1. エグゼクティブ・サマリー
投資スタンス:中立、確信度65%
横浜冷凍(横冷、2874)の2025年9月期第3四半期決算は、堅調な冷蔵倉庫事業と、コスト増に苦戦する食品販売事業という二つの事業の明暗が明確に分かれた結果でした。特に、冷蔵倉庫事業は過去最高益を更新し、全社利益を牽引しましたが、その一方で、食品販売事業は増収ながらもコストを吸収しきれずに減益となりました。全社としては増収増益を達成し、一見好調に見えますが、営業利益率の低下や、利益の変動要因が複雑化している点を考慮すると、手放しで「強気」とは判断できません。冷蔵倉庫事業の構造的な強さと、食品販売事業のコスト増という本質的な課題を深く掘り下げ、今後の戦略の妥当性を評価する必要があります。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
横浜冷凍は、主に冷蔵倉庫事業と食品販売事業の二つのセグメントでビジネスを展開しています。
ビジネスモデルの評価
- 冷蔵倉庫事業:生鮮食品や加工食品の低温保管・管理サービスを提供しています。
- 収益モデル: 売上高 = 積載容量(Q)×稼働率×保管料(P)+付帯サービス料
- 強み(競争優位性):
- 高い参入障壁: 冷蔵倉庫の建設には巨額の初期投資と広大な土地が必要であり、新規参入は極めて困難です。また、食品の品質管理に関するノウハウや信頼の蓄積が不可欠であり、既存顧客との長期的な関係性が強固な参入障壁となります。
- 安定的な収益構造: 食料品は生活必需品であり、景気変動の影響を受けにくく、安定的な保管需要があります。
- スイッチングコスト: 顧客は一度特定の冷蔵倉庫を利用すると、在庫の移動にかかるコストや手間、品質管理リスクを考慮して、安易に他社に切り替えることはありません。
- 価格交渉力: 人件費や動力費といった運営コストの増加に対して、顧客との価格交渉が進み、増収に寄与している点が確認されました 。これは、横冷の市場における交渉力の高さを示唆します。
- 脆弱性:
- 設備投資の重さ: 新規物流センターの立ち上げに伴う一時的な経費や減価償却費の増加が利益を圧迫する可能性があります 。
- エネルギーコストへの依存: 動力費(電気代)の高騰は直接的に利益を圧迫する最大の外部リスクです。
- 食品販売事業: 国内外から水産品、畜産品、農産品を調達し、外食・加工メーカー・小売等に販売しています。
- 収益モデル: 売上高 = 取扱数量(Q)×販売単価(P)
- 強み(競争優位性):
- 国内外の生産者ネットワーク: 長年にわたる独自のネットワークを活用し、多様な商品を安定的に調達する「目利き力」が強みです 。
- ポートフォリオの多様性: 水産品、畜産品、農産品と幅広い商材を扱っており、特定品目の市況変動リスクを分散しています 。
- 脆弱性:
- 価格競争: 市場価格や需給バランスに大きく左右される商品が多く、価格競争に巻き込まれやすい構造です。
- コスト吸収力の限界: 運賃や保管料といったコストの増加を販売価格に十分に転嫁できず、利益率が低下するリスクを抱えています 。
- 為替リスク: 海外からの調達が多いため、為替変動が仕入れコストに直接的な影響を与えます。
競争環境
横冷の主要な競合としては、ニチレイロジグループ、キューソー流通システムなどが挙げられます。
- 冷蔵倉庫事業: 大手3PL(Third Party Logistics)事業者や、食品メーカー系の物流子会社が競合となります。横冷の強みは、独立系であることによる多様な顧客基盤と、長年の実績に裏打ちされた品質管理能力です。特に、新物流センターの立ち上げによるキャパシティ増強は、物流需要が高まる中での競争優位性の源泉となります 。
- 食品販売事業: 国内外の商社、卸売業者、さらには食品メーカー自身が直接販売を行うケースも増えています。横冷の「目利き力」と生産者ネットワークは強みですが、コスト増を吸収できない現状は、流通効率化やサプライチェーンの再構築が喫緊の課題であることを示唆します 。
3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析
項目 | 2025年9月期3Q累計 (百万円) | 2024年9月期3Q累計 (百万円) | 対前年増減率 (%) | 2025年9月期計画 (百万円) | 計画進捗率 (%) |
売上高 | 95,266 | 91,168 | +4.5% | 127,000 | 75.0% |
営業利益 | 3,709 | 4,044 | -8.3% | 4,250 | 87.3% |
経常利益 | 3,278 | 2,899 | +13.1% | 4,150 | 79.0% |
親会社株主に帰属する四半期純利益 | 2,289 | 1,665 | +37.4% | 2,800 | 81.8% |
売上高は、主に冷蔵倉庫事業と食品販売事業の両セグメントが増収となり、全体で4.5%の増加となりました 。
営業利益は、売上総利益が前期を上回ったものの、冷蔵倉庫事業での新センター立ち上げ費用や食品販売事業におけるコスト増、さらに販管費の増加を吸収しきれず、8.3%の減益となりました 。
経常利益は、営業外費用が前期比で大きく減少(2,245百万円→1,492百万円)したこと 、そして特別利益に投資有価証券売却益350百万円や条件付対価受入益283百万円を計上したことで、前期比13.1%増と大幅な増益となりました 。
親会社株主に帰属する四半期純利益も、特別利益の計上と税金費用の抑制により、37.4%増と大幅な増益を達成しています 。
【必須】営業利益のブリッジ分析
前年同期の営業利益4,044百万円から当期の3,709百万円への変動を分析します。
- 売上数量/ミックス変動: 冷蔵倉庫事業は入庫量、出庫量、在庫量の全てが前期を上回り、増収に貢献 。食品販売事業も増収となりました 。これによる増益効果は約+200百万円と推定。
- 価格/原価率変動:
- 冷蔵倉庫事業: 人件費や動力費の高騰を価格交渉で一部吸収し、増益に寄与 。
- 食品販売事業: 運賃、保管料等のコスト増を吸収しきれず、売上高は増加したものの減益となりました 。これは、商品単価の上昇だけではコスト増を賄えなかったことを意味します。このコスト増による減益効果は約-1,000百万円と推定。
- 販管費変動:
- 冷蔵倉庫事業: 3つの新設物流センター立ち上げに伴う一時経費や減価償却費の増加が利益を下押ししました 。これによる減益効果は約-200百万円と推定。
- 全体: 販管費全体では、前期の6,656百万円から7,083百万円へ増加しています 。
結論: 営業利益の減少は、冷蔵倉庫事業の新設コストと、食品販売事業におけるコスト高騰が、増収効果を上回ったことによるものです。冷蔵倉庫事業の利益率維持には成功していますが、食品販売事業の構造的なコスト問題が全体の収益性を圧迫している構図が浮き彫りになりました。
B/S分析
項目 | 2025年9月期3Q末 (百万円) | 2024年9月期末 (百万円) | 増減 (百万円) |
総資産 | 214,174 | 203,026 | +11,147 |
純資産 | 81,289 | 79,871 | +1,417 |
自己資本比率 | 37.2% | 38.5% | -1.3pt |
総資産は、主に有形固定資産の増加(+9,629百万円)と、受取手形及び売掛金の増加(+2,181百万円)により、前期末から111億円以上増加しました 。これは、新設物流センターへの投資が積極的に行われていることを示しています。
負債総額は、借入金が184億円増加する一方で、社債が100億円減少したことなどにより、全体で97億円増加しました 。
自己資本比率は、総資産の増加率が純資産の増加率を上回ったため、1.3ポイント低下しました 。これは、設備投資を借入金で賄っているためであり、健全な成長投資と評価できますが、今後も積極的な投資が続く場合、自己資本比率の動向を注視する必要があります。
【必須】運転資本の分析とCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)
CCCは、企業がキャッシュを投下してから、その投下資本がキャッシュとして回収されるまでの期間を示す指標です。CCCが短ければ短いほど、効率的にキャッシュを回していることになります。
- 売上債権回転日数(DSO): (売上債権÷売上高×90日)
- 2025年9月期3Q累計: (15,552÷95,266×90) = 14.7日
- 2024年9月期3Q累計: (13,370÷91,168×90) = 13.2日
- 考察: 受取手形及び売掛金が21億円増加した結果、DSOは1.5日悪化しています。これは、売上の増加に伴い売上債権が増加したことや、一部顧客の支払条件が長期化した可能性を示唆します。
- 棚卸資産回転日数(DIO): (棚卸資産÷売上原価×90日)
- 2025年9月期3Q累計: (15,027÷84,474×90) = 16.0日
- 2024年9月期3Q累計: (16,295÷80,468×90) = 18.2日
- 考察: 棚卸資産は12.6億円減少しており、DIOも2.2日改善しています 。食品販売事業において、東日本でのサンマの在庫過多により在庫調整が行われたと記載されており 、この在庫調整が全体的な棚卸資産回転の改善に繋がった可能性があります。在庫管理の効率化が進んでいると評価できますが、サンマの在庫調整は減益要因でもあったため、滞留在庫が解消された結果、キャッシュフローは改善したものの、利益面ではマイナスに働いたという複雑な構図が見て取れます。
- 仕入債務回転日数(DPO): (仕入債務÷売上原価×90日)
- 2025年9月期3Q累計: (3,984÷84,474×90) = 4.2日
- 2024年9月期3Q累計: (4,573÷80,468×90) = 5.1日
- 考察: 支払手形及び買掛金が減少しており、DPOは0.9日悪化しています 。これは、サプライヤーへの支払いが相対的に早くなっていることを意味し、キャッシュの外部流出が早まっていると評価できます。
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル): DSO + DIO – DPO
- 2025年9月期3Q累計: 14.7+16.0−4.2 = 26.5日
- 2024年9月期3Q累計: 13.2+18.2−5.1 = 26.3日
結論: CCCはほぼ横ばいでした。棚卸資産回転日数の改善(キャッシュイン)が売上債権回転日数と仕入債務回転日数の悪化(キャッシュアウト)を相殺した形です。これは、事業運営上のキャッシュフロー管理が極めて慎重に行われていることを示唆する一方で、売上増が必ずしもキャッシュフローの効率化に繋がっていないという課題も浮き彫りにしています。特に、在庫過多の解消が利益ではなくキャッシュフローの改善に寄与したという点は、今後の食品販売事業の在庫戦略を評価する上で重要なポイントとなります。
キャッシュフロー(C/F)分析
- 営業活動によるキャッシュフロー(CFO): 3,647百万円の資金増加(前年同期は9,056百万円)。
- 考察: 税金等調整前四半期純利益が39億円と前期(28.9億円)を大幅に上回ったにもかかわらず、CFOは大幅に減少しています 。その主な要因は、法人税等の支払額の急増(1,299百万円→4,649百万円)と、売上債権の増加額(563百万円→2,139百万円)です 。利益は増えたものの、キャッシュとして手元に残るまでのタイムラグがあること、そして前年の繰延税金資産の減少に伴う税金支払いの増加が、利益の質を低下させていると評価できます。
- 投資活動によるキャッシュフロー(CFI): 10,378百万円の資金減少(前年同期は16,260百万円の減少)。
- 考察: 主に有形固定資産の取得による支出109.5億円が継続的な投資活動を示しています 。これは、新設冷蔵倉庫への積極的な設備投資を反映しており、将来の成長に向けた健全な活動と評価できます。
- 財務活動によるキャッシュフロー(CFF): 6,929百万円の資金増加(前年同期は8,271百万円の増加)。
- 考察: 金融機関からの借入の純増額が184億円と、大型投資を負債で賄っていることが明確です 。一方で、社債の償還による支出100億円があり、資金調達手段のポートフォリオを調整していることがわかります 。
営業CFと純利益の乖離(アクルーアル): 税金等調整前純利益39.1億円に対し、CFOは36.4億円と、若干のマイナス乖離が見られます。これは、売上債権の増加が利益を押し上げている一方で、その利益がまだ現金化されていないことを意味し、利益の質に一定の注意を払う必要があります。
資本効率性の評価
【必須】ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト)
ROICは企業が事業活動のために投下した資本(有利子負債+株主資本)から、どれだけの税引後利益(NOPAT)を生み出したかを示す指標です。WACCは、その資本を調達するためにかかるコストです。ROICがWACCを上回っていれば、企業は事業を通じて株主価値を創造していると評価できます。
- ROICの概算: ROIC=NOPAT/投下資本
- NOPAT (税引後営業利益): 営業利益(3,709百万円) × (1−実効税率)
- 実効税率は、法人税等合計1,594百万円を税金等調整前四半期純利益3,911百万円で割ると約40.7%となります。しかしこれは特殊要因を含んでいるため、ここでは一般的な税率31.4% を使用します。
- NOPAT = 3,709 × (1 – 0.314) = 2,544百万円
- 投下資本 (有利子負債+株主資本):
- 有利子負債(借入金+社債): 短期借入金15,967 + 1年内返済長期借入金5,538 + 長期借入金67,776 + 社債20,000 = 109,281百万円
- 株主資本: 70,731百万円
- 投下資本 = 109,281 + 70,731 = 180,012百万円
- ROIC: 2,544/180,012 = 1.4%(四半期累計のため、年換算では1.4%×4/3 = 1.9%)
- WACCの推定:
- WACCは、株主資本コストと負債コストの加重平均で算出されます。横冷は安定的な事業構造を持つため、株主資本コスト(CAPMで算出)は8%程度、負債コストは低金利の現在で1%程度と仮定します。自己資本比率37.2%に基づき、WACCは約5-6%と推定されます。
結論: 当期ROIC(年換算1.9%)は推定WACC(5-6%)を大きく下回っており、事業活動を通じて企業価値を創造できていない状態です。これは、積極的な設備投資(投下資本の増加)に対して、それに見合うだけの利益(NOPAT)を生み出せていないことを意味します。今後の新規冷蔵倉庫がフル稼働し、利益貢献が本格化すれば改善が見込まれますが、現時点では資本効率性に課題があると評価せざるを得ません。
ROE(自己資本利益率)のデュポン分解
ROE=純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ
- 純利益率: (2,289÷95,266) = 2.4%(前年同期: 1,665÷91,168 = 1.8%)
- 総資産回転率: (95,266÷214,174) = 0.44回転(前年同期: 91,168÷203,026 = 0.45回転)
- 財務レバレッジ: (214,174÷81,289) = 2.63倍(前年同期: 203,026÷79,871 = 2.54倍)
結論: ROEの改善は、主に純利益率の向上によってもたらされました 。これは特別利益の計上や税金費用の抑制といった一時的な要因が大きく、本業の収益性改善によるものではない点に注意が必要です。一方、総資産回転率は横ばいで、財務レバレッジは投資に伴う借入増加で上昇しており、本業の効率性向上には課題が残ります。
4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖
各セグメントの業績
- 冷蔵倉庫事業:
- 売上高: 27,809百万円(前年比 +7.4%)
- 営業利益: 5,840百万円(前年比 +0.4%)
- 考察: 増収増益を達成し、過去最高の利益を更新しました 。入庫量、出庫量、在庫量の全てが前期を上回り、需要が堅調に推移していることが伺えます 。人件費や動力費の高騰を価格交渉で一部吸収できた点も評価できます 。しかし、営業利益の伸びが売上高の伸びを下回っているのは、新設物流センターの立ち上げ時の一時費用や減価償却費の増加が利益を圧迫しているためです 。海外事業(タイヨコレイ)は増収減益となっており、円安によるコスト増などが影響している可能性があります 。冷蔵倉庫事業が全社の利益(セグメント利益)6,732百万円の約87%を稼いでおり、全社の利益ドライバーであることが明確です 。
- 食品販売事業:
- 売上高: 67,433百万円(前年比 +3.4%)
- 営業利益: 865百万円(前年比 -27.4%)
- 考察: 増収ながら大幅な減益となりました 。最大の要因は、運賃や保管料といったコスト増を販売価格に転嫁しきれなかったことです 。セグメント別に細かく見ると、畜産品は組織効率化で利益率が向上 、水産品では豊漁のサバやタコが増収増益に貢献した一方で、サンマの在庫過多や米国関税の影響を受けたマグロが減益要因となりました 。この結果は、特定の商材の市況や在庫管理に利益が左右される事業の脆弱性を示しています。
ポートフォリオ・マネジメントの評価
横冷の事業ポートフォリオは、安定的な収益基盤である
冷蔵倉庫事業が、市況変動の影響を受けやすい食品販売事業のブレを吸収し、リスクを分散する構造となっています。しかし、今回の決算では、食品販売事業のコスト増が冷蔵倉庫事業の利益成長を相殺する形となり、全社の営業利益が減益に転じました 。これは、ポートフォリオのリスク分散機能が十分に機能しているとは言えず、むしろ食品販売事業の構造的な課題が、安定成長を阻害するリスクとして顕在化していることを示唆します。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
横冷は2025年9月期の通期連結業績予想について、売上高127,000百万円、営業利益4,250百万円、親会社株主に帰属する当期純利益2,800百万円という数値を据え置きました 。
- 売上高: 3Q累計で95,266百万円と、通期計画の75.0%を達成しています 。例年の季節性を考慮すると、計画達成は十分に可能です。
- 営業利益: 3Q累計で3,709百万円と、通期計画の87.3%を既に達成しています 。これは、第4四半期に大幅な利益減少がなければ、通期計画を上回る可能性が高いことを示唆します。
- 親会社株主に帰属する当期純利益: 3Q累計で2,289百万円と、通期計画の81.8%を達成しています 。経常利益段階で既に計画に迫っており、計画の上方修正の可能性は高いと判断します。
経営陣の需要予測能力と判断の妥当性: 今回の決算では、営業利益が前年同期比で減益となりましたが、経常利益、純利益は大幅増益となりました。この要因が特別利益の計上や営業外費用の減少など一時的なものであることを考慮すると、本業の収益性だけで計画を判断することは危険です。しかし、既に営業利益は計画の87%を超えており、通期計画の据え置きは保守的すぎると言えます。経営陣が今後のコスト増加リスクや経済環境の不確実性を考慮して慎重な姿勢を保っている可能性もありますが、現状の進捗から見ると、計画の妥当性には疑問符が付きます。投資家としては、次の決算で計画が上方修正されるか否かを注視する必要があります。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
今後12~24ヶ月の業績について、以下の3つのシナリオを提示します。
強気シナリオ
- 前提条件: 世界的な経済回復が加速し、食品流通需要がさらに拡大。冷蔵倉庫事業の新設センターが早期にフル稼働し、稼働率と利益率が大幅に改善。食品販売事業において、コスト増を価格転嫁することに成功し、利益率が回復。
- 売上・利益予測:
- 売上高: 1300億円~1350億円
- 営業利益: 50億円~55億円
- 主なカタリスト:
- 新設冷蔵倉庫のフル稼働に伴う収益貢献の本格化。
- 食品販売事業におけるコスト増加分の価格転嫁の成功。
- インバウンド需要の回復による畜産品などの需要拡大。
- M&Aによる事業規模拡大やシナジー創出。
基本シナリオ
- 前提条件: 国内外の経済は緩やかな回復基調を維持。冷蔵倉庫事業は安定的に推移するが、食品販売事業のコスト増は継続し、利益率改善は限定的。
- 売上・利益予測:
- 売上高: 1270億円~1300億円
- 営業利益: 43億円~48億円
- 主なカタリスト:
- 堅調な冷蔵倉庫需要の継続。
- 効率的な在庫管理による棚卸資産の質の改善。
- 主なリスク:
- 食品販売事業におけるコスト高騰(運賃、保管料)の継続。
- 電力価格の再高騰による冷蔵倉庫事業の利益圧迫。
- 特定の食品(水産品など)の市況変動による収益の不安定化。
弱気シナリオ
- 前提条件: 世界的な景気後退や原材料価格の高騰、物流コストの急増が続く。消費者の節約志向が強まり、食品需要が低迷。食品販売事業の利益率がさらに悪化し、赤字に転落するリスクが顕在化。
- 売上・利益予測:
- 売上高: 1200億円~1250億円
- 営業利益: 35億円~40億円
- 主なリスク:
- 想定以上の景気悪化による食品流通量の減少。
- 円安のさらなる進行による輸入コストの急増。
- 食品販売事業における構造的なコスト問題の解決不全。
7. バリュエーション(企業価値評価)
相対評価法
- PER(株価収益率):
- 同業他社(ニチレイロジグループ、キューソー流通システムなど)のPERは15倍~20倍程度で推移しています。
- 横冷の通期予想EPS(1株当たり当期純利益)は47.54円 です。
- 理論株価 = 47.54円 × (15~20倍) = 713円~950円
- PBR(株価純資産倍率):
- 同業他社のPBRは0.8倍~1.5倍程度で推移しています。
- 横冷の1株当たり純資産は1,349.68円 です。
- 理論株価 = 1,349.68円 × (0.8~1.5倍) = 1,079円~2,024円
考察: 冷蔵倉庫という安定した事業基盤を持つ一方、食品販売事業の収益性の不安定性、そして現状のROICがWACCを下回っているという資本効率性の課題を考慮すると、同業他社比でPERには一定のディスカウントが、PBRにはプレミアムが付く可能性があります。
- PERディスカウント: 冷蔵倉庫事業の成長鈍化リスクと食品販売事業の不安定性から、利益の成長性に対する市場の期待が低い可能性があります。
- PBRプレミアム: 豊富な有形固定資産(土地、建物)を保有しており、B/S上の資産価値が株価に反映されやすい傾向があります。
絶対評価法(簡易DCF法)
- 仮定:
- FCF(フリーキャッシュフロー)は、今後の設備投資増加と利益成長を考慮し、年平均50億円と仮定。
- WACCは5%と仮定。
- 永久成長率(g)は1%と仮定。
- 継続価値(Terminal Value): FCF5年後×(1+g)/(WACC−g) * 50億円×(1+0.01)/(0.05−0.01)=1,262.5億円
- 企業価値(EV): 今後5年間のFCFの現在価値合計 + 継続価値の現在価値
- 株主価値: EV – 有利子負債(1,092.8億円)
- 結論:
- この簡易的な試算では、継続価値が企業価値の大部分を占めます。
- ROICがWACCを下回っている現状では、積極的な投資が企業価値を毀損している可能性があり、DCF法による評価は現状の株価を正当化する水準に達しない可能性が高いです。
8. 総括と投資家への提言
今回の決算は、横冷の二つの事業セグメントが持つ本質的な強みと弱みを明確に示しました。
- 投資魅力の核心: 冷蔵倉庫事業は、高い参入障壁と安定的な需要に支えられ、過去最高益を更新する堅牢なビジネスモデルです。将来の成長に向けた積極的な設備投資も評価できます 。
- 最大の懸念事項: 食品販売事業の収益性が構造的なコスト増により圧迫されている点です。運賃や保管料といったコストを価格に転嫁しきれておらず、この問題が解決しない限り、全社の利益成長を阻害するリスクとなります 。さらに、ROICがWACCを下回っており、資本効率性の観点からも課題が残ります。
明確な投資スタンス:
- 中立
- 論理的な根拠: 堅牢な冷蔵倉庫事業が成長を牽引している一方で、食品販売事業というアキレス腱が露呈しました。将来の利益成長に向けた設備投資は評価するものの、それが現時点で資本効率性(ROIC < WACC)を悪化させている点を無視できません。また、営業利益の伸びが鈍化している一方で、経常利益・純利益が特別利益や営業外費用の減少といった一時的な要因で嵩上げされている点も、利益の質に注意を払うべき理由となります。
今後の監視すべき最重要KPIとイベント:
- 食品販売事業の利益率: 運賃や保管料のコスト増を価格転嫁できているか、そして在庫管理の効率化が進んでいるかを注視します。
- 冷蔵倉庫事業の稼働率: 新設物流センターの稼働状況と、それに伴う利益貢献の進捗。
- 四半期ごとのROIC: 設備投資が増加する中で、ROICがWACCを上回る水準まで改善するかどうか。
- 通期業績予想の上方修正の有無: 計画の進捗から見て保守的な予想が据え置かれたままであるため、次の決算での上方修正の発表は、市場にポジティブなサプライズとなる可能性が高いです。