1. エグゼクティブ・サマリー
投資スタンス: 中立、確信度 65%
Oisix ra daichi株式会社の2026年3月期第1四半期決算は、売上高およびEBITDAが前年同期比でそれぞれ5.1%増、28.1%増となり、連結通期計画に対する進捗率も順調に推移している。特に、BtoC事業では会員数の減少にもかかわらず、高付加価値化によるARPU(ユーザーあたりの平均売上)の向上と継続的な原価改善により利益率が改善した点が評価できる。また、BtoB事業では食材費高騰の影響を受けつつも、新規契約の増加と価格適正化により利益率を前年同期水準まで改善させた。
一方で、今回の決算で最も注目すべきは、シダックスグループ傘下の事業再編である。フード・社会事業の完全子会社化と車両事業の売却は、財務体質と資本効率の改善を目的とした戦略的な意思決定であり、今後の収益構造に大きな影響を与える。この構造転換が、本業である食のインフラ事業の強化にどの程度貢献するか、その真価が問われる段階に入ったと判断する。
3行サマリー:
- 事実: BtoCのARPU向上と原価改善、BtoBの新規契約増と価格適正化により、売上高・EBITDAともに好調な立ち上がり。
- 本質: シダックス事業再編による財務改善と本業への経営資源集中は、短期的な利益変動リスクを伴いつつも、中長期的な収益力向上への重要な転換点。
- 注目点: 今後公表される再編による連結業績予想への影響と、それに伴う新たな利益構造の安定性。
主要カタリストとリスク:
ポジティブ・カタリスト:
- 「タイパ給食モデル」の確立と横展開: BtoB事業における省人化・高付加価値化モデルが成功し、利益率が計画を上回って改善する。
- シダックス事業再編による財務基盤の抜本的強化: 車両事業売却によるバランスシートの圧縮と借入負担の軽減が、市場の評価を大きく引き上げる。
- BtoC事業におけるARPUの持続的向上: 「Oisix CookBox」やコラボ商品などの高付加価値商品が、会員数減少を補って余りある成長ドライバーとなる。
ネガティブ・リスク:
- 価格適正化交渉の失敗: BtoB事業において、食材費高騰分を価格転嫁できず、契約解除が想定以上に増加し、収益性が悪化する。
- 車両事業売却による一時的な収益減少: 利益率の高い車両事業の売却が、短期的には連結全体の売上高と利益にネガティブな影響を与える。
- コア事業における競争激化: BtoC・BtoBともに競合他社の参入や価格攻勢により、ブランド優位性が損なわれ、会員数・ARPUの減少が加速する。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
Oisix ra daichiは、「これからの食卓、これからの畑」をミッションに掲げ、食に関する社会課題をビジネスで解決することを目指している。事業セグメントは大きく分けてBtoCサブスク事業とBtoBサブスク事業の2つが中核を成し、その他に社会サービス事業、車両運行サービス事業、その他事業を展開している。
BtoCサブスク事業(国内3ブランド+米国)
- 収益モデル: 売上 = 会員数 × ARPU(Average Revenue Per User)
- 強み:
- 高付加価値なブランド力: Oisix、大地を守る会、らでぃっしゅぼーやの各ブランドが、それぞれ異なる顧客層(共働き子育て世代、オーガニック志向、社会貢献志向など)に深く浸透している。これは、価格競争に陥りにくい強固なブランド・ロイヤルティと、高いスイッチングコストを生み出している。
- 独自のサプライチェーンと商品開発力: 規格外野菜の活用やコラボ商品の開発など、単なる流通事業者にとどまらない独自の価値創造モデルを構築しており、これがARPU向上の源泉となっている。
- データ活用: 顧客の購買データを分析し、パーソナライズされた商品やサービスを提案することで、ARPUとLTV(顧客生涯価値)の最大化を図っている。
- 脆弱性:
- 会員数の減少傾向: 競争激化や経済活動の正常化により、BtoCサブスク事業全体の会員数が前年同期比で減少傾向にある。ARPU向上がこれをカバーしているが、会員基盤の縮小は中長期的な成長リスクとなる。
- 景気変動への脆弱性: 食材費の高騰は原価率を圧迫し、個人消費の減速はARPUの伸びを鈍化させる可能性がある。
BtoBサブスク事業(給食・サービス)
- 収益モデル: 売上 = 契約施設数 × 施設あたりの売上単価
- 強み:
- 安定した収益基盤: 病院、高齢者施設、学校などとの年間契約が中心であり、景気変動に左右されにくい安定的な収益が見込める。
- 「タイパ給食モデル」による競争優位性の創出: BtoCで培ったミールキット開発・製造ノウハウをBtoBに応用することで、人手不足に悩む給食業界の課題を解決するソリューションを提供し、新規契約獲得に繋げている。
- 脆弱性:
- 慢性的な人件費・食材費高騰リスク: BtoCと同様、インフレによるコスト増が直接的に利益を圧迫する構造にある。価格転嫁の交渉力が問われる。
- 事業ポートフォリオの再構築: シダックスグループの事業再編により、利益率の高い車両事業を売却し、収益性の低いセグメントへの経営資源集中を進める判断は、短期的には事業リスクを増加させる。
競争環境: BtoC食品宅配市場では、生協(CO-OP)などの老舗から、ネットスーパー(イオン、楽天SEIYU)、フードデリバリー(Uber Eats、Demaecan)、専門特化型(GREEN SPOON、nosh)まで多様なプレイヤーが存在する。同社の強みは、単なる利便性ではなく、「安心・安全な食材」という品質とブランドイメージに特化している点にある。これは、安価な価格で勝負するネットスーパーやフードデリバリーとは異なる土俵で戦うことを可能にしている。
一方、BtoB給食市場は日清医療食品やGreen Houseなどがひしめく中で、依然として寡占化が進んでいない状況にある。シダックスの買収は、一気に市場でのプレゼンスを高める戦略であり、同社が提唱する「タイパ給食モデル」が、慢性的な人手不足という業界の構造的課題を解決するソリューションとして浸透すれば、一気に市場シェアを拡大する可能性がある。
3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析
項目 | 2026年3月期 1Q (百万円) | 2025年3月期 1Q (百万円) | 前年同期比 (%) | 通期計画 (百万円) | 進捗率 (%) |
売上高 | 66,423 | 63,223 | +5.1% | 270,000 | 24.6% |
EBITDA | 3,359 | 2,623 | +28.1% | 14,000 | 24.0% |
営業利益 | 1,837 | 1,230 | +49.3% | 8,000 | 23.0% |
親会社帰属純利益 | 750 | 339 | +120.9% | 4,000 | 18.8% |
全社的な業績は、売上高が前年同期比5.1%増、EBITDAが同28.1%増と、増収増益を達成。通期計画に対する進捗も、売上高24.6%、EBITDA 24.0%と順調な滑り出しである。特筆すべきは、純利益が120.9%増と大幅な伸びを示している点である。
営業利益のブリッジ分析(2025年3月期 1Q → 2026年3月期 1Q)
- 2025年3月期 1Q 営業利益: 1,230百万円
- ① 売上高増減: +3,200百万円
- ② 粗利益率変動: 売上原価率が70.5%から70.9%へ悪化しており、粗利益率は約0.4pt悪化している。この要因は、BtoB事業における米を中心とした食材費高騰の影響が大きいと考えられる。BtoC事業では原価改善が進んでいる一方で、BtoB事業のコスト増が全体を押し下げた。
- ③ 販管費変動:
- 人件費: 前年同期17.4%から17.5%とほぼ横ばい 。
- 物流コスト: BtoC事業ではOisixの原価改善が奏功し、利益率が1.9pt改善した。これは、配送効率の向上や梱包資材費の見直しなどが寄与していると推測される。
- その他販管費: BtoC事業では、会員数減少を補うための積極的なプロモーションや新規顧客獲得に向けたマーケティング投資が行われている。販管費全体としては、売上高が増加した中で、売上原価の悪化を吸収し、営業利益を大幅に改善させた。
- 2026年3月期 1Q 営業利益: 1,837百万円
収益性の深掘り: BtoCサブスク事業の利益率は、前年同期比で1.9pt改善した 。これは、OisixのARPU増加と継続的な原価改善によるものであり、会員数が減少しているにもかかわらず収益性が向上している点は評価できる。
一方、BtoB事業の利益率は前年同期と同水準まで改善 。これは、食材費高騰という逆風を、学校給食を中心とした新規契約の増加と、コントラクト事業における価格適正化交渉によって相殺できた結果と言える。
B/S分析
項目 | 2025年3月期末 (百万円) | 2026年3月期 1Q末 (百万円) | 対前期末増減 (%) |
総資産 | 134,564 | 136,744 | +1.6% |
現金及び預金 | 19,155 | 20,978 | +9.5% |
有形固定資産 | 27,066 | 26,861 | (0.8%) |
のれん・顧客関連資産 | 39,313 | 38,643 | (1.7%) |
負債合計 | 95,076 | 96,479 | +1.5% |
借入金 | 33,381 | 31,772 | (4.8%) |
純資産合計 | 39,487 | 40,264 | +2.0% |
自己資本比率 | 22.6% | 22.7% | +0.1pt |
総資産は微増、借入金は減少しており、健全な財務状況が維持されている。特に、借入金が4.8%減少している点は、今後の事業再編における借入金返済方針と一致しており、ポジティブに評価できる。
運転資本の分析(CCC:キャッシュ・コンバージョン・サイクル)
- 売上債権回転日数(DSO): (売掛金 + 受取手形) / (売上高 / 90日)
- 2025年3月期1Q末: (25,938 + 44) / (63,223 / 90) = 37.0日
- 2026年3月期1Q末: (27,632 + 46) / (66,423 / 90) = 37.5日
- ほぼ横ばい。回収サイトに大きな変動はない。
- 棚卸資産回転日数(DIO): (商品+製品+仕掛品+原材料+貯蔵品) / (売上原価 / 90日)
- 2025年3月期1Q末: (2,685 + 229 + 1,838) / (44,585 / 90) = 9.5日
- 2026年3月期1Q末: (2,673 + 216 + 1,920) / (47,077 / 90) = 9.2日
- わずかに改善。在庫管理が効率化されていることを示唆する。特に生鮮食品を扱うビジネスモデルにおいて、在庫の質(滞留期間、陳腐化リスク)は極めて重要だが、DIOの短さはそのリスクが低いことを示している。
- 仕入債務回転日数(DPO): (買掛金) / (売上原価 / 90日)
- 2025年3月期1Q末: 11,671 / (44,585 / 90) = 23.5日
- 2026年3月期1Q末: 11,848 / (47,077 / 90) = 22.6日
- わずかに短縮。サプライヤーへの支払いが若干早まっていることを示唆する。
- CCC: DSO + DIO – DPO
- 2025年3月期1Q末: 37.0 + 9.5 – 23.5 = 23.0日
- 2026年3月期1Q末: 37.5 + 9.2 – 22.6 = 24.1日
- CCCはわずかに悪化しているが、これはBtoB事業における価格適正化交渉がサプライヤーへの支払条件に影響を与えている可能性も考えられる。しかし、全体としては健全な水準にあり、事業運営に大きな支障はない。
キャッシュフロー(C/F)分析
決算短信には四半期連結キャッシュ・フロー計算書が掲載されていないが、決算説明資料のフリー・キャッシュフローの推移からは、M&Aに伴う投資CFの増加が顕著であることがわかる 。M&Aによるのれん償却費の増加も利益を圧迫するが、営業CFは堅調に推移しており、本業でしっかりとキャッシュを生み出せていることがわかる。
資本効率性の評価
- ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト):
- 2026年3月期1Q末時点のROICは12.8% 。これは、前年同期の6.2%から大幅に改善している 。
- 一般的に、ROICがWACCを上回っていれば企業価値を創造していると判断される。提供資料にWACCの情報はないが、借入金利(2025年3月期実績で支払利息159百万円/借入金33,381百万円で約0.5%)や株式市場のリスクプレミアムを考慮すると、ROIC 12.8%はWACCを十分に上回っている可能性が高い。
- 特に、シダックス事業再編により、ROICとNet Debt/EBITDAは大きく改善する見込みであり、これは企業価値創造へのコミットメントを明確に示すものとして高く評価できる 。
- ROE(自己資本利益率)のデュポン分解:
- 2025年3月期1Q: ROE = 純利益率 (0.5%) × 総資産回転率 (0.47回) × 財務レバレッジ (3.4倍) = 0.8%
- 2026年3月期1Q: ROE = 純利益率 (1.1%) × 総資産回転率 (0.49回) × 財務レバレッジ (3.4倍) = 1.8%
- ROEは純利益率の改善が主因で大きく向上している。これは、営業利益の増加と、借入金減少による支払利息の減少が寄与している。財務レバレッジは横ばいであり、バランスシートの肥大化によるものではない健全な利益成長であると言える。
4. セグメント情報の徹底解剖
BtoCサブスク事業
- Oisix: 売上高は前年同期比1%減と微減だが、会員数減少をARPU増でカバーしている。調整後セグメント利益は同33%増と大幅に改善し、利益率も11.1%に向上 。これは、サービス・プロダクトの質向上によるARPU増加と、継続的な原価改善が奏功した結果である 。
- 大地を守る会: 売上高、調整後セグメント利益ともに前年同期比で減少 。会員数、ARPUともに減少傾向 。創業50周年記念企画が第2四半期以降に予定されており、巻き返しに期待。
- らでぃっしゅぼーや: 売上高は同4%増、調整後セグメント利益は同9%増と好調 。会員数の増加基調が続いており、安定的な成長ドライバーとなっている 。
- Purple Carrot: 米国事業であり、売上高は前年同期比23%減、調整後セグメント利益は赤字幅が拡大している 。為替の影響や米国市場での競争激化が背景にあると推測される。
BtoBサブスク事業
- 売上高: 前年同期比13%増 。学校給食を中心とした新規契約数の増加と、コントラクト事業での価格適正化が寄与 。
- 調整後セグメント利益: 同16%増 。食材費高騰という逆風の中、利益率を前年同期と同水準まで改善させた点は、経営陣の価格転嫁能力を証明するものと言える。
- 戦略的転換: 26年3月期から学校給食事業が社会サービスセグメントからBtoBサブスクセグメントに再編された 。これは、事業特性の近似性を考慮した合理的な変更であり、BtoB事業の拡大戦略を明確に示している。
ポートフォリオ・マネジメントの評価: 今回の決算で最も重要なのは、**「選択と集中」**のポートフォリオ戦略が明確になったことである。
- BtoC事業: Oisix、大地を守る会、らでぃっしゅぼーやの国内3ブランドは、それぞれの強みを活かした戦略(Oisixの高付加価値化、大地を守る会のブランド強化、らでぃっしゅぼーやの顧客基盤拡大)で成長を目指している。一方で、Purple Carrotの不振はポートフォリオ全体のリスクとなっており、米国市場での戦略の見直し、または撤退も視野に入れるべき時期に来ているかもしれない。
- BtoB事業: シダックスグループの買収と事業再編により、給食事業に経営資源を集中させる方針が明確になった。車両事業という安定的な収益源を売却してまで給食事業をコアに据える判断は、この事業が持つ成長ポテンシャルと、BtoC事業とのシナジーを深く信じていることを示唆している。特に、「タイパ給食モデル」は、BtoCのミールキット製造ノウハウをBtoBに応用する、まさに両事業のシナジーを具現化したものであり、このモデルの成功が今後の成長を大きく左右すると見ている。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
会社が掲げる通期計画は、売上高2,700億円、EBITDA 140億円、営業利益80億円、純利益40億円である 。今回の第1四半期の実績は、売上高664億円、EBITDA 34億円、営業利益18億円、純利益7.5億円 。各項目の進捗率は、売上高24.6%、EBITDA 24.0%、営業利益23.0%、純利益18.8%であり、売上高とEBITDAは計画通り順調に推移していると評価できる 。
しかし、注意すべきは、この通期計画がシダックス傘下の子会社再編の影響を考慮していない点である 。会社は、再編による影響は中間期決算発表までに公表予定としている 。この再編により、売上高とEBITDAは減少する見込みであるものの、親会社に帰属する純利益は増加する見込み 。
この判断は、経営陣の戦略的思考を反映している。短期的な収益規模の減少を許容してでも、利益率の高いコア事業に集中し、財務体質を改善させるという意思決定は、株主価値の最大化を目指す観点から妥当である。ただし、この計画修正のタイミングは、投資家への情報提供という観点からはやや遅いと評価せざるを得ない。迅速な情報開示は、投資家の信頼を維持する上で不可欠である。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
今後12~24ヶ月の業績について、以下の3つのシナリオを提示する。
強気シナリオ
- 前提条件:
- マクロ経済: インフレが落ち着き、個人消費が堅調に推移。
- 市場環境: BtoC市場での価格競争が激化せず、高付加価値戦略が奏功。BtoB給食市場で「タイパ給食モデル」が急速に浸透し、新規契約獲得が加速。
- 為替レート: 円高に振れ、Purple Carrotの赤字幅が縮小。
- 売上・利益レンジ:
- 売上高: 2,750億円 – 2,800億円
- EBITDA: 145億円 – 150億円
- 純利益: 45億円 – 50億円
- カタリスト:
- BtoC事業で「Oisix CookBox」などの新商品が大幅に売上を伸ばす。
- BtoB事業における価格適正化交渉が円滑に進み、解約率が想定を下回る。
- 車両事業売却によるバランスシート改善効果が市場にポジティブに評価される。
基本シナリオ
- 前提条件:
- マクロ経済: 緩やかなインフレが続き、消費者心理は慎重。
- 市場環境: BtoC市場は会員数減少トレンドが継続するも、ARPU向上でカバー。BtoB市場では「タイパ給食モデル」の導入に時間がかかるが、着実に新規契約を獲得。
- 為替レート: 横ばい。
- 売上・利益レンジ:
- 売上高: 2,650億円 – 2,700億円
- EBITDA: 135億円 – 140億円
- 純利益: 38億円 – 40億円
- カタリスト:
- 年間計画通りの安定的な進捗。
- 事業再編による財務基盤強化が、新たなM&A機会創出に繋がる。
弱気シナリオ
- 前提条件:
- マクロ経済: 再びインフレが加速し、消費者の節約志向が強まる。
- 市場環境: BtoC市場で会員数減少に歯止めがかからず、ARPUも伸び悩む。BtoB市場では食材費・人件費高騰を価格転嫁できず、利益率が悪化。
- 為替レート: 円安が進行し、Purple Carrotの赤字が拡大。
- 売上・利益レンジ:
- 売上高: 2,500億円 – 2,600億円
- EBITDA: 120億円 – 130億円
- 純利益: 30億円 – 35億円
- リスク:
- BtoB事業における赤字契約解消交渉が難航し、想定以上の契約解除が発生する。
- BtoC事業で顧客満足度が低下し、解約率が上昇する。
- シダックス事業再編によるシナジー効果が発現せず、利益率が改善しない。
7. バリュエーション(企業価値評価)
相対評価法
(提供資料に競合他社のバリュエーション指標がないため、一般的な議論を行う。) Oisix ra daichiは、単なる食品小売業者ではなく、独自のブランド力とサプライチェーンを持つテクノロジー企業として評価されるべきである。
- プレミアム要因:
- 高収益なサブスクリプションモデル: 安定的な収益基盤と高いLTVは、スポット取引が主体の一般的な食品小売業者と一線を画す。
- ESG(環境・社会・ガバナンス)への貢献: フードロス削減や食の社会課題解決への取り組みは、ESG投資家からの評価に繋がる。
- 成長ポテンシャル: BtoCとBtoBという異なる事業領域でのシナジー創出は、新たな成長機会を生み出す。
- ディスカウント要因:
- 会員数減少: BtoC事業の成長鈍化は懸念材料。
- M&Aリスク: シダックス買収の成功はまだ証明されておらず、シナジーが実現しないリスクがある。
- コスト上昇リスク: 食材費や人件費の高騰は、常に利益を圧迫するリスクとなる。
結論として、同社の株価は、単純なPERやPBRで競合と比較するのではなく、高成長率や利益率の改善、ESG要素を考慮した上で、一定のプレミアムで評価されるべきである。
絶対評価法(簡易DCF)
(提供資料に基づき、仮説を置いて簡易的な試算を行う)
- WACC: 借入コストは非常に低く、株主資本コストも成長期待からある程度高いと仮定し、WACCを5.0%と仮定。
- FCF予測: 2026年3月期のEBITDA予想140億円から、減価償却費・のれん償却費(約60億円)、法人税(約20億円)、運転資本の増加(横ばいと仮定)を差し引くと、年間FCFは約60億円と試算できる。
- 永久成長率: 食のインフラ企業としての安定成長とM&Aによる非連続成長を考慮し、永久成長率を2.0%と仮定。
- 企業価値: FCF(1+g) / (WACC-g) = 60億円 * (1+0.02) / (0.05 – 0.02) = 約2,040億円。
- 株式価値: 企業価値からNet Debt(約100億円)を差し引くと、株式価値は1,940億円となる。
- 理論株価: 株式価値 / 発行済株式数 = 1,940億円 / 3,796万株 = 約5,110円。
これはあくまで簡易的な試算であり、前提条件によって大きく変動する。しかし、現在の株価(仮定)と比較して、大きな乖離がない場合、現行株価は妥当な水準にあると評価できる。
8. 総括と投資家への提言
今回の決算は、Oisix ra daichiが構造的な転換期に入ったことを明確に示した。短期的な利益規模の減少を許容してでも、利益率の高いコア事業(特に給食事業)に経営資源を集中させるという経営陣の判断は、中長期的な企業価値向上を目指す上で理にかなったものである。BtoC事業の会員数減少という逆風を、ARPU向上と原価改善で乗り越えている点も評価できる。
しかし、この戦略が成功するか否かは、今後の実行にかかっている。特に、BtoB事業における「タイパ給食モデル」の収益性改善と、シダックス事業再編によるシナジー効果の創出は、今後の株価を左右する最大の鍵となる。
投資家への提言:
- 今期の投資スタンスは中立を維持する。
- 最重要監視KPI:
- BtoC事業のARPUと解約率: 会員数減少トレンドが続く中で、ARPUの成長が持続可能か、解約率が急増しないかを注視する。
- BtoB事業の利益率: 食材費高騰を価格転嫁できているか、コスト削減効果が発現しているかを確認する。
- 子会社再編による詳細な業績見通し: 11月中旬に公表される予定の、再編後の連結業績予想とその前提条件を精査する。
- 最重要イベント:
- 11月中旬に予定されている中間期決算発表と、それに伴う通期業績予想の修正内容。
- 「タイパ給食モデル」の導入事例の進捗報告。
この企業の真価は、今回の決断がもたらす中長期的な収益構造の変化によって測られる。次回の決算発表では、この構造転換の進捗を判断するためのより詳細な情報が求められるだろう。