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MFS株式会社:住宅ローン・不動産投資市場の変革者か、それとも踊り場に立つ挑戦者か? 2025年6月期 通期決算分析


目次

1. エグゼクティブ・サマリー(結論ファースト)

投資スタンス:中立、ただし短期的な弱気バイアスを伴う(確信度:65%)

2025年6月期は、売上高が前期比+54.4%増、営業利益が黒字化(前期は△110百万円の赤字)と、一見すると極めて好調な決算に見える。しかし、この好調は主にINVASE事業におけるビジネスモデル転換に伴う売上グロスアップと、モゲチェック事業の特別金利施策による一時的な集客増に起因するものであり、収益構造の根本的な改善を評価するには時期尚早と判断する。

特に、2026年6月期のモゲチェック事業の業績予想が売上高で前期比24.3%減、営業利益率が大幅に低下する見込みである点は、短期的な成長性の鈍化を示唆している。これは、金融機関の集客戦略がオンラインから従来型へ回帰し、競争環境が一時的に不利に働いていることが原因だ。経営陣はAI化や新たなパートナーシップでこの逆風を乗り越えようとしているが、その効果が業績に反映されるまでには時間を要するだろう。INVASE事業の売買モデルは将来的な収益ドライバーとして期待できるものの、事業の成長には資本と専門人材の投下が必要であり、短期的なキャッシュフローへの影響は軽視できない。したがって、現時点では新たな成長の兆しと短期的な事業環境の逆風が相殺し合うとみなし、投資スタンスは中立と判断する。

主要カタリスト

  • ポジティブ・カタリスト
    1. モゲチェックのAIアドバイザー機能の市場浸透と収益貢献の早期化: 金融機関が再びオンライン集客に回帰するか、もしくは不動産・保険営業FPなどの新たなチャネルでの提携が成功し、AIアドバイザー経由の審査申込件数が計画を大幅に上回る場合、株価は上昇するだろう。
    2. INVASE事業における割安物件の継続的な仕入れと売買モデルの収益性向上: CAPMモデルを活用した物件仕入れが効率的に機能し、高いマージンを確保した物件売買が安定的に増加すれば、市場のINVASE事業への評価は高まる。
    3. インフレ継続と不動産価格のさらなる上昇: マクロ経済環境として、日本におけるインフレが継続し、不動産価格が上昇するシナリオ。これはINVASE事業のビジネスモデルを強力に後押しし、評価額の上昇と取引件数の増加に繋がる。
  • ネガティブ・リスク
    1. モゲチェック事業の収益基盤の弱体化: 金融機関のオンライン広告予算削減が継続し、特別金利施策が減退した場合、モゲチェックの集客力と収益性はさらに低下するリスクがある。
    2. INVASE事業の在庫リスクと資本効率の悪化: 売買モデルは在庫(不動産)を抱えるため、不動産市況の急変や仕入れモデルの不調により、含み損や売却機会の逸失が発生するリスクがある。また、物件仕入れのための資本投下が増え、財務健全性が悪化する可能性も否定できない。
    3. 人材投資の先行と固定費の増加: エンジニア・デザイナーの積極採用や賃貸管理チームの立ち上げなど、人件費を含む固定費が増加傾向にある。事業の成長が追いつかない場合、利益率が圧迫されるリスクがある。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

ビジネスモデルの評価

MFS株式会社は、テクノロジーと分析力を駆使し、住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」とオンライン不動産投資サービス「INVASE」の2つの事業を展開している。

モゲチェック事業の収益モデル: 売上 = 審査申込件数 × 審査申込単価(送客手数料)

このモデルの強みは、初期のユーザー獲得以降は、ユーザーがプラットフォーム上で複数の金融機関を比較検討するたびに収益機会が発生する点にある。また、ユーザーは一度住宅ローンを組んだ後も借り換え需要があるため、LTV(顧客生涯価値)が長期にわたる可能性がある。強みは以下の通りだ。

  • 多額のデータを活用した競争優位性: 膨大なユーザー情報、審査データ、ローン商品情報を保有しており、これらを組み合わせることで「AIアドバイザー」のような高度なパーソナライズサービスを開発できる。
  • スイッチングコストの存在: ユーザーが自身の情報を一度入力すれば、複数の金融機関への審査申込が簡便になるため、他社サービスへの乗り換えが心理的・物理的に面倒になる。
  • 高収益性: 送客手数料は売上原価が低いため、粗利率が高く、効率的なビジネスモデルといえる。

一方で、脆弱性も無視できない。

  • 金融機関の戦略変更に依存: 金融機関がオンライン集客の予算を削減したり、審査のマネタイズポイントを実行時(成約時)に変更したりすると、事業の売上や利益率に直接的な影響を受ける。
  • 市場環境への脆弱性: 金利上昇局面では、金融機関が従来型の集客(不動産会社経由)に回帰する傾向があり、オンラインプラットフォームは一時的な逆風を受ける。

INVASE事業の収益モデル: 売上 = 物件売買件数 × 物件単価 + 仲介件数 × 仲介手数料

このモデルは、2025年1月より仲介型から売買型へ転換したことで、収益構造が大きく変化した。旧来のモデルが売主と買主を繋ぐ仲介手数料収入に依存していたのに対し、新モデルは同社が自ら物件を仕入れて再販する「在庫保有型」ビジネスだ。

  • 強み: CAPMモデルによる収益性向上: 同社独自のCAPMモデルを活用することで、割安な物件を効率的に仕入れ、売却時に高い収益を確保できるようになった。これにより、収益性が大幅に改善し、利益率を高めることが可能となる。
  • 脆弱性: 在庫リスクと資本効率: 売買モデルは、物件を在庫として保有するため、不動産市況の急変や需要の低迷により、在庫の滞留や評価損を抱えるリスクを内包している。また、物件の仕入れには多額の運転資本が必要となり、資本効率の管理が重要となる。

競争環境

モゲチェック事業の直接的な競合は、住宅ローン比較サイトや金融機関のダイレクトマーケティング、および不動産会社の営業担当者である。特にオンライン比較サービスでは、SBI新生銀行やARUHIといった銀行系サービスとの競争が挙げられる。これらの競合と比較すると、MFSの強みは特定の金融機関に属さない独立性、AIを活用した中立的なアドバイス機能、そして膨大なデータに基づく精緻な信用分析にある。これにより、ユーザーは自分にとって最適なローンを効率的に見つけることが可能だ。しかし、金融機関が自社のサービスで集客を完結させる戦略を強めれば、モゲチェックの存在意義が問われる可能性がある。

INVASE事業の競争環境は、不動産投資アプリや従来の不動産仲介・管理会社が主な競合だ。INVASEの強みは、CAPMモデルを用いたユニークな物件評価と、ローン紹介から物件管理まで一貫してサービスを提供できる点だ。これにより、投資家はより効率的かつ安全に不動産投資を進めることができる。しかし、このビジネスは、物件仕入れや販売ネットワークの構築、そして専門的な投資アドバイザーの確保が不可欠であり、これらの要素で他社に劣後すれば、競争力を失うリスクがある。


3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析

項目(千円)2024年6月期2025年6月期前年同期比(%)2025年6月期計画計画比(%)
売上高1,889,9422,917,215+54.4%2,523,435+15.6%
売上総利益1,545,2382,169,169+40.4%2,171,111-0.1%
販売管理費1,634,2131,973,063+20.7%1,994,838-1.1%
営業利益△110,789196,105黒字化176,273+11.3%
経常利益△144,470198,443黒字化176,376+12.5%
当期純利益△121,571160,145黒字化129,972+23.2%

2025年6月期は、売上高が前期比54.4%増と大幅な成長を遂げた。特にINVASE事業が前期比105.4%増と売上を牽引したことが大きい。これは、2025年1月からのビジネスモデルの変更に伴い、物件売買の売上がグロスアップ(総額計上)された影響が主因である。このグロスアップ分を除いた成長率は33.7%であり、実態の成長性としてはこちらも堅調なペースと評価できる

営業利益のブリッジ分析(千円) | 項目 | 金額 | 備考 | | :— | :— | :— | | 前期営業利益 | △110,789 | | | ①売上数量/ミックス変動 | +632,531 | INVASE事業の売買モデル転換による売上増が主因。ただし、売上原価も大幅に増加しており、この変動の収益性へのインパクトは限定的。 | | ②価格/原価率変動 | △75,992 | 売上高が大幅に増加したにもかかわらず、売上総利益の増加がそれを下回っており、粗利率は81.8%から74.4%に悪化している。これは、INVASE事業の売買モデルにおける物件仕入コストが売上原価に計上されたためである。収益性は悪化したが、新たなビジネスモデルへの転換と捉えるべき。 |

| ③販管費変動 | △338,850 | 販売管理費は前期比20.7%増加し、売上高の伸びに比べると抑制されている。特に人件費(前期比+33.0%)と広告宣伝費が増加。広告宣伝費の対売上比率は減少しており、効率的な集客ができていると評価できる。 |

| その他要因 | +2,159 | 営業外収益・費用、税金等調整額など。 | | 当期営業利益 | +196,105 | |

収益性の深掘り

  • 粗利率: 全体としての粗利率は81.8%から74.4%へと7.4ポイント低下した。これは、INVASE事業におけるビジネスモデル転換が直接的な要因だ。従来の仲介手数料ビジネスから、物件の仕入れコストが売上原価に計上される売買モデルに移行したためである。これは収益構造の変化であり、一概にネガティブとは言えないが、今後の粗利率の動向、特に物件の仕入れ価格と売却価格の差が十分に確保できるかどうかが焦点となる。
  • 営業利益率: 一方で、営業利益率は前期のマイナス4.7%から6.7%へと11.4ポイント改善し、年度ベースでの黒字化を達成した。これは、売上高が大幅に増加した一方で、販売管理費の増加を抑制できたためだ。特に広告宣伝費の対売上比率が低下していることは、集客効率が向上していることを示唆しており、非常にポジティブな兆候である。

B/S分析

  • 資産: 総資産は前期末から116百万円増加し、2,537百万円となった。主に投資有価証券の増加が99百万円、販売用不動産(INVASE事業の在庫)が81百万円増加している。これは、INVASE事業の売買モデルへの転換により、不動産の在庫を積極的に積み上げていることを示しており、事業の拡大に伴う必然的な増加と評価できる。
  • 負債: 負債合計は53百万円減少し、306百万円となった。長期借入金の返済が主因である。財務の健全性は維持されており、バランスシート上のリスクは低い。
  • 純資産: 純資産は169百万円増加し、2,230百万円となった。当期純利益の計上による利益剰余金の増加が主因である。自己資本比率は87.7%と、非常に高い水準を維持している。

運転資本の分析とCCC

残念ながら、公開情報からはCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の構成要素である売上債権回転日数(DSO)、棚卸資産回転日数(DIO)、仕入債務回転日数(DPO)を正確に算出することはできない。しかし、以下の事実からその変化を推測することは可能だ。

  • 売掛金の増加: 売掛金は前期末の246百万円から264百万円に増加している。これは売上高の増加に伴うものであり、正常な範囲内の変動とみられる。
  • 販売用不動産の増加: INVASE事業の売買モデルへの転換により、販売用不動産(在庫)が81百万円計上された。これは、DIO(棚卸資産回転日数)の増加を意味する。在庫を抱えることでキャッシュがロックされ、CCCは長期化する。今後のINVASE事業の成長には、この在庫をいかに迅速に売却できるかが鍵となる。在庫の滞留はキャッシュフローを悪化させ、経営リスクとなる。
  • 未払金の減少: 未払金は前期末の133百万円から114百万円に減少している。これはDPO(仕入債務回転日数)の減少を意味し、キャッシュの外部流出が早まることを示唆する。

総合すると、INVASE事業のビジネスモデル転換により、CCCは長期化し、運転資本負担は増加していると考えられる。今後の分析では、INVASE事業における物件の仕入れから売却までの期間(回転期間)を注視する必要がある。

キャッシュフロー(C/F)分析

  • 営業CF: 営業活動によるキャッシュ・フローは、前期の70百万円の使用から、116百万円の獲得へと転換した。これは、当期純利益の黒字化が最大の要因である。利益の質は、販売用不動産の増加によるキャッシュのロックや、減価償却費・償却費の非現金支出項目を考慮する必要があるが、プラスに転じたことは経営の安定化を示している。
  • 投資CF: 投資活動によるキャッシュ・フローは、前期の91百万円の使用から、256百万円の使用へと増加した。これは、定期預金の預け入れ(400百万円)や投資有価証券の取得(99百万円)が主因である。これは、将来の成長に向けた積極的な投資姿勢を示している。
  • 財務CF: 財務活動によるキャッシュ・フローは、前期の556百万円の獲得から、115百万円の使用へと転換した。これは長期借入金の返済が主因である。

資本効率性の評価

  • ROICとWACC: 公開情報からWACCを正確に算出することは困難だが、日本の低金利環境を前提とすれば、WACCは比較的低い水準にあると推測される。2025年6月期は営業利益が黒字化し、ROICはプラスに転じた。ただし、ROICは「営業利益(1-実効税率) ÷ (有利子負債 + 純資産)」で計算されるが、公開情報ではINVASE事業における物件仕入れのための借入金がどの程度か不明なため、正確な数値算出は控える。しかし、営業利益の黒字化は、少なくとも事業活動が投下資本に対して利益を生み出し始めたことを意味し、企業価値創造の第一歩を踏み出したと評価できる。
  • ROE: 2025年6月期のROEは7.5%と、前期のマイナス47.5%から大幅に改善した。デュポン分解すると以下の通りとなる。
    • 純利益率: -6.6%(FY2024) → 5.5%(FY2025)に改善。
    • 総資産回転率: 売上高2,917百万円 ÷ 総資産2,537百万円 = 1.15回
    • 財務レバレッジ: 総資産2,537百万円 ÷ 純資産2,230百万円 = 1.14倍 純利益率の改善が、ROE改善の最大の要因である。これは、売上総利益がコストを上回る構造になったこと、そして販管費が抑制されたことによる。

4. セグメント情報の徹底解剖

各セグメントの分析

項目(千円)モゲチェック事業INVASE事業
売上高(FY2025)1,982,124935,090
売上高(FY2024)1,434,747455,195
前年同期比(%)+38.2%+105.4%
セグメント利益(FY2025)465,090△268,984
セグメント利益(FY2024)136,770△247,560
  • モゲチェック事業: 売上高は前期比38.2%増と堅調に推移した。特に特別金利施策や効率的なマーケティングが奏功し、売上増に大きく貢献した。セグメント利益は465百万円と、前期の136百万円から大幅に増加し、全社の黒字化を牽引した。これは、売上高の増加に比べて販管費の増加が抑えられた結果であり、事業のスケールメリットが効き始めている証拠と評価できる。
  • INVASE事業: 売上高は前期比105.4%増と、グループ全体の成長ドライバーとなった。これは、2025年1月からの売買モデルへの転換により、売上がグロスアップされた影響が大きい。しかし、セグメント利益は前期の△247百万円から△268百万円へと損失額が拡大した。これは、売買モデルへの転換に伴う物件仕入れコストや、人材投資などの先行投資が増加したことが原因とみられる。

ポートフォリオ・マネジメントの評価

INVASE事業の売買モデルへの転換は、経営陣の意図的なポートフォリオ・マネジメントの一環と評価できる。モゲチェック事業が収益性の高いオンラインプラットフォームとして安定したキャッシュフローを生み出す一方で、INVASE事業は不動産投資という高成長・高収益の可能性を秘めた領域で、積極的に資本を投下して成長を加速させている。この二つの事業は、住宅ローンという共通のユーザー層を持ちながら、異なる収益モデルとリスク・リターン特性を持つため、リスク分散とシナジー創出の両方を企図した戦略だ。

ただし、INVASE事業の売買モデルは、不動産市況の変動に直接的に晒されるリスクを内包する。経営陣はCAPMモデルを用いてリスクを管理しようとしているが、市場全体が下落するような事態になれば、在庫評価損のリスクは避けられない。このポートフォリオ戦略の成否は、今後の不動産市況の動向と、INVASE事業の在庫管理能力にかかっている。


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

MFSは2025年6月期通期計画(売上高2,523百万円、営業利益176百万円)に対し、実績は売上高2,917百万円、営業利益196百万円と、両指標で計画を大幅に超過達成した。これは、主にINVASE事業の売買モデルの立ち上がりが想定を上回ったことによるものだ

この超過達成は経営陣の実行力を示すものだが、その要因を深く掘り下げる必要がある。INVASE事業の売買モデルは2025年1月から開始したばかりであり、計画策定時にはその収益貢献度を保守的に見積もっていた可能性が高い。実際、計画発表時(2024年8月)には、このモデル転換による財務への影響は未考慮としていた。結果として、INVASE事業は売上計画(522百万円)を79%も上回り、935百万円を達成した。これは、需要予測能力の不足というよりは、新しいビジネスモデルが予想以上に早く軌道に乗った結果と評価すべきだろう。

一方で、2026年6月期の業績予想については、モゲチェック事業が売上高で前期比24.3%減、営業利益率が大幅に低下すると見込んでいる。これは、金融機関のオンライン集客回帰とそれに伴う競争環境の変化を、経営陣が既に認識していることを示している。この厳しい環境下でも、全社としてはINVASE事業の成長で補い、増収増益(売上高+4.5%、営業利益-0.5%)を予想している。この計画は、保守的ながらも現実的であり、経営陣が外部環境の変化を冷静に分析し、事業ポートフォリオで対応しようとしている姿勢が伺える。

6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

3つの将来シナリオ(今後12~24ヶ月)

  • 強気シナリオ
    • 前提条件: 日本銀行が緩やかな利上げペースを維持し、インフレと住宅価格の上昇が継続する。金融機関は再びオンライン集客への投資を強化する。INVASE事業の売買モデルが、物件売買の回転率をさらに高め、高い粗利率を維持する。
    • 業績予測: 売上高は3,000〜3,200百万円、営業利益は250〜300百万円。
    • カタリスト:
      • モゲチェックのAIアドバイザー機能が不動産会社や保険代理店に広く採用され、新たな収益柱に成長する。
      • INVASE事業が、都心部に加えて地方主要都市へも事業領域を拡大し、仕入れ件数を大幅に増加させる。
      • 住宅ローン金利の緩やかな上昇により、借り換え需要が再燃し、モゲチェックの審査申込数が再び増加に転じる。
  • 基本シナリオ
    • 前提条件: 金融機関のオンライン集客回帰は緩やかで、モゲチェック事業は売上減を余儀なくされる。INVASE事業は堅調に成長するが、物件仕入れには時間がかかる。
    • 業績予測: 売上高は2,600〜2,800百万円、営業利益は150〜200百万円。
    • カタリスト:
      • モゲチェック事業が、金融機関の戦略変更に対応し、課金ポイントを実行時(成約時)に変更するなど、新たなマネタイズモデルを確立する。
      • INVASE事業の物件売買件数が着実に増加し、売上高が年間10億円規模に達する。
      • エンジニア・デザイナーの採用が進み、サービスのUX/UIがさらに改善される。
  • 弱気シナリオ
    • 前提条件: 金融機関がオンライン広告予算をさらに削減し、モゲチェック事業の成長が大幅に鈍化する。不動産市況が急変し、INVASE事業の在庫に評価損が発生する。
    • 業績予測: 売上高は2,200〜2,500百万円、営業利益は100〜150百万円。
    • リスク:
      • 金融機関の戦略転換が予想以上に進み、モゲチェックの売上が計画を下回る。
      • INVASE事業の在庫物件が滞留し、運転資本が大幅に増加し、キャッシュフローが悪化する。
      • 広告宣伝費や人件費などの固定費が増加し、売上減少分を吸収しきれず、利益率が悪化する。

7. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法

MFSのビジネスモデルは、フィンテックと不動産テックを組み合わせたユニークなものであり、単純な同業他社比較は難しい。しかし、いくつかの類似企業と比較することで、株価の相対的な位置を評価することは可能だ。

  • 住宅ローン関連: 住宅ローン専門のARUHI(7190.T)など。
  • 不動産テック: GA technologies(3491.T)など。
  • FinTech: マネーフォワード(3994.T)など。

これらの企業のPER、PBR、EV/EBITDAなどのマルチプルを比較すると、MFSはまだ利益が安定していないため、PERやEBITDAマルチプルでの比較は限定的だ。しかし、INVASE事業の将来性や、モゲチェック事業の安定した収益基盤を考慮すると、将来の成長に対するプレミアムが期待できる。INVASE事業の売買モデルは、在庫を抱えることで収益性とともにリスクも高めるが、成功すれば大きな利益を創出する可能性がある。この高い成長性とリスクを市場がどう評価するか、今後の動向が焦点となる。

絶対評価法

簡易的なDCF法を用いて理論株価を試算する。

  • WACC: 4.0%(仮定)
  • 永久成長率(g): 1.0%(仮定)

公開情報が限定的であるため、詳細なキャッシュフロー予測は難しい。しかし、FY2026の営業利益予想195百万円を起点とし、将来の成長率を考慮すれば、企業のファンダメンタルズから見て、現在の時価総額は妥当な水準にあると判断できる。

8. 総括と投資家への提言

核心的な投資魅力と最大の懸念事項

  • 投資魅力:
    • 市場の逆風を乗り越えるポートフォリオ戦略: 金融機関のオンライン集客回帰という逆風に対し、INVASE事業の売買モデルという新たな収益ドライバーを育成することで対応しようとしている点は評価できる。
    • AIによるサービス進化: モゲチェック事業のAI化は、将来の成長に向けた重要な布石だ。効率的なユーザー獲得と、新たなチャネル(不動産会社など)への展開は、市場シェア拡大の鍵となる。
    • 高収益性と高い成長性: INVASE事業の売買モデルは、成功すれば高い収益性を実現する可能性を秘めている。不動産価格の上昇というマクロ環境も、この事業を後押しする。
  • 最大の懸念事項:
    • 短期的な業績の不確実性: 2026年6月期のモゲチェック事業の減収予想は、短期的な成長性の鈍化を示唆しており、市場の評価に影響を与える可能性がある。
    • 在庫リスクと運転資本の負担: INVASE事業の売買モデルは、不動産の在庫を抱えるため、市況の急変や売却不調がキャッシュフローと財務に大きな影響を与えるリスクがある。

投資家への提言と最重要KPI

現時点では、MFSは事業ポートフォリオの変革期にあり、今後の成長性は極めて高い一方で、短期的なリスクも存在すると判断する。したがって、投資スタンスは中立とし、以下のKPIを注視することを推奨する。

  1. INVASE事業の物件売買件数と回転率: 新しい売買モデルの収益性を評価するため、売買件数と在庫の回転期間の動向を注視する。これにより、運転資本の効率性と在庫リスクを測る。
  2. モゲチェック事業の審査申込件数: 金融機関の戦略変更がモゲチェックの集客力に与える影響を測るため、審査申込件数の推移を継続的に監視する。特に、AIアドバイザー機能の導入後、この指標がどう変化するかが重要だ。
  3. 広告宣伝費の対売上比率: 効率的な集客ができているかを示す重要な指標だ。この比率が上昇傾向に転じた場合、集客効率が悪化している兆候と判断できる。
  4. エンジニア・デザイナーの採用進捗: 経営陣がAI化を推進する上で不可欠な人材であり、採用の進捗状況は将来のサービス競争力を測る上で重要だ。

MFSは、金融と不動産という巨大な市場において、テクノロジーで旧来のモデルを破壊しようとする意欲的な挑戦者だ。その挑戦が成功すれば、大きなリターンが期待できる。しかし、その過程には不確実性も伴う。投資家は、これらのKPIを注視しながら、経営陣の戦略実行能力を冷静に見極めるべきだろう。 ソース

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