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株式会社エム・エイチ・グループ (9439) 2025年6月期 決算分析:赤字転落の構造的要因と来期V字回復計画の妥当性評価

【エグゼクティブ・サマリー】

株式会社エム・エイチ・グループの2025年6月期決算は、売上高が1,844百万円(前期比1.8%減)、営業利益が9百万円の損失(前期は23百万円の利益)となり、増収を確保できず赤字に転落しました

赤字転落の主な要因は、①約5年ぶりとなる「モッズ・ヘア」コレクション開催に伴う一時的な費用の発生 、②人件費や原材料費などの構造的なコスト増加 、③主力のサロン事業の不振 、という3点が挙げられます。特に、一時的費用だけでなく、継続的なコスト増が収益を圧迫している点は構造的な課題と考えられます。

会社側は2026年6月期に営業利益30百万円へのV字回復を計画しています が、コスト上昇圧力の継続や主力事業の回復の遅れがリスクとなり、計画達成のハードルは高いと評価します。当面は、会社の計画通りに収益性が改善するかを慎重に見極める必要があるでしょう。

  • 投資スタンス:中立 赤字転落の要因には一時的なものが含まれる一方、構造的な課題も抱えており、来期のV字回復計画には不透明感が残ります。株価の本格的な回復には、主力事業の収益性改善が確認できることが条件となると考え、現時点での投資判断は「中立」とします。
  • カタリスト(株価上昇要因)
    1. 主力サロン事業の業績回復: 人材確保・育成が奏功し、直営店・BSサロンの客数・客単価が回復する。
    2. コストコントロールの成功: DX化推進などにより、継続的なコスト上昇を吸収し、利益率が改善する。
    3. ヘアメイク事業の更なる成長: 好調なヘアメイク事業がブランド価値を向上させ、他事業への波及効果を生む。
  • リスク(株価下落要因)
    1. 継続的なコスト上昇: 人件費、原材料費、物流費の高騰が続き、会社の利益計画を圧迫する 。
    2. 人材流出の深刻化: 美容業界全体の人材流動性の高まりを受け、スタイリストの離職が進み、サロンの売上がさらに減少する 。
    3. 来期業績予想の未達: V字回復計画が達成できず、市場の信頼を損なう。

1. 事業概要とビジネスモデル

同社は、美容室「モッズ・ヘア」ブランドを中核に、5つのセグメントで事業を展開しています

  1. 直営サロン運営事業: 首都圏を中心に10店舗のサロンを運営する、ブランドの旗艦となる事業です 。
  2. BSサロン運営事業: 「ブランド・シェア・サロン」という独自のフランチャイズ形態で、国内外に55店舗を展開しています 。
  3. ヘアメイク事業: ファッションショーや雑誌などで活躍するプロのヘアメイクアーティストを抱え、ブランドの創造性を象徴する事業です 。
  4. 美容室支援事業: POSシステムやクレジット決済代行など、自社のノウハウを他の美容室に提供しています 。
  5. キャリアデザイン事業: 人材派遣・紹介事業を手掛けています 。

収益の柱は直営およびBSサロン事業ですが、今期はこの2事業が共に減収減益となっており、事業ポートフォリオの課題が浮き彫りになっています。


2. 業績ハイライトと財務分析

損益計算書(P/L)分析:利益はなぜ赤字に転落したか

前期23百万円の営業黒字から、今期9百万円の営業赤字へと至った32百万円の利益悪化要因を分析します。

  • 売上総利益の悪化(-28百万円): 売上高が33百万円減少したことが主な要因です 。売上総利益率は28.0%から27.0%へと1.0ポイント低下しており 、原材料価格の高騰などが影響したと推察されます。
  • 販売費及び一般管理費の増加(-4百万円): 販管費は前期の502百万円から507百万円へと増加しました 。決算短信では、この増加要因として「モッズ・ヘア」コレクション開催に伴う費用の発生と、人件費・物流費などのコスト増が挙げられています 。

**結論として、赤字転落は「売上の減少」「原価率の上昇」「販管費の増加」という三重苦によるものです。**特に、一過性のイベント費用だけでなく、継続的なコスト増が利益を圧迫している点が、今後の収益回復における懸念材料となります。

貸借対照表(B/S)およびキャッシュフロー(C/F)分析

  • 財政状態(B/S): 自己資本比率は前期の30.2%から28.4%へ低下しました 。純資産は、当期純損失(-17百万円)、配当金の支払い(-11百万円)、自己株式の取得(-20百万円)などが要因で56百万円減少しています 。財務基盤は現時点で問題視するレベルではありませんが、収益性の悪化が続けば、さらなる自己資本の毀損が懸念されます。また、売上減少にもかかわらず棚卸資産(在庫)が前期比で増加している点(74百万円→80百万円)は、在庫の質や回転率について注視が必要です 。
  • キャッシュフロー(C/F):
    • 営業CF:29百万円のプラス(前期は47百万円のプラス)本業での現金創出力はプラスを維持しましたが、前期比では減少しており、収益力の低下が表れています。税金等調整前当期純損失でありながらプラスを確保できたのは、減価償却費などの非現金支出項目による影響が大きいです 。
    • 投資CF:10百万円のマイナス(前期は46百万円のマイナス)有形・無形固定資産の取得などによる支出がありましたが、前期に比べて投資活動は抑制されています 。厳しい事業環境下で、キャッシュの温存を図っている様子がうかがえます。
    • 財務CF:47百万円のマイナス(前期は4百万円のマイナス)長期借入金の返済(-15百万円)、自己株式の取得(-20百万円)、配当金の支払い(-11百万円)が主な内容です 。赤字決算にもかかわらず、株主還元を実施している点は評価できますが、営業CFが減少する中でのキャッシュアウトは、今後の財務戦略において柔軟性を欠く要因となる可能性があります。

資本効率性

当期純損失のため、ROE(自己資本当期純利益率)およびROIC(投下資本利益率)は共にマイナスとなります。これは、株主資本や事業投下資本を活用してリターンを生み出せておらず、企業価値を毀損している状態を示します。資本効率の改善は、まず収益性を黒字化させることが絶対条件となります。


3. セグメント別分析

セグメント別の業績は、同社の課題と強みを明確に示しています。

  • 直営サロン運営事業:減収減益 売上高927百万円(前期比1.8%減)、セグメント利益57百万円(同18.7%減)。スタイリストの稼働人数減少が響き、主力事業が苦戦しています 。
  • BSサロン運営事業:減収減益 売上高228百万円(前期比4.4%減)、セグメント利益70百万円(同14.3%減)。稼働店舗数の減少とイベント費用が重荷となりました 。
  • ヘアメイク事業:増収増益(大幅増益) 売上高374百万円(前期比3.6%増)、セグメント利益12百万円(同809.2%増)。唯一、好調を維持しており、ブランドの根源的な価値が健在であることを示唆しています。
  • 美容室支援事業:減収増益 売上高120百万円(前期比0.7%減)、セグメント利益78百万円(同17.3%増)。手数料率の競争激化で売上は微減も、コスト削減で利益を確保しました。
  • キャリアデザイン事業:減収減益 売上高277百万円(前期比5.8%減)、セグメント利益13百万円(同21.2%減)。一時的な派遣スタッフ稼働率の低下が影響しました。

**分析のポイントは、収益の二本柱である直営・BSサロンが共に不調である点です。**好調なヘアメイク事業の利益貢献はまだ小さく、会社全体の業績を牽引するには至っていません。主力事業の立て直しが最優先課題です。


4. 経営計画と今後の見通し

会社は2026年6月期の連結業績について、売上高2,000百万円(前期比3.9%増)、営業利益30百万円(黒字転換)というV字回復計画を発表しています

この計画の達成確度を評価する上で、以下の点がポイントとなります。

  • ポジティブな点:
    • 今期に発生したコレクション開催費用という一時的なコスト剥落が、来期の利益を押し上げる効果が期待できます。
  • 懸念される点:
    • 人件費や原材料費などのコスト上昇圧力が来期も継続する可能性があります。
    • 主力のサロン事業の具体的な回復シナリオが、決算短信からは明確に読み取れません。
    • 中期経営計画では2027年6月期までを「助走」期間と位置付けており 、短期的なV字回復よりも中長期的な基盤固めを重視する姿勢との間に、若干のメッセージの齟齬を感じます。

総合的に判断すると、来期の黒字転換計画は、一時的費用の解消を前提としたものであり、構造的な課題を乗り越えて達成できるかは不透明と言わざるを得ません。


5. 総括と投資家への提言

エム・エイチ・グループは、一時的費用と構造的コスト増の両面から収益性が悪化し、赤字に転落しました。財務基盤はまだ余力がありますが、本業のキャッシュ創出力は低下傾向にあります。

同社の投資魅力を判断する上で、**「主力サロン事業の再生」と「コスト構造改革」**が実現できるかが最大の焦点です。来期に掲げたV字回復計画は、その試金石となります。

投資家としては、計画の達成を楽観視せず、今後の四半期決算で以下のKPIを確認しながら、慎重に投資判断を行うべきです。

  • 注目すべきKPI:
    1. 直営サロンの既存店売上高: 事業の地力が回復しているかを示す最重要指標。
    2. 売上総利益率および販管費率: コストコントロールが計画通りに進んでいるかを確認する。
    3. 営業キャッシュフロー: 本業の現金創出力が回復軌道に乗っているかを見極める。

これらの指標に明確な改善が見られるまでは、株価の本格的な上昇は難しいと考えられます。

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