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福留ハム株式会社(2291)2026年3月期 第1四半期決算分析レポート

執筆者:シニア・アナリスト


1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス:弱気(確信度85%)

福留ハム株式会社が発表した2026年3月期第1四半期決算は、前年同期比で売上高が減少し、本業の収益性を示す営業損失が拡大するという厳しい結果であった。純利益は黒字転換したものの、これは本業とは無関係な役員退職慰労金免除益という一過性の特別利益に起因するものであり、事業の本質的な改善を示唆するものではない 。特に、主力の「食肉事業」における大幅な減収減益は、消費者の低価格志向と原材料価格の不安定さという厳しい市場環境への適応に苦慮している現状を浮き彫りにした 。経営陣は「事業再構築計画」の策定と実行を進めているが 、その具体的な成果が財務数値に反映されるには時間を要するとみられ、足元の業績悪化トレンドを反転させるには至っていない。現時点では、事業の構造的な課題が解消されていないと判断し、投資スタンスは「弱気」を継続する。

3行サマリー:

  • 何が起きたのか(事実):売上高は減少、営業損失は拡大したが、特別利益によって純利益は黒字転換した 。主力の食肉事業が大幅な減収減益となり、全社業績を圧迫している 。
  • なぜそれが重要なのか(本質):純利益の黒字化は、本業の収益性改善によるものではなく、事業再構築計画の効果はまだ見えていない。食肉事業における原材料価格変動や消費者の節約志向への対応が、依然として大きな経営課題である 。
  • 次に何を見るべきか(注目点):通期業績予想が未公表の状況下で 、今後発表される「事業再構築計画」の詳細と、特に不振の食肉事業における採算性改善策の具体性、およびその進捗が最も重要な監視ポイントとなる。

主要カタリストとリスク:

【ポジティブ・カタリスト】

  1. 事業再構築計画の早期進捗:不採算事業の整理や機能集約が計画通りに進み、固定費削減効果が早期に顕在化すること。
  2. 食肉事業の採算改善:輸入肉・国内豚肉相場の安定化、または仕入条件や納品価格の見直しが成功し、食肉事業のセグメント利益が黒字転換すること。
  3. 付加価値製品の拡販成功:「MIRAI」のような高付加価値新商品の販売が想定以上に拡大し、「加工食品事業」が全社利益を牽引するドライバーとなること 。

【ネガティブ・リスク】

  1. 原材料価格の再高騰:豚肉、牛肉などの食肉価格や飼料価格が再び高騰し、売上原価が上昇する一方、価格転嫁が遅れること 。
  2. 消費者の節約志向の継続:物価上昇に対する消費者の生活防衛意識がさらに高まり、ハム・ソーセージなどの高付加価値商品の販売が伸び悩み、価格競争が激化すること 。
  3. 事業再構築計画の遅延:計画の策定や実行が遅れ、抜本的な収益構造改革が進まず、「継続企業の前提に関する重要な疑義」が解消されないこと 。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

福留ハム株式会社は、大きく「加工食品事業」と「食肉事業」の2つの報告セグメントで構成されている

  • 加工食品事業:ハム、ソーセージなどの加工食品の製造・販売を主軸とする事業 。
  • 食肉事業:豚肉、牛肉などの生鮮食肉の仕入れ・卸売を主軸とする事業 。

ビジネスモデルの評価:

同社のビジネスモデルは、極めて古典的な製造・卸売モデルであり、特に強固な競争優位性や参入障壁を見出しにくい脆弱な構造となっている。 これを数式で表現すると、以下となる。

売上高=(加工食品数量×加工食品単価)+(食肉数量×食肉単価)

このモデルの強みと脆弱性は以下の通り。

【強み】

  • ブランド力:長年にわたる事業運営で培われたブランド力と、一定の顧客基盤を有していると考えられる。
  • 商品開発力:「MIRAI」のような高付加価値商品を開発し、既存の市場に新たな価値を提案しようとする取り組みが見られる 。

【脆弱性】

  • 価格競争への耐性:ハム・ソーセージ、生鮮食肉ともに、多くの競合が存在するコモディティ性の高い商品であり、価格競争に巻き込まれやすい。消費者の節約志向の高まりは、この脆弱性をさらに露呈させる 。
  • 原材料価格への依存度:豚肉、牛肉などの食肉や、それに付随する原料の仕入れ価格が収益性を大きく左右する 。この価格変動を販売価格に適切に転嫁できなければ、利益率の悪化は避けられない 。
  • 特定市場への依存:国内市場に限定されており、人口減少や消費トレンドの変化といったマクロなリスクに晒されやすい。

競争環境:

国内の食肉加工品および食肉市場は、日本ハム、伊藤ハム米久ホールディングス、丸大食品といった大手企業が支配する寡占市場であり、厳しい競争環境にある。

  • 相対的な強み:特定の地域やニッチな市場において、長年の信頼や小回りの利く営業体制を築いている可能性がある。
  • 相対的な弱み:大手競合と比較すると、原材料の大量一括仕入れによるコスト優位性、広告宣伝費、研究開発投資、および全国的な販売網で劣後する。特に、原材料価格の交渉力において、大手との差が収益性の変動幅に直結していると推察される 。

3. 業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析:

項目2026年3月期 1Q2025年3月期 1Q増減額増減率備考
売上高5,888百万円6,090百万円△202百万円△3.3%減収
営業損失△207百万円△170百万円△37百万円N/A損失拡大
経常損失△185百万円△141百万円△44百万円N/A損失拡大
親会社株主に帰属する四半期純利益100百万円△148百万円+248百万円N/A黒字転換(特別利益計上)

【必須】営業利益のブリッジ分析:

前年同期の営業損失から当期営業損失への変動要因を分解すると、以下のようになる。

2025年3月期 1Q 営業損失:△170百万円

  • 売上総利益の減少:△21百万円
    • 売上高が202百万円減少 した一方、売上原価は181百万円減少 した。売上原価の減少幅が売上高の減少幅を下回り、粗利率が悪化している。これは、原材料価格高騰が続く中で、販売価格への十分な転嫁ができなかったことを示唆している 。
  • 販管費の増加:△16百万円
    • 販管費は1,043百万円から1,059百万円に増加 。人件費や物流コスト、エネルギーコストの上昇が主因と推察される 。2026年3月期 1Q 営業損失:△207百万円

結論:売上高の減少と販売費及び一般管理費の増加が、営業損失拡大の主因である 。特に、売上高が減少する中で販管費が増加している点は、固定費削減が進んでいないことを示しており、極めて憂慮すべき事態である。

収益性の深掘り:

  • 粗利率:前年同期の14.3%(873百万円 / 6,090百万円)から、当期は14.5%(852百万円 / 5,888百万円)へとわずかに改善している 。これは、食肉事業で原材料コストの上昇分を販売価格に転嫁する努力が一部奏功した可能性、または加工食品事業における高付加価値商品の販売構成比が向上した可能性を示唆する 。しかし、依然として原材料価格の高騰が利益を圧迫している状況は変わらない 。
  • 営業利益率:前年同期の△2.8%から、当期は△3.5%へと悪化 。売上総利益の減少に加え、販管費が増加したことが響いた。固定費削減の取り組みが急務である。

B/S分析:

【必須】運転資本の分析とCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)

CCCは、企業が投下したキャッシュが、売上を通じて再び手元に戻ってくるまでの期間を示す指標であり、企業のキャッシュ創出力と効率性を測る上で極めて重要である。

  • 売上債権回転日数(DSO):売上がどれだけ早く現金化されているかを示す。
    • 2026年3月期1Q:(2,393百万円/5,888百万円)×90日=36.5日
    • 2025年3月期1Q:(2,393百万円/6,090百万円)×90日=35.3日
    • DSOはわずかに増加しており、売上債権の回収に若干時間を要していることを示す。
  • 棚卸資産回転日数(DIO):棚卸資産がどれだけ早く売上に転換されているかを示す。
    • 2026年3月期1Q:((971+49+389)百万円/5,035百万円)×90日=25.2日
    • 2025年3月期1Q:((915+38+271)百万円/5,216百万円)×90日=21.1日
    • DIOは4.1日増加しており、在庫の滞留期間が伸びていることを明確に示している。これは、販売が想定を下回ったか、あるいは原材料や製品の管理効率が悪化していることを示唆しており、将来の陳腐化リスクを高める。
  • 仕入債務回転日数(DPO):仕入代金の支払いをどれだけ遅らせているかを示す。
    • 2026年3月期1Q:(2,034百万円/5,035百万円)×90日=36.3日
    • 2025年3月期1Q:(1,985百万円/5,216百万円)×90日=34.2日
    • DPOはわずかに増加しており、仕入先への支払いを若干遅らせることでキャッシュ・アウトを抑制している様子がうかがえる。
  • CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)
    • 2026年3月期1Q:36.5日+25.2日−36.3日=25.4日
    • 2025年3月期1Q:35.3日+21.1日−34.2日=22.2日
    • CCCは前年同期の22.2日から25.4日へと悪化しており、キャッシュの回収効率が悪化している 。特に、棚卸資産の滞留期間が延びていることが最大の要因であり、キャッシュフローへの悪影響が懸念される。

C/F分析:

今回の決算短信では、四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成されていない 。したがって、営業活動によるキャッシュ・フロー(CF)と純利益の乖離(アクルーアル)を厳密に分析することは不可能である。しかし、前連結会計年度において「3期連続となる営業活動によるキャッシュ・フローのマイナスを計上」している事実から 、本業で創出するキャッシュは極めて脆弱な状態が続いていると判断せざるを得ない。

資本効率性の評価:

【必須】ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト)

ROICは、企業が投下した資本に対してどれだけの利益を生み出しているかを示す指標であり、これがWACCを上回っていれば企業価値を創造していると判断できる。

  • 投下資本(IC):短期借入金4,903百万円 + 長期借入金706百万円 + 純資産1,937百万円 = 7,546百万円
  • NOPAT(税引後営業利益):営業損失のため、マイナス。

ROICはマイナスとなり、資本コストを大幅に下回っている。これは、福留ハム株式会社が企業価値を破壊し続けていることを明確に示している。経営陣が直ちに取り組むべきは、ROICをWACC以上に引き上げる、すなわち本業で収益を創出できる体質への転換である。

ROEのデュポン分解:

ROEを分解することで、利益率、資産効率、財務レバレッジのどの要素がROE変動に寄与したかを分析する。

  • 2026年3月期1Q
    • 純利益率:100百万円/5,888百万円=1.7%
    • 総資産回転率:5,888百万円/12,284百万円=0.48回
    • 財務レバレッジ:12,284百万円/1,937百万円=6.34倍
    • ROE:1.7%×0.48×6.34=5.16%
  • 2025年3月期1Q
    • 純利益率:△148百万円/6,090百万円=−2.43%
    • 総資産回転率:6,090百万円/12,521百万円=0.49回
    • 財務レバレッジ:12,521百万円/1,847百万円=6.78倍
    • ROE:△2.43%×0.49×6.78=−8.07%

結論:ROEの改善は、純利益率の改善が主因であり、これは本業の収益性改善ではなく、一過性の特別利益(役員退職慰労金免除益)に大きく依存している 。総資産回転率は横ばい、財務レバレッジはわずかに低下しており、資産効率や資本構成に大きな変化は見られない。本業での収益性改善なくして、持続的なROE向上は望めない。

4. セグメント情報の徹底解剖

セグメント2026年3月期 1Q 売上高2025年3月期 1Q 売上高増減率2026年3月期 1Q 利益(損失)2025年3月期 1Q 利益(損失)
加工食品事業2,546百万円2,441百万円+4.3%10百万円△26百万円
食肉事業3,342百万円3,648百万円△8.4%△45百万円9百万円
合計5,888百万円6,090百万円△3.3%△34百万円△16百万円
全社費用△172百万円△153百万円
営業損失△207百万円△170百万円

好調セグメント:加工食品事業

加工食品事業は、売上高が前年同期比4.3%増加し、セグメント利益も黒字転換を果たした 。この背景には、国内景気と人流・インバウンド消費の回復に加え、「新商品『MIRAI(無塩せき商品)』の拡販等のハムソーセージ商品の営業を強化」したことによる、販売強化の成功がある 。また、高付加価値商品の販売強化に加え、原価低減・生産性向上にも努めた結果、利益を押し上げたと説明されている 。これは、同社の「事業再構築計画」の施策「売上・利益に貢献する新商品による利益拡大」と「既存事業の採算改善」が一定の効果を発揮し始めた兆候であり、ポジティブに評価できる。

不振セグメント:食肉事業

食肉事業は、売上高が前年同期比8.4%減少し、セグメント利益も黒字から赤字に転落した 。この不振の要因は、以下の3点に集約される。

  1. 原材料価格の変動:輸入肉の高値継続、国内豚肉相場の不安定な推移 。
  2. 供給の不安定性:国内牛肉の生産量減少による商品仕入れの不安定化 。
  3. 需要の低迷:消費者の低価格・節約志向の高まり 。

特に、売上高が減少する中で、原材料仕入れコストの上昇分を販売価格に適切に転嫁できなかったことが、利益を大きく圧迫したと分析される 。これは、大手競合と比較した際の価格交渉力の弱さという構造的な問題が、市場環境の悪化によって顕在化したものと捉えるべきである。

ポートフォリオ・マネジメントの評価:

加工食品事業の堅調さと、食肉事業の不振というコントラストは、事業ポートフォリオのリスク分散が部分的に機能していることを示す。しかし、食肉事業は売上高の57%(3,342百万円 / 5,888百万円)を占める最大セグメントであり 、その不振が全社業績の悪化トレンドを主導している。経営陣は、不振事業の構造改革を加速させなければ、加工食品事業の堅調さが相殺され、全社としての成長は望めない。

5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

福留ハムは、2026年3月期の連結業績予想を「新経営体制下において『事業再構築計画』を策定中」であることから、現時点では未公表としている 。これは、前連結会計年度において「7期連続で営業損失の計上及び3期連続となる営業活動によるキャッシュ・フローのマイナス」という深刻な状況に直面していること、そして当期も営業損失を計上している事実 を鑑みると、経営陣が足元の業績を正確に予測できていないことを示唆している。

計画未達/超過の要因分析と経営陣の評価:

具体的な業績予想がないため、計画の進捗を定量的に評価することはできない。しかし、以下の点から経営陣の判断に対しては厳しい評価を下さざるを得ない。

  1. 業績予想の未公表:前述の通り、長引く不振の中で通期の業績目標を提示できないことは、投資家との対話において大きな不信感を招く。経営再建に向けた明確なロードマップを早期に提示する必要がある。
  2. 経営判断の妥当性:経営陣は、事業再構築計画として以下の5つの施策を掲げている 。
    • 新商品による利益拡大(加工食品事業の好調はこれに合致する) 。
    • 既存事業の採算改善(食肉事業は失敗している) 。
    • 機能集約(固定費削減) 。
    • 業務効率化(基幹システム刷新) 。
    • 人材活性化 。
    これら5つの施策は妥当な内容であるが、問題は実行力スピード感である。現状の財務状況を見る限り、これらの施策はまだ本格的な効果を発揮しておらず、特に固定費削減(販管費の増加)や食肉事業の採算改善は進んでいない 。

この状況は、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在」しているという、決算短信の記述 とも整合する。経営陣は「当面の間の運転資金及び投資資金が十分に賄える状況にある」 と説明しているが、本業で損失を出し続ける限り、この状況は持続可能ではない。

6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

今後12~24ヶ月の業績について、以下の3つのシナリオを提示する。

【弱気シナリオ】

  • 前提条件:国内外の食肉原材料価格が再び高騰し、価格転嫁がさらに困難になる。消費者の節約志向は強まり、加工食品事業においても価格競争が激化。事業再構築計画の進捗が遅延し、固定費削減効果が限定的となる。
  • 予測レンジ:売上高は前年同期比△5%~△10%程度で推移し、営業損失はさらに拡大。純利益も特別利益の剥落により再び赤字に転落する可能性が高い。
  • トリガー:為替の円安進行による輸入コスト上昇、エネルギー価格の高騰、消費者の可処分所得減少。

【基本シナリオ】

  • 前提条件:原材料価格は現状維持で推移し、加工食品事業は高付加価値商品の拡販により堅調に推移。しかし、食肉事業の構造的な課題(価格交渉力、仕入れの不安定性)は解消されず、引き続き不振が続く。機能集約や業務効率化によるコスト削減効果は限定的。
  • 予測レンジ:売上高は前年同期比±0%~△3%で推移。加工食品事業の利益と食肉事業の損失が相殺し合い、全社では引き続き小幅な営業損失を計上する。
  • トリガー:事業再構築計画の緩やかな進捗、加工食品事業における新商品の継続的なヒット。

【強気シナリオ】

  • 前提条件:経営陣が策定中の「事業再構築計画」が想定を上回るスピードで進捗。特に不振の食肉事業において、仕入れルートの見直しや収益性の高い取引先への集中といった抜本的な改革が奏功し、採算性が劇的に改善。同時に、固定費削減(機能集約)や業務効率化の効果が早期に顕在化する。
  • 予測レンジ:売上高は前年同期比+5%以上で推移し、営業利益が黒字に転換。
  • トリガー:不採算事業の大胆な撤退・売却、抜本的な事業構造改革の発表、食肉事業における新規大型顧客の獲得。

7. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法:

営業損失が継続しているため、PER(株価収益率)は参考にならない。ここでは、PBR(株価純資産倍率)とEV/EBITDA(企業価値/償却前営業利益)を用いて評価を行う。

  • PBR:同社のPBRは、現時点では約0.7倍(株価/BPS)前後と推測される。純資産を下回る評価は、市場が同社の収益性を悲観視し、純資産の持続性や事業の継続性に疑義を持っていることを示唆する。
  • EV/EBITDA:営業損失のためEBITDAもマイナスであり、この指標も適用できない。

競合他社と比較すると、日本ハムや伊藤ハム米久ホールディングスのような大手は、安定した収益基盤とブランド力を背景に、より高いPBRで評価されている。福留ハムのディスカウント評価は、収益構造の脆弱性と事業の不確実性を反映したものと考える。

絶対評価法:

営業利益が恒常的にマイナスである現状では、DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法による理論株価の試算は現実的ではない。将来のフリーキャッシュフローを予測することが極めて困難であるため、本レポートでは割愛する。

8. 総括と投資家への提言

福留ハムの2026年3月期第1四半期決算は、本業の収益性が依然として脆弱であることを改めて示す結果となった。加工食品事業の堅調さは評価できるものの、最大セグメントである食肉事業の不振が全社業績を圧迫している構図は変わっていない 。純利益の黒字化も一過性の特別利益に過ぎず、この数字を過度に評価すべきではない。

核心的な投資魅力: 現時点では、明確な投資魅力を見出すことは困難。唯一の希望は、事業再構築計画が成功し、収益構造が根本的に改善されることである。

最大の懸念事項: 「継続企業の前提に関する重要な疑義」が解消されない限り、本業の収益力は脆弱なままであり、財務の安定性も危うい 。特に、事業再構築計画の具体的な内容と、それが実行された際の業績改善効果が不透明な点が最大の懸念である。

投資家への提言:

投資スタンスは「弱気」を継続する。現時点での新規投資は推奨できない。

今後の監視ポイント:

投資家は、今後の経営判断と事業再構築計画の進捗について、以下のKPIとイベントを注視すべきである。

  • 【最重要】食肉事業の採算性:輸入肉・国内豚肉相場の動向と、それに対する仕入条件・価格転嫁の成否を監視する 。セグメント利益が再び黒字に転換する兆候が見られるかが最大の注目点。
  • 事業再構築計画の進捗報告:今後の決算短信や適時開示において、固定費削減(販管費の抑制)や業務効率化(基幹システム刷新)の具体的な効果が示されるかを確認する 。
  • 通期業績予想の発表:未公表である2026年3月期の連結業績予想がいつ発表されるか、そしてその内容が現実的で達成可能な目標となっているかを厳しく評価する 。

これらの監視ポイントにおいて、ポジティブな変化が見られない限り、同社への投資判断を上方修正することは困難である。

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