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ウイルテック (7087):赤字縮小の裏に潜むセグメント格差とEMS事業の試金石。通期計画達成への視界は依然不透明

目次

1. エグゼクティブ・サマリー(結論ファースト)

  • 投資スタンス:中立(Neutral)
    • 確信度:60%
    • 2026年3月期第1四半期(1Q)決算は、主力のマニュファクチャリングサポート事業における収益性改善が寄与し、連結営業赤字が前年同期の162百万円から53百万円へと大幅に縮小した点は評価できる。しかし、これはあくまで「赤字幅の縮小」であり、黒字転換には至っていない。ITサポート事業とEMS事業は依然として赤字が継続し、事業ポートフォリオ内に深刻な温度差が存在する。通期業績予想は据え置かれたが、1Qの進捗と各事業の課題を鑑みると、その達成確度は高いとは言えず、現時点での株価は事業の実態を概ね織り込んでいると判断し、投資スタンスを「中立」とする。
  • 3行サマリー:
    • 何が起きたのか(事実): 1Q決算は、マニュファクチャリング事業における単価交渉の奏功と採算管理の徹底により、連結営業赤字が大幅に縮小した 。
    • なぜそれが重要なのか(本質): 一つの事業の改善が全体を牽引する一方で、IT事業の人材不足とEMS事業の需要低迷という構造的課題は未解決のままであり 、多角化戦略が必ずしもリスク分散として機能していない脆弱性を露呈している。
    • 次に何を見るべきか(注目点): 今後の焦点は、①6月末に竣工したEMS事業の須賀川工場が、国内製造業の回帰トレンドを捉え、本格的な収益ドライバーとなり得るか 、②不振が続くITサポート事業において、具体的な人材獲得・育成策を通じて黒字化への道筋を示せるか、の2点に集約される。
  • 主要カタリスト(ポジティブ要因)
    1. EMS事業の本格離陸: 新設の須賀川工場 を核に、半導体・電子部品分野で大型の受託製造案件を獲得し、生産能力増強がトップラインと利益率の向上に直結するシナリオ。
    2. 技術者派遣の単価上昇加速: 慢性的な人手不足を背景に、マニュファクチャリング(機電系) およびコンストラクション 分野で、想定を上回るペースでの派遣単価引き上げが実現し、全社の利益率を押し上げる。
    3. 半導体市況の急回復: 市場想定よりも早く半導体・電子部品の需要が回復し、製造派遣・請負およびEMS事業の双方で稼働率が急上昇する。
  • 主要リスク(ネガティブ要因)
    1. EMS事業の需要低迷継続: 米国の通商政策などのマクロ環境の不透明感から顧客の設備投資意欲が回復せず 、新工場の固定費負担が重荷となり、EMS事業の赤字がさらに拡大する。
    2. IT人材の獲得競争激化と流出: IT業界全体の人材不足と採用競争激化により、技術者の確保・育成が進まず 、ITサポート事業の減収・赤字構造から脱却できない。
    3. 運転資本の悪化: EMS事業の需要低迷による在庫の滞留や、売上債権の回収遅延が発生し、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)が悪化。営業キャッシュフローを圧迫する。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

株式会社ウイルテックは、「マニュファクチャリングサポート」「コンストラクションサポート」「ITサポート」「EMS」の4つの報告セグメントを核に事業を展開する複合企業体である。

  • マニュファクチャリングサポート事業: 製造請負・製造派遣、機電系技術者派遣、修理サービス 。
  • コンストラクションサポート事業: 建設系技術者派遣、工事の請負・受託 。
  • ITサポート事業: ITエンジニア派遣、請負開発 。
  • EMS事業: 電子機器の受託製造、電子部品卸売、照明器具の製造・販売 。

ビジネスモデルの評価: 同社の収益モデルは、その大部分が以下の数式で表現できる。

  • 売上高 = Σ {各事業の顧客数 × (稼働人数 (Q) × 平均単価 (P))}

このモデルの強みは、景気サイクルの異なる複数の業界(製造、建設、IT)に人材を供給することで、特定業界の不振を他で補うポートフォリオ効果を狙える点にある。また、製造請負から技術者派遣、EMSまで一貫したサービスを提供できる体制は、顧客に対するクロスセルやアップセルの機会を生み出す可能性がある。

一方で、脆弱性も明らかである。第一に、全事業が労働集約的、あるいは景気循環の影響を受けやすいという共通点を持つ。特に製造業の設備投資サイクルには大きく依存しており 、マクロ経済の変動が直接的に業績を揺さぶる。第二に、人材派遣事業は本質的に参入障壁が低く、常に価格競争と人材獲得競争に晒される。1Q決算でも、コンストラクション事業における賃金改定の先行投資 や、IT事業における採用競争の激化 が収益を圧迫しており、このモデルの構造的な課題が浮き彫りになっている。

競争環境: 同社の競争環境はセグメントごとに異なる。

  • 人材派遣領域では、UTグループ、パーソルテクノロジースタッフ、メイテック、テクノプロといった大手専門企業が競合となる。これらの競合と比較した場合、ウイルテックは特定の技術領域への特化度が相対的に低く、幅広い領域をカバーしている点が特徴だが、裏を返せば専門性やブランド力で劣後する可能性がある。
  • EMS領域では、国内外の多数の受託製造企業と競合する。同社は国内回帰の需要を捉えるべく福島県須賀川市に新工場を建設 したが、価格競争力や技術力、生産キャパシティにおいて、既存の大手EMS企業に対して明確な優位性を確立できるかは未知数である。

3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析:赤字縮小も、事業間の歪みは拡大

連結経営成績(累計)

| 項目 | 2026年3月期 1Q実績 | 2025年3月期 1Q実績 | 増減額 | 増減率 | | :— | :— | :— | :— | :— |

| 売上高 | 10,703百万円 | 10,497百万円 | +206百万円 | +2.0% |

| 営業利益(損失) | (53)百万円 | (162)百万円 | +109百万円 | ― |

| 経常利益(損失) | (28)百万円 | (163)百万円 | +135百万円 | ― |

| 親会社株主に帰属する四半期純利益(損失) | (85)百万円 | (149)百万円 | +64百万円 | ― |

売上高は前年同期比2.0%増と微増に留まったが、営業損失は109百万円改善した 。この利益改善の構造を理解するために、営業利益のブリッジ分析が不可欠である。

【必須】営業利益ブリッジ分析: 決算説明資料の増減要因分析 を基に、利益改善のドライバーを定量的に分解する。

  • 前年同期 営業損失: (162) 百万円
  • ① 売上高増減影響: +32 百万円
    • 売上高が206百万円増加したことによる利益貢献。マニュファクチャリング事業(+229百万円) とコンストラクション事業(+112百万円) の増収が主因である。
  • ② 粗利率変動影響: +136 百万円
    • これが今回の利益改善の最大の要因である。特に、マニュファクチャリングサポート事業において、物価上昇に伴う派遣価格の見直し(単価交渉)を積極的に進め、採算管理を徹底したことで粗利率が大幅に改善した
    • 一方で、コンストラクションサポート事業では、単価交渉を進めるも、賃金改定を先行させたことで一時的に粗利率が低下した 。このセグメント間の粗利率のまだら模様が、ポートフォリオ経営の難しさを示唆している。
  • ③ 販管費変動影響: (59) 百万円
    • 販管費は前年同期の1,835百万円から1,894百万円へと59百万円増加した 。これは主に、将来の成長に向けた人材採用・育成コストや、事業拡大に伴う経費の増加によるものと推察される。
  • 当期 営業損失: (53) 百万円

結論として、1Qの利益改善は、販管費の増加を上回るレベルで、主力のマニュファクチャリング事業の粗利率改善が実現した結果である。しかし、この改善が全社的なものではなく、特定事業に依存している点は注意が必要だ。

B/S分析:忍び寄る運転資本の影

項目2026年3月期 1Q末2025年3月期末増減額
総資産18,039百万円 18,123百万円 (84)百万円
純資産7,864百万円 8,076百万円 (212)百万円
自己資本比率43.6% 44.6% (1.0) pt

総資産は微減、純資産は四半期純損失(85百万円)と配当金の支払い(127百万円) により減少し、自己資本比率は1.0ポイント低下した。安全性に直ちに問題がある水準ではないが、B/Sの中で特に注視すべきは運転資本の動きである。

【必須】運転資本の分析(CCC:キャッシュ・コンバージョン・サイクル): 企業の仕入から販売、代金回収までの効率性を示すCCCを算出する。

  • 前提:
    • 1Q売上高: 10,703百万円
    • 1Q売上原価: 8,862百万円
    • 期末売上債権(受取手形、売掛金、契約資産、電子記録債権): 5,928百万円 (5,314+614)
    • 期末棚卸資産(商品、製品、仕掛品、原材料、貯蔵品): 3,636百万円 (1,859+793+984)
    • 期末仕入債務(支払手形、買掛金、電子記録債務): 2,695百万円 (1,923+772)
    • 回転日数計算期間: 91日 (2025/4/1~6/30)
  • 計算:
    • 売上債権回転日数 (DSO) = 5,928百万円 / (10,703百万円 / 91日) = 50.4日
    • 棚卸資産回転日数 (DIO) = 3,636百万円 / (8,862百万円 / 91日) = 37.3日
    • 仕入債務回転日数 (DPO) = 2,695百万円 / (8,862百万円 / 91日) = 27.6日
    • CCC = DSO + DIO – DPO = 50.4 + 37.3 – 27.6 = 60.1日

分析と示唆: 前期末(2025年3月期)と比較すると、

棚卸資産が489百万円増加している点が際立つ 。これはDIOの長期化を通じてCCCを悪化させ、運転資金需要を増大させる要因となる。決算説明資料ではEMS事業において「在庫調整が長期化しており需要の低迷が継続しております」 との記載があり、この在庫増が主に需要の回復が遅れているEMS事業に起因するものである可能性が高い。

この在庫の質、すなわち、陳腐化リスクや評価損計上のリスクについては、投資家として最大限の注意を払う必要がある。

キャッシュフロー(C/F)分析:利益の質への懸念

1Qの連結キャッシュ・フロー計算書は作成されていない 。しかし、B/Sの分析からキャッシュフローの状況を推察することは可能である。

当期は85百万円の純損失を計上したが、運転資本の変動を見ると、棚卸資産の増加(▲489百万円のキャッシュアウト要因)が重くのしかかっている。一方で、売上債権の減少(+406百万円のキャッシュイン要因)や未払費用の増加(+358百万円のキャッシュイン要因)などがこれを一部相殺している

営業活動によるキャッシュフローは、純損失に減価償却費(+55百万円) などを加えた上で、これらの運転資本の増減を調整した結果となる。特に棚卸資産の大幅な増加は、「利益の質」という観点からはネガティブな兆候と捉えられる。今後の四半期でこの在庫が順調に販売され、キャッシュに転換されるかどうかが重要となる。

資本効率性の評価:現状は価値創造も、予断は許さず

【必須】ROIC vs WACC分析: 企業が投下した資本に対してどれだけのリターンを生み出しているかを測り、資本コストを上回っているか(企業価値を創造しているか)を評価する。

  • ROIC(投下資本利益率)の試算(通期予想ベース):
    • NOPAT(税引後営業利益) = 予想営業利益 × (1 – 実効税率)
      • 予想営業利益: 1,100百万円
      • 実効税率: 38.3% と仮定((予想経常利益1,150 – 予想純利益710) / 予想経常利益1,150)
      • NOPAT = 1,100 × (1 – 0.383) = 679百万円
    • 投下資本 = 有利子負債 + 自己資本(1Q末時点)
      • 有利子負債: 1,009百万円 (短期借入金280 + 長期借入金729)
      • 自己資本: 7,864百万円
      • 投下資本 = 1,009 + 7,864 = 8,873百万円
    • ROIC = 679 / 8,873 = 7.7%
  • WACC(加重平均資本コスト)の試算:
    • 株主資本コスト(Ke): 7.2%(CAPMモデル: リスクフリーレート1.0% + β値1.2 × リスクプレミアム5.2%と仮定)
    • 負債コスト(Kd): 1.2%(支払利息÷有利子負債から推計)
    • WACC = 7.2% × (8,873 / 9,882) + 1.2% × (1-0.383) × (1,009 / 9,882) ≒ 6.5%

評価:ROIC (7.7%) > WACC (6.5%) 通期計画を達成すれば、同社は資本コストを上回るリターンを生み出し、企業価値を創造している状態にあると評価できる。しかし、これはあくまで「計画通りに進捗すれば」という前提に立つ。1Qの実績が赤字であることを踏まえれば、このスプレッド(ROICとWACCの差)は決して安泰とは言えず、今後の業績次第では容易に価値破壊領域に転落するリスクを内包している。


4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖

全社業績はセグメントごとのパフォーマンスの総和である。ウイルテックの現状を理解するには、各セグメントの状況を深く分析することが不可欠だ。

セグメント別業績(1Q実績) | セグメント | 売上高 (百万円) | 前年同期比 | セグメント利益(損失) (百万円) | 前年同期 (百万円) | | :— | :— | :— | :— | :— | | マニュファクチャリング | 4,849 | +5.0% | 106 | 5 |

| コンストラクション | 1,423 | +8.6% | 23 | 34 |

| ITサポート | 718 | △3.6% | (50) | (22) |

| EMS | 3,592 | △2.7% | (136) | (181) |

| その他 | 199 | △3.8% | 2 | (0) |

| 調整額 | (80) | ― | ― | ― |

| 連結合計 |

10,703 |

+2.0% |

(53) |

(162) |

  • 好調セグメント:マニュファクチャリングサポート
    • 要因: まさに全社の救世主である。半導体・電子部品の減産が長期化する逆風下でも 、機電系技術者派遣の需要が堅調に推移 。さらに、物価上昇を背景とした派遣価格の見直し交渉を積極的に進めたことで、利益率が劇的に改善した 。これは、同社の現場における価格交渉力とコスト管理能力の高さを示すものであり、高く評価できる。
  • 不振セグメント:ITサポート
    • 要因: 最も深刻な状況にある。AIやDX推進で業界全体の需要は旺盛にもかかわらず 、技術者不足と採用競争の激化により、配属人数が減少し減収となった 。未経験者や海外人材の採用・育成に注力しているが、これが先行投資となり利益を圧迫、損失が拡大している 。需要の波に乗り切れていない現状は、同社のIT分野における採用力・育成力・リテンション(定着)戦略に根本的な課題があることを示唆している。
  • 要注意セグメント:コンストラクションサポート & EMS
    • コンストラクションサポート: 旺盛な建設需要を背景に増収を確保したが、「2024年問題」に起因する人材不足対応や、万博関連プロジェクト完了後の人員再配置、先行した賃金改定などがコスト増となり、減益となった 。需要は強いものの、利益を確保することの難しさを示している。
    • EMS: 電子部品卸売と受託製造事業は、顧客の在庫調整が長期化し需要が低迷 。子会社ホタルクスの照明器具事業は健闘したものの 、セグメント全体では減収・赤字が継続した。6月末に竣工した須賀川工場 が2Q以降に本格稼働するが、足元の需要が弱い中で、この大規模投資が吉と出るか凶と出るか、まさに試金石となる。

ポートフォリオ・マネジメントの評価: 現状、同社のポートフォリオ戦略は「理想通りには機能していない」と評価せざるを得ない。マニュファクチャリング事業が屋台骨を支えている間に、他の事業、特にITとEMSをいかに立て直すかが経営陣の喫緊の課題である。各事業のシナジーも現状では限定的と見られ、コングロマリット・ディスカウントの要因となりかねない。


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

同社は、今回の1Q決算発表にあたり、2025年5月13日に公表した通期連結業績予想を

修正していない

通期業績予想 | 項目 | 2026年3月期 通期予想 | 2025年3月期 実績 | 前期比増減率 | 1Q終了時点 進捗率 | | :— | :— | :— | :— | :— | | 売上高 | 46,700百万円 | 44,578百万円 | +4.8% | 22.9% |

| 営業利益 | 1,100百万円 | 1,048百万円 | +4.9% | N/A (赤字) |

経営陣の判断に対する評価: 1Qが53百万円の営業赤字であったにもかかわらず、通期で1,100百万円の営業利益を達成するという計画を据え置いた経営陣の判断は、極めて強気、あるいは楽観的と言わざるを得ない。この計画を達成するには、残り9ヶ月(2Q~4Q)で約11.5億円の営業利益を稼ぎ出す必要がある。

同社の説明では、1Qは新卒採用・教育に伴う先行投資期間であり 、2Q以降に新卒配属が進むことで稼働率が向上するとしている 。また、EMS事業の新工場立ち上げ費用も2Qに発生する見込みだ 。しかし、これらを考慮しても、特に需要回復のタイミングが見通しにくいEMS事業と、構造的な課題を抱えるIT事業が、下期に劇的に収益を改善させるというシナリオの蓋然性は現時点では低い。

計画を修正しなかったことは、①下期からの需要回復に相当な自信を持っている、②あるいは、投資家心理への配慮から安易な下方修正を避けた、という2つの可能性が考えられる。いずれにせよ、経営陣の需要予測能力と計画実行力は、2Q以降の決算で厳しく問われることになる。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

今後12ヶ月の業績を、3つのシナリオで展望する。

  • 基本シナリオ(蓋然性: 60%):緩やかな回復も、計画には届かず
    • 前提: 半導体・電子部品需要は2025年後半から緩やかに回復。EMSの新工場は徐々に稼働率を上げるが、フル貢献は来期以降。マニュファクチャリングは引き続き堅調に推移。ITとコンストラクションの利益率は低空飛行が続く。
    • 業績予測: 売上高 460億円、営業利益 9.5億円(計画比 未達)
    • カタリスト: 自動車関連向けを中心に製造派遣の需要が底堅く推移。
    • リスク: 想定以上にIT人材の採用・育成コストが嵩む。
  • 強気シナリオ(蓋然性: 15%):EMS覚醒と市況回復の追い風
    • 前提: 世界的な半導体需要が想定を上回るペースで回復。国内回帰の流れを捉え、EMS事業で大型の受託製造案件を複数獲得し、新工場がフル稼働。技術者派遣の単価交渉も全セグメントで成功。
    • 業績予測: 売上高 480億円、営業利益 13億円(計画比 超過)
    • カタリスト: 「WILL ONE」ブランド の認知度が向上し、新規顧客開拓が加速。
    • リスク: 急激な需要増に対応できるだけの、質の高い人材を迅速に確保できない。
  • 弱気シナリオ(蓋然性: 25%):需要低迷の長期化とコスト増
    • 前提: 米国通商政策の混乱などにより世界経済の不透明感が払拭されず、製造業の設備投資意欲が停滞。EMSの新工場は低稼働に喘ぎ、固定費が重荷となる。IT事業は人材流出に歯止めがかからず、損失がさらに拡大。
    • 業績予測: 売上高 440億円、営業利益 6億円(計画比 大幅未達)
    • カタリスト: (なし)
    • リスク: 滞留在庫の評価損計上、人材獲得のための賃金上昇圧力が利益をさらに圧迫。

7. バリュエーション(企業価値評価)

  • 相対評価法(競合比較):
    • 同社の通期EPS予想は111.79円 。2025年8月12日時点の株価を仮に1,500円とすると、予想PERは約13.4倍となる。
    • これは、技術者派遣大手のテクノプロ(PER 20倍台)やメイテック(同 20倍前後)と比較すると割安に見える。しかし、UTグループ(同 10倍台前半)とは近い水準にある。
    • ウイルテックの株価がプレミアム評価を得られていない理由は、①利益率が相対的に低いこと、②IT・EMSなど不振事業を抱え、業績の予見性が低いこと、③事業の多角化がシナジーを生むよりむしろコングロマリット・ディスカウントを招いていること、などが挙げられる。現在の株価水準は、これらの懸念を織り込んだ妥当な範囲内にあると考えられる。
  • 絶対評価法(簡易DCF法):
    • 基本シナリオ(NOPAT 約6億円、成長率1.5%)とWACC(6.5%)を基に簡易的に試算すると、現在の時価総額水準から大きく乖離しない結果となる。これは、市場が同社の将来のキャッシュフロー創出力に対して、過度な期待も悲観もしていないことを示唆する。株価が大きく上昇するには、基本シナリオを上回る成長ストーリー(強気シナリオの実現)を市場に提示する必要がある。

8. 総括と投資家への提言

ウイルテックの1Q決算は、**「一つの光明と三つの課題」を浮き彫りにした。主力のマニュファクチャリング事業が見せた収益改善力は、同社の現場力の強さを示す「光明」である。しかし、IT事業の構造不振、コンストラクション事業のコスト圧力、そして期待と不安が交錯するEMS事業という「三つの課題」**は、依然として重くのしかかる。

明確な投資スタンス: 現時点では**「中立(Neutral)」**を維持する。マニュファクチャリング事業の底堅さが株価の下値を支える一方、不振事業の立て直しとEMS新工場の成否が見えるまでは、株価が積極的に上値を追う展開は想定しにくい。経営陣が据え置いた強気な通期計画は、達成されればポジティブ・サプライズとなるが、そのハードルは極めて高い。

投資家が注視すべき最重要KPI/イベント: 今後の株価動向を判断する上で、以下の3点を注視することを強く推奨する。

  1. EMS事業の売上高と利益率(2Q決算以降): 新工場が本格稼働する2Q以降、同事業が赤字を縮小し、黒字化への道筋をつけられるか。特に受注残高の推移は需要の先行指標として重要である。
  2. ITサポート事業の技術者稼働率と採用・定着数: 同事業の立て直しの進捗を測る上で最も重要な指標。単なる売上・利益だけでなく、その源泉となる人材の動向を追う必要がある。
  3. 四半期ごとの棚卸資産回転日数(DIO): 全社の運転資本効率、特にEMS事業の在庫の質を見極めるための最重要指標。DIOが改善傾向にあれば、需要回復とキャッシュフロー好転の兆しと捉えられる。

投資家は、これらの指標が明確な改善トレンドを示すまで、焦ってポジションを取るべきではない。ウイルテックが真の成長軌道に乗るためには、ポートフォリオ全体の歪みを是正し、全ての事業が一体となって価値を創造する姿を市場に示す必要がある。その転換点を見極めるまで、慎重な姿勢を維持することが賢明であろう。

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