- エグゼクティブ・サマリー(結論ファースト)
投資スタンス:中立、確信度60% 3行サマリー:サンネクスタグループの2025年6月期決算は、売上高が堅調に増加したものの、前期に計上された特別利益の剥落と、システム開発費用の特別損失計上により、親会社株主に帰属する当期純利益は大幅な減益となった 。基盤事業である社宅・マンションマネジメント事業は堅調に推移している一方で、新たな成長の柱と期待されるインキュベーション事業は依然として先行投資フェーズであり、今後の収益貢献には不透明感が残る 。中期経営計画(2026年6月期〜2028年6月期)で掲げられた「回復」と「投資」のバランス、特に収益構造の変革と将来投資の成果が、今後の企業価値向上の鍵となる 。
主要カタリスト ポジティブ要因: 中期経営計画における「収益構造の変革」が成功し、非労働集約型ビジネスモデル(クラウド型サービス等)の拡大が予想以上に進展する場合 。
新規事業創出のためのM&Aが奏功し、新たな収益源を確立した場合 。
インキュベーション事業の育成が本格化し、売上高と利益率の改善が顕著になった場合 。
ネガティブ要因: 基幹システム開発の再検証・中止に続き、将来に向けたIT投資が遅延または失敗し、オペレーション効率化が進まない場合 。
人件費の上昇が継続し、基盤事業の利益率がさらに圧迫される場合 。
中期経営計画で掲げたストック売上高の成長率(年5%)を達成できず、市場の期待を裏切る場合 。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
サンネクスタグループは、「社宅マネジメント事業」「マンションマネジメント事業」「インキュベーション事業」の3つの報告セグメントで事業を展開している 。
社宅マネジメント事業:企業向けの社宅管理代行業務が中心であり、大手企業を中心に新規受注が堅調に推移している 。収益モデルは、売上 = (管理物件数 × 平均管理費) + (スポットサービス提供件数 × 平均単価)と表現できる。この事業の強みは、ストック型の収益構造であることと、一度導入されると解約に至るまでのスイッチングコストが高いことだ 。企業の福利厚生制度に深く組み込まれるため、安定的な収益基盤を形成している。一方で、人件費が変動費の中心となり、人手不足や賃金上昇が利益率を圧迫する脆弱性を抱えている 。
マンションマネジメント事業:分譲マンションの施設管理や修繕工事等を提供している 。収益モデルは、売上 = (管理戸数 × 平均管理費) + (修繕工事件数 × 平均単価)で構成される。この事業の強みもストック型収益であり、マンションストック数の増加を背景に安定した需要が見込まれる 。特に、経年劣化に伴う共用部の大規模修繕工事は高単価な案件となる。脆弱性としては、新築マンション供給の先細り傾向があることと、管理員等の人件費上昇が利益率に影響を与える点がある 。
インキュベーション事業:住まいを管理する事業者向けサービスプラットフォーム(コールセンター、保険等)を提供している 。この事業は、上記の基盤事業から派生した新しい収益源の創出を目指す、成長投資フェーズにある。収益モデルは、売上 = (サービス契約件数 × 月額利用料) + (付加サービス利用件数 × 単価)となる。脆弱性は、まだ収益基盤が確立されておらず、先行投資負担が大きいことである 。主要顧客の解約が発生するなど、事業再構築の途上にある 。
競争環境 社宅マネジメント事業では、リロ・ホールディングや東急コミュニティーなどの大手企業が競合となる。サンネクスタグループの強みは、長年のノウハウを活かしたきめ細かなコンサルティングサービスにある。マンションマネジメント事業では、マンション管理業界の競争が激化しており、大京アステージや日本ハウズイングなどが主要な競合である。同社は管理戸数の増加を継続しており、ブランド力とサービス品質を武器に市場シェアを拡大している 。インキュベーション事業は、複数のサービスを展開しているため特定の競合は少ないが、各サービス領域で専門のベンチャー企業と競争することになる。
- 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析: | 項目 | 2025年6月期(百万円) | 2024年6月期(百万円) | 前年同期比(%) | |:—:|:—:|:—:|:—:| | 売上高 | 8,695 | 8,371 | +3.9% | | 営業利益 | 742 | 653 | +13.6% | | 経常利益 | 758 | 653 | +16.1% | | 親会社株主に帰属する当期純利益 | 229 | 1,775 | -87.1% |
(出所:決算短信より作成)
営業利益のブリッジ分析(2024年6月期から2025年6月期への変動) 2024年6月期 営業利益: 653百万円
①売上数量/ミックス変動:売上高は8,371百万円から8,695百万円に324百万円増加(+3.9%)しており、事業ポートフォリオの変化(インキュベーション事業の減少、マンションマネジメント事業の増加)を考慮すると、ミックスの変化が営業利益に与えた影響は軽微と判断できる 。売上増加による利益押し上げ効果は約64百万円(売上増加額324百万円 × 前期営業利益率7.8%を近似値として使用)と推計される。
②価格/原価率変動:売上総利益は1,989百万円から2,048百万円に59百万円増加し、売上総利益率は23.8%から23.6%へと微減している 。これは、売上原価が売上高を上回るペースで増加したことを示唆しており、主に人件費の上昇が原価を押し上げたと推察される 。この原価率悪化による利益へのマイナスインパクトは概算で数百万程度とみられる。
③販管費変動:販売費及び一般管理費は1,336百万円から1,305百万円へと31百万円減少している 。これは、給料及び手当が減少したことや、その他の販管費が削減されたことによる 。この販管費削減が利益を押し上げた。
2025年6月期 営業利益: 653百万円 + 64百万円(売上増) – (数百万)(原価率悪化) + 31百万円(販管費減) = 748百万円(概算値) 実際の営業利益742百万円 と概算値はほぼ一致しており、営業利益増加の主な要因は売上増加と販管費の削減であったと結論付けられる。
収益性の深掘り: 営業利益率は7.8%から8.5%へと改善している 。これは、売上高の増加に加え、販管費の削減が寄与したためである 。しかし、セグメント別に見ると、社宅マネジメント事業の営業利益は減少しており、人件費増が影響したことが明らかである 。一方で、マンションマネジメント事業は売上増加に伴い営業利益が40.9%増と大幅に改善した 。全社としては、マンションマネジメント事業の好調が社宅マネジメント事業の減益分を補い、全体の利益率改善を牽引した構造となっている。
B/S分析: | 項目 | 2025年6月期末(百万円) | 2024年6月期末(百万円) | 増減 | |:—:|:—:|:—:|:—:| | 総資産 | 10,459 | 10,894 | -435百万円 |
| 純資産 | 7,729 | 7,908 | -179百万円 |
| 自己資本比率 | 72.3% | 70.9% | +1.4pt |
(出所:決算短信より作成)
運転資本の分析: まず、運転資本の構成要素であるキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)を計算する。 売上債権回転日数(DSO) = (売上債権 / 売上高) × 365 棚卸資産回転日数(DIO) = (棚卸資産 / 売上原価) × 365 仕入債務回転日数(DPO) = (仕入債務 / 売上原価) × 365 CCC = DSO + DIO – DPO
2024年6月期: 売上債権: 353,690千円(売掛金及び契約資産)
棚卸資産: 1,677千円(商品) + 290,582千円(販売用不動産) + 12,966千円(仕掛品)= 305,225千円
仕入債務: 187,790千円(買掛金)
売上高: 8,371,365千円
売上原価: 6,381,685千円
DSO = (353,690 / 8,371,365) * 365 = 15.4日 DIO = (305,225 / 6,381,685) * 365 = 17.5日 DPO = (187,790 / 6,381,685) * 365 = 10.7日 CCC = 15.4 + 17.5 – 10.7 = 22.2日
2025年6月期: 売上債権: 358,961千円
棚卸資産: 1,995千円(商品) + 54,044千円(販売用不動産) + 11,122千円(仕掛品)= 67,161千円
仕入債務: 193,590千円
売上高: 8,695,906千円
売上原価: 6,647,676千円
DSO = (358,961 / 8,695,906) * 365 = 15.1日 DIO = (67,161 / 6,647,676) * 365 = 3.7日 DPO = (193,590 / 6,647,676) * 365 = 10.6日 CCC = 15.1 + 3.7 – 10.6 = 8.2日
CCCは22.2日から8.2日へと大幅に短縮している。この改善は主に、販売用不動産の減少によるDIOの大幅な短縮(17.5日から3.7日へ)が要因である 。運転資本の効率性が大きく向上し、キャッシュフロー創出能力が高まったことを示唆する。販売用不動産の減少は、マンションマネジメント事業における不動産売却の増加と関連しており、事業活動が効率的にキャッシュを生み出す構造に変化したと評価できる 。
キャッシュフロー(C/F)分析: | 項目 | 2025年6月期(百万円) | 2024年6月期(百万円) | 増減 | |:—:|:—:|:—:|:—:| | 営業活動によるC/F | △68 | 957 | △1,025百万円 |
| 投資活動によるC/F | △2,256 | 1,969 | △4,225百万円 |
| 財務活動によるC/F | △45 | △348 | +303百万円 |
| 現金及び現金同等物期末残高 | 4,946 | 7,316 | △2,370百万円 |
(出所:決算短信より作成)
営業CFが957百万円のプラスから68百万円のマイナスに転落したのは、主に法人税等の支払額が11億36百万円と大幅に増加したことによる 。これは前期に計上された多額の特別利益に対する法人税の支払いと関連している。また、税金等調整前当期純利益が前期の27億71百万円から3億82百万円に減少したことも、営業CFの減少要因である 。
投資CFは、前期の19億69百万円のプラスから22億56百万円のマイナスに転じている 。これは、前期に投資有価証券の売却による多額の収入(23億79百万円)があったことの反動に加え、当期は定期預金の預け入れ(20億円)と投資有価証券の取得(1億79百万円)を行ったことが主な要因である 。これは、戦略的なキャッシュの活用と資産ポートフォリオの見直しを積極的に行った結果とみられる。
財務CFは、配当金の支払額(3億73百万円)が主な支出要因だが、長期借入金の増加(4億18百万円)も影響している 。全体として、営業活動と投資活動のマイナスを補う形にはなっていない。
資本効率性の評価: ROIC(Return on Invested Capital)とWACC(Weighted Average Cost of Capital)を比較する。 ROIC = 税引後営業利益 / 投下資本 税引後営業利益 = 営業利益 × (1 – 実効税率) 実効税率 = 法人税等合計 / 税金等調整前当期純利益 2025年6月期の実効税率 = 153,119千円 / 382,577千円 = 40.0%
税引後営業利益 = 742,731千円 × (1 – 0.40) = 445,638千円 投下資本 = 有利子負債 + 純資産 有利子負債 = 1年内返済予定の長期借入金 + 長期借入金 = 104,500千円 + 261,250千円 = 365,750千円
純資産 = 7,729,283千円
投下資本 = 365,750千円 + 7,729,283千円 = 8,095,033千円 ROIC = 445,638千円 / 8,095,033千円 = 5.5%
2024年6月期の実効税率 = 995,889千円 / 2,771,305千円 = 35.9%
税引後営業利益 = 653,569千円 × (1 – 0.359) = 419,005千円 有利子負債 = 長期借入金(1年内返済分は記載なし) = 0と仮定 純資産 = 7,908,182千円
投下資本 = 0 + 7,908,182千円 = 7,908,182千円 ROIC = 419,005千円 / 7,908,182千円 = 5.3%
同社のROICは2024年6月期から2025年6月期にかけて微増している。WACCをここでは仮に4%と仮定すると、ROIC(5.5%)はWACCを上回っており、企業価値を創造していると評価できる。しかし、その差はわずかであり、資本効率をさらに高める努力が必要である。
ROEのデュポン分解: ROE = (当期純利益 / 売上高) × (売上高 / 総資産) × (総資産 / 純資産) ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ 2025年6月期: ROE = (229,457 / 8,695,906) × (8,695,906 / 10,459,568) × (10,459,568 / 7,729,283) = 2.6% × 0.83 × 1.35 = 2.9% 2024年6月期: ROE = (1,775,416 / 8,371,365) × (8,371,365 / 10,894,034) × (10,894,034 / 7,908,182) = 21.2% × 0.77 × 1.38 = 22.5%
2025年6月期のROEは2.9%と、前期の22.5%から大幅に低下している。これは、主に前期に計上された多額の特別利益の剥落により、純利益率が21.2%から2.6%に急落したためである 。総資産回転率と財務レバレッジはほぼ横ばいであり、ROEの大幅な変動は一過性の要因によるものである。今後は、純利益率の安定的な向上をいかに実現するかが課題となる。
- 【核心】セグメント情報の徹底解剖
セグメント | 2025年6月期 売上高(百万円) | 2024年6月期 売上高(百万円) | 前年同期比 | 2025年6月期 営業利益(百万円) | 2024年6月期 営業利益(百万円) | 前年同期比 |
社宅マネジメント事業 | 4,371 | 4,279 | +2.1% | 1,183 | 1,200 | △1.4% |
マンションマネジメント事業 | 4,132 | 3,808 | +8.5% | 350 | 249 | +40.9% |
インキュベーション事業 | 191 | 283 | △32.3% | △21 | △5 | – |
(出所:決算短信より作成)
社宅マネジメント事業は売上高が2.1%増加したものの、営業利益は1.4%の減益となった 。これは、インボイス制度導入支援のスポット収入減少に加え、体制強化による人件費増加が影響している 。安定的なストック収益が堅調に推移している点は評価できるが、業務効率化やコスト削減が今後の利益成長には不可欠である。
マンションマネジメント事業は、売上高が8.5%増、営業利益が40.9%増と非常に好調に推移した 。これは、新規受託の堅調さに加え、専有部のリフォーム工事や元請による計画修繕工事、販売用不動産の売却が増加したことによる 。このセグメントが全社の業績を牽引している。
インキュベーション事業は、売上高が32.3%減、営業損失が拡大している 。主要顧客の解約が発生したコールセンターサービスにおいて、事業の再構築に着手していることが背景にある 。この事業は将来の成長ドライバーとして期待されるものの、現状では先行投資負担が重く、収益貢献には時間を要する。
ポートフォリオ・マネジメントの評価: 経営陣は、社宅・マンションマネジメントという安定したストック型ビジネスを基盤としつつ、インキュベーション事業という新たな成長領域に投資を行うことで、事業ポートフォリオのリスク分散と成長機会の創出を目指している 。しかし、現時点ではインキュベーション事業の不振が目立ち、ポートフォリオ全体へのシナジー効果はまだ限定的である。経営陣は、既存事業の堅調さでインキュベーション事業の赤字をカバーしている状況であり、今後のインキュベーション事業の立て直しと収益化が、このポートフォリオ戦略の成否を分ける。特に、中期経営計画で掲げられた非労働集約型ビジネスモデルへの転換が、インキュベーション事業の収益改善に繋がるかどうかが注目される 。
- 経営計画の進捗と経営陣の評価
2025年6月期の連結業績は、売上高は8,695百万円(計画非開示) 、営業利益は742百万円 、経常利益は758百万円 、親会社株主に帰属する当期純利益は229百万円となった 。通期計画は開示されていないため、計画に対する進捗を直接評価することはできない。
しかし、2026年6月期の連結業績予想は、売上高89億円(前年同期比2.3%増)、営業利益7億円(同5.8%減)、経常利益7億15百万円(同5.8%減)、親会社株主に帰属する当期純利益4億61百万円(同100.9%増)としている 。売上成長を見込む一方で、人件費を含むコストが先行するため、営業利益と経常利益は減益予想となっている 。これは、中期経営計画の「投資」フェーズへの移行を示唆している 。親会社株主に帰属する当期純利益が大幅増益予想なのは、前期に計上された特別損失(ソフトウエア仮勘定の除却損等)がなくなるため、その反動によるものである 。
経営陣は、前中期経営計画(2025年6月期最終年度)の評価を踏まえ、新たな3カ年の中期経営計画(2026年6月期〜2028年6月期)を策定した 。この計画では、コロナ禍以前のストック売上高成長率と営業利益率への「回復」と、基盤システム再構築やM&Aといった将来への「投資」を重点テーマに掲げている 。今回の決算は、売上は堅調であるものの、利益面で先行投資の負担や人件費増の課題が顕在化しており、経営陣の計画策定能力と実行力が問われる局面にある。特に、システム開発の計画見直しによる損失計上は、経営資源配分の判断ミスと見なされる可能性があり、今後のIT投資の進捗状況を慎重に見守る必要がある 。
- 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
今後12〜24ヶ月の業績について、以下の3つのシナリオを提示する。
強気シナリオ: 前提条件:日本経済が緩やかな回復基調を維持し、インバウンド需要や雇用環境の改善が継続。社宅・マンション管理の外部委託ニーズがさらに高まる。インキュベーション事業におけるクラウド型サービス等の非労働集約型ビジネスモデルが想定以上のペースで拡大し、収益性が改善する。 予測:売上高は中期経営計画の目標を上回る年5%超の成長を達成し、91億円〜93億円のレンジで着地。営業利益は、コスト削減と売上ミックスの改善により、計画の7億円を上回る7億5千万円〜8億円のレンジで推移する。 カタリスト:インキュベーション事業からの大型受注、業務効率化を目的とした基幹システムの正常な稼働開始、予想を上回る人件費の上昇抑制。
基本シナリオ: 前提条件:日本経済は緩やかな回復にとどまり、物価上昇や海外経済の下振れリスクは継続する。社宅・マンション管理の需要は安定的に推移する。インキュベーション事業は引き続き先行投資フェーズにあり、本格的な収益貢献はまだ先となる。 予測:売上高は2026年6月期予想通りの89億円近辺で推移。営業利益は、人件費の上昇圧力と先行投資負担により、計画通りの7億円近辺で着地。 カタリスト:人件費を含むコストの変動、中期経営計画の進捗に関するポジティブな開示、配当方針の見直し。
弱気シナリオ: 前提条件:物価上昇が個人消費や企業活動に悪影響を及ぼし、経済が停滞。企業がコスト削減のために社宅管理や修繕工事への支出を抑制する。インキュベーション事業の再構築が難航し、さらなる損失計上を余儀なくされる。 予測:売上高は88億円を下回る。営業利益は、人件費の上昇と売上不振により、計画の7億円を下回り、6億円台に落ち込む可能性がある。 リスク:マクロ経済の急激な悪化、人件費の予想外の急騰、基幹システム開発のさらなる遅延または中止、競争激化による価格競争の発生。
- バリュエーション(企業価値評価)
相対評価法: 同業他社であるリロ・ホールディングや東急コミュニティーと比較する。 リロ・ホールディングの予想PERは約15倍、東急コミュニティーの予想PERは約12倍である(2025年6月期末時点の仮定)。 サンネクスタグループの2026年6月期予想EPSは50.07円 であるため、予想PERは株価によって変動する。仮に株価が750円とすると、PERは15倍となる。同社は安定的なストック型ビジネスを基盤としつつ、成長投資も行っているため、同業他社と同水準か、わずかにプレミアムで評価されても良いかもしれない。しかし、インキュベーション事業の不振や過去の特別利益計上による利益の不安定性を考慮すると、大きなプレミアムは正当化しにくい。
絶対評価法: 簡易DCF法を試算する。 FCF = 税引後営業利益 + 減価償却費 – 運転資本増減 – 設備投資 2025年6月期税引後営業利益: 445百万円 減価償却費: 77百万円
運転資本増減: 2024年6月期末から2025年6月期末にかけて、運転資本は減少しており、キャッシュフローへのプラス貢献があった。しかし、これは一過性の要因が大きいため、ここではゼロと仮定する。 設備投資: 70百万円(有形固定資産及び無形固定資産の増加額)
FCF = 445 + 77 – 0 – 70 = 452百万円 WACCを仮に4%と設定し、永久成長率gを1%と仮定する。 企業価値 = FCF / (WACC – g) = 452 / (0.04 – 0.01) = 15,066百万円 自己資本時価総額 = 企業価値 – 有利子負債 = 15,066 – 365 = 14,701百万円 発行済株式数(自己株式を除く) = 9,130,122株
理論株価 = 14,701百万円 / 9,130,122株 = 1,610円 この理論株価は、今後の成長性やリスクに対する仮定によって大きく変動するため、あくまで参考値として捉えるべきである。特に、インキュベーション事業の成長性が織り込まれるかどうかが、株価の上振れ要因となる。
- 総括と投資家への提言
サンネクスタグループの2025年6月期決算は、堅調な売上成長と、一過性の要因による大幅な減益という二つの側面を持つ結果となった 。基盤事業は安定しているものの、利益率に対する人件費の上昇圧力が課題として顕在化している 。また、将来の成長を担うインキュベーション事業は依然として収益化が遠い 。
投資家への提言として、現時点では「中立」の投資スタンスを推奨する。安定したストック型ビジネスモデルは評価できるが、将来の成長に向けた「投資」フェーズでの不確実性が高い。特に、過去のシステム開発の計画見直しによる損失計上は、経営陣の判断の正確性に対する懸念を抱かせる 。
今後の株価動向を監視する上で、投資家が注視すべき最重要KPIは以下の通り。 インキュベーション事業の売上高と営業利益の動向:この事業の再構築が成功し、黒字化の目処が立つかどうかが、将来の成長期待を測る上で最も重要である 。
中期経営計画で掲げた非労働集約型ビジネスモデルの売上構成比率:これが高まることで、人件費上昇の圧力を吸収し、利益率を改善できるかが試される 。
新規受託件数の継続的な増加:特にマンション管理戸数や社宅管理件数の増加は、安定収益の源泉となるため、その進捗を定期的に確認すべきである 。