業績と戦略の乖離:減収減益の背後にある構造的課題と中期計画達成への黄色信号
1. エグゼクティブ・サマリー
投資スタンス:中立、ただし弱気に傾斜(確信度:60%)
株式会社アール・エス・シー(以下「RSC」または「同社」)の2026年3月期第1四半期決算は、前年同期比で
減収減益となりました 。表面的な数字は景気減速の影響と大型イベントの反動減によるものと説明されていますが 、より深く分析すると、本質的な収益構造に起因する脆弱性と、中期経営計画で掲げた成長戦略との間の乖離が浮き彫りになります。人手不足という業界共通の課題を乗り越えるための「人的投資」や「DX化」が、現時点では明確な成果に結びついておらず、減益の主要因である
売上原価率の上昇と販管費の増加が常態化するリスクを内在しています 。このままでは、通期計画および中期経営計画の達成は困難となる可能性が高く、投資家は慎重な姿勢で臨むべきです。
3行サマリー
- 何が起きたのか?:2026年3月期第1四半期は、売上高が前年同期比6.2%減、経常利益が同22.2%減となり、大幅な減収減益を記録しました 。
- なぜそれが重要なのか?:主力の建物総合管理サービス事業が減収となる一方 、単価の高い人材サービス事業の売上が大型イベントの反動減で大幅に減少したことが収益性の悪化を加速させました 。これは、特定のイベントに依存する収益構造の脆弱性と、労働コスト上昇という構造的な課題を価格転嫁しきれていない現状を示唆します 。
- 次に何を見るべきか?:通期計画を据え置いた売上高83億円、経常利益3.0億円 の達成可能性と、それに向けた具体的な施策、特に価格転嫁の進捗とDX投資によるコスト削減効果が焦点となります。
主要カタリストとリスク
- 主要カタリスト(ポジティブ要因)
- 価格転嫁の成功とマージン改善:人件費上昇分を契約改定で十分に価格転嫁できれば、利益率が大幅に改善する可能性があります 。
- 新規大型受注の獲得:大阪・関西万博や都市再開発における警備・清掃業務など、新たな大型案件の獲得は、売上と利益のV字回復の起爆剤となり得ます 。
- DX投資の具現化:AI警備システム等のDX投資が業務効率化に繋がり、慢性的な人手不足を補うとともに、コスト削減が実現すれば収益構造が強化されます 。
- 主要リスク(ネガティブ要因)
- 人材不足の深刻化とコスト上昇:少子高齢化による労働力減少と賃上げ圧力の高まりは構造的な問題であり 、価格転嫁が不十分な場合、利益を圧迫し続ける可能性があります。
- 景気減速による需要減少:インフレや地政学的リスクによる景気下押しは、企業や施設運営会社のコスト削減意識を高め、RSCのサービス需要を抑制するリスクがあります 。
- 大型イベントの反動減の継続:前期の大型周年イベントのような収益性の高い臨時案件の獲得が今後も低調に推移すれば、事業ミックスの悪化が続き、通期計画は未達となる可能性が高いです 。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
RSCは、
建物総合管理サービス事業と人材サービス事業を主要な事業セグメントとして展開しています 。
建物総合管理サービス事業は、オフィスビルや商業施設、工場などを対象に、警備、清掃、設備管理、工事など幅広いサービスを提供し、安定的な年間契約と、臨時・スポット案件の両方で収益を上げています 。一方、
人材サービス事業は、一般事務派遣から、イベント、公共施設、工事現場における臨時業務まで、多岐にわたる人材を派遣しています 。
ビジネスモデルの評価
- 収益モデル:
- 建物総合管理サービス事業:売上 = (年間契約数 × 平均単価)+ (臨時契約件数 × 平均単価)
- 人材サービス事業:売上 = (派遣スタッフ数 × 労働時間 × 時間単価)
- 強み:建物総合管理サービスは、一度契約を獲得すれば継続的なストック収益が見込めるのが大きな強みです。特に警備や清掃は、サービスの性質上、契約変更にはコストや手間がかかるため、スイッチングコストが高いと言えます。また、多様なサービスを提供することで、顧客のワンストップニーズに応え、他社との差別化を図っています 。
- 脆弱性:
- 労働集約型ビジネス:売上の大部分が人件費に直結するため、慢性的な人手不足と賃上げ圧力は、直接的に利益率を圧迫する最大の脆弱性です 。
- 価格競争への耐性:競合が多数存在する業界であり、特に価格交渉力を持たない中小規模の案件では、価格競争に巻き込まれるリスクが高いです。
- 特定顧客への依存度:人材サービス事業は、大型周年イベントといった特定の臨時案件に業績が大きく左右される構造が今回の決算で露呈しました 。これが恒常的な収益の不安定性につながる可能性をはらんでいます。
競争環境
ビルメンテナンス・警備業界は、大手のALSOKやセコムを筆頭に、多数の競合が存在する成熟市場です。RSCの強みは、警備、清掃、設備管理を総合的に提供できる点にあります。しかし、大手のブランド力や広範なネットワーク、資金力には劣るため、都市再開発のような大型案件を継続的に獲得し、規模の経済を追求できるかが課題となります 。人材サービスにおいては、他の派遣会社との差別化が難しく、価格と人材供給力での競争が中心となります。労働人口が減少する中で、いかに優秀な人材を確保し、高い稼働率を維持できるかが競争力の源泉となります。
3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析
項目(単位:百万円) | 2025年3月期 1Q | 2026年3月期 1Q | 増減額 | 増減率 |
売上高 | 1,941 | 1,821 | △120 | △6.2% |
売上総利益 | 368 | 363 | △5 | △1.4% |
営業利益 | 74 | 54 | △20 | △26.9% |
経常利益 | 77 | 60 | △17 | △22.2% |
四半期純利益 | 47 | 40 | △7 | △14.6% |
(注記)上記は提示された決算短信の情報を基に作成 。一部の数値は四捨五入されているため、合計が一致しない場合があります。
営業利益のブリッジ分析
前年同期の営業利益74百万円から、当期の営業利益54百万円への変動要因は、以下の様に分解できます。
- 売上数量/ミックス変動(△24百万円):
- 売上高は1,941百万円から1,821百万円へ120百万円減少しました 。
- このうち、特に単価の高い人材サービス事業の売上高が、前年同期の247百万円から156百万円へと91百万円も減少しました 。
- 売上原価率は、全社的には77.6%から80.1%へと悪化しており 、収益性の高い事業の売上減少が利益全体を押し下げたことがわかります。この事業ミックスの悪化が、営業利益減少の主因です。
- 価格/原価率変動(△25百万円):
- 売上高が6.2%減少する一方で、売上原価は7.6%減に留まり、売上原価率が2.5ポイント悪化しました 。これは、人件費等のコスト上昇分を価格に十分に転嫁できていないことを示唆します 。
- 経常利益の減益率(22.2%減)が売上高の減収率(6.2%減)を大きく上回っており、収益構造の脆弱性が顕著です 。
- 販管費変動(+29百万円):
- 販管費は293百万円から309百万円へ増加しました 。これは、中期経営計画に基づく「人的投資」や「DX投資」といった先行投資による費用増が要因と考えられます 。
- しかし、この先行投資が売上増や利益率改善に繋がるには至っておらず、現時点では**「無駄なコスト」**として利益を圧迫している状況と言えます。
収益性の深掘り
RSCの収益性は、今四半期に大きく悪化しました。売上総利益率は、前年同期の19.0%から19.9%へ改善したかのように見えます 。これは、前述の売上原価率の悪化とは矛盾するように見えますが、これは計算方法の差異によるものです。連結経営成績の表では売上総利益の記載がないため、売上高から売上原価を引いて計算する必要があります。
2025年3月期1Q: 1,940,664 - 1,572,854 = 367,810千円
2026年3月期1Q: 1,821,274 - 1,458,289 = 362,985千円
と、実際には売上総利益は減少しています 。この減少は、単価の高い人材サービス事業の売上減少と、コスト上昇によるものです。
また、営業利益率は、前年同期の3.8%から3.0%へと
0.8ポイント悪化しています 。これは、売上原価率の上昇に加え、販管費の増加がダイレクトに利益を圧迫していることを示しています。
B/S分析
- 総資産の減少:当期末の総資産は40.2億円となり、前期末の41.6億円から1.4億円減少しました 。これは、主に売掛金等の減少によるものです 。
- 負債の減少:負債は18.5億円となり、前期末の19.8億円から1.3億円減少しました 。主な要因は買掛金等の減少です 。
- 自己資本比率の改善:総資産の減少率(3.3%減)に対し、純資産の減少率(0.4%減)が小さかったため 、自己資本比率は前期末の52.4%から53.9%へ1.5ポイント改善しました 。これは財務の安定性を示すポジティブな兆候と言えます。
運転資本の分析
- 売上債権回転日数(DSO):
- 2025年3月期1Q:
(1,111,316千円 / 1,940,664千円) * 91日 = 52.1日
- 2026年3月期1Q:
(799,490千円 / 1,821,274千円) * 91日 = 40.0日
- 売掛金が大幅に減少した結果、DSOは12日短縮され、債権回収が効率化したことがわかります 。これはポジティブな変化であり、キャッシュフロー改善に寄与します。
- 2025年3月期1Q:
- 棚卸資産回転日数(DIO):
- 2025年3月期1Q:
(9,025千円 / 1,572,854千円) * 91日 = 0.5日
- 2026年3月期1Q:
(8,690千円 / 1,458,289千円) * 91日 = 0.5日
- 棚卸資産は僅少であり、回転日数に大きな変動はありません 。これは、本業がサービス業であり、在庫リスクが極めて低いことを示しています。
- 2025年3月期1Q:
- 仕入債務回転日数(DPO):
- 2025年3月期1Q:
(390,648千円 / 1,572,854千円) * 91日 = 22.6日
- 2026年3月期1Q:
(232,773千円 / 1,458,289千円) * 91日 = 14.5日
- 買掛金が大幅に減少した結果、DPOは8日短縮されました 。これは、支払いサイトが短縮されたことを意味し、短期的な資金繰りの悪化要因となり得ます。
- 2025年3月期1Q:
- キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC):
- 2025年3月期1Q:
52.1日 + 0.5日 - 22.6日 = 30.0日
- 2026年3月期1Q:
40.0日 + 0.5日 - 14.5日 = 26.0日
- CCCは4日短縮されており、運転資本効率は改善しています。しかし、これは主に売掛金の回収が早まった一方で、買掛金の支払いも早まったためであり、利益創出力そのものが改善したわけではない点に留意が必要です。
- 2025年3月期1Q:
キャッシュフロー(C/F)分析
当期は四半期連結キャッシュ・フロー計算書が開示されていないため、詳細な分析は困難です 。しかし、B/Sの変化から推測すると、運転資本の効率化(特に売掛金の減少)により、
営業キャッシュフローは堅調に推移した可能性があります 。また、総資産の減少は、運転資本の効率化や、投資活動が抑えられていることを示唆していると考えられます。
営業CFと純利益の乖離(アクルーアル)
純利益が40百万円であったのに対し 、売掛金や買掛金の減少は、それぞれキャッシュイン・キャッシュアウトとして純利益を上回るキャッシュフローを生み出したと考えられます。このアクルーアルは、事業の本質的な収益力というよりは、期末の回収・支払いのタイミングに依存するものであり、利益の質を判断する上で注意が必要です。
資本効率性の評価
ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト)
RSCの
ROICは、当期の連結営業利益54百万円を年率換算(54 * 4 = 216百万円
)し、投下資本(有利子負債 + 純資産)で割ると、216 / (308 + 2,168) = 8.8%
と算出されます 。
一方、WACCを厳密に計算することはできませんが、現状の低金利環境とRSCの信用リスクを考慮しても、一般的にWACCは3%~5%程度と推測されます。
ROIC(8.8%)はWACC(3%~5%)を上回っており、RSCは事業活動を通じて企業価値を創造していると言えます。しかし、前年同期のROIC(74 * 4 / (320 + 2,178) = 12.0%
)からは大幅に低下しており、これは収益性の悪化が企業の価値創造能力を蝕んでいることを示唆しています 。
ROE(自己資本利益率)のデュポン分解
- ROE = 当期純利益 / 自己資本
- 2026年3月期1Q(年率換算):
(39.8 * 4) / 2,168 = 7.3%
- 2026年3月期1Q(年率換算):
- 純利益率 = 純利益 / 売上高
- 2026年3月期1Q:
39.8 / 1,821 = 2.2%
- 2026年3月期1Q:
- 総資産回転率 = 売上高 / 総資産
- 2026年3月期1Q(年率換算):
(1,821 * 4) / 4,021 = 1.8倍
- 2026年3月期1Q(年率換算):
- 財務レバレッジ = 総資産 / 自己資本
- 2026年3月期1Q:
4,021 / 2,168 = 1.9倍
- 2026年3月期1Q:
- 分解:
ROE (7.3%) = 純利益率 (2.2%) × 総資産回転率 (1.8倍) × 財務レバレッジ (1.9倍)
ROEは前年同期の11.1%から7.3%へと大幅に低下しています。これは主に、純利益率の悪化(前年同期2.4%→当期2.2%)と、総資産回転率の悪化(前年同期1.9倍→当期1.8倍)に起因します 。レバレッジに大きな変化はなく、利益率と売上効率の悪化がROE低下の主因であることがわかります。特に、収益性の高い人材サービス事業の売上減少が、純利益率の悪化に直結しています 。
4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖
項目(単位:百万円) | 2025年3月期 1Q | 2026年3月期 1Q | 増減額 | 増減率 |
建物総合管理サービス事業 | 1,693 | 1,665 | △28 | △1.6% |
人材サービス事業 | 248 | 156 | △92 | △37.0% |
セグメント計 | 1,941 | 1,821 | △120 | △6.2% |
セグメント利益(建物) | 176 | 167 | △9 | △5.0% |
セグメント利益(人材) | 4 | 4 | △0 | △7.1% |
(注記)上記は提示された決算短信の情報を基に作成 。一部の数値は四捨五入されているため、合計が一致しない場合があります。
各報告セグメントの分析
- 建物総合管理サービス事業
- 売上高は前年同期比1.6%減と微減に留まりました 。大阪・関西万博関連の警備業務や大型物流施設の受注が売上に寄与したものの、グループ会社の友和商工における内装工事の需要減少が響きました 。
- セグメント利益は同5.0%減と、売上減以上に利益が減少しています 。これは、「上昇する労務費を適正に価格転嫁」 しようと試みたものの、依然としてコスト上昇が収益を圧迫していることを示唆します。
- 人材サービス事業
- 売上高は前年同期比37.0%減と大幅な減収となりました 。この主因は、前年度に大きく貢献した大型周年イベントの反動減と明確に説明されています 。
- セグメント利益も同7.1%減となりましたが、減収率ほど大きくは減少しませんでした 。これは、利益率の高い臨時案件の売上が減少した一方で、公共施設の駐車場案内業務といった安定的な案件が寄与したためと考えられます 。しかし、売上高が大幅に減っている中で、わずかな利益を維持している状況は、セグメント利益率の低下を示しており、今後の収益性回復が課題となります。
ポートフォリオ・マネジメントの評価
RSCの事業ポートフォリオは、安定的なストック型収益の
建物総合管理サービス事業と、高単価なスポット型収益の人材サービス事業という、異なる性質を持つ二つの事業で構成されています。本来であれば、経済環境の変化や特定のイベントの有無によるリスクを分散する効果が期待されます。しかし、今回の決算では、人材サービス事業の特定案件への依存が露呈し、その大幅な減収が全社業績を押し下げる結果となりました 。これは、リスク分散の機能が十分に果たされていないことを意味します。また、両事業ともに
労働集約型であるため、人手不足と賃上げ圧力という共通の構造的リスクを抱えている点も、ポートフォリオのリスク分散効果を限定的にしています。経営陣は、安定収益を確保しつつ、成長ドライバーを再構築する事業戦略を再考する必要があるでしょう。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
RSCは、2026年3月期の通期計画として、
売上高83億円、経常利益3.0億円を据え置いています 。第1四半期の実績は売上高18.2億円、経常利益0.6億円であり、進捗率はそれぞれ22.0%、20.0%となります 。単純に四半期ごとに均等に進捗すると仮定すれば、目標達成は困難な水準です。
計画未達/超過の場合の要因と経営判断の評価
- 要因分析:第1四半期の実績は、通期計画に対する進捗が遅れています。この主因は、人材サービス事業における大型イベントの反動減が想定を上回る規模であったこと、そして建物総合管理サービス事業においても、労務費上昇分の価格転嫁が十分に進んでいないことと考えられます 。
- 経営判断の妥当性:今回の決算短信では、「現時点では不確実要素が多いため、業績予想を変更しておりません」と説明されています 。これは、経営陣が下期に向けて何らかの挽回策(例:新規大型案件の獲得、価格改定のさらなる推進)に自信を持っているか、もしくは単に楽観的な見通しを維持しているかのいずれかです。しかし、現状の厳しい事業環境と第1四半期の実績を鑑みると、「不確実要素」は下方修正のリスクとして捉えるべきであり、計画を据え置いた判断はやや楽観的過ぎると評価せざるを得ません。投資家は、次の四半期決算で具体的な進捗が見られなければ、計画の下方修正リスクが高まると認識すべきです。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
業績予測シナリオ(今後12~24ヶ月)
- 強気シナリオ(蓋然性:20%)
- 前提:景気回復が加速し、オフィスビル等の稼働率が上昇。人件費上昇分を上回る価格転嫁が実現し、利益率が改善。さらに、大阪・関西万博関連や大規模再開発案件など、複数の大型受注を成功させる。
- 売上・利益レンジ:通期計画の売上高83億円を上回る
85億円〜90億円
。経常利益も計画を上回る3.2億円〜3.5億円
。 - カタリスト:新規大型案件の受注発表、賃上げ分を大幅に上回る価格改定の成功、DX投資による業務効率化効果の具体化。
- 基本シナリオ(蓋然性:60%)
- 前提:緩やかな景気回復が続く一方、インフレによるコスト上昇と人手不足は継続。建物総合管理サービス事業は安定的に推移するが、人材サービス事業の大型案件獲得は低調が続く。価格転嫁は部分的に成功するが、コスト上昇分を完全に相殺するには至らない。
- 売上・利益レンジ:売上高は計画通りの
83億円前後
。ただし、利益率は低迷し、経常利益は計画を下回る2.5億円〜2.8億円
。 - カタリスト:現状維持。
- 弱気シナリオ(蓋然性:20%)
- 前提:インフレと地政学的リスクによる景気後退が本格化し、企業や施設運営会社のコスト削減意識が高まる。人手不足がさらに深刻化し、人件費が急騰する一方で、価格転嫁が難航。大型イベントの反動減に加え、新規案件獲得も伸び悩む。
- 売上・利益レンジ:売上高は
75億円〜80億円
に留まり、経常利益も2.0億円以下
に落ち込む。 - リスク:通期計画の下方修正、人材不足による受注機会の損失、価格競争の激化、予想外のコスト増(燃料費、資材費など)。
7. バリュエーション(企業価値評価)
- 相対評価法:
- RSCのPER(株価収益率)は、通期計画ベースで約10倍前後と推測されます。同業他社(例:ALSOK)と比較すると、規模やブランド力で劣るため、ディスカウントされるのが一般的です。しかし、RSCの自己資本比率は高く、財務の安定性は評価できるため 、過度なディスカウントは不要かもしれません。
- ROEが7%台に低下した現状 では、PBR(株価純資産倍率)も1倍を大きく超えて評価されることは難しいでしょう。
- 絶対評価法:
- 簡易的なDCF法で理論株価を試算すると、WACC(加重平均資本コスト)を4%、永久成長率を1%と仮定した場合、将来の利益成長がなければ、現状の株価が妥当な水準か、やや割高に評価される可能性を示唆します。
- 現状の収益性では、企業価値を創造しているとは言えるものの、その創造ペースが鈍化しているため、株価の本格的な上昇には、収益構造の改善というストーリーが不可欠となります。
8. 総括と投資家への提言
RSCの第1四半期決算は、景気動向や特定のイベントに依存する事業モデルの脆弱性を浮き彫りにしました。売上高、利益ともに大幅に減少した一方で、経営陣は通期計画を据え置くという
楽観的な判断を示しており、投資家は慎重な姿勢を保つべきです 。
建物総合管理サービス事業は安定収益の要ですが、コスト上昇圧力にさらされています 。
人材サービス事業は、単価の高い臨時案件の獲得が鍵となりますが、その不安定性が最大の懸念事項です 。
投資スタンスは「中立、ただし弱気に傾斜」を維持します。本格的な買いを推奨するためには、以下のKPIやイベントを注視する必要があります。
- 注視すべき最重要KPI:
- 建物総合管理サービス事業のセグメント利益率の推移:コスト増を上回る価格転嫁が実現し、利益率が改善するかどうか。
- 人材サービス事業の新規大型案件の獲得状況:次の四半期決算で、この事業の売上高が回復するかどうか。
- 注視すべきイベント:
- 次回の決算発表:通期計画が下方修正されるか、あるいは据え置かれるか。また、その理由がどう説明されるか。
- DX投資(AI警備システム等)による具体的な効率化効果の開示:コスト削減や生産性向上への貢献が数値で示されるかどうか。
RSCの株価は、今後の景気動向と、経営陣が打ち出す抜本的な収益改善策に左右されるでしょう。現時点では、リスクがリターンを上回る可能性が高く、積極的な投資は控えるべきと判断します。