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横浜ゴム(5101)2025年度第2四半期決算分析レポート:中期経営計画「YX2026」の進捗を評価する

投資スタンス:強気(確信度85%)

今回の横浜ゴムの2025年度第2四半期決算は、中期経営計画「YX2026」の進捗が極めて順調であることを示すものであり、特に事業ポートフォリオの構造改革と高付加価値製品へのシフトが利益率の改善に大きく貢献していることが確認された。主力であるタイヤ事業に加え、買収を通じて拡大したOHT事業の統合効果が顕在化し始めており、事業利益は過去最高を記録。通期計画の上方修正も発表されたことで、市場の信頼は一層強固になるだろう。

3行サマリー: 過去最高の売上と事業利益を達成し、通期業績を大幅上方修正。これは高付加価値商品(AGW)と買収事業の統合効果による利益構造の改善が本質であり、今後は「中国生産工場」の低コスト生産体制と「米国関税」の影響を注視する必要がある。

主要カタリスト:

  1. OHT事業のさらなるシナジー創出: Goodyear買収によるG-OTR事業の統合が順調に進み、販売網の拡大とコスト効率化が計画を上回るペースで進捗すれば、市場はさらなる高評価を与えるだろう。
  2. 高付加価値商品(AGW)の販売構成比率の拡大: 「ADVAN」や「GEOLANDAR」など、高単価かつ高マージンな製品の販売が、特に欧米市場で計画を上回る伸びを見せれば、利益率のさらなる改善が期待できる。
  3. 中国新工場の早期立ち上げと低コスト生産体制の確立: 「1年工場」という挑戦的な目標を達成し、計画通り2026年から量産を開始できれば、コスト競争力の強化が実現し、市場の懸念を払拭するポジティブなサプライズとなる。

主要リスク:

  1. 米国関税政策の不確実性: 米国における関税引き上げの影響額が年間140億円と想定されているが、地政学リスクや政策変更により、この影響額がさらに拡大するリスクがある。
  2. 原材料価格の再上昇と為替変動: 天然ゴムや原油価格、為替レートの急激な変動は、同社のコスト構造と収益性を圧迫する可能性がある。特に円安はプラスに作用するが、他通貨に対する変動はリスクとなる。
  3. OHT事業の統合リスク: 買収したGoodyear社のOTR事業やTrelleborg事業において、組織文化の衝突や技術・生産ラインの統合に想定外の遅延が生じた場合、シナジー創出が遅れ、負ののれん減損につながる可能性がある。

事業概要とビジネスモデルの深掘り

横浜ゴムは、主に「タイヤ事業」と「MB(マルチプル・ビジネス)事業」の二つのセグメントで構成されている。

タイヤ事業

  • ビジネスモデルの評価:
    • 収益モデル: 売上収益 = (乗用車用タイヤ販売数量 + トラック・バス用タイヤ販売数量 + OHTタイヤ販売数量)× 平均単価
    • 強み:
      • 高付加価値商品のブランド力: 「ADVAN」(乗用車用)や「GEOLANDAR」(SUV用)といったグローバルブランドが確立されており、特に欧米のプレミアムカーメーカーへのOE(新車用タイヤ)納入実績は、高い技術力と品質の証明となっている 。これにより、ブランドスイッチングコストが高まり、価格競争への耐性が向上している。
      • 多角的な販売チャネル: OE市場(新車向け)とREP市場(市販向け)の両方に強固な販売網を持ち、特にREP市場では独立系ディーラーや自社店舗など多様なチャネルを構築している 。
      • 積極的なM&Aによる市場シェア拡大: ATGやTrelleborg、そして直近のGoodyear OTR事業の買収により、成長市場であるOHT(オフハイウェイタイヤ)分野でのプレゼンスを劇的に向上させている 。これにより、レッドオーシャンである乗用車用タイヤ市場 から、高成長・高収益のブルーオーシャンであるOHT市場 へと事業ポートフォリオをシフトしている点は高く評価できる。
    • 脆弱性:
      • 特定市場の景気変動リスク: 新車販売動向や建設・農業機械市場の景気変動に影響を受けやすい。
      • 原材料価格と為替変動リスク: 天然ゴム、合成ゴム、原油などの原材料価格の変動や、グローバル展開に伴う為替変動が利益を直接的に圧迫する可能性がある 。

MB(マルチプル・ビジネス)事業

  • ビジネスモデルの評価:
    • 収益モデル: 売上収益 = (ホース配管事業販売数量 + 工業資材事業販売数量 + 航空部品事業販売数量)× 平均単価
    • 強み:
      • ニッチ市場での高シェア: コンベヤベルトや海洋商品(マリンホース、防舷材)など、特定の産業資材市場で高い国内シェアを維持している 。
      • 技術力を活かした高付加価値化: 航空部品事業では、高い技術力を要する防衛装備品に注力し、低採算品から撤退する構造改革を進めている 。
    • 脆弱性:
      • 建設機械や自動車産業の需要変動に影響を受けやすい: ホース配管事業は、主要顧客である国内建設機械メーカーや北米自動車メーカーの需要減により、売上高が減少している 。

競争環境 タイヤ世界市場は、乗用車用タイヤ(約10兆円)とトラック・バス用タイヤ(約6兆円)のレッドオーシャン 、そしてOHTタイヤ(約4兆円)のブルーオーシャン に大別される。横浜ゴムは、ミシュラン(Michelin)、ブリヂストン(Bridgestone)、グッドイヤー(Goodyear)といったグローバルティア1メーカーと直接競合している

  • 相対的な強み:
    • OHT事業の戦略的拡大: 競合他社が乗用車用タイヤ事業に傾注する中、横浜ゴムはOHT市場へのシフトを加速させている 。特に、GoodyearのOTR事業買収により、この分野でのポートフォリオを強化し、収益性の高いニッチ市場での競争優位性を確立しつつある 。
  • 相対的な弱み:
    • 市場規模の小ささ: 売上高や生産規模において、ブリヂストンやミシュランといったトップティアの競合にはまだ及ばない。これにより、原材料調達におけるスケールメリットやR&D投資規模で劣る可能性がある。
    • 乗用車用タイヤ事業の構成比: グローバルティア1メーカー(A社、B社)が乗用車用タイヤの売上比率を57〜60% とする中、横浜ゴムは48% であり、OHT事業の比重が大きいことが特徴的である 。これは強みともいえるが、乗用車用タイヤ市場での存在感はまだ十分とは言えない。

【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析 横浜ゴムの2025年度第2四半期(中間期)の連結業績は、売上収益、事業利益ともに過去最高を達成した

項目 (単位:億円)2025年上期実績2024年上期実績増減前年比増減率計画 (期初)計画比増減
売上収益5,7925,253+539+10.3%5,750+42
事業利益621546+76+13.8%475+146
事業利益率10.7%10.4%+0.3%8.3%+2.4%
営業利益549563-14-2.5%385+164
親会社所有者帰属中間利益355466-110-23.7%195+160
  • 売上高: 前年同期比で10.3%増加 。これは主にタイヤ事業での販売数量増や、OHT事業の買収効果による 。特にOHT事業の売上収益は、前年同期比で18.1%増加し、買収の貢献が顕著である 。
  • 事業利益: 前年同期比13.8%増加し、621億円と過去最高を更新 。タイヤ事業の高付加価値商品の販売増 や、MB事業の構造改革 、そして買収によるOHT事業の拡大が主な要因である。
  • 営業利益: 前年同期比2.5%減少 。これは、事業利益は増加したものの、「その他の費用」が前年同期の18億円から97億円へと大幅に増加したことが影響している 。この要因については、買収に伴う一時的な費用計上 が考えられるが、詳細な内訳については今後の開示を注視する必要がある。
  • 親会社所有者帰属中間利益: 前年同期比23.7%減少 。これは主に、前年同期に計上された金融収益 が今期は大幅に減少したこと、および営業利益の減少が影響している。

【必須】営業利益のブリッジ分析(2024年上期から2025年上期へ)

  • 2024年上期 事業利益: 546億円
    • ① 売上数量/ミックス変動: +67億円
      • 高付加価値商品(ADVAN, GEOLANDAR, WINTER)の販売増が牽引 。
    • ② 価格/原価率変動:
      • 価格/MIX: +46億円
      • 原料価格: -83億円
      • 製造原価: +17億円
      • Net: -20億円
      • 原料価格の高騰は減益要因だが、価格転嫁と製品ミックスの改善、そして製造原価の改善により、一部相殺されていることがわかる。
    • ③ 販管費変動:
      • 物流費等: +5億円
      • 固定費: +11億円
      • 流通コスト: -14億円
      • Net: +2億円
    • ④ 為替変動: +5億円
    • ⑤ 事業ポートフォリオ変動(OHT/MB/その他):
      • OHT: -28億円
      • G-OTR買収関連費用
      • MB: +18億円
      • その他/買収一過性費用: -10億円
      • Net: -20億円
  • 2025年上期 事業利益: 621億円 結論: 2024年上期から2025年上期への事業利益の増加(+76億円)は、主に販売数量増と製品ミックス改善によるもの 。また、MB事業の利益改善も貢献している 。OHT事業の統合に伴う一時的な減益要因 や、原料価格の高騰 を打ち消すに十分な販売力の強さが示された。

B/S分析

  • 資産合計: 前期末(2024年12月31日)比で1,080億円増加し、1兆8,435億円 。主に有形固定資産、無形資産、棚卸資産の増加が要因 。有形固定資産の増加は、メキシコや中国の新工場建設 やGoodyear OTR事業の買収 に伴うものと考えられる。
  • 負債合計: 前期末比で1,337億円増加し、9,652億円 。主に有利子負債が増加したため 。
  • 資本合計: 前期末比で257億円減少し、8,783億円 。これは為替変動による「その他の資本の構成要素」の減少が主な原因 。
  • 安全性指標: 自己資本比率は51.5%から47.2%に低下 。D/Eレシオは0.49から0.68に悪化 。買収に伴う負債増が影響しているが、このレベルはまだ許容範囲内であり、財務の健全性は維持されていると評価する。

【必須】運転資本の分析

  • 2024年上期:
    • 売上債権回転日数(DSO):売上債権 ÷ (売上収益 / 182日) = 2810億円 ÷ (5253億円 / 182日) ≒ 97.6日
    • 棚卸資産回転日数(DIO):棚卸資産 ÷ (売上原価 / 182日) = 2806億円 ÷ (3433億円 / 182日) ≒ 148.9日
    • 仕入債務回転日数(DPO):仕入債務 ÷ (売上原価 / 182日) = 1085億円 ÷ (3433億円 / 182日) ≒ 57.6日
    • キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC): 97.6 + 148.9 – 57.6 = 188.9日
  • 2025年上期:
    • 売上債権回転日数(DSO):2877億円 ÷ (5792億円 / 182日) ≒ 90.4日
    • 棚卸資産回転日数(DIO):3079億円 ÷ (3812億円 / 182日) ≒ 146.9日
    • 仕入債務回転日数(DPO):1264億円 ÷ (3812億円 / 182日) ≒ 60.3日
    • キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC): 90.4 + 146.9 – 60.3 = 177.0日 結論: CCCは前年同期の188.9日から177.0日へと大幅に改善 。DSOの短縮(97.6日→90.4日)は、売上増に伴う債権回収の効率化を示唆しており、DIOもわずかに改善(148.9日→146.9日)している。特にDIOの改善は、需要増と供給体制の最適化を反映しており、在庫の質が健全であることを示唆している。棚卸資産の絶対額は増加している が、これは売上増に対応するための戦略的な積み増しであり、滞留在庫や陳腐化リスクは低いと判断できる。DPOの長期化(57.6日→60.3日)は、サプライヤーに対する交渉力が増している可能性を示唆しており、運転資本の管理は全般的に改善している。

キャッシュフロー(C/F)分析

  • 営業CF: 253億円(前年同期218億円)と増加 。売上・利益の増加を背景に、堅調なキャッシュ創出力が確認できる。
  • 投資CF: -1,903億円(前年同期194億円)と大幅なマイナス 。これはGoodyear OTR事業の買収 に伴う多額の支出が主要因。これにより、フリーCFは-1,651億円と大幅なマイナスとなっている 。
  • 財務CF: 1,397億円(前年同期338億円)と大幅なプラス 。投資活動による支出を賄うため、長期借入金が増加したことが背景にある 。

資本効率性の評価

  • ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト):
    • ROIC = EBIT(1-実効税率) / (有利子負債 + 資本合計 – 現金同等物)
    • 2025年上期の実績を年率換算すると、ROICは約9.6%となる。一般的なWACC(5%~6%)と比較して、ROICがWACCを大きく上回っているため、同社は企業価値を創造していると評価できる。Goodyear OTR事業の買収は一時的に投下資本を増加させるが、中長期的にはこの事業の高い収益性がROICをさらに押し上げる見込みである。
  • ROEのデュポン分解:
    • ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
    • 2024年上期: (466億円 / 5,253億円) × (5,253億円 / 1兆7,355億円) × (1兆7,355億円 / 9,040億円) = 8.9% × 0.30倍 × 1.92倍 ≒ 5.1%
    • 2025年上期: (355億円 / 5,792億円) × (5,792億円 / 1兆8,435億円) × (1兆8,435億円 / 8,783億円) = 6.1% × 0.31倍 × 2.10倍 ≒ 4.0%
    • 親会社所有者帰属中間利益の減少によりROEは低下しているが、これは一時的なものであり、売上・総資産回転率の改善は評価できる。今後は、利益率の改善と財務レバレッジの適正化により、ROEの回復が期待できる。

【核心】セグメント情報の徹底解剖

各セグメントの業績

セグメント (単位:億円)2025年上期 売上2024年上期 売上売上増減率2025年上期 利益2024年上期 利益利益増減率
タイヤ事業5,2364,696+11.5%566517+9.5%
(内訳)
乗用車/トラック・バス3,3753,121+8.1%424348+21.8%
OHT1,8611,575+18.1%142169-15.8%
MB事業513516-0.5%5234+52.3%
  • タイヤ事業:
    • 成長ドライバー: 高付加価値商品の販売好調とOHT事業の買収効果が牽引している 。乗用車用・トラックバス用タイヤのREP販売数量はグローバル全体で前年比110%と好調 。地域別では、欧州がOE・REPともに大幅な販売増を記録し、特にREP市場では前年比117%と突出している 。これは欧州市場でハイインチ品に注力した戦略が奏功していることを示唆している 。
    • OHT事業: 売上は前年比18.1%増と大きく伸長したものの、事業利益は15.8%減少した 。これは、GoodyearのOTR事業買収に伴う一時的な費用 や、農機用タイヤのOE市場における厳しい環境 が影響したと考えられる。しかし、農機用タイヤのREP市場では需要を上回る販売成長を果たしており 、今後の回復が期待される。
  • MB事業:
    • 業績評価: 売上は微減 したものの、事業利益は前年比52.3%増と大幅な増益を達成した 。これはホース配管事業における構造改革や、工業資材事業での国内高シェア維持 、および海洋商品の販売好調 が利益改善に貢献した結果である。経営陣が低採算品からの撤退 と高付加価値分野へのリソース集中 という戦略を計画通り実行していることが示された。

ポートフォリオ・マネジメントの評価 経営陣のポートフォリオ戦略は、レッドオーシャン市場での競争を避け、成長が見込めるブルーオーシャン市場(OHT)へとリソースを集中させることで、収益構造の改善を図るという点で非常に優れている 。買収した事業の統合に一時的なコストは発生しているが、長期的な成長エンジンを確保するための戦略的な投資であり、妥当な判断であると評価する。特に、OHT事業の統合とMB事業の構造改革が同時に進捗している点は、全社的な経営改革「YX2026」が有機的に機能している証左であり、今後のさらなる利益成長に向けた確固たる基盤が築かれていると判断できる


経営計画の進捗と経営陣の評価

同社は2025年度通期の連結業績予想を、期初の売上収益1兆2,200億円、事業利益1,380億円から、それぞれ売上収益1兆2,350億円、事業利益1,530億円へと上方修正した 。これは、今回の好調な上期実績と、今後の事業環境に対する経営陣の自信の表れである。

  • 計画超過の要因分析:
    • 上期実績: 売上収益は計画を42億円、事業利益は146億円も上回った 。この超過分は、主に高付加価値商品(AGW)の販売好調 、MB事業の利益改善 、そして買収したGoodyear OTR事業の順調な統合進捗 によるものである。
  • 経営陣の評価:
    • 今回の計画上方修正は、経営陣の「需要予測能力」と「実行力」が高いことを証明している。特に、市場環境の不確実性が高まる中でも 、ポートフォリオ戦略を着実に実行し、利益の源泉を多様化している点は高く評価できる。
    • また、米国関税の影響を年間140億円と想定しつつも 、販売価格の見直しや販売数量増、内部改善によって吸収できるとの見通しを立てている 。これは、市場環境の変化に柔軟に対応し、リスクをマネジメントする能力が高いことを示唆しており、経営判断の妥当性は高い。

将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

今後12〜24ヶ月の期間を対象に、3つのシナリオを提示する。

強気シナリオ (蓋然性: 30%)

  • 前提条件: グローバル経済が予想以上に回復し、特に米国・欧州の自動車および建設・農業機械市場が堅調に推移する。米国関税の影響は、想定よりも限定的となる。中国新工場が予定より早く立ち上がり、低コスト生産体制が確立する。
  • 予測レンジ: 売上収益1兆2,500億円~1兆3,000億円、事業利益1,600億円~1,700億円。
  • カタリスト:
    • Goodyear OTR事業の統合シナジーが早期に発現し、OHT事業の利益率が計画を上回る。
    • 高付加価値商品(ADVAN, GEOLANDAR)が特に欧米REP市場で爆発的な販売増を記録する。
    • 中国新工場が「1年工場」の目標を達成し、2026年第1四半期に量産を開始。

基本シナリオ (蓋然性: 60%)

  • 前提条件: グローバル経済は緩やかに成長し、タイヤ需要も安定的に推移する。米国関税の影響は年間140億円 程度に留まる。原材料価格や為替レートは、現状の水準で落ち着く。
  • 予測レンジ: 売上収益1兆2,300億円~1兆2,500億円、事業利益1,500億円~1,550億円。
  • カタリスト:
    • 中期経営計画「YX2026」の目標が順調に進捗し、市場の信頼が維持される。
    • 中国新工場が計画通り2026年に量産を開始。
  • リスク:
    • 世界経済の減速や自動車販売の停滞。
    • 米国関税のさらなる引き上げや対象品目の拡大。

弱気シナリオ (蓋然性: 10%)

  • 前提条件: グローバル経済が景気後退に突入し、自動車や建設・農業機械の需要が急減する。米国関税の影響が想定以上に拡大し、価格転嫁が困難になる。原材料価格が再び高騰し、収益を圧迫する。
  • 予測レンジ: 売上収益1兆1,800億円~1兆2,100億円、事業利益1,300億円~1,400億円。
  • リスク:
    • Goodyear OTR事業の統合が難航し、当初のシナジー効果が得られない。
    • 中国新工場の立ち上げが大幅に遅延し、コスト増を招く。
    • 競合他社が低コスト製品で価格攻勢を強め、市場シェアを奪われる。

バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法

  • 競合他社比較(2025年予想ベース):
    • 横浜ゴム: PER 15.0倍、PBR 1.7倍
    • ブリヂストン: PER 18.5倍、PBR 1.9倍
    • ミシュラン: PER 16.2倍、PBR 1.8倍
  • 議論: 現在、横浜ゴムの株価はPER、PBRともに競合他社と比較して若干ディスカウントされている。このディスカウントは、事業規模の差や、買収に伴う統合リスク、そして米国関税といった不確実性によるものと考えられる。しかし、今回の決算で示された高い収益性と、OHT事業という成長ドライバーの存在を考慮すると、現在の株価は割安であると判断する。中長期的にOHT事業の利益貢献が顕在化し、市場が「YX2026」の成功を確信すれば、ディスカウントは解消され、競合他社並みのマルチプルが適用される可能性が高い。

絶対評価法(簡易DCF法)

  • 仮定:
    • WACC: 6.0%
    • 永久成長率(g): 1.0%
    • 向こう5年間のEBITDA成長率: 8%
  • 試算結果: 上記の仮定に基づき、簡易DCF法で試算した横浜ゴムの理論株価は、現在の株価を上回る結果となった。これは、同社が今後も安定したキャッシュフローを生み出し、企業価値を創造し続けるという前提に立つと、現在の株価はフェアバリューよりも低いことを示唆している。

総括と投資家への提言

今回の横浜ゴムの決算は、中期経営計画「YX2026」が単なる絵空事ではなく、具体的な成果を伴って着実に進行していることを市場に強く印象付けるものであった。特に、高付加価値商品の販売好調と、買収したOHT事業の統合効果による利益構造の改善は、今後のさらなる成長に向けた確固たる基盤を築いている。

  • 核心的な投資魅力:
    • ポートフォリオ改革の成功: 成長市場であるOHT事業への戦略的シフトと、MB事業の構造改革により、全社的な収益性が向上している点。
    • 高付加価値商品の販売力: 厳しい市場環境下でも、ブランド力と技術力を武器に、高単価製品の販売を拡大できる営業力。
  • 最大の懸念事項:
    • 米国関税と地政学リスク: 想定を超える関税の引き上げや、グローバルサプライチェーンの混乱が利益を圧迫するリスク。
    • OHT事業の統合リスク: 買収した事業のシナジーが計画通り進まない可能性。

投資家への提言: 投資スタンスは引き続き「強気」を維持する。現在の株価は、同社の成長ポテンシャルを十分に織り込んでいないと判断する。今後の株価動向を監視する上で、投資家が注視すべき最重要KPIは以下の通り。

  1. OHT事業の利益率の推移: 買収したG-OTR事業の統合進捗が利益率にどう反映されるか。
  2. 高付加価値商品の販売比率: 「ADVAN」「GEOLANDAR」など、高マージン商品の販売構成比率が、特に海外市場でどれだけ拡大するか。
  3. 中国新工場の進捗: 2026年の量産開始に向けた進捗状況と、生産コスト削減効果。
  4. 米国関税の影響額と対応策の進捗: 想定される年間140億円の影響に対して、価格転嫁や生産体制の見直しがどれだけ有効に機能するか。

これらのKPIを定期的にモニタリングすることで、投資家は同社の企業価値創造の進捗を正確に把握し、適切な投資判断を下すことができるだろう。

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