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カンモンカイ2026年3月期1Q決算:売上高3.7%増も営業損失は82百万円に拡大

競争環境と市場ポジショニングの分析

株式会社カンモンカイ(3372)は、主にふぐ料理を中心とした和食レストラン「玄品」の直営店およびフランチャイズ事業を展開しています。競争環境を分析するにあたり、同社のビジネスモデルをさらに深く掘り下げる必要があります。同社の収益モデルは「売上 = 客数 × 客単価 + FC加盟店からの収益」と分解できます。

  • 直営店舗事業:主要な収益源は、ふぐ料理をメインとする飲食店の運営によるものです。この事業モデルの強みは、ブランド価値の直接的なコントロール、顧客との接点を通じて得られるフィードバック、そして季節限定メニュー(夏安居コースなど)やフェア(母の日、父の日)を通じた販売促進策を柔軟に実行できる点にあります 。一方で、店舗運営にかかる固定費(家賃、人件費)が高く、季節変動(冬場に需要が集中する)による業績のブレが大きいという脆弱性を抱えています 。
  • フランチャイズ(FC)事業:この事業モデルは、とらふぐ等の食材販売とロイヤリティが収益源となります 。FC事業の強みは、直営店に比べて設備投資や運営リスクを抑えつつ、ブランドを拡大できる点です。しかし、加盟店の経営状況に収益が左右されることや、ブランドイメージの統一性を保つための管理が必要となります。
  • その他事業:本部における外部流通卸への加工食材等の販売が含まれます 。この事業は、新たな収益源として、主力事業の季節変動リスクを補完する可能性があります。

競争優位性と脆弱性: 同社の競争優位性は、「玄品」ブランドが長年にわたって築き上げてきた「ふぐ料理の専門家」としての信頼性と知名度にあります。国産うなぎの販売強化や京都四条店の新規オープンなど、新たな顧客層へのアプローチも積極的に行っています

しかし、脆弱性も顕在化しています。飲食業界全体が直面している物価高騰や、消費者マインドの節約志向の高まりは、特に高価格帯のふぐ料理を提供する同社にとって逆風となります 。インバウンド需要の落ち着きも、直営店舗の既存店売上高に影響を与えています

主要競合との比較: 同社はふぐ料理専門というニッチな市場で事業を展開しているため、直接的な上場競合は少ないですが、広義の競合としては以下の企業が挙げられます。

  • 他の和食チェーンや専門店:海鮮料理や会席料理を提供するチェーン店や個人店は、顧客の選択肢となります。これらの競合は、より多様なメニューや低価格帯のサービスで顧客を引きつけ、同社の顧客基盤を侵食する可能性があります。
  • 高級食材を扱う飲食店全般:ふぐ料理がハレの日の食事である場合、高級寿司店や他の高級和食店も競合となります。これらの競合は、ブランド力やサービス品質で差別化を図っており、同社は継続的な品質向上とブランド戦略が求められます。

この競争環境において、同社はブランド価値の維持・向上と、外部環境の変化に対応できる柔軟な経営戦略が不可欠です。

業績ハイライトと徹底的な財務分析

本四半期の業績は、売上高の増加にもかかわらず、販売費及び一般管理費の増加が利益を圧迫し、損失幅が拡大する結果となりました 。以下に、詳細な財務分析を示します。

P/L分析:

項目(単位:百万円)2026年3月期1Q2025年3月期1Q増減額増減率
売上高954920+34+3.7%
売上総利益664638+26+4.2%
営業損失△82△68△14N/A
経常損失△87△78△9N/A
親会社株主に帰属する四半期純損失△56△49△7N/A
  • 売上高分析:売上高は前年同期比3.7%増の954百万円となりました 。これは、本部の食材の外部販売に係る売上が増加したことによるものです 。一方で、主力である直営店舗の売上高は前年同期比2.2%減、FC事業の国内既存店末端売上高は同4.0%減となっており、既存事業の成長に陰りが見られます 。この売上高の増加は、既存事業の堅調さを示すものではなく、新たな収益源(本部による外部販売)への依存度が高まっていることを示唆しています。
  • 営業利益のブリッジ分析
    • 2025年3月期1Q営業損失:-68百万円
    • 売上数量/ミックス変動:本部における外部販売の増加が売上を押し上げましたが、直営店売上高の減少とFC事業の既存店末端売上高の減少が相殺し、売上総利益の増加は限定的でした。売上総利益は前年同期比4.2%増の664百万円となっています 。
    • 価格/原価率変動:売上原価は290百万円となり、売上総利益率は約69.6%(664/954)でした。前年同期の売上総利益率は約69.3%(638/920)であり、わずかに改善しています 。これは、本部での外部販売が、より高い粗利率を持つ商材であった可能性を示唆しています。
    • 販管費変動:販売費及び一般管理費は、前年同期比5.7%増の747百万円となりました 。この増加は、「従業員待遇改善による昇給や賞与などの人件費関連や広告宣伝費等が見込み通りに増加した」ことが要因とされています 。売上高の増加率3.7%を上回る販管費の増加は、同社の利益構造に大きな圧力をかけています。
    • 2026年3月期1Q営業損失:-82百万円
    • 結論として、本四半期の営業損失拡大は、売上高の増加分が、人件費や広告宣伝費を含む販管費の増加によって完全に相殺され、さらに上回ってしまったことに起因します。コスト管理の徹底を継続しているとしながらも、戦略的な投資(人件費改善、広告宣伝費)が短期的な利益を犠牲にしている構造が明らかになりました。

B/S分析:

  • 総資産:当第1四半期連結会計期間末の総資産は2,789百万円となり、前連結会計年度末と比較して527百万円減少しました 。
  • 負債:負債合計は1,558百万円となり、前連結会計年度末から468百万円減少しました 。
  • 純資産:純資産は1,230百万円となり、前連結会計年度末から59百万円減少しました 。自己資本比率は44.1%(1,230/2,789)と前連結会計年度末の38.9%から改善していますが、これは主に負債の減少によるものです 。
  • 運転資本(CCC)の分析
    • 売上債権回転日数(DSO):売上債権(売掛金)は196百万円、売上高は954百万円でした 。DSO = (196 / 954) × 90日 = 約18.5日。前年同期のDSO(261 / 920 × 90日)約25.6日から改善しており、売掛金の回収が速くなっています。
    • 棚卸資産回転日数(DIO):棚卸資産(商品及び製品、原材料及び貯蔵品)は617百万円+19百万円=636百万円、売上原価は290百万円でした 。DIO = (636 / 290) × 90日 = 約197日。前連結会計年度末の棚卸資産(554+19=573百万円)から増加しており、DIOは悪化している可能性があります。特に、主力事業が季節変動が大きいことを考慮すると、在庫の質や陳腐化リスクについて注意深く監視する必要があります。
    • 仕入債務回転日数(DPO):仕入債務(買掛金)は123百万円、売上原価は290百万円でした 。DPO = (123 / 290) × 90日 = 約38.2日。
    • CCC:DIO + DSO – DPO = 197日 + 18.5日 – 38.2日 = 約177.3日。前連結会計年度末の棚卸資産を基に試算したCCC((573/282)x90 + (261/920)x90 – (153/282)x90 = 182.7 + 25.6 – 48.8 = 約159.5日)と比較して、CCCは悪化しています。これは、在庫の増加が主因であり、資金繰りへの圧力を高める可能性があります。

C/F分析:

本四半期連結累計期間に係る四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成されていないため、詳細な分析は困難です 。しかし、B/S情報から、現金及び預金が前連結会計年度末の1,403百万円から801百万円に602百万円減少していることがわかります 。これは、営業活動によるキャッシュアウトフローが大きかったこと、または投資活動や財務活動による資金流出があったことを示唆しています。純損失が計上されていることから、利益の質よりも、事業運営そのものがキャッシュを創出できていない可能性が高いと判断できます。

資本効率性の評価:

  • ROIC:ROICは、税引後営業利益を投下資本(有利子負債+株主資本)で割って算出します。本四半期は営業損失を計上しており、ROICはマイナスとなります。これは、同社が投下資本から価値を創造するどころか、価値を毀損している状態にあることを示しています。WACC(加重平均資本コスト)を上回るROICを達成していないことは明白であり、現在の事業構造では企業価値を破壊していると結論づけられます。
  • ROE:ROE = 親会社株主に帰属する四半期純損失(-56百万円) / 純資産(1,230百万円) = -4.5%。ROEもマイナスであり、株主資本を効率的に活用できていない状態です 。デュポン分解(純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ)で見ると、純利益率がマイナスであるため、その他の指標がいかに改善してもROEはプラスになりません。

セグメント情報の徹底解剖

本四半期決算短信では、同社グループは「店舗運営事業の単一セグメント」であるため、セグメント情報の記載を省略しています 。そのため、個別の事業セグメント(直営店、FC、その他)ごとの詳細な収益・利益貢献度を定量的に分析することはできません。しかし、決算短信の記述から、各事業の状況を以下のように推測できます。

  • 直営店舗事業:売上高は754百万円で、前年同期比2.2%減となりました 。これは、インバウンド旅行客の来店が落ち着いたことや、節約志向の高まりによる個人消費の落ち着きが影響したと推測されます 。一方で、うなぎ料理や「夏安居」コースが好評だったことが、既存店売上高の落ち込みを0.8%減に留めることに貢献しました 。
  • フランチャイズ事業:売上高は62百万円で、前年同期比2.1%増となりました 。とらふぐ等の食材販売の売上が前年を上回ったことが寄与しています 。しかし、国内既存店末端売上高は前年同期比4.0%減となっており、FC加盟店の顧客売上が減少している状況が伺えます 。中国の寧波店の閉店も影響し、店舗数は減少しています 。
  • その他事業(本部):売上高は138百万円で、前年同期比57.3%増となりました 。これは、外部流通卸への加工食材等の販売が順調に推移したことによるものです 。全社売上高の増加の主要因であり、新たな成長ドライバーとして注目されます。

ポートフォリオ・マネジメントの評価: 経営陣は、主力事業であるふぐ料理の季節変動リスクに対応するため、本部による外部販売を強化しているようです 。これは、事業ポートフォリオのリスク分散を図ろうとする前向きな動きと評価できます。しかし、直営店舗やFC事業という既存の収益基盤が苦戦している中で、新たな事業が全体の赤字を補填できるほどに成長できるかは不透明です。また、本社工場の体制強化(人員確保など)を進めていることから、今後もコスト増加の圧力が続く可能性があり、収益改善への道のりは険しいと判断されます

経営計画の進捗と経営陣の評価

同社は、2026年3月期の業績予想について、2025年5月14日に公表した第2四半期連結累計期間及び通期の業績予想から変更はないと述べています 。しかし、今回の第1四半期の実績を見ると、この計画達成の蓋然性には疑問符がつきます。

  • 実績と計画の比較
    • 売上高は、計画に対して順調に進捗しているように見えます。
    • しかし、営業利益、経常利益、純利益はいずれも損失が拡大しており、通期で黒字を達成するという計画(第2四半期連結累計期間で経常損失180百万円、通期で経常利益180百万円の予想 )との乖離が大きくなっています。
  • 経営陣の評価
    • 計画未達の要因は、主に販管費の増加にあります 。従業員待遇改善や広告宣伝費の増加は、将来に向けた戦略的な投資と捉えることもできますが、売上高の増加率を大きく上回るコスト増は、コストコントロールが十分に行われていない可能性を示唆しています。
    • 今回の赤字幅拡大にもかかわらず、通期計画を据え置いた経営判断は、非常に楽観的であると評価せざるを得ません。主力事業であるふぐ料理の需要が集中する冬場(第3、第4四半期)で、失地を回復できるという見込みがあるのかもしれませんが、消費者マインドの節約志向やインバウンド需要の不確実性を考慮すると、計画の下方修正リスクは高いと判断します 。
    • 経営陣は、本部の外部販売事業を新たな収益の柱として育て、通期の計画を達成しようとしているのかもしれませんが、その進捗状況と利益貢献度を投資家に明確に示す必要があります。

将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

今後12~24ヶ月の業績について、以下の3つのシナリオを提示します。

【強気シナリオ】

  • 前提条件:国内の個人消費が予想以上に回復し、物価高騰が落ち着く。インバウンド需要が再加速する。本部の外部販売事業が、計画を上回るペースで成長し、利益率の高い収益源として確立される。ふぐ料理の需要期である冬場に、過去最高の集客を実現する。
  • 予測レンジ:売上高は10%以上の成長、営業利益は計画を上回り、通期黒字化を達成する。
  • カタリスト
    1. インバウンド需要の急回復:特に富裕層によるふぐ料理の需要が急増し、客単価が上昇する。
    2. 新商品・新業態の成功:本部による外部販売事業が、既存事業の季節変動を補完する新たな収益の柱として急成長する。
    3. 冬場商戦の記録的成功:テレビやSNS等でのメディア露出が増え、ふぐ料理の需要が想定を大きく上回る。

【基本シナリオ】

  • 前提条件:現在のマクロ経済環境が継続し、個人消費は低迷したまま。インバウンド需要も現状維持。本部の外部販売事業は順調に成長するものの、既存事業の不振を補うには力不足。冬場の需要期で一定の回復は見込めるが、販管費の増加が利益を圧迫し続ける。
  • 予測レンジ:売上高は横ばいから微増、営業利益は通期で小幅な赤字となる可能性が高い。
  • カタリスト
    1. コスト削減効果の顕在化:販管費の増加が落ち着き、利益率が改善する。
    2. 既存店売上高の回復:マーケティング施策が奏功し、直営店の既存店売上高がプラスに転じる。
    3. FC事業の安定化:FC加盟店の閉鎖が止まり、とらふぐ等の食材販売が安定的に成長する。

【弱気シナリオ】

  • 前提条件:物価高騰がさらに進行し、個人消費の節約志向が強まる。インバウンド需要が再び減速する。本部の外部販売事業の成長が鈍化し、利益貢献が限定的になる。人件費や広告宣伝費などのコスト増が収まらず、赤字幅が拡大する。
  • 予測レンジ:売上高は減少、営業利益は通期でも大幅な赤字となる。
  • リスク
    1. 個人消費のさらなる冷え込み:高級料理であるふぐへの需要が大きく減退する。
    2. コスト増の継続:人件費や原材料費の高騰を価格転嫁できず、利益率が悪化する。
    3. ブランド価値の毀損:競争激化やサービス品質の低下により、「玄品」ブランドの魅力が薄れる。

バリュエーション(企業価値評価)

  • 相対評価法
    • 同社は現在赤字のため、PER(株価収益率)やEV/EBITDAなどの利益ベースの評価指標は適用できません。PBR(株価純資産倍率)を指標とします。
    • 当第1四半期末の純資産は1,230百万円、発行済み株式数は13,698,753株であり、1株当たり純資産は90円程度と試算されます 。
    • 同社の株価がこの水準を上回っている場合、市場は将来の成長性を織り込んでいると判断できます。しかし、継続的な赤字計上と不透明な将来性を考慮すると、PBR1倍を下回る水準で評価される可能性も十分にあります。
    • 他の飲食チェーンと比較しても、同社のビジネスモデルは季節変動が大きく、安定性に欠けるため、高いプレミアムで評価されることは難しいと考えられます。

総括と投資家への提言

今回の決算は、同社が抱える構造的な課題を改めて浮き彫りにしました。売上高は増加したものの、その中身は既存事業の不振を新たな事業(本部による外部販売)が補う形であり、利益はコスト増によって圧迫されています

  • 投資スタンス弱気。確信度は75%です。
  • 提言:投資家は、以下の最重要KPIとイベントを注視すべきです。
    1. 既存店売上高の推移:特に直営店舗の売上が回復しない限り、主力事業の安定成長は見込めません。
    2. 販管費のコントロール:人件費や広告宣伝費の増加が、売上高の成長に見合っているか。コスト削減策が具体的にどの程度効果を発揮するか。
    3. 本部外部販売事業の成長性と利益貢献度:この事業が、既存事業の不振を補うだけの規模と利益率を確保できるか。
    4. 通期計画の下方修正の有無:経営陣が現在の楽観的な計画を維持できるか、あるいは現実的な見通しに修正するか。

今回の決算は、短期的な株価上昇のカタリストに乏しいと判断されます。特に、通期計画が据え置かれたことで、今後の計画修正リスクが潜在的な下落リスクとして残っています。中長期的な投資を検討する場合でも、まずは既存事業の収益力改善と、新規事業の本格的な利益貢献が見られるまで、慎重な姿勢を保つべきです。

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