葬祭事業売上高: 15,421百万円(前年同期比17.2%増)<br>営業利益: 3,039百万円(前年同期比17.1%増)売上高の92%、セグメント利益の96%を占める。最大の成長ドライバー。M&Aで子会社化した八光殿・東海典礼の通年寄与が大きく、葬儀件数は前年同期比12.6%増の15,321件。葬儀単価も1.5%増と微増だが、売上高を牽引している
フランチャイズ事業売上高: 423百万円(前年同期比2.4%減)<br>営業利益: 71百万円(前年同期比9.6%増)全社売上高の2.5%、セグメント利益の2.2%を占める。貢献度は低い。FC会館の増加によりロイヤリティ売上は増加したものの、前期にあった物品販売の反動減が減収要因。利益は増加しており、収益性は改善している。
その他事業売上高: 915百万円<br>営業利益: 66百万円全社売上高の5.5%、セグメント利益の2.0%を占める不動産やリユース事業が堅調に拡大。収益の多角化に貢献している。

ポートフォリオ・マネジメントの評価: 経営陣は、M&Aによって葬祭事業の規模を急拡大させ、フランチャイズ事業とその他事業で収益の多角化を図るポートフォリオ戦略を推進している。現時点では、葬祭事業への依存度が非常に高く、特にM&Aで買収した企業の収益への貢献がなければ、成長は鈍化していたと考えられる。今後、その他事業が収益の柱に育つか、またフランチャイズ事業の収益性をさらに高められるかが、ポートフォリオのリスク分散を成功させる鍵となる。


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

会社が掲げる通期計画(2025年9月期)の売上高220億円、営業利益17.7億円に対し、第3四半期連結累計期間で売上高167.6億円(進捗率76.2%)、営業利益18.23億円(進捗率103%)を達成している。営業利益はすでに通期計画を超過している

この状況下で、会社は通期連結業績予想の修正を行っていない。これは、上半期の増益分を評価しつつも、下半期に予定されている既存会館2店舗の改修工事や、営業促進のための追加施策、人員計画の見直しに伴う経費増加を見込んでいるためである

この経営判断は妥当であると評価できる。過去のM&A関連費用の一時的な減額があったとはいえ、恒常的な販管費が増加している傾向は見て取れる。下半期に想定されるコスト増を保守的に見込むことは、業績のぶれを抑制し、市場の信頼を維持する上で賢明な判断だ。この計画通りに進めば、通期では営業利益が計画を上振れる可能性は高いが、利益率の改善は限定的となるだろう。経営陣は、単なる利益の絶対額だけでなく、今後の成長のための先行投資も視野に入れていると読み取れる。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

強気シナリオ(確信度20%):

  • 前提条件: M&A後のPMIが想定以上に順調に進み、コストシナジーが早期に発現。また、葬儀件数の増加が下半期も継続し、既存店改装による一時的な売上減が軽微に留まる。
  • 予測レンジ: 売上高230-240億円、営業利益20-22億円。
  • カタリスト:
    • M&A関連のシナジー効果に関する具体的な開示。
    • 既存会館の改装効果が想定を上回り、稼働率が急改善する。

基本シナリオ(確信度70%):

  • 前提条件: 会社計画通り、上半期の好調を維持する一方、下半期に予定される先行投資(改装費、人件費等)が計画通り実行される。葬儀単価の低下トレンドは限定的。
  • 予測レンジ: 売上高220-225億円、営業利益18-19億円。
  • カタリスト:
    • 来期計画のポジティブなガイダンス。
    • 自社株買いなどの株主還元策の発表。

弱気シナリオ(確信度10%):

  • 前提条件: M&Aによるグループ会社の統合が難航し、統制コストが増大。加えて、葬儀単価の低下傾向が加速し、売上高が頭打ちとなる。
  • 予測レンジ: 売上高210-215億円、営業利益16-17億円。
  • リスク:
    • M&Aで計上したのれんの減損損失が発生。
    • 競合による価格競争の激化。

7. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法: ティアのPER(株価収益率)は、類似企業と比較して評価すべきである。

  • ティア(2485): 2025年9月期予想EPS(47.99円)に対して、現在の株価を当てはめると、予想PERは約20倍。
  • 類似企業: 葬儀関連事業を行う上場企業(例:燦ホールディングス、プレマシードなど)のPERと比較する。 ティアは、M&Aによる成長期待があるため、類似企業よりも若干のプレミアムが正当化される可能性がある。しかし、M&A後の利益率の不安定性や、多額ののれんリスクを考慮すると、過度なプレミアムは正当化しにくい。

絶対評価法: 簡易的なDCF法を用いて評価を行う。

  • FCF(フリーキャッシュフロー): 2025年9月期は、営業利益18-19億円、減価償却費約8億円、設備投資13億円、運転資本増加分を考慮すると、FCFはプラス圏となる見込み。
  • WACC: 資本コストは、現在の低金利環境とティアの財務構造を考慮し、5%程度と仮定。
  • 永久成長率: 日本の人口動態を考慮し、長期的な成長率は0.5%と仮定。 この仮定に基づくと、ティアの理論株価は現在の株価よりも若干上振れる可能性を示唆している。しかし、これはM&Aによるシナジーが順調に発現することを前提としたものであり、ダウンサイドリスクは十分に考慮する必要がある。

8. 総括と投資家への提言

ティアの2025年9月期第3四半期決算は、M&A戦略が外形的な成長に大きく貢献していることを明確に示した。営業利益がすでに通期計画を上回るなど、数字上は非常に力強い。しかし、この成長はあくまでM&Aによる一時的なものであり、本質的な収益力(特に粗利率)の改善は限定的である

コアとなる投資魅力:

  • M&Aによる成長加速: 葬儀業界の再編を進め、規模の経済を追求する戦略は理にかなっている。
  • 安定した事業基盤: 人口動態を背景とした葬儀需要は安定しており、急激な需要減のリスクは低い。

最大の懸念事項:

  • 利益率の頭打ち: 売上原価や販管費の増加が、利益率改善の重しとなっている。
  • PMIとシナジーの不確実性: M&A後の統合プロセスが成功し、真のシナジーが生まれるかは未知数。

今後の株価動向を監視する上で、投資家が注視すべき最重要KPI:

  1. 各セグメントの利益率推移: 特に葬祭事業の利益率が、M&A後も改善傾向を維持できるか。
  2. M&Aで取得した企業の収益性詳細: 八光殿と東海典礼の業績貢献度と、その内訳(件数、単価、利益率)の開示に注目。
  3. 販管費の構成と変動要因: のれん償却費以外の、恒常的なコスト(人件費、広告宣伝費等)の動向。

ティアは今、単なる規模の拡大から、収益性と資本効率を追求する次のフェーズに移行している。今後の決算では、単なるトップラインの成長だけでなく、その裏側にある「質」を徹底的に見極める必要がある。結論として、現時点では強気な投資判断を下すには不確実性が高いため、**「中立」**スタンスを維持する。

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