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構造計画研究所HD(208A) 決算分析:堅実な船出とクラウドシフトの加速。高収益体質の裏にある『知の集約』は持続可能か?

1. エグゼクティブ・サマリー(結論ファースト)

  • 投資スタンス:中立~やや強気 (Confidence: 70%) 株式会社構造計画研究所ホールディングス(以下、KKE-HD)の株式移転による新体制発足後、初となる通期決算は、市場の期待を上回る力強い内容であった。高収益なエンジニアリングコンサルティング事業の安定性を基盤としながら、成長ドライバーであるプロダクツサービス、特にクラウド関連ビジネスが計画を上回る勢いで拡大しており、収益性と成長性を両立した理想的な事業ポートフォリオへの進化が見て取れる。来期予想も二桁増収増益と強気であり、新たに打ち出された株主還元方針の強化(DOE目標10%) も評価できる。現時点では、同社のユニークな強みと成長戦略をポジティブに評価し、「中立~やや強気」の投資スタンスを表明する。ただし、ホールディングス化によるシナジーの具現化や、激化するクラウド市場での競争優位性の維持など、真価が問われるのはこれからであり、100%の強気に至るには、今後の進捗を見極める必要がある。
  • 3行サマリー
    • 何が起きたのか(事実): 新体制での初年度決算(2025年6月期)は、売上高201億円、営業利益30.7億円と、受注・売上・利益の全てで計画を上回る好決算を達成した 。
    • なぜそれが重要なのか(本質): 安定収益源である「エンジニアリングコンサルティング」に加え、成長ドライバーである「プロダクツサービス」のクラウドシフトが30%超の成長を遂げ 、全体の利益率(営業利益率15.3%)向上を力強く牽引している 。これは、同社が労働集約型モデルから、よりスケーラブルなリカーリング収益モデルへと着実に移行していることを示唆する。
    • 次に何を見るべきか(注目点): 来期(2026年6月期)以降、①クラウドサービス(RemoteLOCK, NavVis等)の成長率が30%超の高い水準を維持できるか、②エンジニアリングコンサルティングの潤沢な受注残高(63億円) を着実に売上・利益に転換できるか、そして③ホールディングス体制を活かしたM&A等の非連続な成長戦略が具体化するか、の3点を最重要KPIとして注視する。
  • 主要カタリスト(ポジティブ要因)
    1. クラウド事業のアップサイド: 主力クラウドサービス(RemoteLOCK, NavVis)が、パートナー連携の深化や新市場開拓により、会社計画(全体で+11.7%成長) を上回る成長加速を見せる可能性。
    2. 大型コンサル案件の獲得: DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)、国土強靭化といったマクロトレンドを背景に、同社の高度な専門性が求められる大規模・高単価なコンサルティング案件の受注。
    3. M&A戦略の具体化: ホールディングス化の最大の目的の一つであるM&Aが具体化し、既存事業とのシナジーが見込める、あるいは新たな成長領域を確保する優良企業を取得した場合、成長期待が一気に高まる。
  • 主要リスク(ネガティブ要因)
    1. 専門人材への過度な依存と流出: 同社の競争力の源泉は、高度な「工学知」を持つ専門人材 にあり、キーパーソンの流出や、採用競争の激化による人材獲得の遅れは、事業成長の直接的な足かせとなる。
    2. クラウド市場の競争激化: 同社が展開するクラウド市場には、国内外のメガベンダーやスタートアップがひしめき合っている。競争激化による価格圧力や、マーケティング費用の高騰が収益性を圧迫するリスク。
    3. マクロ経済の悪化: 景気後退が鮮明になれば、企業のIT投資や研究開発予算が削減され、同社のコンサルティング案件の延伸・中止や、プロダクツの新規導入見送りに繋がる可能性がある。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

KKE-HDの中核は、「社会の役に立つ知識集約型企業」というビジョン にある。その事業は、大きく2つのセグメントで構成されている。

  • エンジニアリングコンサルティング: 建築物の構造設計・解析、防災・環境評価、社会シミュレーションといった、極めて高度な専門知識(工学知)を要するコンサルティングサービスを提供 。これは同社の祖業であり、安定した収益基盤となっている。
  • プロダクツサービス: コンサルティングで培った知見をソフトウェアやサービスとして提供。CAE(Computer-Aided Engineering)ソフトウェアの販売に加え、近年はクラウド型入退室管理システム「RemoteLOCK」や屋内デジタル化プラットフォーム「NavVis」といったSaaS(Software as a Service)事業が急成長している 。

このビジネスモデルは、以下のように数式で表現できる。

全社売上 = [エンジニアリングコンサルティング売上] + [プロダクツサービス売上]

  • エンジニアリングコンサルティング売上 ≒ 顧客数 × 案件化率 × 案件単価 (Price) × 稼働工数 (Quantity)
    • 本質的には、高度な専門性を持つエンジニアの時間と知識を対価に収益を得る、典型的なプロフェッショナルファームモデルである。
  • プロダクツサービス売上 ≒ [ライセンス売上(ユーザー数 × 単価)] + [クラウドARR(顧客数 × 月額単価 × 12)] + [その他保守・導入支援]
    • コンサルティングで蓄積した「暗黙知」を、ソフトウェアやクラウドサービスという「形式知」に転換し、再販可能にしている点が特徴。

ビジネスモデルの強みと脆弱性

  • 強み:
    1. 極めて高い参入障壁: 同社の「工学知」は、一朝一夕で模倣できるものではなく、特に防災や大規模建築物の設計といった領域では、長年の実績と信頼が不可欠であり、これが強力な参入障壁を形成している。
    2. ハイブリッド収益モデル: プロジェクトベースで収益が変動しやすいコンサルティング(フロー収益)と、安定的かつ継続的な収益が見込めるプロダクツ、特にクラウドサービス(ストック/リカーリング収益)を組み合わせることで、事業ポートフォリオ全体のリスクを分散し、安定成長を実現している。
    3. 高い顧客スイッチングコスト: 特に「RemoteLOCK」のような入退室管理システムや、業務プロセスに深く組み込まれる解析ソフトウェアは、一度導入されると他社製品への乗り換えが困難であり、高い顧客定着率と安定した収益に繋がる。
  • 脆弱性:
    1. コンサルティング事業のスケーラビリティ: 属人性の高いコンサルティング事業は、優秀な人材の採用・育成が成長のボトルネックとなり、急激なスケールが難しいという構造的な課題を抱える。
    2. 価格競争への耐性: プロダクツサービス、特にクラウド市場では、機能の同質化が進むと価格競争に陥りやすい。同社はニッチな領域で強みを持つが、大手ベンダーが本格参入してきた場合の競争環境の変化には注意が必要である。
    3. 特定顧客・業界への依存リスク: 詳細な顧客構成は開示されていないが 、建設・不動産業界の市況変動がエンジニアリングコンサルティング事業の受注環境に影響を与える可能性は否定できない。

3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

2025年6月期決算は、新体制の船出として申し分のない結果であった。ここでは、その財務内容を多角的に分解し、同社の真の実力と課題を炙り出す。

P/L分析:収益性の質と構造

項目2025年6月期実績 (A) (参考) 旧構造計画研究所 2024年6月期 (B) 実質増減額 (A-B)実質増減率
売上高20,137 百万円17,942 百万円+2,195 百万円+12.2%
売上総利益10,514 百万円9,322 百万円+1,192 百万円+12.8%
営業利益3,073 百万円2,372 百万円+701 百万円+29.6%
経常利益3,046 百万円2,534 百万円+512 百万円+20.2%
親会社株主に帰属する当期純利益2,048 百万円1,949 百万円+99 百万円+5.1%

特筆すべきは、売上高の伸び(+12.2%)を大幅に上回る営業利益の伸び(+29.6%)である。これは、事業の構造的な収益性が向上していることを強く示唆している。

【必須】営業利益ブリッジ分析(定量分解)

前期の連結数値が存在しないため、参考値である旧事業会社の営業利益を起点に、当期の連結営業利益への変動要因を分解する。

  • 旧事業会社 営業利益(2024年6月期):2,372 百万円
  1. ① 売上数量/ミックス変動による増益効果:+1,192 百万円
    • 売上高は実質的に2,195百万円増加した 。この増収がもたらした売上総利益の増加額は1,192百万円 である。これは、クラウドサービス のような高利益率プロダクトの構成比が高まったことによるミックス改善効果が含まれていると推察される。粗利率は52.0% から52.2% へと僅かに改善しており、増収がストレートに利益貢献していることがわかる。
  2. ② 販管費変動による減益効果:-490 百万円
    • 販管費は、旧事業会社の約6,950百万円(売上総利益9,322 – 営業利益2,372)から、当期連結の7,440百万円 へと、約490百万円増加した。これは、成長に向けた人材採用やマーケティング投資の強化、およびホールディングス化に伴う管理コストの増加が要因と考えられる。
  3. ③ その他(子会社損益・のれん等)の変動:-1 百万円
    • 上記①と②を合算した増益額は +702百万円 (1,192 – 490) となる。実績の増益額 701百万円との差額 -1百万円は、旧事業会社以外の連結子会社の損益影響や、連結調整上のその他要因によるものと推定される。
  • 連結 営業利益(2025年6月期):3,073 百万円

示唆(So What): この分析から、KKE-HDの利益成長は、単なる売上増だけでなく、高収益なクラウドビジネスへのシフトという「事業構造の転換」によってもたらされていることが明確になった。販管費の増加を吸収してなお、大幅な増益を達成している点は、同社の成長戦略が順調に進んでいる証左と言える。

B/S分析:財務の健全性と効率性

項目2025年6月30日
総資産22,067 百万円
純資産10,168 百万円
自己資本比率45.7%
1株当たり純資産955.85 円

自己資本比率45.7%は健全な水準であり、財務基盤は安定している。次に、事業の効率性を測る運転資本を分析する。

【必須】運転資本(CCC)の分析

キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)は、企業が投下した現金を、どれくらいの期間で回収できているかを示す指標である。

  • 売上債権回転日数 (DSO): 43.7日
    • 計算式: (受取手形・売掛金 2,411百万円 ) / (売上高 20,137百万円 ) × 365日
  • 棚卸資産回転日数 (DIO): 16.1日
    • 計算式: (棚卸資産 425百万円 ) / (売上原価 9,623百万円 ) × 365日
  • 仕入債務回転日数 (DPO): 11.3日
    • 計算式: (買掛金 298百万円 ) / (売上原価 9,623百万円 ) × 365日
  • キャッシュ・コンバージョン・サイクル (CCC) = DSO + DIO – DPO = 48.5日

示唆(So What): CCC 48.5日という数値は、ITサービス業としては標準的な範囲にある。注目すべきは、B/Sに計上されている

16.5億円という潤沢な「前受金」 の存在である。これは主にプロダクツサービスの年間ライセンス料やクラウドサービスの利用料の前受けによるものと推察される。この前受金は、顧客からサービス提供前に現金を受け取っていることを意味し、実質的な運転資本を圧縮し、キャッシュフローを潤沢にする効果がある。クラウドビジネスの比率が高まるほど、この傾向は強まり、CCCはさらに短縮(改善)する可能性がある。これは、同社のビジネスモデルが財務的にいかに優れているかを示す重要な証拠である。

C/F分析:利益の質と投資スタンス

項目2025年6月期
営業活動によるC/F+3,320 百万円
投資活動によるC/F△2,273 百万円
財務活動によるC/F+57 百万円
現金及び現金同等物 期末残高4,242 百万円

営業CFは33.2億円と、当期純利益20.5億円 を大幅に上回っている。これは、減価償却費のような非現金支出費用に加え、運転資本(特に前受金の増加)がキャッシュを押し上げた結果であり 、利益の質が非常に高いことを示している。

一方、投資CFは22.7億円のマイナス となっており、内訳は投資有価証券の取得(14.3億円)と有形固定資産の取得(7.3億円)が主である 。将来の成長に向けた投資を積極的に行っている姿勢がうかがえる。財務CFは、長期借入(24億円)により、借入返済、自己株取得、配当支払いを賄っており 、レバレッジを効かせつつ株主還元と成長投資のバランスを取ろうとする意図が見える。

資本効率性の評価:企業価値創造力の検証

【必須】ROIC vs WACC

企業が投下した資本に対してどれだけのリターンを生み出しているか(ROIC)、そしてその資本を調達するためのコスト(WACC)を比較することで、企業価値を創造しているかを評価する。

  • ROIC (投下資本利益率) ≒ 15.5%
    • NOPAT (税引後営業利益) = 営業利益 3,073百万円 × (1 – 実効税率 30.9%) ≒ 2,124百万円
    • 投下資本 = 有利子負債 3,602百万円 + 自己資本 10,094百万円 ≒ 13,696百万円
    • ROIC = NOPAT / 投下資本 = 2,124 / 13,696 ≒ 15.5%
  • WACC (加重平均資本コスト) ≒ 6.0% (推定)
    • 株主資本コストをCAPM(β=1.2、リスクフリーレート=1.0%、市場リスクプレミアム=6.0%と仮定)で8.2%と推定。
    • 負債コストを0.8%と算出し、資本構成を加味してWACCを約6.0%と推定。

示唆(So What): ROIC (15.5%) がWACC (6.0%) を大幅に上回っており、KKE-HDは明確に企業価値を創造していると評価できる。この高いROICは、同社の事業が持つ高い収益性と、比較的少ない有形固定資産で事業を運営できる「知識集約型」ビジネスの特性を反映している。


4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖

全社業績の好調さを牽引しているのはどの事業か。セグメント情報を解剖することで、成長のエンジンと今後の課題が浮き彫りになる。

セグメント名売上高 (構成比) セグメント利益 (構成比) 売上総利益率 受注残高 (構成比)
エンジニアリングコンサルティング11,969百万円 (59%)4,946百万円 (76%)60.8%6,306百万円 (73%)
プロダクツサービス7,597百万円 (38%)1,365百万円 (21%)40.1%2,225百万円 (26%)
その他570百万円 (3%)185百万円 (3%)32.5%55百万円 (1%)
調整額(△3,424百万円)
合計20,137百万円3,073百万円8,587百万円

*セグメント利益は調整前の数値。

分析と洞察:

  1. 利益の源泉は「エンジニアリングコンサルティング」: 全社売上の約6割を占めるこのセグメントが、調整前のセグメント利益では実に76%を稼ぎ出している。売上総利益率60.8%という驚異的な数値は、同社が提供するサービスの専門性と付加価値の高さを物語っている。また、受注残高も63億円と潤沢であり 、来期の安定収益基盤は盤石と言える。
  2. 成長の牽引役は「プロダクツサービス」: 利益貢献ではコンサルに劣るものの、成長の勢いはこのセグメントにある。特に、クラウドサービスが30%超の成長率を記録し、利益率改善にも寄与した 点は最大のポジティブサプライズである。コンサルで培った「知」をプロダクトに転換し、スケーラブルな収益モデルを構築するという同社の戦略が、まさに花開こうとしている。
  3. ポートフォリオ・マネジメントの評価:
    • 成功している点: 「安定収益・高利益のコンサル」と「高成長のプロダクツ」という、性質の異なる事業を両輪で回すことで、安定性と成長性の見事なバランスを実現している。コンサルで得た顧客基盤や知見をプロダクツ開発に活かすというシナジーも機能していると推察される。
    • 課題とリスク: 全社費用(調整額)が34億円 と大きい点がやや気になる。これがホールディングスの運営コストなのか、あるいは特定のセグメントに配賦しきれない研究開発費なのか、内訳を注視する必要がある。今後、プロダクツサービスの利益貢献がさらに拡大し、この全社費用を吸収して全社的な利益率を押し上げていけるかが、次のステージへの鍵となる。

5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

2026年6月期の業績予想

項目2026年6月期 予想 対前期増減率
売上高22,500 百万円+11.7%
営業利益3,400 百万円+10.6%
経常利益3,350 百万円+10.0%
親会社株主に帰属する当期純利益2,300 百万円+12.3%
1株当たり当期純利益216.63 円

経営陣の評価:

  • 需要予測能力と実行力: 2025年6月期は業績予想を上回る着地となり 、経営陣の計画実行力は高く評価できる。初年度ということもあり、計画自体はやや保守的であった可能性もあるが、着実に成果を出した点は信頼に値する。
  • 計画の妥当性: 来期予想は、売上高+11.7%、営業利益+10.6%と、引き続き二桁成長を目指す意欲的なものだ。85.8億円の受注残高 が来期売上予想の38%をカバーしていることを踏まえると、売上計画の蓋然性は高い。営業利益率が15.3% から15.1%(3,400/22,500)へと僅かに低下する計画となっている点は、成長を維持するための先行投資(人材、マーケティング)を適切に織り込んだ、現実的な計画であると評価できる。計画を修正せず、強気の見通しを維持した経営判断は、事業への自信の表れだろう。
  • 株主還元への姿勢: 配当方針をDOE(自己資本配当率)重視へと切り替え、目標水準を8%から10%へ引き上げた 点は、株主価値向上へのコミットメントを明確に示したものであり、高く評価する。これは、資本効率を意識した経営への転換を意味し、投資家からの信頼を高めるだろう。

6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

今後12~24ヶ月の業績について、3つのシナリオを提示する。

  • 【基本シナリオ】(蓋然性: 60%)
    • 概要: 会社計画通り、売上+11.7%、営業利益+10.6%を達成 。
    • 前提: エンジニアリングコンサルが安定的に推移し、プロダクツサービスのクラウド事業が25-30%程度の成長を維持する。マクロ経済に大きな変動はない。
    • 予測レンジ: 売上高 225億円、営業利益 34億円。
  • 【強気シナリオ】(蓋然性: 25%)
    • 概要: 計画を上回り、売上+15~20%、営業利益+20~25%の成長を達成。
    • 前提: ①クラウドサービス(RemoteLOCK, NavVis)の導入が、宿泊市場や自治体、製造業で爆発的に加速し、40%超の成長を遂げる 。②DX・GX関連で複数の大型コンサルティング案件を獲得する。③シナジー効果の高いM&Aが実現し、年度の途中から業績に貢献する。
    • 予測レンジ: 売上高 235~245億円、営業利益 37~38億円。
  • 【弱気シナリオ】(蓋然性: 15%)
    • 概要: 計画未達となり、売上+5%程度、営業利益は横ばい圏に留まる。
    • 前提: ①景気後退により、企業の設備投資・研究開発意欲が減退し、コンサル案件の失注や延期が相次ぐ。②クラウド市場での競争が激化し、新規顧客獲得ペースが鈍化、あるいは値下げ圧力に晒される。③専門人材の採用が計画通りに進まず、コンサル事業のキャパシティが頭打ちになる。
    • 予測レンジ: 売上高 210億円、営業利益 31億円。

7. バリュエーション(企業価値評価)

(注:本レポートは特定の株価に基づくものではなく、評価のフレームワークを示す)

  • 相対評価法(競合比較):
    • 比較対象: ベイカレント・コンサルティング(DXコンサル)、フューチャー(ITコンサル)、フォトシンス(Akerun、クラウド型入退室管理)、その他ニッチSaaS企業。
    • 議論: KKE-HDは、これら企業の複合的な特性を持つ。高収益なコンサルティング事業の安定性はコンサルティングファームとして、クラウド事業の成長性はSaaS企業として評価されるべきである。従って、単純なPERやPBR比較は本質を見誤る可能性がある。同社の持つ参入障壁の高さ、高いROIC、そしてハイブリッドビジネスモデルの独自性を考慮すれば、類似のITコンサルティング企業に対してはプレミアム(割増)で評価されるべきである。一方、急成長SaaS企業と比較すると成長率で見劣りするため、ディスカウント(割引)要因となる。両者を勘案した適正なバリュエーションを探る必要がある。
  • 絶対評価法(簡易DCF):
    • 主要な仮定:
      • WACC: 6.0%(前述の通り)
      • FCF予測: 基本シナリオの業績予想を基に、今後5年間のフリーキャッシュフローを予測。
      • 永久成長率 (g): 1.0%。国内経済の成熟度を鑑み、保守的に設定。
    • 示唆: これらの仮定に基づき算出される理論株価は、現在の市場価格と比較して、投資判断の重要な基準となる。特に、クラウド事業の成長率や利益率の前提を変化させた場合に理論株価がどう変動するか、感応度分析を行うことが不可欠である。

8. 総括と投資家への提言

株式会社構造計画研究所ホールディングスは、「工学知」という極めて強力かつ模倣困難な競争優位性を核に、安定性の高いコンサルティング事業と成長性の高いプロダクツ事業を両立させる、ユニークな企業である。

  • 核心的な投資魅力:
    1. 参入障壁の高いビジネスモデル: 長年の実績に裏打ちされた専門性と信頼。
    2. 実証された収益力と資本効率: ROIC 15.5% > WACC 6.0% という明確な企業価値創造能力。
    3. クラウドシフトによる成長ストーリー: 労働集約型からの脱却と、スケーラブルなリカーリング収益モデルへの転換が着実に進行中。
  • 最大の懸念事項:
    1. 人材への依存: 競争力の源泉である専門人材の確保・育成が最大の経営課題。
    2. 成長のスケーラビリティ: コンサルティング事業の規模拡大には限界があり、プロダクツ事業、特にクラウドの成功が持続的成長の絶対条件。
    3. ホールディングスの真価: M&Aなど、ホールディングス化による非連続な成長を実現できるかは、まだ未知数。

投資家への提言:

現時点での投資スタンスは**「中立~やや強気」**とする。同社のファンダメンタルズは極めて良好であり、長期的な成長ポテンシャルは大きい。しかし、現在の株価がその成長期待をどの程度織り込んでいるかを慎重に見極める必要がある。

投資家は、以下のKPIを定点観測し、同社が描く成長ストーリーの確度を常に検証すべきである。

  1. プロダクツサービス売上高とクラウド売上成長率(四半期): 最も重要な成長ドライバーの勢いが衰えていないか。
  2. セグメント利益率の推移: 特にプロダクツサービスの利益率が改善傾向にあるか。クラウド化が収益性向上に繋がっているかのバロメーターとなる。
  3. エンジニアリングコンサルティングの受注残高(四半期): 安定収益基盤の健全性を示す先行指標。
  4. M&Aおよび資本提携の動向: ホールディングス経営陣が、描いた成長戦略を実行に移す「次の一手」は何か。

KKE-HDは、堅実さと成長性を兼ね備えた、質の高い投資対象候補である。短期的な株価変動に惑わされることなく、これらのKPIを注視しながら、同社が「知識集約型企業」として真のポテンシャルを発揮できるか、じっくりと見極めていくことを推奨する。

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