1. エグゼクティブ・サマリー
投資スタンス:中立(確信度60%)
ビーブレイクシステムズの2025年6月期決算は、売上高が前期比微減、営業利益が大幅減益となり、一見するとネガティブな内容に見える 。しかし、これは成長に向けた先行投資(人件費増加)と、パッケージ事業における一時的な反動減という構造的な要因に起因するものであり、将来の成長のための「成長痛」と捉えるべきだと考えられる 。特に、利益率の高いパッケージ事業の売上が計画を下回った一方で、システムインテグレーション事業は堅調に推移し、事業ポートフォリオの分散効果が発揮された点は評価できる 。今後の焦点は、先行投資によって獲得したリソースを、2026年6月期に計画されているパッケージ事業の大口案件でいかに効率的に活用し、収益性の高い事業構造へと転換できるかにある 。現時点では、その成否は不透明であり、投資スタンスは「中立」と判断する。
3行サマリー:
- 事実: 2025年6月期は、パッケージ事業の反動減と先行投資による人件費増加で減収減益となった 。
- 本質: 成長に向けた戦略的な先行投資フェーズであり、パッケージ事業の大口案件受注やシステムインテグレーション事業の堅調さなど、将来の成長の布石は打たれている 。
- 注目点: 2026年6月期の業績予想達成に向けて、いかに先行投資が売上・利益として結実するか。特に、パッケージ事業における大規模案件の開発進捗とSaaS版の拡大動向を注視する 。
主要カタリストとリスク:
- カタリスト:
- パッケージ事業における大口案件のスムーズな開発・売上計上: 2025年4月に受注した過去最大規模の案件の進捗が、2026年6月期の業績を大きく左右する 。
- SaaS版へのシフト成功とストック収益の積み上がり: SaaS版の販売強化が奏功し、高利益率のストック型収益が拡大すれば、収益構造の安定化と利益率向上に繋がる 。
- 先行投資した人件費の効率的な活用: 増加した社員数がパッケージ事業の開発リソースとして機能し、生産性の向上に寄与すれば、利益率の改善が加速する 。
- リスク:
- 大口案件の開発遅延やトラブル: パッケージ事業の大口案件で開発遅延や予期せぬ追加コストが発生した場合、業績予想の未達リスクが高まる 。
- パッケージ事業のSaaS版への移行が想定通り進まない: SaaS版の新規受注が計画を下回った状況が継続すれば、中長期的な成長戦略に遅れが生じる 。
- システムインテグレーション事業におけるエンジニア不足の深刻化: 堅調なIT需要に対し、人員をパッケージ事業にシフトさせる方針が裏目に出れば、安定収益源であるSI事業の売上が低下する可能性がある 。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
ビーブレイクシステムズは、主に法人向けソフトウェア事業を展開する企業であり、以下の2つの事業セグメントから構成されている 。
- パッケージ事業:
- 事業内容: サービス業向けクラウドERP「MA-EYES」の開発・販売 。
- 収益モデルの評価: 売上は「フロー型」と「ストック型」の2つのモデルで構成される 。
- フロー型: 初期導入費用(一括導入版) 。
- ストック型: 保守費用、月額利用料(SaaS版)、追加開発費用 。
- 強み:
- 業界特化型: 「労働集約型・プロジェクト型」のサービス業に特化しており、汎用的なERPパッケージではカバーしきれないニッチな需要に対応できる 。この専門性が、高いスイッチングコストを生み出し、既存顧客からの安定的なリピート受注に繋がっている 。
- 開発実績: 2005年から「MA-EYES」を開発・販売しており、20年近い実績とノウハウの蓄積がある 。
- 財務健全性: 創業以来23期連続で黒字計上しており、約17億円の現預金を持つ健全な財務基盤は、安定した経営を可能にする 。
- 脆弱性:
- フロー収益の変動性: 一括導入版は大型案件の受注タイミングに売上が依存するため、四半期ごとの売上変動が大きくなる可能性がある 。
- SaaS版の競争激化: DX推進に伴いSaaS型ERP市場は成長しているものの、競合他社も多数参入しており、SaaS版の新規顧客獲得競争は激化する可能性がある 。
- システムインテグレーション事業(SI事業):
- 事業内容: 顧客先でのシステム開発支援やIT技術者派遣 。
- 収益モデルの評価: 売上は技術者のスキルや経験年数に応じた月額単価と稼働時間によって決まる 。
- 強み:
- 安定性: IT需要が堅調であるため、景気変動の影響を受けにくい「安定事業」と位置付けられている 。パッケージ事業の売上変動を補完する役割を担っている。
- 技術ノウハウの蓄積: 多様な技術要素に触れることで、パッケージ事業の開発ノウハウや技術力の向上に貢献している 。
- 脆弱性:
- 人材への依存: 事業の性質上、優秀なエンジニアの確保が不可欠であり、採用や育成コストが収益を圧迫する可能性がある 。
- パッケージ事業へのリソース供給源: 成長戦略として、パッケージ事業の増収に応じてSI事業から人員をシフトさせる方針が示されており、SI事業自体の成長が制限される可能性がある 。
競争環境: 同社の主要製品である「MA-EYES」は、サービス業向けクラウドERPというニッチな市場に特化している。この市場では、大手の総合ERPベンダー(SAP、Oracleなど)や国内のパッケージベンダー(ワークスアプリケーションズ、オービックなど)が競合となるが、ビーブレイクシステムズは「労働集約型・プロジェクト型」のサービス業向けという専門性を武器に差別化を図っている。特に、中堅以上の企業で、自社固有の業務プロセスに合わせたカスタマイズ需要が高い顧客層に対して強みを持つ 。競合と比べた相対的な弱みとしては、製品の認知度やブランド力、開発リソースの規模が挙げられるが、先行投資によって製品機能の拡充と組織体制の強化を図ることで、この差を埋めようとしている 。
3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析: (単位: 百万円)
項目 | 2024/6期 実績 | 2025/6期 実績 | 前期比(%) | 2025/6期 計画 | 計画比(%) |
売上高 | 1,392 | 1,378 | ▲1.0 | 1,373 | +0.3 |
営業利益 | 152 | 110 | ▲27.8 | 102 | +7.7 |
経常利益 | 152 | 112 | ▲26.2 | 105 | +6.9 |
当期純利益 | 136 | 92 | ▲32.7 | 84 | +9.3 |
営業利益率 | 10.9% | 8.0% | -2.9pt | 7.4% | +0.6pt |
- 売上高は計画をわずかに上回ったものの、前期比では減収となった 。これは、パッケージ事業が前期の法改正対応による一時的な受注の反動で大幅減収となったことに対し、SI事業の増収分でカバーしきれなかったためである 。
- 営業利益は前期比で約28%の大幅減益となった 。これは、利益率の高いパッケージ事業の売上減少と、成長に向けた社員数増加・待遇改善による人件費(研究開発費を含む)の増加が主な要因である 。
営業利益のブリッジ分析(2024/6期→2025/6期): (単位: 百万円)
- 2024/6期 営業利益: 152
- ①売上変動:
- パッケージ事業: 売上高 800百万円 → 727百万円 (▲73百万円) 。
- SI事業: 売上高 592百万円 → 651百万円 (+59百万円) 。
- 売上増減合計: ▲14百万円 。
- ②原価変動:
- 売上原価の変動は、売上高の変動分を吸収する形でほぼ横ばい(▲2百万円) 。
- ③販管費変動:
- 主に社員数増加と待遇改善に伴う人件費(研究開発費含む)の増加が要因 。
- 販管費増減合計: ▲26百万円 。
- 2025/6期 営業利益: 152 + (▲14) + (▲2) + (▲26) = 110百万円 。
この分析から、減益の主たる要因がパッケージ事業の売上減少(14百万円)と、それ以上に人件費を中心とした販管費の増加(26百万円)であることが明確に読み取れる 。これは、経営陣が将来の成長を見据え、短期的な収益悪化を許容してでも「人への投資」を優先した結果であり、その戦略の成否が今後の焦点となる 。
収益性の深掘り:
- 粗利率:
- 2024/6期: 659,891千円/1,391,519千円=47.4
- 2025/6期: 643,694千円/1,377,558千円=46.7
- 粗利率はわずかに低下している。これは、利益率の高いパッケージ事業の売上が減少し、相対的に利益率の低いSI事業の売上比率が高まったことが影響していると考えられる 。
- 営業利益率:
- 2024/6期: 152,054千円/1,391,519千円=10.9
- 2025/6期: 109,827千円/1,377,558千円=8.0
- 営業利益率の低下は、粗利率の低下に加え、売上高が微減であるにもかかわらず販管費が大きく増加したことが主因である 。この「売上は微減、コストは増加」という状況は、典型的な先行投資フェーズの特徴であり、この投資が将来の売上・利益拡大に繋がるかどうかが重要である。
B/S分析:
- 総資産は前期末比で約64百万円増加し、22億92百万円となった 。これは主に、当期純利益の計上と有価証券の取得によるものである 。
- 負債合計は前期末比で約5百万円減少し、5億78百万円となった 。これは主に、法人税等の減少に伴う未払法人税等の減少が要因である 。
- 純資産合計は前期末比で約69百万円増加し、17億14百万円となった 。これは、当期純利益の計上に伴う繰越利益剰余金の増加によるものである 。自己資本比率は安定しており、財務の健全性は維持されている 。
運転資本の分析:
- 売上債権回転日数 (DSO):
- 2024/6期: 104,966千円/(1,391,519千円/365日)≈27.6日
- 2025/6期: 93,433千円/(1,377,558千円/365日)≈24.7日
- DSOは改善しており、売上債権の回収効率が向上している。
- 棚卸資産回転日数 (DIO):
- 同社の事業特性上、棚卸資産は非常に小さい項目であり、ここでは分析を省略する。
- 仕入債務回転日数 (DPO):
- 2024/6期: 21,688千円/(731,628千円/365日)≈10.8日
- 2025/6期: 18,724千円/(733,864千円/365日)≈9.3日
- DPOはわずかに減少しており、仕入債務の支払いが若干早まっている。
- キャッシュ・コンバージョン・サイクル (CCC):
- 2024/6期: 27.6日−10.8日≈16.8日
- 2025/6期: 24.7日−9.3日≈15.4日
- CCCは改善しており、資金が運転資本に滞留する期間が短縮されている。これは、売上債権の回収効率向上に起因しており、キャッシュフロー創出力の改善に貢献している。
キャッシュフロー(C/F)分析:
- 営業CF: 1億15百万円(前期比52.1%減) 。これは主に、税引前当期純利益の減少によるものである 。
- 投資CF: ▲14億93百万円(前期比3,735.3%増) 。これは定期預金の預入や有価証券の取得によるものであり、健全な財務基盤を背景に余剰資金を運用している状況が伺える 。
- 財務CF: ▲23百万円(前期比25.0%増) 。これは主に配当金の支払いによるものである 。
- C/Fのストーリー: 本業で創出したキャッシュ(営業CF)を、財務基盤の安定化(配当支払い)と、余剰資金の運用(投資CF)に充てている構造 。当期は投資活動が活発だったため、期末の現金及び現金同等物は大幅に減少している 。
資本効率性の評価:
- ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト):
- ROIC (2025/6期):
- EBIT (営業利益) = 109,827千円
- 税率を実効税率20%と仮定すると、EBIT(1-t) = 109,827∗(1−0.2)=87,862千円
- 投下資本 (IC) = 純資産 + 有利子負債 – 現金同等物
- 有利子負債はほぼないと仮定し、IC ≈ 純資産 = 1,714,468千円
- ROIC = 87,862/1,714,468=5.1
- WACC (加重平均資本コスト):
- 同社は有利子負債が少ないため、WACCはほぼ株主資本コストに等しいと見なせる。
- 株主資本コスト(CAPM) = リスクフリーレート + β × 市場リスクプレミアム。
- 現時点の市場環境で保守的に見積もると、WACCは3-5%程度と仮定できる。
- 評価: ROIC(5.1%)はWACCをわずかに上回っている可能性があり、かろうじて企業価値を創造している状態と言える。しかし、前期のROICは$152,054*(1-0.2) / 1,645,457 = 7.4%$であり、収益性の悪化に伴いROICは大きく低下している。この傾向が続けば、企業価値を破壊するリスクが顕在化する。
- ROIC (2025/6期):
- ROE(自己資本利益率)のデュポン分解 (2025/6期):
- ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
- 純利益率 = 当期純利益 / 売上高 = 91,836千円/1,377,558千円=6.7
- 総資産回転率 = 売上高 / 総資産 = 1,377,558千円/2,292,277千円=0.60回
- 財務レバレッジ = 総資産 / 純資産 = 2,292,277千円/1,714,468千円=1.34倍
- ROE = 6.7% × 0.60 × 1.34 ≈ 5.4%(報告されているROE 5.5%と概ね一致) 。
- 評価: ROEの低下は、主に純利益率の低下に起因している。売上高に対する利益が圧迫されたことが、資本効率の悪化に直結している。今後のROE改善には、先行投資が奏功し利益率を回復させることが不可欠である。
4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖
(単位: 百万円)
セグメント | 2024/6期 売上高 | 2025/6期 売上高 | 前期比(%) | 2024/6期 利益 | 2025/6期 利益 | 前期比(%) |
パッケージ事業 | 800 | 727 | ▲9.1 | 389 | 323 | ▲17.1 |
SI事業 | 592 | 651 | +10.0 | 136 | 154 | +13.5 |
合計 | 1,392 | 1,378 | ▲1.0 | 525 | 477 | ▲9.1 |
- パッケージ事業(重点事業):
- 業績悪化の要因: 売上高は9.1%減、セグメント利益は17.1%減と大きく落ち込んだ 。これは、前期に法改正対応で一時的に高水準だった追加開発案件の反動と、SaaS版の新規受注が計画を下回ったことが主因である 。
- 光明: 一方で、一括導入版の新規受注は計画を上回り、2025年4月には過去最大規模の案件を受注した 。この売上計上は2026年6月期に本格化する見込みであり、来期の成長ドライバーとなることが期待される 。また、開発リソースに余力が生まれたことで、下期に製品・サービス力の向上に向けた研究開発を積極的に行った点も評価できる 。
- システムインテグレーション事業(安定事業):
- 業績好調の要因: 堅調なIT需要を背景に、売上高は10.0%増、セグメント利益は13.5%増と好調に推移した 。パッケージ事業から一部エンジニアをシフトさせたことも増収に寄与している 。
- 役割の再確認: この安定事業が好調だったからこそ、パッケージ事業の減収を一部補い、全社としての減収幅を抑えることができた 。また、パッケージ事業への人員シフトは、まさに事業ポートフォリオのシナジー効果を体現していると言える 。
ポートフォリオ・マネジメントの評価: 経営陣は、利益率が高く成長性が期待されるパッケージ事業を「重点事業」、景気変動に強く安定収益を稼ぐSI事業を「安定事業」と位置付けている 。今回の決算は、このポートフォリオ戦略の有効性を証明したと言える。パッケージ事業の不振を、SI事業の好調で補完し、人員の内部調整もスムーズに行われた 。このバランスの取れたポートフォリオは、短期的には成長痛を伴うものの、中長期的な安定成長には不可欠であり、経営陣の判断は妥当であったと評価できる。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
通期計画との比較: 2025年6月期の実績は、売上高、営業利益、経常利益、当期純利益の全てで修正後の計画を上回る着地となった 。売上高は計画を0.3%超過、営業利益は7.7%超過、当期純利益は9.3%超過である 。
- 要因: パッケージ事業のSaaS版新規受注が計画を下回ったものの、一括導入版が計画を上回り、さらにSI事業が好調に推移したことで、売上高は計画通りに着地した 。また、利益面では、計画策定時には保守的に見ていた部分が上振れしたと推察される。
- 経営陣の評価: 計画を上回って着地したことは評価できる。しかし、本来の成長ドライバーであるSaaS版の新規受注が計画を下回った点は懸念材料であり、経営陣のSaaS事業拡大に対する実行力が問われる。来期に向けた計画では、SaaS版への移行と体制強化を引き続き注力事項として掲げており、この課題に対する明確なコミットメントを示している 。
2026年6月期業績予想の評価: (単位: 百万円)
項目 | 2025/6期 実績 | 2026/6期 予想 | 前期比(%) |
売上高 | 1,378 | 1,408 | +2.2 |
営業利益 | 110 | 142 | +29.3 |
当期純利益 | 92 | 110 | +19.8 |
- 売上高は、パッケージ事業の大口案件寄与により12.6%増収を見込む一方、SI事業はパッケージ事業への人員シフトにより9.4%減収を見込む 。結果として、全社売上高は2.2%増に留まる計画である 。
- 営業利益は、売上増と先行投資効果の顕在化により、29.3%の大幅増益を見込んでいる 。
- 評価: 売上高の伸びは限定的であるものの、利益率改善の蓋然性は高いと判断する。先行投資で増強した人的リソースが、パッケージ事業の大口案件で効率的に活用されれば、利益率の高いパッケージ事業の売上構成比が向上し、大幅な増益は十分に達成可能である 。経営陣の需要予測は妥当であり、この計画の達成を注視していく。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
強気シナリオ:
- 前提条件: DX需要の高まりが継続し、国内ERP市場が堅調に成長 。パッケージ事業の大口案件開発がスムーズに進み、SaaS版の新規受注も計画を大幅に上回る。先行投資した人件費が早期に収益貢献し、一人当たり生産性が大きく向上。
- 売上・利益予測: 売上高14.5億円~15.0億円、営業利益1.6億円~1.8億円。
- カタリスト:
- 大口案件の進捗報告で、売上計上時期の前倒しが発表される。
- SaaS版の新規受注件数が四半期ごとに加速する。
- 「IT導入補助金2025」の活用が奏功し、中小企業向けSaaS版の販売が急増する 。
- M&Aによる事業領域拡大や開発リソースの獲得が発表される。
基本シナリオ:
- 前提条件: 経済環境は緩やかな回復基調を維持し、IT投資需要も安定 。パッケージ事業の大口案件は計画通りに進行するが、SaaS版の新規受注は計画をわずかに上回る程度に留まる。SI事業は人員シフトの影響を受け、微減収となる。
- 売上・利益予測: 売上高14.0億円~14.5億円、営業利益1.4億円~1.6億円。
- カタリスト:
- 2026年6月期業績予想通りの進捗を四半期決算で確認。
- 配当性向引き上げ方針に基づき、株主還元強化の姿勢が評価される 。
- ISMS/ISMSクラウドセキュリティ認証の取得が新規顧客獲得に貢献 。
- リスク:
- パッケージ事業のリピート受注が想定より伸び悩む 。
- 人員シフトによるSI事業の収益性悪化が顕在化する 。
- 成長戦略の要である「人への投資」が非効率に終わり、人件費増が継続的な利益圧迫要因となる 。
弱気シナリオ:
- 前提条件: 世界経済の減速や円安の長期化が国内経済に悪影響を及ぼし、企業のIT投資が抑制される 。パッケージ事業の大口案件で開発トラブルが発生し、売上計上が遅延。SaaS版の顧客獲得競争に敗れ、計画を大きく下回る。SI事業のエンジニア不足が深刻化し、売上が大幅に減少する。
- 売上・利益予測: 売上高13.5億円~14.0億円、営業利益0.9億円~1.1億円。
- リスク:
- 大口案件の売上計上時期延期が発表される。
- SaaS版の販売強化策が奏功せず、SaaS版ユーザー数の伸びが鈍化する。
- 人件費や研究開発費の増加が続き、収益性がさらに悪化する。
- 東証スタンダード市場への市場区分変更申請が遅れる、あるいは基準を満たせないリスクが表面化する 。
7. バリュエーション(企業価値評価)
- 相対評価法:
- 2025年6月期実績EPSは60.35円 。
- 2026年6月期予想EPSは72.29円 。
- 類似企業(サービス業向けソフトウェア開発企業)のPERは一般的に20倍~30倍程度で推移することが多い。
- 2026年6月期予想EPS(72.29円)を基にPER 25倍で評価すると、理論株価は1,807円となる。
- 評価: 同社は安定事業を持つこと、財務基盤が健全であること、今後成長が見込まれるパッケージ事業(特にSaaS版)に注力していることから、業界平均並みのPERで評価されるべきだと考える。
- 絶対評価法:
- 簡易DCF法による理論株価試算:
- 仮定:
- フリーキャッシュフロー(FCF)は、営業利益(1.42億円)に減価償却費(約1.0億円と仮定)を足し、設備投資額(約0.5億円と仮定)を引くことで算出すると、およそ1.9億円。
- 永久成長率(g)を保守的に1.0%と仮定。
- WACCは3.5%と仮定。
- 理論株価(EV): FCF / (WACC – g) = 1.9億円 / (0.035 – 0.01) = 76億円
- 時価総額: EV – 純有利子負債 = 76億円 – (17億円 – 5.8億円) ≈ 64.8億円。
- 発行済み株式数: 1,521,700株 。
- 理論株価: 64.8億円 / 1,521,700株 ≈ 4,258円。
- 仮定:
- 評価: この簡易試算は多くの仮定を含むため参考値に過ぎないが、長期的なキャッシュフロー創出能力を考慮すると、現在の株価水準にはアップサイドがある可能性を示唆している。
- 簡易DCF法による理論株価試算:
8. 総括と投資家への提言
ビーブレイクシステムズの2025年6月期決算は、将来に向けた積極的な投資フェーズの最中にあることを明確に示した。短期的には収益が圧迫されたものの、人員増強や大口案件の受注など、将来の成長に向けた布石は着実に打たれている 。事業ポートフォリオのバランスも機能しており、安定事業が成長事業のリスクを吸収する形となっている 。
核心的な投資魅力:
- 利益率の高いパッケージ事業(特にSaaS版)へのリソース集中と、安定事業であるSI事業とのシナジー 。
- サービス業向けというニッチ市場での高い競争優位性と、DX推進という追い風 。
- 財務基盤の健全性と、増配による株主還元への意欲 。
最大の懸念事項:
- 先行投資が期待通りの売上・利益に繋がらず、収益性の回復が遅れる可能性 。
- SaaS版へのシフトが計画通りに進まず、フロー型収益への依存が続くリスク 。
- 成長の源泉である優秀なエンジニアを継続的に確保・育成できるかという人材リスク 。
投資スタンスと今後の注視点: 現時点では、成長への「期待」と、その実現に向けた「リスク」が均衡していると判断し、**「中立」**のスタンスを継続する。今後の投資判断の変更に向けて、以下の最重要KPIとイベントを注視していく。
- 最重要KPI:
- パッケージ事業のセグメント利益率: 先行投資の成果が最も反映される指標。
- SaaS版の新規受注件数・ユーザー数: ストック型収益の拡大ペースを示す指標。
- SI事業のセグメント利益率: 安定事業としての収益性を維持できているかを示す指標。
- 最重要イベント:
- 2026年6月期における大口案件の開発進捗報告。
- 四半期ごとのSaaS版の新規受注動向。
- 東証スタンダード市場への市場区分変更申請に関する発表。
これらの動向をモニタリングし、成長戦略が軌道に乗ったと判断できる明確な兆候が見られた場合に、初めて「強気」へとスタンスを変更する。