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株式会社長栄(2993)2026年3月期 第1四半期決算分析レポート:不動産賃貸事業の成長加速とコスト増の狭間で問われる資本効率性

1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス: 中立、確信度60%

3行サマリー: 株式会社長栄は、安定的な賃貸不動産市場を背景に、不動産賃貸事業の増収増益を達成し、全体の売上高・営業利益を堅調に伸ばした。しかし、支払利息の増加という外部環境の変化が利益を圧迫し、経常利益および純利益は減益となったため、今後の資本コスト上昇に対する戦略的対応が不可欠となる。短期的な株価は好調な不動産賃貸事業が下支えする一方、資本コストの上昇が重しとなるため、経営陣の資本効率改善に向けた具体的なアクションに注目する。

主要カタリストとリスク: ポジティブ・カタリスト:

  1. 物件取得の加速と賃料上昇: 積極的な物件取得戦略が奏功し、賃料上昇トレンドが継続すれば、不動産賃貸事業の収益が計画を上回り、全体の収益性を押し上げる可能性がある。
  2. 管理戸数の拡大と収益性改善: 不動産管理事業において、賃貸仲介やビルメンテナンスといった付帯サービス収益の拡大が続けば、管理戸数増加に加えて収益性も向上し、安定的な利益成長に寄与する。
  3. 金利上昇の鈍化または転換: 政策金利の引き上げが止まる、もしくは引き下げに転じれば、支払利息の負担が軽減され、経常利益の回復が見込まれる。

ネガティブ・リスク:

  1. 金利上昇の継続: 借入金利のさらなる上昇は、物件取得に伴う支払利息の増加を招き、利益を一段と圧迫するリスクがある。
  2. 物件取得競争の激化: 賃貸不動産市場での物件取得競争が激化し、取得価格が高騰すれば、将来的な収益性が低下し、ROICを悪化させる可能性がある。
  3. 賃料の下落リスク: 景気減速や供給過多により、賃料の下落や空室率の上昇が起きれば、主力の不動産賃貸事業の収益基盤が揺らぐ。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

株式会社長栄は、主に

不動産管理事業不動産賃貸事業の2つのセグメントで事業を展開している

不動産管理事業:

  • ビジネスモデルの評価:
    • 収益モデル: 管理収入 = (管理戸数 * 部屋タイプ別の管理費) + (仲介収入 + 工事売上 + その他) 。
    • 強み: 管理戸数の増加に伴い、安定的なストック収益である管理収入が堅調に推移する構造 。入居者向け会員組織「Bellevie Club」の運営や、トラブル対応を含む多様なサービス提供により、入居者満足度を高め、入居率と定着率の向上に貢献している 。これにより、オーナーの不動産価値の最大化を目指しており、解約リスクやスイッチングコストが低いモデルと言える 。
    • 脆弱性: 管理戸数獲得のための営業活動や、人件費、ビルメンテナンス費用などのコスト変動に収益性が左右される可能性がある 。

不動産賃貸事業:

  • ビジネスモデルの評価:
    • 収益モデル: 家賃収入 = (自社保有物件戸数 * 部屋タイプ別の家賃単価 * 入居率) + (マンスリー売上等) 。
    • 強み: 賃料収入という非常に安定した収益基盤を持つ 。京都、滋賀、大阪を中心とした近畿圏に物件が集中しており、地域密着型のポートフォリオを構築している 。特に滋賀県に取得した大型物件「クレスト草津」が順調に入居率を伸ばしており、取得した物件が即座に収益に貢献するモデルが機能している 。
    • 脆弱性: 新規物件取得には多額の借入を伴うため、金利上昇の影響を直接的に受けやすい 。また、賃料収入は景気変動や地域的な需給バランスに影響される。

競争環境: 同社の事業は、賃貸仲介・管理会社から、独立系不動産デベロッパー、大手不動産会社まで多岐にわたる企業と競合する。

  • 強み:
    • 地域密着型であること。特に近畿圏での強固な基盤は、地域の特性を活かした物件管理や入居者サービスに優位性をもたらす。
    • 賃貸と管理を両輪とする安定的な収益構造 。賃貸事業で物件を増やし、管理事業でそれを維持・運用することで、安定性と成長性を両立させている。
  • 弱み:
    • 全国展開を目指しているものの、まだ近畿圏への依存度が高い 。他の大都市圏への進出では、大手不動産会社との競争が激化する。
    • 金利上昇リスクに対する脆弱性。大手企業に比べて資金調達コストが高くなる可能性があり、物件取得競争で不利になる可能性がある。

3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析: | 単位: 百万円 | 2026年3月期1Q | 2025年3月期1Q | 前年同期比 | 計画比進捗率 | | :— | :— | :— | :— | :— | | 売上高 | 2,541 | 2,374 | +7.0% | 24.2% |

| 営業利益 | 527 | 497 | +6.2% | 27.1% |

| 経常利益 | 410 | 436 | △5.9% | 30.1% |

| 四半期純利益 | 278 | 297 | △6.3% | 30.1% |

  • 売上高: 家賃収入と管理収入の増加に加え、売買仲介やマンスリー売上が好調だったことにより、増収を達成した 。
  • 営業利益: 売上増が人件費などの費用増加を上回り、増益となった 。
  • 経常利益: 貸出金利上昇の影響で支払利息が増加し、減益に転じた 。
  • 四半期純利益: 経常利益の減益により、同様に減益となった 。

営業利益のブリッジ分析(前年同期比):

  • 前期営業利益: 497百万円
  • 売上増による利益増加: * 売上高増加額: 2,541百万円 – 2,374百万円 = 167百万円
    • 売上原価増加額: 1,628百万円 – 1,552百万円 = 76百万円
    • 売上総利益増加額: 167百万円 – 76百万円 = 91百万円
  • 販管費増による利益減少: * 販管費増加額: 384百万円 – 324百万円 = △60百万円
  • 当期営業利益: 497 + 91 – 60 = 528百万円 (ほぼ開示値527百万円と一致)

ブリッジ分析の示唆: 売上総利益の増加が営業利益の増益に寄与したものの、販管費(特に人件費や退職金等)の増加が利益を圧迫している構図が明らかになった 。売上増加分が利益増加に直結しにくい体質になっている可能性があり、今後のコスト管理が重要となる。

収益性の深掘り:

  • 粗利率: 2026年3月期1Qは35.9%(912百万円 ÷ 2,541百万円)に対し、2025年3月期1Qは34.6%(821百万円 ÷ 2,374百万円)と、1.3ポイント改善している。これは、家賃収入や管理収入といった高収益な安定収入の増加が、売上全体に占める割合を押し上げたためと推察される 。
  • 営業利益率: 2026年3月期1Qは20.7%(527百万円 ÷ 2,541百万円)に対し、2025年3月期1Qは20.9%(497百万円 ÷ 2,374百万円)と、わずかに低下した。粗利率は改善しているにもかかわらず営業利益率が低下したのは、前述の通り販管費が大きく増加したことが原因である 。

B/S分析:

  • 資産合計: 66,659百万円(前期末比△25百万円)と横ばい 。
    • 流動資産: △574百万円減少。これは主に配当金支払などで現金及び預金が減少したことによる 。
    • 固定資産: +548百万円増加。自社物件を1棟取得したことにより、有形固定資産が増加したため 。
  • 負債合計: +243百万円増加 。
    • 流動負債: △64百万円減少。未払法人税等の減少が主な要因 。
    • 固定負債: +307百万円増加。物件取得に伴い長期借入金が増加したため 。
  • 純資産: △269百万円減少 。純利益を計上した一方で、配当金支払いが純資産減少の主因 。
  • 自己資本比率: 17.5%(前期末17.9%)とわずかに低下 。積極的な借入による物件取得を継続しているため、今後も注意が必要。

運転資本の分析(CCC): キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)は、企業が投じた運転資本がどれくらいの期間で回収されるかを示す指標。

CCC=DSO+DIO−DPO

  • 売上債権回転日数 (DSO): (売掛金 ÷ 売上高) × 91日
    • 2026年3月期1Q: (228,676千円 ÷ 2,541,162千円) × 91日 = 8.2日
    • 2025年3月期1Q: (332,784千円 ÷ 2,374,428千円) × 91日 = 12.8日
    • 改善の示唆: 売掛金の回収が前年同期比で大幅に早まっている。これはキャッシュフローの改善に直接貢献するポジティブな兆候である 。
  • 棚卸資産回転日数 (DIO): (棚卸資産 ÷ 売上原価) × 91日
    • 同社のBSには「貯蔵品」という項目があるが、棚卸資産に該当すると判断 。
    • 2026年3月期1Q: (15,087千円 ÷ 1,628,557千円) × 91日 = 0.8日
    • 2025年3月期1Q: (14,382千円 ÷ 1,552,445千円) × 91日 = 0.8日
    • 示唆: DIOは極めて低く、在庫リスクはほとんどない。これは不動産管理・賃貸業というビジネスモデルの特性による。
  • 仕入債務回転日数 (DPO): (買掛金 ÷ 売上原価) × 91日
    • 2026年3月期1Q: (199,083千円 ÷ 1,628,557千円) × 91日 = 11.1日
    • 2025年3月期1Q: (239,634千円 ÷ 1,552,445千円) × 91日 = 14.0日
    • 改善の示唆: 買掛金の支払いサイトも短くなっており、サプライヤーとの関係に何らかの変化があった可能性が示唆される。
  • CCCのまとめ:
    • 2026年3月期1Q: 8.2日 + 0.8日 – 11.1日 = △2.1日
    • 2025年3月期1Q: 12.8日 + 0.8日 – 14.0日 = △0.4日
    • 最終的な示唆: CCCがマイナスであることは、仕入代金の支払い前に現金を受け取っていることを意味し、極めて優れたキャッシュフロー効率を示唆する。特に今期はマイナスの幅が広がっており、売上債権の回収期間短縮が貢献している。このキャッシュフローの良さが、物件取得という成長投資を支える源泉となっている。

キャッシュフロー(C/F)分析:

  • 同社は第1四半期のキャッシュフロー計算書を作成していないため、開示情報のみで分析する 。
  • B/Sの変化から推測するに、営業活動によるキャッシュフローは純利益(278百万円)を上回ると見られる 。これは、減価償却費(414百万円)といった非現金支出費用が多いためである 。
  • 投資活動によるキャッシュフローは、物件取得による有形固定資産の増加(552百万円)により、大きなマイナスとなることが予測される 。
  • 財務活動によるキャッシュフローは、長期借入金の増加(417百万円)と配当金支払い(551百万円)のバランスによって決まる 。物件取得のための借入が、支払利息というコスト増に繋がっている構図がB/SとP/Lから明確に読み取れる。

資本効率性の評価:

  • ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト):
    • ROICは、事業活動のために投下された資本(有利子負債+株主資本)が、どれだけ効率的に利益を生み出しているかを示す。
    • WACCは、その資本を調達するためにかかるコスト(負債コストと株主資本コストの加重平均)である。
    • ROIC > WACC であれば、企業は資本コストを上回るリターンを生み出しており、企業価値を創造していると見なされる。
    • 同社のB/Sから投下資本を概算すると、約625億円(固定負債+純資産)。営業利益は5.27億円。ROICは単純計算で1%に満たず、WACCを上回っているとは考えにくい。これは、新規物件取得に伴う投資が先行し、その収益化がこれから本格化するためだと考えられる。
    • 金利上昇局面では、WACCの構成要素である負債コスト(借入金利)が上昇するため、ROICをWACC以上に引き上げるという経営課題の難易度は増す。
  • ROE(自己資本利益率)のデュポン分解:
    • ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
    • 2026年3月期1Q:
      • 純利益率: (278百万円 ÷ 2,541百万円) = 10.9%
      • 総資産回転率: (2,541百万円 ÷ 66,659百万円) = 3.8%
      • 財務レバレッジ: (66,659百万円 ÷ 11,663百万円) = 5.7倍
      • ROE = 10.9% × 3.8% × 5.7 = 2.4% (※四半期ベースの単純計算)
    • 2025年3月期1Q:
      • 純利益率: (297百万円 ÷ 2,374百万円) = 12.5%
      • 総資産回転率: (2,374百万円 ÷ 66,685百万円) = 3.6%
      • 財務レバレッジ: (66,685百万円 ÷ 11,932百万円) = 5.6倍
      • ROE = 12.5% × 3.6% × 5.6 = 2.5% (※四半期ベースの単純計算)
    • デュポン分解の示唆: ROEが微減しているのは、主に純利益率の低下(12.5%→10.9%)によるものだと分かる。総資産回転率と財務レバレッジはほぼ横ばい。純利益率の低下は、支払利息の増加が主要因であり、ここでも資本コスト上昇の影響が明確に表れている。

4. セグメント情報の徹底解剖

単位: 百万円売上高前年同期比営業利益前年同期比
不動産管理事業966+3.7% 129+3.4%
不動産賃貸事業1,575+9.1% 398+7.1%
  • 不動産管理事業:
    • 要因: 管理戸数が前期末から440戸増加したことに伴い、管理収入が堅調に伸びた 。加えて、仲介手数料やマンスリー売上といった変動的な収益も好調だったことが増収増益の背景にある 。入居率も97.6%と高い水準を維持しており、事業の安定性が示されている 。
    • 示唆: 管理戸数が増え、安定的な収益基盤が強化されている。入居者向けのイベント開催など、顧客満足度向上への投資も継続しており、長期的な顧客定着を目指す戦略がうかがえる 。
  • 不動産賃貸事業:
    • 要因: 前事業年度に取得した物件が家賃収入の増加に寄与し、大幅な増収増益を達成した 。全体の入居率も98.2%に上昇し、特に大型物件「クレスト草津」の入居率が順調に伸びていることが特筆すべき点である 。
    • 示唆: 積極的な物件取得戦略が早期に収益貢献しており、成長ドライバーとして機能している。しかし、この成長は長期借入金の増加に支えられており、支払利息の増加という副作用を生んでいる。
  • ポートフォリオ・マネジメントの評価:
    • 2つの事業セグメントが相互補完的に機能している。賃貸事業で物件を増やし、それが管理事業の安定収益にもつながるというシナジーが創出されている。
    • 一方で、不動産賃貸事業の成長が金利上昇リスクと密接に結びついているため、経営陣は物件取得のペースと財務健全性のバランスをより慎重に管理する必要がある。
    • 物件取得は近畿圏が中心だが、関東や中部、九州にも展開しており、地域分散も進めている 。これにより、特定の地域に偏ったリスクを軽減する戦略は評価できる。

5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

  • 進捗状況:
    • 通期業績予想: 売上高10,492百万円、営業利益1,948百万円、経常利益1,366百万円、当期純利益925百万円 。
    • 第1四半期実績: 売上高(24.2%)、営業利益(27.1%)、経常利益(30.1%)、四半期純利益(30.1%)と、経常利益以下はすでに30%以上の進捗率で推移しており、堅調と言える 。
  • 経営陣の評価:
    • 第1四半期の実績は、経営陣が掲げた「増収」と「増益(営業利益)」を達成しており、特に物件取得戦略の実行力は高く評価できる 。
    • しかし、経常利益と純利益が減益となった要因である「貸出金利上昇」は、外部環境の変化であり、ある程度予測可能だったはずである 。にもかかわらず、通期予想の修正は行われなかった 。これは、今後の物件取得における金利コストの見積もりを織り込んでいるか、あるいは期末にかけての物件売却益などで挽回できると判断している可能性がある。
    • 今回の決算は、事業の好調さと資本コスト増という2つの側面を浮き彫りにした。経営陣は、後者のリスクに対する投資家への明確なコミュニケーションと、それを打ち消すほどの事業成長戦略を提示する必要がある。

6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

強気シナリオ:

  • 前提条件:
    • マクロ経済: 賃貸不動産市場の需要が引き続き堅調で、賃料の上昇トレンドが継続する。
    • 金利環境: 政策金利の引き上げが止まり、長期金利も安定して推移する。
    • 事業運営: 取得した新規物件の入居率が計画を上回り、不動産管理事業の管理戸数も増加ペースを維持する。
  • 予測レンジ: 売上高10,800~11,200百万円、営業利益2,000~2,100百万円。
  • カタリスト:
    • 大型物件の追加取得発表。
    • 賃貸仲介事業の収益性向上。
    • 京都水族館イベントのような入居者向け施策がブランド価値向上と入居率改善に繋がること。

基本シナリオ:

  • 前提条件:
    • マクロ経済: 現在の景気環境が緩やかな回復を続け、賃貸市場も安定。
    • 金利環境: 金利は緩やかに上昇するものの、急激な変動はない。
    • 事業運営: 計画通りの物件取得と入居率を維持し、人件費等のコスト増を売上増で吸収する。
  • 予測レンジ: ほぼ会社計画通り。売上高10,400~10,600百万円、営業利益1,900~2,000百万円。
  • カタリスト:
    • 第2四半期以降の決算で、金利コスト増に対する具体的な対策や、物件取得の進捗が示されること。
    • 自社物件入居率が98.2%以上の高水準を維持すること 。

弱気シナリオ:

  • 前提条件:
    • マクロ経済: 景気減速により賃貸市場の需要が後退し、空室率が上昇、賃料が下落する。
    • 金利環境: 金利上昇が続き、特に長期借入金にかかる支払利息が大幅に増加する。
    • 事業運営: 賃貸事業での競争激化により物件取得が難航するか、高値掴みが発生し、収益性が悪化する。
  • 予測レンジ: 売上高10,000~10,300百万円、営業利益1,700~1,800百万円。
  • リスク:
    • 財務レバレッジの高さが問題視され、株価にネガティブな影響を与える。
    • 賃料下落や空室率上昇による収益性の悪化。
    • 金利コスト増が、物件取得による収益増を上回り、事業成長を阻害すること。

7. バリュエーション(企業価値評価)

  • 相対評価法(競合他社比較):
    • 同社は不動産管理・賃貸事業を両輪とするビジネスモデルであり、類似企業として上場不動産管理会社や地方の賃貸業会社が挙げられる。
    • 一般的に、賃貸管理・仲介業はストック収益が主体のため、PERは比較的高く評価される傾向がある。一方で、賃貸事業は資産規模が大きくなるためPBRやEV/EBITDAも重要な指標となる。
    • 同社の現在のPERは、市場平均や類似企業と比較して妥当な水準か。経常利益の減益トレンドが続く場合、収益性の鈍化が懸念され、プレミアムはつきにくいと判断する。
  • 絶対評価法(簡易DCF法):
    • 簡易的なDCF法を適用する場合、以下の仮定を置く。
      • WACC: 借入金利(負債コスト)は今後も上昇する可能性を考慮し、5%と仮定。
      • 永久成長率(g): 賃貸市場の安定性を考慮し、1.0%と仮定。
      • フリーキャッシュフロー(FCF): 今期末の純利益925百万円をベースとし、今後3年間は年率5%で成長すると仮定。
    • この場合、企業価値は WACCや成長率のわずかな変動に大きく左右される。特に、物件取得という成長投資に伴う設備投資額が大きく、将来のFCFを正確に見積もることは困難である。そのため、現時点でのDCF法による理論株価の算出は控える。

8. 総括と投資家への提言

総括: 株式会社長栄の2026年3月期第1四半期決算は、本業である不動産管理・賃貸事業が順調に成長していることを示す内容であった。特に、積極的な物件取得が収益に貢献し、売上高と営業利益は堅調に推移している。しかし、外部環境の変化、特に金利上昇による支払利息の増加が経常利益以下を圧迫し、利益の伸びを鈍化させている点が最大の懸念事項である。

投資家への提言: 本決算は、企業の成長ドライバーが健全に機能していることを示唆する一方で、その成長を支えるための資金調達コストが利益を浸食しているという二律背反の状況を浮き彫りにした。この状況を考慮し、当社の投資スタンスは**「中立」**とする。

今後の投資判断において、投資家が注視すべき最重要KPIとイベントは以下の通りである。

  • 最重要KPI:
    • ROICとWACCの乖離: 積極的な成長投資(物件取得)が、本当に資本コストを上回るリターンを生み出しているか。新規物件の取得コスト、入居率、賃料収入の推移から、ROICの動向を定期的に監視する必要がある。
    • 支払利息の動向: 借入金利の上昇が続く中で、支払利息が今後も利益を圧迫するのか、それとも物件取得による収益増がこれを上回るのか。
    • 物件入居率の維持: 特に滋賀の大型物件「クレスト草津」をはじめとする新規取得物件の入居率が、高水準を維持できるかが今後の収益の鍵を握る。
  • 最重要イベント:
    • 次四半期決算での通期業績予想の修正有無: 経常利益の減益要因である金利上昇について、経営陣がどう判断し、通期計画にどう反映させるか。
    • 新たな物件取得の発表: どのような物件を、どのような条件で取得するか。その物件がポートフォリオにどのような影響を与えるか。

長栄は安定したビジネスモデルを持つ優良企業だが、金利上昇という逆風下で、いかに資本効率を高め、持続的な企業価値創造を実現できるか、経営陣の手腕が問われる局面にある。次なる一手を見極めるまで、慎重なモニタリングを推奨する。

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