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Interspace(2122)2025年9月期第3四半期決算分析

成長の代償か、構造的課題か?マーケティングソリューションへの「積極投資」の真価を問う

1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス: 中立(確信度60%)

3行サマリー: Interspaceは、好調なマーケティングソリューション事業に牽引され、売上高は前年比2桁増収を達成したが、既存事業の不振と積極的な販促費の投下により、利益は大幅に減少した。この利益の減少は、将来のストック収益を積み上げるための戦略的な先行投資と説明されているものの、その投資効果がいつ、どのように刈り取られるかの蓋然性には不透明感が残る。今後の投資効果の検証と、既存事業の収益改善が、株価評価の鍵となる。

主要カタリストとリスク: ポジティブ・カタリスト:

  1. マーケティングソリューション事業における有料アカウント数の想定以上の急増とチャーンレートの安定化。
  2. 「塾シル」をはじめとする比較・検討型メディアの黒字化達成と、人材系広告需要の再加速。
  3. 東南アジア事業での「圧倒的シェア」獲得に向けた戦略的提携やM&Aの成功。 ネガティブ・リスク:
  4. 既存の国内パフォーマンス広告およびコンテンツメディアの収益減少が継続し、利益回復が遅延する。
  5. マーケティングソリューション事業への積極的な販促費が先行する一方で、新規会員獲得ペースが鈍化し、投資回収が非効率に終わる。
  6. メディア事業において、検索エンジンアルゴリズム変更によるトラフィック減少がさらに深刻化し、事業構造の立て直しが困難になる。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

Interspaceは、「パフォーマンスマーケティング事業」と「メディア事業」の2つの主要セグメントで構成されている

パフォーマンスマーケティング事業は、成果報酬型広告(アフィリエイト)を主軸とする「パフォーマンス広告」と、月額課金型サービスを提供する「マーケティングソリューション」に分けられる

  • 収益モデル:
    • パフォーマンス広告: 売上 = 広告主の支払総額 – 媒体への報酬支払い。粗利率は20%〜30%程度。このモデルの強みは、広告主が成果に紐づいた費用対効果を期待できる点にあるが、景気動向や競合による広告費の変動に影響を受けやすい脆弱性を持つ。
    • マーケティングソリューション: 売上 = 有料アカウント数 × 平均単価。このモデルの最大の強みは、月額課金というストック収益モデルであり、安定した収益基盤を構築できる点にある。一方で、新規顧客獲得コスト(CAC)と顧客生涯価値(LTV)のバランス、そしてチャーンレートの抑制が事業成功の鍵となる。メディア事業は、ディスプレイ広告などを主収益源とする「コンテンツ型メディア」と、成果報酬型広告を主とする「比較・検討型メディア」で構成される。
  • 収益モデル:
    • コンテンツ型メディア(例: mamasta): 売上 = サイト訪問者数(UU)×1人あたりのPV数×広告表示単価。主にディスプレイ広告やタイアップ広告による収益モデル。強みは、特定のユーザー層に特化したコンテンツによるコミュニティ形成と高いエンゲージメントだが、検索エンジンのアルゴリズム変更に収益が大きく左右される脆弱性を持つ。
    • 比較・検討型メディア(例: 塾シル、転職派遣サーチ): 売上 = サイト訪問者数(UU)×成約率×1件あたりの報酬。成果報酬モデルであり、ユーザーの購買意欲が高い段階で接触できる点が強みだが、市場の需要変動に直接的に影響を受ける脆弱性を持つ。

競争環境: パフォーマンスマーケティング事業では、国内ではアフィリエイト分野でA8.net(ファンコミュニケーションズ)やバリューコマースなどが主要な競合となる。マーケティングソリューション分野では、各サービス(MW Security Store, SiteLeadなど)ごとに異なるSaaSベンダーが競合となる。メディア事業では、各カテゴリ(子育て、転職など)で多数の専業メディアや大手プラットフォーマーが存在し、競争は非常に激しい。特に、コンテンツ型メディアはGoogleの検索アルゴリズムに大きく依存するため、その変化が直接的なリスクとなる

3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析: 2025年9月期第3四半期(累計)の連結業績は、売上高が前年同期比+12.0%の6,650百万円と二桁増収を達成した。しかし、営業利益は同-41.1%の308百万円、経常利益は同-40.0%の309百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益は同-57.7%の116百万円と、大幅な減益となった

  • 営業利益のブリッジ分析(単位: 百万円):
    • FY24.3Q営業利益: 524
    • 変動要因の分解:
      • 売上数量/ミックス変動: 好調なマーケティングソリューション事業が売上を大きく押し上げた一方で、国内パフォーマンス広告やコンテンツメディアの収益が減少した。しかし、マーケティングソリューションは利益率が低い段階(販促費先行)にあるため、売上構成の変化は利益に対してネガティブに作用したと考えられる。この影響を定量的に把握することは難しいが、全体として利益率の低い事業が増加したことによるマイナス影響は-150百万円程度と推測される。
      • 価格/原価率変動: 全体として粗利率の記載はないが、メディア事業における広告枠削減は、売上減少だけでなく粗利率の悪化にも繋がった可能性がある。しかし、パフォーマンスマーケティング事業は好調であり、全体の原価構造は大きく変化していないと仮定する。この影響は軽微と判断。
      • 販管費変動: 販管費はFY25.3Qで1,785百万円と、FY24.3Qの1,449百万円から336百万円増加している。この大部分は、マーケティングソリューションの新規会員獲得にかかる広告宣伝費の積極的な投下、および人件費の増加による変動費の増加が要因である。この影響は-336百万円。
    • 合計変動: -150百万円(売上ミックス) -336百万円(販管費) = -486百万円
    • FY25.3Q営業利益: 524 – 486 = 38百万円(*注: この分解は定性的な推測を含む。実際の営業利益は308百万円であり、調整額として残る差異は、他の費用の変動や非公開のコスト要因によるものと解釈できる。) 収益性の深掘り: 営業利益率(累計)は、前年同期の8.8%から4.6%へと大幅に悪化している。これは主に、利益率の低い既存事業の収益減少と、将来の収益を目的としたマーケティングソリューションへの販促費投下という、二つの異なる要因が同時に発生したためである。経営陣はこれを「成長のための戦略的な先行投資」と説明しているが、既存事業の利益減は、計画外の構造的な課題を内包している可能性を示唆している。

B/S分析: 総資産は前連結会計年度末から125百万円減少し、11,107百万円となった。主な要因は、現金及び預金が258百万円減少したことである。一方で、売掛金及び契約資産は50百万円増加している。自己資本比率は50.0%と、前年度末の50.2%から微減したものの、依然として安定した財務基盤を維持している

  • CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)分析:
    • 期末売掛金: 3,546,886千円
    • 売上高(3Q累計): 6,650,585千円
    • 売上債権回転日数(DSO): (3,546,886 / 6,650,585) × 273日 ≈ 145.6日
    • 仕入債務回転日数(DPO): (4,637,843 / 1,163,848) × 273日 ≈ 1085日(*注: この数値は売上原価の合計額を仕入と仮定した場合の概算であり、正確なDPOではない。ただし、買掛金の増加が顕著ではないことを示唆している。)
    • 棚卸資産回転日数(DIO): Interspaceのビジネスモデルでは棚卸資産は存在しないため、0日。
    • CCC(概算): DSO – DPO = 145.6 – 1085 = -939.4日。
    • 分析: CCCがマイナスであることは、仕入代金の支払いを売上代金の回収後に行うビジネスモデルであることを示唆しており、非常に優良なキャッシュフロー管理体制と言える。しかし、DSOが145日とやや長い点は、売掛金の回収期間が長期化している可能性を示唆しており、注意が必要である。

キャッシュフロー(C/F)分析: C/F計算書は開示されていないが、B/Sの変化から推測する。現金及び預金が258百万円減少していることから、営業CF、投資CF、財務CFの合計がマイナスであったと推測できる。親会社株主に帰属する四半期純利益は116百万円であったが、現金が減少していることから、減価償却費や為替変動、運転資本の変化(売掛金増など)が影響し、営業CFは純利益よりも少ない、あるいはマイナスであった可能性が高い。利益の質という観点からは、利益剰余金が116百万円の純利益に対して、配当188百万円を支払った結果、71百万円減少しており、キャッシュフローの観点から見ると、利益を上回る配当支払いが行われている。

資本効率性の評価:

  • ROE(自己資本利益率)のデュポン分解:
    • 純利益率: 116百万円 / 6,650百万円 = 1.7%
    • 総資産回転率: 6,650百万円 / 11,107百万円 = 0.60回転
    • 財務レバレッジ: 11,107百万円 / 5,559百万円 = 2.0倍
    • ROE: 1.7% × 0.60 × 2.0 = 2.0%
    • 分析: 前年同期のROEは、275百万円 / 5,641百万円 = 4.9%であったため、ROEは大幅に低下している。これは主に、純利益率の急激な悪化に起因するものであり、事業の収益性が大幅に低下していることを示している。
  • ROIC vs. WACC:
    • ROIC(投下資本利益率): 営業利益 / (純資産 + 有利子負債) = 308百万円 / (5,559百万円 + 0) = 5.5%
    • WACC(加重平均資本コスト): 開示がないため推定となるが、株式リスクプレミアムなどを考慮すると、一般的に5%〜8%程度となることが多い。
    • 分析: ROICが5.5%と推定されるWACCを下回っている、あるいはほぼ同水準であることから、現時点では企業価値を創造しているとは言い難い状況である。経営陣が説明する「将来のストック収益を積み上げるための先行投資」が、今後のROICをWACC以上に引き上げられるかどうかが、投資判断の最も重要なポイントとなる。

4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖

パフォーマンスマーケティング事業

  • 売上高: 4,275百万円(前年同期比+15.2%増)。
  • セグメント利益: 263百万円(前年同期比-25.7%減)。
  • 分析: 売上高は大きく伸長したものの、利益は大幅に減少した。この乖離は、マーケティングソリューション事業の好調な売上成長と、それに伴う「新規会員獲得にかかる販促費の積極的な投下」という経営戦略の結果である。一方で、国内パフォーマンス広告の収益は減少しており、このセグメント内の事業ミックスが利益率を悪化させている。特に、高収益であった金融分野や人材紹介分野での減少は構造的な課題の可能性を示唆しており、今後の動向を注視する必要がある。

メディア事業

  • 売上高: 2,375百万円(前年同期比+6.5%増)。
  • セグメント利益: 45百万円(前年同期比-73.2%減)。
  • 分析: 売上は増加したものの、利益は大幅に減少した。コンテンツ型メディアの「ママスタ」では、ユーザーエクスペリエンス(UX)向上のために広告枠を削減した結果、広告収益が減少した。この判断は長期的にはユーザー定着率を高める効果が期待できるが、短期的には収益減という痛みを伴う。また、比較・検討型メディアでは、人材系広告の需要が一服したことで収益が減少している。一方で「塾シル」は黒字化の兆しが見えるなど、事業内での明暗が分かれている。このセグメントは、収益基盤の安定化と投資推進という方針が示されており、今後の事業構造の立て直しが急務である。

ポートフォリオ・マネジメントの評価: 経営陣は、既存事業の安定化を図りつつ、マーケティングソリューションや海外事業といった成長事業への投資を加速させる方針を示している。今回の決算は、この戦略が短期的な利益を犠牲にしてでも、将来の成長機会を追求するという経営判断を反映している。しかし、成長事業への投資が既存事業の収益減少を補うには至っておらず、特に国内パフォーマンス広告とコンテンツメディアという二つの主要な既存事業の不振が、全体の利益を大きく圧迫している。ポートフォリオ全体のリスク分散は機能しているとは言えず、むしろ成長事業への投資が既存事業の課題を覆い隠しているように見える。

5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

通期業績予想は、売上高90億円、営業利益7.5億円から、それぞれ88億円、3.0億円に修正された。この修正は、マーケティングソリューションの成長が見られたものの、売上高が当初予想を下回り、主に国内パフォーマンス広告/コンテンツメディアの減収によって利益面が当初予想を大きく下回る見通しとなったためである

  • 経営陣の評価: 経営陣は、好調なマーケティングソリューション事業に後押しされて売上高は二桁増収を継続していると強調しているが、利益面での大幅な下方修正は、既存事業の減収影響を過小評価していたこと、または成長事業への先行投資額を十分にコントロールできていなかったことを示唆している。特に、国内パフォーマンス広告やコンテンツメディアの減収は「当初予想」を策定した時点で予見できた可能性もあり、需要予測の甘さや実行計画の不確実性が露呈したと言える。利益目標を7.5億円から3.0億円へと-450百万円も下方修正した事実は、経営陣の計画策定能力と、事業環境の変化への対応力に疑問符を投げかける。

6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

今後12~24ヶ月の業績について、以下の3つのシナリオを提示する。

  • 強気シナリオ:
    • 前提条件: マーケティングソリューション事業の有料アカウント数が想定以上に増加し、販促費投下に見合う高いLTVが確立される。また、「塾シル」など比較・検討型メディアの黒字化が定着し、人材系需要が回復する。海外パフォーマンス広告事業がベトナムを中心に順調に拡大する。
    • 予測レンジ: 売上高90億円〜100億円、営業利益5.0億円〜7.0億円。
    • カタリスト: 大型広告主の獲得、マーケティングソリューションにおける新規サービスローンチ、海外事業における戦略的提携。
  • 基本シナリオ:
    • 前提条件: マーケティングソリューションへの投資は継続するものの、既存事業の収益減少が完全に止まらない。メディア事業は「塾シル」の黒字化が進む一方で、コンテンツ型メディアの収益減が続く。通期業績予想(修正後)の達成は可能である。
    • 予測レンジ: 売上高88億円〜92億円、営業利益3.0億円〜4.0億円。
    • カタリスト: 投資効果の可視化、コスト構造の見直し。
  • 弱気シナリオ:
    • 前提条件: マーケティングソリューションへの販促費が先行する一方で、会員獲得が伸び悩み、チャーンレートが上昇する。国内パフォーマンス広告やコンテンツメディアの収益減少が加速し、構造的な収益悪化が深刻化する。
    • 予測レンジ: 売上高85億円〜88億円、営業利益1.0億円〜3.0億円未満。
    • リスク: 投資の失敗、競合他社からの圧力、検索エンジンのアルゴリズム変更。

7. バリュエーション(企業価値評価)

  • 相対評価法:
    • PER(株価収益率): 2025年9月期修正予想EPS19.12円に基づくと、現在の株価は、今後の成長期待が織り込まれていると考える。しかし、大幅な減益修正によりPERは一時的に上昇し、割高感が出る可能性がある。
    • PBR(株価純資産倍率): 1株当たり純資産885.67円に基づくと、PBRは相対的に妥当な水準に位置すると考えられる。
    • 議論: 競合他社と比較すると、Interspaceのバリュエーションは、現在の収益性よりも将来の成長性を評価してのものとなっている。しかし、その成長への「投資」が結果として利益の大幅な減少を招いているため、市場が今後の成長ストーリーを信じきれるかどうかがポイントとなる。現時点では、成長への不確実性を考慮すると、割安とは言えない。
  • 絶対評価法:
    • DCF法(簡易):
      • 前提条件: WACC(加重平均資本コスト)を6%、永久成長率を2%と仮定。
      • FCF(フリーキャッシュフロー): 営業利益3.0億円をベースに、減価償却費などを加味すると、FCFは1.5億円〜2.0億円程度と仮定。
      • 試算: FCFの成長率を加味し、終値価値(Terminal Value)を算出すると、理論株価は現状の株価を上回る可能性がある。しかし、これは経営陣の描く成長シナリオ(特にマーケティングソリューションの成長と利益貢献)が実現することが前提となる。

8. 総括と投資家への提言

今回の決算は、Interspaceが変革期にあることを明確に示した。売上高は二桁増収を維持しており、成長ドライバーとしてのマーケティングソリューション事業は順調に拡大しているように見える。しかし、その裏側で、既存事業の構造的な課題と、成長への先行投資という「痛み」が、利益面を大きく圧迫している。この利益減少が単なる一時的な投資フェーズのコストなのか、あるいは事業全体の収益構造の脆弱性を露呈したものなのか、その判断はまだ下せない。

投資スタンス: 成長への投資が利益を圧迫する局面であり、短期的な株価上昇の確信は持てないため、中立を維持する。

今後の監視ポイント: 投資家は、以下のKPIを注視する必要がある。

  1. マーケティングソリューション事業の有料アカウント数とチャーンレート: 販促費の投下に見合う会員獲得ペースと、ストック収益を左右する解約率の動向を定期的にチェックする。
  2. 既存事業の収益改善: 国内パフォーマンス広告とコンテンツメディア事業の収益減少に歯止めがかかるか、および事業構造の立て直し(コスト削減など)が進んでいるかを検証する。
  3. 四半期ごとの営業利益の推移: 投資効果が利益に反映され始める兆候(利益率の改善)を、四半期ごとに厳密に追跡する。特に、修正後の通期営業利益3億円に向けて、第4四半期でどの程度の利益を積み上げられるかが重要となる。

Interspaceは、成長の果実を収穫できるかどうかの重要な岐路に立っている。短期的なボラティリティは高いと予想されるが、中長期的な視点で、経営陣の戦略が報われるかを検証する価値がある企業である。

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