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シダー(2435)2026年3月期 第1四半期決算分析レポート

1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス: 中立(確信度: 60%)

3行サマリー: 当第1四半期決算は、売上高は増加したものの、営業利益は大幅に減益となった 。これは主に、人件費の増加が売上原価および販管費を押し上げたためであり 、既存事業の収益性が低下していることを示唆している。通期計画に対する進捗は現時点では特筆すべきものではなく、経営陣のコストコントロール能力と今後の収益改善策を注視する必要がある。

主要カタリストとリスク:

  • ポジティブ・カタリスト:
    1. デイサービス事業の収益性改善: 高付加価値サービスの提供による単価上昇、または人員配置の最適化による収益性改善が実現すれば、利益率の回復が期待される。
    2. 在宅サービス事業の黒字化: 新規開設した訪問看護ステーションが軌道に乗り、セグメント全体が黒字化すれば、新たな成長ドライバーとして評価される可能性がある 。
    3. 介護報酬改定の追い風: 政府による介護サービス業界への支援策や介護報酬の引き上げが、事業環境の改善に繋がる可能性がある。
  • ネガティブ・リスク:
    1. 人件費の高騰継続: 介護業界全体の人手不足が解消されない限り、人件費の増加傾向は続き、さらなる利益率の圧迫要因となる 。
    2. 既存施設稼働率の伸び悩み: 競合との競争激化や人口動態の変化により、既存施設の稼働率が目標通りに上昇しなければ、売上高の成長が鈍化するリスクがある 。
    3. 設備投資に伴う固定費増加: 新規施設の開設や既存施設の改修に伴う減価償却費などの固定費が増加し、利益を圧迫する可能性がある。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

シダーグループは、超高齢化社会を背景とした介護サービス需要の増加を追い風に、主に

デイサービス事業、施設サービス事業、在宅サービス事業を展開している

ビジネスモデルの評価:

同社のビジネスモデルは、以下の収益構造で成り立っている。

売上高(全体) = ∑i=13​(各事業セグメントの売上高) 各事業セグメントの売上高 = サービス利用者数 × サービス単価 × 提供回数(または稼働率)

このモデルの

強みは、社会の高齢化というマクロトレンドに直接的に乗っている点にある 。介護サービスは生活に不可欠なサービスであり、景気変動の影響を受けにくい安定的な収益基盤を持つ。また、一度利用を開始した顧客のスイッチングコストは比較的高く、長期的な関係構築が期待できる。

一方、

脆弱性としては、人件費への依存度が極めて高いことが挙げられる 。介護サービスは人による提供が不可欠であり、有資格者の確保は喫緊の課題となっている 。このため、慢性的な人手不足は人件費の高騰を招き、利益率を直接的に圧迫する。また、介護報酬制度という公定価格に収益が左右されるため、価格決定権は限定的である。

競争環境:

介護サービス業界は、大手から中小まで多数の事業者が乱立する競争の激しい市場である。同社の主要な競合としては、メッセージ、ベネッセスタイルケア、SOMPOケアなどが挙げられる。同社の相対的な強みは、デイサービスから在宅サービスまで多様なサービスを網羅しており、顧客のニーズに合わせたサービス提供が可能である点だ 。しかし、規模の経済という点では大手企業に劣り、人材確保やIT投資といった面で不利になる可能性がある。


3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析:

項目2026年3月期 1Q(百万円)2025年3月期 1Q(百万円)前年同期比(%)
売上高4,5034,440+1.4%
営業利益198301-34.4%
経常利益142256-44.3%
親会社株主に帰属する四半期純利益10175+34.2%

売上高は前年同期比で1.4%増加し、堅調な推移を見せている 。しかし、

営業利益は34.4%減と大幅な減益となり、収益性の悪化が鮮明になった 。経常利益も同様に44.3%減と悪化している 。一方で、純利益は前年同期比で34.2%増と好調だが、これは前年同期に計上された特別損失(特別功労金250百万円)の反動によるものであり、本業の収益改善によるものではない

営業利益のブリッジ分析:

2025年3月期1Q 営業利益: 301百万円

  1. 売上数量/ミックス変動: 売上高は63百万円増加しており、これが利益にプラスに寄与。しかし、売上原価も159百万円増加しており、売上総利益は95百万円減少している 。このことから、収益性の低いサービス構成比が増えた、もしくはコスト高のサービス提供が増えた可能性が示唆される。
  2. 価格/原価率変動: 売上原価率は前年同期の84.7%から87.1%に悪化している。これは、主に介護職員に係る人件費の増加が原因と説明されており、コストプッシュ要因が利益を大きく圧迫している 。
  3. 販管費変動: 販売費及び一般管理費は、前年同期の374百万円から382百万円へと8百万円増加している 。これは、管理部門の強化によるものと説明されている 。

結論: 営業利益の大幅な減益は、売上高の増加分を上回る売上原価(主に人件費)と販管費の増加が主因である 。特に、人件費の高騰が利益率を直接的に押し下げていることが最大の懸念点である。

B/S分析:

総資産は前連結会計年度末から418百万円増加して20,421百万円となった 。現金及び預金が317百万円、売掛金が115百万円増加したことが主な要因である

負債は430百万円増加して18,937百万円となった 。短期借入金が210百万円、未払費用が452百万円増加した一方で、長期借入金が141百万円減少している

純資産は12百万円減少して1,484百万円となった 。これは主に利益剰余金の減少によるものと説明されている

運転資本の分析:

キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)を構成する指標を算出する。

  • 売上債権回転日数(DSO): 売掛金 / (売上高 / 90日)
    • 2025年6月末: 3,061 / (4,503 / 90) = 61.1日
    • 2025年3月末: 2,945 / (17,898 / 365) = 60.0日
    • DSOは微増しているが、大きな変化はない。
  • 棚卸資産回転日数(DIO): 介護事業はサービス業であり、棚卸資産は非常に少ないため、この指標は分析対象から除外する。
  • 仕入債務回転日数(DPO): 買掛金 / (売上原価 / 90日)
    • 2025年6月末: 315 / (3,922 / 90) = 7.2日
    • 2025年3月末: 280 / (14,352 / 365) = 7.1日 (※売上原価は通期決算短信データより推測)
    • DPOも微増にとどまり、キャッシュフローへの影響は限定的。

CCC: DSO + DIO – DPO = 61.1 + 0 – 7.2 = 53.9日 運転資本は増加傾向にあり、キャッシュフローが圧迫される可能性が示唆される。

キャッシュフロー(C/F)分析:

当第1四半期連結累計期間に係るキャッシュ・フロー計算書は作成されていない 。このため、詳細な分析は困難である。しかし、貸借対照表の変動から、現金及び預金が317百万円増加していることがわかる

資本効率性の評価:

  • ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト):
    • ROIC = NOPAT / 投下資本
    • 2026年3月期 1Qの営業利益は198百万円 。税引後営業利益(NOPAT)を約130百万円と仮定する。
    • 投下資本(有利子負債+株主資本)は、当四半期末時点で約13,900百万円(長期借入金4,892百万円+短期借入金3,950百万円+1年内返済予定の長期借入金816百万円+株主資本1,474百万円など)と推定される 。
    • 四半期ベースのROICを年換算すると、ROICは3.7%程度(130×4/13,900)となる。
    • 介護事業は安定した収益が見込める一方、WACCは一般的に数%と想定される。現時点では、ROICがWACCを大きく上回っているとは言えず、企業価値の創造効率は低いと評価せざるを得ない。
  • ROE(自己資本利益率)のデュポン分解:
    • ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
    • 純利益率 = 101百万円 / 4,503百万円 = 2.2%
    • 総資産回転率 = 4,503百万円 / 20,421百万円 = 0.22回
    • 財務レバレッジ = 20,421百万円 / 1,484百万円 = 13.8倍
    • ROE = 2.2% × 0.22 × 13.8 = 6.7%(四半期ベースを年換算)
    • 財務レバレッジが非常に高いことが特徴的であり、借入に大きく依存している構造が見て取れる 。純利益率と総資産回転率の低さがROEの低迷を招いているため、まずは本業の収益性改善が急務である。

4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖

セグメント売上高(2026年1Q)前年同期比セグメント利益(2026年1Q)前年同期比
デイサービス事業1,029百万円+6.9%117百万円+3.4%
施設サービス事業3,162百万円+0.2%416百万円-16.7%
在宅サービス事業286百万円-3.3%△30百万円損失拡大
その他24百万円0.0%32百万円+3.2%

好調セグメント: デイサービス事業が唯一、増収増益を達成した 。これは、サービスの質の向上による施設稼働率の向上に努めた結果と説明されており、ポジティブに評価できる 。しかし、売上高の伸び率(+6.9%)に対して利益の伸び率(+3.4%)は低く、人件費などのコスト増加が収益性を圧迫している構図はここでも変わらない。

不振セグメント:

  • 施設サービス事業: 売上高は微増にとどまり、セグメント利益は16.7%も減少した 。入居者獲得に注力し入居率向上に努めた結果と説明されているが、利益の減少幅から、ここでも人件費の高騰やその他の運営コスト増加が利益を大きく削っていると推測される。
  • 在宅サービス事業: 売上高は減少した上に、セグメント損失は前年同期から拡大している 。訪問看護ステーションを新規開設したものの、まだ軌道に乗っておらず、人員配置や業務手順の見直しといった効率化の取り組みが利益に繋がるまでには至っていない状況だ 。

ポートフォリオ・マネジメントの評価:

デイサービス事業の収益性改善は期待できるものの、売上高の8割近くを占める施設サービス事業の収益性悪化が全体を牽引している 。また、成長ドライバーとして期待される在宅サービス事業がまだ利益貢献できていない 。現状、ポートフォリオ全体のリスク分散は機能しているとは言い難く、

収益性の低いセグメントへの対応が経営陣の最重要課題である。


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

同社は、2025年5月9日に公表した2026年3月期の通期計画を変更していない

  • 通期営業利益計画: 670百万円
  • 第1四半期実績: 198百万円
  • 計画に対する進捗率: 29.6%

進捗率だけを見ると順調に見えるが、これは第1四半期に売上が集中するビジネスモデルではない。また、第1四半期に大幅な利益減を計上したにもかかわらず、通期計画を据え置いた経営判断は強気すぎる、または楽観的と評価せざるを得ない。人件費増加のトレンドは今後も続くと予想され、収益性改善への具体的な道筋が示されない限り、通期計画の達成は困難であると見るべきだ。経営陣の需要予測能力やコストコントロール実行力には疑問符がつく。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

強気シナリオ:

  • 前提: 介護人材の確保が予定通り進み、人件費の上昇が落ち着く。デイサービス事業の稼働率がさらに向上し、施設サービス事業もコストコントロールに成功する。在宅サービス事業が年後半に黒字化を達成。
  • 予測: 売上高は通期計画(17,898百万円)を上回り、営業利益も670百万円を達成する。
  • カタリスト: 在宅サービス事業の黒字化、人件費増加率の鈍化、介護報酬改定のプラス影響。

基本シナリオ:

  • 前提: 既存施設の稼働率は堅調に推移するが、人件費の増加トレンドは続く。費用増加を吸収しきれず、利益率の改善は限定的。
  • 予測: 売上高は通期計画に沿って推移するものの、営業利益は550百万円〜600百万円程度に下方修正される可能性が高い
  • リスク: 人件費の高騰、競合との差別化失敗、新規事業の立ち上がりの遅れ。

弱気シナリオ:

  • 前提: 介護業界の人手不足が深刻化し、人件費が想定以上に高騰。既存施設の稼働率が伸び悩み、在宅サービス事業も損失が拡大する。
  • 予測: 通期計画は大幅に未達となり、営業利益は500百万円を下回る。
  • リスク: 採用コストの増加、離職率の上昇、特別損失の発生。

7. バリュエーション(企業価値評価)

  • 相対評価法: 介護事業セグメントを持つ競合他社と比較すると、同社のPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)は、収益性の低さからディスカウントされるべきと考える。現時点では、本業の収益性悪化が明白であり、バリュエーション指標が魅力的とは言えない。
  • 絶対評価法: 簡易的なDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法を適用すると、利益の安定性が最大の懸念事項であるため、理論株価を算出するのは難しい。しかし、ROICがWACCを上回っている蓋然性が低いことから、現時点では株価の上昇余地は限定的であると結論付けられる。

8. 総括と投資家への提言

今回の決算は、売上高は堅調なものの、

本業の収益性が構造的に悪化していることを浮き彫りにした 。特に人件費の増加が利益を圧迫しており、これは今後も続く可能性が高いと見ている 。経営陣が通期計画を据え置いたことは楽観的であり、今後のコストコントロールと収益改善策の実行力が問われる。

投資スタンスは、収益性の改善が見られない限り、引き続き中立を維持する。

投資家が注視すべき最重要KPI:

  • 営業利益率の推移: 人件費増加を吸収できるかどうかの試金石となる。
  • 各セグメントの利益率: 特に施設サービス事業の利益率悪化が止まるか、デイサービス事業の利益率がさらに改善するかを注視。
  • 在宅サービス事業の損益分岐点: 新規事業の成長性を測る上で重要な指標となる。
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