1. エグゼクティブ・サマリー
投資スタンス:強気(確信度 70%)
Faber Companyの2025年9月期第3四半期決算は、売上高、営業利益ともに前年同期比で着実な成長を示しており、通期計画に対する進捗も順調である。この堅調な業績は、同社が推進する大手・中堅企業向けのクロスセル戦略と、新規事業である「DXミエルカ」の立ち上げが順調に進んでいることを明確に示している。特に、生成AIを活用した新機能開発や市場関心度の高いカンファレンス開催といった先行投資は、将来の成長に向けた強固な基盤を構築していると評価できる。しかし、売上成長率と比較して利益成長率が低い点には、積極的な投資による一時的な利益圧迫のリスクが内在する。この投資が将来の収益拡大に繋がるか否かが、今後の株価を左右する最大の論点となる。
3行サマリー:
- 何が起きたのか: デジタルマーケティングの自動化ツール「ミエルカ」を提供するFaber Companyは、大手・中堅顧客へのクロスセルと新規事業の立ち上げが奏功し、売上高9.1%増、営業利益2.8%増を達成した。
- なぜそれが重要なのか: 積極的な先行投資を行いつつも、主要な顧客セグメントである月粗利30万円以上の契約社数が大幅に増加しており、ビジネスモデルの収益性が高まっている。これは、同社の競争優位性が維持されていることを示唆する。
- 次に何を見るべきか: 第4四半期および来期以降、DXミエルカ事業や生成AI関連サービスへの投資が本格化する中で、これらの事業がどれだけ売上・利益に貢献し、投資が早期に回収されるかを注視する必要がある。
主要カタリストとリスク:
カタリスト(強気材料):
- DXミエルカ事業の本格収益化: 既に約20社の受注実績があり、来期以降のストック収益拡大が期待される。本格的な投資フェーズへの移行に伴い、LTV/CAC比率がさらに改善すれば、市場の期待値を上回る成長ドライバーとなる。
- 生成AI関連サービスのARPU向上貢献: AI検索流入レポート機能やブランド露出調査機能など、新機能のリリースが既存顧客のアップセルに繋がり、顧客あたりの売上(ARPU)を大きく引き上げる。
- CARTA HOLDINGSとの提携深化: ナショナルクライアントとの取引が多いCARTAとの協業が、Faber Companyの大口顧客獲得に繋がり、一気に売上高をスケールさせる可能性を秘めている。
リスク(弱気材料):
- 先行投資の長期化と利益圧迫: DXミエルカ事業や生成AI関連サービスへの投資が想定以上に長期化し、売上成長が鈍化する一方で販管費が増加し、利益が圧迫されるリスク。
- 競争激化による価格競争: デジタルマーケティング市場は競争が激しく、特に生成AI領域ではGAFAなどの巨大テック企業が参入している。同社のプロダクトが価格競争に巻き込まれ、粗利率が低下するリスク。
- 主要顧客セグメントの成長鈍化: 月粗利30万円以上の契約社数は好調だが、これが一過性のものに終わり、次の成長の柱が見出せない場合、今後の成長ストーリーが揺らぐ。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
Faber Companyの事業は、主に**「ミエルカ事業」という単一セグメントで構成されている。この事業は、顧客のデジタルマーケティングに関する課題をワンストップで解決するソリューション群を提供している。具体的には、生成AIを活用したSEO/コンテンツマーケティング自動化ツール「ミエルカSEO」、ユーザー行動分析ツール「ミエルカヒートマップ」、Web接客/LTV最大化ツール「ミエルカコンバージョン」などの「ツール」と、コンサルティングや人材支援といった「リソース」**から成る。
ビジネスモデルの評価:
Faber Companyの収益モデルは、月額課金型のSaaSビジネスモデルと、コンサルティングや人材支援といったサービス収益のハイブリッド型である。これを数式で表現すると、
売上 = (既存顧客数 × 平均月額課金料金)+ (新規顧客数 × 初期費用)+ (アップセル/クロスセル売上)
このモデルの強みは、
継続型売上比率が80%を超えるという点にある。これは、ストック型収益が中心であり、顧客の解約率が低く、安定した収益基盤を構築できていることを意味する。特に、顧客が「ミエルカ」の各ツールを組み合わせて利用するほど、
スイッチングコストが高まるという参入障壁が機能している。また、同社はSEOコンサルタントとして業界の著名人を多数抱えており、情報発信力と専門性の高さがブランドイメージを確立している。これにより、
「ミエルカ」シリーズは単なるツールではなく、プロフェッショナルの知見とサポートが付加価値として組み込まれたソリューションとして差別化されている。
しかし、脆弱性も存在する。一つは、特定の大手・中堅企業への依存度が高まるリスクである。これらの顧客はARPUが高く、業績への貢献度も大きいが、景気後退期にはマーケティング予算が真っ先に削減される可能性がある。また、同社の主要な競争優位性の一つである「生成AI活用」の領域は、GAFAなどの巨大テック企業が莫大な資金を投下しており、同社の技術的優位性が陳腐化するリスクも無視できない。
競争環境:
デジタルマーケティング市場は非常に競争が激しい。同社の主要な競合としては、国内ではBtoB SaaSのSATORIやMarketo、海外ではHubSpotなどが挙げられる。
- 相対的な強み:
- 専門性の高さと情報発信力: 鈴木謙一氏や辻正浩氏といった業界の著名人を抱え、「ミエルカチャンネル」などで情報発信を行うことで、潜在顧客に対するリーチ力と信頼性を高めている。
- 低コストでのリード獲得: 自社メディアや展示会での卓越した運用効率により、業界平均の1/8程度の低コストで大量のリードを獲得できている。
- 価格競争力: 「ミエルカ」の各サービスは、大手コンサルティングファームのサービスと比較して現場が導入しやすい価格帯に設定されている。
- 相対的な弱み:
- プロダクトのブランド力: 大手グローバルSaaS企業(例: HubSpot)と比較すると、プロダクト自体のブランド力や知名度は劣る可能性がある。
- グローバル展開の遅れ: 国内市場が主体であり、海外市場への本格的な展開はまだ見られない。
3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析
項目 | 2024年9月期 3Q累計 | 2025年9月期 3Q累計 | 前年同期比 (%) | 通期計画進捗率 (%) |
売上高 | ¥1,718百万円 | ¥1,874百万円 | +9.1% | 73.4% |
営業利益 | ¥275百万円 | ¥283百万円 | +2.8% | 75.3% |
経常利益 | ¥270百万円 | ¥283百万円 | +4.7% | – |
純利益 | ¥184百万円 | ¥193百万円 | +4.7% | – |
営業利益のブリッジ分析:
前年同期営業利益(¥275百万円)から当期営業利益(¥283百万円)への変動要因は、主に以下の通りである。
- 売上数量/ミックス変動: 売上高が156百万円増加したことによる利益増(売上増加額156百万円 × 粗利率70%強 = 110百万円増)。特に、ARPUの高い大手・中堅顧客の契約社数が増加しており、利益ミックスが改善している。
- 価格/原価率変動: 売上原価(変動費+固定費)は前年同期の474百万円から当期535百万円へと増加しており、原価率は僅かに悪化している。これは主に売上原価(固定費)が増加したことによる。
- 販管費変動: 販売費及び一般管理費は前年同期の902百万円から当期1,015百万円へと113百万円増加している。この増加の大部分は、成長に向けた人件費・採用費の増加(前年同期200百万円→当期237百万円)と、販促費(前年同期53百万円→当期63百万円)によるものである。
全体として、売上増加による利益寄与が最も大きいものの、先行投資としての販管費増加がそれを相殺しており、営業利益の伸びは控えめとなっている。
収益性の深掘り:
当期第3四半期累計の
粗利率は76.2% (売上総利益1,298百万円 ÷ 売上高1,874百万円)と依然として高水準を維持しており、同社のビジネスモデルが本質的に高収益であることを示している。一方で、**営業利益率(15.1%)**は、前年同期の16.0%から微減している。これは、上述の通り売上原価の固定費部分の増加に加え、人件費・採用費などの成長投資が積極的に行われた結果であり、売上成長が費用増加を上回っていないためである。経営陣は、この投資が将来の収益拡大に繋がることを期待しているが、短期的には利益率の改善は期待しにくい構造である。
B/S分析
項目 | 2024年9月期末 | 2025年9月期 3Q末 | 増減 |
総資産 | ¥2,567百万円 | ¥2,817百万円 | +¥249百万円 |
純資産 | ¥2,106百万円 | ¥2,323百万円 | +¥217百万円 |
自己資本比率 | 82.0% | 82.5% | +0.5pt |
総資産は主に投資有価証券の増加(+277百万円)により増加しており、純資産も親会社株主に帰属する四半期純利益の計上により増加している。自己資本比率は82.5%と極めて高く、財務基盤の健全性は揺るぎない。
運転資本の分析(CCC):
- 売上債権回転日数(DSO) = (売掛金 ÷ 売上高) × 90日
- 2024年9月期末: (¥196百万円 ÷ ¥2,317百万円) × 365日 ≈ 31日
- 2025年9月期3Q末: (¥199百万円 ÷ ¥1,874百万円) × 90日 ≈ 9.5日
- ※第3四半期は累計売上高を使用するため単純比較はできないが、売掛金の絶対額はわずかに増加している程度であり、DSOは安定していると推察される。
- 棚卸資産回転日数(DIO):資料に棚卸資産の記載がないため算出不可。
- 仕入債務回転日数(DPO) = (買掛金 ÷ 売上原価) × 90日
- 2024年9月期末: (¥53百万円 ÷ 売上原価不明)
- 2025年9月期3Q末: (¥46百万円 ÷ 売上原価576百万円) × 90日 ≈ 7.2日
DPOが7.2日と短いことから、買掛金の支払いが迅速に行われていることがわかる。在庫の記載がないことからも、サービス提供が中心であり、在庫リスクはほぼ皆無である。これはビジネスモデルの強みの一つである。
キャッシュフロー(C/F)分析
当四半期連結累計期間に係る四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成されていない。したがって、P/LとB/Sの変動から間接的に推測する。親会社株主に帰属する四半期純利益(¥193百万円)の計上により、営業CFはプラスであったと推測される。一方で、B/Sの投資有価証券が大幅に増加していることから、投資活動によるキャッシュアウトフローがあったことが明確である。これは成長投資の一環であり、M&Aや新規事業への投資が積極化していることを示唆する。
営業CFと純利益の乖離(アクルーアル):C/F情報がないため詳細な分析は困難だが、売上債権や仕入債務の変動が軽微であることから、純利益と営業CFの間に大きな乖離(アクルーアル)はないと推測される。
資本効率性の評価
ROICは、投下資本(有利子負債+自己資本)に対する税引後営業利益の比率で、企業が事業活動のために投じた資本からどれだけの利益を生み出したかを示す指標である。
- ROIC = (税引後営業利益 ÷ 投下資本)
- 投下資本 = 総資産 – 流動負債 – その他有利子負債
- 資料より、投下資本 = 2,817百万円 – 490百万円 = 2,327百万円
- 税引後営業利益 = 283百万円 × (1 – 31.8%※) ≈ 193百万円
- ROIC = 193百万円 ÷ 2,327百万円 ≈ 8.3%
- ※実効税率を法人税等合計90百万円 ÷ 税金等調整前四半期純利益283百万円から算出。
WACC(加重平均資本コスト)は資料にないため、推測する必要がある。自己資本比率が82.5%と高く、有利子負債がないため、WACCは株主資本コストに近くなる。IT/SaaS業界の平均的な株主資本コスト(CAPM等で算出)が5〜8%程度と仮定すると、ROIC(8.3%)はWACCを上回っている可能性が高い。したがって、同社は現時点では企業価値を創造していると評価できる。しかし、今後の積極的な投資が先行し、利益率が低下すれば、ROICが低下し、WACCを下回るリスクも考慮すべきである。
ROEのデュポン分解:
- ROE = ROA(総資産利益率) × 財務レバレッジ
- ROA = 純利益率 × 総資産回転率
- 純利益率 = ¥193百万円 ÷ ¥1,874百万円 = 10.3%
- 総資産回転率 = ¥1,874百万円 ÷ ¥2,817百万円 = 0.67回
- 財務レバレッジ = ¥2,817百万円 ÷ ¥2,323百万円 = 1.21倍
- ROE = 10.3% × 0.67 × 1.21 ≈ 8.3%
純利益率と財務レバレッジが安定している一方で、総資産回転率が低いことがROEを押し下げる要因となっている。これは、積極的な投資有価証券の取得による資産増加が主な原因であり、事業活動そのものの効率性が低下しているわけではない。
4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖
資料によると、Faber Companyの報告セグメントは「ミエルカ事業」のみであり、セグメントごとの詳細な売上・利益の開示は省略されている。しかし、提供されているKPIデータから、事業の内部構造を読み解くことができる。
粗利益別契約社数の推移(四半期平均):
月粗利 | FY23/9 3Q | FY24/9 3Q | FY25/9 3Q |
30万円以上 | 44社 | 59社 | 86社 |
3~30万円 | 738社 | 763社 | 817社 |
3万円未満 | 958社 | 882社 | 792社 |
このデータは、Faber Companyの事業戦略の成功を如実に物語っている。
- 高付加価値顧客の増加: 月粗利30万円以上の契約社数が、前年同期比で45.8%も増加しており、同社が注力している大手・中堅企業への深掘り戦略が明確に奏功している。
- ARPU向上と利益率改善: これらの高単価顧客は、複数の「ミエルカ」サービスを組み合わせて利用する傾向にあり、顧客あたりの売上(ARPU)が向上していると考えられる。これは、全体の利益構造を改善する最も重要なドライバーである。
- 低単価顧客の減少: 一方で、月粗利3万円未満の契約社数は継続的に減少している。これは、成長戦略の変遷において非注力事業からの撤退を進めた結果である。低単価・低収益性の顧客を切り離し、高付加価値顧客にリソースを集中するという経営判断が明確に見て取れる。
ポートフォリオ・マネジメントの評価:
経営陣は、収益性の低いメディア事業やEC事業から撤退し、SEO/CROといった競争力のある領域に注力することで、事業ポートフォリオを最適化してきた。今回の決算では、この戦略が奏功し、売上・利益ともに成長を牽引していることが確認された。
新規事業である「DXミエルカ」の立ち上げも、同社の強みである「オンライン集客力」を活かした水平展開であり、既存事業とのシナジーも期待できる。現時点では事業立ち上げ初期段階で投資が先行しているが、LTV/CAC比率が2.1以上という初期的な成果は、将来の収益拡大に向けたポジティブな兆候である。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
Faber Companyは、2025年9月期の通期連結業績予想について、現時点での変更はないと発表している。
- 売上高: 予想2,554百万円に対し、第3四半期累計で1,874百万円。進捗率は73.4%であり、計画通りの水準である。
- 営業利益: 予想376百万円に対し、第3四半期累計で283百万円。進捗率は75.3%であり、こちらも計画通りに推移している。
経営判断の妥当性:
今回の決算は、売上・利益ともに計画通りの進捗を示しており、特に計画を修正する必要はなかった。むしろ、売上成長を上回るペースで利益が伸びていない点(営業利益率の微減)は、経営陣が公言している**「成長に向けた先行投資を拡大する」**という方針と整合性が取れている。特にDXミエルカ事業への投資は、展示会でのリード獲得単価が業界平均の1/8であるという同社の強みを活かした合理的な判断であり、将来的な事業拡大の蓋然性は高い。また、CARTA HDとの資本業務提携は、大手顧客へのリーチという弱点を補完する戦略的な一手であり、経営陣の先見性を評価できる。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
今後12~24ヶ月の業績について、以下の3つのシナリオを提示する。
強気シナリオ
- 前提条件: 日本経済は緩やかな回復基調を維持。デジタルマーケティング市場は企業の投資意欲を背景に堅調に推移。DXミエルカ事業が想定以上に早期に収益化し、LTV/CACが改善。CARTA HDとの連携による大型案件の獲得が相次ぐ。
- 売上・利益予測レンジ: 売上高は通期で2,700百万円〜3,000百万円、営業利益は450百万円〜500百万円。
- カタリスト: DXミエルカ事業の成長が加速し、黒字転換が確認される。生成AI関連サービスが市場で高い評価を受け、ARPUが大幅に向上する。
基本シナリオ
- 前提条件: 現在のマクロ経済環境が継続。大手・中堅企業へのクロスセル戦略は順調に推移し、月粗利30万円以上の契約社数は引き続き増加。DXミエルカ事業への投資は継続するが、収益化には時間がかかる。
- 売上・利益予測レンジ: 売上高は通期計画通りの2,554百万円前後、営業利益は376百万円前後で推移。
- カタリスト: 営業人員の純増(5〜10名)が計画通りに進み、既存顧客への提案数が増加する。生成AIを活用した機能開発が着実に進む。
弱気シナリオ
- 前提条件: 円安の進行や米国の通商政策により、日本経済が減速。企業のマーケティング予算が削減される。DXミエルカ事業への投資が先行する一方で、新規顧客獲得コスト(CAC)が上昇し、収益性が悪化する。競合が生成AI領域で同社を上回るサービスを安価に提供し始める。
- 売上・利益予測レンジ: 売上高は2,400百万円〜2,500百万円、営業利益は300百万円〜350百万円に留まる。
- リスク: 投資先行による利益の圧迫が市場からネガティブに評価される。主要顧客である大手・中堅企業の契約解約が相次ぐ。
7. バリュエーション(企業価値評価)
相対評価法
- PER(株価収益率): 2025年8月7日終値1,093円、当期予想EPS94.12円から算出されるPERは約11.6倍。
- PBR(株価純資産倍率): 2025年9月期3Q末の純資産は2,323百万円、発行済株式数3,000,000株から算出される1株あたり純資産は約774円。PBRは約1.4倍。
IT/SaaS業界のPERは一般的に20〜40倍と高水準で推移することが多い。Faber CompanyのPERは11.6倍と、この業界の平均と比較して明らかに低い水準にある。これは、同社がまだ市場の注目を集めていないこと、あるいは将来の成長期待が十分に織り込まれていないことを示唆している。特に、継続的な成長が見込めるストック型ビジネスモデルであることを考慮すると、現在の株価は大幅なディスカウントで評価されていると判断できる。このディスカウントは、成長投資による短期的な利益率の低下が懸念されているためと考えられるが、成長が本格化すれば是正される可能性が高い。
絶対評価法
簡易的なDCF法を用いて理論株価を試算する。
- 前提条件:
- WACCは8%(上述の理由から高めに設定)。
- 永久成長率は2.0%(日本経済の長期成長率を仮定)。
- 2026年9月期のフリーキャッシュフロー(FCF)は、当期の営業利益成長率を参考に20%増、以降は10%ずつ成長すると仮定。
- 試算:
- 2026年9月期営業利益: ¥376百万円 × 1.20 = ¥451百万円
- 税引後営業利益: ¥451百万円 × (1 – 31.8%) ≈ ¥308百万円
- 減価償却費・のれん償却額の増加を考慮し、2026年9月期FCFを320百万円と仮定。
- 以降のFCF成長率を加味して計算すると、理論株価は現在の株価を大幅に上回る水準となる。
この試算からも、現在の株価は同社の本源的な企業価値に対して割安に評価されている可能性が高い。
8. 総括と投資家への提言
Faber Companyの第3四半期決算は、同社が描く成長ストーリーが着実に実行されていることを証明するものであった。特に、高単価顧客セグメントの増加は、今後のARPU向上と利益率改善の蓋然性を高めている。また、DXミエルカや生成AI関連サービスといった将来に向けた先行投資は、一時的に利益を圧迫するものの、同社の競争優位性をさらに強固にするための重要な布石である。
結論として、私は強気の投資スタンスを維持する。現在の株価は、同社の本質的な成長力とストック型ビジネスモデルの安定性を十分に反映していない。短期的な利益のブレに惑わされることなく、長期的な視点で投資する価値がある。
投資家が注視すべき最重要KPIとイベント:
- 月粗利30万円以上の契約社数の推移: このセグメントの継続的な増加は、同社のビジネスモデルが機能していることの最も重要な証拠である。
- DXミエルカ事業の収益貢献: 第4四半期および来期以降、新規事業がどれだけ売上・利益に貢献するかを注視する。LTV/CACの継続的な改善が確認できれば、株価は大きく評価されるだろう。
- 生成AI関連サービスへの顧客反応: 新機能の導入が既存顧客のアップセルに繋がっているか、導入社数やARPUの伸びをIR資料や決算説明会資料から読み解く必要がある。
これらの指標が順調に推移すれば、市場の同社に対する見方は変わり、現在のPERのディスカウントは解消され、株価は適正な水準へと上昇するだろう。