投資スタンス:強気(確信度: 75%)
NJSは、国内インフラの老朽化と強靭化という構造的な追い風を背景に、コンサルティング事業の好調を持続しており、特に国内業務が連結業績を力強く牽引している。海外事業の課題は残るものの、M&Aによる事業ポートフォリオの拡充と、デジタル化・AI技術を活用した高付加価値サービスの提供が、中長期的な成長ドライバーとなると評価する。足元の業績は通期計画に対して堅調に推移しており、増益見通しの達成確度も高い。
3行サマリー:
- 何が起きたか: 2025年12月期第2四半期は、国内のインフラ再構築関連業務が好調で、売上高、各利益項目ともに前年同期を大きく上回り、進捗は非常に堅調である 。
- なぜ重要か: 国内インフラの構造的な需要増加を確実に捉えており、新規M&Aによる事業領域拡大と相まって、安定的な収益基盤がさらに強固になっている 。
- 次に何を見るべきか: 海外業務の赤字縮小ペースと、M&Aにより獲得した新規事業のシナジー創出効果が、今後の利益成長の鍵となる 。
主要カタリストとリスク:
カタリスト(強気材料)
- 国内インフラ投資の加速: 政府によるインフラ強靭化計画の前倒しや老朽化対策予算の増加が、同社の国内コンサルティング事業への受注をさらに押し上げる可能性がある。
- 新規M&Aの成功とシナジー創出: CDCアクアサービス株式会社の買収によるシナジーが計画以上に早く発現し、上下水道事業のDXサービス分野での市場シェアを拡大する 。
- 技術革新による高収益化: ドローン、AIなどの先端技術を活用したインスペクション事業が本格的に収益貢献し、高粗利なサービスミックスへの移行が進む 。
リスク(弱気材料)
- 海外事業の不振長期化: アジアやアフリカでのプロジェクトが地政学的リスクや為替変動、コスト増加により計画通りに進まず、赤字が常態化するリスク 。
- 人件費増加と人材流出: 好調な事業環境下で、優秀な技術者やコンサルタントの確保・維持が困難となり、人件費が急増、利益率を圧迫するリスク。
- 公共事業予算の変動: 政府の財政健全化方針により、水インフラ関連予算が削減された場合、国内業務の成長が鈍化するリスク。
事業概要とビジネスモデルの深掘り
ビジネスモデルの評価
NJSのビジネスモデルは、主に公共事業である水インフラ(上水道、下水道)のコンサルティングおよびソフトウェア開発・提供を核としている 。収益モデルを分解すると、以下のようになる。
売上高 = (国内コンサルティング事業の受注単価 × 受注件数) + (海外コンサルティング事業の受注単価 × 受注件数) + (新規事業・ソフトウェア事業の単価 × 導入件数)
このモデルの強みは、以下の3点にある。
- 強固な競争優位性: 水インフラという専門性の高い領域において、長年にわたる実績と技術的ノウハウを蓄積しており、公共事業においては入札で高い評価を獲得しやすい 。これは新規参入を困難にする高い参入障壁となっている。
- 安定した収益基盤: 上下水道施設は国民生活に不可欠な社会インフラであり、その老朽化対策や再構築、強靭化は喫緊の課題として継続的な需要が見込まれる 。景気変動の影響を受けにくく、安定した売上を期待できる。
- 事業ポートフォリオの多角化: 従来のコンサルティングに加え、ドローンやAIを活用したインスペクション、アセットマネジメントソフトウェア、M&Aによるカスタマーサービス領域への進出など、収益源を多角化している 。これにより、特定の事業への依存リスクを低減し、成長機会を広げている。
一方、脆弱性としては、依然として公共事業への依存度が高い点が挙げられる。政府の財政状況や政策変更が事業に直接的な影響を与える可能性は否定できない。また、海外事業は現地でのプロジェクト推進や為替変動、地政学的リスクなど、国内事業とは異なる不確実性を抱えている 。
競争環境
NJSは、水インフラ分野において、日本工営やオリエンタルコンサルタンツなどの総合建設コンサルタントと競合関係にある。
項目 | NJS | 競合(日本工営など) |
強み | 水インフラに特化した深い専門性とノウハウ。官公庁との長年にわたる関係構築。 | 幅広い土木・建設分野をカバーする総合力。海外事業の規模と実績。 |
弱み | 水以外の分野での事業規模は限定的。海外事業の収益性が課題 。 | 水インフラ分野での深い専門性という点では、NJSに一日の長がある。 |
NJSは、水インフラというニッチな領域に特化することで、他社との差別化を図り、高い専門性を強みとしてきた。今後は、M&Aで獲得したCDCアクアサービスのような、料金管理や自治体DXといったサービス分野で、既存の競合とは異なる新しい市場を創造し、独自のポジションを確立していくことが重要となる 。
業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析
2025年12月期第2四半期(中間期)の連結経営成績は、前年同期比で大幅な増収増益を達成した 。
項目 | 2025年12月期中間期 | 2024年12月期中間期 | 前年同期比(%) |
売上高 | 14,293百万円 | 13,351百万円 | +7.1% |
営業利益 | 3,909百万円 | 3,243百万円 | +20.5% |
経常利益 | 3,959百万円 | 3,353百万円 | +18.1% |
親会社株主帰属中間純利益 | 2,684百万円 | 2,282百万円 | +17.6% |
営業利益のブリッジ分析
前年同期の営業利益3,243百万円から、当期営業利益3,909百万円への変動要因を定量的に分析すると、主に売上増加に伴う増益効果が最も大きいことがわかる。
- 売上増加による増益効果: 約8.5億円
- 販管費増加による減益効果: 約1.3億円
- その他(コスト削減など): 約0.05億円
(注: 売上総利益率の変動が少ないことから、売上高増加の大部分が利益増に直結したと仮定し、売上増加額に前年同期の売上総利益率を乗じて計算。販管費の増加額は、売上総利益の増加額から営業利益の増加額を差し引いて概算。正確な数値は開示されていないため、推計値である)
この分析から、当期の増益は主に国内業務の好調による売上高増加に起因しており、収益構造に大きな歪みは生じていないことが示唆される。
収益性の深掘り
- 売上総利益率:
- 2024年12月期中間期: 6,410/13,351=48.0
- 2025年12月期中間期: 7,281/14,293=50.9
- 営業利益率:
- 2024年12月期中間期: 3,243/13,351=24.3
- 2025年12月期中間期: 3,909/14,293=27.3
売上総利益率が約3ポイント上昇しており、これが営業利益率の改善に大きく貢献している 。この背景には、インフラ強靭化や老朽化対策といった高付加価値なコンサルティング案件の比率が増加したことや、不採算海外プロジェクトの比率が低下したことが考えられる。国内業務が牽引役となり、全体としての収益性が向上していると言えるだろう。
B/S分析
2025年12月期中間期の総資産は、前連結会計年度末と比較して4,909百万円増加し、36,031百万円となった 。
項目 | 2025年12月期中間期 | 2024年12月期末 | 増加額(百万円) |
総資産 | 36,031 | 31,122 | +4,909 |
純資産 | 28,840 | 26,191 | +2,649 |
自己資本比率 | 79.9% | 83.9% | -4.0pt |
総資産の増加は、主に
現金及び預金が6,347百万円増加したことによる 。これは、営業活動によるキャッシュフローが好調だったことと、受取手形、完成業務未収入金及び契約資産が2,536百万円減少したことが主な要因と考えられる 。
運転資本の分析
**CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)**を分析することで、NJSのキャッシュ効率を評価する。
- 売上債権回転日数(DSO):
- 2024年12月期末: ($6,255,161 / 22,594,177) x 365 = 101.1日
- 2025年12月期中間期: ($3,718,900 / 14,293,002) x 182.5 = 47.4日
- 棚卸資産回転日数(DIO):
- コンサルティング事業が中心のため、棚卸資産(未成業務支出金)は限定的である 。
- 2024年12月期末: ($965,851 / 6,940,590) x 365 = 50.8日
- 2025年12月期中間期: ($1,034,547 / 7,011,821) x 182.5 = 26.9日
- 仕入債務回転日数(DPO):
- 2024年12月期末: ($762,531 / 6,940,590) x 365 = 40.0日
- 2025年12月期中間期: ($408,875 / 7,011,821) x 182.5 = 10.6日
- CCC:
- 2024年12月期末: 101.1 + 50.8 – 40.0 = 111.9日
- 2025年12月期中間期: 47.4 + 26.9 – 10.6 = 63.7日
分析: DSOが大幅に短縮していることから、代金回収が効率化していることがわかる 。これは、受取手形、完成業務未収入金及び契約資産が2,536百万円減少したという開示情報とも整合する 。CCCが大幅に短縮したことは、より短い期間で投下したキャッシュが回収され、運転資金の効率が向上したことを意味する。これは、キャッシュフロー改善に直結する非常にポジティブな兆候である。
キャッシュフロー(C/F)分析
当中間期における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末から6,347百万円増加し、24,028百万円となった 。
- 営業CF: 7,233百万円のプラス 。好調な純利益に加え、受取債権の減少や契約負債の増加が寄与している 。純利益(2,684百万円)と営業CF(7,233百万円)の乖離が大きいが、これは主に受取債権の減少(2,775百万円)と契約負債の増加(1,548百万円)といった運転資本の変動によるものであり、利益の質に問題はないと判断する 。
- 投資CF: 360百万円のマイナス 。無形固定資産の取得(130百万円)や、子会社株式の取得(207百万円)が主な要因である 。これは、事業拡大に向けた戦略的な投資であり、今後の成長に向けた布石として評価できる。
- 財務CF: 482百万円のマイナス 。配当金の支払い(476百万円)が主要因であり、安定した株主還元策を実行している 。
結論: 営業CFで稼いだ資金を、成長投資と株主還元にバランス良く配分する、健全なキャッシュマネジメントがなされている。
資本効率性の評価
ROEとデュポン分解
2025年12月期中間期のROEをデュポン分解を用いて評価する。
- ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
- 純利益率: 2,684/14,293=18.8
- 総資産回転率: $14,293 / 36,031 = 0.40回
- 財務レバレッジ: $36,031 / 28,840 = 1.25倍
- ROE: 18.8
この中間期の数値を年換算すると、ROEは18.8%となる。純利益率が非常に高く、高い収益性を背景に株主資本効率を向上させていることがわかる。
ROICとWACC
NJSの事業は公共性が高く、財務レバレッジを積極的に活用するタイプではない。そのため、**ROIC(投下資本利益率)**で事業の真の収益性を評価することがより適切である。
- ROIC = (税引後営業利益) / (投下資本)
- 税引後営業利益: 3,909times(1−0.3)=2,736百万円 (法人税等を30%と仮定)
- 投下資本: (総資産 – 現金・預金 – 無利子負債) = 36,031−24,028−6,263 = 5,740百万円
- ROIC: 2,736/5,740=47.7
このROICは年換算すると$47.7% \times 2 = 95.4%$となり、非常に高い水準である。一般的なWACC(加重平均資本コスト)を仮に5%と設定しても、**ROIC(95.4%) > WACC(5%)**という関係が明確に成立しており、NJSは投下した資本に対して圧倒的なリターンを生み出し、企業価値を力強く創造していると評価できる。
セグメント情報の徹底解剖
NJSは、**「国内業務」と「海外業務」**の2つの報告セグメントで構成されている 。
項目 | 国内業務 | 海外業務 |
受注高 | 11,336百万円 (+27.8%) | 875百万円 (-7.5%) |
売上高 | 13,372百万円 (+10.2%) | 920百万円 (-24.4%) |
営業利益 | 3,972百万円 (+18.7%) | ▲63百万円 (前年同期は▲103百万円) |
分析:
- 国内業務: 受注高、売上高、営業利益のいずれも2桁成長を達成しており、連結業績の成長ドライバーであることが明確である 。インフラの老朽化対策、再構築、災害対策といった構造的な需要を確実に捉えている。営業利益率も約29.7%と非常に高く、収益性の中心を担っている。
- 海外業務: 受注高、売上高ともに前年同期比で減少し、営業損失を計上しているものの、赤字幅は縮小している 。これは、不採算プロジェクトの見直しやコスト管理が進んでいる可能性を示唆する。しかし、引き続き海外市場での収益化は大きな課題であり、今後の動向を注視する必要がある。
- ポートフォリオ・マネジメントの評価: 国内業務が絶好調である一方、海外業務は依然として課題を抱えている。経営陣は国内の好調なキャッシュフローを、新規事業へのM&A(CDCアクアサービス)や、海外事業の立て直しに再投資していると見られる。これは、国内事業の安定性を基盤として、新たな成長の芽を探索する健全なポートフォリオ戦略と評価できる 。
経営計画の進捗と経営陣の評価
同社が掲げる2025年12月期の連結業績予想と、今回の中間期実績を比較する 。
項目 | 通期計画 | 中間期実績 | 進捗率 |
売上高 | 25,000百万円 | 14,293百万円 | 57.2% |
営業利益 | 3,050百万円 | 3,909百万円 | 128.2% |
経常利益 | 3,100百万円 | 3,959百万円 | 127.7% |
親会社株主帰属純利益 | 2,150百万円 | 2,684百万円 | 124.8% |
分析:
- 通期計画の超過達成: 営業利益以下の全ての利益項目において、中間期時点で既に通期計画を大幅に上回ってしまっている。これは、経営陣の需要予測が保守的であったことを示唆している。特に、国内業務の好調を過小評価していた可能性がある 。
- 経営判断の妥当性: 今回の決算発表で通期業績予想の修正は行われなかった 。これは、下期において海外事業で不採算案件が発生する可能性や、M&A関連費用など、潜在的なコスト増のリスクを考慮に入れているためと考えられる。また、期末に向けて大型案件の受注時期が変動する可能性もあるため、現時点では慎重な姿勢を維持したと推察される。通期計画の据え置きは、保守的ながらも堅実な経営判断であり、投資家にとっては上振れ期待が持てるポジティブなサプライズと言える。
将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
3つの将来シナリオ
- 強気シナリオ(確率25%):
- 前提条件: 国内のインフラ投資が予想以上に加速し、国内業務の受注が継続して好調に推移する。海外業務の赤字幅が大幅に縮小、または黒字化する。CDCアクアサービスとのシナジーが早期に実現し、新規事業の収益貢献が加速する。
- 売上・利益予測レンジ: 売上高270億〜290億円、営業利益45億〜50億円。
- 基本シナリオ(確率65%):
- 前提条件: 国内業務は引き続き堅調な成長を維持するが、成長率はやや鈍化。海外業務は赤字が継続するものの、収支改善が進む。M&Aによる事業統合は順調に進むが、本格的なシナジー効果の発現は2026年以降となる。
- 売上・利益予測レンジ: 売上高250億〜260億円、営業利益38億〜42億円。
- 弱気シナリオ(確率10%):
- 前提条件: 政府の財政状況悪化により公共事業予算が削減される。海外事業で大規模な不採算プロジェクトが発生し、赤字幅が拡大。優秀な技術者の流出や人件費高騰により、コスト構造が悪化する。
- 売上・利益予測レンジ: 売上高240億〜250億円、営業利益30億〜35億円。
カタリストとリスク
分類 | 具体例 |
カタリスト | ・政府によるインフラ予算の増額決定 <br> ・海外事業における大型プロジェクトの受注 <br> ・M&Aによる新規事業の早期黒字化 <br> ・高収益なソフトウェア事業の売上拡大 |
リスク | ・公共事業の入札競争激化による受注単価下落 <br> ・海外での地政学的リスクの高まり <br> ・為替変動による海外事業の採算悪化 <br> ・人材獲得競争の激化による人件費高騰 |
バリュエーション(企業価値評価)
相対評価法
NJSの株価は、同業他社と比較して割安であると判断する。同業他社は日本工営やオリエンタルコンサルタンツなど、水インフラ以外の土木・建設コンサルティングも手掛ける企業が多く、厳密な比較は難しい。しかし、純粋な水インフラに強みを持つNJSの安定した収益性、特にROICがWACCを大幅に上回る高い資本効率性は、市場からより高い評価を受けて然るべきである。
- PER (株価収益率): 同業他社と比較して、NJSのPERは10倍台と、成長性や収益性を考慮するとディスカウントされていると見られる。
- PBR (株価純資産倍率): NJSのPBRは2倍台であり、特段の割高感はない。しかし、ROEが年換算で18%を超える水準であることを考えると、PBRも3倍以上への上昇余地があると考える。
絶対評価法
簡易DCF法を用いて理論株価を試算する。
- WACC: 5.0%
- 永久成長率: 1.0% (国内市場の成熟度を考慮)
- フリー・キャッシュフロー(FCF): 2025年中間期実績から推計すると、年間FCFは約65億円。
企業価値 = FCF / (WACC – g) 企業価値 = 65億円/(0.05−0.01)=1,625億円
発行済み株式数(自己株式を除く)は約951.8万株 。
理論株価 = 1,625億円/951.8万株=17,073円
現在の株価は、この簡易的な試算値よりも大幅に低い水準にあり、強い上値余地があると判断する。
総括と投資家への提言
NJSは、国内のインフラ老朽化と強靭化という強力なテーマに乗り、極めて高い収益性と資本効率を誇る優良企業である。今回の決算は、その堅調なビジネスモデルが引き続き機能していることを明確に示した。特に、運転資本の効率改善によるキャッシュフローの創出能力は特筆すべき点であり、この潤沢なキャッシュが今後の成長投資や株主還元に充てられる好循環が期待される。
投資スタンスは「強気」を維持する。
投資家が今後注視すべきは、以下のKPIとイベントである。
- 国内業務の受注残高の推移: 継続的な高水準の受注が、将来の売上を担保する最も重要な指標となる。
- 海外業務の損益分岐点達成時期: 収益性の足を引っ張る海外事業がどこまで改善するかを注視する。
- M&A後のシナジー進捗: CDCアクアサービスとの協業による具体的な案件獲得や、新サービスの提供状況。
- 通期業績予想の修正発表: 中間期の大幅な進捗超過を受けて、経営陣がいつ、どの程度の水準に計画を修正するか。これは、経営陣の自信度と今後の成長期待を示す重要なイベントとなる。
今後も、NJSが強固な国内事業を基盤に、デジタル技術やM&Aを通じて新たな成長領域を開拓していくストーリーに期待し、長期的な視点での投資を推奨する。