1. エグゼクティブ・サマリー
投資スタンス:中立(確信度 50%)
株式会社イメージワンは、継続して営業損失を計上しており、**「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象や状況が存在している」**と認識している点を踏まえると、極めて高いリスクを伴う投資対象です。しかし、その財務基盤を立て直すためのエクイティ・ファイナンスによる資金調達、そして不採算事業の見直しを含む事業ポートフォリオの再構築への取り組みは評価に値します。特に、ヘルスケアソリューション事業における新規事業の収益化と、原子力産業関連分野での共同研究の進捗は、将来的な回復の可能性を示唆しています。一方で、過去の不適切な会計処理に起因する訴訟リスクや、主力事業における安定的な収益確保の見通しが不透明である点は、依然として大きな懸念材料です。現時点では、リスクとリターンのバランスが取れておらず、慎重なモニタリングを要する「中立」と判断します。
3行サマリー:
- 事実: 2025年9月期第3四半期は、売上高は増加したものの、営業損失を継続し、純損失は拡大。過去の不適切会計処理に関連する特別損失が重荷となった。
- 本質: 継続的な営業損失、および特別損失の計上は、事業の収益基盤が脆弱であること、そして過去の負の遺産処理が完了していないことを示している。
- 注目点: 事業再建策の進捗、特に新規事業である「ONE Viewer」と「ONE Payment」の収益貢献度、および原子力産業関連分野における共同研究の実用化への進捗が、将来の業績回復を左右する鍵となる。
主要カタリストとリスク:
ポジティブ・カタリスト | ネガティブ・リスク | ||
1. 新規事業(ONE Viewer, ONE Payment)の想定を上回る収益貢献 | 1. 継続企業の前提に関する「重要な不確実性」の継続 | ||
2. 原子力関連事業の共同研究の実用化・大型受注の獲得 | 2. 過去の取引に関する訴訟で多額の損害賠償を命じられる可能性 | ||
3. 既存事業における不採算案件の撤退・事業売却による収益構造改善 | 3. 資金調達後の経営改善が遅延し、再び資金繰りの懸念が浮上する可能性 |
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2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
株式会社イメージワンは、**「ヘルスケアソリューション事業」
と「地球環境ソリューション事業」**の2つのセグメントを主軸として事業を展開しています。
ヘルスケアソリューション事業は、PACS(医療用画像管理システム)、電子カルテ、RIS(放射線科情報システム)といった医療機関向けITシステムの販売・保守が主な収益源です。
- 収益モデル: 売上高 = (システム導入数 × 平均単価) + (保守契約数 × 年間保守料)。
- 強みと脆弱性: このモデルの強みは、一度システムを導入すれば継続的な保守サービスによる安定収益が見込める点です。また、電子カルテなどは導入後のスイッチングコストが高いため、既存顧客からの収益は比較的安定しやすいと考えられます。しかし、主要事業が医療ICT製品であるため、新規需要の減少や価格競争の激化という課題に直面しています。
地球環境ソリューション事業は、GEOソリューション(3D画像処理ソフトウェア、計測ツールアプリなど)、エネルギー(太陽光発電所売買)、原子力関連(トリチウム分離除去技術、耐放射線カメラなど)の3つの分野から構成されます。
- 収益モデル: この事業の収益は、GEOソリューション分野の製品販売によるストック型収益と、エネルギー分野の太陽光発電所売買といったスポット型収益、そして原子力関連技術の将来的な実用化による収益という、異なる性質の収益源が混在しています。
- 強みと脆弱性: 複数の環境関連分野に分散投資していることは、特定の市場の変動リスクを緩和する可能性があります。しかし、太陽光発電所の売買は案件ごとの個別性が高く、収益のタイミングが見通しづらいという脆弱性があります。また、原子力関連分野は極めて高度な専門性を要し、実用化には長期的な時間と多額の投資が必要となるため、短期的な収益貢献は期待しにくいでしょう。
競争環境:
- ヘルスケア事業: 富士フイルムやキヤノンメディカルシステムズなどの大手企業がひしめく市場で、同社の立ち位置はニッチな分野に限定されます。新規事業である「ONE Viewer」や「ONE Payment」は、市場のニーズに合致しているものの、独自の競争優位性を確立できるかどうかが問われるでしょう。
- 地球環境事業: GEOソリューション分野では、Pix4D社製品の販売代理店として、大手メーカーの製品と競合します。原子力関連分野は、技術の独自性が強みとなりますが、実用化には関係団体や電力会社との緊密な連携が不可欠であり、技術力だけでなく、強固なネットワークと信頼構築が競争の鍵となります。
3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析
項目 | 2025年9月期第3四半期累計(千円) | 前年同期比 (%) |
売上高 | 737,532 | n/a |
営業損失 | △281,056 | n/a |
経常損失 | △292,669 | n/a |
四半期純損失 | △400,994 | n/a |
- 注記: 前年同期は非連結決算を開示していなかったため、対前年同四半期増減率は記載されていません。ただし、添付資料のセグメント情報から、ヘルスケア事業の売上高は前年同期比で45.9%増収、地球環境事業は83.7%減収であったことが分かります。
営業利益のブリッジ分析: 前年同期の営業利益からの変動要因は、非連結ベースの比較データがないため正確に分解できませんが、セグメント情報から以下の仮説を立てることができます。
- ヘルスケア事業: 売上高が568,849千円と45.9%増加したにもかかわらず、セグメント損失は24,820千円と改善が見られるものの、黒字化には至っていません。これは、売上増加分を上回る原価や販管費、あるいは製品ミックスの変化が影響している可能性があります。
- 地球環境事業: 売上高が168,682千円と83.7%も大幅に減少しています。これは太陽光発電所の大型売却案件がなかったことが主因です。一方で、仕入原価の削減に努めた結果、セグメント損失は9,361千円から6,773千円へと改善しました。
- 全社費用: 報告セグメントに配分されていない全社費用が、前年同期の270,391千円から当期は249,462千円へと減少しており、販管費の見直しによる経費削減が一部寄与していると推測されます。
収益性の深掘り: 売上高737百万円に対し、売上総利益が203百万円であることから、**粗利率は約27.6%**と極めて低い水準にあります。特に、売上高が大幅に減少した地球環境事業の粗利率が低下している可能性が高いでしょう。この低収益性は、高付加価値製品・サービスの割合が低いこと、あるいは価格競争の激化を示唆しています。販売費及び一般管理費が484百万円と売上総利益を大幅に上回っており、これが営業損失の最大の要因です。
B/S分析
項目 | 2024年9月期末(千円) | 2025年6月期末(千円) | 増減額(千円) |
総資産 | 1,569,233 | 1,147,964 | △421,269 |
純資産 | 735,537 | 335,811 | △399,726 |
自己資本比率 | 46.9% | 29.1% | △17.8pt |
総資産は26.8%減少し、特に現金及び預金が553百万円から275百万円へと大幅に減少しています。純資産も54.3%減少しており、これは四半期純損失400百万円の計上が主因です。その結果、自己資本比率は46.9%から29.1%へと急落しており、
財務の健全性が大きく損なわれています。
運転資本の分析: キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)を構成する3つの要素を算出します。
- 売上債権回転日数 (DSO):
(売上債権 ÷ 売上高) × 90日
DSO = (83,561千円 ÷ 737,532千円) × 273日 ≈ 31日
- 棚卸資産回転日数 (DIO):
(棚卸資産 ÷ 売上原価) × 90日
DIO = ((26,104 + 29,919)千円 ÷ 533,863千円) × 273日 ≈ 28日
- 仕入債務回転日数 (DPO):
(仕入債務 ÷ 売上原価) × 90日
DPO = (62,600千円 ÷ 533,863千円) × 273日 ≈ 32日
- CCC = DSO + DIO – DPO ≈ 31 + 28 – 32 = 27日
この数値は概算ですが、CCCが正の値であることは、企業が売上債権の回収よりも仕入債務の支払いを早く行っていることを示唆し、運転資本がキャッシュフローを圧迫していることを意味します。特に在庫(商品・仕掛品)が約56百万円と、売上原価に対して決して小さくない規模であり、滞留在庫や陳腐化リスクを精査する必要があります。
キャッシュフロー(C/F)分析
当期は四半期キャッシュ・フロー計算書が作成されていませんが、貸借対照表の主要項目から営業キャッシュフローを推測します。
- 現金及び預金は、期首の553百万円から期末には275百万円へと278百万円減少しました。
- 純損失は400百万円を計上しています。
- 営業CFの主な変動要因である受取手形及び売掛金が14百万円増加、未収消費税が119百万円減少、仕入債務が10百万円増加しました。
- 純損失の計上にもかかわらず、手元の現金が減少していることから、営業活動によるキャッシュフローは大幅なマイナスであったと推測されます。
資本効率性の評価
- ROIC vs. WACC:
- ROIC(投下資本利益率) = EBIT × (1 – 実効税率) ÷ 投下資本
- 当社のROICは、EBITが大幅な赤字(営業損失281百万円)のため、明らかに負の値となります。
- 一方、WACC(加重平均資本コスト)は、通常は正の値です。
- ROIC < WACC の状態が継続していることは、同社が株主資本と借入資本を効率的に活用して利益を生み出せておらず、企業価値を継続的に破壊していることを意味します。事業の再構築と収益力改善が急務であることが、この指標からも明らかです。
- ROEのデュポン分解:
- ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
- 純利益率: 純損失を計上しているため、負の値。
- 総資産回転率: 売上高737百万円に対し、総資産1,147百万円であるため、回転率は約0.64回と低い水準です。
- 財務レバレッジ: 総資産1,147百万円に対し、純資産335百万円であるため、レバレッジは約3.4倍と比較的高い水準です。
- 純利益が赤字であるためROEも負の値であり、財務レバレッジをかけていることがROEをさらに悪化させています。これは、企業の収益性の低さが根本的な問題であることを示唆しています。
4. セグメント情報の徹底解剖
各セグメントの業績と貢献度
セグメント | 売上高(千円) | 前年同期比 (%) | セグメント損失(千円) |
ヘルスケアソリューション事業 | 568,849 | +45.9% | △24,820 |
地球環境ソリューション事業 | 168,682 | △83.7% | △6,773 |
合計 | 737,532 | n/a | △31,594 |
- 好調セグメント(ヘルスケアソリューション事業):
- 売上高は前年同期比で45.9%と大幅な増収を達成し、全社売上高の77%を占める主力事業として成長を牽引しています。
- 増収の主因は、電子カルテシステムに付随する大型案件の納品完了とPACS等の継続受注です。
- しかし、売上は増加したものの、セグメント損失は依然として24,820千円と赤字が続いています。これは、メディカルサプライ分野での抗原検査キット需要の減少や、新規事業立ち上げに伴う先行投資コストなどが影響していると推測されます。
- 新規事業である「ONE Viewer」と「ONE Payment」は、医療機関の経営課題に応えるユニークなサービスであり、収益の安定化に寄与する可能性があります。この事業が今後の成長ドライバーとなるかどうかが、最大の注目点です。
- 不振セグメント(地球環境ソリューション事業):
- 売上高は前年同期比で83.7%と大幅な減収となりました。これは、太陽光発電所の大型売却案件がなかったことが直接的な原因です。
- セグメント損失は改善が見られましたが、これは主に仕入原価の削減努力によるもので、売上減少の根本的な課題は解決されていません。
- GEOソリューション分野では、主力製品の終売や大口案件の失注があり、苦戦が続いています。一方、新たな製品の取り扱いを開始するなど、事業構造の転換を図っている点が評価できます。
- 原子力産業関連分野は、共同研究の進捗や、IAEAへの製品納入といった明るい材料がありますが、これらは実用化段階には至っておらず、収益貢献はまだ先の話です。
ポートフォリオ・マネジメントの評価
経営陣は、ヘルスケア事業と地球環境事業という、性質の異なる2つのセグメントを運営しています。しかし、両セグメントが構造的な課題を抱えており、ポートフォリオとしてのシナジーが十分に発揮されているとは言えません。特に、地球環境事業の収益がスポット案件に大きく依存しているため、全体としての収益の安定性を損なう要因となっています。不採算事業の撤退や事業売却を検討するという方針は、限られた経営資源を選択と集中に振り向けるという点で、理にかなった判断です。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
2025年9月期の通期業績予想は、売上高1,473百万円、営業利益257百万円、経常利益280百万円、当期純利益389百万円です。第3四半期累計期間の実績は、売上高737百万円、営業損失281百万円、経常損失292百万円、四半期純損失400百万円となりました。
- 計画との比較: 売上高は通期予想の約50%の進捗ですが、営業利益以下は通期予想が黒字であるのに対し、第3四半期累計で既に大幅な赤字を計上しています。この大きな乖離は、通期計画の達成が極めて困難であることを示唆しています。
- 経営陣の評価: 経営陣は通期業績予想を修正する旨を発表しており、これは需要予測能力や事業環境の変化への対応を正しく認識している証拠と評価できます。しかし、通期計画が大幅な黒字である一方で、第3四半期時点で既に赤字幅が大きく、計画の策定段階で過度に楽観的な見通しを持っていた可能性は否定できません。特に、不採算事業の見直しが「一定の費用負担を伴っている」と認識しているにもかかわらず、その影響を適切に織り込めていなかった点には改善の余地があります。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
シナリオ分析(今後12~24ヶ月)
シナリオ | 想定売上高レンジ (百万円) | 想定営業損益レンジ (百万円) | 前提条件 |
強気 | 1,200 – 1,500 | +50 – +150 | ヘルスケア事業の新規事業が軌道に乗り、安定的な収益基盤を確立する。不採算事業の売却が成功し、多額の特別利益を計上する。訴訟問題が和解などで解決に向かう。 |
基本 | 900 – 1,200 | △100 – △50 | ヘルスケア事業の新規事業の収益化は緩やかに進むが、競争環境は厳しく、既存事業の売上減少を完全に補いきれない。不採算事業の撤退費用や訴訟関連費用が継続して発生する。 |
弱気 | 600 – 900 | △300 – △150 | ヘルスケア事業の新規事業が市場に受け入れられず、競争に敗北。不採算事業の整理も進まず、固定費が収益を圧迫し続ける。訴訟で敗訴し、多額の損害賠償を命じられる。新たな資金調達の目処が立たなくなる。 |
- 強気シナリオのトリガー:
- 新規事業の大型受注: 「ONE Viewer」や「ONE Payment」が想定を上回るペースで導入が進み、収益柱となる。
- 原子力関連技術の実用化: IAEAや国内電力会社との協議が進展し、大型の共同研究・実用化プロジェクトの受注に繋がる。
- 不採算事業の売却: 既存事業の一部を売却し、売却益を計上するとともに、今後の赤字リスクを排除する。
- 弱気シナリオのトリガー:
- 訴訟リスクの顕在化: 複数の訴訟で敗訴し、総額500百万円を超える損害賠償金の支払いを命じられる。
- 資金調達後の経営改善の遅延: 第三者割当増資で調達した資金を効果的に活用できず、事業再建が停滞する。
- 主要取引先の失注: 地球環境事業において、GEOソリューションや原子力関連の主力製品・技術で大口顧客を失う。
7. バリュエーション(企業価値評価)
相対評価法
- PER, PBR: 当社は当期純損失を計上しており、PER(株価収益率)は算出できません。PBR(株価純資産倍率)は、純資産が335百万円まで減少しているため、現時点での評価は困難です。
- EV/EBITDA: EBITDAは、営業損失に減価償却費4百万円を加えた金額となり、負の値となるため、この指標も適用できません。
結論として、収益性が極めて不安定であるため、相対評価法による適正株価の算出は現実的ではありません。
絶対評価法
- DCF法: 営業利益が赤字であり、将来のキャッシュフロー予測が極めて困難であるため、DCF法による企業価値評価も現実的ではありません。
バリュエーション総括: 当社のバリュエーションは、伝統的な財務指標やモデルに基づく評価が不可能です。これは、同社が安定的な収益を創出できておらず、ビジネスモデルが依然として再建の途上にあることを明確に示しています。したがって、現在の株価はファンダメンタルズではなく、事業再建への期待や個別案件の進捗、そして資金調達への安心感といった心理的な要因によって形成されていると見るべきでしょう。
8. 総括と投資家への提言
株式会社イメージワンの核心的な投資魅力は、ヘルスケア事業の新規サービス**「ONE Viewer」と「ONE Payment」
、そして地球環境事業のトリチウム分離除去技術**といった、将来の成長ポテンシャルを秘めた事業への取り組みです。特に、医療機関の経営課題解決や、原子力発電所の廃炉という社会的ニーズに応える技術は、市場規模も大きく、もし実用化に成功すれば、現在の脆弱な財務基盤を一変させる可能性があります。
しかし、最大の懸念事項は、**「継続企業の前提」**に疑義が生じている現状と、複数の訴訟リスクです。不採算事業の整理や、資金調達による財務基盤の強化は評価すべき点ですが、これらの対策が実際に収益改善に繋がるか、そして訴訟問題が経営に致命的な影響を与えないかは、現時点では不透明です。
投資家への提言:
- 明確な投資スタンス: 財務的な安定性が確立されるまで、新規投資は**「中立」**とし、高リスク許容度を持つ投資家のみが、事業再建の進捗を注意深くモニタリングすることを推奨します。
- 注視すべき最重要KPIとイベント:
- 新規事業の収益貢献度: 四半期ごとの決算で、ヘルスケア事業の売上高とセグメント利益が改善しているかを確認する。特に「ONE Viewer」と「ONE Payment」の導入件数や収益を追跡することが不可欠です。
- 訴訟の進捗: 係争中の複数の訴訟について、和解や判決の動向を注視する。損害賠償金の支払いが経営に与える影響は計り知れません。
- 資金調達後の財務改善: 第三者割当増資で調達した資金が、運転資金や開発資金、M&A資金としてどのように使われ、事業改善に繋がっているかを追跡する。現金及び預金の残高がどのように推移していくかを監視することが重要です。
株式会社イメージワンは、過去の負の遺産を清算し、新たな成長戦略を実行しようとしている、まさに正念場に立たされています。将来の可能性を信じるならば、極めて慎重なデューデリジェンスと、継続的な情報収集が求められるでしょう。