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KeePer技研 決算分析:過去最高益を達成するも、事業構造の転換点が鮮明に。祖業の失速を新事業でカバーできるか

目次

1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス:中立〜やや強気(確信度:中)

KeePer技研は、自動車の美観を維持するという普遍的なニーズに応え、高い収益性を誇る企業です。2025年6月期決算では、売上・利益ともに過去最高を更新し、一見するとその成長軌道は盤石に見えます。

しかし、その詳細を分析すると、重要な変化が見えてきます。同社の祖業ともいえる、ガソリンスタンド等を主販路とする「アフターマーケット」事業が、記録上初めて前年比でマイナス成長となりました。

これは、同社の成長ドライバーが、従来のビジネスから「新車マーケット」や「フランチャイズ(FC)展開」といった新たな領域へ本格的にシフトし始めたことを示す重要なシグナルです。本レポートでは、この事業構造の転換点に焦点を当て、短期的な課題を認識しつつも、新たな成長戦略がもたらす将来性を評価します。

3行サマリー

  • 何が起きたのか: 過去最高益を更新する好調な業績の中で、祖業であるアフターマーケット事業が史上初のマイナス成長を記録した。
  • なぜそれが重要なのか: 成長の主軸が旧来の事業から新事業へと移る「構造転換」が明確になった。これは同社の将来の収益構造を占う上で極めて重要な変化点となる。
  • 次に何を見るべきか: 新車マーケットでのシェア拡大ペースと、本格的に開始したFC展開が、アフターマーケットの鈍化を補い、新たな収益の柱として確立されるかどうかに注目。

主な成長カタリスト

  1. 新車ディーラーでの純正採用拡大: トヨタ、ホンダ、スバル等に加え、ボルボ、メルセデス・ベンツと採用が拡大。新車販売チャネルでの地位を確立しつつある。
  2. フランチャイズ(FC)展開の本格化: 出光興産との提携を機に、これまで供給が需要に追いついていなかった「キーパーLABO」の出店を加速。ロイヤリティ収入という安定した収益源の構築が期待される。
  3. 戦略的な財務活動: 保有するソフト99株の売却により、23.6億円の特別利益を計上見込み。これを原資とした追加の成長投資や株主還元強化策など、経営陣の次の一手が注目される。

主なリスク要因

  1. アフターマーケットの想定以上の縮小: 燃料価格の高騰や石油元売り業界の再編を背景に、主戦場であるガソリンスタンド市場が想定以上のペースで縮小するリスク。
  2. コスト構造の変化: LABO事業の店舗網拡大は、人件費や賃借料といった固定費の増加を伴う。売上の伸びがコスト増を吸収できなくなる局面では、同社の高収益モデルが圧迫される可能性がある。
  3. ブランド価値の管理: FC展開の急拡大は、サービス品質の維持という課題を伴う。全店舗で均質な高水準のサービスを維持できなければ、最も重要な資産である「KeePerブランド」の価値を損なうリスクがある。

2. 事業概要とビジネスモデル

KeePer技研の事業は、主に二つのセグメントで構成されています。

一つは**「キーパー製品等関連事業」**です。これは自社で開発・製造したコーティング剤等を、全国約6,600店のキーパープロショップ(主にガソリンスタンド)や自動車ディーラーに販売するBtoBビジネスです。高い製品力とブランド力を背景に、高利益率を誇る同社の中核事業です。

もう一つは**「キーパーLABO運営事業」**です。これは一般消費者向けにコーティングサービスを直接提供する直営店(一部FC)を中心としたBtoCビジネスです。KeePerブランドの品質を訴求する重要な拠点となっています。

長年、この二つの事業は相乗効果を発揮してきました。しかし、現在このバランスに変化が生じています。製品事業の主要な市場であった「アフターマーケット」の成長に陰りが見え始めたのです。燃料価格の高騰やガソリンスタンド業界の再編といった外部環境の変化を受け、同社は戦略の転換を迫られています。

そこで同社が打ち出したのが、新たな成長領域への注力です。 一つは**「新車マーケット」**の深耕です。新車販売時にコーティングを施工するという、より川上の需要を取り込む戦略は、アフターマーケットの不確実性を乗り越える上で有望な選択肢です。

もう一つは**「FC展開」**による店舗網の拡大です。直営店だけではカバーしきれない旺盛な需要に応えるため、フランチャイズ形式でパートナーを募り、サービス提供体制を急速に拡大させる戦略です。

KeePer技研の事業の舞台は、着実に変化しています。同社の将来は、この事業ポートフォリオの転換が成功するかどうかにかかっています。

3. 業績ハイライトと財務分析

P/L分析

2025年6月期の営業利益は70.9億円(前期比+16.3%)と、非常に好調な結果でした。ここでは、利益成長に至った各要因を分析します。

【増益要因】

  • キーパーLABO事業の売上増(+15.1億円): 新規出店効果と既存店の堅調な推移が利益を最も大きく押し上げました。
  • 製品事業・新車マーケットの売上増(+7.7億円): 同社が現在注力している新車市場向けの販売が期待通りに成長し、増益に大きく貢献しました。

【減益要因】

  • 製品事業・アフターマーケットの売上減(-0.5億円): 金額は小さいものの、史上初のマイナス成長という事実は重要です。これが一時的なものか、構造的なものかを見極める必要があります。
  • 人件費および店舗関連費用の増加: LABO事業の拡大に伴うコスト増です。成長を維持するためには避けられない費用ですが、利益を圧迫する要因となります。

営業利益率30.7%という高い収益性は維持されましたが、その内訳には注意が必要です。製品事業の利益率が42.1%であるのに対し、LABO事業は21.4%です。これは、今後の成長ドライバーであるLABO事業の売上構成比が高まるにつれて、会社全体の利益率には構造的な低下圧力がかかることを意味します。これは、将来の成長のために同社が受け入れた戦略的な選択の結果と言えるでしょう。

B/S & C/F分析

【B/S:将来への投資で資産構成が変化】

当期末の総資産は前期比55億円増の248億円となりました。資産増加の主な要因は**「投資有有価証券(+43.3億円)」「建物(+13.1億円)」**です。前者はソフト99コーポレーションへの戦略的投資、後者はLABO新店舗への設備投資であり、いずれも将来の成長に向けた積極的な資産配分です。

一方で**「現金及び預金」は9.6億円減少**しましたが、これは手元資金を成長投資に振り向けた結果であり、経営の積極姿勢を示すものと評価できます。自己資本比率は75.0%から72.7%へ微減したものの、依然として極めて健全な水準を維持しています。

【C/F:健全な営業CFと積極的な投資】

  • 営業CF:+58.5億円 本業のコーティング事業が安定的にキャッシュを生み出しており、事業の基盤は非常に強固です。
  • 投資CF:-67.9億円 前期(-24.9億円)を大幅に上回る投資を実行しました。主な内訳は、LABO新店舗関連の設備投資(19.8億円)とソフト99株の取得(42.5億円)です。守りから攻めへと、経営のスタンスが明確に変化していることがわかります。
  • 財務CF:+0.27億円 長期借入で15億円を調達する一方、配当金として13.6億円を株主に還元。成長投資のための資金を確保しつつ、株主還元も両立させるバランスの取れた財務活動です。

資本効率性の評価

ROE(自己資本利益率):30.1% 前期の34.5%からは低下しましたが、30%超というROEは国内上場企業の中でもトップクラスの水準です。

この高い資本効率の源泉をデュポン分解で見てみます。

ROE 30.1% = 純利益率 21.2% × 総資産回転率 0.93回 × 財務レバレッジ 1.52倍 (※各数値は概算)

この式が示すように、同社の高いROEは、過度な借入(高い財務レバレッジ)に依存したものではなく、**本業の圧倒的な収益性(高い純利益率)**によって支えられています。これは事業の質が高いことを示しており、投資家にとってポジティブな材料です。

4. セグメント情報

キーパー製品等関連事業

売上高104億円(+10.7%)、セグメント利益43.8億円(+14.4%)。セグメント全体では増収増益ですが、その内訳に大きな変化が見られます。

  • アフターマーケット(-0.8%): 主力のガソリンスタンド市場が、ついにマイナス成長に転じました。
  • 新車マーケット(+32.4%): 一方で、新車市場は力強い成長を見せ、アフターマーケットの落ち込みを十分に補っています。
  • 車以外(+46.9%)& 海外(+231.1%): モバイル端末用コーティングや台湾での事業も急成長しており、新たな収益源として育ちつつあります。

このセグメントで起きているのは、単なる衰退ではなく**「事業ポートフォリオの新陳代謝」**です。この転換が成功すれば、より強固な収益基盤を築く可能性があります。

キーパーLABO運営事業

売上高126.9億円(+13.5%)、セグメント利益27.1億円(+19.5%)。成長著しいセグメントです。

当期は直営17、FC6と過去にないペースで新規出店を進め、サービス提供体制を大幅に強化しました。総来店台数は74.8万台(+11.6%)に達し、高い需要が継続していることを示しています。

懸念点を挙げるとすれば、**平均単価が16,839円と、わずかに減少(-0.3%)**したことです。会社はこれを単価の低い洗車サービスの比率上昇によるものと説明しています。これが顧客層の拡大に繋がるポジティブな動きなのか、あるいは高単価サービスの訴求力に変化が生じているのか、今後の推移を注視する必要があります。

5. 経営計画と経営陣への評価

経営陣が示す2026年6月期の計画は、**売上高263億円(+13.9%)、営業利益80億円(+12.7%)**と、引き続き高い成長を目指すものです。

この計画で評価できるのは、経営陣がアフターマーケットのリスクを明確に認識し、新車マーケットとLABO事業へ経営資源を集中させる方針を打ち出している点です。これは現実を直視した合理的な戦略判断と言えます。

LABO事業で合計44店舗という大規模な出店計画は、旺盛な需要に対する直接的な回答であり、成長意欲の表れです。

しかし、この計画には二つの課題があります。 一つは**「人材の確保と育成」です。店舗網の急拡大に見合うだけの質の高いスタッフを確保・育成し続けられるかは、計画達成の鍵となります。 もう一つは「コスト管理」**です。増減益分析が示す通り、来期は人件費や店舗関連費用が利益を圧迫します。売上の伸びでコスト増を吸収し、高収益を維持できるか、経営の手腕が問われます。

また、**ソフト99株売却益(23.6億円)**という一時的な資金をどう活用するかも注目点です。さらなる成長投資に回すのか、株主還元を強化するのか。その方針は2025年秋の第1四半期決算時に発表される予定であり、市場の関心を集めています。

6. 将来シナリオ

【強気シナリオ】 新車マーケットでのシェアが順調に拡大し、20%程度まで上昇。FC展開も成功し、ロイヤリティ収入が新たな収益の柱として確立される。海外事業もアジア全域へ拡大。株価は新たな成長ステージを織り込み、上昇トレンドを強める展開。

【基本シナリオ】 会社の計画通り、新車マーケットとLABO事業の成長がアフターマーケットの縮小をカバーし、増収増益を達成する。ただし、コスト増の影響で利益の伸びは売上の伸びをやや下回る。株価は企業の着実な成長を反映し、緩やかに上昇する展開。

【弱気シナリオ】 アフターマーケットの縮小が想定以上に加速。新車マーケットの成長も景気後退などで鈍化する。FC店舗の品質管理に問題が生じ、ブランドイメージが毀損。コスト増を吸収できず減益となり、株価は調整局面に入る展開。

7. バリュエーション

2025年6月期の実績EPSは179.14円です。2026年6月期の会社予想EPSは263.93円ですが、これにはソフト99株売却益(一時的利益)が含まれています。

この特殊要因を除いた実力ベースの来期EPSを約200円と仮定します。現在の株価水準(仮に5,000円)で計算した予想PERは約25倍となります。

これは市場平均と比較して割安とは言えませんが、同社が30%を超える営業利益率とROEを誇る高成長・高収益企業であることを考慮すれば、一定のプレミアムは正当化されると考えられます。

現在は、事業構造の転換期にあるため、将来の不確実性が株価に反映されている状況です。この不確実性が払拭され、新たな成長軌道が明確になれば、バリュエーションは再度見直される可能性があります。

8. 総括と投資家への提言

KeePer技研の分析の核心は、同社が**「変化への適応」**という重要な局面にいるということです。自動車を美しく保つという市場ニーズは不変ですが、その市場で勝ち抜くための事業構造は変化を求められています。同社は祖業のガソリンスタンド市場から、新車ディーラー、海外、非自動車分野といった新たなフロンティアへ事業の軸足を移しています。

我々の投資スタンスは**「中立〜やや強気」**です。アフターマーケットの不振という短期的な懸念はありますが、それを補う新事業の成長ポテンシャルは大きいと評価します。

今後の動向を見る上で、投資家は以下のKPIに注目すべきです。

  • 注目すべきKPI①:製品事業の「新車マーケット売上高」
    • チェックポイント: 前年同期比で+30%以上の高い成長率を維持できるか。この数値が、今後の全体の成長ペースを左右します。
  • 注目すべきKPI②:LABO事業の「FC店舗数と関連売上」
    • チェックポイント: 出店計画は順調に進捗しているか。また、店舗数の増加がロイヤリティ収入として本社の利益にしっかりと貢献しているか。
  • 注目すべきKPI③:全社の「営業利益率」
    • チェックポイント: 30%前後の高い水準を維持できるか。コスト増加圧力の中で、高収益体質を維持できるかどうかの重要な指標です。

KeePer技研は、事業構造の大きな転換期にあります。課題はありますが、高い技術力とブランド力を持つ同社が、この変化を乗り越え、新たな成長ステージに進む可能性は十分にあると考えられます。引き続き、その動向を注視していきます。

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