家族から相続によって得た資産をどのように管理し、また活用するかは、多くの人にとって大きな課題です。
この重要な時期に、資産の利用計画を熟考することは非常に意義深いことと言えるでしょう。
本稿では、相続財産の適切な使い方と、その受け取りに際して考慮すべき点について、分かりやすくご説明いたします。
また、相続によって手に入る資産の平均的な価値や、どのような項目が相続財産に含まれるのかもお伝えします。こうした知識を基に、貴重な財産をいかに活用するかについて、一緒に考えてみましょう。
資産と遺産の概念の違いについて
土地や建物、金融資産などの物理的なものから、預金や株式などの金融資産に至るまで、これらは相続が発生する前と後で、その称呼や取り扱われ方に違いが出てきます。
生前の持ち主が有していた全ての財産は、「財産」と総称されます。一方で、持ち主が亡くなった後、その人が持っていた財産は「遺産」として扱われます。
相続が生じた際、財産は「遺産」という新たな名前で呼ばれるようになり、これを引き継ぐ権利がある人々の間で分配される共有財産となります。
そして、遺産とは単に金銭的な価値のあるものだけを意味するのではなく、借金や債務といった負の財産も含まれることを理解することが重要です。
相続資産の平均的な価値とその中央値に関する考察
相続される資産の価値に関する平均値は約3,273万円に上るとされています。 これは、MUFG資産形成研究所が2020年に実施した、「退職前後の世代における資産承継の実情」に関する調査による数値です。この調査において、対象者が親から受け継いだ資産の平均額が、およそ3,273万円であったことが明らかにされました。
この研究は、50代及び60代の相続経験者であり、かつ各都道府県における家計資産の平均額を上回る資産を持つ男女5,838名をサンプルとして行われました。
相続される資産の内訳を見てみると、不動産が48.1%と最も大きな割合を占め、次いで現金及び預金が38.6%、株式や債券などの有価証券が12.1%を占めています。
不動産の相続は、現金や預金と比べてその分割が複雑であるため、事前の相続計画が非常に肝心だと言えます。
一方、相続資産の中央値に目を向けると、1,600万円という数字が出ています。 この平均値に対する中央値のギャップが大きいことから、極めて高額な資産の相続が行われているケースが平均値を押し上げていると考えられます。
平均値は全データの合計をサンプル数で割った値であり、中央値はデータを値の大小順に並べた際に真ん中に来る値を指します。
大きな数値が含まれていると、全体の合計が増大し、結果として平均値が高くなります。
このような平均値と中央値の差を鑑みると、実際の相続金額は中央値である1,600万円に近いと推測されるかもしれません。
さらに、MUFG資産形成研究所の調査は特定の層、つまり「各都道府県の家計資産額以上保有者」を対象としていたため、これらの平均値や中央値が全国平均と異なる場合があるかもしれません。
三菱UFJ信託銀行が2018年に実施した「遺言と相続に関する実態調査」によると、相続資産の平均は約2,114万円であるとされています。
そして、実際に相続が行われた金額に関する調査では、「500〜1,000万円未満」の範囲にある相続が全体の19.0%を占めていることが分かりました。
これらの調査結果を基にすると、一般的に日本国内で行われる相続資産の平均額は約1,000万円程度と見積もられるでしょう。
相続される財産の範囲と内容についての概説
相続においては、金銭価値が存在するものならば、その性質がプラスであれマイナスであれ、全てが「相続財産」として考慮されます。
以下に、相続における財産の代表的な例を紹介し、それぞれの特徴についても触れていきます。
金融資産
相続財産として頻繁に取り上げられるのが金融資産です。以下は、典型的な金融資産のカテゴリーです。
- 現金
- 預貯金
- 株式
- 投資信託
- 積立金
- 小切手 等々
これらの金融資産は、分割が比較的容易であるため、相続の際に紛争が起こりにくいという利点があります。
不動産
住宅や農地、マンションなどの不動産も相続財産の一部です。以下のような不動産も念頭に置く必要があります。
- 一般的な住宅
- 商業施設
- 山林
- オフィスビル
- 倉庫 等々
また、貸し出されている土地や建物、例えば借地権や借家権も、相続財産に含まれる点に注意が必要です。
動産
土地や建物以外で移動可能な財産、いわゆる「動産」も相続対象となります。これには以下のようなものがあります。
- 自動車
- 貴金属
- 家具
- 宝石
- 船舶
- 古美術品
- 美術品
- 家電製品 等々
ただし、価値が低い物品、たとえば一部のアクセサリーや衣服などは、相続の範囲から外れることがあります。
権利関係
被相続人が生前に有していた各種権利も、遺産の対象となります。主な例を挙げると以下のようになります。
- ゴルフ会員権
- 著作権
- 特許権
- 商標権
- 損害賠償請求権 等々
なお、被相続人個人に固有の権利は、民法896条に基づき相続の対象外となるのが通例です。これには、身元保証人の地位や国家資格、認知請求権、生活保護の受給権などが含まれます。
負の遺産
負債や税金の滞納など、マイナスの価値を持つ財産も遺産に計上されます。以下のようなものがこれに該当します。
- 借金
- 未払いの家賃
- クレジットカードの債務
- 住宅ローンの残高
- 賃貸物件の賃料 等々
さらに、故人が連帯保証人としていた保証債務や、連帯債務も相続財産に数えられます。これらは、相続人が承継すべきマイナスの財産として、適切な対応が必要です。
相続資産の有効活用に向けた提案
MUFG資産形成研究所が行った「退職前後の世代の資産承継に関する調査」によれば、相続によって手に入れた現預金を銀行に預ける人が大多数で、その比率は約66.5%に達しています。
一方で、株式や投資信託への投資は9.0%という割合です。多くの人が金融機関に資産を預ける選択をしていることが分かります。
しかしながら、このような傾向の中で、もっとも効果的な遺産の使い道についていくつか提案させていただきます。
資産の運用
現在の日本経済においては、超低金利が続いており、銀行に預金をしてもほとんど利息がつきません。
そこで、遺産を資産運用に充て、資産を増やしていく方法が推奨されます。
大きな金額を運用に回せば、それに比例してリターンを期待することが可能です。
たとえば1,000万円を運用して3%のリターンを得られれば、1年に30万円の収益を見込むことができる計算です。
資産運用には、株式投資、不動産投資、金、債券など多岐にわたる方法が存在します。
ご自分に合った運用方法を選び、長期的な資産増加を目指すと良いでしょう。
住宅ローンの前倒し返済
住宅ローンの残債がある場合、遺産を返済資金として使用するのもひとつの手です。
前倒しで返済を行えば、将来にわたる金銭的な負担が軽くなり、家計のゆとりにつながるでしょう。
住宅ローンだけでなく、車のローンや奨学金の返済、その他の借入金にも同様のことが言えます。
できるだけ早期に債務を解消し、将来の不安を減らすためにも、積極的に返済に充てることをお勧めします。
高額購入品への投資
車や住宅といった高額な購入を検討されているなら、遺産をこれらの支出に利用することも考慮に値します。
通常では手が出しにくい価格の物品も、相続により一定額の遺産を手にしたことで、購入が現実的な選択肢となり得ます。
子どもの教育資金としての活用 子供がいる家庭では、将来の教育資金に不安を持っている方も多いでしょう。
相続によって手にした遺産を子どもの学費にあてることは、非常に有益な選択となります。
習い事の開始や、希望する海外留学、私立学校への進学など、教育に関わる多額の出費に対して、遺産を有効活用することが可能です。
子どもにとって最良の教育機会を提供するためにも、教育関連の支出に遺産を活用することは、ぜひ検討してみてください。
相続時における大金取り扱いの重要ポイント
相続に際してまず行うべきことは、遺された財産に関する遺言が存在するかどうかの確認です。
法律に則った形で記された遺言がある場合、その内容には法的な効力が伴いますので、手続きを進める前にその有無を把握することが肝心です。
もし手続きを進めた後で遺言が発見されたら、これまでの進行をやり直さなければならなくなるため、家の中や税理士・会計士に確認をとり、公証役場や法務局にも照会しておくべきです。
また、法定相続人とされる方々を見落とさないために、行方不明の方や養子を含めた相続人全員の把握も行っておくことが重要です。
遺産の使い方を慎重に検討する
大金を相続すると、生活水準を上げたくなる気持ちにかられるかもしれませんが、急激な生活スタイルの変更は遺産を速やかに減少させる可能性があります。
予期せぬ大きな遺産に戸惑うこともあるでしょうが、慎重に遺産の活用計画を練ることが求められます。
焦って使う必要はなく、何年かをかけてじっくりと遺産を使う計画を立てることをお勧めします。
相続税の計算方法を理解する
相続税は、相続が発生した時点の資産状況をもとに計算され、必ずしも「財産の金額=遺産の金額」とは限りません。
相続税の計算には特定の方法がありますので、税理士に相談し、正確な遺産の評価額を算出してもらうことが大切です。
相続税が課されるのは基礎控除額を超えた場合
相続税が課されるのは、「基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数)」を超える遺産がある場合のみです。
法定相続人が一人の場合でも、3,600万円を超えなければ相続税の対象とはなりません。
そして、相続人が多いほど、相続税がかからない遺産の額は大きくなります。
遺産額が基礎控除以下ならば、相続税は発生せず、税務署への申告も不要です。
相続税の申告と納税を忘れない
相続税の申告は、相続発生の知識を得た翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。
申告期限を過ぎたり、実際に受け取った額より少なく申告した場合、本来の税額に加えて加算税や延滞税が課せられます。
例えば、1月6日に故人が亡くなった場合、その年の11月6日までが申告の締め切りです(週末や祝日の場合は翌営業日が期限になります)。
場合によっては税金の延納も認められることがありますので、不明点は税務署に相談しましょう。
生前贈与を受けた場合、相続発生の3年以内に行われた贈与も相続財産に算入され、税金の対象となることも覚えておくべきです。
最後に、相続税の申告先は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署となりますので、注意が必要です。
結論:慎重に遺産を活用しましょう
「遺産」というものは、現金や金融資産、不動産等を含む幅広い資産を指し、相続によりこれらが新たな持ち主に渡ります。
しかし、すべてがプラスの価値を持つわけではなく、借金や負債といったマイナスの財産も相続の対象となることを忘れてはなりません。
遺産を相続した際には、生活水準を急激に上げてしまわないよう、将来にわたって資産を持続させるための計画的な使い道を熟慮することが肝要です。
先に紹介した遺産の活用方法を参照にしながら、相続した財産を最も有益に使える方法をじっくり考え、賢明な判断を下しましょう。