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【中級者向け】NISAで利益が出た!「利益確定(利確)」のタイミングと税金の基本ルール

この記事は、CFP(Certified Financial Planner)資格を保有し、大手銀行で10年間個人向け資産運用コンサルタントとして勤務した田中幸恵が執筆しています。自身も20代で株式投資で200万円の損失を経験し、その後つみたてNISAと確定拠出年金で資産3,000万円を築いた実体験を基に、読者の皆様の資産形成をサポートいたします。

目次

プロローグ:利益が出た喜びと、新たな悩み

「先生、NISAで買った投資信託が30%も上がっているんです!でも、いつ売ればいいのか全然わからなくて…」

これは、昨年12月に私のもとに相談に来られた会社員の佐藤さん(仮名・35歳)の言葉です。3年前につみたてNISAを始めた佐藤さんは、コツコツと毎月3万円ずつ全世界株式インデックスファンドに投資を続けてこられました。

そして気がつけば、投資元本108万円に対して評価額が約140万円に。含み益が32万円も出ている状況でした。

「嬉しいはずなのに、なぜか不安で夜も眠れないんです。このまま持ち続けるべきか、それとも一度利益を確定すべきか…税金のこともよく分からないし…」

佐藤さんの悩みは、NISA投資で利益が出始めた多くの中級投資家が抱える共通の課題でした。

実は私自身も、20代の頃に同じような経験をしています。個別株で大きな含み益が出たときに「まだ上がるかも」と欲張って売り時を逃し、結果的に200万円もの損失を出してしまったのです。その苦い経験から学んだのは、「利益確定には明確な基準と心の準備が必要」ということでした。

今回の記事では、NISAで利益が出た際の「利確」のタイミングと、一般口座や特定口座との税金の違いについて、具体例を交えながら詳しく解説していきます。あなたが佐藤さんのような悩みを抱えているなら、きっとお役に立てるはずです。

第1章:まず確認!NISA制度の基本と利確の前提知識

なぜNISAでの利確判断が難しいのか

「利益が出ているなら売ればいいじゃない」と思われるかもしれません。しかし、NISAにはいくつかの特徴があるため、一般的な投資とは異なる判断が必要になります。

まずは、利確を考える前提として、NISA制度の基本的な仕組みを整理しておきましょう。

NISA制度の3つの基本特徴

1. 売却益・配当金が非課税 通常の証券口座(特定口座・一般口座)で投資をした場合、売却益や配当金に対して20.315%の税金がかかります。しかし、NISA口座内での取引では、この税金が一切かかりません。

例えば、100万円で購入した投資信託が130万円になって売却した場合:

  • 一般・特定口座:利益30万円×20.315%=約6万円の税金
  • NISA口座:税金0円

この差は非常に大きく、「せっかく非課税なのに売ってしまうのはもったいない」と感じる投資家が多いのも理解できます。

2. 非課税投資枠の復活はなし(売却した分の枠は戻らない) これは多くの投資家が誤解しているポイントです。例えば、つみたてNISAで年間40万円の枠を使って投資した商品を売却しても、その年の非課税投資枠は復活しません。

具体例で説明しましょう:

  • 1月に40万円分の投資信託を購入(年間枠を満額使用)
  • 6月にそれを50万円で売却(10万円の利益)
  • その年はもうNISAで新規投資はできない

ただし、翌年になれば新たに40万円の投資枠が与えられます。

3. 損失と利益の相殺(損益通算)ができない これはNISAの隠れたデメリットです。NISA口座内で損失が出ても、他の課税口座での利益と相殺することができません。

つみたてNISAと一般NISAの利確における違い

つみたてNISA

  • 年間投資枠:40万円
  • 非課税期間:20年間
  • 投資対象:金融庁が認めた投資信託・ETFのみ
  • 売却制限:いつでも売却可能

一般NISA

  • 年間投資枠:120万円
  • 非課税期間:5年間
  • 投資対象:株式、投資信託、ETF、REITなど
  • ロールオーバー:可能(条件あり)

利確を考える上で重要なのは、非課税期間の違いです。一般NISAは5年で非課税期間が終了するため、その時点で含み益がある場合は以下の選択肢があります:

  1. そのまま売却(利益確定)
  2. 翌年の一般NISA枠にロールオーバー
  3. 特定口座に移管(その時点の価格が新たな取得価格となる)

一方、つみたてNISAは20年間という長期間があるため、期限を気にせずじっくりと利確タイミングを検討できます。

第2章:利確タイミングの判断基準 – プロが実践する5つの視点

利確のタイミングを判断するのは、投資において最も難しい判断の一つです。私自身の失敗経験と、10年間のコンサルタント経験から導き出した「利確判断の5つの基準」をお伝えします。

基準1:目的達成度による判断(目的指向型利確)

あなたは何のためにNISA投資を始めましたか?

この質問に明確に答えられる人は、利確のタイミングも明確になります。

マイホーム購入資金目標の場合 35歳の田中さん(仮名)は、5年後のマイホーム購入に向けて頭金500万円を目標に一般NISAで投資を始めました。開始から3年で投資元本300万円が420万円になり、残り2年で目標まで80万円となりました。

この場合の判断基準:

  • 現在の資産額:420万円
  • 目標額:500万円
  • 達成率:84%

「目標まで80万円だから、あと2年で達成できそう」と考えるか、「すでに84%達成しているので、リスクを減らすために一部利確し、安全な商品にシフトする」と考えるかは、その人のリスク許容度によります。

教育資金目標の場合 子どもが現在10歳で、大学入学時(18歳)までに300万円を貯めたい場合、つみたてNISAで8年間投資を続ける計画を立てたとします。

5年目時点で:

  • 投資元本:200万円
  • 評価額:280万円
  • 目標達成率:93%

この場合、「目標にほぼ到達しているので、残り3年はリスクを抑えた運用にシフトする」という判断は非常に合理的です。

基準2:ポートフォリオバランスによる判断(資産配分調整型利確)

投資を続けていると、当初想定していた資産配分(アセットアロケーション)が崩れてきます。この調整のために利確を行う考え方です。

具体例:株式と債券の配分調整 40歳の山田さん(仮名)は、以下の資産配分を目標にしていました:

  • 株式:70%
  • 債券:30%

しかし、3年後の状況は以下のようになりました:

  • 株式(NISA含む):850万円(85%)
  • 債券:150万円(15%)
  • 合計:1,000万円

このように株式の比重が高くなりすぎた場合、NISA口座内の株式インデックスファンドの一部を利確し、債券やREITに再投資することで、リスクバランスを調整することができます。

年齢に応じたリスク調整 「100マイナス年齢=株式比率」という考え方があります。50歳なら株式50%、債券50%という具合です。

年齢が上がるにつれて:

  1. 株式比率を下げる(リスクを減らす)
  2. 債券・現金比率を上げる(安定性を重視)

このような調整のために、NISA内で利益が出ている株式ファンドを一部売却するのは合理的な判断です。

基準3:市場環境による判断(マーケットタイミング型利確)

「マーケットタイミングを読むのは不可能」と言われますが、明らかに過熱している相場環境では一部利確を検討する価値があります。

バブル的な上昇の見極め方 私が実際に利確を検討する目安は以下の通りです:

  1. PERが歴史的高水準
    • 日本株:PER20倍超え
    • 米国株:PER25倍超え
  2. 身の回りの投資ブーム
    • 投資経験のない友人・同僚が投資を始める
    • SNSで投資の成功談が頻繁に投稿される
    • 「絶対儲かる」系の投資セミナーが増える
  3. メディアの過度な楽観論
    • 「株価2倍」「10年で○倍」といった記事が増える
    • リスクよりもリターンばかりが強調される

2021年の実体験 実際に2021年前半、米国株が過度に上昇していた時期に、私は一般NISA内の米国株インデックスファンドの30%を利確しました。その後、2022年にかけて大きな調整が入りましたが、利確した資金で押し目を拾うことができ、結果的に良い判断となりました。

ただし、マーケットタイミングを完璧に読むことは不可能です。これは補助的な判断基準として考えるべきでしょう。

基準4:個人の生活状況変化による判断(ライフイベント対応型利確)

投資は人生の一部です。生活状況が変われば、投資戦略も変わって当然です。

転職・収入減少時の対応 45歳の佐々木さん(仮名)は、会社のリストラで年収が800万円から500万円に減少しました。この時点でNISA口座には200万円の含み益がある投資信託がありました。

選択肢は以下の通り:

  1. 全て利確して生活資金に充てる
  2. 一部利確して当面の生活安定を図る
  3. そのまま保有を続ける

佐々木さんは、含み益の半分(100万円)を利確し、残りは長期投資を継続する道を選びました。「将来の資産形成も大切だが、今の生活の安定がより重要」という判断でした。

家族の病気・介護対応 突発的な医療費や介護費用が必要になった場合、NISA内の利益を活用するのは現実的な選択です。非課税で利益確定できるNISAは、まさにこのような時のための制度でもあります。

基準5:心理的負担による判断(精神的健康重視型利確)

これは数字では測れませんが、非常に重要な基準です。

含み損が気になって仕事に集中できない 「投資で利益が出ているのに、なぜか毎日株価をチェックしてしまい、下がると不安で眠れない」

このような状態は決して健康的ではありません。投資は人生を豊かにするための手段であって、ストレスの原因になるものではないからです。

利確による心の平安 実際に、私が相談を受けた中で「利確して良かった」と言われる理由の多くは、金銭的な利益よりも「心の平安」です。

「毎日の株価変動に一喜一憂するのが疲れた」 「利益確定して安心して眠れるようになった」 「投資のことを考える時間が減って、本業に集中できるようになった」

このような声は決して少なくありません。

第3章:NISA内での利確メリットとデメリットの深層分析

利確の判断基準を理解したところで、次はNISA内で利確することの具体的なメリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。

NISA利確の4つのメリット

メリット1:税金ゼロの威力を実感する

最も大きなメリットは、やはり税金がかからないことです。具体的な数字で見てみましょう。

100万円投資→150万円で利確した場合の税金比較

  • 一般・特定口座:(150万円 – 100万円) × 20.315% = 101,575円の税金
  • NISA口座:税金0円
  • 差額:101,575円

この10万円強の差は、家計にとって非常に大きな意味を持ちます。例えば:

  • 家族4人の国内旅行費用
  • 子どもの塾代3ヶ月分
  • 食費2ヶ月分

より大きな利益での比較 投資が成功して、200万円→400万円になった場合:

  • 一般・特定口座:(400万円 – 200万円) × 20.315% = 406,300円の税金
  • NISA口座:税金0円
  • 差額:406,300円

40万円以上の節税効果は、次の投資資金としても大きな意味を持ちます。

メリット2:確実な利益の手取り増加

投資を続けていると「まだ上がるかもしれない」という欲が出てきます。しかし、確実に言えるのは「今売れば確実にこの利益が手に入る」ということです。

私の失敗談をお話ししましょう。20代の頃、ある個別株が2倍になりました。100万円が200万円です。しかし「まだ上がる」と思って売らずにいたところ、その後の暴落で結局80万円まで下がってしまいました。

あの時、200万円で売っていれば100万円の利益(手取り約80万円)が確実に得られていたのに、欲をかいた結果20万円の損失となってしまいました。

確実性の価値 「鳥一羽を手に持つほうが、茂みの中の鳥二羽より価値がある」という英語のことわざがあります。投資においても、確実な利益の価値を軽視してはいけません。

メリット3:資金の機動性向上

利確した資金は以下のような用途に使えます:

  1. 新しい投資機会への対応
    • より魅力的な投資商品が現れた場合
    • 市場の暴落時の買い増し資金として
  2. ライフプランの前倒し実行
    • マイホーム購入の頭金
    • 子どもの教育費
    • 旅行や趣味への投資
  3. 安全資産への配分調整
    • 預金や債券への振り分け
    • 元本保証商品での安定運用

メリット4:学習効果と経験蓄積

利確を経験することで得られる学習効果も見逃せません:

  1. 売買のタイミング感覚の習得
  2. 利益確定の心理的ハードルの軽減
  3. 投資戦略の実践的理解

初回の利確は心理的なハードルが高いものですが、一度経験すると次回からの判断がしやすくなります。

NISA利確の5つのデメリット

メリットがある一方で、デメリットも正直にお伝えする必要があります。

デメリット1:非課税枠の「消費」

これが最も大きなデメリットです。売却した分の非課税枠は二度と戻ってきません。

つみたてNISAの場合(年間40万円枠)

  • 3年間投資:40万円 × 3年 = 120万円の枠を使用
  • 利益が出て全て売却:120万円分の枠が「消費済み」
  • 再投資可能な枠:その年の残り枠のみ

この枠の貴重性を考えると、本当に利確が必要かどうか慎重な判断が求められます。

一般NISAの場合(年間120万円枠) 枠が大きい分、より「もったいない」感覚が強くなります。特に5年間という期限があるため、早期利確は非課税期間を十分活用できないということになります。

デメリット2:機会損失のリスク

利確後にさらに価格が上昇した場合の機会損失です。

実際の例:米国株インデックスファンド

  • 2020年3月:コロナショック底値で購入
  • 2020年12月:50%上昇で利確
  • その後2021年末まで:さらに30%上昇

この場合、利確しなければ合計で95%の上昇(1.5倍 × 1.3倍 ≒ 1.95倍)を享受できていました。

ただし、これは結果論です。その時点では「50%も上がったから利確しよう」という判断も十分合理的でした。

デメリット3:再投資タイミングの難しさ

利確した後、「いつ再投資するか」という新たな悩みが生まれます。

よくあるパターン

  1. 高値で利確する
  2. 「もう少し下がってから買い直そう」と思う
  3. 価格が上昇を続ける
  4. 結局、利確した価格より高い価格で買い直すことになる

これは「売り高買い安」と呼ばれる、投資家が陥りやすい失敗パターンです。

デメリット4:税務上の取得価格リセット問題

NISA口座では関係ありませんが、将来的に課税口座に移す際の問題です。

つみたてNISAの20年後の選択 つみたてNISAは20年経過後、以下の選択をする必要があります:

  1. 売却(利益確定)
  2. 特定口座への移管

移管を選んだ場合、移管時の価格が新しい「取得価格」となります。つまり、NISA期間中の値上がり益は、移管後に課税対象となってしまいます。

デメリット5:心理的な「売り癖」の定着

これは意外に見落とされがちですが、重要なデメリットです。

一度利確を経験すると、その後少し利益が出るたびに「売りたい」衝動に駆られることがあります。しかし、長期投資の成功には「我慢」が欠かせません。

短期売買の罠

  • 小さな利益で満足してしまう
  • 大きな利益を逃す
  • 取引コストが積み重なる
  • 市場タイミングに振り回される

第4章:課税口座との税金比較 – 数字で見る圧倒的な差

NISA口座と課税口座(一般口座・特定口座)での税金の違いを、具体的なシミュレーションで比較してみましょう。

日本の投資税制の基本構造

課税口座での税率:20.315%の内訳

  • 所得税:15%
  • 住民税:5%
  • 復興特別所得税:0.315%(所得税の2.1%)
  • 合計:20.315%

この税率は、株式や投資信託の売却益、配当金に一律で適用される「申告分離課税」の税率です。

ケーススタディ1:つみたてNISAでの長期積立投資

条件設定

  • 毎月の積立額:33,333円(年間約40万円)
  • 投資期間:10年間
  • 想定年平均リターン:5%
  • 投資商品:全世界株式インデックスファンド

10年後の結果比較

つみたてNISA口座の場合

  • 投資元本:400万円
  • 最終評価額:約503万円
  • 利益:103万円
  • 税金:0円
  • 手取り利益:103万円

特定口座の場合

  • 投資元本:400万円
  • 最終評価額:約503万円
  • 利益:103万円
  • 税金:103万円 × 20.315% = 約21万円
  • 手取り利益:約82万円

差額:21万円

この21万円の差は決して小さくありません。家族の海外旅行費用や、子どもの習い事1年分に相当する金額です。

ケーススタディ2:一般NISAでの一括投資

条件設定

  • 投資金額:120万円(一般NISA満額)
  • 投資期間:5年間
  • 想定年平均リターン:7%
  • 投資商品:米国株式インデックスファンド

5年後の結果比較

一般NISA口座の場合

  • 投資元本:120万円
  • 最終評価額:約168万円
  • 利益:48万円
  • 税金:0円
  • 手取り利益:48万円

特定口座の場合

  • 投資元本:120万円
  • 最終評価額:約168万円
  • 利益:48万円
  • 税金:48万円 × 20.315% = 約10万円
  • 手取り利益:約38万円

差額:10万円

ケーススタディ3:配当金の税金比較

投資信託やETFから受け取る分配金・配当金にも税金がかかります。

高配当株式ETFの例

  • 投資元本:300万円
  • 年間配当利回り:3%
  • 年間配当金:9万円

NISA口座の場合

  • 受取配当金:9万円(税金なし)

特定口座の場合

  • 配当金総額:9万円
  • 税金:9万円 × 20.315% = 約1.8万円
  • 受取配当金:約7.2万円

年間で1.8万円、10年間なら18万円の差になります。

損益通算ができないNISAの注意点

ただし、NISA口座には「損益通算ができない」というデメリットがあります。

損益通算とは 複数の投資で利益と損失が出た場合、それらを相殺して税金を計算する仕組みです。

具体例 同じ年に以下の取引をした場合:

  • A投資信託:+50万円の利益
  • B株式:-30万円の損失

特定口座の場合(損益通算あり)

  • 課税対象利益:50万円 – 30万円 = 20万円
  • 税金:20万円 × 20.315% = 約4万円

NISA + 特定口座の組み合わせ

  • NISA口座でA投資信託:+50万円(税金なし)
  • 特定口座でB株式:-30万円(損失は税務上意味なし)
  • 損益通算不可

このように、NISA口座の利益と課税口座の損失は相殺できません。

繰越控除も適用されない

繰越控除とは 株式投資で損失が出た年に、その損失を翌年以降3年間にわたって利益と相殺できる制度です。

しかし、NISA口座での損失は繰越控除の対象になりません。つまり、NISA口座で損失が出ても、将来の税金軽減には一切役立たないということです。

繰越控除の例(特定口座の場合)

  • 1年目:100万円の損失
  • 2年目:60万円の利益

特定口座なら:

  • 課税対象:60万円 – 100万円 = 0円
  • 税金:0円
  • 翌年への繰越損失:40万円

NISA口座なら:

  • 1年目の損失:税務上は存在しないものとして扱われる
  • 2年目の利益:他の口座の損失と相殺不可

第5章:実践的な利確戦略 – プロが教える7つのパターン

ここからは、具体的な利確戦略を7つのパターンに分けて解説します。それぞれの戦略には適用場面と注意点があります。

戦略1:段階的利確戦略(階段売り)

基本コンセプト 一度に全てを売却するのではなく、価格の上昇に合わせて段階的に利確していく方法です。

具体的な実行方法 投資元本100万円の投資信託が値上がりした場合:

  • 120万円到達(+20%):保有量の25%を売却
  • 140万円到達(+40%):保有量の25%を売却
  • 160万円到達(+60%):保有量の25%を売却
  • 残り25%:長期保有継続

メリット

  1. 利益の一部は確実に確保できる
  2. 上昇相場が続いた場合も利益を享受できる
  3. 心理的な負担が軽減される

デメリット

  1. 非課税枠を段階的に「消費」する
  2. 売買回数が増える
  3. 管理が複雑になる

向いている人

  • 投資初心者で利確の経験を積みたい人
  • 一括利確の心理的ハードルが高い人
  • ある程度まとまった投資資金がある人

実践例:田中さんのケース 私が相談を受けた田中さん(42歳・会社員)は、一般NISAで購入した米国株インデックスファンド120万円が、2年で180万円に値上がりしました。

田中さんが選択した戦略:

  1. 150万円到達時:30万円分を利確(25%売却)
  2. 180万円到達時:さらに30万円分を利確(残りの33%売却)
  3. 残り120万円分:継続保有

結果的に、利確した60万円は後の調整局面で買い増し資金として活用し、トータルで良い成果を得られました。

戦略2:目標達成型利確戦略

基本コンセプト あらかじめ設定した目標金額に到達したら利確する、最もシンプルな戦略です。

目標設定の考え方

ライフイベント基準

  • マイホーム頭金500万円目標:達成時点で全額利確
  • 子どもの大学資金300万円目標:達成時点で全額利確
  • 老後資金2,000万円目標:段階的利確も検討

パーセンテージ基準

  • 投資元本の150%到達:全額利確
  • 投資元本の200%到達:半分利確
  • 年間リターン20%超過:超過分利確

実践例:佐藤さん夫妻のケース 佐藤さん夫妻(夫35歳、妻33歳)は、5年後のマイホーム購入に向けて頭金500万円を目標に投資を開始。

投資計画

  • つみたてNISA(夫):年40万円 × 5年 = 200万円
  • つみたてNISA(妻):年40万円 × 5年 = 200万円
  • 一般NISAまたは特定口座:年120万円 × 5年 = 600万円
  • 合計投資予定額:1,000万円

4年目の状況

  • 投資元本:800万円
  • 評価額:1,050万円
  • 含み益:250万円

目標の500万円は既に大幅に上回っているため、以下の判断を行いました:

  1. 目標額500万円分は安全な定期預金に移す
  2. 残り550万円は引き続き投資継続
  3. マイホーム購入後は、改めて老後資金目標を設定

戦略3:リバランス型利確戦略

基本コンセプト ポートフォリオのバランスを維持するための利確戦略です。

標準的な年代別ポートフォリオ例

30代の理想的配分

  • 国内株式:20%
  • 先進国株式:40%
  • 新興国株式:10%
  • 国内債券:10%
  • 先進国債券:15%
  • REIT:5%

50代の理想的配分

  • 国内株式:15%
  • 先進国株式:25%
  • 新興国株式:5%
  • 国内債券:25%
  • 先進国債券:25%
  • REIT:5%

リバランスのタイミング

  1. 時間基準:年1回または半年に1回
  2. 乖離基準:目標配分から5%以上ずれた時
  3. ライフステージ変化時:転職、結婚、出産など

実践例:山田さんのリバランス 山田さん(45歳)の当初ポートフォリオ:

  • 国内株式:200万円(33%)
  • 先進国株式:300万円(50%)
  • 債券・REIT:100万円(17%)
  • 合計:600万円

3年後の状況:

  • 国内株式:220万円(26%)
  • 先進国株式:450万円(54%)← 目標50%から4%オーバー
  • 債券・REIT:160万円(19%)
  • 合計:830万円

リバランス実行 先進国株式が目標配分を上回っているため:

  1. NISA口座内の先進国株式ファンド30万円分を利確
  2. 債券ファンドに25万円投資
  3. REITに5万円投資

これにより理想的な配分に戻しました。

戦略4:年齢・ライフステージ対応型利確戦略

基本コンセプト 年齢やライフステージの変化に合わせてリスクを調整する利確戦略です。

ライフステージ別リスク許容度

20代(独身)

  • リスク許容度:高
  • 株式比率:80-90%
  • 利確タイミング:基本的に長期保有

30代(既婚・子供あり)

  • リスク許容度:中~高
  • 株式比率:60-70%
  • 利確タイミング:教育費準備時期に合わせて段階的利確

40代(教育費ピーク)

  • リスク許容度:中
  • 株式比率:50-60%
  • 利確タイミング:大学進学費用確保のため積極的利確

50代(老後準備期)

  • リスク許容度:中~低
  • 株式比率:40-50%
  • 利確タイミング:定年退職に向けて安全資産にシフト

60代以降(リタイア期)

  • リスク許容度:低
  • 株式比率:20-30%
  • 利確タイミング:生活資金確保のため計画的利確

実践例:鈴木さんの長期戦略 鈴木さんは現在35歳。以下のような長期戦略を立てています:

現在(35歳)

  • つみたてNISA:全世界株式100%
  • 一般NISA:米国株式70% + 新興国株式30%

40歳時点での計画

  • 評価益が十分出ていれば、リスク資産の20%を債券にシフト
  • 子どもの教育費(15年後)に向けた安全資産の積み立て開始

50歳時点での計画

  • リスク資産の40%を安全資産にシフト
  • 老後資金の目標額達成度合いで最終調整

戦略5:市場環境対応型利確戦略

基本コンセプト 市場環境の変化に応じて利確タイミングを調整する戦略です。

市場環境の判断指標

割安・割高の判断基準

  • 日本株
    • PER15倍以下:割安
    • PER15-20倍:適正
    • PER20倍以上:割高
  • 米国株
    • PER15倍以下:割安
    • PER15-22倍:適正
    • PER22倍以上:割高

金利環境の影響

  • 低金利環境:株式に有利、債券は不利
  • 金利上昇局面:株式に不利、債券が相対的に有利
  • 高金利環境:預金や債券が魅力的

実践的な対応方法

割高圏での対応

  1. 新規投資をストップ
  2. 含み益のある銘柄の一部利確
  3. 安全資産の比率を上げる
  4. 次の投資機会まで現金比率を高める

割安圏での対応

  1. 利確した資金で買い増し
  2. 積立投資額の一時的な増額
  3. ボーナス等の臨時収入を積極投資

実践例:2020年コロナショック時の判断 私自身の2020年の投資行動を例にお話しします。

2020年2月(コロナショック前)

  • 米国株PER:約23倍(割高水準)
  • 行動:一般NISA内の米国株インデックスファンドの30%を利確

2020年3月(コロナショック底値圏)

  • 米国株PER:約16倍(適正~やや割安)
  • 行動:利確していた資金で買い増し、通常の2倍の金額を投資

結果 この判断により、底値圏で多くの資金を投入することができ、その後の回復相場で大きな利益を得ることができました。

戦略6:税務最適化型利確戦略

基本コンセプト NISAの非課税枠を最大限活用しつつ、課税口座との組み合わせも考慮した利確戦略です。

基本的な考え方

  1. NISA口座:利益が出ているものは基本的に長期保有
  2. 課税口座:損失が出ているものと利益を相殺
  3. 年末調整:損益通算を意識したタイミング調整

具体的な実行例

12月時点での損益状況

  • NISA口座:100万円の含み益
  • 特定口座A銘柄:50万円の含み益
  • 特定口座B銘柄:30万円の含み損

税務最適化の判断

  1. NISA口座:そのまま保有(税金なしで利益確保)
  2. 特定口座:A銘柄の利益とB銘柄の損失を同時に確定
    • 課税対象:50万円 – 30万円 = 20万円
    • 税金:約4万円(単独利確なら約10万円)

年間を通じた戦略

  • 1-11月:基本的にはNISA口座を優先
  • 12月:課税口座の損益調整を検討
  • 翌年:新たなNISA枠の活用計画を立案

戦略7:心理的安定重視型利確戦略

基本コンセプト 投資による心理的ストレスを軽減することを最優先とする利確戦略です。

心理的ストレスのサイン

  1. 毎日何度も投資アプリを確認してしまう
  2. 株価の下落で夜眠れなくなる
  3. 仕事中も投資のことが頭から離れない
  4. 家族との会話も投資の話ばかりになる
  5. 他の趣味や楽しみに興味がなくなる

対処方法

「安心できる金額」の設定 自分にとって「失っても人生に大きな影響がない金額」を設定し、それを超えた分は利確する方法です。

例:年収500万円の人の場合

  • 「安心できる投資額」:年収の30% = 150万円
  • 投資評価額が200万円になった場合:50万円分を利確

「満足利益」の設定 「この程度の利益があれば満足」という金額を事前に決めておく方法です。

例:

  • 投資元本:100万円
  • 満足利益:30万円
  • 評価額130万円到達時:全額利確して心の平安を得る

実践例:高橋さんの選択 高橋さん(38歳・公務員)は、つみたてNISAで3年間積み立てた120万円が180万円に増えました。しかし、60万円の含み益が気になって仕事に集中できない状況でした。

高橋さんの選択:

  1. 投資元本120万円分は継続保有
  2. 含み益60万円分は全額利確
  3. 利確した60万円は定期預金で安全運用

「投資で増やした分は最初からなかったものと考えて、元本だけで投資を続けることにしました。おかげで気持ちがとても楽になり、本業にも集中できるようになりました。」

これも立派な投資戦略の一つです。

第6章:利確後の戦略 – お金を有効活用する5つの選択肢

利確した資金をどう活用するかは、利確そのものと同じくらい重要な判断です。ここでは5つの基本的な選択肢を詳しく解説します。

選択肢1:安全資産での運用(元本保証重視)

基本方針 確保した利益を絶対に減らしたくない場合の選択肢です。

具体的な運用先

定期預金

  • メリット:元本保証、預金保険対象
  • デメリット:低金利(年0.002%程度)
  • 適用場面:近い将来(1-3年以内)に使用予定の資金

個人向け国債

  • 変動10年:年0.05%程度(最低保証0.05%)
  • 固定5年:年0.05%程度
  • 固定3年:年0.05%程度
  • メリット:国が元本・利息を保証、中途換金可能
  • デメリット:インフレリスクに弱い

外貨定期預金

  • 米ドル定期:年1-2%程度(為替リスクあり)
  • 豪ドル定期:年1.5-2.5%程度(為替リスクあり)
  • メリット:円預金より高金利、分散投資効果
  • デメリット:為替リスク、外貨での元本保証のみ

実践例:利確資金300万円の配分

  • 定期預金:100万円(生活防衛資金として)
  • 個人向け国債(変動10年):100万円
  • 米ドル定期:100万円(為替分散として)

選択肢2:再投資(別の投資商品への投資)

基本方針 利確した利益を新たな投資機会に振り向ける選択肢です。

投資先の選択基準

異なるアセットクラスへの分散 元々株式ファンドで利確した場合:

  • REIT(不動産投資信託)
  • 債券ファンド
  • コモディティ(商品)ファンド

異なる地域への分散 日本株で利確した場合:

  • 米国株式ファンド
  • 欧州株式ファンド
  • 新興国株式ファンド

異なる投資スタイルへの分散 インデックスファンドで利確した場合:

  • アクティブファンド
  • 個別株投資
  • ETF投資

実践的な再投資戦略

バリュー平均法の活用 利確した資金を一度に投入するのではなく、一定期間にわたって分散投資する方法です。

例:利確資金240万円を12ヶ月で再投資

  • 毎月20万円ずつ新しい投資信託を購入
  • 相場の変動に関係なく機械的に投資
  • ドルコスト平均法の効果で平均取得価格を安定化

実践例:佐々木さんの再投資戦略 佐々木さんは米国株インデックスファンドで200万円の利確を行い、以下のように再投資しました:

  1. REIT(40万円):不動産分野への分散
  2. 新興国株式ファンド(40万円):地域分散
  3. 高配当株式ファンド(40万円):インカムゲイン重視
  4. 債券ファンド(40万円):安定性重視
  5. 現金(40万円):次の投資機会まで待機

選択肢3:ライフプランへの充当

基本方針 人生の重要なイベントや目標達成のために利確資金を活用する選択肢です。

主なライフイベントと必要資金

マイホーム購入

  • 頭金:物件価格の10-20%
  • 諸費用:物件価格の5-10%
  • 例:3,000万円の物件なら450-900万円が目安

子どもの教育費

  • 大学4年間(私立文系):約400万円
  • 大学4年間(私立理系):約500万円
  • 大学4年間(私立医学部):約2,000万円

老後資金

  • 夫婦の老後30年間:2,000-3,000万円が目安
  • 単身の老後30年間:1,500-2,000万円が目安

実践例:教育費への充当戦略

田中さん家族の事例

  • 子ども:現在12歳(中学1年生)
  • 大学進学:6年後
  • 目標額:500万円(私立理系想定)
  • 利確資金:300万円

資金計画

  1. 即座に確保:300万円(利確資金を教育費専用口座に移管)
  2. 追加積立:200万円(6年間で月額約2.8万円)
  3. 運用方針:元本保証商品で安全運用

選択肢4:自己投資・スキルアップ

基本方針 将来の収入増加につながる自己投資に利確資金を活用する選択肢です。

効果的な自己投資の例

資格取得

  • ファイナンシャル・プランナー(FP):10-20万円
  • 税理士・公認会計士:100-300万円
  • IT関連資格:5-50万円
  • 英語系資格(TOEIC/TOEFL):10-30万円

スキル習得

  • プログラミングスクール:30-100万円
  • MBA取得:200-1,000万円
  • 語学留学:50-200万円

起業資金

  • 副業開始資金:10-100万円
  • 本格的な起業資金:100-1,000万円

ROI(投資収益率)の考え方 自己投資のROIは以下のように計算できます:

例:プログラミングスクール(50万円投資)

  • 現在の年収:400万円
  • スキル習得後の年収:550万円
  • 年収増加額:150万円
  • ROI:150万円 ÷ 50万円 = 300%(1年目)

このように、適切な自己投資は金融投資以上のリターンをもたらす可能性があります。

実践例:山田さんの自己投資戦略 山田さん(29歳・営業職)は、株式投資で得た利益100万円を以下のように自己投資に活用:

  1. 英語コーチング(50万円):海外営業部門への異動を目指す
  2. MBA準備コース(30万円):将来の管理職昇進に向けて
  3. 副業開始資金(20万円):コンサルティング業務の準備

結果として、1年後に海外営業部門への異動が決まり、年収が100万円アップしました。

選択肢5:生活の質向上・体験への投資

基本方針 金銭的リターンではなく、人生の豊かさや満足度向上を目指す選択肢です。

推奨される生活の質向上投資

健康への投資

  • 人間ドック・健康診断:5-20万円
  • 歯科治療・インプラント:30-100万円
  • フィットネスクラブ年会費:10-20万円
  • パーソナルトレーナー:50-100万円

家族との思い出創り

  • 家族旅行(海外):50-200万円
  • 子どもとの特別な体験:10-50万円
  • 両親への恩返し:20-100万円

趣味・教養

  • 楽器購入・音楽レッスン:10-100万円
  • アート・骨董品収集:50-500万円
  • 読書・学習環境整備:5-50万円

時間の購入

  • 家事代行サービス:年間20-50万円
  • タクシー利用増加:年間10-30万円
  • 時短家電の購入:20-50万円

「体験の価値」について 心理学の研究によると、モノを購入するより体験に投資する方が長期的な満足度が高いことが分かっています。

モノの購入

  • 満足度は時間とともに低下
  • 他人と比較してしまいがち
  • 慣れによって価値が減少

体験への投資

  • 記憶として長く残る
  • 人とのつながりが生まれる
  • 成長や学習につながる

実践例:鈴木さん夫妻の選択 鈴木さん夫妻(夫45歳、妻43歳)は、投資で得た利益200万円を以下のように活用:

  1. 家族でヨーロッパ旅行(100万円):子どもたちとの貴重な思い出作り
  2. 住宅リフォーム(80万円):キッチンとバスルームの改装で生活の質向上
  3. 両親への旅行プレゼント(20万円):温泉旅行で親孝行

「お金では買えない思い出ができました。子どもたちも大喜びで、投資して本当に良かったと思っています。」

第7章:よくある質問と専門家の回答

NISA利確について、相談者の方々から寄せられる代表的な質問にお答えします。

Q1: 少額の利益でも利確すべきでしょうか?

質問詳細 「つみたてNISAを始めて1年で、5万円ほどの利益が出ています。金額が少ないので、このまま持ち続けるべきか迷っています。」

専門家の回答 少額の利益での利確は、一般的におすすめしません。理由は以下の通りです:

機会費用の観点 5万円の利益を確定しても、つみたてNISAの年間40万円の枠を部分的に「消費」することになります。20年間という長期の非課税期間を考えると、もう少し長期保有を検討する価値があります。

ただし例外的に利確を検討すべきケース

  1. 急にまとまったお金が必要になった場合
    • 医療費、冠婚葬祭費など予期しない出費
    • 投資元本を取り崩すより、利益分だけ使う方が心理的負担が軽い
  2. 投資に対する不安が大きすぎる場合
    • 5万円の変動でも気になって日常生活に影響が出る
    • 投資額が自分のリスク許容度を超えている

推奨する対応 まずは「なぜその利益確定をしたいのか」を明確にしてください。明確な理由がない場合は、もう少し長期保有を継続することをお勧めします。

Q2: 利確のタイミングで迷ってしまいます

質問詳細 「投資信託が30%上がっているのですが、まだ上がるかもしれないと思うと売れません。でも暴落が怖くもあります。どう判断すればいいでしょうか?」

専門家の回答 これは投資家の永遠の悩みですね。私も同じ経験を何度もしています。

「完璧なタイミング」は存在しない まず理解していただきたいのは、最高値で売り、最安値で買うことは、プロの投資家でも不可能だということです。

実践的な解決方法

方法1:部分利確 全部売るか全部持つかの2択ではなく、例えば30%の利益が出ているなら、保有量の30-50%だけ利確する方法があります。

方法2:トリガー価格の設定 事前に「○○円になったら売る」「○%下がったら売る」という基準を決めておきます。感情に左右されずに済みます。

方法3:時間分散 「毎月○万円ずつ売却していく」というように、時間を分散して利確する方法もあります。

私自身の経験から 20代の頃、「まだ上がるかも」という欲で売り時を逃し、大きな損失を出した経験があります。その経験から学んだのは、「利益が出ているときに少しでも確保しておくことの大切さ」です。

Q3: 一般NISAの5年後の判断が分からない

質問詳細 「一般NISAで購入した投資信託が5年後に含み益の状態だった場合、ロールオーバーすべきでしょうか?それとも売却すべきでしょうか?」

専門家の回答 これは一般NISAの制度上の大きな判断ポイントですね。選択肢とその判断基準を整理してみましょう。

3つの選択肢

1. 売却(利益確定)

  • メリット:確実に利益を確保、税金なし
  • デメリット:将来の上昇機会を逃す可能性

2. ロールオーバー

  • メリット:さらに5年間非課税で保有可能
  • デメリット:翌年のNISA枠を使用(120万円まで)

3. 特定口座へ移管

  • メリット:NISA枠を使わない
  • デメリット:移管後の利益に課税、移管時価格が新しい取得価格

判断基準

含み益が大きい場合(50%以上) → 一部売却 + ロールオーバーの組み合わせを検討

含み益が中程度の場合(10-50%) → ロールオーバーを優先検討

含み損の場合 → 損切りして翌年新規投資、または特定口座移管

具体例:120万円投資→200万円の場合

  • 利益確定分:80万円売却(利益を確保)
  • ロールオーバー分:120万円(翌年の枠を使用)

この方法で、利益も確保しつつ、継続投資も可能になります。

Q4: 損失が出ている銘柄も売却すべきでしょうか?

質問詳細 「NISA口座で購入した銘柄の一つが30%も下がっています。損切りすべきでしょうか?それとも回復を待つべきでしょうか?」

専門家の回答 これは非常に難しい判断ですが、NISA特有の注意点があります。

NISA口座での損切りの問題点

1. 損益通算ができない 他の口座での利益と相殺できないため、税務上のメリットがありません。

2. 非課税枠の無駄遣い 売却しても枠は戻らないため、非課税枠を有効活用できていないことになります。

損切り判断の基準

投資対象の問題

  • 個別企業の業績悪化が恒久的
  • 投資信託の運用方針変更
  • 投資テーマ自体の魅力喪失

自分の状況の変化

  • リスク許容度の低下
  • 資金需要の発生
  • 投資方針の変更

実践的な対応方法

方法1:時間をかけた判断 急いで判断する必要がない場合は、3-6ヶ月程度様子を見る。

方法2:追加投資での平均取得価格引き下げ その銘柄への信頼が維持できているなら、下がった価格で追加購入して平均取得価格を下げる。

方法3:明確な損切り基準の設定 「投資元本の50%を割ったら売却」など、事前に基準を決めておく。

私の考え方 インデックスファンドの場合は基本的に長期保有、個別株やアクティブファンドの場合は銘柄の質を定期的に見直す、という方針で判断しています。

Q5: 家族のNISA口座をどう活用すべきでしょうか?

質問詳細 「夫婦それぞれにNISA口座があります。どちらの口座で利確すべきか、税務上有利な方法はありますか?」

専門家の回答 夫婦でのNISA活用は、家計全体での最適化を考えることが重要です。

基本的な考え方

1. 収入の高い方を優先 将来的に課税口座で投資する可能性を考えると、税率の高い(収入の高い)方のNISA枠を優先的に活用するのが一般的です。

2. 投資期間の違いを活用

  • 夫(50歳):リスク許容度やや低め、一般NISA中心
  • 妻(45歳):リスク許容度やや高め、つみたてNISA中心

3. 利確タイミングの分散 同じ投資商品でも、利確のタイミングを夫婦でずらすことで、タイミングリスクを軽減できます。

具体的な戦略例

戦略1:投資期間による使い分け

  • 夫のNISA:5年以内に使用予定の資金(教育費など)
  • 妻のNISA:10年以上の長期投資資金(老後資金など)

戦略2:リスク許容度による使い分け

  • 収入安定している方:よりリスクの高い投資
  • 収入不安定な方:より安定的な投資

税務上の注意点 NISA口座は本人名義でしか開設できないため、配偶者の口座での投資資金も、原則としてその人自身の資金である必要があります。

Q6: 新NISAへの移行はどう考えるべきでしょうか?

質問詳細 「2024年から新しいNISA制度が始まりましたが、既存のNISA投資と新NISAをどう使い分ければいいでしょうか?」

専門家の回答 新NISA制度は従来のNISAと比べて大幅に使い勝手が向上しています。

新NISA制度の主な特徴

  • 年間投資枠:最大360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)
  • 生涯投資枠:1,800万円
  • 非課税期間:恒久化(無期限)
  • 売却時の枠の復活:翌年から再利用可能

既存NISAとの使い分け戦略

1. 既存NISA(旧制度)

  • 2023年までに購入した商品はそのまま非課税期間を享受
  • 新たな購入は停止し、新NISAに資金を集約

2. 新NISA

  • 新規投資は全て新NISA口座で実行
  • より大きな枠を活用した本格的な資産形成

利確戦略への影響

売却時の枠復活 新NISAでは売却した分の枠が翌年から復活するため、利確に対する心理的ハードルが大幅に下がります。

具体例

  • 新NISAで200万円投資→300万円に成長
  • 100万円分利確→翌年はその分の枠が復活
  • より柔軟な利確戦略が可能

実践的な移行戦略

  1. 2023年まで:旧NISA枠の最大活用
  2. 2024年から:新NISA口座での本格投資開始
  3. 旧NISA保有分:非課税期間満了まで基本的に保有継続

Q7: 暴落時の心構えを教えてください

質問詳細 「コロナショックやリーマンショックのような大暴落が再び来た場合、NISA投資はどう対応すべきでしょうか?」

専門家の回答 大暴落への備えは、投資を続ける上で極めて重要です。私自身もリーマンショック、コロナショックを経験し、多くのことを学びました。

大暴落時の投資家心理

  1. パニック売り:とにかく損失を止めたい
  2. 後悔:「なぜ高値で買ってしまったのか」
  3. 諦め:「投資はやっぱりダメだ」

これらの感情は自然な反応ですが、長期的な資産形成には悪影響を与えます。

NISA口座での暴落対応戦略

戦略1:基本的には保有継続 過去の暴落は必ず回復しています。特につみたてNISAの対象となるインデックスファンドは、長期的には成長を続けています。

過去の暴落からの回復期間

  • リーマンショック(2008年):約5年で回復
  • コロナショック(2020年3月):約1年で回復
  • ITバブル崩壊(2000年):約7年で回復

戦略2:追加投資の検討 暴落は優良な投資商品を安く買うチャンスでもあります。余裕資金があれば、むしろ積極的な投資を検討します。

戦略3:一部利確による心理的安定 どうしても不安が大きい場合は、評価額の20-30%程度を利確し、心理的な安定を図ることも一つの選択肢です。

実際の行動指針

  1. 事前のメンタル準備:30-50%の下落は起こりうると覚悟しておく
  2. 生活防衛資金の確保:投資以外に6ヶ月分の生活費を現金で保有
  3. 投資額の調整:失っても人生に大きな影響がない金額で投資する

私の実体験:コロナショック時 2020年3月、私のNISA口座も30%以上下落しました。しかし、事前に「暴落は必ず来る」と覚悟していたため、売却せずに保有を続けました。結果的に1年後には過去最高値を更新し、長期投資の重要性を再確認しました。

第8章:まとめと次のアクション – あなただけの利確戦略を作ろう

長い記事をここまでお読みいただき、ありがとうございました。NISA利確について様々な角度から解説してきましたが、最後に重要なポイントをまとめ、あなた自身の戦略作りをサポートいたします。

NISA利確で覚えておくべき5つの原則

原則1:利確に正解はない 投資において「絶対的に正しい利確タイミング」は存在しません。大切なのは、あなたの価値観、家計状況、人生設計に合った判断をすることです。

原則2:非課税枠の価値を理解する NISA口座での利確は、一般の課税口座とは意味が全く異なります。非課税枠という貴重な権利を「消費」することを十分に理解した上で判断しましょう。

原則3:感情ではなく基準で判断する 「なんとなく不安」「まだ上がりそう」といった感情ではなく、事前に設定した明確な基準に基づいて判断することが重要です。

原則4:部分利確という選択肢を活用する 「全部売るか、全部持つか」という極端な選択ではなく、保有量の一部を利確することで、リスクと機会の両方をバランス良く管理できます。

原則5:利確は手段であって目的ではない 利確は資産形成という大きな目標を達成するための手段の一つです。利確すること自体が目的になってはいけません。

あなただけの利確戦略作成ワークシート

以下の質問に答えることで、あなた自身の利確戦略を明確にしてみましょう。

ステップ1:現状把握

  1. 現在のNISA投資元本:(   )万円
  2. 現在の評価額:(   )万円
  3. 含み損益:(   )万円(含み益/含み損)
  4. 投資開始からの期間:(   )年(   )ヶ月

ステップ2:投資目的の明確化 □ 老後資金の準備 □ 教育資金の準備 □ マイホーム資金の準備 □ その他(        )

目標金額:(   )万円 達成希望時期:(   )年後

ステップ3:リスク許容度の確認 □ 多少のリスクを取っても大きなリターンを求めたい □ 安定的な成長を重視したい □ 元本割れは絶対に避けたい

ステップ4:利確基準の設定 以下から最も当てはまるものを選択してください:

□ 目標額達成型:目標額の(   )%達成で利確 □ 利益率型:(   )%の利益が出たら利確 □ 期間型:投資から(   )年経過したら利確 □ 年齢型:(   )歳になったら段階的利確開始 □ 市場環境型:明らかな過熱相場で利確検討

ステップ5:利確後の資金使途 □ 安全資産での運用(定期預金・国債など) □ 別の投資商品への再投資 □ ライフプランへの充当(住宅・教育・老後資金) □ 自己投資(資格取得・スキルアップ) □ 生活の質向上(旅行・趣味・健康)

具体的な次のアクション

このワークシートの結果を基に、以下のアクションを実行してみてください:

すぐに実行できること(今日~1週間以内)

  1. 利確基準を文書化する スマートフォンのメモアプリや手帳に、あなたが決めた利確基準を記録しておきましょう。
  2. 投資状況を整理する 現在保有している全ての投資商品の一覧を作成し、それぞれの取得価格と現在価格を確認しましょう。
  3. 家計の見直し 投資以外の家計状況を確認し、緊急時に必要な生活防衛資金が確保できているか確認しましょう。

1ヶ月以内に実行すべきこと

  1. ポートフォリオの見直し 現在の資産配分が、あなたの年齢やリスク許容度に適しているか確認しましょう。
  2. 投資方針書の作成 投資目的、目標額、期間、許容できるリスクレベル、利確基準などを明文化した「投資方針書」を作成しましょう。
  3. 定期的な見直しスケジュールの設定 年2回(6月と12月など)、投資状況を見直すスケジュールを決めておきましょう。

3ヶ月以内の中期アクション

  1. 専門家への相談検討 複雑な税務処理や、より高度な投資戦略について、ファイナンシャル・プランナーなどの専門家への相談を検討しましょう。
  2. 投資知識の継続学習 投資や経済に関する書籍を月1冊読む、セミナーに参加するなど、継続的な学習計画を立てましょう。
  3. 家族との投資方針共有 配偶者や家族と投資に対する考え方を共有し、家計全体での資産形成戦略を話し合いましょう。

最後に:投資は人生を豊かにするための手段

私がこの記事を通じてお伝えしたかったのは、「投資は人生を豊かにするための手段である」ということです。

20代で200万円の損失を経験した私は、一時期投資そのものに対して恐怖を感じていました。しかし、正しい知識と適切なリスク管理を身につけることで、投資は私の人生を確実に豊かにしてくれました。

現在、私が3,000万円の資産を築けたのは、決して特別な投資手法を使ったからではありません。基本に忠実に、コツコツと長期投資を続け、適切なタイミングで利益確定を行ってきた結果です。

NISA利確において最も重要なこと それは、「完璧を求めすぎないこと」です。

  • 最高値で売れなくても気にしない
  • 売った後にさらに値上がりしても後悔しない
  • 小さな利益でも確実に確保できたことを評価する

このようなマインドを持つことで、投資による精神的ストレスを軽減し、長期的な資産形成を継続できるようになります。

あなたの投資人生はまだ始まったばかり NISA制度の恒久化により、私たちには生涯にわたって非課税投資を続ける機会が与えられました。この貴重な制度を最大限活用し、あなた自身とご家族の豊かな未来を築いていただければと思います。

もし投資について不安や疑問を感じることがあれば、一人で悩まず、信頼できる専門家に相談することをお勧めします。私たちファイナンシャル・プランナーは、あなたの資産形成をサポートするために存在しています。

最後まで長い記事をお読みいただき、本当にありがとうございました。あなたの投資人生が成功に満ちたものとなることを心から願っています。


著者プロフィール 田中幸恵(たなか・さちえ) CFP(Certified Financial Planner)資格保有 AFP認定歴12年 大手銀行個人向け資産運用コンサルタント 10年 証券会社投資アドバイザー 5年

20代で株式投資により200万円の損失を経験後、正しい投資知識を学び直し、つみたてNISAと確定拠出年金を中心とした長期分散投資により現在3,000万円の資産を構築。「お金の不安で眠れない夜を過ごす人を一人でも多く救いたい」という使命感のもと、個人投資家の資産形成をサポートしている。

免責事項 本記事は情報提供を目的としており、投資を勧誘するものではありません。投資にはリスクが伴い、元本を下回る可能性があります。投資判断は必ずご自身の責任で行ってください。税制や法令は変更される可能性があるため、最新の情報は関係機関にご確認ください。

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