MENU

CTIエンジニアリング(9621)2025年第2四半期決算分析:堅調な受注を背景に計画達成の蓋然性高まるも、海外事業と利益の質には注意を要する

1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス:中立、確信度65%

建設技術研究所(以下、CTIE)の2025年第2四半期決算は、国内事業の好調な受注と堅調な売上を背景に、期首計画に対する順調な進捗を示した。しかし、営業利益は前年同期比で減益となり、連結ベースでの販管費増加や一部業務の原価率悪化といった課題も浮き彫りになっている。通期計画の達成可能性は高いと判断されるものの、特別損失による純利益の下方修正や、海外事業の収益性改善には引き続き不透明感が残る。積極的な買い材料に乏しく、現時点では中立スタンスを維持する。

3行サマリー:

  • 事実: 国内外の受注が好調に推移し、売上高も堅調。しかし、特別損失の計上と販管費増により、営業利益・純利益は減益となった。
  • 本質: 中期経営計画で掲げる事業ポートフォリオ変革の進捗は順調であり、特に国内事業の強みが際立つ。一方で、利益率の悪化や海外事業の課題は依然として残存しており、成長の質には注意が必要。
  • 注目点: 下半期の国内事業における確実な業務遂行と、海外子会社(Waterman)における価格転嫁交渉の成否、そして通期で営業利益計画を達成するためのコストコントロール能力を注視する。

主要カタリストとリスク:

  • 主要カタリスト:
    • 国内公共事業における大型インフラプロジェクトの連続受注。
    • 海外子会社Watermanの英国・豪州市場における事業環境の回復とコスト削減の成功。
    • M&A戦略による新規事業領域での収益拡大。
  • 主要リスク:
    • 海外子会社CTIIにおける契約遅延の恒常化やWatermanにおける人件費高騰の価格転嫁失敗。
    • 国内公共事業予算の縮小や、入札・技術競争の激化による受注競争力の低下。
    • 特別損失の継続的な発生や、不透明な事業売却による一時的な業績悪化。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

CTIEは、公共セクターを主要顧客とする日本初の建設コンサルタント会社である。同社のビジネスモデルは、主に国や地方自治体からのインフラ整備に関する「調査、計画、設計」といったコンサルティング業務を請け負うことで収益を上げるものである

ビジネスモデルの評価: CTIEの売上は、主に以下の数式で表現できる。 売上高=∑i=1n​(受注件数i​×案件単価i​×進捗率i​) このモデルの強みは、以下の点にある。

  1. 安定した顧客基盤と高い参入障壁: 発注元の約9割が国や地方自治体であり、公共事業関係費の堅調な推移に支えられた安定的な収益構造を持つ。また、官公庁からの受注には高度な技術力と実績が求められるため、新規参入は極めて困難である。
  2. 技術競争力による高収益性: 同社の受注高の約6割が、技術力が評価される「プロポーザル方式」や「総合評価方式」であり、価格競争に陥りにくい構造を持っている。これは、長年の事業経験と、1,600人以上の技術士を擁する人的資本が源泉となっている。

一方、脆弱性は以下の通りである。

  1. 国内公共投資への依存: 国内事業が依然として収益の柱であり、国の予算配分や政策変更に業績が左右されるリスクを内包している。
  2. 労働集約型ビジネス: 案件の遂行には熟練した技術者が必要であり、人件費がコストの大部分を占める。人材確保と育成が事業成長のボトルネックとなる可能性があり、労働時間の削減や生産性向上(DX)の取り組みが喫緊の課題である。

競争環境: 国内の建設コンサルタント業界は、日本工営やパシフィックコンサルタンツといった大手企業が上位を占める寡占市場である。CTIEは、売上高では業界第3位だが、当期利益では第1位を誇る

  • CTIEの強み: 河川・水資源分野における圧倒的な技術力と実績(河川部門売上高で業界第1位)。また、技術競争入札に強く、高収益案件を獲得する能力に長けている。
  • CTIEの弱み: 道路や都市計画といった他分野では、競合他社に比べて相対的に売上規模が劣る部門も散見される。海外事業は成長ドライバーと位置付けられているものの、収益性は国内事業に大きく劣後しているのが現状である。

3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析: CTIEの2025年第2四半期(連結)の業績は、以下の通りである。 | 項目 | 2Q実績(百万円) | 前年同期比(%) | 通期計画比(%) | | :— | :— | :— | :— | | 受注高 | 60,917 | +11.7% | 60.9% |

| 売上高 | 50,794 | +0.1% | 50.8% |

| 営業利益 | 5,976 | ▲12.0% | 59.8% |

| 親会社株主に帰属する中間純利益 | 3,779 | ▲22.6% | 60.0% |

受注高は、国内外ともに好調に推移し、前年同期比で11.7%増と力強い成長を示した。これは国内の地方自治体やNEXCOからの受注に加え、海外での大型案件獲得が寄与したためである。売上高は前年同期並みで堅調であり、通期計画に対する進捗率は50.8%と順調なペースである

一方、営業利益は前年同期比12.0%減と減益となった。これは連結ベースでの販管費増加と、一部業務の原価率悪化が主な要因である。また、親会社株主に帰属する中間純利益は、社員寮の遊休資産化や子会社に対する債権放棄損といった特別損失の計上により、22.6%の大幅減益となった

営業利益のブリッジ分析: 前年同期の営業利益6,789百万円から、当期の5,976百万円への変動要因を分解すると以下のようになる。

  • 売上・原価変動: 売上高がほぼ横ばいであったにも関わらず、原価率が悪化した影響がマイナスに働いた。
  • 販管費変動: 連結ベースでの販管費が増加したことが、利益を押し下げる最大の要因となった。これは主に海外事業における国民保険の企業負担分増、人件費高騰、契約遅れに伴う原価率悪化が複合的に影響したものと推察される。
  • 営業利益の減少額: 6,789百万円 – 5,976百万円 = 813百万円。この大部分が、売上総利益の減少と販管費の増加によって説明される。

収益性の深掘り: 営業利益率は前年同期の13.4%から11.8%へと1.6ポイント低下した。これは売上高が横ばいにもかかわらず、販管費が増加したためである。特に海外事業においては、のれん償却前の営業利益率が前年同期の3.0%から1.4%へと大きく悪化しており、英国・豪州における景気悪化や人件費高騰の影響を強く受けていることがわかる。国内事業も同様に、営業利益率が18.3%から16.6%へと低下しており、販管費増と一部業務の原価率悪化が課題となっている

B/S分析: 総資産は前年同期の858億円から879億円に20億円増加。これは主に売上債権の増加による。一方、負債は短期借入金の減少等により17億円減少した。これにより自己資本比率は前年同期の68.7%から71.6%へ2.9ポイント上昇し、財務の安全性は一段と向上している

運転資本の分析: 運転資本の健全性は、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)で評価する。

  • 売上債権回転日数(DSO): 売上高の増加率が0.1%だったのに対し、総資産の売上債権が増加していることから、DSOは悪化している可能性がある。売上債権増加の背景には、案件の進捗や検収時期のずれなどが考えられるが、キャッシュ創出能力への影響を注視する必要がある。
  • 棚卸資産回転日数(DIO): 建設コンサルティング事業においては、在庫は主に「仕掛品」として計上される。業務の進捗率が計画通りに進んでいるため、大幅な棚卸資産の滞留リスクは低いと判断される。
  • 仕入債務回転日数(DPO): 負債が減少しているため、DPOも短くなっている可能性がある。

総合的に見ると、売上債権の増加がキャッシュフロー創出を阻害する可能性があり、CCCは悪化傾向にあると推察される。利益は出ているが、キャッシュが手元に残りにくい構造になりつつある点には注意が必要だ。

キャッシュフロー(C/F)分析: 今期決算ではC/F計算書は開示されていないが、B/Sの変化から推測する。

  • 営業CF: 売上債権の増加が営業CFを押し下げる要因となる。純利益が減益であることと合わせ、営業CFは前年同期より減少する可能性が高い。
  • 投資CF: 固定資産の増加(306億円、+37億円)から、設備投資は継続して行われていると推測される。
  • 財務CF: 短期借入金が減少していることから、借入金の返済が進んでいると考えられる。

資本効率性の評価:

  • ROIC vs. WACC:
    • ROIC(投下資本利益率): 税引後営業利益を投下資本(有利子負債+自己資本)で割って算出される。今期は営業利益が減益となったため、ROICは悪化している可能性が高い。
    • WACC(加重平均資本コスト): 負債コストと株主資本コストを加重平均したもので、企業が事業を維持するために最低限稼ぐべき収益率。
    • 評価: 今期は営業利益が減少し、ROICはWACCを上回っているか不透明な状況だ。事業投資(M&Aなど)や設備投資が収益に結びついていなければ、企業価値を毀損している可能性もある。
  • ROEのデュポン分解:
    • ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
    • 純利益率: 特別損失の計上により、純利益率は大幅に低下。
    • 総資産回転率: 売上高が横ばいに対し、総資産が増加したため、回転率は低下傾向にある。
    • 財務レバレッジ: 自己資本比率が上昇したため、レバレッジは低下傾向にある。
    • 評価: 純利益率と総資産回転率の悪化が、ROEを押し下げる主因となっている。財務レバレッジの低下は財務健全性の向上を意味するが、同時に資本効率を犠牲にしている側面もある。

4. 核心:セグメント情報の徹底解剖

CTIEの事業セグメントは、国内建設コンサルティング事業(流域・国土、交通・都市、環境・社会、建設マネジメント)と海外建設コンサルティング事業に大別される

国内建設コンサルティング事業:

  • 受注高: 前年同期比9.7%増の41,825百万円と好調に推移。特に「流域・国土事業部門」と「建設マネジメント事業部門」の成長が目覚ましい。
  • 売上高: 前年同期比0.9%増の35,826百万円と堅調。
  • 営業利益: 前年同期比8.6%減の5,937百万円と減益。国内事業においても、販管費増と原価率悪化の影響が見られる。
  • 成長ドライバー:
    • 流域・国土事業: 上下水道の受注が前年同期比150%と好調。水災害リスクマッピングシステム「RisKma」の技術を活用した「リアルタイム浸水情報システム」の開発支援など、DX技術を活かした取り組みが奏功している。
    • 建設マネジメント事業: 複数年業務の受注増により好調。国土交通省初の事業監理+トンネル修正設計(ECI方式)業務を受注するなど、高付加価値なサービス提供が収益に寄与している。
  • 課題: 売上は堅調ながらも利益が減少しており、コスト構造に課題を抱えている。

海外建設コンサルティング事業:

  • 受注高: 前年同期比16.3%増の19,092百万円と大幅増。フィリピンでの大型案件受注が大きく寄与した。
  • 売上高: 前年同期比1.9%減の14,967百万円とほぼ横ばい。
  • 営業利益: 前年同期比86.0%減の41百万円と大幅な減益。
  • 課題:
    • Waterman Group Plc: 英国・オーストラリアの景気悪化や英国の政権交代による影響で、受注高は減少傾向。また、国民保険の企業負担分増と人件費高騰が収益を圧迫している。
    • 建設技研インターナショナル(CTII): 契約締結の遅れによる業務進捗率(原価率)の悪化が収益性を低下させている。
  • 評価: 海外事業は受注こそ好調だが、それが即座に収益に繋がっておらず、利益の質には大きな懸念が残る。特にWatermanにおいては、コスト増を顧客に価格転嫁できるかどうかが今後の鍵となる。

ポートフォリオ・マネジメントの評価: CTIEは、国内の安定的な公共事業をベースに、成長分野や新規事業、そして海外事業への投資を行うことで、事業ポートフォリオの変革を進めている。国内の「流域・国土」「建設マネジメント」といった強みを持つ事業部門が順調に拡大している点は評価できる。しかし、海外事業の収益性が大幅に悪化しており、リスク分散の意図とは裏腹に、現時点ではポートフォリオ全体のリスクを高めていると判断せざるを得ない。海外事業のテコ入れは急務であり、経営陣のマネジメント能力が問われる局面である。

5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

通期計画との比較: CTIEは、第2四半期決算において、連結受注高、売上高、営業利益は期首計画を据え置いた

  • 受注高: 進捗率60.9%は、通期計画100,000百万円に対し順調である。
  • 売上高: 進捗率50.8%は、通期計画100,000百万円に対しほぼ計画通り。
  • 営業利益: 進捗率59.8%は、通期計画10,000百万円に対し順調な進捗である。しかし、親会社株主に帰属する当期純利益は、特別損失の影響により、6,900百万円から6,300百万円に下方修正された。

経営陣の評価: 特別損失の計上は、資産の遊休化や子会社に対する債権放棄損といった、非継続的な要因に起因するものであり、コア事業の収益力に直接的な影響はない。このため、営業利益計画を据え置いた経営判断は妥当であると評価できる。しかし、海外子会社における契約遅延や人件費高騰といった課題は、かねてより認識されていたものであり、それに対する経営陣の対応や予測能力には改善の余地がある。今後、海外事業の収益性改善に向けた具体的な施策(価格転嫁交渉や構造改革)の実行力こそが、経営陣の真価を問うものとなるだろう。

6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

将来シナリオ(今後12~24ヶ月):

  • 強気シナリオ:
    • 前提: 国内の国土強靭化政策が継続され、大型インフラ案件の受注が順調に推移。海外事業において、Watermanのコスト増の価格転嫁交渉が成功し、利益率が改善。国内事業のDX推進による生産性向上が進み、利益率が向上。
    • 予測レンジ: 売上高1,050億~1,100億円、営業利益110億~120億円。
  • 基本シナリオ(メインシナリオ):
    • 前提: 国内事業は引き続き堅調な受注を確保し、売上・利益も計画通りに推移。海外事業の課題は継続するものの、Watermanの赤字幅は縮小し、CTIIの業務進捗も安定。
    • 予測レンジ: 売上高1,000億~1,050億円、営業利益100億~110億円。
  • 弱気シナリオ:
    • 前提: 地方自治体からの受注が鈍化し、国内事業の成長が停滞。海外事業の課題が解決せず、特にWatermanの価格転嫁が失敗し、赤字が拡大する。競争激化により、国内事業の利益率がさらに悪化する。
    • 予測レンジ: 売上高950億~1,000億円、営業利益90億~100億円。

カタリスト/リスク:

  • カタリスト:
    • 国土交通省や地方自治体からの大規模な複数年契約の受注発表。
    • 海外子会社Watermanの収益性改善に向けた構造改革の進展。
    • DX関連技術(RisKma等)を活用した新規事業の拡大。
  • リスク:
    • 国内外における技術者単価上昇分を顧客に転嫁できないことによる利益率の継続的な悪化。
    • 海外子会社ののれん減損リスクの顕在化。
    • 公共事業予算の変動や、政治的な不確実性の高まり。

7. バリュエーション(企業価値評価)

  • 相対評価法:
    • CTIEの2025年12月期の予想PERは、修正後の純利益6,300百万円に基づき約13倍(2025年8月13日時点株価を約3,000円と仮定)。
    • 競合他社(日本工営など)と比較すると、PERは同等からやや割安な水準に位置する。
    • 議論: CTIEは、国内建設コンサルティング事業における高い収益性(業界第1位の当期利益)と、安定した顧客基盤という強みを持つ。この点から、他社と比べてプレミアム評価されてもおかしくない。しかし、海外事業の収益性悪化と、それに伴う純利益の下方修正リスクがディスカウント要因となっているため、現状は中立的な評価に留まっていると判断される。
  • 絶対評価法:
    • 簡略DCF法による理論株価試算は、以下の仮定に基づく。
      • WACC:6%(リスクフリーレート1.0%、株価ベータ0.8、市場リスクプレミアム6.0%)
      • 永久成長率:1%
      • フリーキャッシュフロー(FCF)の将来予測:堅調な国内事業と海外事業の改善を織り込み、営業利益の緩やかな成長を仮定。
    • これらの仮定に基づくと、理論株価は現在の株価をわずかに上回る水準となる。

8. 総括と投資家への提言

CTIEは、国内公共事業における確固たる地位と高い技術競争力を基盤に、安定的な収益を稼ぎ出す優良企業である。今回の決算は、受注の好調さから通期計画達成の蓋然性が高いことを示唆しており、その点では評価できる。しかし、連結ベースでの利益率低下と、海外事業の不透明感は依然として最大の懸念事項である。特に、Watermanにおける人件費増の価格転嫁交渉の成否は、今後の収益構造を大きく左右する可能性があり、注意深く見守る必要がある。

明確な投資スタンス:中立 現状では、国内事業の安定性を評価しつつも、利益の質の悪化と海外事業のリスクが、積極的な買い材料とはなり得ないため、投資スタンスは「中立」を維持する。

今後の監視ポイント:

  1. 海外事業の動向: 次期決算における海外事業の利益率改善の兆候、特にWatermanのコスト増加に対する価格転嫁の進捗状況。
  2. 営業利益率の推移: 販管費増加が一時的なものか、恒常的なものかを見極める。DX推進による生産性向上の成果が利益率に反映されるか。
  3. 運転資本の効率性: 売上債権の増加がキャッシュフローを圧迫していないか、CCCの動向を定期的にチェックする。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次