1. エグゼクティブ・サマリー
投資スタンス:中立、確信度:80%
コーアツ工業(1743)は、2025年9月期第3四半期において、主に建設事業とコンクリート製品事業の好調に牽引され、売上高および営業利益が大幅に増加しました。しかしながら、親会社株主に帰属する四半期純利益は減少しており、これは法人税等の増加が主な要因です。同社の経営環境は依然として不透明であり、特に資材価格の高騰や人手不足といった課題に直面しています。
3行サマリー:
- 事実: 第3四半期累計で売上高は前年同期比14.0%増、営業利益は68.9%増と大幅な増収増益を達成したものの、法人税等の増加により最終利益は12.7%減益となりました。
- 本質: 建設事業の大型工事の進捗とコンクリート製品事業の売上急増が利益成長を牽引した一方で、最終利益の減少は税務上の要因に起因するものであり、事業の本質的な収益力自体は改善していると評価できます。
- 注目点: 株式会社ウエムラによる公開買付け(TOB)が発表されており、このTOBが成立した場合、同社株式は非公開化され上場廃止となるため、投資家は短期的な株価の動向よりも、TOBの価格と成立の行方を注視する必要があります。
主要カタリストとリスク: カタリスト(ポジティブ):
- TOB成立: 公開買付価格が市場価格を上回る水準でTOBが成立した場合、投資家はキャピタルゲインを得られる可能性があります。
- 建設事業のさらなる好調: 国土強靭化政策に基づく公共投資が継続的に拡大し、高利益率の大型工事の受注が続けば、収益性の向上がさらに加速する可能性があります。
- コンクリート製品事業の収益性改善: 売上高が急増しているコンクリート製品事業において、製造原価の高騰を吸収し、利益率を改善できれば、新たな収益の柱として成長する可能性があります。
リスク(ネガティブ):
- TOB不成立: TOBが不成立に終わった場合、TOB価格にサヤ寄せしていた株価が大きく下落する可能性があります。
- 原材料・エネルギー価格の高騰: 建設資材やエネルギー価格の高騰が続けば、原価率が悪化し、収益性を圧迫するリスクがあります。
- 人手不足の深刻化: 慢性的な人手不足が建設工事の遅延や人件費の高騰を引き起こし、事業運営と利益に悪影響を及ぼす可能性があります。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
コーアツ工業は、建設事業、コンクリート製品事業、不動産事業、売電事業の4つのセグメントで構成される複合事業体です。
ビジネスモデルの評価: 同社の主要な収益源は、売上高全体の約86%を占める
建設事業です。この事業の収益モデルは「売上高 = 完成工事高」であり、利益は「完成工事高 × 利益率」で決まります。
- 強み: 国土強靭化政策という国のインフラ投資に支えられており、公共事業が堅調に推移しています。また、長年の実績と技術力に基づく高い信頼性は、新規参入障壁となり、安定的な受注に繋がっています。
- 脆弱性: 慢性的な人手不足、人件費および建設資材価格の高騰は、利益率を圧迫する構造的な課題です。また、売上は大型工事の受注進捗に大きく左右されるため、売上高の変動性が高いというリスクも抱えています。
コンクリート製品事業の収益モデルは「売上高 = 販売数量 × 販売単価」です。
- 強み: 建設事業とのシナジー効果が期待できます。自社で製造したコンクリート製品を建設事業で利用することで、外部調達コストを削減し、サプライチェーンの効率性を高めることが可能です。
- 脆弱性: 製造原価の高騰が利益を圧迫しており、売上高は大幅に増加したものの、利益は大きく減少しています。これは、価格転嫁能力の限界を示唆しており、コストコントロールが喫緊の課題となっています。
競争環境: 建設業界は、全国的な大手ゼネコンから地域に根差した中小企業まで、非常に多くのプレイヤーが存在する競争の激しい市場です。同社は、特定の地域や特定の種類の工事において強みを持つニッチプレイヤーとして位置付けられます。競合他社と比較した場合、同社の強みは、建設とコンクリート製品製造という二つの事業を組み合わせることで、一貫したソリューションを提供できる点です。これにより、サプライチェーンを垂直統合し、品質管理や納期管理を自社で完結できる可能性があります。一方で、規模の経済性においては大手ゼネコンに劣るため、コスト競争力や大規模プロジェクトへの対応力に課題を抱える可能性があります。
3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析
項目 | 2025年9月期3Q累計 | 2024年9月期3Q累計 | 前年同期比増減(百万円) | 前年同期比増減(%) |
売上高 | 10,238百万円 | 8,984百万円 | +1,254百万円 | +14.0% |
営業利益 | 663百万円 | 392百万円 | +271百万円 | +68.9% |
経常利益 | 697百万円 | 417百万円 | +280百万円 | +67.2% |
親会社株主に帰属する四半期純利益 | 438百万円 | 502百万円 | △64百万円 | △12.7% |
*注:百万円未満は切り捨て。 |
営業利益のブリッジ分析(概算):
- 前年同期営業利益: 392百万円
- ①売上数量/ミックス変動:
- 売上高増加:+1,254百万円
- 売上総利益増加:+372百万円(1,419百万円 – 1,046百万円)
- この売上総利益の増加分は、主に建設事業の完成工事高増加(+634百万円)とコンクリート製品事業の売上増加(+622百万円)によるものです。特に高利益率の大型工事の進捗が寄与したと考えられます。
- ②価格/原価率変動:
- 売上原価増加:+880百万円(8,818百万円 – 7,937百万円)。これは売上高増加に伴う自然な増加分と、原材料価格や人件費の高騰による原価率上昇が複合的に影響していると考えられます。
- ③販管費変動:
- 販売費及び一般管理費増加:+102百万円(756百万円 – 653百万円)。
- 当期営業利益: 663百万円
結論: 営業利益の増加は、高収益な大型工事の進捗とコンクリート製品事業の売上急増という「売上数量/ミックス変動」が主要因であり、資材価格高騰による原価率上昇や販管費増加といったマイナス要因を十分に吸収できた結果と分析できます。
収益性の深掘り:
- 売上総利益率: 2025年9月期3Q累計は13.9%(1,419百万円 ÷ 10,238百万円)に対し、前年同期は11.6%(1,046百万円 ÷ 8,984百万円)でした。
- 営業利益率: 2025年9月期3Q累計は6.5%に対し、前年同期は4.4%でした。 売上総利益率と営業利益率の両方が改善しており、これは売上高の増加率を上回る利益の成長を示唆しています。この改善は、主に高利益率の大型工事の進捗という「事業ポートフォリオの変化」に起因すると考えられます。ただし、コンクリート製品事業では売上急増にもかかわらず製造原価の上昇により利益率が低下しており、コストコントロールが今後の重要な課題です。
B/S分析
項目 | 2025年9月期3Q末 | 2024年9月期末 | 前期比増減(百万円) | 前期比増減(%) |
総資産 | 15,197百万円 | 14,980百万円 | +217百万円 | +1.4% |
純資産 | 9,317百万円 | 8,954百万円 | +363百万円 | +4.1% |
自己資本比率 | 61.3% | 59.8% | +1.5pt | N/A |
*注:百万円未満は切り捨て。 |
総資産は微増、純資産は増加しており、自己資本比率も改善しています。これは財務の安全性が高まっていることを示唆しています。流動資産の増加は、現金預金(+379百万円)と受取手形・完成工事未収入金及び契約資産等(+977百万円)の増加が主な要因です。これは、売上高の増加に伴う運転資本の増加が主な背景にあると考えられます。
運転資本の分析:
- 売上債権回転日数(DSO):
DSO = (売上債権 / 売上高) × 90日
- 2025年9月期3Q累計:
(6,539百万円 / 10,238百万円) × 90日 = 57.4日
- 2024年9月期3Q累計:
(5,561百万円 / 8,984百万円) × 90日 = 55.7日
- 棚卸資産回転日数(DIO):
DIO = (棚卸資産 / 売上原価) × 90日
- 2025年9月期3Q累計:
((245百万円 + 5百万円 + 55百万円) / 8,818百万円) × 90日 = 3.1日
- 2024年9月期3Q累計:
((201百万円 + 19百万円 + 59百万円) / 7,937百万円) × 90日 = 3.2日
- 仕入債務回転日数(DPO):
DPO = (仕入債務 / 売上原価) × 90日
- 2025年9月期3Q累計:
(4,394百万円 / 8,818百万円) × 90日 = 44.9日
- 2024年9月期3Q累計:
(3,954百万円 / 7,937百万円) × 90日 = 44.8日
- キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC):
CCC = DSO + DIO - DPO
- 2025年9月期3Q累計:
57.4日 + 3.1日 - 44.9日 = 15.6日
- 2024年9月期3Q累計:
55.7日 + 3.2日 - 44.8日 = 14.1日
CCCは前年同期からわずかに増加しており、これはキャッシュが事業活動に滞留する期間がわずかに長くなったことを意味します。DSOの増加は、売上債権の回収に時間がかかっていることを示唆しており、大型工事の進捗に伴う回収サイトの長期化が背景にあると考えられます。これはキャッシュフローへの軽微なマイナス影響となります。棚卸資産回転日数はほぼ横ばいであり、在庫管理は引き続き効率的に行われていると評価できます。
キャッシュフロー(C/F)分析
当四半期連結累計期間に係るキャッシュ・フロー計算書は作成されていません。
したがって、営業CF、投資CF、財務CFのバランスを直接分析することはできませんが、B/Sの変動から間接的に推測します。現金預金が3億79百万円増加していることから、全体としてキャッシュは創出されたと見なせます。受取手形・完成工事未収入金及び契約資産等の増加が営業CFを押し下げた可能性が高いですが、利益剰余金の増加(+3億58百万円)が純資産を増加させており、利益の質は健全であると考えられます。
資本効率性の評価
ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト) WACCを仮に5%と仮定した場合、同社のROICを概算します。
ROIC = 税引後営業利益 / 投下資本
税引後営業利益 = 663百万円 × (1 - 法人税率)
- 実効税率を概算:
(法人税等合計 / 税金等調整前四半期純利益) = (259百万円 / 697百万円) = 37.1%
税引後営業利益 = 663百万円 × (1 - 0.371) = 417百万円
- 実効税率を概算:
投下資本 = 有形固定資産 + 無形固定資産 + 投資その他の資産 + 運転資本
運転資本 = (受取手形・完成工事未収入金及び契約資産等 + 販売用不動産 + 未成工事支出金 + 商品及び製品 + 仕掛品 + 材料貯蔵品) - (支払手形・工事未払金等 + 未払法人税等 + 契約負債 + 完成工事補償引当金 + 工事損失引当金 + 受注損失引当金 + 賞与引当金)
- 2025年9月期3Q末の投下資本を概算:
投下資本 = 5,324百万円 + 24百万円 + 1,437百万円 + (8,410百万円 - 5,669百万円) = 5,324 + 24 + 1,437 + 2,741 = 9,526百万円
ROIC = 417百万円 / 9,526百万円 = 4.4%
概算ではありますが、同社のROIC(4.4%)は仮定したWACC(5%)を下回っており、現時点では企業価値を創造しているとは言えない状況です。これは、資本を効率的に活用して収益を上げる力が、資本調達にかかるコストを上回っていないことを意味します。ただし、これは第3四半期累計期間のデータに基づくものであり、通期での変動や改善の余地はあります。
ROEのデュポン分解:
ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
純利益率 = 親会社株主に帰属する四半期純利益 / 売上高 = 438百万円 / 10,238百万円 = 4.3%
総資産回転率 = 売上高 / 総資産 = 10,238百万円 / 15,197百万円 = 0.67回転
財務レバレッジ = 総資産 / 純資産 = 15,197百万円 / 9,317百万円 = 1.63倍
ROE = 4.3% × 0.67 × 1.63 = 4.7%
前年同期のROEは5.6%(502百万円 / 8,984百万円 × 8,984百万円 / 14,980百万円 × 14,980百万円 / 8,954百万円 = 5.6% × 0.60 × 1.67 = 5.6%)でした。純利益率の低下がROE低下の主要因です。これは、売上高の増加にもかかわらず最終利益が減少したというP/L分析と整合的です。最終利益の減少は税金等の増加による一過性の要因であるため、このROE低下は構造的なものではなく、一過性のものと解釈できます。
4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖
セグメント | 売上高(百万円) | 前年同期比(%) | 営業利益(百万円) | 前年同期比(%) | 利益率(%) |
建設事業 | 8,832 | +7.7% | 903 | +57.5% | 10.2% |
コンクリート製品事業 | 1,286 | +93.8% | 10 | △73.9% | 0.8% |
不動産事業 | 50 | △0.5% | 38 | +1.0% | 76.0% |
売電事業 | 68 | △4.2% | 31 | △3.7% | 45.6% |
*注:百万円未満は切り捨て。 |
- 建設事業(全社利益の牽引役):
- 売上高は7.7%増と堅調に推移し、営業利益は57.5%増と大幅な増益を達成しました。これは、利益率の高い大型工事が順調に進捗したことが最大の要因です。このセグメントが全社の業績を大きく牽引しており、同社の屋台骨であることが再確認されました。
- コンクリート製品事業(急成長と収益性の課題):
- 売上高は93.8%増と驚異的な成長を遂げた一方で、営業利益は73.9%減と大幅な減益となりました。これは、売上急増に伴う製造原価の上昇を販売価格に十分に転嫁できていないことを示唆しています。このセグメントは、売上規模の拡大と収益性の改善という二つの課題を同時に抱えています。今後の投資判断においては、このセグメントがコスト高を乗り越え、利益成長に貢献できるかが重要なポイントとなります。
- 不動産・売電事業(安定収益源):
- 両セグメントとも売上高は横ばいから微減で、営業利益もほぼ横ばいです。規模は小さいものの、高い利益率を維持しており、変動の大きい建設事業の安定的な収益基盤として機能していると評価できます。
ポートフォリオ・マネジメントの評価: 同社の事業ポートフォリオは、主力である建設事業が収益性の高い大型案件の進捗により利益成長を牽引し、コンクリート製品事業が売上成長を担うという構図になっています。不動産・売電事業は規模が小さいものの、安定的なキャッシュフローを生み出す役割を果たしています。このポートフォリオは、建設事業の変動リスクを他事業で一部ヘッジしつつ、成長機会を追求するバランスの取れた戦略と言えます。ただし、コンクリート製品事業における利益率の低下は、シナジー効果を最大化するためには早急な改善が求められます。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
同社は、2025年9月期の通期連結業績予想を修正していません。
- 通期売上高予想: 13,652百万円
- 第3四半期累計売上高実績: 10,238百万円
- 進捗率: 75.0%
- 通期営業利益予想: 929百万円
- 第3四半期累計営業利益実績: 663百万円
- 進捗率: 71.4%
売上高、営業利益ともに第3四半期累計で約70%超の進捗率であり、順調に推移していると言えます。第4四半期のみで残り約25%の売上と約30%の営業利益を達成する必要があり、建設業の特性上、期末に向けて工事が集中するため、この計画達成は十分に現実的です。
経営陣の需要予測能力と経営判断の評価: 今回の決算内容から判断するに、経営陣は年初に掲げた計画に対して、現状の事業環境を正確に捉え、需要を適切に予測していると評価できます。特に、建設事業における高利益率案件の進捗という社内要因を適切に管理していると見受けられます。決算発表後も計画を修正しなかった判断は、通期目標達成への自信の表れであり、妥当な経営判断です。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
基本シナリオ(蓋然性60%):
- 前提条件: 日本経済は緩やかな回復を続け、国土強靭化政策に基づく公共投資は堅調に推移。建設資材価格や人件費の高騰は続くものの、価格転嫁や生産性向上で一部吸収。
- 業績予測: 通期業績予想通りに着地。売上高13,652百万円、営業利益929百万円。建設事業が引き続き利益成長のエンジンとなる。コンクリート製品事業は売上高の伸びを維持するものの、利益貢献は限定的。
- 株価カタリスト:
- 公開買付けが予定通りに成立し、市場価格を上回るTOB価格での株式売却が実現する。
- 建設事業でさらに大規模な新規受注案件が発表される。
- 株価リスク:
- TOBが不成立に終わり、株価が下落する。
- 資材価格のさらなる高騰や人件費の急増により、利益率が圧迫され、計画未達となる。
強気シナリオ(蓋然性20%):
- 前提条件: 国内景気が予想以上に好調に推移し、民間設備投資が本格的に回復。資材価格の高騰が一服し、コストコントロールが成功。
- 業績予測: 通期売上高は14,000百万円、営業利益は1,000百万円を超える。コンクリート製品事業の収益性が改善し、利益貢献を始める。
- 株価カタリスト:
- TOB価格が引き上げられる。
- コンクリート製品事業の利益率改善に向けた具体的な施策(製造ラインの効率化など)が発表される。
- 株価リスク:
- 公開買付け成立後の企業価値評価が市場予想を下回る。
弱気シナリオ(蓋然性20%):
- 前提条件: 世界経済の減速や地政学的リスクの高まりにより、国内景気が悪化。公共投資が削減される。人手不足が深刻化し、工事の遅延やコスト超過が発生する。
- 業績予測: 第4四半期の工事進捗が遅れ、通期売上・利益ともに計画未達となる。特に、コンクリート製品事業の赤字が拡大し、全社利益を押し下げる。
- 株価カタリスト:
- 該当なし
- 株価リスク:
- TOBが不成立に終わり、かつ業績悪化が重なり、株価が大幅に下落する。
- 利益率の低い受注が増加し、収益構造が悪化する。
7. バリュエーション(企業価値評価)
今回の決算における最大のポイントは、株式会社ウエムラによる
公開買付け(TOB)が発表されている点です。TOBが成立した場合、同社株式は上場廃止となるため、通常のバリュエーション分析(PERやPBRなど)は、投資判断において二次的な意味合いしか持ちません。投資家は、TOB価格と市場価格のサヤ(スプレッド)に焦点を当てるべきです。
相対評価法: TOBの発表により、株価はTOB価格にサヤ寄せして推移するのが一般的です。したがって、競合他社とのPERやPBR比較は、短期的な投資判断においては意味をなさないと考えられます。
絶対評価法: 同様に、DCF法を用いた理論株価の試算も、TOBによる上場廃止を前提とするならば、短期的な投資判断には不向きです。しかし、TOBが不成立に終わった場合を想定し、事業の本来的な価値を評価することは重要です。ROICがWACCを下回っている現状は、同社の事業が十分な企業価値を創造できていないことを示唆しており、この点を改善しない限り、根本的な企業価値向上は見込めません。
8. 総括と投資家への提言
今回のコーアツ工業の第3四半期決算は、主力である建設事業が順調に推移し、利益成長を牽引した一方で、最終利益は法人税等の増加により減益となりました。これは、事業の本質的な収益力自体は改善していることを示唆しています。特に、高利益率の大型工事が順調に進捗したことはポジティブな材料です。また、コンクリート製品事業は、売上急増という成長の兆しを見せているものの、製造原価の高騰という収益性の課題を抱えています。
しかしながら、本決算分析の核心は、
株式会社ウエムラによる公開買付け(TOB)が進行中であることです。このTOBが成立した場合、同社株式は非公開化され、上場廃止となる予定です。したがって、今後の投資家にとって最も重要な論点は、同社の将来の業績や成長性ではなく、
TOBが成立するかどうか、そしてその価格水準です。
明確な投資スタンス: TOB価格にサヤ寄せしている現状を考慮すると、積極的な新規投資を推奨する材料は限定的です。既存株主にとっては、TOBが成立すればTOB価格で売却する選択肢がありますが、不成立の場合は株価が大きく下落するリスクに直面します。したがって、**「中立」**スタンスを維持し、TOBの行方を見守ることを推奨します。
今後の監視ポイント: 投資家が今後注視すべき最重要KPIは、事業の本質的な指標ではなく、TOBの進捗状況です。具体的には、以下の点に注目すべきです。
- TOBの成立条件: 公開買付期間が終了し、成立条件が満たされるかどうかの発表。
- 市場価格とTOB価格のサヤ: TOB期間中、市場価格がTOB価格に対してどのような水準で推移するか。
- TOBの撤回リスク: TOBが撤回される可能性を示す新たな情報がないか。
TOBが成立し、上場廃止となれば、同社株式の売買はできなくなります。投資家は、自身のポートフォリオ戦略に基づき、TOBに応募するか、市場で売却するかを判断する必要があります。