決算ハイライト
アダストリア(2685)が2025年6月30日に発表した2026年2月期第1四半期決算は、売上高が過去最高を更新する一方で、利益面では減益となる明暗分かれる結果となった。
重要ポイント
- 売上高774億円(前年同期比+4.7%):1Qとして過去最高を記録
- 営業利益56億円(同▲6.8%):戦略投資により減益も期初計画通り
- 売上総利益率56.6%(同+0.4p):事業ミックス改善により向上
- and STのオープン化が順調:グループ外ブランド参画数が計画上回る
業績サマリー
連結損益計算書(2026年2月期第1四半期)
項目 | 2025年2月期1Q | 2026年2月期1Q | 前年同期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 740億円 | 774億円 | +4.7% |
売上総利益 | 416億円 | 438億円 | +5.4% |
販管費 | 356億円 | 382億円 | +7.4% |
営業利益 | 60億円 | 56億円 | ▲6.8% |
経常利益 | 63億円 | 54億円 | ▲13.8% |
当期純利益 | 44億円 | 43億円 | ▲0.7% |
分析ポイント
【売上高増加の要因】
- プラットフォーム事業:and STへの外部ブランド参画が順調
- グローバル事業:アジア各国の堅調な推移
- ブランドリテール事業:エレメントルール社の好調
【利益減少の要因】
- 広告宣伝費:戦略的投資により+7.1億円(売上高比3.6%)
- 設備費:旗艦店出店により+10.8億円(売上高比17.7%)
- 為替差損:2.3億円の営業外損失
事業別業績分析
1. プラットフォーム事業(39億円、前年同期比+計画上回り)
注目すべき成果
- and ST GMV 117億円(前年同期比+13.5%)
- グループ外販売10億円(前年同期比+514.6%)
- 外部ブランド参画33ショップ(前年同期比+24ショップ)
戦略分析 アダストリアの「オープン化戦略」が着実に成果を上げている。特に注目すべきは、グループ外販売の急激な拡大で、構成比は8.8%まで上昇。Kappa、KiU、FILA等の有力ブランドの参画により、プラットフォームとしての魅力が向上している。
and ST TOKYO旗艦店の戦略的意義 4月24日に原宿駅前にオープンした旗艦店は、単なる販売拠点を超えたブランド認知向上の戦略拠点として機能。IPコラボ商品やインバウンド向け限定商品の販売により、新たな顧客層の開拓に成功している。
2. グローバル事業(64億円、前年同期比+10.1%)
地域別業績
- 中国大陸:EC好調により増収、赤字縮小
- 台湾:ららぽーと南港に10ブランド出店、ラコレ海外1号店も開店
- 香港:計画線で推移、安定した収益性維持
- 米国:景気不透明感で卸売不振、売却交渉中
戦略考察 台湾でのマルチブランド戦略が特に注目される。三井ショッピングパーク ららぽーと南港への大規模出店は、現地でのブランド認知度向上と売上拡大の両面で効果を発揮。一方、米国事業の売却方針は、アジア市場への経営資源集中を明確に示している。
3. ブランドリテール事業(704億円、前年同期比+堅調)
主要ブランド業績
- エレメントルール:全ブランド好調で増収増益(+16.4%)
- レプシィム:春夏商材好調で+19.7%
- ラコレ:出店進捗により+11.1%
- グローバルワーク:ベーシックライン休止影響で微減
銀座旗艦店の戦略的価値 GLOBAL WORK GINZAの開店は、都市部展開加速とインバウンド取り込みの両面で重要な意味を持つ。海外展開本格化の準備としてのブランド認知向上効果も期待される。
財務分析
バランスシート分析(2025年5月末)
項目 | 金額 | 前年同期比 | 分析コメント |
---|---|---|---|
総資産 | 1,469億円 | +11.0% | M&A投資による健全な拡大 |
棚卸資産 | 299億円 | +11.0% | 売上拡大に伴う適正な増加 |
借入金 | 107億円 | – | M&A資金調達、一時的な増加 |
純資産 | 782億円 | +5.3% | 自己資本比率53.2%で健全 |
キャッシュフロー見通し
特別利益の計上予定
- 福岡物流センター売却:2025年9月予定、特別利益34億円(税引前)
- 物流戦略の最適化:拠点集約・大型化・機械化による効率向上
投資判断と今後の見通し
強み・機会
✅ プラットフォーム戦略の成功:外部ブランド参画数が計画上回り ✅ アジア市場での成長:台湾、中国での事業拡大が順調 ✅ 旗艦店戦略:ブランド認知向上と集客力強化 ✅ 物流最適化:投資効率改善と将来の収益性向上
課題・リスク
⚠️ 利益率の圧迫:戦略投資による短期的な収益性悪化 ⚠️ 米国事業の不振:売却完了まで業績へのマイナス影響継続 ⚠️ 円安の影響:仕入コスト上昇圧力 ⚠️ 春物商材の苦戦:気温要因による季節商品の販売リスク
2026年2月期通期見通し
会社は通期業績予想を据え置き:
- 売上高3,050億円(前期比+4.1%)
- 営業利益190億円(前期比+22.5%)
- 営業利益率6.2%(前期比+0.9p)
投資判断:【中立~やや強気】
判断理由
- プラットフォーム戦略の着実な進展が中長期的な成長基盤を構築
- アジア市場での事業拡大が収益多様化に寄与
- 一時的な利益圧迫要因は戦略投資によるもので、将来への布石
- 物流最適化による効率改善効果が今後本格化
注目ポイント
- 第2四半期以降のプラットフォーム事業の成長加速
- 米国事業売却完了による業績改善
- 福岡物流センター売却による特別利益計上(34億円)
- 新中期経営計画2030の進捗状況
アダストリアは短期的な利益圧迫を伴いながらも、中長期的な成長基盤の構築を着実に進めている。プラットフォーム戦略とアジア展開の成功により、従来のアパレル小売企業の枠を超えたファッションテックカンパニーへの変貌が期待される。
本分析は2025年6月30日発表の決算資料に基づいています。投資判断は自己責任でお願いします。