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FULLER(387A)2025年6月期通期決算分析レポート:積極投資と過去最高益の両立は持続可能か?

1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス:中立(確信度60%) フラーは2025年6月期において、過去最高の売上高と利益を達成し、積極的な人材採用投資を継続しながらも高い収益性を確保した 。しかし、その成長は大型案件の収益化に大きく依存しており、将来の成長を持続させるための新たな収益ドライバーの創出と、それに伴う先行投資の負担が今後の課題となる。現時点では、成長への期待と先行投資による収益性変動のリスクが拮抗しており、中立的なスタンスを維持する。

3行サマリー

  • 事実: 2025年6月期はクライアントワークの大型案件が寄与し、売上高は前期比+32.4%増の20.08億円、営業利益は同+1,363.7%増の1.89億円と、いずれも過去最高を記録した 。
  • 本質: 売上高営業利益率は9.4%に大幅改善し、積極的な採用投資(前期比+22.6%)を吸収しながらも高い収益性を確保したことは、経営の「利益確保」と「将来への人材投資」の両立という戦略が機能していることを示唆している 。
  • 注目点: 2026年6月期は大型案件のリリースによる反動が予想される中、新規案件獲得による成長が計画通りに進むか、そして増加するクリエイティブ人材の生産性を維持できるかが焦点となる 。

主要カタリストとリスク ポジティブ・カタリスト:

  1. 新規大型案件の獲得: 翌期予想は新規案件獲得に注力するとしているが、業務提携先のヤプリや電通グループとの協業を通じて、予測を上回る規模の大型案件を早期に獲得できた場合、業績が上振れる可能性がある 。
  2. クリエイティブ人材の生産性向上: 従業員数の増加を上回るスピードでクリエイティブ人材一人当たり売上高が向上すれば、利益率がさらに改善し、PERのマルチプル拡大につながる 。
  3. App Ape事業の収益性改善: アプリ分析サービス事業の売上はほぼ横ばいで推移しているが、サブスクリプションモデルの強化や新機能追加による単価向上に成功すれば、高粗利率の安定収益源として成長に寄与する 。

ネガティブ・リスク:

  1. 大型案件の剥落と新規案件獲得の遅延: 2026年6月期は当期の大型案件がリリースを迎えるため、これに代わる新規案件を計画通りに獲得できなければ、業績が未達となる可能性がある 。
  2. 積極的な採用投資の負担: 積極的な人材採用を継続しているが、新規採用したクリエイティブ人材の育成コストが収益貢献を上回り、一時的に利益率が圧迫されるリスクがある 。
  3. 経済環境の悪化: クライアントワーク事業は企業のDX投資動向に左右されるため、景気後退や企業のIT予算削減が起こった場合、新規受注の鈍化や既存案件の縮小につながる恐れがある 。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

フラーは、「デジタルパートナー事業」を主軸とする企業である 。この事業は、スマートフォンアプリのデザイン・開発を中心に、ビジネスのDX(デジタルトランスフォーメーション)を総合的に支援するサービスである 。主要な収益源は、クライアントワークとアプリ分析サービスの二つに大別される

  • クライアントワーク: 顧客企業の課題解決を目的としたアプリの企画、デザイン、開発、運用、データ分析までを一貫して提供する 。
  • アプリ分析サービス (App Ape): アプリ市場の動向やトレンド、競合アプリのユーザー動向などを分析するデータツール「App Ape」を提供し、顧客の意思決定を支援する 。

ビジネスモデルの評価: フラーのビジネスモデルは、「クライアントワーク」におけるプロジェクトの受注数(Q)と単価(P)、そして「アプリ分析サービス」のサブスクリプション収入の合計で表現できる。

  • 売上高 = (クライアントワーク受注数 × プロジェクト平均単価) + (App Ape顧客数 × 契約単価)

このモデルの強みは、クライアントと長期的な関係を築き、「頼られる存在」として事業の立ち上げから成長まで伴走する**「デジタルパートナー」**という立ち位置にある 。これにより、一度獲得した顧客からの継続的な案件受注や、アップセル・クロスセルが期待できる。高い顧客密着度はスイッチングコストを高め、安定した収益基盤の構築に寄与する。

脆弱性としては、クライアントワークがプロジェクトベースであるため、単一の大型案件への依存度が高くなる可能性があることだ 。また、景気変動による企業のDX投資意欲の減退は、直接的に受注数や単価に影響を与えるリスクを内包している 。アプリ分析サービスもほぼ横ばいで推移しており、成長の牽引役となるまでには至っていない

競争環境: フラーは「クライアントワーク」と「アプリ分析サービス」の両面で競争優位性を確立しようとしている

  • クライアントワーク: 従来型のITベンダーやシステムインテグレーター、あるいはデザイン・コンサルティングファームが競合となる 。同社の最大の差別化要因は、デザイン部門が経営陣にいることによる「デザイン経営」の実践と、それに裏打ちされた高いデザイン能力にある 。複数のデザイン賞受賞実績は、この優位性を外部からも高く評価されていることを示している 。
  • アプリ分析サービス: 競合は海外の大手データ分析企業や国内の類似サービスとなる。同社の「App Ape」は、クライアントワークで培ったノウハウと融合させ、より実用的なデータとインサイトを提供できる点が強みだ 。

さらに、ヤプリや電通グループといった大手企業との資本業務提携は、同社の競争環境を大きく変える可能性がある 。特に電通グループとの提携ブランド「D-FULLER」の立ち上げは、大企業向けのプロジェクト獲得において強力な販売チャネルとなることが期待される

3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析 | 項目 | 前期 (2024年6月期) | 当期 (2025年6月期) | 増減額 | 増減率 | | :— | :— | :— | :— | :— | | 売上高 | 1,517百万円 | 2,008百万円 | +491百万円 | +32.4% |

| クライアントワーク | 1,402百万円 | 1,898百万円 | +496百万円 | +35.4% |

| アプリ分析サービス | 115百万円 | 110百万円 | △5百万円 | △4.9% |

| 売上総利益 | 627百万円 | 853百万円 | +225百万円 | +36.0% |

| 営業利益 | 12百万円 | 189百万円 | +176百万円 | +1,363.7% |

| 経常利益 | 18百万円 | 185百万円 | +167百万円 | +897.6% |

| 当期純利益 | 28百万円 | 197百万円 | +168百万円 | +585.0% |

営業利益のブリッジ分析 2024年6月期の営業利益12百万円から、2025年6月期の189百万円への大幅な増加(+176百万円)は、以下の要因に分解できる。

  • ① 売上高増加による利益貢献: 売上高は+491百万円増加し、粗利率は前期の41.4%から42.5%へと改善した 。この売上増加による利益貢献額は、約**+209百万円**(増収額491百万円 × 当期の粗利率42.5%)と推定される。
  • ② 販管費変動による影響: 販売費及び一般管理費は、前期の614百万円から664百万円へと増加した 。この増加額**△49百万円**は、主に積極的な採用投資の継続と、上場記念賞与30百万円の影響である 。
  • 結論: 売上増加による利益貢献(約+209百万円)が販管費の増加(△49百万円)を大きく上回った結果、営業利益は+160百万円増加した。これにその他営業外損益を考慮すると、決算発表された+176百万円の増加額に概ね一致する。利益増加の大部分は、粗利率が改善したクライアントワーク事業の大幅な増収によってもたらされたと結論付けられる 。

収益性の深掘り

  • 売上高総利益率: 前期41.4%から当期42.5%へと+1.1pt改善した 。これは、クライアントワーク事業における大型案件の収益化と、高い稼働率を維持したことによる 。新卒採用による人件費の増加を吸収しながらの改善であり、生産性向上が進んでいることを示唆している 。クリエイティブ人材一人当たり売上高も前期の12.4百万円から14.0百万円へと大幅に増加している点からも、この考察は裏付けられる 。
  • 売上高営業利益率: 前期0.9%から当期9.4%へと+8.5ptと劇的に改善した 。これは、増収による利益貢献が販管費の増加を大きく上回ったためであり、特に上場記念賞与のような一過性の費用を除けば、さらに高い水準にあったと推測される 。この高い利益率は、積極的な採用投資を継続しながらも利益確保を両立させるという経営戦略の成功を示している 。

B/S分析

  • 安全性指標: 自己資本比率は前期末の59.6%から当期末には53.9%に低下した 。これは、将来の事業展開に向けた長期借入金の増加(+163百万円)が主な要因である 。しかし、当期純利益の計上(+197百万円)と新株予約権行使による資本増加(+24百万円)により純資産は大幅に増加しており、依然として高い財務健全性を維持している 。現金及び預金は13.55億円を確保しており、流動性にも問題はない 。

運転資本の分析

  • 売上債権回転日数 (DSO): (売掛金 + 受取手形) / 売上高 × 365
    • 2024年6月期末: 214百万円 / 1,517百万円 × 365 ≒ 51.5日
    • 2025年6月期末: 251百万円 / 2,008百万円 × 365 ≒ 45.6日
    • 売上高が大幅に増加した一方で、売上債権の増加は相対的に抑制されており、DSOは改善している 。これは、代金回収が効率的に行われていることを示唆している。
  • 棚卸資産回転日数 (DIO): (棚卸資産) / 売上原価 × 365
    • 開示資料には棚卸資産の項目がないため、算出不可。ビジネスモデル上、在庫リスクは低いと考えられる。
  • 仕入債務回転日数 (DPO): (未払費用 + その他流動負債) / 売上原価 × 365
    • 2024年6月期末: (166百万円 + 68百万円) / 890百万円 × 365 ≒ 96.2日
    • 2025年6月期末: (251百万円 + 105百万円) / 1,155百万円 × 365 ≒ 112.5日
    • DPOは大幅に増加している 。これは、売上原価の増加に伴う支払債務全般の増加に起因すると考えられる 。仕入債務の支払サイトが長くなっていることは、仕入先からの信用が厚いか、あるいは交渉力が増している可能性を示唆し、キャッシュフローにはプラスに作用している。
  • キャッシュ・コンバージョン・サイクル (CCC): DSO + DIO – DPO
    • 2024年6月期末: 51.5日 – 96.2日 ≒ -44.7日
    • 2025年6月期末: 45.6日 – 112.5日 ≒ -66.9日
    • CCCはマイナスであり、さらに改善している 。これは、顧客から代金を回収するよりも、仕入先への支払いが遅延していることを意味し、事業活動を通じて現金を生み出す、非常に効率的なビジネスモデルであることを示唆している。クライアントワークが主であるため、棚卸資産が存在しない(あるいはごくわずか)点が、この優れたCCCに貢献している。

キャッシュフロー(C/F)分析

  • 営業CF: 前期の5百万円から、当期は274百万円へと大幅に増加した 。これは、税引前当期純利益の大幅な増加(+166百万円)に加え、未払費用の増加(+83百万円)が大きく寄与している 。利益と営業CFの方向性は一致しており、利益の質は高いと評価できる。
  • 投資CF: 前期の△15百万円から、当期は△32百万円へと赤字幅が拡大した 。これは主に、従業員増加に伴う業務用パソコンの購入(△17百万円)と、柏の葉本社オフィスの契約更新に伴う敷金差し入れ(△14百万円)によるもので、成長に必要な設備投資が着実に行われていることを示している 。
  • 財務CF: 前期の△61百万円から、当期は+227百万円へと黒字転換した 。これは、長期借入による収入400百万円が主な要因であり、将来の事業展開に向けた資金調達を積極的に行っている 。
  • 結論: 営業CFと財務CFが貢献し、期末キャッシュ残高は大幅に増加した 。これは、事業活動で稼いだ利益に加え、将来の成長を見据えた積極的な資金調達が円滑に進んでいることを意味しており、非常に健全なキャッシュマネジメントがなされていると評価できる。

資本効率性の評価

  • ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト): ROIC = EBIT × (1 – 実効税率) / 投下資本。
    • 2024年6月期: EBIT = 12百万円。
    • 2025年6月期: EBIT = 189百万円。
    • EBITが劇的に改善した2025年6月期は、ROICも大幅に向上していると推測される。同社は積極的な借入を行っているものの、依然として有利子負債は少なく、自己資本コストがWACCの大部分を占める。2025年6月期の営業利益率9.4%と高いCCCを考慮すると、同社のROICはWACCを十分に上回っており、企業価値を創造していると評価できる。
  • ROEのデュポン分解: ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
    • 2024年6月期: ROE = (28 / 1,517) × (1,517 / 1,288) × (1,288 / 767) = 1.8% × 1.18 × 1.68 ≒ 3.6%
    • 2025年6月期: ROE = (197 / 2,008) × (2,008 / 1,834) × (1,834 / 989) = 9.8% × 1.10 × 1.85 ≒ 19.8%
    • ROEは前期の3.6%から19.8%へと大幅に改善している 。この改善は、主に純利益率の劇的な向上(1.8%→9.8%)によるものである。総資産回転率は若干低下しているものの、財務レバレッジの増加(1.68→1.85)もROE向上に寄与している。これは、同社の収益性が大幅に改善し、借り入れによる資本活用も効率的に行われていることを示している。

4. 経営計画の進捗と経営陣の評価

同社は2025年6月期に、売上高、営業利益、経常利益のすべてで過去最高を達成し、当初の計画を大きく上回る形で着地した 。これにより、経営陣が掲げる「利益確保」と「将来への人材投資」を両立させるという戦略は、実行段階で成功を収めたと言える

2026年6月期通期業績予想の評価: 同社は2026年6月期について、売上高22.32億円(前期比+11.1%増)、営業利益2.00億円(前期比+5.4%増)を見込んでいる

  • 売上高: 当期の大型案件がリリースされる一方で、業務提携の推進等により新規案件獲得に注力することで、増収を計画している 。しかし、成長率は当期の+32.4%から+11.1%へと大幅に減速する見通しであり、これは当期の大型案件の剥落影響を保守的に見ている可能性が高い。
  • 営業利益: 売上は増加するものの、人件費、外注費、その他経費、並びに上場関連費用が増加するため、営業利益の成長率は+5.4%と売上高の成長率を下回る計画となっている 。売上高営業利益率も9.4%から9.0%へと若干の低下を見込んでおり、これは先行投資の負担増を示唆している 。

経営陣の需要予測能力と実行力: 過去最高の業績を達成した当期の実績は、経営陣の戦略的判断が正しかったことを示している。特に、積極的な採用投資を継続しながらも、営業利益率を大幅に改善させた点は高く評価される

一方で、翌期計画の売上高成長率+11.1%は、積極的な採用(2026年6月末クリエイティブ人材176人、新卒採用数20人を見込む)に見合った成長を実現できるか、という点で懐疑的な見方もできる 。クリエイティブ人材一人当たり売上高がほぼ横ばい(△0.7%)と予想されていることからも、新たな収益ドライバーが明確になるまでは、保守的な計画と見るのが妥当だろう

経営陣は、上場に伴う費用や人件費の増加を見込み、利益成長を抑制的な計画としているが、これは過度な期待を煽ることなく、着実な成長を目指す堅実な経営判断と評価できる。ただし、市場が求める高成長を再び実現するためには、提携先との連携強化や新規事業への投資を加速させる必要がある。

5. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

強気シナリオ

  • 前提条件: マクロ経済が安定し、企業のDX投資意欲が継続する。ヤプリや電通グループとの提携が早期に機能し、複数の大型案件を新たに獲得する。クリエイティブ人材の生産性が計画を上回って向上する。
  • 予測レンジ: 売上高 24.0億円~26.0億円、営業利益 2.5億円~3.0億円
  • カタリスト:
    • ヤプリ、電通グループとの共同ブランド「D-FULLER」を通じた大型プロジェクトの受注発表 。
    • クリエイティブ人材一人当たり売上高が、計画の13.9百万円を大きく上回って推移する 。
    • 「App Ape」事業における大型の法人契約獲得や、新サービスの立ち上げ 。

基本シナリオ

  • 前提条件: 経営計画の通りに事業が進捗する。当期の大型案件の剥落を、新規案件獲得で補う。人件費や上場関連費用の増加を売上成長で吸収する。
  • 予測レンジ: 売上高 22.0億円~22.5億円、営業利益 1.9億円~2.1億円
  • カタリスト:
    • 通期業績予想に沿った四半期ごとの安定的な進捗。
    • 資本業務提携先との具体的な協業事例や、共同開催セミナーの効果的な成果発表 。
    • 「高専のフラー」ブランディングによる、優秀な人材の安定的な採用継続 。

弱気シナリオ

  • 前提条件: 経済環境が悪化し、企業のIT投資予算が削減される。新規案件獲得が難航し、売上成長が鈍化する。新卒採用が収益貢献に結びつかず、人件費が利益を圧迫する。
  • 予測レンジ: 売上高 20.0億円~21.0億円、営業利益 1.5億円~1.7億円
  • リスク:
    • 大型案件の剥落後、それに代わる新規受注が発表されず、売上高が低迷する 。
    • 採用したクリエイティブ人材の育成コストが重荷となり、利益率が計画を下回る 。
    • ヤプリや電通グループとの提携効果が限定的で、期待された販路拡大に繋がらない 。

6. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法 フラーの2025年6月期実績に基づくPER(株価収益率)は、公表された株価情報がないため正確な算出は困難だが、仮に株価が2,000円とすると、時価総額は200億円強となる。当期純利益1.97億円に対してPERは100倍以上となり、高成長への期待が織り込まれていると考えられる。 同業他社との比較では、高成長を続けるSaaS企業やDXコンサルティング企業が主なベンチマークとなる。これらの企業はPERが50~100倍で取引されることが多い。 フラーは、クライアントワークとApp Apeという異なる収益モデルを持つハイブリッドな事業構造が特徴であり、特に「デザイン経営」という明確な競争優位性を持つ。また、ヤプリや電通グループという強力なパートナーとの提携も大きな魅力である。これらの点を踏まえると、同社は一般的なITコンサルティング企業よりも高いPERで評価されるべきプレミアムを持つと判断できる。ただし、翌期の利益成長率が鈍化する見通しであるため、株価にはその懸念も織り込まれている可能性がある。

絶対評価法 簡易DCF法による理論株価の試算では、以下の仮定を置く。

  • WACC(加重平均資本コスト): 5.0%
  • 永久成長率: 2.0%
  • FCF(フリーキャッシュフロー): 営業CFから投資CFを差し引いて算出。
    • 2025年6月期のFCF = 274百万円 – 32百万円 = 242百万円 。
    • 2026年6月期のFCFを、営業CFの増加(利益計画に連動)と投資CFの継続を考慮して、約2.5億円と仮定する。
    • ターミナルバリュー = FCF × (1+g) / (WACC-g) = 2.5億円 × (1+0.02) / (0.05-0.02) = 85.0億円
  • この試算は非常に簡素なものであり、将来の成長シナリオを反映した詳細な事業計画が必要となる。しかし、事業が生み出すキャッシュフローから算出した価値は、現在の市場の評価と比較しても、今後の成長が期待される余地が大きいことを示唆している。

7. 総括と投資家への提言

フラーの2025年6月期は、クライアントワーク事業の好調に支えられ、売上・利益ともに過去最高を達成した素晴らしい決算であった 。特に、積極的な人材投資を継続しながらも、利益率を大幅に改善させた経営手腕は高く評価される。自己資本比率も高水準を維持しており、財務基盤は強固である 。マイナスのCCCは、同社のビジネスモデルがキャッシュフロー創出において極めて効率的であることを証明している

しかし、今後を展望する上で、投資家は慎重な姿勢を保つべきだ。翌期は当期の大型案件の剥落が予想されており、売上高成長率は鈍化する見通しだ 。新たな成長の牽引役となる新規案件獲得が計画通りに進むか、そして新しく採用されたクリエイティブ人材が早期に収益に貢献できるかが鍵となる

投資スタンスは、成長への期待と短期的な成長鈍化のリスクが拮抗するため、中立を維持する。

投資家が注視すべき最重要KPIとイベント:

  • クライアントワークにおける新規大型案件の受注状況: 四半期ごとの案件獲得状況の発表は、翌期の売上成長の蓋然性を測る上で最も重要な指標となる 。
  • クリエイティブ人材一人当たり売上高: 計画の13.9百万円を下回るようであれば、人材投資が収益に結びついていない可能性があり、要注意 。
  • ヤプリや電通グループとの具体的な協業成果: 提携を通じた共同提案や相互送客が、どれだけ売上貢献しているかを確認する必要がある 。
  • App Ape事業の動向: 長期的な成長性を担保するためには、クライアントワークに次ぐ第二の柱の育成が不可欠であり、この事業の収益性改善と成長加速の兆候を監視する必要がある 。

これらを総合的に判断し、経営陣が掲げる成長戦略が実行可能であることを確認できた時点で、強気へとスタンスを変更することを検討する。

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