**私、田中と申します。**CFP®資格を保有し、大手都市銀行で12年間、個人向け資産運用コンサルタントとして数千人の退職金相談に携わってまいりました。証券会社でも5年間、退職金運用のアドバイザー業務を経験しており、現在は独立系ファイナンシャルプランナーとして、年間約300件の退職相談をお受けしています。
私自身も35歳で転職を経験し、その際に退職金から予想以上の税金が引かれていることに愛然としました。当時の退職金800万円から、想定していた以上の税金が差し引かれ、手取り額が計画より大きく下回った経験があります。その悔しさから退職金の税制について徹底的に勉強し、多くの方の相談に乗る中で「知らないことで大きく損をしてしまう人がいかに多いか」を痛感しています。
特に住民税については、所得税ほど注目されないものの、計算方法を知らずにいると数十万円単位で損をしてしまう可能性があります。実際に相談者の中には、退職所得申告書を提出し忘れただけで50万円近く多く税金を支払うことになったケースもありました。
この記事では、退職金にかかる住民税の「知らないと損をする落とし穴」を、実例を交えながら詳しく解説いたします。あなたの大切な退職金を守るため、最後までお付き合いいただければ幸いです。
なぜ退職金の住民税で多くの人が損をしてしまうのか
退職金にかかる住民税について、私のもとに寄せられる相談の多くは「思ったより税金が高かった」「計算方法がよくわからない」というものです。
実は、退職金の住民税には3つの大きな落とし穴があります:
落とし穴1:退職所得申告書の未提出による大損失 「退職所得の受給に関する申告書」を提出し忘れると、退職金から一律20.42%の税金が引かれてしまいます。本来なら非課税または軽微な税負担で済むはずが、数十万円もの税金を支払うことになるケースが後を絶ちません。
落とし穴2:勤続年数5年以下の特別ルールへの無知 勤続年数が短い場合、通常の計算方法とは異なる特別ルールが適用されます。このルールを知らずにいると、想定外の高額な税金に驚くことになります。
落とし穴3:給与分の住民税との混同による誤解 退職金にかかる住民税と、給与から天引きされる住民税は全く別の計算方法です。この違いを理解していないと、退職後の住民税負担を大幅に見誤ってしまいます。
これらの落とし穴について、以下で詳しく解説してまいります。
退職金の住民税の基本的な仕組み|まずは全体像を理解しよう
退職金にかかる住民税を理解するためには、まず税制上の基本的な仕組みを知っておく必要があります。
退職金は「分離課税」で計算される
普通の給与やボーナスと違い、退職金は「分離課税」という特別な方法で税金が計算されます。これは、退職金が「長年の勤労に対する報償的給与」という性格を持っているため、他の所得とは切り離して、より有利な条件で課税される制度です。
具体的には:
- 給与所得:他の所得と合算して累進税率を適用(総合課税)
- 退職金:単独で税額を計算(分離課税)
この分離課税により、退職金にかかる税負担は大幅に軽減されています。
住民税の税率は一律10%
退職金にかかる住民税の税率は、金額の大小に関わらず**一律10%**です。この内訳は:
- 都道府県民税:4%
- 市区町村民税:6%
これは所得税のような累進税率ではなく、課税対象額がいくらであっても10%で計算されます。
退職金の住民税計算の3ステップ
退職金の住民税は、以下の3つのステップで計算されます:
ステップ1:退職所得控除額を計算する 勤続年数に応じて決まる控除額を算出します。
ステップ2:課税退職所得金額を求める 退職金額から退職所得控除額を差し引き、さらに特別な計算を行います。
ステップ3:住民税額を算出する 課税退職所得金額に10%を掛けて最終的な住民税額を求めます。
次の章では、この計算方法を詳しく見ていきましょう。
退職所得控除と住民税計算の詳細|具体的な数字で理解する
退職所得控除額の計算方法
退職所得控除額は、勤続年数によって以下のように計算されます:
勤続年数20年以下の場合
退職所得控除額 = 40万円 × 勤続年数
勤続年数20年超の場合
退職所得控除額 = 800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)
ただし、計算結果が80万円未満の場合は80万円となります。また、1年未満の端数は1年に切り上げて計算します。
具体例で見る退職所得控除額
例1:勤続10年の場合
40万円 × 10年 = 400万円
例2:勤続25年の場合
800万円 + 70万円 × (25年 - 20年) = 800万円 + 350万円 = 1,150万円
例3:勤続35年の場合
800万円 + 70万円 × (35年 - 20年) = 800万円 + 1,050万円 = 1,850万円
このように、勤続年数が長くなるほど控除額は大きくなり、特に20年を超えると控除の増加額が40万円から70万円に拡大されます。
課税退職所得金額の計算方法
退職所得控除額が分かったら、次に課税退職所得金額を計算します。この計算は、勤続年数や退職金額によって異なる方法が適用されるため、注意が必要です。
一般的なケース(勤続年数5年超の場合)
課税退職所得金額 = (退職金額 - 退職所得控除額) × 1/2
勤続年数5年以下の特別ルールについては、後ほど詳しく解説いたします。
具体例:住民税の計算シミュレーション
ケース1:勤続年数15年、退職金1,000万円
ステップ1:退職所得控除額を計算
40万円 × 15年 = 600万円
ステップ2:課税退職所得金額を計算
(1,000万円 - 600万円) × 1/2 = 200万円
ステップ3:住民税を計算
200万円 × 10% = 20万円
この場合の住民税は20万円となります。
ケース2:勤続年数30年、退職金2,000万円
ステップ1:退職所得控除額を計算
800万円 + 70万円 × (30年 - 20年) = 1,500万円
ステップ2:課税退職所得金額を計算
(2,000万円 - 1,500万円) × 1/2 = 250万円
ステップ3:住民税を計算
250万円 × 10% = 25万円
この場合の住民税は25万円となります。
落とし穴1:退職所得申告書の未提出による大損失
退職金の住民税で最も多くの人が陥る落とし穴が、「退職所得の受給に関する申告書」の未提出です。
退職所得申告書とは
「退職所得の受給に関する申告書」は、退職金を受け取る際に会社に提出する書類です。この書類により、勤続年数や退職理由などの情報を会社に正確に伝え、適正な税額で源泉徴収してもらうことができます。
未提出の場合の恐ろしいペナルティ
この申告書を提出し忘れると、退職金から**一律20.42%**の税金が源泉徴収されてしまいます。内訳は:
- 所得税:20.21%
- 復興特別所得税:0.21%
これは退職所得控除を全く考慮しない、極めて不利な税率です。
実例:申告書未提出で50万円以上の損失
相談者Aさんのケース
- 退職金額:1,500万円
- 勤続年数:22年
- 退職所得申告書:未提出
本来の正しい計算(申告書を提出した場合)
ステップ1:退職所得控除額
800万円 + 70万円 × (22年 - 20年) = 940万円
ステップ2:課税退職所得金額
(1,500万円 - 940万円) × 1/2 = 280万円
ステップ3:正しい所得税額
280万円 × 10% - 9万7,500円 = 18万2,500円(所得税)
復興特別所得税:18万2,500円 × 2.1% = 3,833円
合計:18万6,333円
ステップ4:正しい住民税額
280万円 × 10% = 28万円
正しい税額の合計:46万6,333円
申告書未提出の場合の税額
1,500万円 × 20.42% = 306万3,000円
損失額:306万3,000円 – 46万6,333円 = 259万6,667円
このケースでは、申告書を提出し忘れただけで約260万円もの大損失となってしまいました。
住民税への影響も深刻
申告書を提出しなかった場合、住民税についても特別徴収が行われません。これにより:
- 退職時:住民税が源泉徴収されない
- 翌年度:住民税が普通徴収(自分で納付)となり、一時的に大きな負担となる
- 確定申告:自分で申告して還付を受ける必要がある
確定申告を行えば過払い分は還付されますが、手続きが煩雑になり、還付まで時間もかかります。
申告書提出の期限とポイント
提出期限:退職金の支払いを受ける前まで
記入のポイント:
- 勤続年数は1年未満の端数も1年に切り上げて記入
- 退職理由は「一般」または「障害」を選択
- 障害による退職の場合は証明書類の添付が必要
絶対に覚えておいていただきたいこと:この申告書の提出は「義務」ではなく「権利」ですが、提出しないことで受ける損失は甚大です。退職手続きの際は、必ずこの書類の提出を確認してください。
落とし穴2:勤続年数5年以下の特別ルールによる想定外の税負担
勤続年数が5年以下の場合、通常とは異なる特別な計算ルールが適用されます。このルールを知らずにいると、想定以上の税負担に驚くことになります。
勤続年数5年以下の特別ルール概要
2022年1月から、短期間で退職する人に対する税制が厳格化されました。これは、税負担の軽減を目的とした短期転職の抑制という政策目的があります。
対象者:
- 役員等で勤続年数が5年以下の人
- 役員等以外で勤続年数が5年以下の人
それぞれ異なる計算方法が適用されます。
役員等の場合の計算方法
役員等とは:
- 法人の取締役、執行役、監査役
- 理事、監事
- これら以外で法人の経営に従事している一定の者
計算式:
課税退職所得金額 = 退職金額 - 退職所得控除額
通常の計算にある「×1/2」の軽減措置が全く適用されません。
具体例:役員として勤続3年、退職金500万円
ステップ1:退職所得控除額
40万円 × 3年 = 120万円
ステップ2:課税退職所得金額
500万円 - 120万円 = 380万円(1/2計算なし)
ステップ3:住民税
380万円 × 10% = 38万円
もし通常の計算であれば:
(500万円 - 120万円) × 1/2 = 190万円
190万円 × 10% = 19万円
短期勤続の役員というだけで、住民税が19万円も多くかかってしまいます。
役員等以外の場合の複雑な計算方法
役員等以外の短期勤続者の場合、さらに複雑な計算方法が適用されます。
計算の判定基準:
退職金額 - 退職所得控除額 ≤ 300万円の場合
→ (退職金額 - 退職所得控除額) × 1/2
退職金額 - 退職所得控除額 > 300万円の場合
→ 150万円 + (退職金額 - (300万円 + 退職所得控除額))
具体例1:勤続4年、退職金600万円
ステップ1:退職所得控除額
40万円 × 4年 = 160万円
ステップ2:控除後の金額を確認
600万円 - 160万円 = 440万円(300万円超)
ステップ3:課税退職所得金額
150万円 + (600万円 - (300万円 + 160万円))
= 150万円 + 140万円 = 290万円
ステップ4:住民税
290万円 × 10% = 29万円
通常の計算なら:
(600万円 - 160万円) × 1/2 = 220万円
220万円 × 10% = 22万円
この場合でも7万円多く住民税がかかります。
具体例2:勤続3年、退職金400万円
ステップ1:退職所得控除額
40万円 × 3年 = 120万円
ステップ2:控除後の金額を確認
400万円 - 120万円 = 280万円(300万円以下)
ステップ3:課税退職所得金額
(400万円 - 120万円) × 1/2 = 140万円
この場合は通常と同じ計算になります。
短期勤続ルールの注意点
注意点1:複数回の転職がある場合 前回の退職から5年以内に再び退職金を受け取る場合、前回分の退職所得控除額を差し引いて計算する必要があります。
注意点2:iDeCoとの関係 iDeCoからの一時金受取りと退職金の受取りが近い時期にある場合、退職所得控除の調整が必要になることがあります。
注意点3:確定拠出年金との合算 企業型確定拠出年金の一時金と退職金は合算して計算されるため、短期勤続ルールの影響がより大きくなる可能性があります。
落とし穴3:給与分の住民税との混同による誤解
多くの方が混同してしまうのが、「退職金にかかる住民税」と「給与から天引きされていた住民税」の違いです。
2つの住民税は全く別物
給与分の住民税:
- 前年の給与所得等に対して課税
- 6月から翌年5月まで12ヶ月で分割払い
- 総合課税(他の所得と合算)
退職金の住民税:
- 退職金に対してその場で課税
- 退職時に一括で特別徴収
- 分離課税(単独で計算)
退職時の住民税の複雑な処理
退職する際は、以下の2つの住民税を考える必要があります:
1. 退職金にかかる住民税 退職金の支払時に特別徴収され、退職日の属する年の1月1日時点の住所地の市区町村に納付されます。
2. 給与分の住民税の残額 前年の給与所得に対する住民税で、まだ納付していない分があります。
退職月による給与分住民税の処理の違い
1月〜5月に退職する場合 最後の給与やボーナスから、その年の5月分まで一括で徴収されます。
6月〜12月に退職する場合 以下の選択肢があります:
- 一括徴収:最後の給与から残額を一括で引く
- 普通徴収:個人で納付書により支払う
- 特別徴収継続:転職先で引き続き給与天引き
退職時期別の住民税負担シミュレーション
ケース1:3月退職(勤続15年、退職金1,000万円、前年年収500万円)
退職金の住民税:20万円(前述の計算による) 給与分住民税の残額:
年税額(約25万円)- 既納額(10ヶ月分:約21万円)= 約4万円
3月の給与から一括徴収:24万円(20万円+4万円)
ケース2:8月退職(同条件)
退職金の住民税:20万円 給与分住民税の残額:
年税額(約25万円)- 既納額(2ヶ月分:約4万円)= 約21万円
この21万円について:
- 一括徴収選択:最後の給与から41万円(20万円+21万円)
- 普通徴収選択:退職金から20万円、残り21万円は自分で納付
よくある誤解とその対策
誤解1:「退職金は非課税だから住民税もかからない」 正解:退職所得控除内であれば非課税ですが、控除額を超える部分には住民税がかかります。
誤解2:「住民税は後払いだから退職時にはかからない」 正解:退職金の住民税は退職時に特別徴収されます。
誤解3:「転職すれば住民税の負担は軽くなる」 正解:転職しても前年分の住民税負担は変わりません。
対策のポイント:
- 退職前に概算を計算しておく
- 退職時期による支払方法の違いを理解する
- 転職先での住民税特別徴収継続の手続きを確認する
50万円損する具体的な実例|相談者の実体験から
私がこれまで相談を受けた中で、実際に大きな損失を被ってしまった事例をご紹介します。個人情報保護のため、一部を変更していますが、税額計算は実際の数値です。
実例1:申告書未提出で259万円の大損失
相談者:Bさん(50代男性、製造業) 状況:早期退職制度を利用して退職
退職金額:1,800万円 勤続年数:28年 問題:退職所得申告書を提出していなかった
本来の正しい税額計算
退職所得控除額
800万円 + 70万円 × (28年 - 20年) = 1,360万円
課税退職所得金額
(1,800万円 - 1,360万円) × 1/2 = 220万円
正しい所得税額
220万円 × 10% - 9万7,500円 = 12万2,500円
復興特別所得税:12万2,500円 × 2.1% = 2,573円
合計:12万5,073円
正しい住民税額
220万円 × 10% = 22万円
正しい税額の合計:34万5,073円
実際に徴収された税額
1,800万円 × 20.42% = 367万5,600円
損失額:367万5,600円 – 34万5,073円 = 333万527円
Bさんは確定申告により過払い分の還付を受けることができましたが、還付まで4ヶ月かかり、その間の資金繰りに苦労されました。
実例2:短期勤続ルールによる想定外の負担
相談者:Cさん(30代女性、外資系企業役員) 状況:より良い条件の会社にヘッドハンティングされて転職
退職金額:1,200万円 勤続年数:4年(役員として) 問題:短期勤続ルールの適用で想定外の税負担
Cさんの想定していた税額(一般的な計算)
退職所得控除額
40万円 × 4年 = 160万円
課税退職所得金額(Cさんの想定)
(1,200万円 - 160万円) × 1/2 = 520万円
想定していた住民税
520万円 × 10% = 52万円
実際の税額(短期勤続役員ルール適用)
課税退職所得金額
1,200万円 - 160万円 = 1,040万円(1/2計算なし)
実際の住民税
1,040万円 × 10% = 104万円
想定との差額:104万円 – 52万円 = 52万円の超過負担
Cさんは「まさか住民税だけで100万円を超えるとは思わなかった」と大変驚かれていました。短期勤続ルールについて事前に知っていれば、転職のタイミングや退職金の受け取り方について、より戦略的な検討ができたかもしれません。
実例3:住民税の処理方法による混乱
相談者:Dさん(40代男性、公務員) 状況:3月末で定年退職
退職金額:2,200万円 勤続年数:38年 問題:住民税の処理について理解不足
退職金の住民税
退職所得控除額
800万円 + 70万円 × (38年 - 20年) = 2,060万円
課税退職所得金額
(2,200万円 - 2,060万円) × 1/2 = 70万円
退職金の住民税
70万円 × 10% = 7万円
給与分住民税の未納分(3月末退職) 前年年収600万円として:
年税額約30万円 - 既納額(10ヶ月分)約25万円 = 約5万円
3月の退職金から徴収された住民税:12万円(7万円+5万円)
Dさんの混乱: 「退職金は2,200万円ももらったのに、住民税がたった7万円なんてありえない。計算が間違っているのではないか?」
実は、Dさんが勘違いしていたのは、退職金から引かれた12万円の内訳でした。12万円のうち7万円が退職金の住民税、5万円が給与分住民税の残額だったのです。
長年の勤務による高額な退職所得控除により、退職金に対する住民税は確かに7万円と少額でした。Dさんのケースは、制度を理解すれば「想定どおり」の結果だったのです。
損失を防ぐために学ぶべき教訓
これらの実例から学ぶべき教訓は:
教訓1:退職所得申告書の提出は絶対に忘れてはならない 教訓2:短期勤続の場合は特別ルールを必ず確認する 教訓3:住民税の内訳を正しく理解しておく 教訓4:退職前に必ず税額をシミュレーションしておく
次の章では、これらの損失を防ぐための具体的な対策方法をお伝えします。
損失を防ぐための具体的な対策方法|今すぐできる行動リスト
これまでの実例を踏まえ、退職金の住民税で損をしないための具体的な対策をお伝えします。
対策1:退職所得申告書の確実な提出
退職3ヶ月前にやること
- 人事部に申告書の提出について確認 「退職所得の受給に関する申告書の提出が必要ですよね?」と明確に質問する
- 申告書の様式を入手 国税庁のウェブサイトからダウンロードするか、会社から受け取る
- 記入内容の確認
- 勤続年数の計算(1年未満の端数は切り上げ)
- 退職理由の選択
- 障害による退職の場合は証明書類の準備
退職1ヶ月前にやること
- 申告書の記入と提出 不明な点は人事部に確認しながら確実に記入
- 提出の確認 「申告書を確実に提出したか」の確認書面をもらう
- 源泉徴収票の発行依頼 退職後に確定申告が必要になった場合に備える
対策2:退職時期の戦略的検討
短期勤続者の場合の対策
勤続年数が5年以下になりそうな場合:
- 6年目まで勤続できないか検討 可能であれば、特別ルールを回避するため6年目まで勤続を検討
- 退職金の受け取り方の検討 一時金ではなく年金形式での受け取りが有利な場合もある
- 転職先での退職金制度の確認 短期での転職を繰り返すリスクを避けるため
退職時期による住民税処理の違いへの対策
- 1-5月退職の場合
最後の給与から一括徴収される金額 = 退職金の住民税 + 給与分住民税の残額
この合計額を事前に計算し、給与の手取り額を把握しておく - 6-12月退職の場合 一括徴収するか普通徴収にするかを検討
- 一括徴収:手続きが簡単、ただし一時的な負担が大きい
- 普通徴収:分割払い可能、ただし納付忘れのリスクあり
対策3:事前シミュレーションの徹底
シミュレーション用のExcelファイルの作成
以下の項目でシミュレーション表を作成することをお勧めします:
【基本情報】
・退職金額(見込): 万円
・勤続年数: 年 ヶ月
・退職時期: 年 月
・前年年収: 万円
【計算結果】
・退職所得控除額: 万円
・課税退職所得金額: 万円
・退職金の住民税: 万円
・給与分住民税残額: 万円
・住民税合計: 万円
計算ツールの活用
- 国税庁の退職金計算機 所得税の計算に利用可能
- 各自治体の住民税計算ツール 概算の住民税を計算可能
- 専門家による試算 複雑なケースは税理士やFPに相談
対策4:複数の専門家からの意見収集
相談すべき専門家
- 税理士
- 複雑な税務計算について
- 確定申告が必要なケースの判断
- 節税対策全般
- ファイナンシャルプランナー
- 退職金の受け取り方の検討
- 老後資金計画全体の中での位置づけ
- 他の制度(iDeCo等)との関係
- 社会保険労務士
- 退職手続き全般について
- 社会保険の切り替えについて
無料相談の活用
多くの専門家が初回相談を無料で行っています。複数の専門家に相談することで、より確実な対策を立てることができます。
対策5:退職後のフォロー
退職直後にやること
- 源泉徴収票の確認 退職所得の源泉徴収票を受け取り、計算が正しいかチェック
- 住民税納税通知書の確認 翌年5-6月に送付される通知書で、前年分の住民税額を確認
- 必要に応じて確定申告 過払いがあった場合は、確定申告で還付を受ける
長期的な視点での確認
- 翌年の住民税額の確認 退職により所得が減るため、翌年の住民税は大幅に減額される
- 国民健康保険料への影響 退職金は国民健康保険料の計算には含まれないことを確認
- 介護保険料への影響 65歳以上の場合、退職金が介護保険料に影響しないことを確認
よくある質問|読者の疑問にお答えします
私が実際に受けた相談の中から、特に多い質問をまとめました。
Q1:退職金が退職所得控除額以下の場合、本当に住民税はゼロになるのですか?
A1:はい、住民税もゼロになります。
退職金額が退職所得控除額以下の場合:
課税退職所得金額 = (退職金額 - 退職所得控除額) × 1/2 ≤ 0
課税退職所得金額が0以下になるため、所得税・住民税ともにかかりません。
具体例:
- 勤続25年、退職金1,000万円の場合
- 退職所得控除額:800万円 + 70万円 × 5年 = 1,150万円
- 課税退職所得金額:1,000万円 – 1,150万円 = △150万円(0円)
- 住民税:0円
Q2:退職金を分割で受け取る場合、住民税の計算は変わりますか?
A2:はい、全く異なる計算になります。
退職金を年金形式で受け取る場合:
- 所得の分類:退職所得 → 雑所得
- 課税方法:分離課税 → 総合課税
- 適用控除:退職所得控除 → 公的年金等控除
税負担の比較: 一般的には一時金での受け取りの方が税制上有利ですが、以下の場合は年金形式が有利になることもあります:
- 退職金が退職所得控除額を大幅に上回る場合
- 他の所得が少ない場合
- 公的年金の受給開始まで時間がある場合
Q3:中退共や小規模企業共済からの退職金も同様の計算ですか?
A3:基本的には同様ですが、一部注意点があります。
中小企業退職金共済(中退共):
- 一般的な退職金と同じ計算方法
- 退職所得控除の通算が可能
- 複数社から受け取る場合は合算して計算
小規模企業共済:
- 一般的な退職金と同じ計算方法
- ただし、掛金拠出期間が20年未満で任意解約する場合は元本割れのリスクあり
- 退職所得控除の適用あり
Q4:iDeCoと退職金を同時に受け取る場合の計算方法は?
A4:受け取るタイミングによって計算方法が変わります。
同年に受け取る場合: 退職金とiDeCoの一時金を合算して、一つの退職所得として計算します。
4年以内に受け取る場合: 先に受け取った方の退職所得控除額を調整する必要があります。
5年以上間隔を空ける場合: それぞれ独立して退職所得控除を適用できます。
戦略的な受け取り方: 多くの場合、退職金とiDeCoの受け取りを5年以上間隔を空けることで、税負担を最小化できます。
Q5:海外勤務期間がある場合の勤続年数はどうなりますか?
A5:海外勤務期間も勤続年数に含まれます。
以下の条件を満たす海外勤務は勤続年数に算入されます:
- 同一法人での勤務継続
- 給与の支払者が同一
- 勤務の実態がある
ただし注意点:
- 海外子会社への出向の場合は、出向契約の内容により判断
- 現地採用での海外勤務は別会社扱いになる可能性
- 詳細は税理士に相談することをお勧めします
Q6:退職金から引かれた住民税が多すぎる気がします。どこに相談すればよいですか?
A6:以下の順序で確認・相談してください。
第1段階:自分で確認
- 退職所得の源泉徴収票で税額を確認
- 勤続年数と退職金額から正しい税額を計算
- 退職所得申告書を提出したかを確認
第2段階:会社への確認
- 人事・経理部門に計算根拠を質問
- 退職所得申告書の提出状況を確認
- 源泉徴収票の記載内容を確認
第3段階:専門家への相談
- 税理士:税額計算の妥当性
- 税務署:計算方法の一般的な確認
- 市区町村:住民税の特別徴収について
第4段階:必要に応じて確定申告 過払いが確認された場合は確定申告で還付を受ける
Q7:退職金の住民税はいつ、どこに納付されるのですか?
A7:退職金の支払者(会社)が代行して納付します。
納付のタイミング:退職金支払いの翌月10日まで 納付先:退職年の1月1日時点の住所地の市区町村 手続き:会社が特別徴収として一括処理
個人がやることは基本的にありませんが、以下の場合は注意が必要です:
- 退職所得申告書を提出していない場合
- 確定申告により還付を受ける場合
- 住所変更により納付先に変更がある場合
まとめ|退職金の住民税で損をしないために
この記事では、退職金にかかる住民税の「知らないと損をする落とし穴」について、詳しく解説してまいりました。
重要なポイントの再確認
落とし穴1:退職所得申告書の未提出
- 未提出により一律20.42%の課税
- 場合によっては数百万円の損失
- 対策:必ず退職前に提出を確認
落とし穴2:勤続年数5年以下の特別ルール
- 役員等は1/2計算の適用なし
- 役員等以外も300万円超の部分は軽減措置が限定的
- 対策:短期勤続のリスクを事前に把握
落とし穴3:給与分住民税との混同
- 退職金の住民税と給与分住民税は別計算
- 退職時期により支払方法が異なる
- 対策:それぞれの税額を分けて理解
今すぐできる行動リスト
退職3ヶ月前: □ 退職金概算額の確認 □ 勤続年数の正確な計算 □ 退職所得申告書の様式入手
退職1ヶ月前: □ 退職所得申告書の提出 □ 住民税額のシミュレーション □ 専門家への相談(必要に応じて)
退職後: □ 源泉徴収票の確認 □ 税額計算の照合 □ 確定申告の要否判断
最後にお伝えしたいこと
退職金は、長年の勤労に対する大切な報酬です。適正な税負担は当然ですが、知識不足により不当に多額の税金を支払う必要は全くありません。
私がこれまで相談をお受けした中で、「もっと早く知っていれば」と後悔される方を数多く見てきました。この記事が、あなたの大切な退職金を守る一助となることを心から願っております。
退職金の税制は複雑で、個々のケースにより最適な対策は異なります。不安に感じることがありましたら、お一人で悩まず、ぜひ専門家にご相談ください。税理士や私たちファイナンシャルプランナーは、あなたの老後の安心のために全力でサポートいたします。
あなたの第二の人生が、経済的にも精神的にも豊かなものになることを、心より祈念いたします。
【この記事の監修者情報】 田中(仮名)
- CFP®認定者(日本FP協会認定)
- 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
- 大手都市銀行個人向け資産運用コンサルタント歴12年
- 証券会社退職金運用アドバイザー歴5年
- 現在:独立系ファイナンシャルプランナー
- 年間相談件数:約300件(退職金関連相談が7割)
- 執筆実績:マネー誌連載、金融機関向け研修講師
【免責事項】 本記事の内容は2025年9月時点の税制に基づいており、税制改正により内容が変更される可能性があります。個別のケースについては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。本記事により生じた損害について、筆者および関係者は一切の責任を負いません。