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粧美堂株式会社 2025年9月期 第3四半期決算分析レポート

1. エグゼクティブ・サマリー(結論ファースト)

  • 投資スタンス: 中立(確信度:65%)
  • 3行サマリー: 粧美堂株式会社は、堅調なナショナルブランド(NB)商品とEC事業の成長に牽引され、売上および利益面で前年同期を上回る好決算を達成した 。しかし、事業ポートフォリオの再編(子会社売却・買収)に伴う特別損益が散見され、また主力の化粧雑貨およびコンタクトレンズ関連事業には減収の兆候が見られる 。通期計画に対する進捗は順調であるものの、既存事業の成長鈍化とM&Aによる一時的な利益貢献を除いた本業の成長持続性には不透明感が残るため、現時点では中立的なスタンスを維持する。
  • 主要カタリストとリスク:
    • ポジティブ・カタリスト:
      1. 新規子会社である株式会社ピコモンテ・ジャパンの化粧品事業が第4四半期以降も想定を上回る成長を継続し、シナジー効果が早期に顕在化すること 。
      2. ライセンスビジネスが本格的に収益の柱として育ち、新たな利益貢献源となること 。
      3. 自社企画商品(NB)のさらなるヒット商品創出により、高収益なEC事業の成長が加速すること 。
    • ネガティブ・リスク:
      1. 化粧雑貨事業およびコンタクトレンズ関連事業の構造的な減収傾向が継続し、全社業績の重荷となること 。
      2. ビューティードア株式会社の売却益という一時的な特別利益の剥落後、本業の成長が鈍化し、利益計画が未達となる可能性 。
      3. 原材料費や物流費、人件費などのコスト上昇が継続し、利益率改善の勢いが失速すること 。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

粧美堂株式会社(7819)は、化粧品、化粧雑貨、コンタクトレンズ関連、服飾雑貨、その他といった多岐にわたる商品を企画・販売する総合商社的なビジネスモデルを展開している

  • ビジネスモデルの評価:
    • 収益モデル:
      • 売上高 = (NB事業の販売数量 × NB事業の販売単価) + (PB事業の販売数量 × PB事業の販売単価) + (ライセンス事業の手数料)
    • 強みと競争優位性:
      • ブランド力と商品企画力: 「粧美堂と言えば」と想起されるメイクツールやキャラクターコスメなど、特定のカテゴリーで強いナショナルブランド(NB)を構築している 。消費者ニーズを捉えた自社企画商品の開発力は、他社との差別化要因となっている 。
      • 多角的な事業ポートフォリオ: 化粧品、化粧雑貨、服飾雑貨、コンタクトレンズ関連など、幅広い商材を扱っており、特定の市場の変動リスクを分散できる構造となっている 。
      • EC事業の成長: 利益率の高いEC事業の売上が伸びており、収益性向上に貢献している 。ECチームを商品企画部に移管する組織再編も、消費者ニーズへの迅速な対応と売上拡大を目的としており、成長戦略の一環として評価できる 。
      • 新たな収益源の創出: キャラクターのライセンスビジネスを新たに開始しており、既存の強みを活かした収益の多角化を模索している点はポジティブである 。
    • 脆弱性とリスク:
      • 価格競争への耐性: プライベートブランド(PB)事業は、重点販売先のニーズに応えることでシェア拡大を図る戦略だが、コスト削減と品質向上を同時に追求する必要があり、価格競争に巻き込まれるリスクを常に抱えている 。
      • 外部環境への依存: 為替変動や物価上昇、消費者マインドの変化といったマクロ経済の動向が、事業全体に与える影響は大きい 。また、原材料費や物流費、人件費といった各種コストの上昇は、利益率を圧迫する要因となる 。
      • ポートフォリオ再編のリスク: 子会社であるビューティードア株式会社の売却や、株式会社ピコモンテ・ジャパンの買収といった事業再編は、短期的には特別利益やのれんの償却といった会計上の影響を及ぼす 。これらのM&Aが将来的に十分なシナジー効果を生み出せるかは不確実性が高い。
  • 競争環境: 粧美堂が展開する各事業は、多くの企業がひしめく競争の激しい市場である。
    • 化粧品・化粧雑貨: 伊勢半、井田ラボラトリーズ(キャンメイク)、コージー本舗、セザンヌ化粧品など、ドラッグストアやバラエティストアを主戦場とする競合が多い。これらの競合は、粧美堂と同様に、トレンドを捉えた商品開発やキャラクターコラボレーションに強みを持っている。粧美堂の相対的な強みは、メイクツールやキッズコスメといった特定のカテゴリーにおけるブランド力と、幅広い流通網にある 。
    • コンタクトレンズ関連: シード、メニコン、HOYA、ボシュロムなど、大手メーカーが市場を支配している。粧美堂は、前期に中国のEC事業を撤退しており、国内市場での競争力をどう高めていくかが課題となる 。
    • 服飾雑貨: バッグやポーチといったカテゴリーでは、多くのブランドが存在する。テーマパーク向けやキャラクターコラボ商品といったニッチな市場での強みが競争優位性となっている 。

3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析: 2025年9月期第3四半期累計期間(2024年10月1日〜2025年6月30日)は、増収増益の好決算となった

項目当第3四半期累計期間 (百万円)前年同期 (百万円)増減額 (百万円)前年同四半期増減率 (%)
売上高16,35215,724628+4.0
売上総利益5,1154,133982+23.8
販売費及び一般管理費3,9243,249675+20.8
営業利益1,191883308+34.8
経常利益1,161880281+31.9
親会社株主に帰属する四半期純利益813675138+20.4
  • 営業利益のブリッジ分析:
    • 前年同期営業利益: 883百万円 ① 売上数量/ミックス変動: 売上高は628百万円増加 。化粧品(+8.9%)、服飾雑貨(+20.9%)、その他(+9.4%)が好調であった一方、化粧雑貨(-1.6%)、コンタクトレンズ関連(-13.6%)は減収となった 。この変動要因を詳細に分解すると、高単価・高利益率のEC事業の伸長や、化粧品事業における新規子会社の寄与、NB商品の好調が全体を押し上げた 。② 価格/原価率変動: 売上総利益額は982百万円増加し、売上総利益率は前年同期の26.3%から31.3%へと大幅に改善した 。これは、商品力向上による自社企画商品の好調、販売単価の上昇、および利益率が高いEC売上高の伸長が主な要因である 。この原価率改善が、今回の増益の核心的なドライバーである。③ 販管費変動: 販売費及び一般管理費は675百万円増加し、前年同期比で20.8%の大幅増となった 。これは、売上増加に伴う販売促進費や物流費の増加が主因である 。売上総利益の増加分が販管費の増加分を大きく上回ったため、営業利益は大幅な増益を達成した。当期営業利益: 1,191百万円
  • 結論: 今回の増益は、主に売上総利益率の大幅な改善によってもたらされたものである 。売上高の増加だけでなく、利益率の高い商材へのシフト、販売単価の上昇、EC事業の強化といった「質の高い成長」が実現できたことを示唆しており、非常にポジティブな内容である。しかし、販管費の増加率は売上高の増加率を上回っており(20.8%増 vs 4.0%増)、今後のコストコントロールは重要な課題となる 。

B/S分析:

  • 資産、負債、純資産:
    • 資産合計は、前連結会計年度末に比べて1,169百万円増加し、15,596百万円となった 。
    • 負債合計は、前連結会計年度末に比べて416百万円増加し、8,268百万円となった 。
    • 純資産合計は、前連結会計年度末に比べて752百万円増加し、7,328百万円となった 。
    • 自己資本比率は44.7%となり、前連結会計年度末の45.6%からやや低下したものの、財務の安全性は依然として健全な水準を維持している 。
  • 運転資本の分析(CCC): 運転資本の効率性は、企業のキャッシュ創出能力を測る上で極めて重要な指標である。
    • 売上債権回転日数 (DSO):
      • 2024年9月期: (3,298百万円 ÷ 15,724百万円) × 365日 = 76.5日
      • 2025年9月期3Q: (3,426百万円 ÷ 16,352百万円) × 365日 = 76.4日
      • 売上債権回転日数はほぼ横ばいで、回収サイクルに大きな変化は見られない。
    • 棚卸資産回転日数 (DIO):
      • 2024年9月期: (1,816百万円 ÷ 11,591百万円) × 365日 = 57.2日
      • 2025年9月期3Q: (2,539百万円 ÷ 11,237百万円) × 365日 = 82.6日
      • 棚卸資産回転日数は大幅に増加しており、在庫の滞留期間が伸びていることを示唆している。これは、新規子会社(株式会社ピコモンテ・ジャパン)の連結による在庫の増加 、あるいは需要予測の乖離による過剰在庫の発生など、いくつかの可能性が考えられる。特に、化粧雑貨事業やコンタクトレンズ関連事業の減収傾向と合わせて考えると、一部の商品カテゴリーで在庫の質が悪化している(陳腐化リスク)可能性も考慮する必要がある。
    • 仕入債務回転日数 (DPO):
      • 2024年9月期: (1,876百万円 ÷ 11,591百万円) × 365日 = 59.0日
      • 2025年9月期3Q: (1,750百万円 ÷ 11,237百万円) × 365日 = 56.9日
      • 仕入債務回転日数はわずかに短縮しており、仕入先への支払いが早くなっていることを示唆している。
    • キャッシュ・コンバージョン・サイクル (CCC):
      • 2024年9月期: 76.5日 + 57.2日 – 59.0日 = 74.7日
      • 2025年9月期3Q: 76.4日 + 82.6日 – 56.9日 = 102.1日
    • 結論: CCCは大幅に悪化しており、運転資本の非効率性が高まっている 。特に棚卸資産の滞留期間が大きく伸びており、今後のキャッシュフロー創出に悪影響を及ぼす可能性がある。この点については、経営陣のコメントや今後の在庫コントロール策に注目する必要がある。

C/F分析:

  • 本資料には四半期連結キャッシュ・フロー計算書は含まれていない 。したがって、営業CF、投資CF、財務CFの詳細な分析は不可能である。しかし、B/Sの「現金及び預金」の項目が前連結会計年度末から610百万円増加していることから、営業活動によるキャッシュ創出が順調であったことが推測される 。また、株式会社ピコモンテ・ジャパンの買収やビューティードア株式会社の売却といった投資活動、短期借入金や長期借入金の増加といった財務活動が、キャッシュの増減に影響を与えている 。
  • アクルーアル分析: 純利益は813百万円であった一方、包括利益は718百万円と純利益を下回っている 。これは、その他の包括利益が△108百万円となったことが主因であり 、特に繰延ヘッジ損益がマイナスに転じたことによる影響が大きい 。利益の「質」という観点では、一時的な特別利益(ビューティードア株式会社株式譲渡益)が813百万円の純利益に貢献している点も考慮する必要がある 。この特別利益を除くと、純利益は749百万円となり、本業の収益力は順調に伸びているものの、その持続性には引き続き注意が必要である。

資本効率性の評価:

  • ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト):
    • ROIC = NOPAT(税引後営業利益) / 投下資本
    • 2025年9月期3Q累計のNOPATは、営業利益1,191百万円を基に、実効税率を約30%と仮定すると、1,191 × (1 – 0.3) = 833.7百万円となる 。
    • 投下資本は、有利子負債と株主資本の合計と仮定する。第3四半期末の有利子負債合計は(短期借入金1,500 + 1年内返済予定の長期借入金1,394 + 長期借入金2,106) = 5,000百万円 。株主資本合計は6,604百万円である 。したがって、投下資本は5,000 + 6,604 = 11,604百万円となる。
    • この場合、ROICは (833.7 / 11,604) = 7.18%となる。
    • WACCの正確な算出は困難だが、仮にWACCを5%程度と仮定した場合、ROIC (7.18%) がWACCを上回っているため、現時点では企業価値を創造していると評価できる。しかし、前述の運転資本の悪化は、今後ROICを圧迫する要因となりうる。
  • ROE(自己資本利益率)のデュポン分解:
    • ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
    • 純利益率: (813百万円 / 16,352百万円) = 4.97%
    • 総資産回転率: (16,352百万円 / 15,596百万円) = 1.04回
    • 財務レバレッジ: (15,596百万円 / 7,328百万円) = 2.12倍
    • ROE: 4.97% × 1.04 × 2.12 = 10.97%
    • 純利益率は、ビューティードア株式会社の売却益という特別利益の影響もあり、高い水準となっている 。総資産回転率は効率的な資産活用を示しているが、棚卸資産の増加が今後回転率の低下に繋がる可能性もある 。財務レバレッジは適度であり、増益の主要因は売上総利益率の大幅改善と、それに伴う純利益率の上昇にある。

4. セグメント情報の徹底解剖

粧美堂グループは単一セグメントであるため、厳密な意味でのセグメント分析は不可能である 。しかし、取り扱い商品別の売上高概況が示されているため、これをセグメント情報として分析する。

商品分類当第3四半期累計期間 (千円)前年同期 (千円)前年同期比増減率 (%)
①化粧品6,348,532不明+8.9
②化粧雑貨5,152,248不明△1.6
③コンタクトレンズ関連1,681,286不明△13.6
④服飾雑貨2,092,384不明+20.9
⑤その他1,078,273不明+9.4
合計16,352,72515,724,818+4.0
  • 好調セグメント:
    • ① 化粧品: 前年同期比+8.9%と大きく成長 。人気キャラクターとのコラボ商品や、女児向けリップクリームが好調に推移 。さらに、新規子会社である株式会社ピコモンテ・ジャパンの業績が寄与しており、これはM&A戦略の初期的な成功を示唆している 。
    • ④ 服飾雑貨: 前年同期比+20.9%と最も高い成長率を記録 。キャラクターをあしらったPB商品やテーマパーク向けの商材が好調であったことが要因であり、ニッチ市場での強みが活かされている 。
  • 不振セグメント:
    • ② 化粧雑貨: 前年同期比△1.6%と微減 。キャラクターコラボ商品やヘアケア雑貨は好調であったものの、一部の量販店向けに採算が取れない商材の導入を見送ったことが影響した 。これは、売上高を犠牲にしてでも利益率を優先する経営判断であり、P/L分析で確認された粗利率改善の要因の一つと推察できる。
    • ③ コンタクトレンズ関連: 前年同期比△13.6%と大幅な減収 。前期に中国のコンタクトレンズEC事業を撤退した影響が継続しており、構造的な減収傾向にある 。今後の成長戦略が不透明であり、収益ポートフォリオ上の懸念材料である。
  • ポートフォリオ・マネジメントの評価:
    • ビューティードア株式会社の売却は、当初期待したシナジー効果が得られなかったこと、経営資源の選択と集中を図るという明確な理由に基づいた経営判断であり、合理性は高い 。これにより64百万円の特別利益も計上されており、キャッシュ創出にも貢献した 。
    • 一方で、株式会社ピコモンテ・ジャパンの買収は、化粧品事業の成長ドライバーとして期待されており、すでに売上にも寄与している 。
    • 現時点では、成長性の高い事業への投資と、シナジーの低い事業からの撤退という、明確なポートフォリオ再編が進められていると評価できる。しかし、この再編が中長期的に持続的な成長に繋がるか否かは、今後の経過を注意深く見守る必要がある。

5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

  • 通期計画の進捗:
    • 売上高: 計画22,000百万円に対し、第3四半期実績は16,352百万円で進捗率は74.3% 。
    • 営業利益: 計画1,200百万円に対し、第3四半期実績は1,191百万円で進捗率は99.2% 。
    • 経常利益: 計画1,150百万円に対し、第3四半期実績は1,161百万円で進捗率は101.0% 。
    • 親会社株主に帰属する当期純利益: 計画780百万円に対し、第3四半期実績は813百万円で進捗率は104.2% 。
  • 経営陣の評価:
    • 第3四半期累計時点で、営業利益、経常利益、純利益がすでに通期計画をほぼ達成、あるいは超過している 。これは、経営陣の売上総利益率改善に向けた施策が想定を上回る成果を出したことを示唆しており、高い実行力と需要予測能力を評価できる。
    • 特に、利益率の高いEC事業の強化 、採算性の低い商材の見送り 、そしてM&Aによる事業ポートフォリオの最適化 といった一連の戦略が、計画以上の利益創出に貢献している。
    • 今回の好調な決算にもかかわらず、通期計画の修正は行われなかった 。これは、第4四半期に発生しうる様々なリスク(コスト上昇、特定事業の減速、季節性の影響など)を考慮し、慎重な姿勢を維持していると解釈できる。この慎重な経営判断は、サプライズ要因を温存することで、今後の市場の評価をコントロールしようとする意図があるのかもしれない。

6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

  • 基本シナリオ(蓋然性60%):
    • 前提:
      • マクロ経済の不透明感は継続するものの、国内の緩やかな回復基調は維持される 。
      • 為替は現状の円安水準を維持し、インバウンド需要は引き続き堅調に推移 。
      • 株式会社ピコモンテ・ジャパンの連結効果が第4四半期も売上に寄与する 。
      • 化粧雑貨およびコンタクトレンズ関連の減収傾向は継続するが、化粧品と服飾雑貨の成長が補う 。
    • 予測レンジ: 売上高22,000百万円〜22,500百万円、営業利益1,200百万円〜1,300百万円。
  • 強気シナリオ(蓋然性20%):
    • 前提:
      • ライセンスビジネスが早期に収益貢献を始める 。
      • DX推進による生産性向上が想定以上に進み、販管費が抑制される 。
      • EC事業の成長がさらに加速し、利益率改善が継続する 。
      • 株式会社ピコモンテ・ジャパンとのシナジーが早期に発現し、化粧品事業の成長率がさらに高まる 。
    • 予測レンジ: 売上高22,500百万円〜23,500百万円、営業利益1,300百万円〜1,450百万円。
  • 弱気シナリオ(蓋然性20%):
    • 前提:
      • 物価高騰による消費者マインドの冷え込みが顕在化し、全事業の販売数量が減少する 。
      • 人件費、物流費などのコスト上昇が想定以上に進み、粗利率改善効果が相殺される 。
      • 棚卸資産の滞留期間がさらに伸び、評価損の計上リスクが高まる 。
      • 化粧雑貨やコンタクトレンズ関連事業の不振が、好調事業の成長を上回り、全体を押し下げる 。
    • 予測レンジ: 売上高21,000百万円〜21,800百万円、営業利益950百万円〜1,100百万円。

7. バリュエーション(企業価値評価)

  • 相対評価法:
    • PER (株価収益率): 2025年9月期の予想EPSは59.05円である 。現在の株価(仮に800円とする)を当てはめると、PERは約13.5倍となる。
    • PBR (株価純資産倍率): 予想BPSは、第3四半期末の純資産を基に計算すると、(7,328百万円 / 13,209,773株) = 554.7円となる 。PBRは約1.44倍となる。
    • 競合比較: 多くの化粧品・雑貨関連企業は、PERで15〜25倍、PBRで1.5〜3倍程度のレンジで取引されている。
    • 議論: 粧美堂のPERは競合他社と比較してやや低く、PBRも平均的な水準にある。これは、既存事業の成長鈍化懸念やM&A戦略の不確実性が、市場からディスカウントされている可能性を示唆している。しかし、今回の決算で示された高い収益性改善と、通期計画をすでにほぼ達成している点を考慮すると、現在の株価は割安と判断できる。今後、M&Aによるシナジー効果やEC事業の成長が明確になれば、プレミアム評価に繋がる可能性がある。
  • 絶対評価法:
    • 簡易DCF法:
      • 仮定: WACCを5%、永久成長率を1%と仮定。第4四半期に純利益が80百万円程度発生すると仮定し、通期純利益を893百万円と推定する。
      • 計算: 893百万円 / (5% – 1%) = 223.25億円。
      • 理論株価: 22,325百万円 / 13,209,773株 = 1,690円。
    • 議論: 簡易的な試算ではあるが、理論株価は現在の株価水準を大きく上回っており、株価上昇余地は大きいと判断できる。ただし、この計算は永久成長率やWACCといった仮定に大きく依存するため、あくまで参考値として捉えるべきである。

8. 総括と投資家への提言

今回の2025年9月期第3四半期決算は、売上総利益率の大幅な改善と、それによる利益の大幅な伸長という点で非常にポジティブな内容であった 。特に、利益率の高いEC事業の強化 や、採算性の低い商材の見送り といった経営判断が、P/Lに明確に表れている点は評価に値する。また、事業ポートフォリオの再編も着実に進められており、株式会社ピコモンテ・ジャパンの買収はすでに成果として現れ始めている

しかし、中長期的な成長持続性にはいくつかの懸念事項が存在する。一つは、化粧雑貨やコンタクトレンズ関連事業の構造的な減収傾向である 。もう一つは、棚卸資産の滞留期間の長期化が示唆する運転資本の非効率性であり、今後のキャッシュフロー創出能力に影響を与える可能性がある 。これらの要因が、M&Aによる一時的な利益貢献や好調セグメントの成長を相殺するリスクは排除できない。

結論として、投資スタンスは引き続き「中立」を維持する。

今後の株価動向を監視する上で、投資家が注視すべき最重要KPIやイベントは以下の通りである。

  • 最重要KPI:
    • 売上総利益率: 売上単価とコスト構造の改善が継続しているかを示す最重要指標。
    • 棚卸資産回転日数 (DIO): 運転資本の効率性と在庫の質を判断する上で不可欠。
    • 商品分類別売上高増減率: 好調な化粧品・服飾雑貨の成長が続くか、不振な化粧雑貨・コンタクトレンズ関連の減収傾向に歯止めがかかるかを判断する。
  • 注視すべきイベント:
    • 第4四半期の決算内容: 今回の好調な進捗を受けて、通期予想を上振れて着地できるか。
    • 新規事業(ライセンスビジネス)の進捗: 新たな収益の柱として機能し始めているか。
    • M&Aによるシナジーの進展: 株式会社ピコモンテ・ジャパンとの具体的な協業事例や、それが業績にどう貢献しているか。

これらの情報を総合的に判断し、中長期的な成長ストーリーがより確実なものになった時点で、改めて投資スタンスを見直す必要がある。現時点では、経営陣の戦略は適切であるものの、その成果が安定的に本業の成長に結びつくかを見極める段階である。

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