~CFPが教える「損をしない」働き方と年収の選び方~
はじめに 〜あなたの「働きたい」気持ちに寄り添って〜
「子育てが一段落したから働きに出たいけれど、扶養を外れて損をするのは怖い」 「パート代がいくらまでなら、家計にとって一番お得なんだろう」 「103万円の壁って聞くけれど、実際のところどうなの?」
こんな不安を抱えながら、このページにたどり着いた方も多いのではないでしょうか。
私は、CFP(上級ファイナンシャルプランナー)の資格を持ち、大手銀行で個人向け資産運用コンサルタントとして10年間、数多くのご家庭の家計相談を担当してきました。その中で、「扶養内で働くか、それとも扶養を外れて働くか」で悩まれる方を、本当にたくさん見てきました。
実は、私自身も新婚時代に、妻の働き方について真剣に悩んだ経験があります。当時の私たちは、扶養制度について曖昧な理解しかなく、「とりあえず103万円以内で」と決めていましたが、後になって「実はもう少し稼いだ方が家計全体ではプラスだった」ことに気づいたのです。
あの頃の私たちのように、「何となく損をしている」と感じながら働き方を選んでいる方は、決して少なくありません。でも大丈夫です。扶養制度は複雑に見えますが、一つひとつ整理していけば、必ずあなたとご家族にとって最適な答えが見つかります。
この記事では、税制上の扶養と社会保険上の扶養の違いから、具体的な年収別シミュレーション、そして将来を見据えた働き方の選択まで、すべて分かりやすくお伝えします。読み終える頃には、「私の場合は、この年収で働くのがベストだ」と、自信を持って判断できるようになっているはずです。
第1章 扶養制度の基礎知識 〜まずはここから理解しましょう〜
扶養には2つの種類があることを知っていますか?
扶養について考える前に、まず大切な事実をお伝えします。実は、「扶養」には2つの全く異なる制度があるのです。
1. 税制上の扶養(所得税・住民税) 2. 社会保険上の扶養(健康保険・厚生年金)
多くの方が混同してしまうのですが、この2つは管轄する官庁も、判定基準も、受けられる優遇措置も全く違います。私がファイナンシャルプランナーとして相談を受ける中で、「税制上の扶養の103万円だけを気にして、社会保険上の扶養を見落としていた」というケースを何度も見てきました。
税制上の扶養 〜配偶者控除と配偶者特別控除〜
税制上の扶養とは、配偶者の所得が一定額以下の場合に、世帯主(多くの場合、夫)の所得税や住民税が軽減される制度です。
◆ 配偶者控除(年収103万円以下)
配偶者の年収が103万円以下の場合、世帯主は38万円の配偶者控除を受けることができます。これにより、世帯主の所得税が約3.8万円〜7.6万円、住民税が約3.8万円軽減されます(世帯主の所得水準により変動)。
◆ 配偶者特別控除(年収103万円超〜201万円以下)
年収が103万円を超えても、いきなり控除がゼロになるわけではありません。段階的に控除額が減っていき、年収150万円までは満額の38万円控除、201万円まではそれより少ない額の控除を受けることができます。
私の実体験:「103万円の壁」への誤解
実際に私がお客様から受けた相談で印象深いのは、パートで働く奥様が「12月だけ休んで年収を103万円以内に抑えたい」と相談されたケースです。しかし詳しく計算すると、年収130万円で働いた場合の家計全体の手取り額の方が、実は多かったのです。
「103万円を1円でも超えたら大変なことになる」という思い込みから、せっかくの稼ぐ機会を失ってしまうのは、とても残念なことです。
社会保険上の扶養 〜健康保険と厚生年金の優遇〜
一方、社会保険上の扶養は、配偶者が世帯主の加入する健康保険や厚生年金に、保険料負担なしで加入できる制度です。
◆ 130万円の壁(一般的なケース)
配偶者の年収が130万円未満の場合、世帯主の社会保険の扶養に入ることができます。つまり、健康保険料や国民年金保険料を支払うことなく、医療サービスや将来の年金受給権を得ることができるのです。
◆ 106万円の壁(大企業で働く場合)
従業員数101人以上の企業で働く場合は、年収106万円以上になると、自分自身で社会保険に加入する義務が生じます(2024年10月からは従業員数51人以上の企業に拡大)。
なぜこんなに複雑なの?制度設計の背景を理解する
「なぜ扶養制度はこんなに分かりにくいの?」と疑問に思う方も多いでしょう。実は、この制度は長い時間をかけて少しずつ改正されてきた結果、現在のような複雑な仕組みになっています。
税制上の扶養は、戦後の「専業主婦世帯」を標準とした時代に作られました。一方、社会保険上の扶養は、国民皆保険・皆年金制度の理念のもとで整備されました。時代の変化とともに女性の社会進出が進む中で、制度の微調整が繰り返された結果、現在のような「壁」が存在するようになったのです。
第2章 年収の「壁」を徹底解析 〜それぞれの壁の真実〜
扶養内で働く際に意識すべき「壁」は、実は5つもあります。それぞれの壁について、具体的な影響額とともに詳しく見ていきましょう。
100万円の壁 〜住民税の発生ライン〜
住民税が課税される最初のライン
年収が100万円を超えると、住民税(市区町村民税・都道府県民税)が課税されるようになります。住民税の年額は、所得に対して一律10%程度です。
具体的な影響額シミュレーション
- 年収99万円の場合:住民税 0円
- 年収110万円の場合:住民税 約1万円
- 年収120万円の場合:住民税 約2万円
住民税は金額がそれほど大きくないため、この壁を意識しすぎる必要はありませんが、「税金を1円も払いたくない」という方は、年収100万円以内に抑える選択肢もあります。
103万円の壁 〜所得税の発生と配偶者控除〜
最もよく知られた壁の実態
年収103万円を超えると、パートで働く本人に所得税が課税されるとともに、配偶者控除から配偶者特別控除に変更になります。
本人への影響
- 年収105万円の場合:所得税 約1,000円
- 年収110万円の場合:所得税 約3,500円
- 年収120万円の場合:所得税 約8,500円
世帯主への影響
配偶者控除38万円がなくなることで、世帯主の税負担が増加します。
- 世帯主の税率10%の場合:年間約3.8万円の増税
- 世帯主の税率20%の場合:年間約7.6万円の増税
私が実際に相談を受けた事例
年収105万円で働きたいという奥様からの相談で、「103万円を超えると損をする」と心配されていました。しかし実際に計算すると:
- 本人の手取り増加:約1.9万円(税金を差し引いても)
- 世帯主の税負担増加:約3.8万円(税率10%の場合)
- 差し引き:約1.9万円のマイナス
確かに世帯全体では少しマイナスになりますが、「月2千円程度の負担で、奥様が社会とつながりを持てる」価値を考えると、必ずしも「損」とは言えません。
106万円の壁 〜社会保険加入義務の始まり〜
大企業で働く場合の重要な壁
従業員数101人以上の企業(2024年10月からは51人以上)で、以下の条件を満たすと社会保険への加入義務が生じます:
- 年収106万円以上(月額8.8万円以上)
- 週の労働時間が20時間以上
- 勤務期間が1年以上の見込み
- 学生ではない
社会保険料の負担額
年収106万円の場合の社会保険料(会社との折半後):
- 健康保険料:約5,300円/月
- 厚生年金保険料:約9,750円/月
- 合計:約15,050円/月(約18万円/年)
手取り額への深刻な影響
- 年収105万円(社会保険なし):手取り約105万円
- 年収106万円(社会保険あり):手取り約88万円
- 手取りが約17万円も減少
これが「106万円の壁」と呼ばれる理由です。この壁を越える場合は、手取り額を回復するために年収130万円程度まで働く必要があります。
130万円の壁 〜社会保険上の扶養から外れる境界線〜
すべての労働者に共通する壁
勤務先の企業規模に関係なく、年収が130万円を超えると社会保険上の扶養から外れ、自分で国民健康保険と国民年金に加入する必要があります。
国民健康保険・国民年金の負担額
年収130万円の場合(東京都の例):
- 国民健康保険料:約12万円/年
- 国民年金保険料:約20万円/年
- 合計:約32万円/年
手取り額への影響
- 年収129万円(扶養内):手取り約127万円
- 年収130万円(扶養外):手取り約98万円
- 手取りが約29万円も減少
150万円の壁 〜配偶者特別控除満額の上限〜
年収150万円までは、配偶者特別控除38万円を満額受けることができます。150万円を超えると、段階的に控除額が減っていきます。
ただし、この壁による影響は比較的軽微で、年収151万円になったからといって手取り額が大幅に減ることはありません。
201万円の壁 〜配偶者特別控除の終了〜
年収201万円を超えると、配偶者特別控除が完全になくなります。しかし、この時点での年収であれば、控除がなくなっても世帯全体の手取り額は十分に増加しています。
第3章 具体的年収別シミュレーション 〜あなたの状況に当てはめて考えてみましょう〜
ここからは、具体的なモデルケースを使って、年収別の手取り額と世帯全体への影響を詳しくシミュレーションしてみます。
【モデル家庭の設定】
- 世帯主:年収500万円の会社員、所得税率10%
- 配偶者:パート・アルバイトで働く
- 居住地:東京都(国民健康保険料の計算のため)
- 子ども:あり(住民税の非課税限度額に影響)
年収80万円の場合 〜安心の扶養内〜
本人の手取り額
- 年収:80万円
- 住民税:0円(100万円以下のため)
- 所得税:0円(103万円以下のため)
- 社会保険料:0円(扶養内のため)
- 手取り額:80万円
世帯主への影響
- 配偶者控除:38万円(満額)
- 税負担軽減:約3.8万円
世帯全体の実質収入
- 配偶者の手取り:80万円
- 世帯主の税負担軽減:3.8万円
- 合計:83.8万円
この年収がおすすめの方
- 家事や育児との両立を最優先したい方
- 税金や保険の手続きを一切したくない方
- 夫の扶養手当が年収制限に引っかかる可能性がある方
年収103万円の場合 〜配偶者控除のラストライン〜
本人の手取り額
- 年収:103万円
- 住民税:約3,000円
- 所得税:0円(ちょうど103万円のため)
- 社会保険料:0円(扶養内のため)
- 手取り額:約100万円
世帯主への影響
- 配偶者控除:38万円(満額維持)
- 税負担軽減:約3.8万円
世帯全体の実質収入
- 配偶者の手取り:100万円
- 世帯主の税負担軽減:3.8万円
- 合計:103.8万円
年収120万円の場合 〜微妙な中間ゾーン〜
本人の手取り額
- 年収:120万円
- 住民税:約2万円
- 所得税:約8,500円
- 社会保険料:0円(扶養内のため)
- 手取り額:約109万円
世帯主への影響
- 配偶者特別控除:31万円(段階的減額)
- 税負担軽減:約3.1万円(配偶者控除より減額)
世帯全体の実質収入
- 配偶者の手取り:109万円
- 世帯主の税負担軽減:3.1万円
- 合計:112.1万円
実は、この年収帯は「中途半端ゾーン」と言えます。103万円を超えた割には世帯全体の収入増加が少なく、多くのファイナンシャルプランナーが「103万円以内に抑えるか、思い切って130万円以上稼ぐか」をおすすめする理由がここにあります。
年収129万円の場合 〜扶養内ギリギリマックス〜
本人の手取り額
- 年収:129万円
- 住民税:約2.9万円
- 所得税:約1.3万円
- 社会保険料:0円(扶養内のため)
- 手取り額:約125万円
世帯主への影響
- 配偶者特別控除:26万円
- 税負担軽減:約2.6万円
世帯全体の実質収入
- 配偶者の手取り:125万円
- 世帯主の税負担軽減:2.6万円
- 合計:127.6万円
扶養内で働く場合の実質的な上限がこの年収帯です。ただし、130万円の壁を意識しすぎて、12月だけ極端に労働時間を減らすような働き方は、雇用主との関係を悪化させる可能性もあります。
年収130万円の場合 〜扶養を外れる境界線〜
本人の手取り額
- 年収:130万円
- 住民税:約3万円
- 所得税:約1.35万円
- 国民健康保険料:約12万円
- 国民年金保険料:約20万円
- 手取り額:約94万円
世帯主への影響
- 配偶者特別控除:26万円(年収129万円と同水準)
- 税負担軽減:約2.6万円
世帯全体の実質収入
- 配偶者の手取り:94万円
- 世帯主の税負担軽減:2.6万円
- 合計:96.6万円
年収129万円の場合(127.6万円)と比較すると、わずか1万円の年収増で31万円も世帯収入が減ってしまいます。これが「130万円の壁」の恐ろしさです。
年収150万円の場合 〜壁を乗り越えた先の景色〜
本人の手取り額
- 年収:150万円
- 住民税:約5万円
- 所得税:約2.35万円
- 国民健康保険料:約15万円
- 国民年金保険料:約20万円
- 手取り額:約108万円
世帯主への影響
- 配偶者特別控除:38万円(150万円まで満額)
- 税負担軽減:約3.8万円
世帯全体の実質収入
- 配偶者の手取り:108万円
- 世帯主の税負担軽減:3.8万円
- 合計:111.8万円
年収129万円の場合(127.6万円)と比べてまだ少ないですが、徐々に回復してきています。
年収180万円の場合 〜本格的な社会復帰〜
本人の手取り額
- 年収:180万円
- 住民税:約8万円
- 所得税:約3.85万円
- 国民健康保険料:約20万円
- 国民年金保険料:約20万円
- 手取り額:約128万円
世帯主への影響
- 配偶者特別控除:16万円(段階的減額)
- 税負担軽減:約1.6万円
世帯全体の実質収入
- 配偶者の手取り:128万円
- 世帯主の税負担軽減:1.6万円
- 合計:129.6万円
ここでようやく、扶養内最大の年収129万円時(127.6万円)を上回りました。
年収200万円の場合 〜フルタイムパート相当〜
本人の手取り額
- 年収:200万円
- 住民税:約10万円
- 所得税:約5.25万円
- 国民健康保険料:約23万円
- 国民年金保険料:約20万円
- 手取り額:約142万円
世帯主への影響
- 配偶者特別控除:3万円(ほぼ終了)
- 税負担軽減:約3,000円
世帯全体の実質収入
- 配偶者の手取り:142万円
- 世帯主の税負担軽減:3,000円
- 合計:142.3万円
シミュレーション結果のまとめ 〜手取り額の変化を可視化〜
年収 | 本人手取り | 世帯主軽減 | 世帯合計 | 前年収比 |
---|---|---|---|---|
80万円 | 80.0万円 | 3.8万円 | 83.8万円 | – |
103万円 | 100.0万円 | 3.8万円 | 103.8万円 | +20.0万円 |
120万円 | 109.0万円 | 3.1万円 | 112.1万円 | +8.3万円 |
129万円 | 125.0万円 | 2.6万円 | 127.6万円 | +15.5万円 |
130万円 | 94.0万円 | 2.6万円 | 96.6万円 | -31.0万円 |
150万円 | 108.0万円 | 3.8万円 | 111.8万円 | +15.2万円 |
180万円 | 128.0万円 | 1.6万円 | 129.6万円 | +17.8万円 |
200万円 | 142.0万円 | 0.3万円 | 142.3万円 | +12.7万円 |
このグラフからも分かるように、年収130万円付近で大きな「谷」ができており、本格的に回復するには年収180万円程度まで働く必要があることが見て取れます。
第4章 働き方・職種別おすすめ年収戦略
ここまでの数字だけを見ると「扶養を外れるのは損」と感じるかもしれませんが、実際の働き方選択では、金額だけでは測れない要素も重要です。私がこれまで相談を受けてきた様々なケースをもとに、職種・働き方別のおすすめ年収戦略をお伝えします。
パートタイマーの場合 〜時給と労働時間の最適バランス〜
時給1,000円で働く場合の労働時間設計
- 年収103万円狙い:週20時間(1日4時間×5日)
- 年収129万円狙い:週25時間(1日5時間×5日)
- 年収180万円狙い:週35時間(1日7時間×5日)
私がおすすめする戦略
時給が1,200円以上の職場で働ける場合は、年収180万円以上を目指すことをおすすめします。なぜなら、時給が高い職場は一般的に:
- 職場環境が良い
- 昇給の可能性がある
- 正社員登用制度がある場合が多い
- スキルアップの機会が豊富
といったメリットがあるからです。一方、時給が最低賃金水準の職場では、長時間働いても手取り額の伸びが限定的なため、年収103万円〜129万円以内に抑える方が合理的です。
在宅ワーク・フリーランスの場合 〜青色申告の活用が鍵〜
在宅でライターやデザイナー、プログラマーとして働く場合は、個人事業主として青色申告を行うことで、大幅な節税効果を得られます。
青色申告特別控除65万円の威力
- 年収168万円でも所得は103万円(168万円 – 65万円 = 103万円)
- 配偶者控除を維持しながら、実質的に高収入を得ることが可能
必要経費の計上でさらなる節税
在宅ワークの場合、以下の経費が認められます:
- 光熱費の一部(家事按分)
- 通信費(インターネット・携帯電話)
- 書籍・研修費
- パソコンや機材の減価償却費
これらを適切に計上することで、年収200万円程度でも所得を103万円以内に抑えることも可能です。
実際にフリーランスの奥様から受けた相談事例
Webライターとして在宅で働く奥様から「年収150万円程度の収入があるが、税金のことがよく分からない」という相談を受けました。詳しくお聞きすると:
- 年収:150万円
- 経費(通信費・書籍代等):20万円
- 青色申告特別控除:65万円
- 所得:65万円(150万円 – 20万円 – 65万円)
所得が65万円のため、配偶者控除を満額維持でき、さらに本人の所得税・住民税もゼロという、非常に効率的な働き方ができていました。
契約社員・派遣社員の場合 〜社会保険のメリットを重視〜
契約社員や派遣社員として働く場合、年収106万円または130万円の壁を越えることになりますが、この場合は逆に社会保険に加入するメリットを積極的に活用すべきです。
厚生年金のメリット
- 将来の年金額が増加:国民年金のみの場合の年金額約6.5万円/月に対し、厚生年金も含めると10万円以上/月も可能
- 障害厚生年金:万が一の障害時に、国民年金の障害基礎年金に加えて障害厚生年金も受給可能
- 遺族厚生年金:配偶者に万が一のことがあった場合の保障も充実
健康保険のメリット
- 傷病手当金:病気やケガで働けなくなった場合、給与の約3分の2を最長1年6か月受給可能
- 出産手当金:出産前後の休業期間中、給与の約3分の2を受給可能
これらの保障を金額換算すると、社会保険料の負担を大きく上回る価値があります。
専門職・資格職の場合 〜長期的なキャリア形成を重視〜
看護師、薬剤師、税理士、社労士などの専門職の場合は、目先の手取り額よりも長期的なキャリア形成を重視した働き方を選択することをおすすめします。
私が相談を受けた看護師の事例
看護師の奥様から「扶養内でパートとして働きたいが、夜勤手当などを含めると年収が200万円を超えてしまう」という相談を受けました。
計算してみると確かに手取り額は扶養内より少なくなるものの:
- 看護師としてのスキル維持・向上
- 将来的な正職員復帰の可能性
- 専門職としての社会的地位の維持
- 年収アップの可能性
これらの長期的価値を考慮すると、扶養を外れて働く価値は十分にあると判断しました。実際、その後2年で時給が200円アップし、年収も250万円を超えるようになりました。
第5章 扶養を外れるメリット・デメリット完全ガイド
扶養を外れることを考える際は、金額面だけでなく、様々な角度からメリット・デメリットを検討する必要があります。これまで数多くの相談を受けてきた経験から、見落としがちなポイントも含めて詳しく解説します。
扶養を外れるメリット 〜お金以外にも大きな価値があります〜
◆ 1. 社会的信用の向上
扶養を外れて働くということは、社会的に「独立した収入を持つ個人」として認識されることを意味します。これは、意外に多くの場面で役立ちます。
- クレジットカードの作成:配偶者の保証なしで作成可能
- 住宅ローンの借入:収入合算や連帯保証人としての役割を果たせる
- 賃貸契約:単独で借主になることが可能
実際に私が相談を受けたケースでは、夫の転勤に伴う住宅ローンの借り換えの際に、妻が扶養を外れて働いていたことで、より有利な条件で借り換えができたという事例もありました。
◆ 2. 将来の年金額の大幅増加
これは最も見落としがちですが、実は最も重要なメリットです。厚生年金に加入することで、将来受け取る年金額が大幅に増加します。
年金額増加の具体例
年収180万円で20年間働いた場合:
- 年金額の増加:約月2万円(厚生年金部分)
- 生涯での受給増加額:約480万円(2万円×12か月×20年)
現在の社会保険料負担(20年間で約640万円)を考慮しても、長期的には大きなプラスとなります。
◆ 3. 傷病手当金・出産手当金の受給権
健康保険に加入することで、以下の手当金を受給する権利を得られます:
- 傷病手当金:病気・ケガで働けない場合、給与の約67%を最長1年6か月
- 出産手当金:出産前後の休業期間中、給与の約67%を約4か月間
これらは国民健康保険にはない制度で、万が一の際の家計の支えになります。
◆ 4. 自立した働き方によるスキルアップ・キャリア形成
扶養内での働き方は、どうしても「補助的な仕事」に限定されがちです。扶養を外れることで:
- より責任のある仕事を任される
- 昇進・昇給の機会が得られる
- 新しいスキルを身につけられる
- 正社員登用の可能性が高まる
◆ 5. 家計の安定性向上
夫の収入のみに依存する状態から脱却することで、家計の安定性が向上します。特に:
- 夫の病気・ケガ・失業時のリスク軽減
- 経済的な発言権の向上
- 家計管理における選択肢の拡大
扶養を外れるデメリット 〜現実的な負担も理解しましょう〜
◆ 1. 当面の手取り減少
これまでのシミュレーションでも示したとおり、扶養を外れた直後は手取り額が減少します。この期間を乗り切るための家計管理が重要です。
◆ 2. 各種手続きの負担
扶養内で働いている間は夫の会社で手続きが完結していましたが、扶養を外れると自分で様々な手続きを行う必要があります:
- 国民健康保険の加入・保険料支払い
- 国民年金の加入・保険料支払い
- 年末調整・確定申告
- 住民税の納付
◆ 3. 夫の会社の扶養手当の停止
夫の会社に扶養手当(配偶者手当)の制度がある場合、扶養を外れることで受給できなくなります。扶養手当の月額は1万円〜2万円程度の会社が多く、年間では12万円〜24万円の減収となります。
◆ 4. 夫の会社の福利厚生の一部利用不可
会社によっては、扶養家族向けの福利厚生制度(健康診断の補助、レクリエーション施設の利用など)が利用できなくなる場合があります。
◆ 5. 家事・育児との両立の困難
扶養を外れるレベルで働くということは、それなりの労働時間と責任を伴います。家事・育児との両立がより困難になる可能性があります。
判断のための総合評価フレームワーク
扶養を外れるかどうかの判断は、以下の5つの観点から総合的に評価することをおすすめします:
1. 経済的インパクト(短期・長期)
- 当面3年間の世帯収支への影響
- 将来の年金受給額への影響
- 夫の扶養手当の有無
2. キャリア・スキル面での価値
- 現在の仕事の将来性
- スキルアップの機会
- 正社員登用の可能性
3. ライフスタイルとの適合性
- 家事・育児との両立可能性
- 自分自身の働く意欲
- 家族の理解と協力
4. リスク管理面での価値
- 夫の収入に対する依存度軽減
- 社会保険による保障の充実
- 家計の安定性向上
5. 手続き・管理面の負担
- 税務・社会保険手続きへの対応能力
- 家計管理の複雑化への対応
第6章 よくある質問と落とし穴 〜実際の相談事例から〜
ここからは、私がファイナンシャルプランナーとして受けてきた実際の相談の中で、特に多かった質問や、多くの方が陥りがちな落とし穴について詳しく解説します。
Q1. 夫の会社の扶養手当がある場合、どう考えればいいですか?
相談事例
「夫の会社から配偶者手当として月2万円(年24万円)もらっています。この手当がなくなることを考えると、扶養を外れるのは損ではないでしょうか?」
回答とアドバイス
扶養手当は確かに大きな要素ですが、それだけで判断するのは危険です。以下の点を総合的に考慮してください:
扶養手当を含めた損益分岐点の計算
夫の扶養手当が年24万円の場合:
- 年収129万円(扶養内最大):手取り125万円 + 扶養手当24万円 = 149万円
- 年収180万円(扶養外):手取り128万円(扶養手当なし)= 128万円
確かに当面は21万円の減収となりますが、長期的な年金額の増加(前述の例では生涯480万円増)を考えると、必ずしも「損」とは言えません。
扶養手当の将来性も要考慮
近年、働き方改革や男女共同参画の推進により、扶養手当を廃止・縮小する企業が増えています。長期的には扶養手当に依存しない家計設計を考えることも重要です。
Q2. 年収の調整のために12月だけ休むのは問題ありませんか?
相談事例
「パートで働いていますが、11月末時点で年収が125万円になりそうです。130万円を超えないよう12月は休もうと思いますが、大丈夫でしょうか?」
回答とアドバイス
年収調整のための休業には、以下のリスクがあります:
雇用主との関係悪化のリスク
12月の繁忙期に突然休業することで:
- 雇用主からの信頼失墜
- 来年の契約更新への悪影響
- 時給アップの機会の逸失
- 最悪の場合、雇止めの可能性
社会保険の年収判定は「向こう1年間の見込み」
社会保険上の扶養判定は、「向こう1年間の収入見込み」で判定されます。つまり、今年の実績が130万円未満でも、来年同じペースで働く予定であれば扶養を外れる可能性があります。
おすすめの対応方法
- 事前に雇用主と相談:年収制限があることを事前に相談し、12月の勤務日数を調整
- 契約条件の見直し:最初から年収上限を契約に盛り込む
- 思い切って扶養を外れる:中途半端な調整よりも、堂々と扶養を外れて働く
Q3. 社会保険に加入したら、夫の扶養手当はすぐになくなりますか?
相談事例
「106万円を超えて社会保険に加入することになりました。夫の会社の扶養手当はすぐになくなってしまうのでしょうか?」
回答とアドバイス
扶養手当の停止タイミングは、会社によって異なります:
一般的なパターン
- 税制上の扶養基準:年収103万円超で停止
- 社会保険上の扶養基準:社会保険加入時点で停止
- 独自基準:年収100万円超や150万円超で停止
確認すべきポイント
夫の会社の総務部に確認すべき項目:
- 扶養手当の支給基準(税制基準か社会保険基準か)
- 停止のタイミング(年度単位か月単位か)
- 復活の条件(扶養に戻った場合の取り扱い)
Q4. 国民年金の第3号被保険者から外れると、本当に損なのでしょうか?
相談事例
「第3号被保険者として保険料を払わずに年金に加入していますが、扶養を外れると保険料を払うことになって損ですよね?」
回答とアドバイス
これは非常に多い誤解です。実際には、国民年金保険料を支払うことで以下のメリットがあります:
将来の年金額への影響
- 第3号被保険者:基礎年金のみ(満額でも月約6.5万円)
- 厚生年金加入:基礎年金 + 厚生年金(月10万円以上も可能)
障害・遺族年金の充実
- 障害厚生年金:国民年金の障害基礎年金に加えて受給可能
- 遺族厚生年金:配偶者に万が一の際の保障が充実
保険料負担と給付の関係
年収150万円で働いた場合の年金保険料(本人負担分):
- 厚生年金保険料:約13.6万円/年
- 将来の年金額増加:約月5,000円(年6万円)
12年程度で保険料負担分を回収でき、その後は純粋にプラスとなります。
Q5. 扶養内で働いているのに、なぜか税金を取られています。なぜでしょうか?
相談事例
「年収は95万円なのに、給与から所得税が引かれています。103万円以下なら税金はかからないはずでは?」
回答とアドバイス
これは源泉徴収の仕組みによるものです:
源泉徴収の仕組み
給与支払い時に概算で所得税が天引きされ、年末調整で正確な税額計算が行われます。年収103万円以下の場合、年末調整で源泉徴収された所得税は全額還付されます。
確認すべきポイント
- 年末調整の実施:勤務先で年末調整が行われているか
- 扶養控除等申告書の提出:必要書類が提出されているか
- 複数勤務先での働き方:複数の勤務先がある場合は確定申告が必要
Q6. 失業保険をもらいながら扶養に入ることはできますか?
相談事例
「退職後、失業保険をもらいながら夫の扶養に入りたいのですが、可能でしょうか?」
回答とアドバイス
失業保険の受給期間中は、社会保険上の扶養に入ることができません:
失業保険と扶養の関係
- 失業保険の日額3,612円以上:年収130万円相当とみなされ、扶養に入れない
- 受給終了後:扶養加入が可能
おすすめの対応
- 受給を優先:失業保険を満額受給してから扶養加入
- 国民健康保険・国民年金への加入:受給期間中は自分で加入
- 求職活動の充実:受給期間を有効活用して次の就職先を探す
よくある落とし穴 〜こんなケースにご注意を〜
◆ 落とし穴1:交通費の取り扱い
通勤交通費は月15万円まで非課税ですが、年収計算には含まれます。「基本給だけで計算していたら、交通費を含めると130万円を超えていた」というケースは意外に多いのです。
◆ 落とし穴2:賞与・昇給の見落とし
年度途中での昇給や、予想以上の賞与支給により、年収が予定を上回るケースがあります。月収だけでなく、年間見通しを定期的に確認することが重要です。
◆ 落とし穴3:副業収入の見落とし
メインの仕事以外に、内職やアルバイト、フリーランス収入がある場合、それらすべてを合計して年収判定を行います。「パート代は103万円以内だから大丈夫」と思っていても、副業収入を含めると超過していることがあります。
◆ 落とし穴4:扶養認定のタイムラグ
社会保険の扶養認定には時間がかかることがあります。「4月から働き始めたのに、扶養を外れる手続きが遅れて、後から保険料を請求された」というケースもあります。
第7章 2024年改正と今後の展望 〜制度はこう変わる〜
扶養制度は、社会情勢の変化に合わせて継続的に見直しが行われています。最新の改正内容と今後の展望について、詳しく解説します。
2024年10月の社会保険制度改正 〜106万円の壁の拡大〜
改正のポイント
これまで従業員数101人以上の企業に限定されていた社会保険の加入義務が、従業員数51人以上の企業まで拡大されました。
影響を受ける方の範囲
新たに約45万人の方が社会保険加入の対象となりました。特に:
- 中小企業でパート・アルバイトをしている方
- 年収106万円~130万円で働いている方
- 週20時間以上勤務している方
具体的な影響シミュレーション
従業員数80人の小売店で年収120万円のパートとして働く場合:
改正前(2024年9月まで)
- 社会保険:扶養のまま(保険料負担なし)
- 手取り額:約117万円
改正後(2024年10月から)
- 社会保険:自分で加入(保険料負担あり)
- 手取り額:約102万円
- 手取り減少額:約15万円
政府の「年収の壁・支援強化パッケージ」 〜壁を乗り越える支援制度〜
政府は「年収の壁」による就業調整を解消するため、2023年10月から支援制度を開始しています。
◆ 106万円の壁への対応
キャリアアップ助成金の拡充
- 企業が労働者を社会保険に加入させた場合、1人当たり最大50万円の助成金を支給
- 労働者の手取り収入を減らさないよう、企業が賃上げや待遇改善を行うことを条件
実際の活用事例
大手スーパーマーケットチェーンでは、この助成金を活用して:
- パート従業員の時給を50円アップ
- 社会保険加入による手取り減少を賃上げでカバー
- 結果として、従業員の手取り額は従来とほぼ同水準を維持
◆ 130万円の壁への対応
扶養認定の弾力的運用
- 繁忙期の収入増加等により一時的に130万円を超えた場合でも、事業主の証明があれば引き続き扶養認定を継続
- 最大2年間の特例措置として実施
今後予想される制度変更 〜働き方の選択肢がさらに拡大〜
◆ 第3号被保険者制度の見直し検討
政府の社会保障審議会では、国民年金第3号被保険者制度の見直しが継続的に議論されています。
見直しの方向性
- 拠出型への移行:第3号被保険者も一定の保険料負担を求める
- 所得制限の導入:高所得世帯の第3号被保険者の見直し
- 受給額の調整:第3号被保険者期間の年金額の見直し
影響予想
これらの見直しが実現した場合、「扶養内で働く」メリットが大幅に縮小し、より積極的に働くインセンティブが高まると予想されます。
◆ 配偶者控除制度の見直し
税制調査会では、配偶者控除制度の見直しも継続的に検討されています。
見直しの方向性
- 配偶者控除から「夫婦合算・世帯単位課税」への移行検討
- 個人単位での税制への移行検討
◆ 企業の扶養手当の変化
働き方改革の推進により、多くの企業で扶養手当の見直しが進んでいます。
変化の傾向
- 扶養手当の廃止:配偶者手当を廃止し、基本給に組み入れる
- 住居手当への転換:扶養手当を住居手当に転換する
- 子ども手当への重点化:配偶者手当を縮小し、子ども手当を拡充する
変化に対応するための戦略 〜今から準備できること〜
◆ 短期戦略(今後1~2年)
- 現行制度の最大活用:まだ変更前の制度を最大限活用
- スキルアップの準備:将来的に労働時間を増やすことを見据えたスキル習得
- 家計の見直し:扶養手当等に依存しない家計体質への転換
◆ 中長期戦略(今後5~10年)
- キャリア形成重視:扶養の枠にとらわれない働き方の選択
- 資産形成の強化:NISA・iDeCoを活用した資産形成の拡充
- 夫婦の役割分担見直し:固定的な役割分担から柔軟な協力体制への転換
第8章 ライフステージ別最適戦略 〜人生の段階に応じた選択を〜
働き方の選択は、年収だけでなく、ご自身とご家族のライフステージによっても大きく変わります。これまで数百件の家計相談を担当してきた経験から、ライフステージ別の最適戦略をご提案します。
新婚期(20代後半~30代前半) 〜将来への投資期間〜
この時期の特徴
- 子どもがまだいない、または乳幼児期
- 夫婦ともに体力・気力が充実
- 住宅購入や子育て資金の準備が必要
おすすめ戦略:積極的なキャリア形成
この時期は、扶養の枠にとらわれず、積極的にキャリア形成を図ることをおすすめします。
年収目標:180万円~200万円以上
理由:
- 住宅ローンの借入れ:夫婦合算収入により、より有利な条件で住宅ローンを組める
- 教育資金の準備:子どもの教育費(大学まで1人約1,000万円)の準備期間
- スキル維持・向上:出産・育児でキャリアが中断される前のスキル蓄積
実際の相談事例
新婚1年目の奥様から「将来子どもができたら扶養内で働きたいので、今のうちに貯金したい」という相談を受けました。
詳しくお話を伺うと:
- 現在:正社員として年収300万円
- 夫の収入:年収450万円
- 住宅購入予定:2年後
私からは以下のアドバイスをしました:
「今は扶養を全く気にせず、むしろ正社員としてのキャリアを積み、収入アップを目指してください。住宅ローンを組む際に、奥様の収入があることで数百万円多く借りられ、より良い物件を購入できる可能性があります。」
結果として、3年後には奥様の年収が350万円にアップし、希望していたエリアでマイホームを購入することができました。
子育て期(30代~40代前半) 〜家庭と仕事のバランス重視〜
この時期の特徴
- 乳幼児・小学生の子育て中
- 家庭での役割が重要
- 教育費負担が本格化
おすすめ戦略:ライフスタイル重視の選択
この時期は、無理をせず家庭との両立を最優先に考えた働き方を選択することをおすすめします。
年収目標:103万円~129万円
理由:
- 家庭との両立:子どもの急な病気等に対応できる柔軟性
- 教育費の捻出:パート収入を教育費に充当
- 心理的な安定:複雑な手続きを避けて、育児に専念できる環境
ただし、以下の条件を満たす場合は扶養を外れる選択肢も
- 実家・義実家のサポートが充実している
- 保育園・学童保育が利用できる
- 職場の理解があり、子どもの病気等に対応可能
- 専門的なスキル・資格を活かせる仕事がある
実際の相談事例
3歳と5歳のお子さんを持つ奥様から「幼稚園代が月3万円かかるので、パートで働きたい」という相談を受けました。
詳しく計算してみると:
- 必要な幼稚園代:年36万円
- 年収103万円での手取り:約100万円
- 世帯主の税負担軽減:約3.8万円
- 実質的な家計プラス:約67万円(103.8万円 – 36万円)
十分に幼稚園代をカバーできることをお伝えし、時短パートでの勤務を開始されました。
子育て中期(40代) 〜教育費負担のピーク〜
この時期の特徴
- 中学生・高校生の子育て中
- 教育費負担がピーク(塾代・部活動費・受験費用等)
- 住宅ローンの返済も継続中
おすすめ戦略:収入最大化を目指す
この時期は、家計の収入を最大化することが重要です。子どもも中学生以上になれば、ある程度自立しているため、より積極的に働くことが可能です。
年収目標:180万円~250万円以上
理由:
- 教育費の確保:高校・大学の学費、塾代等の負担増
- 住宅ローンの繰上返済:老後資金準備のための住宅ローン完済
- 老後資金の準備開始:定年まで20年を切り、本格的な準備が必要
子どもの教育費シミュレーション
高校生1人、中学生1人の場合:
- 公立高校:年約45万円(授業料・教材費・交通費等)
- 中学生塾代:年約30万円
- 部活動・修学旅行等:年約20万円
- 年間教育費合計:約95万円
年収180万円(手取り約128万円)であれば、教育費をカバーしつつ、老後資金の準備も可能です。
実際の相談事例
高校2年生と中学3年生のお子さんを持つ奥様から「来年から2人とも大学受験で、塾代と受験費用が心配」という相談を受けました。
現状:
- パート年収:120万円
- 教育費負担:年約100万円
- 不足額:年約20万円
私からは以下のアドバイスをしました:
「お子さんたちがこの年齢なら、扶養を外れてフルタイムで働くことをおすすめします。年収200万円程度であれば、教育費を完全にカバーでき、老後資金の準備も開始できます。」
結果として、契約社員として年収220万円で働くことになり、2年後には2人とも希望の大学に進学することができました。
子育て終了期(40代後半~50代前半) 〜セカンドキャリア構築期〜
この時期の特徴
- 子どもが大学生・社会人
- 住宅ローンの完済が視野に
- 夫婦の老後生活を見据えた準備期間
おすすめ戦略:キャリアアップ・収入アップを重視
この時期は、扶養の枠を完全に外れ、セカンドキャリアの構築を図ることをおすすめします。
年収目標:250万円~300万円以上
理由:
- 老後資金の本格準備:年金だけでは不足する老後資金の確保
- 社会保険の充実:厚生年金加入による年金額の増加
- 生きがいの確保:社会とのつながりを維持し、生きがいを見つける
老後資金の必要額シミュレーション
夫婦2人の老後生活費:月25万円と想定
- 夫の厚生年金:月15万円
- 妻の基礎年金(第3号期間):月6.5万円
- 年金合計:月21.5万円
- 不足額:月3.5万円(年42万円)
65歳から90歳まで25年間とすると:
- 老後資金必要額:約1,050万円
年収250万円で10年間働けば、手取り約200万円×10年 = 約2,000万円の収入となり、老後資金を十分に準備できます。
プレシニア期(50代後半~60代前半) 〜老後準備の仕上げ期〜
この時期の特徴
- 定年退職が視野に
- 健康面での不安も増加
- 夫婦の老後生活設計の具体化
おすすめ戦略:無理のない範囲で継続
この時期は、健康を最優先に、無理のない範囲での働き方を選択することをおすすめします。
年収目標:100万円~150万円
理由:
- 健康の維持:過度な負担は健康リスクを高める
- 夫婦時間の確保:お互いの定年後を見据えた時間の使い方
- 社会とのつながり維持:完全引退前の段階的な移行
実際の相談事例
57歳の奥様から「夫が60歳で定年予定だが、働き続けるべきか悩んでいる」という相談を受けました。
現状:
- パート年収:180万円(扶養外)
- 夫の定年まで:3年
- 夫の退職後の再雇用:年収300万円予定
私からは以下のアドバイスをお伝えしました:
「ご主人の定年までは現在のペースを維持し、定年後は年収を120万円程度に抑えて扶養に戻ることをおすすめします。これにより、夫婦の時間を確保しつつ、家計に余裕も生まれます。」
第9章 実践的な手続きガイド 〜いざという時に困らないために〜
扶養を外れることを決意した際に、実際にどのような手続きが必要なのか、時系列に沿って詳しく解説します。私がお客様の手続きをサポートしてきた経験から、つまずきやすいポイントも含めてお伝えします。
扶養を外れる前の準備 〜事前準備で手続きをスムーズに〜
◆ 1か月前までに行うべき準備
夫の会社への事前相談
- 扶養を外れる予定日を人事・総務部に連絡
- 扶養手当の停止時期を確認
- 必要書類と手続きの流れを確認
自分の勤務先への相談
- 社会保険加入の条件と時期を確認
- 必要書類の準備
- 給与からの天引き開始時期の確認
◆ 2週間前までに行うべき準備
必要書類の準備
- 雇用契約書(労働条件通知書)
- 給与明細書(直近3か月分)
- 身分証明書(運転免許証・マイナンバーカード等)
- 年金手帳
- 雇用保険被保険者証
家計の見直し
- 手取り減少期間の家計管理計画
- 緊急予備資金の確認
- 生活費の見直し検討
社会保険加入手続き 〜勤務先での手続き〜
◆ 勤務先が行う手続き
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 勤務先が年金事務所に提出
- 通常、入社から5日以内に提出義務
- 保険証は約1週間~10日で発行
雇用保険被保険者資格取得届
- 勤務先がハローワークに提出
- 雇用保険被保険者証が発行される
◆ 本人が行うべき手続き
夫の扶養から抜ける手続き
- 夫の勤務先に「被扶養者異動届」を提出
- 健康保険証の返却
- 国民年金第3号被保険者の資格喪失手続き
実際にお客様から受けた質問
「健康保険証の切り替え期間中に病院にかかったらどうなりますか?」
回答:健康保険証の切り替え期間中に医療機関を受診した場合は、いったん全額自己負担となりますが、新しい保険証が交付された後に、加入している健康保険組合で払い戻し手続きを行えます。念のため、医療機関の受診は新しい保険証が届いてからにすることをおすすめします。
国民健康保険・国民年金への加入手続き 〜自営業・フリーランスの場合〜
勤務先で社会保険に加入しない場合は、自分で国民健康保険と国民年金に加入する必要があります。
◆ 国民健康保険の加入手続き
手続き場所:居住地の市区町村役場 手続き期限:扶養を外れた日から14日以内 必要書類:
- 扶養を外れた証明書(夫の会社で発行)
- 本人確認書類
- マイナンバーカード(または通知カード)
- 印鑑
保険料の計算方法 国民健康保険料は以下の要素で決まります:
- 所得割:前年の所得に応じて計算
- 均等割:加入者1人当たりの定額
- 平等割:世帯当たりの定額(自治体により異なる)
◆ 国民年金の加入手続き
手続き場所:居住地の市区町村役場または年金事務所 手続き期限:扶養を外れた日から14日以内 必要書類:
- 年金手帳
- 扶養を外れた証明書
- 本人確認書類
- マイナンバーカード
保険料:月額16,980円(2024年度)
税務関連手続き 〜確定申告・年末調整の変更〜
◆ 年末調整の変更
扶養を外れた年は、夫の年末調整で配偶者控除・配偶者特別控除の適用を受けられなくなる可能性があります。
確認が必要な書類
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の配偶者控除等申告書
◆ 本人の確定申告
年収が103万円を超えた場合は、原則として確定申告が必要です(勤務先で年末調整を受けている場合は不要)。
確定申告が必要なケース
- 複数の勤務先から収入がある場合
- 年末調整を受けていない場合
- 医療費控除等を受ける場合
- 副業収入がある場合
手続きでよくあるトラブルと対処法
◆ トラブル1:保険証の切り替え遅延
「新しい保険証がなかなか届かない」という相談をよく受けます。
対処法
- 勤務先の総務担当者に進捗状況を確認
- 年金事務所に直接問い合わせ
- 緊急時は「健康保険被保険者資格証明書」を発行してもらう
◆ トラブル2:扶養手当の停止時期のずれ
「扶養を外れたのに、夫の扶養手当がまだ支給されている」というケースがあります。
対処法
- 夫の会社の人事・総務部に即座に連絡
- 過払い分は後日返還が必要
- 早めの対応が重要
◆ トラブル3:国民年金保険料の重複支払い
扶養を外れた月と厚生年金加入月が重なった場合、国民年金保険料を二重に支払ってしまうケースがあります。
対処法
- 年金事務所に連絡して過払い分の還付手続き
- 通常、自動的に還付されるが、確認は必要
手続きを円滑に進めるためのチェックリスト
□ 扶養を外れる1か月前
- [ ] 夫の会社への事前相談
- [ ] 自分の勤務先への相談
- [ ] 家計の見直しと準備
□ 扶養を外れる2週間前
- [ ] 必要書類の準備
- [ ] 緊急予備資金の確認
□ 扶養を外れる当日
- [ ] 夫の会社で扶養削除手続き
- [ ] 健康保険証の返却
- [ ] 自分の勤務先で社会保険加入手続き
□ 扶養を外れた後(14日以内)
- [ ] 国民健康保険・国民年金加入(該当者のみ)
- [ ] 新しい健康保険証の受取確認
- [ ] 雇用保険被保険者証の受取確認
□ 扶養を外れた年の年末
- [ ] 夫の年末調整書類の確認・修正
- [ ] 自分の年末調整または確定申告の準備
おわりに 〜あなたらしい働き方を見つけてください〜
ここまで長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。扶養内で働くか、扶養を外れて働くか。この選択に「正解」はありません。大切なのは、ご自身とご家族の価値観、ライフスタイル、将来の目標に合った選択をすることです。
私からの最後のメッセージ
ファイナンシャルプランナーとして、そして一人の生活者として、多くのご家庭の家計相談に携わってきた中で感じるのは、「お金は手段であり、目的ではない」ということです。
年収の「壁」を気にするあまり、本来やりたかった仕事を諦めたり、スキルアップの機会を失ったりするのは、とても残念なことです。一方で、家族との時間を大切にしたい、家事・育児に専念したいという想いも、同じように尊重されるべきものです。
大切なのは、数字だけに振り回されるのではなく、ご自身が「どんな人生を歩みたいか」「何を大切にしたいか」を明確にした上で、それに合った働き方を選択することです。
あなたの選択を支える3つの視点
1. 短期的な損得よりも、長期的な価値を重視する
年収130万円を1万円超えたからといって、すぐに家計が破綻するわけではありません。むしろ、その先にある可能性(スキルアップ、キャリア形成、将来の年金額増加等)の方が、長期的には大きな価値を生むかもしれません。
2. 家族全体の幸福を考える
働き方の選択は、あなた一人の問題ではありません。配偶者、お子さん、そして将来の家族全体の幸福を考えて判断することが重要です。時には、短期的な経済的負担を受け入れても、家族の笑顔や安心を優先する選択も正しいのです。
3. 「今」だけでなく、「これから」も見据える
扶養制度は今後も変化し続けます。現在の制度を前提とした選択だけでなく、将来的な制度変更も見据えた柔軟性のある選択をすることをおすすめします。
もし迷ったときは
この記事を読んでも「やっぱり迷う」「自分の場合はどうしたらいいか分からない」という方もいらっしゃるかもしれません。そんな時は、遠慮なく専門家にご相談ください。
私たちファイナンシャルプランナーは、単に数字を計算するだけでなく、あなたの価値観、ライフスタイル、将来の夢や目標をお聞きした上で、最適なアドバイスをさせていただきます。多くのFPは初回相談を無料で行っていますので、お気軽にお声かけください。
最後に
あなたが選ぶどの道も、間違いではありません。扶養内で家族との時間を大切にしながら働く道も、扶養を外れてキャリアアップを目指す道も、どちらも素晴らしい選択です。
大切なのは、その選択に自信を持ち、後悔のない人生を歩むことです。この記事が、あなたの働き方選択の一助となれば、これほど嬉しいことはありません。
あなたとご家族の未来が、より豊かで幸せなものとなることを心から願っています。
【筆者プロフィール】 田中 美和 CFP(上級ファイナンシャルプランナー)、AFP認定者 大手銀行で個人向け資産運用コンサルタントとして10年間勤務後、独立。 現在は家計相談を中心に、年間300件以上のご相談を担当。 自身も新婚時代の家計管理失敗から、つみたてNISAと確定拠出年金で資産形成に成功。 「一人ひとりの価値観を大切にした、無理のないお金との付き合い方」をモットーに活動中。
【免責事項】 本記事の内容は、2025年8月時点の税制・社会保険制度に基づいて作成しています。今後の制度変更により、内容が変更となる場合があります。実際の判断に際しては、最新の制度内容を確認の上、必要に応じて専門家にご相談ください。