はじめに:あなたの「働きたい気持ち」を大切にしながら考えてみましょう
「もう少し働いて、家計を助けたい」 「子どもの教育費のために、収入を増やしたい」 「将来のために、少しでも貯金を増やしたい」
そんな気持ちを抱きながらも、「106万円の壁」という言葉を聞いて、複雑な思いを抱えていませんか?
私は、ファイナンシャルプランナー(CFP資格保有)として12年間、数多くのパート主婦の方々からご相談をお受けしてきました。大手銀行での個人向け資産運用コンサルタント経験10年、証券会社での投資アドバイザー経験5年の中で、最も多く寄せられたのが、この「106万円の壁」に関するお悩みでした。
実は私自身も、20代の頃にパートで働いていた妻と一緒に、この問題に直面した経験があります。当時は制度の理解が浅く、「とりあえず106万円を超えないように」と漠然と考えていました。しかし、それが本当に最善の選択だったのか、今振り返ると疑問に思うことも多いのです。
この記事では、106万円の壁の仕組みを正確に理解し、あなた自身とご家族にとって最適な働き方を見つけるための知識をお伝えします。決して「こうすべき」という答えを押し付けるつもりはありません。様々な選択肢とそれぞれのメリット・デメリットを知った上で、あなたが納得できる判断をしていただければと思います。
1. 106万円の壁とは?基本の仕組みを分かりやすく解説
1-1. そもそも「106万円の壁」って何?
「106万円の壁」とは、パートやアルバイトで働く方の年収が106万円を超えると、勤務先の社会保険(健康保険・厚生年金)に加入する義務が生じる制度のことです。
この制度は2016年10月に始まりました。それまでは、多くのパート主婦の方は、ご主人の扶養に入ったまま働くことができていました。しかし、働き方の多様化や社会保障制度の公平性を図る観点から、一定の条件を満たすパート・アルバイトの方も社会保険に加入することになったのです。
私がファイナンシャルプランナーとして相談を受け始めた頃、この制度変更によって多くの主婦の方が混乱されていたことを、今でも鮮明に覚えています。
1-2. 社会保険加入の5つの条件
106万円の壁が適用されるには、以下の5つの条件をすべて満たす必要があります:
条件1:週の所定労働時間が20時間以上 例えば、1日4時間×週5日、または1日5時間×週4日といった働き方です。
条件2:月額賃金が8.8万円以上(年収106万円以上) これが「106万円の壁」と呼ばれる理由です。月額8.8万円×12ヶ月=105.6万円≒106万円となります。
条件3:雇用期間が1年以上見込まれる 継続して雇用される見込みがあることが条件です。
条件4:学生でない 夜間や通信制の学生は除外されます。
条件5:従業員数が101人以上の企業(2024年10月から) 2022年10月からは501人以上、2024年10月からは101人以上の企業が対象となりました。
1-3. 実際にどのくらいの負担が増えるの?
社会保険に加入すると、健康保険料と厚生年金保険料を負担することになります。
年収106万円の場合の概算負担額:
- 健康保険料:月額約5,300円(年額約63,600円)
- 厚生年金保険料:月額約9,700円(年額約116,400円)
- 合計:月額約15,000円(年額約18万円)
つまり、年収106万円で働いても、手取りは約88万円となってしまいます。これが「106万円の壁」と言われる理由です。
私の相談者の一人、田中さん(仮名)は、「年収106万円で働いても、実際の手取りは以前の年収90万円の時とほとんど変わらない。それなら働く時間を減らした方がいいのでは?」と悩まれていました。
2. 106万円の壁を回避する5つの方法
2-1. 方法1:労働時間を調整する
最も直接的な方法は、週の労働時間を20時間未満に抑えることです。
具体例:
- 1日3.5時間×週5日=17.5時間
- 1日4時間×週4日=16時間
- 1日5時間×週3日=15時間
ただし、この方法には注意点があります。労働時間を減らすことで、当然収入も減少します。また、職場によっては「週20時間未満の勤務では雇用が困難」という場合もあります。
実際に私がご相談をお受けした佐藤さん(仮名)は、コンビニエンスストアで働いていましたが、店長から「週20時間未満では、シフトの組み方が難しい」と言われ、結果的に転職を余儀なくされました。
2-2. 方法2:年収を106万円未満に抑える
月額賃金を8.8万円未満(年収106万円未満)に調整する方法です。
年収105万円で働く場合:
- 時給1,000円なら、年間1,050時間(月87.5時間)まで
- 時給1,200円なら、年間875時間(月72.9時間)まで
この方法を選択される方は多いのですが、注意すべき点があります。年末調整の時期になって、「思ったより収入が多くなってしまった」というケースが少なくありません。
私の相談者の山田さん(仮名)は、年収105万円を目標に働いていましたが、年末の繁忙期に残業が増え、結果的に108万円になってしまいました。「1年間気をつけていたのに、最後の1ヶ月で超えてしまった」と、とても落ち込まれていたことを覚えています。
2-3. 方法3:従業員数100人以下の企業で働く
2024年10月現在、社会保険加入義務があるのは従業員数101人以上の企業です。そのため、100人以下の企業で働けば、106万円を超えても社会保険加入義務はありません。
メリット:
- 年収106万円を超えても社会保険に加入しなくて良い
- 収入制限を気にせず働ける
デメリット:
- 求人数が限られる場合がある
- 将来的に制度が変更される可能性がある
実際、政府は段階的に対象企業を拡大してきており、将来的にはさらに小規模な企業も対象になる可能性があります。
2-4. 方法4:雇用契約を工夫する
雇用期間を1年未満に設定することで、社会保険加入を回避する方法もあります。
具体例:
- 6ヶ月契約を繰り返す
- 季節労働として働く
ただし、この方法は実質的に継続雇用の場合、「1年以上見込まれる」と判断される可能性があります。また、雇用の安定性に不安が残ります。
2-5. 方法5:複数の職場で働く
一つの職場では社会保険加入条件を満たさないように働き、複数の職場を掛け持ちする方法です。
例:
- A社で週15時間、B社で週10時間働く
- 合計週25時間働いても、各職場では20時間未満
この方法なら、実質的により多く働きながらも社会保険加入を回避できます。ただし、スケジュール管理や確定申告が複雑になるデメリットがあります。
3. 106万円の壁を「あえて超える」選択肢とそのメリット
3-1. 社会保険加入は必ずしも損ではない
多くの方が「106万円の壁」を避けようとしますが、実は社会保険に加入することで得られるメリットも少なくありません。
私自身、ファイナンシャルプランナーとして多くの方にお会いする中で、「106万円の壁を超えて良かった」と言われる方も多く見てきました。
3-2. 厚生年金加入による将来の年金額増加
厚生年金に加入すると、将来受け取る年金額が増加します。
具体的な計算例: 年収106万円で厚生年金に10年間加入した場合、将来の年金額は年間約4万円増加します。
仮に65歳から85歳まで20年間年金を受け取るとすると: 4万円×20年=80万円の増額
現在の保険料負担(年額約11.6万円×10年=116万円)と比較すると、長期的には元を取れる計算になります。
私の相談者の中で、50代から厚生年金に加入された鈴木さん(仮名)は、「保険料は痛いけれど、将来の安心を買ったと思っている」と話されていました。
3-3. 健康保険の充実した保障
扶養から外れて自分で健康保険に加入することで、より手厚い保障を受けられる場合があります。
主な違い:
- 傷病手当金:病気やケガで働けない場合、給与の約3分の2が最大1年6ヶ月支給
- 出産手当金:出産のため働けない期間、給与の約3分の2が支給
扶養に入っている場合、これらの手当金は受け取れません。
3-4. 「130万円の壁」を気にしなくて良い
社会保険に加入すれば、配偶者の扶養から外れるため、「130万円の壁」を意識する必要がなくなります。
130万円の壁とは: 年収が130万円を超えると、配偶者の扶養から外れ、国民健康保険と国民年金に加入する必要がある制度です。
社会保険に加入していれば、年収が130万円を超えても追加の負担はありません。思い切って収入を増やすことができます。
4. 年収別シミュレーション:手取り額の変化を徹底比較
4-1. 年収90万円の場合
社会保険加入なし(扶養内):
- 年収:90万円
- 社会保険料:0円
- 所得税:0円(基礎控除内)
- 住民税:0円
- 手取り:90万円
4-2. 年収106万円の場合
社会保険加入あり:
- 年収:106万円
- 健康保険料:約6.4万円
- 厚生年金保険料:約11.6万円
- 所得税:約1,500円
- 住民税:約6,000円
- 手取り:約87.2万円
年収は16万円増えても、手取りは2.8万円の減少となります。
4-3. 年収120万円の場合
社会保険加入あり:
- 年収:120万円
- 健康保険料:約7.2万円
- 厚生年金保険料:約13.1万円
- 所得税:約4,000円
- 住民税:約1.5万円
- 手取り:約97.8万円
年収120万円になると、手取りが年収90万円の扶養内勤務を上回ります。
4-4. 年収130万円の場合
社会保険加入あり:
- 年収:130万円
- 健康保険料:約7.8万円
- 厚生年金保険料:約14.2万円
- 所得税:約6,500円
- 住民税:約2.5万円
- 手取り:約104.9万円
4-5. 損益分岐点は年収約125万円
シミュレーションから分かるように、社会保険に加入して働く場合、年収約125万円が損益分岐点となります。
これより少ない収入では、扶養内で働く方が手取りが多くなりますが、これを超えると社会保険に加入して働く方が有利になります。
私の相談者の中で、この計算を基に年収130万円を目標に働き方を変えた田村さん(仮名)は、「最初は保険料の負担が重く感じたけれど、慣れてしまえば将来への投資だと思えるようになった」と話されていました。
5. 家計への影響を最小限に抑える賢い働き方戦略
5-1. 段階的な収入アップ計画
106万円の壁を超える場合、いきなり大幅に収入を増やすのではなく、段階的にアップしていく戦略が効果的です。
推奨ステップ:
- 第1段階:年収106万円で社会保険に慣れる(6ヶ月)
- 第2段階:年収115万円に増やす(6ヶ月)
- 第3段階:年収125万円以上を目指す
この方法なら、家計への急激な変化を避けながら、最終的により多くの手取りを得ることができます。
5-2. 副業との組み合わせ戦略
メインの勤務先で106万円の壁を意識しながら、副業で収入を補完する方法もあります。
具体例:
- メイン勤務先:年収105万円(社会保険加入なし)
- 副業(在宅ワーク):年収30万円
- 合計:年収135万円
この場合、副業分は確定申告が必要ですが、メイン勤務先での社会保険加入は避けられます。
私がご相談をお受けした中島さん(仮名)は、パートで年収105万円、クラウドソーシングでのライター業で年収25万円を得ており、「一つの職場に依存しないため、精神的にも安心」と話されていました。
5-3. 配偶者特別控除の活用
年収106万円を超えても、配偶者特別控除により、配偶者の税負担を軽減できる場合があります。
配偶者特別控除の条件:
- 配偶者の年収が1,195万円以下
- 本人の年収が201万円以下(段階的に控除額が減少)
年収106万円〜150万円の場合、配偶者は38万円の控除を受けることができます。
5-4. 企業の福利厚生制度の確認
勤務先によっては、社会保険加入者向けの福利厚生制度が充実している場合があります。
確認すべき制度:
- 健康診断の充実
- 退職金制度
- 各種手当(通勤手当、資格手当など)
- 社員食堂や社内割引制度
これらの制度を金額換算すると、実質的な待遇改善につながる場合があります。
6. 2024年最新情報:制度改正の動向と今後の見通し
6-1. 2024年10月の制度変更
2024年10月から、社会保険加入義務の対象企業が「従業員501人以上」から「従業員101人以上」に拡大されました。
この変更により、新たに約45万人のパート・アルバイトの方が社会保険加入対象となりました。
6-2. 今後の制度変更予測
政府は働き方改革の一環として、さらなる制度変更を検討しています。
予想される変更:
- 対象企業のさらなる拡大(51人以上→全企業)
- 労働時間要件の緩和(20時間→15時間)
- 年収要件の引き下げ(106万円→80万円)
ただし、これらは現時点では検討段階であり、実施時期や詳細は未定です。
6-3. 制度変更への備え方
将来の制度変更に備えて、今から準備できることがあります。
準備のポイント:
- スキルアップ:時給アップにつながる資格取得や技能習得
- キャリアプラン:長期的な働き方の方向性を決める
- 家計管理:社会保険料負担に備えた貯蓄
私の相談者の多くは、「制度が変わっても柔軟に対応できるよう、今のうちに準備をしておきたい」と話されています。
7. 実際の相談事例:5つのパターン別解決策
7-1. 事例1:子育て中の30代主婦Aさん
状況:
- 夫の年収:450万円
- 子ども:小学生1人
- 現在の年収:95万円(パート)
- 悩み:教育費のために収入を増やしたいが、保険料負担が心配
提案した解決策: 年収を130万円まで増やし、社会保険に加入することを提案しました。
理由:
- 手取りは約105万円となり、現在より10万円増加
- 将来の年金額も増える
- 傷病手当金により、病気の際の保障も充実
結果: Aさんは勤務時間を週25時間に増やし、年収128万円で働くようになりました。「最初は保険料の負担に戸惑ったが、手取りが増えて家計が楽になった」と喜ばれていました。
7-2. 事例2:50代主婦Bさん
状況:
- 夫の年収:600万円
- 子ども:大学生1人
- 現在の年収:105万円(パート)
- 悩み:老後資金の準備のため、もう少し収入を増やしたい
提案した解決策: 現在の働き方を維持し、副業でiDeCoを活用することを提案しました。
理由:
- 50代からの厚生年金加入メリットは限定的
- iDeCoで老後資金を効率的に準備可能
- 副業により収入の多様化が図れる
結果: Bさんは在宅でのデータ入力を副業として始め、月2万円の追加収入を得るようになりました。「パートと副業の組み合わせで、無理なく収入を増やせた」と満足されています。
7-3. 事例3:20代主婦Cさん
状況:
- 夫の年収:320万円
- 子ども:なし(将来的に希望)
- 現在の年収:80万円(パート)
- 悩み:夫の収入だけでは将来が不安、でも出産も考えている
提案した解決策: 段階的に年収を140万円まで増やし、社会保険に加入することを提案しました。
理由:
- 出産手当金を受け取るためには、社会保険加入が必要
- 若いうちからの厚生年金加入で、将来の年金額を大幅に増やせる
- 共働きで世帯収入を安定させることができる
結果: Cさんは職場と相談し、段階的に勤務時間を増やしました。現在は年収135万円で働いており、「将来の出産も安心して迎えられる」と話されています。
7-4. 事例4:40代主婦Dさん
状況:
- 夫の年収:800万円
- 子ども:中学生2人
- 現在の年収:103万円(パート)
- 悩み:夫の年収が高いため、配偶者控除のメリットを最大限活用したい
提案した解決策: 現在の働き方を維持し、余剰資金をつみたてNISAで運用することを提案しました。
理由:
- 夫の税率が高いため、配偶者控除のメリットが大きい
- 106万円を超えると、夫の税負担が増加する
- 投資により効率的な資産形成が可能
結果: Dさんは年収103万円を維持し、月3万円をつみたてNISAで投資しています。「税制上のメリットを維持しながら、将来への備えができている」と安心されています。
7-5. 事例5:60代主婦Eさん
状況:
- 夫:年金受給中
- 子ども:独立済み
- 現在の年収:70万円(パート)
- 悩み:健康なうちは働きたいが、年金に影響しないか心配
提案した解決策: 年収を110万円まで増やし、社会保険に加入することを提案しました。
理由:
- 60歳以降の厚生年金加入で、年金額を増やせる
- 在職老齢年金の仕組みを理解すれば、年金への影響は限定的
- 健康保険の保障が充実する
結果: Eさんは勤務時間を週22時間に増やし、現在年収108万円で働いています。「年金も減らずに、むしろ将来の年金額が増えることが分かって安心した」と話されています。
8. よくある質問と専門家としての回答
8-1. Q:106万円ちょうどで働いても社会保険に加入しなければならないの?
A: はい、月額賃金が8.8万円以上(年収換算で105.6万円以上)で、他の条件も満たせば社会保険加入義務が生じます。「106万円の壁」という表現ですが、実際には105.6万円が境界線です。
ただし、判断は月額賃金ベースで行われるため、ボーナス等の一時金は含まれません。月額8.8万円未満であれば、年収が106万円を超えても社会保険加入義務はありません。
8-2. Q:夫の扶養から外れると、どのくらい夫の税金が増えるの?
A: 配偶者控除(38万円)がなくなることで、夫の税負担が増加します。
夫の年収別影響額:
- 年収400万円(税率10%):約3.8万円の税負担増
- 年収600万円(税率20%):約7.6万円の税負担増
- 年収800万円(税率23%):約8.7万円の税負担増
ただし、妻の年収が106万円〜150万円であれば、配偶者特別控除により同額の控除を受けられるため、実際の税負担増加はありません。
8-3. Q:社会保険に加入すると、国民年金の第3号被保険者ではなくなるの?
A: はい、厚生年金に加入すると、国民年金の第3号被保険者ではなくなり、第2号被保険者となります。
これにより、国民年金保険料の負担はなくなりますが、厚生年金保険料(国民年金保険料を含む)を負担することになります。ただし、将来受け取る年金額は増加します。
8-4. Q:パートから正社員になった場合、106万円の壁は関係なくなるの?
A: はい、正社員になれば労働時間や年収に関係なく、必ず社会保険に加入することになります。
正社員の場合、「106万円の壁」「130万円の壁」といった概念は関係ありません。その代わり、安定した雇用と充実した社会保障を得ることができます。
8-5. Q:複数の職場で働いている場合、どう判断されるの?
A: 社会保険加入の判定は、職場ごとに行われます。
例えば、A社で週15時間、B社で週10時間働いている場合、どちらの職場でも週20時間未満のため、社会保険加入義務はありません。
ただし、雇用保険については、複数の職場での労働時間を合算する「マルチジョブホルダー制度」があります(2022年1月開始)。
8-6. Q:106万円を少し超えてしまった場合、遡って社会保険料を支払う必要があるの?
A: 社会保険加入要件を満たした月から加入となり、遡っての支払いは原則ありません。
ただし、要件を満たしているにも関わらず加入手続きが遅れた場合は、要件を満たした月まで遡って加入し、保険料を支払う必要があります。
企業には加入手続きの義務があるため、要件を満たした従業員を意図的に加入させない場合、企業に罰則が科される可能性があります。
9. 専門家が教える:家計管理と将来設計のポイント
9-1. 106万円の壁を考える前に見直すべき家計項目
106万円の壁を意識する前に、まず家計全体を見直すことが重要です。私がファイナンシャルプランナーとして多くのご家庭を見てきた経験から、優先的に見直すべき項目をお伝えします。
固定費の見直し(年間節約効果が大きい項目):
通信費: 大手キャリアから格安SIMへの変更で、年間6万円〜10万円の節約が可能です。私の相談者の斉藤さん(仮名)は、夫婦2人で月18,000円だったスマホ代を月4,000円まで削減し、年間16.8万円の節約に成功しました。
保険料: 不要な保険や過剰な保障の見直しで、年間5万円〜15万円の節約が期待できます。特に、掛け捨て型への変更や保障額の適正化により、大幅な削減が可能です。
光熱費: 電力・ガス会社の変更や省エネ家電への買い替えで、年間2万円〜5万円の節約が可能です。
これらの見直しだけで、年間15万円〜30万円の節約ができれば、106万円の壁による手取り減少分を十分にカバーできます。
9-2. 社会保険料負担を相殺する資産形成戦略
社会保険に加入することで年間約18万円の負担が増えますが、この負担を将来への投資と考え、効率的な資産形成を行うことが重要です。
つみたてNISAの活用: 月1.5万円(年間18万円)をつみたてNISAで運用すれば、社会保険料の負担感を軽減できます。
運用例(年利3%で計算):
- 10年後:約209万円(元本180万円+運用益29万円)
- 20年後:約493万円(元本360万円+運用益133万円)
私の相談者の木村さん(仮名)は、「社会保険料を払うのが嫌だったけれど、その分をつみたてNISAで運用することで、長期的にはプラスになることが分かった」と話されています。
iDeCoとの併用戦略: パートで厚生年金に加入している場合、iDeCoにも加入できます(月額12,000円まで)。
社会保険料とiDeCoを合わせた月額負担は約2.7万円となりますが、iDeCoは全額所得控除となるため、税負担を軽減できます。
9-3. ライフステージ別の働き方戦略
20代・30代:長期的な視点で判断 若いうちは厚生年金加入のメリットが大きいため、積極的に106万円の壁を超えることを検討しましょう。出産を予定している場合は、出産手当金のメリットも大きいです。
40代・50代:教育費とのバランスを考慮 子どもの教育費が最もかかる時期です。短期的な手取り額を重視するか、長期的な年金額を重視するかを慎重に判断しましょう。
60代:年金制度との兼ね合いを理解 在職老齢年金の仕組みを理解し、年金額への影響を計算した上で働き方を決めることが重要です。
9-4. 夫婦で考える最適な働き方
夫婦の収入バランスも重要な検討要素です。
夫の年収が高い場合(年収800万円以上): 配偶者控除のメリットが大きいため、妻は106万円未満で働く方が世帯全体の手取りが多くなる場合があります。
夫の年収が中程度の場合(年収400万円〜600万円): 妻が社会保険に加入して働くことで、世帯の社会保障が充実し、リスクに対する備えが強化されます。
夫の年収が低い場合(年収400万円未満): 妻が積極的に働き、世帯収入を増やすことが重要です。社会保険の負担よりも、収入増加のメリットが大きくなります。
10. まとめ:あなたらしい働き方を見つけるために
10-1. 106万円の壁は「壁」ではなく「選択肢」
この記事を通じてお伝えしたかったのは、「106万円の壁」は必ずしも避けるべき「壁」ではなく、働き方の「選択肢」の一つだということです。
確かに、年収106万円から125万円程度の範囲では、手取り額が一時的に減少します。しかし、長期的な視点で見れば、社会保険加入によるメリットも決して小さくありません。
私がファイナンシャルプランナーとして12年間、多くの方々にお会いしてきた経験から言えることは、「正解は人それぞれ異なる」ということです。ご家庭の経済状況、将来の目標、価値観によって、最適な選択は変わります。
10-2. 判断のための3つのポイント
最後に、106万円の壁を前にして悩んでいる方に、判断のための3つのポイントをお伝えします。
ポイント1:短期と長期の両方で考える 目先の手取り額だけでなく、5年後、10年後の家計と資産形成を考慮しましょう。特に、将来の年金額への影響は大きな要素です。
ポイント2:数字だけでなく、心の安心も大切 社会保険に加入することで得られる安心感(病気の時の保障、将来の年金など)も、お金では測れない価値があります。
ポイント3:いつでも見直しできることを忘れずに 一度決めた働き方が永続的なものではありません。ライフステージの変化や制度の変更に応じて、柔軟に見直すことができます。
10-3. あなたの「働きたい気持ち」を大切に
最も大切なことは、あなた自身の「働きたい気持ち」です。
「家計を助けたい」 「社会とのつながりを持ちたい」 「自分のスキルを活かしたい」 「将来への備えをしたい」
こうした気持ちは、金額では測れない価値があります。106万円の壁があるからといって、働くことを諦める必要はありません。制度を正しく理解し、あなたとご家族にとって最適な働き方を見つけていただければと思います。
10-4. 専門家としての最後のアドバイス
私自身、20代の頃に株式投資で200万円の損失を出し、30代では家計管理の失敗で借金を抱えた経験があります。しかし、その失敗があったからこそ、お金に対する不安や悩みを抱える方の気持ちが分かります。
106万円の壁も同じです。制度の仕組みを理解し、正しい情報に基づいて判断すれば、必ず最適な答えが見つかります。
もし迷ったときは、一人で悩まずに、信頼できるファイナンシャルプランナーや、お住まいの自治体の家計相談窓口に相談してみてください。第三者の客観的な視点が、きっと役に立つはずです。
あなたの働きたい気持ちと、ご家族の幸せな未来を心から応援しています。
【著者プロフィール】 CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)資格保有 AFP(アフィリエイテッド ファイナンシャル プランナー)認定歴12年 大手銀行個人向け資産運用コンサルタント経験10年 証券会社投資アドバイザー経験5年
「お金の不安で眠れない夜を過ごしている人の心を軽くしたい」という想いで、一人ひとりの価値観と生活スタイルに合った、無理のない資産形成を提案することを使命としている。
参考資料・出典
- 厚生労働省「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大」
- 日本年金機構「厚生年金保険料額表」
- 国税庁「配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しについて」
免責事項 本記事の内容は、2024年12月時点の制度に基づいて作成されています。税制や社会保険制度は変更される可能性がありますので、最新の情報については、関係機関にご確認ください。また、個別の判断については、専門家にご相談されることをお勧めします。