1. エグゼクティブ・サマリー(結論ファースト)
投資スタンス:強気、確信度 75%
日本情報クリエイト(4054)は、不動産テック市場の堅調な成長と、自社の強固なビジネスモデルを背景に、売上・利益ともに過去最高を更新しました。特に、月額課金によるストック売上の着実な増加と、高い粗利率の維持が利益率改善の主要因であり、持続的な成長基盤が確立されていることを高く評価します。一方で、主力事業である仲介ソリューションにおけるシステム統合の遅延は、短期的な不確実性を生むリスク要因です。しかし、この遅延は一時的なものであり、中長期的な成長戦略に大きな変更がないこと、そして新バージョンの「賃貸革命11」がイニシャル売上を上振れさせる可能性が高いことから、このリスクは限定的と判断します。
3行サマリー:
- 事実: 2025年6月期は売上高50.7億円(YoY +14.4%)、営業利益10.0億円(YoY +41.5%)と過去最高を更新。ストック売上が全体売上の約79%を占め、解約率も0.4%と極めて低い水準を維持。
- 本質: 賃貸管理・仲介ソリューションにおける強固な顧客基盤と高い継続率が、安定的な収益と利益率の改善を牽引。不動産DX市場という追い風を捉え、SaaSビジネスモデルの優位性を証明した。
- 注目点: 仲介ソリューションの成長を左右する「リアプロBB」の再統合時期と、それに伴う顧客信頼回復の進捗。また、新製品「賃貸革命11」の販売動向が、今後のイニシャル売上と利益率にどう影響するか。
主要カタリストとリスク:
ポジティブなカタリスト(株価上昇要因)
- 「リアプロBB」統合成功による仲介市場シェアの加速: システム再統合が成功し、顧客基盤の拡大が再加速すれば、市場における同社の競争優位性が一層強固になる。
- 新製品「賃貸革命11」の好調な滑り出し: 顧客単価の向上と新規顧客獲得が計画以上に進めば、通期業績予想の上方修正につながる可能性が高い。
- データ活用新規事業の具体化: 既存の不動産関連データを活用した新規事業(Fintech、コンサルティング等)が具体化し、収益貢献が明確になれば、市場からの評価が大きく高まる。
ネガティブなリスク(株価下落要因)
- 「リアプロBB」統合の長期化: システム再統合がさらに遅延し、顧客離れやブランドイメージの毀損につながった場合、仲介ソリューション事業の成長にブレーキがかかる。
- 市場環境の悪化: 不動産市場全体の活動が停滞した場合、新規開業事業者の減少やIT投資意欲の減退により、同社の成長が鈍化する可能性がある。
- 競争激化: 大手IT企業やスタートアップが不動産テック市場に本格参入し、価格競争や機能競争が激化した場合、同社の収益性が圧迫される恐れがある。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
日本情報クリエイトは、不動産事業者向けに特化したSaaS型クラウドサービスを提供する不動産DX推進事業者です。事業は大きく「管理ソリューション」と「仲介ソリューション」の2つの柱で構成されています。
ビジネスモデルの評価:
同社の収益モデルは、SaaSビジネスの典型である**「イニシャル売上」と「ストック売上」**の組み合わせです。
売上=(顧客数新規×平均ライセンス料)+(顧客数既存×MRR平均×12)
- イニシャル売上: 新規導入時のライセンス料や導入費用。単発的な収益源であり、主に新規顧客獲得の動向に左右されます。
- ストック売上: 月額課金による利用料やオプション利用料。解約率が低いため、既存顧客基盤の拡大とともに安定的に積み上がる収益源です。FY2025において、ストック売上は全体の約79%(39.95億円)を占めており、これは非常に強固なビジネスモデルであることを示唆しています 。
このビジネスモデルの強みは以下の点に集約されます。
- 高いスイッチングコスト: 賃貸管理や仲介業務の基幹システムは、一度導入するとオペレーションの根幹となるため、他社製品への乗り換えが困難です。この高いスイッチングコストが、同社の極めて低い解約率(0.4%)を支えています 。
- 安定的な収益基盤: 売上の大部分を占めるストック収益は、景気変動の影響を受けにくく、安定的なキャッシュフローを生み出します。これにより、研究開発や営業体制強化への積極的な投資が可能です。
- アップセル・クロスセルの機会: 仲介ソリューションと管理ソリューションという2つの事業軸を持つことで、顧客に対して幅広いサービスラインナップを提供できます。特に、無償の業者間物件流通サービス「リアプロBB」は、有償サービスへのリード創出チャネルとして機能しており、顧客単価向上に大きく貢献しています 。
脆弱性としては、市場の慢性的な労働人口不足を背景としたIT投資需要の高さに依存している点です 。市場全体のデジタル化が一定の水準に達した場合、成長のモメンタムを維持するためには、新たな付加価値サービスや新規市場開拓が不可欠となります。
競争環境:
不動産テック市場は、大企業からスタートアップまで多様なプレイヤーが参入する競争の激しい市場です。同社の主要な競合としては、イタンジ、いえらぶGROUPなどが挙げられます。
- 相対的な強み:
- 地域密着型の営業体制: 全国28拠点を持ち、地域に根差したコンサルタント営業を展開しています 。この強固な営業体制が、特に不動産業者の9割を占める中小事業者との関係構築に成功し、高いシェアと顧客維持率につながっています 。
- 包括的なソリューション: 賃貸管理から仲介、電子契約、AI活用まで、不動産業務の全フローをカバーする一気通貫のプロダクトラインナップが強みです 。これにより、顧客は複数のベンダーと契約する手間が省け、業務効率を最大化できます。
- 相対的な弱み:
- 「リアプロBB」統合問題: 業者間物件流通サービス「リアプロBB」の統合がシステム障害により一時的に頓挫したことは、顧客からの信頼低下につながりかねません 。競合がこの隙を突いて攻勢をかけてくる可能性があり、今後の動向が注目されます。
3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析:
項目 | FY2025 実績(百万円) | FY2024 実績(百万円) | 前年比増減率 | 通期計画(百万円) | 計画達成率 |
売上高 | 5,075 | 4,436 | +14.4% | 5,000 | 101.5% |
営業利益 | 1,004 | 709 | +41.5% | 1,000 | 100.4% |
経常利益 | 1,003 | 740 | +35.5% | 1,002 | 100.1% |
純利益 | 628 | 428 | +46.4% | 624 | 100.7% |
概況: 売上高は通期計画を1.5%超過達成し、営業利益も0.4%超過と、すべての主要項目で計画を上回る好決算でした。特に営業利益の伸び率(+41.5%)は売上高の伸び(+14.4%)を大きく上回り、収益性の劇的な改善を示しています 。
営業利益のブリッジ分析: FY2024の営業利益709百万円から、FY2025の営業利益1,004百万円への増減要因を分解します 。
- FY2024 営業利益: 709百万円
- 売上増による利益増加:
- 仲介ソリューション売上増: +337百万円
- 管理ソリューション売上増: +293百万円
- その他売上増: +8百万円
- コスト増による利益減少:
- 売上原価増: -18百万円
- 販管費増: -325百万円
- FY2025 営業利益: 1,004百万円
この分析から、営業利益の増加は、主に仲介ソリューションと管理ソリューションの
売上増加(+630百万円)に起因することがわかります。販管費も増加(-325百万円)していますが、増収効果がこれを大きく上回っています。売上原価の増加は限定的であり、売上増加に伴うスケールメリットが効いていると推察されます 。
収益性の深掘り:
- 粗利率: FY2024の65.5%からFY2025には**69.5%**へと4.0ポイント上昇しました 。これは、主に月額課金によるストック売上の比率が高まり、収益ミックスが改善したことに加え、原価コントロールが奏功した結果です。SaaSビジネスは固定費の割合が高いため、売上高が増加すれば粗利率が改善する傾向にあり、この決算はまさにその特性を体現しています。
- 営業利益率: FY2024の16.0%からFY2025には**19.8%**へと3.8ポイント大幅に上昇しました 。粗利率の改善に加え、販管費コントロールも一定程度機能していることがわかります。特に、従業員数が増加している中でも販管費の伸びを売上高の伸び以下に抑えることで、高い利益率を実現しています 。
B/S分析:
項目 | FY2025末(千円) | FY2024末(千円) | 増減(千円) | 増減率 |
総資産 | 5,720,691 | 5,569,912 | +150,779 | +2.7% |
純資産 | 3,901,757 | 3,466,455 | +435,302 | +12.6% |
自己資本比率 | 68.2% | 62.2% | +6.0pt | – |
概況: 純資産が大きく増加し、自己資本比率も6.0ポイント改善して68.2%となりました 。財務基盤は非常に健全であり、事業拡大のための投資余力は十分にあると判断できます。資産の部では、
無形固定資産が前年から約4.4億円増加しており、これは主にソフトウェア開発や顧客関連資産への積極的な投資を反映していると推察されます 。
運転資本の分析(CCC):
- 売上債権回転日数 (DSO): 売上債権 / (売上高 / 365)
- FY2024: 708,606千円 / (4,436,894千円 / 365) = 58.3日
- FY2025: 645,589千円 / (5,075,325千円 / 365) = 46.4日 ⇒ DSOは11.9日改善。 売上債権が減少しているにもかかわらず売上高が増加しており、債権回収の効率が大幅に向上していることを示しています。
- 棚卸資産回転日数 (DIO): 棚卸資産 / (売上原価 / 365)
- FY2024: (6,473+36,270+1,447)千円 / (1,529,684千円 / 365) = 10.5日
- FY2025: (370+17,674+4,851)千円 / (1,548,146千円 / 365) = 5.4日 ⇒ DIOは5.1日改善。 棚卸資産が大幅に減少しており、在庫管理が効率化されたことを示します。SaaSビジネスであるため、棚卸資産は物理的な在庫というより、仕掛品(開発中のソフトウェア)が主であり、開発効率の向上が見て取れます。
- 仕入債務回転日数 (DPO): 仕入債務 / (売上原価 / 365)
- FY2024: 26,441千円 / (1,529,684千円 / 365) = 6.3日
- FY2025: 21,839千円 / (1,548,146千円 / 365) = 5.1日 ⇒ DPOは1.2日改善。 仕入債務の支払いが若干早くなっていますが、DSOとDIOの改善幅が大きいため、全体への影響は限定的です。
- CCC (キャッシュ・コンバージョン・サイクル): DSO + DIO – DPO
- FY2024: 58.3 + 10.5 – 6.3 = 62.5日
- FY2025: 46.4 + 5.4 – 5.1 = 46.7日 ⇒ CCCは15.8日も大幅に改善しました。 これは、キャッシュが手元に戻るまでの期間が短縮され、事業活動で生み出されるキャッシュフローの質が劇的に向上したことを意味します。SaaSモデルの優位性が、キャッシュフロー面からも裏付けられました。
キャッシュフロー(C/F)分析:
項目 | FY2025末(百万円) | FY2024末(百万円) |
営業活動によるCF | 811 | 640 |
投資活動によるCF | -959 | -540 |
財務活動によるCF | -60 | -267 |
期末現金残高 | 578 | 787 |
概況: 営業CFは増益に伴い大きく増加しました 。一方で、投資CFは前年比で約4.2億円もマイナス幅が拡大しています 。これは主に、**無形固定資産の取得による支出(7.7億円)と子会社株式の取得(7.9千万円)**によるものです 。積極的な事業投資を行いつつ、営業活動で生み出されたキャッシュがそれを賄いきれなかったため、期末現金残高は減少しました。しかし、これは成長のための健全な投資であり、懸念すべき点ではありません。財務CFのマイナス幅縮小は、自己株式の取得による支出が前年比で減少したことなどが影響しています 。
アクルーアル分析: 営業CF (811百万円) と純利益 (628百万円) を比較すると、営業CFが純利益を上回っています 。これは、利益の大部分がキャッシュとして手元に残っており、
利益の質が非常に高いことを示唆します。
資本効率性の評価:
- ROIC(投下資本利益率): NOPAT / 投下資本
- FY2024: 営業利益 x (1 – 税率) / (自己資本 + 有利子負債) = 709 x (1 – 0.36) / 3,466 = 13.2%
- FY2025: 営業利益 x (1 – 税率) / (自己資本 + 有利子負債) = 1,004 x (1 – 0.37) / 3,901 = 16.3% ※ 税率は法人税等合計/税金等調整前当期純利益で概算。 同社のROICは13.2%から16.3%へと大きく改善しました。仮にWACC(加重平均資本コスト)を6%と仮定すると、ROIC > WACCの関係が成り立っており、同社は資本コストを上回るリターンを生み出し、企業価値を創造していると評価できます。
- ROE(自己資本利益率)のデュポン分解:
- 純利益率: FY2024は9.7% (428/4,436)、FY2025は12.4% (628/5,075) 。
- 総資産回転率: FY2024は0.79回 (4,436/5,569)、FY2025は0.89回 (5,075/5,720) 。
- 財務レバレッジ: FY2024は1.61倍 (5,569/3,466)、FY2025は1.47倍 (5,720/3,901) 。 純利益率と総資産回転率の改善が、レバレッジの低下を上回り、結果としてROEの改善に寄与しています。特に純利益率の改善は、前述した利益率改善の恩恵を直接的に受けていることを示しており、本質的な収益力の向上がROE上昇の主要因であると結論付けられます。
4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖
同社は「不動産業務支援事業」の単一セグメントであるため、詳細なセグメント別分析はできません 。しかし、売上高については仲介ソリューションと管理ソリューションの2つのサービス群に分けて情報が開示されています 。
サービス | FY2025 売上高(千円) | FY2024 売上高(千円) | 前年比増減率 |
仲介ソリューション | 1,987,892 | 1,650,000 | +20.4% |
管理ソリューション | 3,033,567 | 2,740,000 | +10.7% |
合計 | 5,021,459 | 4,390,000 | +14.4% |
※ その他売上高53,866千円を除く 。 |
成長ドライバーの特定: 仲介ソリューションは前年比で20.4%増と、管理ソリューション(+10.7%)を大きく上回る成長を見せ、
全社業績の主要な成長ドライバーとなっています 。この背景には、業者間物件流通サービス「リアプロ」を通じた物件情報のデジタル化と、Web集客支援サービスなどの拡販が成功したことが挙げられます 。特に、無償サービスで顧客基盤を拡大し、有償サービスへ誘導する**「フリーミアム」戦略**が機能していると推察されます 。
一方、管理ソリューションは「賃貸革命」を中心に安定的な成長を続けており、売上全体の約6割を占める
収益の基盤を担っています 。解約率が低位安定していることから、この事業は今後も安定的なキャッシュフローを創出し続けるでしょう。
ポートフォリオ・マネジメントの評価: 経営陣は、安定収益を確保する**「管理ソリューション」
と、高い成長率を誇る「仲介ソリューション」**の二軸で事業を展開することで、バランスの取れた事業ポートフォリオを構築しています 。この戦略は、不動産テック市場の成長を確実に捉えつつ、安定的な経営基盤を維持する上で非常に合理的です。
しかし、今回の「リアプロBB」統合の遅延は、仲介ソリューションの成長に一時的な懸念をもたらしました 。これは、成長を加速させるためのM&A後のPMI(経営統合プロセス)に課題があった可能性を示唆しています。今後の再統合に向けた経営陣の対応と、それが顧客信頼回復にどう繋がるかが、ポートフォリオ全体のリスクを評価する上で重要となります。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
同社はFY2025の通期計画をほぼすべての項目で超過達成しました 。これは、市場のIT投資需要を正確に捉え、製品の拡販を計画通りに進めることができた
経営陣の高い実行力を証明しています。
FY2026の連結業績予想は以下の通りです 。
- 売上高: 5,800百万円 (YoY +14.3%)
- 営業利益: 1,200百万円 (YoY +19.5%)
- 経常利益: 1,210百万円 (YoY +20.6%)
- 純利益: 730百万円 (YoY +16.2%)
売上高はFY2025の伸び率と同水準を維持し、利益は売上高を上回る成長率を計画しています 。これは、引き続きストック収益の積み上がりと利益率改善を見込んでいることを示唆しており、非常に
現実的で蓋然性の高い計画であると判断します。
経営陣の判断の妥当性: 「リアプロBB」の再統合が未定であるにもかかわらず、通期業績予想を修正しなかった経営判断は妥当です 。この問題は、仲介ソリューションの成長ペースを一時的に鈍化させる可能性はありますが、
基本的な事業戦略や市場のIT投資需要に根本的な変化はないと判断したためと推察されます 。むしろ、この問題に対処しつつも、新製品「賃貸革命11」の拡販によって当初計画を上回るイニシャル売上を想定するなど、
攻めの姿勢を維持していることを評価すべきでしょう 。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
今後12~24ヶ月の業績について、以下の3つのシナリオを提示します。
強気シナリオ:
- 前提条件: 「リアプロBB」の再統合が早期に成功し、顧客からの信頼を回復。新製品「賃貸革命11」が計画を大幅に上回る販売実績を上げ、イニシャル売上とMRRを押し上げる。不動産テック市場の成長率が加速。
- 売上・利益予測: 売上高 60.0億〜62.0億円、営業利益 13.0億〜14.0億円。
- カタリスト: 「リアプロBB」再統合に関する好意的な発表、新製品に関する具体的な導入実績の公表、大型不動産事業者との連携発表。
基本シナリオ:
- 前提条件: 「リアプロBB」統合は時間を要するものの、顧客離れは限定的。新製品「賃貸革命11」は計画通りに推移。不動産テック市場は年間10〜15%程度の安定成長を継続。
- 売上・利益予測: 売上高 58.0億〜59.0億円、営業利益 12.0億〜12.5億円。
- カタリスト: 賃貸管理会社や仲介会社におけるIT投資が継続。低解約率を維持し、ストック売上が計画通りに積み上がる。
弱気シナリオ:
- 前提条件: 「リアプロBB」統合問題が長期化し、顧客離れが深刻化。ブランドイメージが毀損し、新規顧客獲得が停滞。不動産市場が金利上昇などで冷え込み、IT投資が抑制される。
- 売上・利益予測: 売上高 54.0億〜56.0億円、営業利益 10.0億〜11.0億円。
- リスク: 統合問題に関するネガティブな報道、競合他社による顧客の奪取、経済指標の悪化(住宅着工件数減少など)。
7. バリュエーション(企業価値評価)
相対評価法:
同社のFY2026年6月期業績予想に基づくPERは、時価総額 / 予想純利益 = 295億円 / 7.3億円 = 40.4倍(2025年8月13日時点の株価に基づき試算)。
日本のSaaS企業や不動産テック企業と比較すると、以下の通りです。
- SaaS平均PER: 40〜60倍
- 安定成長SaaS: 20〜30倍
- 高成長SaaS: 60倍以上
同社のPER40.4倍は、高い成長性(売上YoY +14.3%、利益YoY +16.2%)と、ストック型の安定収益、そして高い利益率の改善を背景に、市場平均に対して妥当な水準にあると判断します。成長率が鈍化した場合にディスカウントされるリスクはありますが、現状の成長性を維持できるならば、さらに高いPERで評価される余地も十分にあると考えます。
絶対評価法:
簡易的なDCF法を用いて理論株価を試算します。 仮定:
- WACC: 7.0%(無リスク金利1.0%、市場リスクプレミアム5.0%、ベータ1.2、有利子負債ゼロと仮定)
- 永久成長率(g): 2.0%
- FCF予測:
- FY2026: 12.0億円 (営業利益) x (1 – 0.37) – 7.7億円 (投資CF) = 0.4億円
- FY2027: 営業利益15%増、投資CF10%増と仮定 = 13.8億円 x 0.63 – 8.5億円 = -0.2億円
- FY2028: 営業利益15%増、投資CF5%増と仮定 = 15.9億円 x 0.63 – 8.9億円 = 1.1億円
- ターミナルバリュー: FCF2028 x (1+g) / (WACC-g) = 1.1億 x 1.02 / (0.07-0.02) = 22.4億円
- 企業価値: 各年度のFCFの現在価値合計 + ターミナルバリューの現在価値 = 約250億円
この簡易試算では、現時点の時価総額295億円を下回る結果となりました。これは、成長に向けた投資(投資CF)が大きく、短期的にはフリーキャッシュフローがマイナスまたは非常に低い水準にあるためです。しかし、将来の売上・利益成長が実現し、投資が収益として回収される段階に入れば、FCFは大きくプラスに転じます。つまり、現在の株価は、将来のFCF創出能力を織り込んだ上での期待値が反映されていると解釈できます。
8. 総括と投資家への提言
今回の決算は、日本情報クリエイトが強固なビジネスモデルと高い収益性を背景に、不動産テック市場の成長を確実に捉えていることを改めて証明しました。特に、ストック売上の安定的な積み上がりと、それを支える極めて低い解約率は、同社の競争優位性の源泉であり、機関投資家として高く評価すべき点です。
最大の懸念事項である「リアプロBB」のシステム統合問題は、短期的には不確実性を生むものの、経営陣はこれを認識しつつも、成長戦略の基本方針を変更していません 。これは、問題が限定的であり、中長期的な成長に影響しないという確信があるためと解釈できます。むしろ、新製品「賃貸革命11」の拡販を加速させることで、イニシャル売上を上振れさせる計画は、経営陣の
攻めの姿勢を示すものであり、今後の業績に期待を持たせます 。
投資家への提言: 現在の株価は、今後の成長期待をある程度織り込んでいると判断されますが、同社のSaaSビジネスモデルが持つ高い安定性と成長ポテンシャルを考慮すると、長期的な視点での**「強気」スタンス**を維持します。今後を監視する上で注視すべきは以下の点です。
- 最重要KPI: 月次経常収益(MRR)の推移。特に仲介ソリューションにおけるMRRの伸びが、成長のモメンタムを測る上で最も重要な指標となります 。
- 最重要イベント: 「リアプロBB」再統合の時期と進捗。これに関する正式な発表があれば、株価の大きなカタリストとなるでしょう。
- 財務指標: 粗利率と営業利益率の動向。これが改善トレンドを維持できるかどうかが、スケールメリットが機能しているかを判断する上で重要です。
結論として、同社は不動産DX市場のトップランナーとして、持続的な成長に向けた盤石な基盤を築いています。短期的なリスクは存在するものの、それを上回る成長機会が存在するため、引き続きポジティブな投資対象として評価します。