1. エグゼクティブ・サマリー
投資スタンス: 強気 (確信度: 80%)
3行サマリー: FCEは、主力のDX推進事業と教育研修事業におけるSaaS型ビジネスが極めて高い成長率を維持し、2025年9月期第3四半期決算では通期予想を上方修正した 。この成長は、単なる市場拡大ではなく、各事業の収益モデル転換と顧客基盤の深耕によるものであり 、経営の安定性と将来的な収益ポテンシャルを強く示唆する 。今後のAI関連事業への積極的な投資が、さらなる成長のカタリストとなるか注目される 。
主要カタリスト:
- DX推進事業の持続的成長: 主力製品「RPA ロボパットDX」の導入社数が順調に増加し、チャーンレートも低位で安定していることから、ストック収益の積み上がりが継続する 。
- SaaS型ビジネスのARPU向上: 「Smart Boarding」における直販比率の増加や、RPA事業における増ライセンス獲得が、1社あたりの平均売上単価(ARPU)向上に貢献し、収益性の改善を加速させる 。
- AI関連事業への本格参入: ジーニー社及びJAPAN AI社との資本業務提携により、AIエージェント事業に参入し、既存事業とのシナジー創出や新たな収益の柱となる可能性を秘めている 。
主要リスク:
- 人材獲得競争の激化: 事業拡大に伴う積極的な採用方針を掲げているが、DX/AI人材の獲得競争は激しく、計画通りの人員確保ができない場合、成長鈍化のリスクがある 。
- SaaS型ビジネスの価格競争: 市場拡大に伴い、類似サービスを提供する競合他社が増加した場合、価格競争に巻き込まれ、利幅の縮小やチャーンレート上昇のリスクがある。
- 新規事業投資の不確実性: AI関連事業への投資は、将来的な成長機会となる一方で、投資回収に時間を要する可能性や、期待されたシナジー効果が得られないリスクも内包している。
2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り
FCEは「人的資本の最大化」をミッションに掲げ 、以下の2つの主要セグメントで事業を展開している 。
- DX推進事業: 純国産RPAソフトウェア「RPA ロボパットDX」を提供し、導入から運用支援、業務改善コンサルティングまでをワンストップで行う 。
- 教育研修事業: 企業の社員教育向けプラットフォーム「Smart Boarding」や、中高生向け手帳「フォーサイト手帳」などを提供する 。
ビジネスモデルの評価: FCEのビジネスモデルの核心は、SaaS(Software as a Service)型のストック収益モデルにある 。これは、売上を以下の数式で表現できる。
売上高=(DX推進事業導入社数×DX事業ARPU+教育研修事業導入社数×教育事業ARPU)×12ヶ月
このモデルの強みは以下の点にある。
- 強固なストック収益基盤: 全売上高の80%がストック収益で構成されており、経営の安定性が極めて高い 。特に、RPA「ロボパットDX」は解約率が1%台と低水準を維持しており 、顧客の継続利用意欲が高いことを示している。
- 高いスイッチングコスト: 業務フローに深く組み込まれるRPAや社員教育プラットフォームは、一度導入されると他社製品への乗り換えが困難となる。これが強固な参入障壁となり、安定的な収益源を生み出している。
- アップセル/クロスセルの機会: 既存顧客に対して、追加ライセンスの提供(アップセル)や、DX推進事業と教育研修事業の相互活用を促進する(クロスセル)ことで、ARPUの向上を目指す戦略が明確である 。
一方、脆弱性としては、中小企業向けの「パーソナルRPA」市場に強みを持つため、大企業向けの複雑な業務プロセスに対応できる大規模RPAベンダーとの直接競争に直面した場合の優位性維持が課題となる可能性がある 。
競争環境: FCEのDX推進事業における主要な競合としては、国内RPA市場の主要プレーヤーが挙げられる。同社の「RPA ロボパットDX」は、プログラミング知識を持たない人でも自動化できる「パーソナルRPA」として、他社製品との差別化を図っている 。また、単にツールを提供するだけでなく、業務改善のコンサルティングまでワンストップで提供することで、技術者不在の中小企業でも導入しやすいという独自の強みを持つ 。教育研修事業では、e-ラーニングやタレントマネジメント市場の競合が存在するが、「Smart Boarding」はOJTやオンライン研修などを一元管理できるプラットフォームとして差別化を図っている 。
3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析
P/L分析:
項目 | 2024年9月期 3Q累計 (百万円) | 2025年9月期 3Q累計 (百万円) | 前年同期比 (百万円) | 前年同期比 (%) |
売上高 | 3,680 | 4,537 | +857 | +23.3% |
営業利益 | 728 | 923 | +194 | +26.7% |
経常利益 | 735 | 946 | +210 | +28.7% |
純利益 | 487 | 648 | +160 | +32.8% |
経常利益率 | 20.0% | 20.9% | +0.9%pts | – |
営業利益のブリッジ分析: 前年同期の営業利益728百万円から当期の923百万円への増加要因は、主に以下の通りである 。
- ①売上数量/ミックス変動: 売上高はDX推進事業と教育研修事業の両セグメントで増加した 。特に、DX推進事業が好調に推移し、売上高は前年同期比で585百万円増加した 。教育研修事業も252百万円の増収を達成している 。
- ②価格/原価率変動: SaaS型ビジネスの増収が主因であり、粗利率は高水準を維持していると推測される 。
- ③販管費変動: 増収による利益増(売上総利益の増加)が468百万円あった一方で、販管費が273百万円増加している 。この販管費増加は、SaaS型ビジネスの人員増加や新規事業投資(人件費)によるものと開示されている 。結果として、増収効果が販管費増加を上回り、営業利益は194百万円の増益となった 。
B/S分析: 2024年9月末と比較して、2025年6月末のバランスシートは健全性を維持しつつ、成長に向けた投資が進んでいる 。
- 資産合計は5,529百万円に増加 。
- 現金及び預金は531百万円増加し、3,128百万円となった 。これは、売掛金回収や前受収益の増加によるものと説明されている 。
- 固定資産合計は315百万円増加 。これは、リンクアンドモチベーション社株式の取得に伴う預け金が投資有価証券に振り替えられたことなどが影響している 。
- 自己資本比率は67.8%と、前年同期末比で+1.4ポイント上昇しており、財務の安定性が極めて高い 。
運転資本の分析: CCCを構成する要素は以下の通り。
- 売上債権回転日数 (DSO): 売上債権 / (売上高 / 365)
- 棚卸資産回転日数 (DIO): 棚卸資産 / (売上原価 / 365)
- 仕入債務回転日数 (DPO): 仕入債務 / (売上原価 / 365) DX推進事業と教育研修事業の主要プロダクトがSaaS型であり、物理的な在庫を持たないため、DIOは極めて小さい 。DSOについては、顧客からの収益回収が順調に進んでいるため、売上増にもかかわらず現金及び預金が増加している 。これは、ストック収益モデルが安定したキャッシュフローを生み出す強みを示唆している。
キャッシュフロー(C/F)分析: 資料にC/F計算書は含まれていないが、バランスシートの変動から推測すると、営業活動によるキャッシュフローは堅調に推移していると見られる。売上債権回収と前受収益の増加が、営業CFを押し上げている主要因だろう 。投資活動としては、ジーニー社やJAPAN AI社との資本提携、リンクアンドモチベーション社への株式購入など、成長投資が積極的に行われていることが示唆される 。利益の質は、SaaS型ビジネスの高い収益性から非常に高いと評価できる。
資本効率性の評価: FCEのROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト)を厳密に計算するには、詳細なデータが必要だが、開示情報から推察するに、ROICはWACCを大きく上回っている可能性が高い。経常利益率は20.9%と高水準であり 、特にSaaSビジネスは投下資本が比較的少ないため、効率的に利益を創出している 。ROEをデュポン分解すると、高い純利益率と財務レバレッジの適度な活用が、ROEを押し上げていると推測される 。
4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖
FCEの事業は「DX推進事業」と「教育研修事業」の2つのセグメントに大別される 。
- DX推進事業: 2024年9月期の売上高に対する割合は53%だったが、2025年9月期通期予想では55%まで拡大すると見込まれている 。これは、DX推進事業が全社の成長を牽引する中核セグメントであることを明確に示している 。主力製品「RPA ロボパットDX」は、導入社数が2025年6月末時点で1,700社を突破するなど、極めて順調に成長している 。この成長は、若手社員の活躍、低チャーンレート、既存顧客からのライセンス追加獲得、そして紹介パートナーの拡大といった多面的な要因に支えられている 。
- 教育研修事業: 2024年9月期の売上構成比は46%だったが、2025年9月期通期予想では43%にやや縮小する見込みである 。しかし、このセグメントが不振であるわけではない。主力製品「Smart Boarding」の売上高は、前年同期比で43.4%増と高い成長率を記録している 。これは、e-ラーニングやリスキリングの市場ニーズを捉え、導入社数が順調に増加しているためである 。特に、単価や収益性の観点から直販に注力する戦略に転換しており、1社あたりの売上(ARPU)向上を目指している 。中高生向け教育事業の「フォーサイト手帳」も、市場でトップシェアを獲得しており、紙とアプリの両方で展開している 。
ポートフォリオ・マネジメントの評価: FCEの事業ポートフォリオは、DXと教育という2つの柱で構成されており、それぞれがSaaS型ビジネスへの転換を進めている 。この分散されたポートフォリオは、一方の市場が停滞した場合でも、もう一方の事業でリスクを吸収するリスクヘッジ効果を持つ。また、DX人材の育成と、その育成対象である社員の生産性向上ツールを提供するという点で、両事業には高いシナジー効果が期待できる。例えば、教育研修事業で人的資本の能力を向上させ、DX推進事業のツールでその生産性を最大化するというストーリーは、非常に論理的である 。
5. 経営計画の進捗と経営陣の評価
2025年9月期通期予想は、売上高5,750百万円、経常利益915百万円から、売上高6,050百万円、経常利益925百万円へと上方修正された 。これは、主にDX推進事業が当初計画を上回るペースで好調に推移しているためである 。
- 売上高: 第3四半期累計の売上高は4,537百万円であり、通期予想6,050百万円に対する進捗率は75.0%である 。残り1四半期で残りの25%を達成する必要があるが、DX推進事業が「逓増する見込み」であること 、「Smart Boarding」も同様に売上が逓増すると見込まれていること から、達成は極めて高い蓋然性を持つ。
- 経常利益: 第3四半期累計の経常利益は946百万円であり、通期予想925百万円を既に102.3%超過達成している 。これは、売上増による利益増が、新規事業投資や販管費の増加を上回った結果である 。
経営陣の評価: 今回の決算と上方修正は、経営陣の計画策定能力と実行力の高さを証明するものだ。特に、以下の点が評価できる。
- 需要予測能力の高さ: DX推進事業の需要が当初の想定以上に拡大すると正確に判断し、迅速な上方修正を行った。
- 戦略遂行能力: 成長の柱であるDX推進事業と教育研修事業において、低チャーンレートを維持しつつ、導入社数とARPUを同時に伸ばすという、SaaSビジネスの王道的な成長戦略を着実に遂行している 。
- 規律ある成長投資: 成長のための販管費増加(人件費、新規事業投資)を許容しつつも、増収による利益増がそれを上回るようにコントロールしており、利益成長とのバランスを保っている 。
6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク
強気シナリオ (蓋然性: 50%): 前提条件: マクロ経済の安定、企業のDX/リスキリング需要が継続、AI関連事業への投資が早期に収益化。
- 予測: DX推進事業と教育研修事業のSaaS売上は、それぞれ年率25-30%の成長を維持。AIエージェント事業が新たな収益源として立ち上がり、既存顧客へのクロスセルが成功。
- 売上高レンジ: 2026年9月期 75-80億円
- 経常利益レンジ: 2026年9月期 12-14億円
- カタリスト:
- AIエージェント事業「JAPAN AI AGENT」の本格展開による大型受注の獲得 。
- リンクアンドモチベーション社との提携による大手企業への販路拡大 。
- 「Smart Boarding」にAI人財育成コンテンツが搭載され、新たな付加価値を提供 。
基本シナリオ (蓋然性: 40%): 前提条件: マクロ経済は横ばい、DX/リスキリング需要は堅調だが、AI関連事業の収益化には時間を要する。
- 予測: 既存事業は安定的な成長を継続するが、新規事業の貢献は限定的。販管費増加が先行し、一時的に利益率が横ばいとなる。
- 売上高レンジ: 2026年9月期 70-75億円
- 経常利益レンジ: 2026年9月期 10-12億円
- リスク:
- SaaS型ビジネスの成長が鈍化し、KPI(導入社数、ARPU)の伸びが期待を下回る。
- 新規事業への先行投資がコスト増に繋がり、利益を圧迫する。
- 人材獲得が計画通りに進まず、組織体制の強化が遅れる。
弱気シナリオ (蓋然性: 10%): 前提条件: マクロ経済の悪化、企業のDX/リスキリング予算削減、競合の激化。
- 予測: 既存事業の成長が大きく減速し、チャーンレートが上昇。新規事業の立ち上げも遅延。
- 売上高レンジ: 2026年9月期 60-70億円
- 経常利益レンジ: 2026年9月期 8-10億円
- リスク:
- 国内景気後退による中小企業のIT投資抑制。
- 競合他社による低価格攻勢や機能面の優位性喪失。
- ジーニー社やJAPAN AI社との提携が期待されたシナジーを生み出さない。
7. バリュエーション(企業価値評価)
(注:本レポートでは提供された情報に基づき定性的なバリュエーション議論を行う。厳密な数値計算は、詳細な財務データと市場環境の分析を必要とするため、ここでは割愛する。)
相対評価法: FCEの株価は、今後の成長ポテンシャルをどの程度織り込んでいるかで評価が分かれる。
- SaaS企業としてのプレミアム: 利益成長率が高く、ストック収益比率が高いSaaS企業は、一般的に市場から高いPER(株価収益率)やPSR(株価売上高倍率)で評価される傾向にある。FCEのDX推進事業や教育研修事業は、まさにこのSaaSモデルに該当する 。
- 競合他社比較: 類似のSaaS事業を展開する国内上場企業と比較すると、FCEの株価はまだ割安に評価されている可能性がある。これは、中小企業向けという市場特性や、まだ事業規模が小さいことによる。しかし、今後AI関連事業への参入が本格化し、成長期待が高まれば、市場からさらに高いプレミアムが付与される可能性がある。
絶対評価法: 簡易的なDCF(割引キャッシュフロー)法を用いると、FCEの理論株価は現在の株価を上回る可能性がある。
- WACC: 負債比率が低く、自己資本比率が高い(67.8%)ため、WACCは比較的低く抑えられる 。
- 成長率: 既存事業のSaaSモデルは今後も安定的な成長が期待でき、新規事業への投資が成功すれば、永久成長率の仮定を高く設定できる。 これらの要因から、将来のフリーキャッシュフロー(FCF)は着実に増加し、理論株価を押し上げると考えられる。
8. 総括と投資家への提言
FCEの2025年9月期第3四半期決算は、同社のSaaS型ビジネスモデルの強靭さと、成長戦略の実行力の高さを再確認させる非常にポジティブな内容であった。主力のDX推進事業と教育研修事業は、高い成長率と低チャーンレートを両立し、安定したストック収益基盤を構築している 。
核心的な投資魅力:
- 強固なSaaS型ストック収益モデル: 売上高の80%を占めるストック収益は、今後の収益予測の確実性を高め、安定的なキャッシュフローを生み出す 。
- 成長機会の多角化: 既存事業の成長に加え、リンクアンドモチベーション社との業務提携による大手企業向け販売強化 、そしてAI関連事業への参入 といった新たな成長機会を積極的に創出している。
- 規律ある経営: 積極的な投資を行いながらも、それを上回る利益成長を達成しており、経営陣の戦略遂行能力は高いと評価できる。
最大の懸念事項:
- AI関連事業への投資が成功するかどうか。この投資がコスト増に留まり、期待されたシナジーや収益化が実現しない場合、株価にネガティブな影響を与える可能性がある。
投資家への提言: 投資家は、FCEの成長ストーリーの核心であるSaaS型ビジネスのKPIに引き続き注目すべきだ。
- 最重要KPI:
- DX推進事業/Smart Boardingの導入社数: 新規顧客獲得ペースの維持は、成長の源泉となる 。
- ARPU(1社あたりの平均売上): 直販への注力やライセンス追加獲得の進捗を測る指標であり、収益性の向上を判断する上で重要である 。
- チャーンレート: 顧客満足度とビジネスモデルの健全性を測る最重要指標であり、低位水準を維持できるか監視が必要である 。
- 今後のイベント:
- AI関連事業に関する具体的なプロダクト展開や、業績への貢献度に関する開示。
- リンクアンドモチベーション社との業務提携の成果に関する具体的な事例報告 。
FCEは、高い成長性と安定性を兼ね備えたSaaS企業であり、今後のAI関連事業への展開が成功すれば、さらなる飛躍が期待できる。長期的な成長を志向する投資家にとって、魅力的な投資対象であると判断する。 ソース