MENU

株式会社Welby (4438) 2025年12月期 第2四半期決算徹底分析:変革期を乗り越え、PHR市場の覇者となるか?


目次

1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス:中立、確信度:70%

株式会社Welbyの2025年12月期第2四半期決算は、売上高が大幅に成長した一方で、引き続き先行投資による赤字が継続しているという、成長フェーズ特有のダイナミズムを示しています。特に、Welbyマイカルテサービスが前年同期比で574.7%という驚異的な売上増を記録し、メディカルデータカード社の買収効果とPHRプラットフォーム事業の本格的な収益化が始まったことが示されました 。しかしながら、疾患ソリューションサービスが減収となったこと や、先行投資による赤字の拡大 は、事業ポートフォリオの安定性および利益創出までの時間軸に不確実性を残しています。

3行サマリー:

  • 何が起きたのか: Welbyマイカルテサービスが急成長を牽引し、売上高は前年同期比55.3%増を達成 。しかし、先行投資の継続により営業損失が拡大し、赤字幅は前年同期から縮小したものの依然として大きな規模にある 。
  • なぜそれが重要なのか: 新規事業であるWelbyマイカルテサービスとPHRプラットフォームの収益化が加速しており、同社が目指すPHRエコシステム構築に向けた成長戦略が具体的な成果を伴い始めたことを示唆します。これは、将来的な収益性の改善に向けた重要な転換点です。
  • 次に何を見るべきか: 疾患ソリューションサービスの売上回復トレンドと、PHRプラットフォームへの継続的な開発投資が、いつ、どのようにして全社的な黒字化に繋がるのかを注視する必要があります。特に、通期業績予想で示された売上目標の達成に向けた下期以降の具体的な進捗が焦点となります。

主要カタリストとリスク:

ポジティブ・カタリスト:

  1. 大型案件の獲得と収益化: PHRプラットフォームの基盤提供において、大手企業や自治体との大型契約が実現し、売上パイプラインが大幅に拡充されること。
  2. Welbyマイカルテサービスの想定を超える普及: 医療機関登録数やアプリダウンロード数の増加が加速し、収益化モデルが確立することで、先行投資の効果が早期に具現化すること。
  3. 効率的な開発投資による収益性改善: PHRプラットフォームへの継続的な投資が、関連プロダクトの売上総利益率をさらに向上させ、計画よりも早期に利益率の改善が実現すること。

ネガティブ・リスク:

  1. 疾患ソリューションサービスの回復遅延: 既存事業である疾患ソリューションの売上減が継続し、全社の売上成長を鈍化させること。
  2. 先行投資の長期化と追加資金調達の可能性: 想定以上にPHRプラットフォームの収益化に時間がかかり、赤字が拡大し続けることで、新たな資金調達が必要となるリスク。
  3. PHR市場の競争激化: 大手企業や新規参入企業との競争が激化し、サービス単価の下落や顧客獲得コストの増加を招き、収益性が圧迫されるリスク。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

株式会社Welbyは、「Empower the Patients」をミッションに掲げ、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)プラットフォームサービスの提供を主たる事業としています 。同社のビジネスは、大きく以下の2つのセグメントで構成されます。ただし、決算短信上は「PHRプラットフォーム事業の単一セグメント」として報告されています

  1. 疾患ソリューションサービス: 製薬企業や医療機器メーカー向けに、特定の疾患領域に特化したPHRサービスをカスタマイズして提供する事業です。収益モデルは主にプロジェクト単位での開発・改修費用と、サービス運営に伴う月額費用の組み合わせです。売上は売上 = (案件数 × プロジェクト単価) + (契約数 × 月額利用料)と分解できます。このモデルの強みは、製薬企業との強固な関係性による継続的な案件受注と、高い専門性による価格競争からの耐性です。一方で、大型案件の受注タイミングに売上が依存しやすく、四半期ごとの売上変動が大きくなる脆弱性があります 。
  2. Welbyマイカルテサービス: 患者個人が自らの健康・医療情報を管理するための汎用的なPHRサービスです。収益モデルは、医療機関や保険者、生命保険会社など、多岐にわたるステークホルダーへの基盤提供費用や利用料、そしてデータ連携や新機能開発に伴う開発費用が主な収益源となります 。売上は売上 = (顧客数 × 基盤利用料) + (開発案件数 × 開発費用)と分解できます。このモデルの強みは、一度基盤を導入すれば高いスイッチングコストが発生し、継続的な収益が見込める点です。また、多様なプレイヤーとのアライアンスを通じて市場を拡大する高い拡張性を有します。しかし、市場浸透には時間がかかり、特に大型案件は受注までのリードタイムが長期化する脆弱性を抱えています 。

競争環境: PHR市場は成長途上にあり、競争は激化しています。主要な競合としては、エムスリー、メドレー、CureAppなどが挙げられます。

  • エムスリー: 医師向けプラットフォームで圧倒的なシェアを誇り、医師との強固なネットワークを武器にPHRサービスへの展開を進めています。Welbyとの違いは、エムスリーが「医師」を起点としているのに対し、Welbyは「患者」を起点としている点です。
  • メドレー: 医療機関向けクラウドサービス(CLINICSなど)を主力とし、医療DX全般を幅広くカバーしています。Welbyと競合する領域もありますが、Welbyはより「疾患」に特化したソリューションに強みを持っています。
  • CureApp: 治療用アプリ(DTx)に特化しており、疾患管理の側面で競合します。Welbyはより広範なPHRデータプラットフォームを提供するのに対し、CureAppは特定の治療行為に特化しています。

Welbyの相対的な強みは、PHRサービスの先駆者として築き上げた製薬企業との強固なリレーションと、疾患領域横断型のPHRプラットフォーム構築能力にあります 。一方で、これらの競合他社と比較して、サービス単体での圧倒的な市場シェアやブランド認知度には課題が残ります。特に、Welbyマイカルテの普及には、他社とのアライアンスを最大限に活用し、いかに「業界標準」としての地位を確立できるかが鍵となります


3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析

項目2025年12月期 1Q累計 2025年12月期 2Q累計 前年同期比 1Q 前年同期比 2Q
売上高120百万円287百万円+17.1%+55.3%
売上総利益84百万円200百万円+19.4%+59.4%
営業損失△161百万円△249百万円△25.8%*△18.7%*
経常損失△161百万円△250百万円△25.4%*△18.7%*
親会社株主に帰属する四半期純損失△167百万円△243百万円△32.1%*△19.7%*
*注:損失額の前年同期比増減率。プラスは損失拡大、マイナスは損失縮小。

営業利益のブリッジ分析(2Q累計):

  • 前年同期営業損失:△307百万円
  • ①売上数量/ミックス変動: 売上高が185百万円から287百万円へ102百万円増加 。売上総利益率が67.7%(125/185)から69.5%(200/287)へ1.8pt改善 。売上増による利益押し上げ効果は、102百万円 × 69.5% = +70.9百万円と推計。
  • ②価格/原価率変動: 売上総利益率が改善した要因は、PHRプラットフォームの基盤提供の売上構成比率が上昇したことによるものと推測される 。これは、開発コストの効率化が進んでいることを示唆しており、将来の利益率改善に期待が持てる。
  • ③販管費変動: 販売費及び一般管理費は、432百万円から449百万円へ17百万円増加 。これは、メディカルデータカード社の子会社化に伴うコスト増と、事業拡大のための開発投資が継続しているため 。
  • 当期営業損失:△249百万円
  • 結論: 売上増加による利益改善効果(約+70.9百万円)が、販管費増加(+17百万円)を上回り、結果として営業損失は58百万円改善しました。これは、売上成長が利益改善に繋がり始めていることを明確に示しています。しかし、先行投資額が引き続き大きく(2Q累計で82百万円)、事業規模拡大に伴う販管費増加が利益を圧迫している構図は変わっていません 。

B/S分析

項目2024年12月期末 2025年12月期2Q末 差額(千円)
総資産1,167,243966,271△200,972
流動資産合計973,295715,020△258,275
現金及び預金740,426567,830△172,596
売掛金182,930122,116△60,814
固定資産合計193,947251,250+57,303
無形固定資産合計122,602175,577+52,975
負債合計328,903365,434+36,531
純資産合計838,339600,836△237,503
自己資本比率65.1%53.4%△11.7pt

運転資本の分析(CCC):

  • 売上債権回転日数 (DSO):売上債権 / (売上高 / 365)
    • 2024年12月期:182,930 / (528,000 / 365) = 126.5日
    • 2025年12月期2Q:122,116 / (287,806 / 181*) = 76.9日
    • *注: 2025年1月1日から6月30日までの日数
  • 棚卸資産回転日数 (DIO):棚卸資産 / (売上原価 / 365)
    • 2024年12月期:7,756 / (358,000 / 365) = 7.9日
    • 2025年12月期2Q:6,719 / (87,723 / 181) = 13.9日
  • 仕入債務回転日数 (DPO):仕入債務 / (売上原価 / 365)
    • 2024年12月期:28,793 / (358,000 / 365) = 29.3日
    • 2025年12月期2Q:25,621 / (87,723 / 181) = 53.0日
  • CCC (キャッシュ・コンバージョン・サイクル):DSO + DIO - DPO
    • 2024年12月期:126.5 + 7.9 - 29.3 = 105.1日
    • 2025年12月期2Q:76.9 + 13.9 - 53.0 = 37.8日

考察: DSOが大幅に短縮され、DPOが大幅に延長したことにより、CCCは大幅に改善しています。これは、売掛金の早期回収と買掛金の支払いサイト延長に成功し、運転資金の効率が飛躍的に向上したことを意味します。この改善は、マイカルテサービスの収益化モデルの変化や、メディカルデータカード社の子会社化による財務プロセスの最適化が寄与している可能性が高いです。また、棚卸資産(仕掛品)の回転日数は微増していますが、ソフトウェア開発というビジネスモデル上、在庫の陳腐化リスクは低いと判断できます。CCCの改善は、手元資金の減少幅を抑える効果があり、キャッシュフローの観点から非常にポジティブな兆候です。

キャッシュフロー(C/F)分析

決算短信には四半期連結キャッシュ・フロー計算書が記載されていませんが 、B/Sの変化から推測します。

  • 営業CF: 純損失が243百万円 であるにもかかわらず、現金及び預金は172百万円減少 しており、その差額から営業キャッシュアウトは純損失より小さいと推測されます。これは、減価償却費や棚卸資産の増加、買掛金の増加などが現金流出を緩和したためと考えられます。しかし、依然として赤字事業であり、本業でのキャッシュ創出力はまだ低い状態です。
  • 投資CF: 無形固定資産(のれん、その他)が52百万円増加していることから 、継続的な開発投資やM&A投資が行われたと推測されます。
  • 財務CF: 1年内返済予定の長期借入金が17百万円増加 、長期借入金が17百万円増加 していることから、新たな借入による資金調達が行われたと推測されます。

資本効率性の評価

ROICとWACCの評価: 2025年12月期第2四半期累計の連結営業利益は△249百万円と赤字であるため、

ROICは負の値となり、WACCを大幅に下回っている状況です。これは、現時点では投下資本に対して利益を創出できておらず、企業価値を毀損している状態を示しています。しかし、これは事業成長のための先行投資フェーズであるため、一時的な現象と捉えるべきです。重要なのは、今後の売上成長と利益率改善によって、いかに早期にROICがWACCを上回る水準にまで改善できるか、という点です。通期予想で示された営業利益△86百万円が達成されれば、ROICの改善は着実に進むことになります

ROEのデュポン分解:

  • 純利益率: 営業損失のためマイナス
  • 総資産回転率: 売上高 / 総資産 -> 287,806 / 966,271 = 0.30回
  • 財務レバレッジ: 総資産 / 自己資本 -> 966,271 / 600,836 = 1.61倍

売上成長に伴い総資産回転率は向上していますが、純利益がマイナスであるためROEもマイナスです。純利益率がROEの改善を阻害する最大の要因です。今後の成長シナリオでは、売上成長を継続しながら、先行投資の効果が顕在化し、黒字化フェーズに移行することで、ROEが本格的に改善していくことが期待されます。


4. セグメント情報の徹底解剖

決算短信では単一セグメントでの開示ですが、事業内容の記述から、疾患ソリューションサービスとWelbyマイカルテサービスの状況を読み解きます。

  • 疾患ソリューションサービス: 2025年12月期中間期の売上高は134,706千円で、前年同期比17.2%減収となりました 。これは、前年同期に大型案件の計上があったことの反動が主な要因です 。しかし、製薬業界全体のDX需要は継続しており、売上パイプラインの拡充に向けた取り組みは継続していると説明されています 。このことから、売上は一時的な要因によるものであり、下期以降の大型案件受注が実現すれば、回復基調に戻る可能性があります。しかし、売上減の要因が「大型案件の計上タイミング」という、いわばコントロールが難しい外部要因に起因している点はリスクとして捉えるべきです。
  • Welbyマイカルテサービス: 2025年12月期中間期の売上高は153,100千円で、前年同期比574.7%という驚異的な増収を達成しました 。これは、メディカルデータカード社の子会社化による売上計上と、PHRプラットフォームの要件定義・開発による収益化が本格的に始まったことが要因です 。特に注目すべきは、この成長が既存事業の売上減を補って余りある勢いを持っている点です。このサービスは、保険者や新規参入企業など、幅広い顧客層からの需要が高まっており、今後の成長ドライバーとして極めて重要な役割を担うと評価できます 。また、Welbyマイカルテのフルリニューアルや、Welby PHR & Data Portability Platform(WPDP)の活用によるデータ基盤の強化は、サービスの本質的な競争優位性を高めるための重要な先行投資です 。

ポートフォリオ・マネジメントの評価: 経営陣は、既存事業(疾患ソリューション)の売上がプロジェクトのタイミングに左右される脆弱性を認識し、Welbyマイカルテサービスを新たな柱として育てる戦略を着実に実行しています。今回の決算は、この戦略が機能し始めていることを証明するものです。疾患ソリューションが安定した収益基盤として機能し、Welbyマイカルテが成長エンジンとして牽引する、という理想的な事業ポートフォリオの構築に向けた道筋が見えてきました。ただし、現状ではまだ成長エンジンが赤字を創出している段階であり、ポートフォリオ全体のリスク分散は十分とは言えません。


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

同社は、2025年12月期通期業績予想として、売上高1,152百万円(前期比118.1%増)、営業利益△86百万円(前期比86.8%減*)を掲げています

*注:減は損失額の縮小。

  • 売上高: 中間期累計で売上高287百万円 であり、通期目標の1,152百万円に対して進捗率はわずか約25%です。これは、同社のビジネスモデルが第4四半期に売上が集中する季節性を持つため、計画自体は妥当な水準と考えられます 。しかし、疾患ソリューションサービスの回復と、Welbyマイカルテにおける大型案件の収益化が下期に集中する計画であることを意味します。経営陣の需要予測能力と実行力が、下期に試されることになります。
  • 営業利益: 中間期累計で営業損失△249百万円 であり、通期目標の営業損失△86百万円に対して、すでに目標を大幅に超過しています。これは、下期に大幅な売上増加と利益率改善がなければ、通期目標の達成は極めて困難であることを示唆します。経営陣は、下期に売上成長を加速させるとともに、開発効率化による売上総利益率の向上に努めると説明しています 。この計画は極めて挑戦的であり、不確実性が高いと評価せざるを得ません。

経営陣の評価: 経営陣は、通期予想を据え置いたことについて、非常に自信を持っているか、あるいは市場との対話を維持するために安易な下方修正を避けたと解釈できます。前者の場合は、下期にすでに確定している大型案件が存在する可能性を示唆します。後者の場合は、今後の業績変動リスクが高いことを意味します。プロの機関投資家としては、楽観視はせず、下期以降の進捗状況を慎重に監視する必要があります。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

将来シナリオ (今後12~24ヶ月)

強気シナリオ:

  • 前提条件: 製薬企業向け大型案件の受注が順調に進み、疾患ソリューションサービスが回復。Welbyマイカルテも大手企業や自治体との大型契約を複数獲得し、収益化が加速。開発効率化により売上総利益率がさらに改善。マクロ経済は安定し、為替レートも円安基調を維持。
  • 売上・利益予測レンジ: 売上高は通期目標を上回り1,200~1,300百万円、営業利益は計画通りに赤字が縮小し、通期△50~△80百万円。2026年には黒字化の可能性も。
  • カタリスト:
    • 製薬企業との新たな大型協業案件の発表。
    • Welbyマイカルテの新たな大手顧客(保険会社、健保組合など)の獲得。
    • 政府のマイナポータル連携等、PHR関連の規制緩和や政策推進。

基本シナリオ:

  • 前提条件: 疾患ソリューションサービスの売上は緩やかに回復するものの、大型案件の計上時期は依然として不透明。Welbyマイカルテは着実に顧客を増やし、売上は成長するが、先行投資が計画通り継続するため、損益分岐点を超えるには至らない。
  • 売上・利益予測レンジ: 売上高は通期目標に近い1,050~1,150百万円。営業利益は通期目標をわずかに下回り、△90~△120百万円。2026年も引き続き先行投資による赤字が継続する可能性が高い。
  • カタリスト:
    • Welbyマイカルテの医療機関登録数・アプリダウンロード数の堅調な増加。
    • 中部電力やNTTドコモとの協業における具体的な成果発表。
  • リスク:
    • 疾患ソリューションサービスでの大型案件失注。
    • Welbyマイカルテの顧客獲得ペースの鈍化。

弱気シナリオ:

  • 前提条件: 疾患ソリューションサービスの売上回復が滞り、前年割れが継続。Welbyマイカルテも競合との価格競争に巻き込まれ、顧客獲得コストが増加。開発投資の効果が限定的で、利益率が改善しない。マクロ経済の悪化や医療費削減の圧力が高まる。
  • 売上・利益予測レンジ: 売上高は1,000百万円を下回り、950~1,000百万円。営業利益は赤字が拡大し、△150~△200百万円。
  • カタリスト:
    • 特にない。
  • リスク:
    • 既存顧客の解約や他社サービスへの乗り換え。
    • 先行投資の継続に伴う資金繰り懸念の表面化。

7. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法

Welbyは依然として営業損失を計上しているため、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった伝統的な指標での評価は困難です。ここでは、類似企業としてメドレー(9265)、エムスリー(2413)を比較対象とします。

  • EV/EBITDA: Welbyは赤字であり、EBITDAもマイナスのためこの指標も適用できません。
  • PSR(株価売上高倍率): Welbyの時価総額が約35億円(2025年8月時点と仮定)、通期売上予想が11.5億円とすると、PSR = 35 / 11.5 = 3.0倍程度となります。一方、メドレーやエムスリーのPSRは、成長期待や利益率の高さを反映し、一般的に10倍を超える水準にあります。
  • 考察: WelbyのPSRは、成長性が高いスタートアップ企業としては比較的低い水準にあります。これは、継続的な赤字と先行投資に対する市場の懸念、そしてビジネスモデルの不確実性が株価に織り込まれているためと考えられます。しかし、今後の黒字化が見えてくれば、株価は大きく再評価される可能性があります。現在進行中の先行投資は、将来の利益創造に向けた「仕込み」であり、PSRが示すバリュエーションは、その潜在的な価値を十分に反映していない可能性があります。

絶対評価法(簡易DCF法)

前提条件:

  • WACC(加重平均資本コスト): 資本構成や市場のボラティリティを考慮し、ここではやや高めの10%と仮定。
  • 成長率: サービス普及と市場拡大を考慮し、2026年以降の売上成長率を15%、2030年以降の永久成長率を日本の名目GDP成長率を上回る2%と仮定。
  • 営業利益率: 2026年以降に黒字化し、最終的に10%で安定すると仮定。
  • 投資: 売上成長率に比例して固定資産・運転資本が増加すると仮定。

考察: 上記の簡易的な試算では、現時点での営業利益がマイナスであるため、フリーキャッシュフロー(FCF)もマイナスとなり、理論株価を算出するのは極めて困難です。しかし、この分析で重要なのは、株価の割高・割安を判断することではなく、「いつ、どの程度の成長率で黒字化するのか」という変数が、企業価値に決定的な影響を与えることを理解することです。Welbyの場合、黒字化のタイミングが1年早まるだけで、理論株価は大きく上昇する可能性があります。


8. 総括と投資家への提言

Welbyの2025年12月期第2四半期決算は、事業ポートフォリオの変革期における進捗を示す内容でした。特にWelbyマイカルテサービスの急成長は、同社が目指すPHRプラットフォーム戦略が機能し始めていることを証明するものです。一方で、先行投資による赤字構造は変わっておらず、事業の安定性や利益創出までの時間軸には不確実性が残ります。

投資スタンス:中立 現状の株価は、今後の成長期待と先行投資によるリスクが拮抗している状態と判断します。強気で投資するには、下期以降の具体的な成長戦略の進捗を確認する必要があります。弱気で売却するには、Welbyマイカルテの成長が市場に与えるインパクトが大きすぎる可能性があります。したがって、現時点では「中立」のスタンスを維持し、次なるアクションのための情報収集を続けることが賢明です。

投資家が注視すべき最重要KPIとイベント:

  • 売上高の季節変動と下期計画達成度: 特に第3四半期および第4四半期に、売上が計画通りに積み上がるか。
  • 疾患ソリューションサービスの回復トレンド: 前年同期比の減収傾向が止まり、売上回復が見られるか。
  • Welbyマイカルテの顧客獲得数と開発案件の進捗: 新規大型顧客の獲得や、既存顧客との開発案件の発表。
  • 継続的な赤字と資金繰り: 開発投資が計画通りに進むか、また想定以上のキャッシュアウトが発生しないか。
  • PHR関連の規制動向: 国のPHR推進政策や、マイナポータル連携などの進捗。

Welbyは、単なるヘルステック企業ではなく、日本の医療インフラの変革を担う潜在力を持っています。しかし、そのポテンシャルが企業価値に転化するには、まだいくつかのハードルを乗り越える必要があります。投資家は、今回の決算で示されたポジティブな兆候を評価しつつも、批判的な視点を持ち、今後の進捗を冷静に監視していくべきです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次