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Keyware Solutions(3799)2026年3月期 第1四半期決算:事業構造転換の兆しと、依然残る利益変動リスク – 中立スタンスを維持


1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス: 中立(確信度: 65%)

キーウェアソリューションズの2026年3月期第1四半期決算は、前年同期の営業赤字から黒字へと転換し、売上高も前年同期比で大幅に増加しました。これは、長年の課題であった不採算案件の整理と、高付加価値なプライムビジネスへの注力、そして事業譲渡を通じたグループ内でのノウハウ集約といった、経営計画「Vision2026」に基づく構造改革の成果が徐々に表れ始めていることを示唆します。しかし、売上原価率の改善は一時的な要因による可能性も否定できず、通期計画に対する第1四半期の進捗率は依然として低水準にとどまっています。市場全体の底堅い需要を背景に、売上増加の傾向は続くと見込まれますが、利益率の安定的な改善には、さらに踏み込んだ事業ポートフォリオの最適化と、高単価案件の継続的な獲得が必要不可欠です。

3行サマリー:

  1. 何が起きたのか: 2026年3月期第1四半期は、売上高が前年同期比11.4%増、営業利益が赤字から黒字に転換し、計画通りに推移した 。
  2. なぜそれが重要なのか: これは、不採算案件の抑制や高付加価値ビジネスへの注力といった構造改革が奏功し、利益体質の改善が始まったことを示唆しており、将来の安定的な収益基盤構築に向けた重要な一歩である。
  3. 次に何を見るべきか: 今後、利益率が持続的に改善していくか、特に「システム開発事業」における営業損失の縮小傾向が継続するか、また第2四半期以降の大型案件受注動向を注視する必要がある。

主要カタリストとリスク:

  • ポジティブ・カタリスト:
    1. SAP、Biz∫などのERPソリューションにおける大型プライム案件の継続受注: 高単価・高利益率のプライムビジネスの拡大が、利益率のさらなる改善を加速させる。
    2. 医療ソリューション「Medlas-BR」「Medlas Fit」などのパッケージソリューションの市場浸透: パッケージ製品は受注開発に比べ、高い利益率が期待できるため、収益性の押し上げに貢献する。
    3. 子会社再編(キーウェアサービス吸収合併)によるグループ内シナジーの早期発現: 経営資源の集約が、効率性の向上と高付加価値サービスの創出を促す。
  • ネガティブ・リスク:
    1. 公共系など大型案件の反動減による売上・受注の失速: 第1四半期で既に受注高の減少が見られており、今後の売上成長が鈍化するリスク。
    2. 人件費増加に伴うコスト増: 構造的な人手不足の中、エンジニア育成や待遇改善によるコスト増が利益率を圧迫する可能性。
    3. プロジェクト管理失敗による不採算案件の再発: 過去に営業損失を計上した最大の要因であり、景気後退局面や大型案件の増加は管理リスクを高める。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

キーウェアソリューションズは、システム開発事業、SI事業、その他事業の3つのセグメントを主軸とする情報サービス企業です

ビジネスモデルの評価: 同社の売上モデルは、主に顧客からの受注開発と、パッケージソリューションの販売・保守、および運用サービスなどの継続サービスで構成されます。これを数式で表現すると、売上 = (請負契約件数 × プロジェクト単価) + (サービス契約数 × 月額料金)となります。

  • 強み:
    • 特定の産業に特化したノウハウ: 運輸系や医療系といった特定の産業に深い知見と実績を有しており、これが一定のスイッチングコストを生み出しています 。
    • 「プライムビジネス」への注力: 顧客と直接契約を結ぶ「プライムビジネス」の拡大は、中間マージンを排除し、プロジェクトの意思決定に関与できるため、高付加価値と高収益性の両立を可能にします 。
  • 脆弱性:
    • 労働集約的なビジネスモデル: 人月単価に基づく受託開発の比重が高く、収益性がエンジニアの稼働率や単価に大きく左右されます。人件費の変動やプロジェクトの遅延が直接的に利益を圧迫します 。
    • 特定顧客や大型案件への依存: 公共系など大型案件の受注状況がセグメント売上に大きな影響を与え、四半期ごとの業績が不安定になる傾向があります 。

競争環境: 情報サービス産業は、大手のNTTデータ、富士通、日立製作所から、中堅・中小のシステムインテグレーターまで、競争が激しい市場です。同社の主要な競合としては、同様にプライム比率の向上を目指す中堅SIerが挙げられます。同社は、特にERPソリューションや医療システムといった特定の領域に強みを持つことで差別化を図っています 。しかし、大手企業に比べるとブランド力や資本力で劣り、プロジェクト管理能力や技術力で優位性を確立し続けることが課題となります。


3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析

項目2026年3月期 1Q (百万円)2025年3月期 1Q (百万円)前年同期比 (増減率)
売上高5,1324,605+11.4%
営業利益17△190黒字転換
経常利益64△56黒字転換
親会社株主に帰属する四半期純利益45△34黒字転換

営業利益のブリッジ分析:

  • 前年同期営業損失: △190百万円
  • ①売上数量/ミックス変動: 売上高は526百万円増加し、これに伴い売上総利益は240百万円増加しました 。
  • ②価格/原価率変動: 売上原価率は88.9%から78.1%へと大幅に改善しました 。これは、前年同期に発生していた不具合対応等のコスト収束が主な要因であり、利益改善への最大の貢献要因です 。これにより、粗利益は大幅に増加しました。
  • ③販管費変動: 販管費は8.2億円から7.8億円へと42百万円減少しました 。売上高が増加しているにもかかわらず、販管費が減少していることは、コスト管理の厳格化を示唆します。
  • 当期営業利益: 17百万円
  • 変動要因: 売上増加(約+5.2億円)と売上原価率の改善(約+2.4億円)、そして販管費の削減(約+0.4億円)が、営業利益の黒字転換に大きく貢献しました。特に、前期の不採算案件の収束による原価率改善が利益改善の核心的な要因であると分析されます。

収益性の深掘り: 売上総利益率は前年同期の13.0%から16.3%へと改善しました 。この改善は、主に「システム開発事業」において、前期に不具合対応などで発生していたコストが収束したことによるものです 。また、販管費率も18.0%から15.4%へと減少しており、これは売上高の増加によるレバレッジ効果と、厳格なコスト管理の両方によるものと考えられます

B/S分析

項目2026年3月期 1Q末 (百万円)2025年3月期末 (百万円)前期末比 (増減率)
総資産10,25610,779△4.8%
純資産7,3417,569△3.0%
自己資本比率71.6%70.2%+1.4pt

運転資本の分析(CCC): キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)を評価することで、企業のキャッシュ創出力と効率性を評価します。

  • 売上債権回転日数(DSO):
    • 2026年3月期1Q: (売掛金 6,112百万円 / 売上高 5,132百万円) × 90日 = **107日**
    • 2025年3月期1Q: (売掛金 4,832百万円 / 売上高 4,605百万円) × 90日 = **94日** DSOが大幅に増加しており、これは売上増加に伴う売掛金の増加が、キャッシュ回収を遅らせていることを示唆します。
  • 棚卸資産回転日数(DIO):
    • 2026年3月期1Q: (棚卸資産 65百万円 / 売上原価 4,009百万円) × 90日 = **1.5日**
    • 2025年3月期1Q: (棚卸資産 122百万円 / 売上原価 4,294百万円) × 90日 = **2.5日** DIOは改善しており、在庫管理の効率性が向上していることを示唆します。同社のビジネスモデル上、在庫は主にパッケージ製品や仕掛品であり、滞留期間の短縮は陳腐化リスクの低減に繋がります。
  • 仕入債務回転日数(DPO):
    • 2026年3月期1Q: (買掛金 861百万円 / 売上原価 4,009百万円) × 90日 = **19.3日**
    • 2025年3月期1Q: (買掛金 1,137百万円 / 売上原価 4,294百万円) × 90日 = **23.8日** DPOは減少しており、仕入先への支払いが早まっていることを示唆します。

CCC:

  • 2026年3月期1Q: 107日 + 1.5日 - 19.3日 = **89.2日**
  • 2025年3月期1Q: 94日 + 2.5日 - 23.8日 = **72.7日** CCCは前期から大きく悪化しており、これは主に売上債権の回収遅延が原因です。この悪化は、将来的なキャッシュフローにネガティブな影響を与える可能性があります。

キャッシュフロー(C/F)分析

当第1四半期のキャッシュフロー計算書は開示されていません 。このため、営業CFと純利益の乖離(アクルーアル)分析はできませんが、運転資本の悪化から、営業CFは純利益を下回る可能性が高いと推測されます。

資本効率性の評価

  • ROIC(投下資本利益率)とWACC:
    • ROICはNOPAT / 投下資本で算出されます。
    • 2026年3月期1QのNOPATは、税金等調整前四半期純利益67百万円に実効税率(22.511/67.919=33.1%)を乗じた約45百万円となります 。
    • 投下資本は、当期末の有利子負債は不明ですが、固定負債の増加はわずかで、自己資本は減少しています 。
    • 詳細な数値がないため正確なROICは算出できませんが、営業利益の黒字転換は、少なくとも資本から利益を生み出す力が改善していることを示唆します。しかし、ROEが△4.23円から5.44円へと改善している一方で、CCCの悪化が見られるため、本質的な収益体質改善には至っていない可能性も示唆されます 。
  • ROE(自己資本利益率):
    • 2026年3月期1QのROEは (親会社株主に帰属する四半期純利益45百万円 × 4) / 純資産 7,341百万円 = **2.45%**
    • 2025年3月期1QのROEは (△34百万円 × 4) / 純資産 7,569百万円 = **△1.8%** ROEは大幅に改善しましたが、これは単に赤字から黒字に転換したことによるものです。デュポン分解で見ると、利益率の改善が主要因であり、総資産回転率や財務レバレッジは大きく変化していません。

4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖

各セグメントの業績

  • システム開発事業:
    • 受注高: 3,034百万円(前年同期比△1.6%減)
    • 売上高: 3,035百万円(前年同期比+14.2%増)
    • 営業損失: △9百万円(前年同期は△145百万円の損失) 公共系における大型案件の反動減で受注高は減少しましたが、前期に受注した開発案件が順調に進捗し、売上高は増加しました 。最大のハイライトは、不具合対応費用が収束したことで営業損失が大幅に縮小した点です 。この損失幅の縮小は、全社営業利益の黒字転換に最も大きく貢献しました。
  • SI事業:
    • 受注高: 993百万円(前年同期比+0.9%増)
    • 売上高: 1,504百万円(前年同期比+10.5%増)
    • 営業利益: 55百万円(前年同期は△19百万円の損失) 官公庁向けの案件拡大が奏功し、売上高は増加しました 。特に、連結子会社のクレヴァシステムズがキーウェアサービスを吸収合併したことにより、グループ内の技術とノウハウが集約され、高付加価値なサービス提供体制が構築されたことが、収益改善に寄与したと推測されます 。
  • その他事業:
    • 受注高: 712百万円(前年同期比+20.7%増)
    • 売上高: 592百万円(前年同期比+0.8%増)
    • 営業損失: △20百万円(前年同期は△21百万円の損失) サポートサービス系が堅調に推移し、受注高・売上高は増加しました 。しかし、営業損失は依然として残っており、このセグメントの構造的な課題が残っていることを示唆します。

ポートフォリオ・マネジメントの評価

経営陣は、不採算事業の整理(子会社の吸収合併)と、成長が見込まれる領域(農業ICT、サイバーセキュリティ、デジタル金融)への投資を進めており、「Vision2026」の基本方針に沿ったポートフォリオ転換を試みています 。特に、受注開発に依存する収益構造から、より安定した高収益ビジネスであるパッケージソリューションやプライムビジネスへの移行は、評価すべき点です。しかし、「システム開発事業」と「その他事業」が依然として損失を計上していることから、ポートフォリオ全体のリスク分散は道半ばであり、不振事業のテコ入れが今後の課題となります


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

通期計画の進捗: 2026年3月期の連結業績予想は、売上高22,500百万円、営業利益1,100百万円、経常利益1,150百万円、親会社株主に帰属する当期純利益800百万円です

第1四半期の実績は、売上高5,132百万円、営業利益17百万円、経常利益64百万円、純利益45百万円でした

売上高の進捗率は約22.8%ですが、営業利益の進捗率はわずか1.5%と極めて低い水準です

経営判断の妥当性: 会社は、第1四半期の業績が「概ね当初計画どおりに推移している」とし、通期予想に変更はないと発表しました 。この判断は、同社の事業特性として第4四半期に収益が集中する傾向にあることを考慮すれば、妥当なものと判断できます 。しかし、前期の大型案件の反動減による受注高の減少は、将来の売上を圧迫する可能性があり、この点についてはより慎重なモニタリングが必要です 。経営陣の需要予測能力は、依然として不確実性が高く、今後の四半期決算で継続的に検証していく必要があります。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

3つのシナリオ分析

  • 基本シナリオ(蓋然性: 60%)
    • 前提条件: マクロ経済は緩やかな回復基調を維持。IT投資需要は底堅く推移。大型案件の受注は順調に進むも、特大案件の獲得には至らない。
    • 業績予測: 通期売上高は22,000〜23,000百万円のレンジで推移し、計画値を達成する 。利益率は不採算案件の収束効果で改善傾向を維持するが、人件費増や競争激化で大幅な向上には至らない。通期営業利益は1,000〜1,200百万円となる。
    • カタリスト/リスク:
      • ポジティブ: プライム案件の継続的な獲得、パッケージソリューションの販売増加。
      • ネガティブ: 主要顧客の投資抑制、人件費の予想を上回る増加。
  • 強気シナリオ(蓋然性: 20%)
    • 前提条件: マクロ経済が予想を上回って回復し、企業のDX投資が加速。SAPやBiz∫などのERPソリューションで複数の大型プライム案件を新規獲得。
    • 業績予測: 通期売上高は計画値を大きく上回る23,500〜24,500百万円。利益率の高いプライム案件比率が向上し、営業利益率は大幅に改善。通期営業利益は1,300百万円以上。
    • カタリスト/リスク:
      • ポジティブ: 大規模なシステム刷新案件の獲得、新規顧客の開拓、医療システムの大病院への導入。
      • ネガティブ: 競合他社による価格攻勢、プロジェクト管理の失敗によるコスト超過。
  • 弱気シナリオ(蓋然性: 20%)
    • 前提条件: 世界的な景気後退や円安の急進により、企業のIT投資が減速。公共系案件の反動減が想定以上に大きく、新規受注が停滞。
    • 業績予測: 通期売上高は計画を下回る20,000〜21,500百万円。プロジェクト採算が悪化し、営業利益は予想を下回り、500百万円以下となる可能性。
    • カタリスト/リスク:
      • ポジティブ: なし。
      • ネガティブ: 主要顧客の投資延期・中止、新規不採算案件の発生、優秀なエンジニアの流出。

7. バリュエーション(企業価値評価)

  • 相対評価法:
    • 同社のPERは、通期予想純利益800百万円と発行済株式数9,110千株から算出される予想EPS 95.72円に基づき、現在の株価を評価する必要がある 。
    • 競合他社(同業他社で同程度の時価総額を持つSIer)と比較すると、キーウェアソリューションズは依然として利益率が低い水準にあり、事業の安定性も課題を抱えています。このため、PER、PBRは同業他社に比べてディスカウントされるべきと判断されます。
  • 絶対評価法:
    • 簡易的なDCF法を適用する場合、以下の仮定を置く必要があります。
      • WACC: 5-7%
      • 永久成長率: 1-2%
    • 第1四半期の実績からキャッシュフローの質に課題が残ることが示唆されており、現時点では詳細なDCF分析には不確実性が高いと判断します。しかし、将来的に利益率が安定的に改善し、フリーキャッシュフローが創出されるようになれば、理論株価は現在の水準から大きく上昇する可能性があります。

8. 総括と投資家への提言

キーウェアソリューションズの2026年3月期第1四半期決算は、過去の不採算案件からの脱却と、事業構造の転換が徐々に成果として表れ始めたことを示す、ポジティブな内容でした。特に、営業利益が黒字に転換したことは、経営陣の改革努力が実を結びつつある証拠であり、評価に値します。

しかし、この改善はまだ緒に就いたばかりです。売上債権回転日数の増加に代表されるキャッシュフローの悪化傾向は、利益の質の観点から懸念が残ります。また、通期計画に対する利益進捗率の低さは、今後の大型案件の受注状況と採算管理が極めて重要であることを示しています。

よって、現時点での投資スタンスは「中立」を維持します。今後、株価が大きく動く可能性があるため、投資家は以下のKPIとイベントに注視すべきです。

  • 最重要KPI:
    1. 各セグメントの営業利益率: 特に「システム開発事業」の継続的な黒字化または損失縮小。
    2. 売上債権回転日数(DSO): キャッシュフローの悪化傾向が続くか、改善するかを判断する上で不可欠。
  • 注視すべきイベント:
    1. 第2四半期以降の大型受注発表: 大型プライム案件の獲得は、売上と利益率の両面で大きなカタリストとなる。
    2. グループ会社再編による具体的なシナジー効果の開示: 経営資源集約が、新たな高付加価値サービスやコスト削減に繋がるか。

このレポートが、投資家の皆様の深い洞察の一助となることを願っています。引き続き、同社の動向を綿密に追跡していきます。

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