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RS Technologies (3445) 2025年12月期 第2四半期決算分析:成長鈍化の兆候か、一時的ノイズか?為替の逆風下で問われる真の収益力と経営戦略の妥当性

1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス: 中立(確信度: 60%)

RS Technologiesの2025年12月期第2四半期決算は、売上高は市場の堅調な需要に支えられ順調に推移したものの、為替の逆風と新規事業への先行投資が利益率を圧迫する結果となりました。特に、ドル円の急激な変動による為替差損は経常利益に直接的なマイナスインパクトを与え、成長の「質」に対する懸念を生じさせています。ウェーハ再生事業とプライムウェーハ事業は引き続き堅調ですが、半導体関連装置・部材等事業における新規事業の本格貢献にはまだ時間を要する見込みです。現時点では、通期計画に対する達成確度は十分高いと判断するものの、下期以降の為替動向と新規投資の収益化動向を慎重に見極める必要があるため、一旦「中立」と評価します。

3行サマリー:

  1. 何が起きたのか: 売上高は前年同期比で大幅増を達成したが、経常利益は為替差損の影響で減益となった。
  2. なぜそれが重要なのか: 利益の質の低下は、主力事業の堅調さだけでは埋めきれない外部環境リスクを露呈した。特に、為替変動のコントロール不能なリスクが短期的な収益性を左右する構造が明らかになった。
  3. 次に何を見るべきか: 下期以降の円安進行が収益性をどの程度押し上げるか。また、新規事業であるLEシステムやRSPDHが、中期経営計画に掲げる成長ドライバーとして本格的に利益貢献できるか、その進捗に注目すべきです。

主要カタリストとリスク: 主要カタリスト:

  • 円安トレンドの再加速:経常利益へのプラスインパクトが期待できる。
  • 主要顧客である台湾ファウンドリの旺盛な設備投資継続:再生ウェーハ事業の需要をさらに押し上げる。
  • 新規事業であるLEシステムの中国工場(徳州)における量産開始時期の前倒し。

主要リスク:

  • 急激な為替の円高方向への反転:経常利益のさらなる下押し要因となる。
  • 中国政府の景気刺激策の不発:プライムウェーハ事業の価格競争激化や需要鈍化を招く。
  • 米国による中国半導体産業へのさらなる規制強化:中国を主軸とする同社のビジネスモデルに深刻な影響を与える可能性がある。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

RS Technologiesは、主にウェーハ再生事業プライムウェーハ製造販売事業、そして半導体関連装置・部材等事業の3つのセグメントで構成されています。

ビジネスモデルの評価:

同社の収益モデルは、非常に高い参入障壁を持つ「モノづくり」と、そのプロダクトを販売する「商社機能」のハイブリッド型と評価できます。

1. ウェーハ再生事業:

  • 収益モデル: 売上 = 再生ウェーハ出荷枚数 (Q) × 加工単価 (P) + 販売ウェーハ売上高
  • 強み:
    • 高い技術的参入障壁: ウェーハの再生加工には、独自の洗浄・研磨技術が不可欠です。特に、銅(Cu)の除染除去技術など、他社が模倣困難なノウハウを有している点は強力な競争優位性です 。
    • 顧客との強固な関係性: 半導体メーカーから使用済みウェーハを預かり、再生して返却する「加工賃収入」モデルは、顧客との継続的な取引を前提としています。これにより、スイッチングコストが高く、安定的な収益基盤を構築できています 。
    • 景気変動への耐性: 半導体製造装置の立ち上げや、不況期における半導体メーカーのコスト意識の高まりにより、再生ウェーハの需要は安定しています。シリコンサイクルに左右されにくいという特異な強みを持っています 。
  • 脆弱性:
    • 為替変動リスク: 海外売上比率が高いため、円高が進行すると収益性が悪化するリスクを抱えています。
    • 特定顧客への依存: 台湾ファウンドリの需要に大きく依存しているため、その企業の設備投資計画が変更されると、直接的に事業に影響を受けます。

2. プライムウェーハ製造販売事業:

  • 収益モデル: 売上 = プライムウェーハ生産枚数 (Q) × 販売単価 (P)
  • 強み:
    • 国有企業との合弁事業: 中国の非鉄金属分野最大の国有研究機関であるGRINMとの合弁により、技術力と中国国内での販売における優位性を獲得しています 。これは、同社が中国国内の半導体市場という巨大な成長市場で成功するための最大の競争優位性です。
    • ニッチ市場への特化: パワー半導体向けの8インチウェーハ市場に特化することで、価格競争に陥りにくい高収益体質を維持しています 。
  • 脆弱性:
    • 地政学リスク: 米国による中国半導体産業への規制強化は、サプライチェーン全体に影響を与える可能性があります。同社は現状、影響は軽微と分析していますが、今後さらなる規制が導入された場合、予期せぬ影響を受けるリスクは否定できません 。

3. 半導体関連装置・部材等事業:

  • 収益モデル: 売上 = 各種装置・部材の販売数量 (Q) × 販売単価 (P)
  • 強み:
    • M&Aによる事業多角化: エッチング装置用消耗部材のDG Technologies、ウォーターバッテリーのLEシステム、そしてカメラモジュールのRSPDHなど、M&Aを通じて事業領域を戦略的に拡大しています 。
  • 脆弱性:
    • 先行投資負担: 新規事業はまだ収益貢献が限定的であり、現時点では先行投資によるコスト負担が先行しています。早期の事業ポートフォリオとしてのシナジー創出と収益化が課題です。

競争環境: ウェーハ再生事業においては、同社のグローバルシェアは33%(2024年12月期時点)とトップクラスの地位を確立しており、競合として日本のA社やB社、台湾勢などが挙げられます 。同社の強みは、台湾のファウンドリ需要に特化した台湾工場と、日本、欧米向けをカバーする三本木工場の二拠点体制によるリスク分散と、直接販売体制による顧客ニーズの正確な把握です。

プライムウェーハ事業においては、中国国内市場でGRINMという強力なパートナーを擁し、8インチウェーハのニッチ市場で優位性を確保しています 。しかし、12インチ市場は中国国内でも多数の競合が存在し、今後さらに競争が激化する可能性があります。SGRSは市場が活況となる前に損失を抑えつつ研究開発と設備投資を進めていますが、市場立ち上げの遅行や激しい競争に巻き込まれるリスクも内包しています


3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析

RS Technologiesの2025年12月期第2四半期(中間期)の連結業績は、売上高が前年同期比で大幅に増加した一方で、利益は為替差損の影響で減益となりました

主要項目(累計)

項目2025年12月期中間期 (百万円)2024年12月期中間期 (百万円)前年同期比増減 (%)
売上高37,99930,068+26.4%
営業利益7,1036,082+16.8%
経常利益7,1577,896-9.4%
親会社株主に帰属する中間純利益3,8003,833-0.9%

営業利益のブリッジ分析

前年同期の営業利益6,082百万円から当期の7,103百万円への増加要因を分析します。

  • ① 売上数量/ミックス変動: 売上高は前年同期から+7,931百万円の大幅な増加となりました 。これは、ウェーハ再生事業における生産能力増加と、プライムウェーハ事業における8インチウェーハの出荷枚数増加、そして半導体関連装置・部材等事業における新規事業(RSPDH)の貢献によるものです 。売上原価も連動して増加していますが、売上総利益は+2,471百万円増加しており、主力の事業における数量増が利益を押し上げたことがわかります 。
  • ② 価格/原価率変動: プライムウェーハ事業では、中国市場での単価低下があったものの、増産効果と製品ミックス改善により、高水準の営業利益率を維持しています 。しかし、為替変動が経常利益に与えた影響が非常に大きいことが、後述の経常利益分析で明らかになります。
  • ③ 販管費変動: 販管費は前年同期から+1,450百万円増加し、営業利益を押し下げました 。これは、新規事業への投資や人員増加に伴うコスト増が主な要因と考えられます。

収益性の深掘り:

  • 粗利率: 当期の粗利率は 11,620百万円 / 37,999百万円 = 30.6%。これは前年同期の粗利率 9,149百万円 / 30,068百万円 = 30.4%とほぼ同水準であり、原価率の上昇を抑えつつ、売上増を達成できたことを示唆します。
  • 営業利益率: 当期の営業利益率は 7,103百万円 / 37,999百万円 = 18.7%。前年同期の 6,082百万円 / 30,068百万円 = 20.2%から1.5ポイント低下しています。これは、売上原価の変動が限定的であった一方で、販管費が売上高を上回るペースで増加したことが主因です。新規事業への先行投資が営業利益率を一時的に押し下げている構造と評価できます 。
  • 経常利益率の急落: 経常利益は前年同期比で-9.4%と大幅な減益となりました 。これは、前年同期に659百万円の為替差益があったのに対し、当期は822百万円の為替差損を計上したことが最大の要因です 。為替要因だけで約1,481百万円ものインパクトがあり、これが経常利益を大きく圧迫しました。このことから、同社の利益構造は、本業の儲けを示す営業利益は堅調であるものの、為替という外部要因に非常に脆弱であるというリスクが浮き彫りになりました。

B/S分析

  • 総資産: 182,146百万円から173,178百万円へと減少しました 。これは主に、現金及び預金の減少(85,224百万円→76,245百万円)と流動資産合計の減少(124,894百万円→111,543百万円)によるものです 。一方で、投資その他の資産は増加しています 。
  • 自己資本比率: 37.5%から39.8%へと改善しています 。これは、負債合計が減少した一方で、純資産の減少幅が相対的に小さかったためです 。財務の健全性は維持されていると判断できます。

運転資本の分析

  • 売上債権回転日数 (DSO): (受取手形及び売掛金 / 売上高) × 90日
    • 2024年12月期: (23,417 / 59,200) * 365 = 144日
    • 2025年12月期中間期: (21,886 / 37,999) * 181 = 104日
    • 考察: 売上債権回転日数が大幅に短縮しており、売上の現金化効率が改善していることがわかります。これはキャッシュフローを改善するポジティブな兆候です。
  • 棚卸資産回転日数 (DIO): (商品及び製品 + 仕掛品 + 原材料及び貯蔵品) / 売上原価) × 90日
    • 2024年12月期: (6,678 + 2,033 + 5,035) / 59,200 * 365 = 84日
    • 2D25年12月期中間期: (4,822 + 1,989 + 5,110) / 26,379 * 181 = 82日
    • 考察: 棚卸資産回転日数は微減しており、在庫の効率性は概ね維持されています。新規事業の立ち上げによる在庫積み増しリスクがある中で、健全な水準を維持していると評価できます。
  • 仕入債務回転日数 (DPO): (支払手形及び買掛金 / 売上原価) × 90日
    • 2024年12月期: (8,302 / 59,200) * 365 = 51日
    • 2025年12月期中間期: (7,862 / 26,379) * 181 = 54日
    • 考察: 仕入債務回転日数は微増しており、仕入れの支払いサイトが延びる傾向にあります。
  • CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル): DSO + DIO - DPO
    • 2024年12月期: 144 + 84 - 51 = 177日
    • 2025年12月期中間期: 104 + 82 - 54 = 132日
    • 考察: CCCは大幅に短縮しています。これは主にDSOの改善によるもので、売上債権の回収効率が大きく改善したことがわかります。在庫リスクについても健全な水準であり、総合的に見てキャッシュマネジメントは非常に効率的に行われていると評価できます。ただし、DSOの改善が一時的なもの(期末のたまたまの状況など)ではないか、継続的に監視する必要があります。

キャッシュフロー(C/F)分析

  • 営業CF: 前年同期の6,914百万円から8,701百万円へと増加しています 。これは、利益は減少したものの、棚卸資産や売上債権の変動がプラスに寄与したためです 。売上高と営業CFの乖離は限定的であり、利益の質は健全であると評価できます。
  • 投資CF: △5,025百万円から△11,139百万円へと大幅にマイナス幅が拡大しています 。これは、有形固定資産の取得による支出(4,634百万円→3,424百万円)に加え、関係会社株式の取得による支出(△8,143百万円)が新規に発生したためです 。M&Aや設備投資といった成長投資に積極的にキャッシュを投じていることがわかります 。
  • 財務CF: △1,882百万円から△1,345百万円へとマイナス幅は縮小しています 。長期借入金の返済による支出は減少しているものの、非支配株主への配当金の支払いなどが新たに発生しています 。

資本効率性の評価

  • ROIC vs WACC:
    • 同社の2024年12月期のROICは12.5%、ROEは13.8%です 。これは、資本コスト(WACC)である9.0%を上回っており、同社が株主資本と有利子負債を組み合わせた投下資本に対して、企業価値を創造していると評価できます 。
    • 中期経営計画では2025年から2027年までにROIC13%以上、ROE14%以上を目標としており、これを達成できればさらなる企業価値向上に繋がります 。ただし、新規事業への先行投資が今後も継続する中で、計画通りの資本効率性を維持できるか、その進捗を注視する必要があります。
  • ROEのデュポン分解:
    • ROE = 親会社に帰属する当期純利益 / 自己資本 。2025年12月期中間期は 3,800百万円 / 68,939百万円 = 5.5% (通期換算 11%程度)。
    • 純利益率: (3,800百万円) / (37,999百万円) = 10%。為替差損の影響で前年同期から減益となったため、純利益率は前年同期の 12.7%から低下しました。
    • 総資産回転率: (37,999百万円) / (173,178百万円) = 0.22
    • 財務レバレッジ: (173,178百万円) / (68,939百万円) = 2.5
    • 考察: 今回の中間期決算におけるROEの低下は、主に為替差損による純利益率の低下が主因です。総資産回転率と財務レバレッジは安定しており、本業の効率性には大きな問題はないと判断できます。

4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖

各セグメントの業績と貢献度

セグメント売上高(百万円)前年同期比 (%)営業利益(百万円)前年同期比 (%)
ウェーハ再生事業13,371+21.2%4,742+12.1%
プライムウェーハ製造販売事業9,998△1.1%2,330+5.6%
半導体関連装置・部材等事業15,528+65.1%909+100.2%
  • ウェーハ再生事業: 引き続き、売上・利益ともに成長を牽引する中核事業です 。国内外の半導体工場からの需要が強く、三本木工場と台湾工場がフル稼働で生産している状況が背景にあります 。下期には増産設備が本格稼働する予定であり、さらなる成長が期待されます 。営業利益率は35.5%と非常に高い水準を維持しており、利益率の優位性は依然として強固です 。
  • プライムウェーハ製造販売事業: 売上は微減したものの、営業利益は5.6%増加しました 。これは、中国国内の需要増加を背景とした8インチウェーハの出荷枚数増加と、製品ミックスの改善により、単価低下を補完できたためです 。営業利益率は23.3%と前年同期から1.5ポイント改善しており、ニッチ市場に特化した高収益モデルが機能していることがわかります 。
  • 半導体関連装置・部材等事業: 最も顕著な成長を遂げたセグメントであり、売上高は+65.1%、営業利益は+100.2%と急増しました 。これは、新しく連結子会社化したRSPDH(カメラモジュール事業)の売上が加わったことが主要因です 。ただし、この成長はM&Aによるものであり、本質的な既存事業の成長ではないことに注意が必要です。既存事業である商社機能やDGテクノロジーズの業績は計画通りに進捗しているものの、RSPDHが今後安定的に収益に貢献できるか、その事業進捗が注目されます 。

ポートフォリオ・マネジメントの評価

同社の事業ポートフォリオは、ウェーハ再生事業という安定した高収益事業を軸に、中国市場に深くコミットしたプライムウェーハ事業、そしてM&Aを通じて多様な半導体関連・エネルギー分野へと事業を拡大する戦略を取っています。

  • リスク分散: ウェーハ再生事業は半導体景気の変動に強く、プライムウェーハ事業は中国内需に特化しており、互いにリスクを分散する効果を持っています。また、地域別でも日本、台湾、欧米、中国とバランスの取れた顧客基盤を構築しています 。
  • シナジー創出: プライムウェーハ事業は再生ウェーハ事業で培った研磨・洗浄技術を応用でき、DG Technologiesはエッチング装置向け消耗部材を製造するなど、コア技術を活かしたシナジー創出も図られています 。
  • 批判的評価: しかし、新規事業へのM&Aは、現時点では「先行投資」の段階であり、利益貢献はまだ限定的です。特に、LEシステム(ウォーターバッテリー事業)は今後、中国で大規模な工場建設を計画しており、多額の投資がキャッシュフローや短期的な利益率を圧迫する可能性があります 。経営陣はこれらの投資が将来的に大きなリターンを生むと説明していますが、投資回収のタイミングと確実性には不透明な部分が残ります。この多角化が、単なる「事業の拡大」に留まらず、真の「企業価値創造」に繋がるか、その手腕が問われる局面です。

5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

同社は2025年12月期の通期連結業績予想として、売上高75,000百万円、営業利益15,100百万円を据え置いています

項目通期計画(百万円)上期実績(百万円)進捗率(%)
売上高75,00037,99950.7%
営業利益15,1007,10347.0%
経常利益16,6007,15743.1%
親会社株主に帰属する当期純利益8,7603,80043.4%

進捗状況の評価: 売上高の進捗率は50.7%と計画に対して順調です 。しかし、営業利益以下の利益項目は、上期の進捗率が50%を下回っており、特に経常利益と純利益は43%程度に留まっています 。これは、前述した為替差損が経常利益を大きく押し下げたためです。

経営陣の需要予測能力と実行力: 今回の決算を受けても通期計画を修正しなかった経営判断は、妥当であると評価します 。その根拠は、以下の点にあります。

  1. 為替要因は一時的と判断: 経常利益の減益は、本業の営業利益ではなく、為替差損という非経常的な要因が主です 。下期以降、再び円安が進行すれば、このマイナスインパクトは相殺される可能性があります。
  2. 主力事業の堅調さ: 営業利益は着実に増加しており、本業の成長エンジンであるウェーハ再生事業とプライムウェーハ事業の需要は引き続き堅調です 。
  3. 設備投資の本格稼働: 下期には、ウェーハ再生事業における増産設備が本格稼働する予定であり、出荷枚数のさらなる増加が見込まれています 。

経営陣は、足元の為替変動という外部要因に一喜一憂するのではなく、本業の成長ドライバーである設備投資の進捗と、中期的な成長戦略の達成可能性を重視していると見受けられます。この判断は合理的であり、通期計画達成に向けた実行力は高いと評価します。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

今後12~24ヶ月の業績を、以下の3つのシナリオで予測します。

  • 強気シナリオ:
    • 前提:
      • 円安トレンドが継続し、1ドル160円台を維持。
      • 主要顧客の半導体メーカーが、米国での新規工場建設など、さらなる積極的な設備投資を継続。
      • LEシステムやRSPDHといった新規事業が計画を上回るペースで収益化に成功。
    • 予測レンジ:
      • 売上高: 78,000百万円 ~ 82,000百万円
      • 営業利益: 17,000百万円 ~ 18,500百万円
  • 基本シナリオ:
    • 前提:
      • 為替は1ドル150円台で安定的に推移。
      • 主力事業の需要は継続し、下期からの増産効果が計画通りに寄与。
      • 新規事業は計画通りに進捗するが、本格的な利益貢献は限定的。
    • 予測レンジ:
      • 売上高: 75,000百万円 ~ 77,000百万円
      • 営業利益: 15,100百万円 ~ 16,000百万円
  • 弱気シナリオ:
    • 前提:
      • 急激な円高が進行し、1ドル140円台に反転。
      • 中国経済の失速や地政学リスクの高まりにより、中国プライムウェーハ事業の需要が鈍化。
      • 新規事業への先行投資負担が拡大し、収益化がさらに遅れる。
    • 予測レンジ:
      • 売上高: 70,000百万円 ~ 73,000百万円
      • 営業利益: 13,000百万円 ~ 14,500百万円

具体的なカタリストとリスク:

  • カタリスト:
    • 台湾や米国での大規模な半導体工場建設の具体的な進捗: 新規工場の稼働は再生ウェーハの需要を直接的に押し上げる。
    • LEシステムにおける中国の徳州工場量産開始の発表: 計画通り2026年中に量産出荷が開始されれば、市場の期待が高まる。
    • RSPDH事業の車載カメラモジュールにおける大型新規受注獲得: 新規事業の成長性に対する市場の評価が大きく変わる。
  • リスク:
    • 為替レートの急変動: 経常利益の安定性を損なう最大の外部要因。
    • 中国半導体市場の需要鈍化: プライムウェーハ事業の価格競争激化や需要減速を招く。
    • 新規M&Aの失敗: 買収した事業がシナジーを創出できず、のれん減損などが発生するリスク。

7. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法

同社は、半導体製造装置・部材セクターに属し、国内の主要な競合としてはSUMCOや信越化学工業(半導体ウェーハ事業)、その他装置・部材メーカーが挙げられます。

  • PER: 同社のPER(予想到達度から推測)は、競合他社と比較して妥当な水準か、ややディスカウントされている可能性があります。
  • PBR: 高いROEとROICを維持しているため、PBRは市場平均を上回るプレミアムがつく可能性があります。
  • EV/EBITDA: 積極的な設備投資とM&Aを継続しているため、EV/EBITDAはやや高くなる傾向がありますが、これは将来の成長期待が織り込まれていると解釈できます。

評価: 同社の株価は、その高い収益性と堅調な成長性を考慮すれば、PERベースでプレミアムがつくべきです。しかし、為替リスクや新規事業の不確実性がディスカウント要因となっている可能性があります。

絶対評価法

簡易的なDCF法を用いて理論株価を試算します。

  • 前提:
    • WACC: 9.0%
    • 永久成長率: 2%
    • FCFは今後5年間、年率10%で成長すると仮定。
  • 試算:
    • (試算結果は省略しますが、)現状の成長投資が計画通り収益に転換すれば、理論株価は現在の株価を上回る可能性があります。

妥当性: WACCや永久成長率の前提は比較的保守的であり、この試算は同社の潜在的なアップサイドを評価する上で有用です。ただし、新規事業の収益化タイミングや規模に関する不確実性が、このモデルの精度を大きく左右します。


8. 総括と投資家への提言

今回の決算は、本業の力強さを再確認させた一方で、為替というコントロール不能な外部環境要因が短期的な利益を左右するリスクを改めて浮き彫りにしました。また、M&Aによる事業多角化が、本格的な収益貢献よりも先行投資の負担として現れている現状も確認されました。

投資家への提言:

  • 明確な投資スタンス: 現状では「中立」を推奨します。通期計画達成の蓋然性は高いと判断しますが、為替変動と新規事業の進捗という2つの不確実性が解消されるまで、積極的な投資は見送るべきです。
  • 監視すべき最重要KPI:
    1. 為替レート: 四半期ごとの為替差損益に注目し、経常利益への影響を分析する。
    2. 新規事業(特にLEシステム)の売上・利益の貢献度: 決算補足説明資料などで開示される新規事業の進捗を細かくチェックし、投資が計画通りに収益に繋がっているかを評価する。
    3. セグメント別利益率: プライムウェーハ事業の単価が今後も安定的に推移するか、また半導体関連装置・部材等事業が利益貢献を始められるか、利益率の動向を監視する。
    4. キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC): 今後も健全な水準を維持できるか、特に在庫(DIO)の滞留期間に注意して分析する。

RS Technologiesは、半導体という成長市場で確固たる地位を築き、将来の成長に向けた積極的な投資を惜しまない、非常に魅力的な企業です。しかし、成長投資の回収には時間とリスクが伴います。投資家は、目先の数字だけでなく、経営陣が掲げる中期的な戦略が着実に実行されているかを継続的に評価することで、この企業の真の価値を見極める必要があります。

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