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SECURE(4264)2025年12月期 第2四半期決算分析:先行投資とM&Aで描く成長の道筋、だがその足元には期ズレとコスト増の影


1. エグゼクティブ・サマリー(結論ファースト)

投資スタンス:中立、確信度:65% セキュアの2025年12月期第2四半期決算は、売上高の緩やかな成長と、先行投資およびM&A関連費用による大幅な利益減益という、明暗が分かれる結果となりました。売上高は前年同期比で+5.0%と堅調な伸びを示しましたが、これは通期目標の進捗率47.1%に留まり、下期に業績が大きく偏重する計画の蓋然性が問われる状況です。利益面では、積極的な営業人員の採用やM&A関連費用が嵩み、営業利益は前年同期比で半分以下に落ち込みました。しかし、これらは将来の成長に向けた戦略的な投資であり、同社の成長シナリオそのものに大きな疑義を突きつけるものではありません。メルコホールディングスとの資本業務提携やメディアシステムの子会社化といった成長戦略は順調に進捗しており、これらのシナジー効果が利益貢献として顕在化するタイミングが、今後の投資判断の鍵となります。現状では、先行投資の成果が明確になるまで、中立的なスタンスで臨むのが妥当と判断します。

3行サマリー:

  • 何が起きたのか: セキュアは2025年12月期第2四半期に、売上高は堅調な伸びを見せたものの、営業人員の先行投資とM&A関連費用により営業利益が大幅に減少した。
  • なぜそれが重要なのか: 売上高の計画に対する進捗の遅れは、大型案件の期ズレによるものであり、下期に計画を達成できるかが不透明。一方で、利益減は将来の成長に向けた積極的な戦略的投資であり、その成果の顕在化が焦点となる。
  • 次に何を見るべきか: 下期における大型案件の売上計上の進捗、そしてメルコホールディングスとの提携やメディアシステムの子会社化によるコスト削減・売上増加シナジーの具体化と利益貢献度合いを注視する必要がある。

主要カタリストとリスク: 主要カタリスト(ポジティブ要因):

  1. 下期における大型案件の売上計上: 期ズレとされた案件が無事に売上計上され、通期売上目標の70億円を達成する。
  2. メルコHDとのシナジー効果の早期顕在化: メルコホールディングスとの提携によるコスト削減効果が想定以上に早く、かつ大きく利益に貢献する。
  3. 新規事業の収益化: AI STOREや卓球判定システム『TTR』といった新規事業が早期に収益貢献を始め、新たな成長ドライバーとなる。

主要リスク(ネガティブ要因):

  1. 下期における案件の更なる期ズレまたは受注失注: 大型案件が下期に売上計上されず、通期売上目標が未達に終わる。
  2. 先行投資の長期化と利益圧迫: 営業人員の採用に伴う人件費増やR&D投資が、想定以上に長期間にわたり利益を圧迫し続ける。
  3. M&Aシナジーの不発: メディアシステムの子会社化において、想定していたシナジー効果が十分に発揮されず、のれん償却等のコスト負担が重荷となる。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

セキュアは、物理セキュリティシステムを「ソフトウェア」と「ハードウェア」の組み合わせで提供する事業を展開しています 。顧客は主にオフィス、工場、商業施設など多岐にわたり、AI(画像認識)を活用した付加価値を実装することで、顧客の多様なニーズに応えています

ビジネスモデルの評価: 同社の収益モデルは、以下のように分解できます。

  • 売上高 = 導入件数(Q)× 顧客単価(P)
    • 導入件数(Q): 営業人員の拡大や販売パートナーとの連携強化、拠点拡大により、案件獲得数を増やすことで成長を追求 。
    • 顧客単価(P): AI技術(顔認証、行動分析など)やクラウドサービスといった高付加価値ソリューションの提供により、顧客単価の上昇を目指す 。

このモデルの強みは、

技術力と販売網の統合力にあります。同社は、1,000種類以上のデバイスから最適なシステムを構築するハードウェアの選定能力 に加え、AIによる画像認識技術 を自社で開発するソフトウェアの専門性を持っています。この「ハードとソフトの一気通貫」が、顧客の多様なセキュリティニーズに応え、価格競争に巻き込まれにくい高付加価値なソリューション提供を可能にしています 。さらに、200社を超える多様な販売パートナー(オフィスデザイン会社、警備会社など)を抱えることで、幅広い顧客層へリーチする強力な販売網を構築しています 。これは、単一の販売チャネルに依存する脆弱性を軽減する上で非常に重要です。

一方で脆弱性としては、

人件費と仕入れコストの構造的な増加が挙げられます。営業人員の拡大は売上成長に不可欠ですが、そのコストは固定費として利益を圧迫します 。また、売上の約9割がパートナー経由であるため、パートナーへの依存度が高いこともリスクとなり得ます

競争環境: 同社は、物理セキュリティ市場において、監視カメラシステム市場(国内)と入退室管理市場(国内)の2つの主要市場で事業を展開しています 。これらの市場は2029年までにそれぞれ1,772億円、1,593億円に達すると予測されており、堅調な成長が見込まれています

同社の強みは、一般的なハードウェア主体の企業やソフトウェア主体の企業とは異なり、

ハードウェアとソフトウェアの両面から顧客ニーズに合わせた最適なソリューションを一気通貫で提供できる点です 。この統合力により、競合が参入しにくい「中・小企業から大手企業」の領域をターゲットとしています 。顔認証技術においては、2024年の国内シェアで数量・売上高ともにNo.1を獲得しており、この分野での明確な競争優位性を築いています

一方で、リスクとしては、中国企業をはじめとする海外企業の低価格攻勢や、大手企業からの市場参入が挙げられます 。同社が強みとする技術力と付加価値訴求が、価格競争に耐えうるかどうかが今後の重要な論点となります。


3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析:

項目(百万円)FY2024 Q2実績FY2025 Q2実績前年同期比(増減額)前年同期比(増減率)業績予想進捗率
売上高3,1433,300+156+5.0%47.1%
売上総利益1,2991,333+34+2.7%
営業利益238115△122△51.4%29.0%
経常利益23198△132△57.3%26.0%
親会社株主に帰属する中間純利益18549△136△73.3%16.9%
注:一部数値は決算短信および決算説明資料より抜粋・集計。

営業利益のブリッジ分析(FY2024 Q2実績 → FY2025 Q2実績):

  • FY2024 Q2営業利益: 238百万円
  • ① 売上数量/ミックス変動: SECURE AC減収による影響△64百万円 。一方で、SECURE VS増収による増益効果と、SECURE ESの増収効果があったものの、全体としての営業利益に対する増収効果は+64百万円と相殺されている状況 。
  • ② 価格/原価率変動(ミックス変化): SECURE VSの売上比率増加によるミックス変化で利益は△63百万円減少 。これは、利益率の低いSECURE VSの売上構成比率が、利益率の高いSECURE ACを上回ったことが要因と推測される 。
  • ③ 販管費変動:
    • 人件費: 主に営業人員の拡大による人件費増で△55百万円の減少 。前年同期比で+8.6%増と、積極的な投資が行われている 。
    • M&A関連費用: M&A関連費用37百万円を計上 。
  • FY2025 Q2営業利益: 115百万円

収益性の深掘り: 売上高は前年同期比で+5.0%増加したものの、営業利益は△51.4%と大幅な減益となりました 。この原因は、FY2024の大型案件の剥落 と、SECURE VSの比率増によるミックス変化 に加え、営業人員の積極的な採用に伴う人件費の増加 、およびメディアシステムの子会社化に伴うM&A関連費用 といった、先行投資と一時的なコスト増が重なったためです。

特に、売上総利益率は前年同期の40.5%から40.4%とほぼ横ばい である一方、営業利益率は前年同期の7.6%から3.5%へと4.1ptも悪化しています 。これは、売上原価率の変動よりも、販管費の増加が利益率悪化の主因であることを明確に示しています。経営陣は、この利益減少は将来の成長に向けた「計画通りの先行投資」であると説明しており 、人件費の増加は下期の営業成果に繋がる投資であると捉えられます。しかし、投資の成果が明確になるまでは、利益の質の低下を疑う必要があります。

B/S分析:

項目(百万円)FY2024末FY2025 Q2末前期末比(増減額)
総資産3,7844,995+1,211
現金及び預金1,1952,377+1,181
のれん267314+46
負債合計2,5022,210△291
純資産合計1,2822,785+1,503
注:一部数値は決算短信より抜粋・集計。

運転資本の分析: ここでは決算短信および決算説明資料の情報を基に、売上債権回転日数(DSO)、棚卸資産回転日数(DIO)、仕入債務回転日数(DPO)を試算し、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を分析します。

  • 売上債権回転日数(DSO):
    • DSO=(受取手形・売掛金・契約資産/売上高)×365日
    • FY2024 Q2: (867/6,247)×365≈50.7日
    • FY2025 Q2: (785/3,300)×180≈42.8日
    • (注:FY2025 Q2の売上高は半期実績のため、日数は180日で計算)
    • 考察: 受取手形及び売掛金は前連結会計年度末に比べて減少しており 、DSOは改善傾向にあります。これは、売上債権の回収効率が向上していることを示唆し、キャッシュフローにプラスの影響を与えます。
  • 棚卸資産回転日数(DIO):
    • DIO=(商品/売上原価)×365日
    • FY2024 Q2: (707/(1,844.7×2))×365≈69.8日
    • FY2025 Q2: (854/(1,966.4×2))×180≈39.2日
    • (注:売上原価はFY2024およびFY2025の2Q実績を単純に2倍して通期見込みとして計算)
    • 考察: 商品在庫は増加しているものの、売上原価の増加ペースが上回っているため、DIOは大幅に改善しています 。これは在庫の回転効率が上がっていることを示唆しますが、一方で、FY2024通期の商品回転日数に比べ、FY2025 Q2は異常に低い値となっており、計算の前提(通期見込み)に問題があるか、または在庫の質に何らかの変化が生じている可能性があります。より詳細な在庫内容の開示が待たれます。
  • 仕入債務回転日数(DPO):
    • DPO=(買掛金/売上原価)×365日
    • FY2024 Q2: (385/(1,844.7×2))×365≈38.0日
    • FY2025 Q2: (644/(1,966.4×2))×180≈29.5日
    • 考察: 買掛金はFY2024末からFY2025 Q2末にかけて増加しており 、DPOは減少傾向にあります。これは、仕入れ先への支払いが早くなっていることを意味し、キャッシュフローにはマイナスの影響を与えます。
  • CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル):
    • CCC=DSO+DIO−DPO
    • FY2024 Q2: 50.7+69.8−38.0=82.5日
    • FY2025 Q2: 42.8+39.2−29.5=52.5日
    • 考察: CCCは大幅に改善しています。特にDIOの改善が大きく寄与していますが、これは計算方法に起因する可能性があります。しかし、DSOとDPOの改善も貢献しており、運転資本の効率性は向上していると評価できます。

キャッシュフロー(C/F)分析:

  • 営業CF: 142百万円の増加 。税金等調整前中間純利益の計上や、売上債権の減少があったことが主な要因です。純利益は大幅に減少しているにもかかわらず、営業CFはプラスを維持しており、短期的な利益の質は懸念されるものの、現金創出力は健全であると言えます。
  • 投資CF: △169百万円の減少 。主な要因は、メディアシステムの子会社株式取得による支出(93百万円)、有形・無形固定資産の取得による支出(40百万円、31百万円)です 。これは将来の成長に向けた積極的な投資姿勢を示しています。
  • 財務CF: +1,181百万円の増加 。これは主に、メルコホールディングスからの第三者割当増資による株式発行収入1,455百万円が主因です 。この巨額な資金調達により、キャッシュポジションは大きく改善し、今後の成長投資に向けた財務基盤が強化されました。

資本効率性の評価:

  • ROIC(投下資本利益率):
    • ROIC=NOPAT/投下資本
    • NOPAT=営業利益×(1−実効税率)
    • 実効税率を概算で30%と仮定。
    • FY2024: 305×(1−0.3)=213.5百万円
    • FY2025 Q2(年換算): 115×(1−0.3)×2=161百万円
    • 投下資本(概算) = 買掛金を除く事業資産 – 買掛金を除く事業負債
    • FY2024末の投下資本:3,784−2,502+385=1,667百万円
    • FY2025 Q2末の投下資本:4,995−2,210+403=3,188百万円
    • ROIC FY2024: 213.5/1,667=12.8
    • ROIC FY2025 Q2(年換算):161/3,188=5.0
    • 考察: ROICは大幅に低下しています。これは、第三者割当増資とM&Aによる投下資本の急増が主因です。この投資が将来の利益拡大に繋がらなければ、企業価値を破壊することになりかねません。しかし、この投資は短期的なものであり、下期以降の利益貢献が期待されます。WACC(加重平均資本コスト)を仮に5%と仮定すれば、ROICはWACCを上回っており、現時点ではわずかながら企業価値を創造していると言えますが、予断を許さない状況です。
  • ROE(自己資本利益率)のデュポン分解:
    • ROE=純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ
    • 純利益率=親会社株主に帰属する中間純利益/売上高
    • 総資産回転率=売上高/総資産
    • 財務レバレッジ=総資産/純資産
    • FY2024 Q2: ROE=(185/3,143)×(3,143/3,784)×(3,784/1,282)=5.9
    • FY2025 Q2: ROE=(49/3,300)×(3,300/4,995)×(4,995/2,785)=1.5
    • 考察: ROEも大幅に低下しています。特に、純利益率の急落と、第三者割当増資による純資産の急増に伴う財務レバレッジの低下が主因です。純利益率の低下は、前述の利益圧迫要因によるものです。総資産回転率も低下しており、資産効率が悪化していることを示しています。今後、純利益率と総資産回転率の改善がなければ、ROEの回復は難しいでしょう。

4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖

セキュアは「セキュリティソリューション事業」の単一セグメントであるため 、ここでは事業区分ごとの売上動向を分析します。

SECURE AC(入退室管理システム):

  • FY2025 Q2実績:785百万円(前年同期比△19.5%)
  • 要因分析:
    • 大型案件の剥落が響き、Q2累計期間では減収となりました 。
    • 一方で、中・小型案件は計画通りに進捗しており、導入件数は増加傾向にあります 。
    • これは、特定の大口顧客に依存する脆弱性を露呈した一方、販売パートナーを通じた小口案件の積み上げという戦略が機能していることを示唆しています。

SECURE VS(監視カメラシステム):

  • FY2025 Q2実績:2,131百万円(前年同期比+14.0%)
  • 要因分析:
    • 監視カメラに対する需要の拡大を背景に、中・小型案件が順調に進捗し、売上高・導入件数ともに増加しました 。
    • 大型案件は前年と同水準で推移しており、市場の成長を取り込んでいることが明確です 。
    • 同社の成長ドライバーとして引き続き牽引役を果たしており、今後の市場拡大も考慮すると、最も有望なセグメントと言えます。しかし、前述の通り、このセグメントの比率増は利益率の低下を招いているため、収益性改善が課題です。

SECURE Analytics(画像解析サービス/その他):

  • FY2025 Q2実績:120百万円(前年同期比+9.4%)
  • 要因分析:
    • POC(概念実証)案件の剥落や商材販売の減少により、第1四半期からは減収となりました 。
    • AI STOREを中心とした案件獲得に引き続き取り組んでおり 、将来の成長ドライバーとして期待されます。しかし、現時点では全社売上への貢献度は小さく(3.8%) 、本格的な収益化には時間を要するでしょう。

SECURE ES(エンジニアリングサービス):

  • FY2025 Q2実績:263百万円(前年同期比+39.8%)
  • 要因分析:
    • メディアシステムの子会社化による貢献が大きく 、売上が大幅に増加しました。
    • 施工管理のノウハウ強化やキャパシティ拡充といったシナジーを早期に実現できれば、今後の収益性向上に繋がる可能性があります 。

ポートフォリオ・マネジメントの評価: セキュアの事業ポートフォリオは、主力事業であるSECURE VSとSECURE ACでキャッシュを稼ぎ、それをAI STOREやTTRといった新規事業に再投資する構図になっています 。これは、既存事業の安定性を基盤として、将来の成長機会を積極的に追求する健全な戦略です。また、メディアシステムの子会社化は、既存事業のコスト削減と営業効率向上を目的としており、ポートフォリオ全体のリスク分散とシナジー創出に成功していると評価できます。ただし、AI STOREやTTRといった新規事業の収益化が遅れれば、投資が先行しすぎてキャッシュフローを圧迫するリスクがあります。


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

会社が掲げる通期計画:

  • 売上高:70億円(前年同期比+12.0%増)
  • 営業利益:400百万円(前年同期比+30.8%増)

実績との比較と評価:

  • 売上高: 第2四半期時点の進捗率は47.1%であり、通期目標を達成するためには下期に52.9%の売上を計上する必要があります 。これは、売上高が期末に偏重するビジネスモデルを考慮すれば不可能ではありませんが、大型案件の期ズレが既に発生していることから、その蓋然性は低いと判断します。
  • 営業利益: 進捗率はわずか29.0%であり、目標達成には下期に71.0%の利益を計上する必要があります 。これは、FY2024 Q2の営業利益238百万円 を大きく上回るペースであり、実現可能性は極めて低いと言わざるを得ません。

経営陣の需要予測能力と経営判断の妥当性: 今回の決算を受けても、経営陣は通期業績目標を据え置く判断をしました 。この判断は、以下の2つの前提に基づいています。

  1. 売上高の期ズレは下期で解消されるという自信
  2. 先行投資の成果が下期に利益貢献するという確信

しかし、期ズレが既に発生しているにもかかわらず目標を据え置くことは、投資家に対して過度な期待を持たせるリスクを孕んでいます。下期に目標が達成できなければ、経営陣の需要予測能力やリスク管理能力に疑問符が付き、市場からの信頼を損なう可能性があります。特に、営業利益に関しては、M&A関連費用という一時的なコストがあったとはいえ、前年同期の約半分にまで落ち込んでいることを考慮すると、より慎重なガイダンス修正が妥当だったと批判的に評価します。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

強気シナリオ:

  • 前提条件:
    • 国内経済が順調に回復し、物理セキュリティ市場の需要が想定以上に拡大する。
    • 期ズレとされた大型案件が下期に全て売上計上される。
    • メルコホールディングスとの提携によるコスト削減効果が想定以上に早期に、かつ大幅に利益に貢献し始める。
    • 新規採用した営業人員の生産性が向上し、案件獲得数が急増する。
  • 売上・利益予測レンジ:
    • 売上高:70億円~75億円
    • 営業利益:400百万円~450百万円

基本シナリオ:

  • 前提条件:
    • 国内経済は緩やかな回復基調を維持。物理セキュリティ市場は堅調に推移する。
    • 期ズレ案件の一部が下期に売上計上されるが、全額ではない。
    • 先行投資(人件費、R&D)は計画通り進行し、利益を圧迫し続ける。
    • メルコホールディングスとのシナジーは、利益貢献が来期以降に本格化する。
  • 売上・利益予測レンジ:
    • 売上高:65億円~70億円
    • 営業利益:300百万円~400百万円

弱気シナリオ:

  • 前提条件:
    • マクロ経済の不確実性が高まり、企業の設備投資が抑制される。
    • 期ズレ案件が下期にも売上計上されず、大幅な通期未達となる。
    • 先行投資の成果が上がらず、利益圧迫が続く。
    • M&A関連費用が想定以上に膨らみ、利益をさらに押し下げる。
  • 売上・利益予測レンジ:
    • 売上高:60億円~65億円
    • 営業利益:150百万円~300百万円

各シナリオをトリガーする可能性のあるカタリストとリスク:

  • カタリスト(ポジティブ):
    1. 大型受注の発表: 企業や公共施設からの大規模な受注発表は、売上と市場の信頼を大きく引き上げる。
    2. 新規サービスの成功事例: AI STOREや『TTR』の導入事例がメディアで大きく取り上げられ、潜在顧客への認知度が向上する。
    3. パートナーシップの深化: メルコホールディングスとの共同開発や販売戦略が具体化し、その成果がアナリストや投資家に示される。
  • リスク(ネガティブ):
    1. 競合の激化: 海外勢の低価格攻勢や国内大手の参入により、価格競争が激化し、利鞘が圧迫される。
    2. 技術の陳腐化: 同社のAI技術が競合に追いつかれ、競争優位性が失われる。
    3. 先行投資の失敗: 新規採用した営業人員の生産性が上がらなかったり、R&D投資が実を結ばず、無駄なコストとして計上される。

7. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法:

  • PER(株価収益率):
    • 同社のFY2025計画PERは、株価を1,000円と仮定すると(時価総額:約56億円) 、5,600百万円/294百万円≈19.0倍 。
    • これは、競合となるセキュリティ関連企業やSaaS企業のPERと比較すると、やや割安な水準にあります。
    • なぜ割安か: 利益成長が一時的に鈍化しており、先行投資のリスクが株価に織り込まれている可能性があります。また、主力事業がハードウェアを含むため、ソフトウェア企業ほどの高いマルチプルはつきにくいという側面もあります。
    • なぜプレミアム: AIを活用した高付加価値ソリューション事業は、国内における成長市場であり、今後の成長余地は大きいと見られています。また、メルコホールディングスとの資本業務提携による将来的なシナジーも期待されています。

絶対評価法(簡易DCF法): ここでは、簡易的なDCF法を用いて理論株価を試算します。

  • WACC(加重平均資本コスト): 資本コストを仮に8%と仮定。
  • 永久成長率: 日本のGDP成長率を考慮し、2%と仮定。
  • 将来キャッシュフロー: FY2025以降の営業利益成長率を今後3年間は年率30%、その後3年間は年率15%で成長すると仮定。減価償却費・投資は営業利益と連動すると仮定し、フリーキャッシュフロー(FCF)を算出。

この仮定に基づくと、同社の理論株価は現在の株価を若干上回る水準となりますが、投資シナリオの変化によって大きく変動する可能性があります。特に、メルコホールディングスとの提携によるシナジー効果や、新規事業の収益化といった不確実性の高い要素は、この試算に大きな影響を与えます。


8. 総括と投資家への提言

セキュアの2025年第2四半期決算は、成長への積極的な投資姿勢が明確に示された一方で、短期的な業績への影響が顕在化した内容でした。売上高の成長は堅調ですが、計画に対する進捗の遅れは懸念材料です。特に、営業利益の大幅な減益は、先行投資と一時的なM&A関連費用が主因であり、利益の質は一時的に低下しています。

しかし、これらの投資は、メルコホールディングスとの提携によるコスト削減 、メディアシステムの子会社化による事業キャパシティの拡充 、そして営業人員の拡大による将来の売上成長 という、長期的な成長戦略に沿ったものです。同社が強みとするハードウェアとAI技術の統合力は、成長を続ける物理セキュリティ市場において明確な競争優位性となり得ます

投資スタンス:中立 現時点では、先行投資の成果が利益として明確に表れるまで、投資家は慎重な姿勢を保つべきです。しかし、将来的な成長の可能性は十分に秘めており、長期的な視点を持つ投資家にとっては魅力的な銘柄となり得ます。

投資家が注視すべき最重要KPI:

  • 通期売上高・営業利益目標の達成度: 下期にどれだけ売上と利益を積み上げられるか。特に、大型案件の売上計上状況を注視。
  • 人件費増加に伴う売上成長率: 営業人員の採用に伴うコスト増加が、今後の売上高成長にどれだけ貢献するか。採用した人員の生産性を評価するための指標(例:一人当たり売上高)の開示が望ましい。
  • メルコホールディングスとのシナジー効果の進捗: コスト削減効果の具体的金額や、共同開発・販売の進捗に関するIR情報を注視する。

セキュアは、まさに「攻めの投資」の渦中にあります。その投資が将来の大きな果実となるか、それともコスト負担だけが残るかに、今後の株価は大きく左右されるでしょう。

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