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FASFジョルダン株式会社(3710)2025年9月期第3四半期決算分析レポート:事業構造転換の兆しと利益創出力の評価


1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス:中立(確信度60%)

第3四半期決算は、売上減少にもかかわらず大幅な黒字転換を達成し、一見すると利益体質改善の兆候が見られます。しかし、その背景にはセグメント間の収益構造の不均衡や、単発的な要因による利益改善が含まれており、持続的な成長に向けた事業構造の抜本的改革が道半ばであると評価します。特に、主力の**「乗換案内事業」の売上高減少**は看過できないリスクであり、今後の法人向け事業の動向を慎重に見極める必要があります。現時点では、成長への不確実性が高いため、積極的な買い推奨は時期尚早と判断し、「中立」の投資スタンスを維持します。

3行サマリー

売上高は前年同期比で減少したものの、営業費用を大幅に削減したことで、営業利益・経常利益・純利益すべてが黒字転換を達成しました 。これは、主力事業の法人向け売上減を費用削減で補うという、守りの経営が奏功した結果であり、利益の質には不透明感が残ります。今後の成長を持続させるためには、収益の柱となる新規事業の立ち上げ、特に「MaaS(Mobility as a Service)」領域における収益化の進捗が最重要課題となります。

主要カタリストとリスク

ポジティブ・カタリストネガティブ・リスク
MaaS関連事業の本格的な収益化:研究開発段階にあるMaaS関連サービスが、大規模な自治体や交通事業者に採用され、安定的なストック収益源となること。「乗換案内事業」の更なる売上減少:主力の法人向け事業における競争激化や顧客離脱により、売上減少トレンドが加速し、構造的な収益力の低下が露呈すること。
費用削減効果の継続と利益率の改善:第3四半期に大幅な改善を見せた販管費削減が継続し、恒常的な利益率の向上に繋がること。事業ポートフォリオのアンバランス:好調なソフトウエア事業と不振の乗換案内事業の間で、利益貢献度のバランスが崩れ、全社的な成長が停滞すること。
インバウンド需要の完全回復と収益貢献:訪日外国人観光客の増加が、同社の「乗換案内」アプリの利用増加に直結し、広告収益や提携サービスからの収益を押し上げること。生成AIなど新技術への対応遅れ:Googleなど巨大テック企業が提供する地図・経路検索サービスが、生成AIの進化により利便性を大幅に向上させ、同社の競争優位性が失われること。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

ジョルダンは、「乗換案内」サービスを核とする情報通信事業を中核に、マルチメディア事業、ソフトウエア事業、ハードウエア事業を展開する複合事業体です

ビジネスモデルの評価

同社のビジネスモデルは、大きく分けて2つの収益源に分類されます。

  1. 乗換案内事業
    • 収益モデル: 売上 = 利用者数 × (広告単価 + 有料サービス課金) + 法人向けソリューション導入件数 × 単価 。
    • 強み: 「乗換案内」は公共性の高いインフラサービスであり、長年にわたるサービス提供で築き上げたブランド力と膨大な移動データが強みです 。また、特定の交通事業者や法人との長年の関係性も競争優位性となります。
    • 脆弱性: 収益の大半を占める法人向け事業は、大型案件の受注・納品時期によって売上が大きく変動する傾向にあり、収益の安定性に課題があります 。また、Googleマップなど競合がひしめく市場で、独自の優位性をどう築いていくかが問われます。
  2. その他事業(ソフトウエア、ハードウエア、マルチメディアなど)
    • 収益モデル: 売上 = 各事業のプロジェクト件数 × 単価 。
    • 強み: ソフトウエア事業は、企業のデジタル投資増加というマクロトレンドに乗っており、今後の成長が期待できます 。
    • 脆弱性: ハードウエア事業は連結子会社の範囲変更により売上高が減少しており、事業ポートフォリオのリスク分散という観点ではまだ弱いです 。また、各事業間のシナジーが明確でなく、単なる事業の集合体になっている可能性を排除できません。

競争環境

「乗換案内」サービス市場は、ナビタイムジャパンやヴァル研究所といった専業の競合に加え、GoogleやYahoo!といった巨大プラットフォーマーとの競争に晒されています。同社の優位性は、長年培ってきた公共交通データと法人向けソリューション提供実績にありますが、Googleマップなどが提供する統合的な位置情報サービスには、機能面で追いつく必要があります。MaaS市場においては、各交通事業者や自治体、そして新興スタートアップが乱立しており、同社がどのようなポジションを確立するかが鍵となります


3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析

項目2025年9月期3Q(百万円)2024年9月期3Q(百万円)前年比増減率(%)
売上高2,1222,281△6.9
営業利益20△136黒字転換
経常利益20817+1070.4
親会社株主に帰属する四半期純利益205△21黒字転換

売上高は6.9%減と低調に推移しました 。これは、主力事業である**「乗換案内事業」の法人向け売上高が大きく減少**したことが主因です 。一方で、

営業利益は前年同期の136百万円の損失から、20百万円の黒字へと劇的に改善しました

営業利益のブリッジ分析 前年同期の営業損失△136百万円から当期営業利益20百万円への変動要因を分析します。

  • 売上高減少による影響(△159百万円): 売上高が159百万円減少したことによる利益押し下げ効果 。
  • 売上原価減少による影響(+174百万円): 売上原価が174百万円減少したことによる利益押し上げ効果 。これは、主に法人向け案件の売上原価が減少したことによるものです 。
  • 販管費減少による影響(+140百万円): 販売費及び一般管理費が140百万円減少したことによる利益押し上げ効果 。これは、乗換案内事業およびハードウエア事業における営業費用が大幅に減少したことが主因です 。
  • その他: 経常利益は営業利益の改善に加え、助成金収入が57百万円から130百万円へと大幅に増加したことが大きく寄与しました 。この助成金収入の増加は一時的な要因である可能性があり、利益の持続性を評価する上での懸念材料です。

この分析から、当期の利益改善は売上高の成長ではなく、**費用削減(特に販管費と売上原価)**という守りの経営によって達成されたものであることが明確になりました。

B/S分析

項目2025年9月期3Q末(百万円)2024年9月期末(百万円)増減(百万円)
総資産5,4605,296+164
現金及び預金3,1902,977+213
純資産4,6004,422+177
自己資本比率83.9%83.2%+0.7pt

総資産は増加し、特に現金及び預金が213百万円増加したことが目を引きます 。これは四半期純利益の発生によるものです

自己資本比率は83.9%と極めて高く、財務の健全性は非常に良好です

運転資本の分析 提出された資料には売上高と売上原価の情報があるため、運転資本の効率性を評価します。

  • 売上債権回転日数(DSO): 当期末の売掛金及び契約資産(566百万円) と売上高(2,122百万円) から算出すると、DSOは約97日となり、前期末(売掛金550百万円、売上高2,281百万円)の約88日から増加しています 。これは、第4四半期の売上高が増加したことが主因であり、回収サイトの長期化リスクを示唆する可能性があります 。
  • 棚卸資産回転日数(DIO): 当期末の商品及び製品、仕掛品、原材料及び貯蔵品の合計(729+150+40=919千円) と売上原価(1,182百万円) から算出すると、DIOは約0.28日となり、ほぼ滞留在庫がない状態です。
  • 仕入債務回転日数(DPO): 買掛金(253百万円) と売上原価(1,182百万円) から算出すると、DPOは約78日となります。

CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル): DSO(97日) + DIO(0.28日) – DPO(78日) = 約19.28日。 この数値は前期のCCC(DSO88日+DIO0.8日-DPO67日=21.8日)から改善しており、運転資本の効率性は若干向上したと評価できます。ただし、これはDSOの変動が大きいことによるものであり、特に在庫についてはリスクが低い状態を維持しています。

キャッシュフロー(C/F)分析

提出された資料にはキャッシュフロー計算書が添付されていないため、財務諸表の増減から簡易的に分析します。

  • 営業CF: 現金及び預金が213百万円増加しており 、これは主に四半期純利益の発生によるものとされています 。純利益が205百万円の黒字であること を考慮すると、営業CFはプラスであったと推測できます。
  • 投資CF: 有形固定資産が43百万円、無形固定資産が448千円減少しており、投資CFはプラス(資産売却または投資抑制)であった可能性が高いです 。
  • 財務CF: 1年内返済予定の長期借入金10百万円が無くなっていることから、長期借入金の繰り上げ返済が行われたことがわかります 。これにより、財務CFはマイナスであったと推測できます。

全体として、事業からキャッシュを生み出し(営業CF)、本業外の投資を抑制し、借入金の返済に充当するという健全なキャッシュフローの動きが推測されます。

資本効率性の評価

  • ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト):
    • ROIC = NOPAT / 投下資本
    • NOPAT(税引後営業利益)= 20百万円 × (1 – 実効税率)
    • 投下資本(有利子負債+純資産) = 0 + 4,600百万円 = 4,600百万円
    • (実効税率を仮に30%とすると)NOPAT = 20 × (1-0.3) = 14百万円
    • ROIC = 14 / 4,600 = 0.3%
    • WACCは、現状の金利環境を考慮すると、日本企業平均でも2〜3%程度と推測されます。同社のROIC(0.3%)は明らかにWACCを下回っており、企業価値を創造しているとは言えません。これは、高い自己資本比率と利益水準の低さに起因するものであり、収益性の抜本的な改善が急務であることを示しています。
  • ROEのデュポン分解:
    • ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
    • 純利益率 = 205 / 2,122 = 9.7%
    • 総資産回転率 = 2,122 / 5,460 = 0.39回
    • 財務レバレッジ = 5,460 / 4,600 = 1.19倍
    • ROE = 9.7% × 0.39 × 1.19 = 4.5%
    • 前年同期は赤字であったためROEはマイナスでしたが、当期は黒字転換によりプラスに改善しました。しかし、同業他社と比較して依然として低い水準です。特に、総資産回転率が極めて低い(0.39回)ことがROEを押し下げる最大の要因であり、これは保有する現金や投資有価証券の有効活用が進んでいないことを示しています 。

4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖

同社の事業は、「乗換案内事業」「マルチメディア事業」「ソフトウエア事業」「ハードウエア事業」「その他」の5つのセグメントに分かれています

セグメント売上高(千円)前年同期比(%)セグメント利益/損失(千円)前年同期比(%)
乗換案内事業1,792,556△4.4 253,720+82.3
マルチメディア事業1,996△79.2 △6,514
ソフトウエア事業352,810+7.8 △12,955損失転落
ハードウエア事業111,669△13.0 9,162黒字転換
その他8,445+7.9 △598損失幅縮小
  • 乗換案内事業: 売上高は4.4%減と苦戦していますが、利益は82.3%増と大幅な増益を達成しました 。これは、法人向け事業の売上原価減少が大きく寄与したためです 。このセグメントが全社の利益を牽引していますが、売上減少という構造的な課題を抱えており、成長性に懸念が残ります。
  • ソフトウエア事業: 売上高は7.8%増と順調ですが、利益は前年同期の21百万円の黒字から12百万円の損失に転落しました 。これは、今後の事業展開に向けた研究開発費の増加が主因とされています 。これは将来への投資であり、一過性の損失であれば問題ありませんが、投資対効果を厳しく検証する必要があります。
  • ハードウエア事業: 売上高は13%減ですが、費用削減が奏功し、前年同期の損失から黒字に転換しました 。これは、連結子会社(株式会社エアーズ)が連結の範囲から外れた影響も大きいです 。

ポートフォリオ・マネジメントの評価: 現在の事業ポートフォリオは、収益の大部分を「乗換案内事業」に依存しており、バランスが悪いと言わざるを得ません 。好調なソフトウエア事業が将来の成長エンジンとなる可能性を秘めていますが、現状はまだ利益貢献度が低く、研究開発フェーズにあります 。経営陣は、既存事業のコスト削減で利益を確保しつつ、将来の柱となるMaaS関連事業への投資を継続している段階と評価できます。しかし、主力の「乗換案内事業」が売上減少トレンドにある中、新たな収益源をいかに早く立ち上げられるかが、経営陣の腕の見せ所です。


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

同社は、通期連結業績予想として、売上高2,700百万円、営業利益△10百万円を据え置いています

  • 売上高: 第3四半期までの累計売上高は2,122百万円であり 、通期予想の達成には第4四半期で578百万円の売上を上げる必要があります。これは前年第4四半期(約420百万円)を大きく上回る水準であり、達成は容易ではないと見られます。
  • 営業利益: 第3四半期までにすでに20百万円の黒字を達成しており 、通期予想の△10百万円の赤字はすでに超過しています。

この状況下で、経営陣が業績予想を据え置いたことは、以下のいずれかの理由が考えられます。

  1. 保守的な見通し: 第4四半期に大幅な費用増加や、売上減速が起こる可能性を考慮した、極めて保守的な見通し。
  2. 不確実性の高さ: 主力事業の売上動向が不安定であり、期末までの業績を正確に予測することが困難であるため、あえて修正しなかった。
  3. 将来への先行投資の加速: 第4四半期にソフトウエア事業など、将来に向けた大規模な研究開発費や販管費の計上を予定しているため、一時的に利益が圧縮されると見込んでいる。

売上が計画を下回りながら、利益が計画を大幅に超過している現状は、経営陣の

需要予測能力に課題があることを示唆しています 。しかし、コストコントロール能力は評価できる水準です 。この乖離は、特にMaaS関連の研究開発費の進捗や、費用計上のタイミングが不透明であることに起因している可能性が高く、投資家への説明責任を果たすためにも、より詳細な情報開示が求められます。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

シナリオ分析(今後12~24ヶ月)

  • 強気シナリオ
    • 前提: マクロ経済の安定、インバウンド需要のV字回復。MaaS関連サービスが地方自治体や交通事業者から大型受注を獲得し、安定的なストック収益源が確立。ソフトウエア事業も開発投資が順調に結実し、利益貢献度を向上させる。
    • 予測レンジ: 売上高 2,900〜3,100百万円、営業利益 200〜250百万円
    • カタリスト: 大手交通事業者とのMaaSに関する提携発表、新サービスの導入による広告収益の急増、ソフトウエア事業における大型案件の受注。
  • 基本シナリオ
    • 前提: 国内景気は緩やかな回復基調を維持するが、法人向け事業は価格競争が継続。費用削減効果は続くものの、MaaS関連投資が先行し、利益は横ばい圏で推移。主力の「乗換案内事業」の売上減少は続くが、下げ幅は限定的。
    • 予測レンジ: 売上高 2,600〜2,800百万円、営業利益 0〜50百万円
    • カタリスト: 訪日旅行者数増加による広告収益の緩やかな回復、特定の費用削減施策の継続、他社との資本業務提携の発表。
  • 弱気シナリオ
    • 前提: 物価上昇による個人消費の停滞、法人企業のIT投資抑制。特に「乗換案内事業」の法人向け売上が急減し、収益の柱が揺らぐ。先行投資したMaaS関連事業が収益化に至らず、研究開発費が利益を圧迫。
    • 予測レンジ: 売上高 2,400〜2,500百万円、営業利益 △50〜△100百万円
    • リスク: 競合他社による法人向けソリューションの値下げ攻勢、MaaS事業における技術的な課題による開発遅延、主要顧客の離脱。

7. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法

現在のPERは、当期純利益が黒字転換したばかりであり、単年度の数値は不安定なため評価が難しいです。同様に、PBR(株価純資産倍率)は、高い自己資本比率と潤沢な現金から、現時点では割安に見える可能性がありますが、資産の有効活用がなされていないため、過小評価されるべきです。

同業他社(例:ナビタイムジャパン)と比較すると、ナビタイムは安定したストック収益モデルと高い成長性が評価され、より高いPERで取引されています。ジョルダンは、事業構造の不安定性からディスカウントされるべきであり、その評価はPERやPBRといった単一の指標では捉えきれません。

絶対評価法

簡易的なDCF法で理論株価を試算します。

  • 前提:
    • WACC: 3.5%
    • 永久成長率(g): 1.0%
    • 今後5年間のFCFは、第3四半期の利益水準から年間150百万円と仮定。
  • 計算:
    • 企業価値 = FCF / (WACC – g) = 150 / (0.035 – 0.01) = 6,000百万円
    • この企業価値から有利子負債を差し引き、非支配株主持分を調整し、発行済み株式数で割ると、理論株価が算出されます。
    • この試算は極めて単純化されたものであり、将来の成長シナリオやWACCの仮定によって大きく変動します。特に、MaaS事業の収益化が実現すれば、永久成長率を上方修正する必要があり、理論株価は大幅に上昇する可能性があります。

8. 総括と投資家への提言

ジョルダンの第3四半期決算は、売上高の減少にもかかわらず、費用削減によって大幅な黒字転換を達成しました 。これは経営陣のコストコントロール能力を証明するものであり、一時的な安堵感をもたらすかもしれません。しかし、本質的な課題である

主力事業の売上減少トレンドは解決されておらず、利益の質には不透明感が残ります 。特に、経常利益の増加には一時的な助成金収入が大きく寄与しており、この点が今後の決算で剥落しないか注視が必要です

投資スタンスは「中立」を維持します。

今後、投資家が注視すべき最重要KPIは以下の通りです。

  1. 「乗換案内事業」における法人向け売上高の動向: これが回復に転じるか、あるいは減速トレンドが続くか。
  2. ソフトウエア事業の研究開発費の推移とMaaS関連事業の収益化状況: 投資が具体的にどのような形で収益に結びつくのか、経営陣からの具体的な説明が待たれます。
  3. 現金及び預金の有効活用: 潤沢な現金を事業成長のためのM&Aや設備投資に回し、ROICを向上させるための具体的な戦略が示されるか。

このレポートが、貴社の投資判断の一助となれば幸いです。


免責事項: 本レポートは提供された情報に基づき作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終的な意思決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。

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