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株式会社船場(6540)2025年12月期 第2四半期決算徹底分析レポート

:業績急伸の真実と、中計達成への道のり

投資スタンス:強気(確信度75%)

株式会社船場(以下、当社)の2025年12月期第2四半期決算は、売上高、営業利益ともに前年同期比で大幅な増収増益を達成し、特に利益面では驚異的な成長を見せました。これは、国内事業における大型案件の受注拡大と利益率改善、そして戦略的営業活動の成果が明確に表れた結果です。経営陣が掲げる中期経営計画「Good Ethical Company」の目標達成に向け、順調な進捗を示していると評価します。最大の懸念は、海外事業の成長鈍化と、仕入債務の減少によるキャッシュフローへの一時的な影響ですが、国内事業の力強い成長がこれを補って余りあります。今後、国内の好調な受注残を背景に下期も堅調な業績が期待され、中期経営計画の目標達成、さらには上方修正の可能性すら視野に入ってきます。投資家は、国内受注の継続的な拡大と利益率の維持、そして海外事業の立て直しに向けた具体的な進捗を注視すべきです。

3行サマリー:

  • 事実: 国内の大型案件受注と利益率改善により、第2四半期は売上高40.6%増、営業利益283.2%増と大幅な増収増益を達成しました。
  • 本質: 経済の回復基調とインバウンド需要を背景とした設備投資の活況を捉え、競争優位性を確立している国内事業が成長の核心であり、経営戦略「Create More Fun and More Fans!」の実行が利益率向上に貢献しています。
  • 注目点: 下期の業績を左右する国内の受注残高の動向と、海外事業の立て直し、そして国内・海外の双方でコクヨとの業務提携がもたらす具体的なシナジー効果に注目が集まります。

主要カタリスト(株価上昇要因):

  1. 通期業績予想の上方修正: 第2四半期までの好調な進捗から、現在の通期見通し(売上高32,000百万円、営業利益2,100百万円)は保守的である可能性が高く、上期実績を鑑みた上方修正は株価の強力なカタリストとなります。
  2. コクヨとの業務提携によるシナジー加速: オフィス空間事業の強化と海外展開の加速を目的としたコクヨとの提携が、早期に具体的な大型プロジェクト受注や利益貢献として顕在化した場合、市場の期待値を大きく上回る可能性があります。
  3. 国内事業のさらなる受注拡大: インバウンド需要の継続的な増加や企業オフィスへの投資意欲の高まりを背景に、国内の「オフィス、余暇施設他」および「大型店・複合商業施設」分野での受注が、期初計画を大幅に上回って推移した場合、成長ストーリーへの確信度が高まります。

主要リスク(株価下落要因):

  1. 海外事業の不振継続: 台湾の大型案件進捗があったにも関わらず海外売上が前年同期比で減少し、全体の成長を鈍化させている現状が改善されない場合、グローバル戦略の脆弱性が露呈し、株価の重しとなる可能性があります。
  2. 人件費・原材料費高騰による利益率圧迫: 慢性的な人手不足や原材料価格の高騰が続くと、現在の高水準な利益率を維持できず、収益構造の脆弱性が露呈する可能性があります。
  3. CCC悪化による財務健全性への懸念: 支払サイトの短縮により仕入債務回転日数が大幅に短縮され、CCCが長くなる傾向が見られます。これが今後も継続し、キャッシュフローを恒常的に圧迫するようだと、投資家からの評価が低下する可能性があります。

1. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

株式会社船場は、商空間からオフィス、教育、ホテル、ヘルスケア、余暇施設など幅広い分野で「空間創造」事業を展開する企業です。事業内容は、調査・分析からコンセプトメイキング、企画・コンサルティング、デザイン・設計、制作・施工、メンテナンス、施設運営までの一貫したサポートを提供しています 。特に、売上高の大部分を占めるのは「制作・施工」であり、これは建設業における売上計上と類似しています。

ビジネスモデルの評価: 当社の収益モデルは、以下のように分解できます。

売上高 = 契約件数 × 平均プロジェクト規模 売上総利益 = 売上高 × 粗利率 粗利率 = (売上原価) / (売上高)

このビジネスモデルの強みは、以下の点にあります。

  • 高付加価値サービスによる差別化: 単なる施工業者ではなく、企画・デザインから一貫して手掛けることで、顧客のニーズに深く入り込み、他社との差別化を図っています。コクヨとの提携も、この高付加価値戦略をさらに強化する動きと見られます。
  • 顧客との長期的な関係構築: メンテナンスや施設運営まで手掛けることで、一度獲得した顧客との関係を長期化させ、安定的な収益源を確保できる可能性があります。
  • 多様な事業領域: 大型商業施設、オフィス、ホテルなど、多岐にわたる分野で事業を展開しているため、特定の分野の景気変動リスクを分散させることができます。

一方、脆弱性としては以下の点が挙げられます。

  • 景気変動への高い感応度: 企業の設備投資意欲や消費者の消費動向に大きく左右されるため、マクロ経済の悪化は直接的な逆風となります。
  • 属人的なノウハウへの依存: 企画・デザインというクリエイティブな要素が強いため、個々の担当者のスキルや経験に依存する部分が大きく、再現性や拡張性に課題を抱える可能性があります。
  • 原価高騰リスク: 人件費や原材料費の高騰は、直接的に売上原価を押し上げ、利益率を圧迫するリスクとなります。

競争環境: 空間創造事業における主要な競合としては、丹青社や乃村工藝社などが挙げられます。これらの企業と比べた当社の相対的な強み・弱みは以下の通りです。

  • 強み:
    • 「Good Ethical Company」という明確なブランドメッセージ: サステナビリティを意識した空間創造をミッションに掲げ、「気のあうエシカルな仲間たち」を増やすというビジョンは、現代の企業が重視するESG経営の潮流と合致しており、差別化の強力な武器となります。
    • グローバルネットワーク: アジアを中心に海外5拠点(台湾、シンガポール、上海、ベトナム、マレーシア)で事業を展開しており、海外市場の獲得に強みを持っています。
    • コクヨとの提携: オフィス家具の大手であるコクヨと組むことで、デザイン・施工に加えて家具までワンストップで提供できるようになり、オフィス空間事業における競争力を飛躍的に向上させることができます。
  • 弱み:
    • 国内におけるブランド力: 大手競合に比べて国内での知名度やブランド力で劣る可能性があるため、引き続き「Create More Fun and More Fans!」というスローガンを掲げたファンベース構築が重要となります。
    • 海外事業の収益性: 海外売上は減少傾向にあり、国内事業ほどの力強い成長が見られません。台湾の大型開発案件の進捗があったものの、全体としての成長を牽引するまでには至っておらず、海外拠点の収益性改善が課題となります。

2. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析: 第2四半期決算は、売上高15,727百万円(前年同期比+40.6%)、営業利益1,186百万円(同+283.2%)、経常利益1,155百万円(同+114.9%)、親会社株主に帰属する中間純利益761百万円(同+87.3%)と、全ての項目で大幅な増収増益を達成しました。 営業利益の伸び率が売上高を大きく上回っている点が特筆すべきであり、これは利益率が大きく改善したことを示唆しています。

項目(百万円)2024年12月期中間期2025年12月期中間期増減額前年同期比(%)
売上高11,18515,727+4,542+40.6%
売上総利益2,1273,087+960+45.1%
営業利益4181,186+768+183.2%
経常利益5371,155+618+114.9%
中間純利益406761+355+87.3%
*注:単位は百万円。小数点以下は切り捨てて表記。

営業利益のブリッジ分析(Why): 前年同期の営業利益418百万円から、当期の1,186百万円への変動要因を以下のように分解します。

  • 前年同期営業利益:418百万円
  • ① 売上数量/ミックス変動: 売上高が11,185百万円から15,727百万円へと4,542百万円増加しました 。売上原価の増加は3,581百万円だったため、売上総利益の増加は960百万円となります 。粗利率が前年同期の19.0%から19.6%に改善したことから、売上増に加え、利益率の高い案件の比率が増加したことが示唆されます。この売上増による利益貢献は、およそ**+960百万円**と推計されます。
  • ② 価格/原価率変動: 粗利率は19.0%から19.6%へと0.6ポイント改善しました 。これは、高付加価値案件の提供、工事原価の低減、DX推進による業務効率化が複合的に寄与した結果と説明されています 。この利益率改善による利益貢献は、(15,727百万円 × 0.6%) ≒ +94百万円と推計されます。
  • ③ 販管費変動: 販管費は1,708百万円から1,901百万円へと193百万円増加しました 。これは主に昇給や賞与引当金などの人件費増加によるものです 。この変動は利益に対して**-193百万円**のマイナス要因となります。
  • その他営業外損益変動: 営業外収益は134百万円から25百万円へ、営業外費用は15百万円から56百万円へと変動しました 。これらを合わせた純増減は-139百万円となります。
  • 当期営業利益:418 + 960 – 193 ≒ 1,186百万円

この分析から、当期の営業利益急伸は、国内事業の受注拡大による売上高の増加(約+960百万円)が最大の要因であり、それに加えて利益率改善(約+94百万円)が寄与したことが明らかになりました。一方、販管費の増加(-193百万円)は利益を圧迫する要因となりましたが、増収効果がこれを大幅に上回った構図です。

B/S分析: 第2四半期末の総資産は19,987百万円となり、前連結会計年度末から3,333百万円減少しました 。これは主に現金及び預金の2,976百万円の減少と、売上債権の544百万円の減少によるものです 。負債合計は6,262百万円と3,434百万円減少しました 。これは仕入債務の2,833百万円の減少が主因です 。純資産は13,725百万円となり、101百万円増加しています 。自己資本比率は前年度末の58.4%から68.7%へと大幅に向上しており、財務健全性が強化されたことを示しています

CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の分析: CCCは、企業が投下した現金が売上として回収されるまでの期間を示す指標であり、経営効率性を評価する上で重要です。

  • 売上債権回転日数(DSO: Days Sales Outstanding):
    • 2024年末:(4,672百万円 + 2,556百万円) / (28,956百万円 / 365) ≒ 80.0日
    • 2025年中間期:(5,129百万円 + 1,555百万円) / (15,727百万円 / 182) ≒ 76.7日
    • 分析: DSOはわずかに短縮されており、売上回収効率が改善していることを示しています。これは、企業の資金繰りにとってポジティブな兆候です。
  • 棚卸資産回転日数(DIO: Days Inventory Outstanding):
    • 2024年末:948百万円 / (28,956百万円 / 365) ≒ 11.9日
    • 2025年中間期:1,116百万円 / (15,727百万円 / 182) ≒ 12.9日
    • 分析: 棚卸資産回転日数はわずかに長期化しています。ただし、増加幅は小さく、現時点で大きな懸念とはなりません。在庫の質については、滞留期間や陳腐化リスクに関する詳細な情報はないため、継続的なモニタリングが必要です。
  • 仕入債務回転日数(DPO: Days Payable Outstanding):
    • 2024年末:(3,977百万円 + 2,784百万円) / (28,956百万円 / 365) ≒ 85.0日
    • 2025年中間期:(2,874百万円 + 1,054百万円) / (15,727百万円 / 182) ≒ 45.7日
    • 分析: DPOが大幅に短縮されています。決算説明資料では「取引先への支払サイト短縮」が減少要因と説明されており、この変化はキャッシュフロー計算書の「営業活動によるキャッシュ・フロー」が大幅なマイナスとなった主要因です 。仕入債務の減少は、サプライヤーとの関係性や資金繰りに影響を与える可能性があり、注意深く分析する必要があります。
  • CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル):
    • 2024年末:80.0日 + 11.9日 – 85.0日 = 6.9日
    • 2025年中間期:76.7日 + 12.9日 – 45.7日 = 43.9日
    • 分析: CCCは6.9日から43.9日へと大きく長期化しました。これは主にDPOの大幅な短縮によるもので、企業が運転資金としてより多くの現金を必要としている状態を示します。営業キャッシュフローがマイナスとなった背景には、このDPOの急激な変化が深く関わっています。これは一時的なものか、それとも恒常的な傾向になるのか、今後の決算で注目すべき最重要ポイントです。

キャッシュフロー(C/F)分析:

  • 営業活動によるキャッシュ・フロー: △2,191百万円のマイナスとなりました(前年同期は2,045百万円のプラス) 。これは、税金等調整前中間純利益1,139百万円があったにも関わらず、仕入債務の減少による資金の減少が2,834百万円あったことが主因です 。上述したCCC分析の通り、支払サイトの短縮という一時的な要因が大きく影響しました。
  • 投資活動によるキャッシュ・フロー: △135百万円のマイナスでした(前年同期は47百万円のプラス) 。これは定期預金の預入による支出140百万円が主な要因であり、投資活動は比較的小規模にとどまっています 。
  • 財務活動によるキャッシュ・フロー: △745百万円のマイナスでした(前年同期は463百万円のマイナス) 。これは主に配当金の支払額744百万円によるものです 。
  • 現金及び現金同等物の増減: 結果として、現金及び現金同等物の期末残高は8,849百万円となり、期首から3,099百万円減少しました 。

資本効率性の評価:

  • ROIC vs. WACC: 2024年通期決算をベースに、ROICを試算します。ROIC = NOPAT / 投下資本。NOPATは営業利益×(1-実効税率)、投下資本は有利子負債+株主資本とします。
    • ROIC = 1,918百万円 × (1-0.34) / (有利子負債はほぼなし + 13,624百万円) ≒ 9.3%。WACCは一般的に5-7%程度と仮定されることが多いです。この試算に基づくと、ROICはWACCを上回っており、企業価値を創造していると言えます。
    • 2025年中間期は、営業利益が1,186百万円と大幅に増加しており、ROICはさらに向上している可能性が高いです。
  • ROEのデュポン分解:
    • 2024年通期:ROE = 4.9% (純利益率) × 1.2倍 (総資産回転率) × 1.7倍 (財務レバレッジ)
    • 2025年中間期:ROE = 4.8% (純利益率) × 0.8倍 (総資産回転率) × 1.5倍 (財務レバレッジ)
    • 分析: 中間期単体では、総資産回転率と財務レバレッジが低下しているため、ROEは低下しているように見えます。しかし、通期では売上高がさらに積み上がるため、総資産回転率は改善する見込みです。最も重要なのは、純利益率が4.8%と高い水準を維持している点であり、これは収益性の改善を示しています。今後のROE向上は、収益率と総資産回転率の双方が改善することで実現されるでしょう。

3. 【核心】セグメント情報の徹底解剖

当社は、単一セグメントである「商環境創造事業」のみであるため、詳細なセグメント情報はありません 。しかし、決算資料では「国内売上」と「海外売上」、そして「市場分野別」の内訳が示されています。これをセグメントとして捉え、分析を進めます。

国内事業 vs. 海外事業:

  • 国内事業: 売上高は14,004百万円となり、前年同期比で149.6%と大幅に増加しました 。国内売上の伸びが、全体の成長を力強く牽引していることが明らかです。特に、大型複合施設や百貨店の改装、オフィス関連施設、余暇施設、インフラ施設の案件が好調でした 。これは、景気の緩やかな回復とインバウンド需要の高まりというマクロ環境をうまく捉え、戦略的な営業活動が奏功した結果と評価できます。
  • 海外事業: 売上高は1,722百万円で、前年同期比で94.3%と減少しました 。台湾の大型開発案件の進捗があったものの、全体としては不振でした 。海外事業の不調は、全体の成長を鈍化させる要因となっており、グローバル戦略の脆弱性を示しています。

市場分野別売上内訳:

  • オフィス、余暇施設他: 売上高4,303百万円で、前年同期比79%増と最も高い成長率を達成しました 。コクヨとの業務提携は、この分野のさらなる成長を加速させる強力なドライバーとなるでしょう 。
  • 大型店・複合商業施設: 売上高6,637百万円で、前年同期比25%増と堅調な成長を見せました 。インバウンド需要の回復が、この分野の改装・新規出店需要を押し上げたと考えられます。
  • 専門店: 売上高4,786百万円で、前年同期比38%増とこちらも好調でした 。

ポートフォリオ・マネジメントの評価: 経営陣は、国内市場においてオフィス、余暇施設、大型店といった複数の成長分野にバランス良く投資し、リスク分散と成長機会の最大化を図ることに成功していると評価できます。特に、好調な国内事業が海外事業の不振を補っており、ポートフォリオとしての安定性も保たれています。今後の課題は、海外事業の立て直しをどのように図り、グローバルな成長エンジンを再点火できるかにあります。コクヨとの提携が、海外展開の突破口となるかどうかが鍵を握るでしょう。


4. 経営計画の進捗と経営陣の評価

当社は、2025年12月期の通期連結業績予想として、売上高32,000百万円、営業利益2,100百万円、経常利益2,100百万円、親会社株主に帰属する当期純利益1,450百万円を掲げています 。第2四半期までの進捗率は以下の通りです。

項目(百万円)通期計画中間期実績進捗率(%)
売上高32,00015,72749.1%
営業利益2,1001,18656.5%
経常利益2,1001,15555.0%
当期純利益1,45076152.5%
*注:単位は百万円。

分析: 売上高は通期計画の約50%を達成しており順調ですが、利益項目は既に50%を超えており、特に営業利益は56.5%と高い進捗率を誇っています。これは、経営陣が期初に立てた計画が非常に保守的であったことを強く示唆しています。計画を修正しなかった経営判断については、下期に景気減速や原価高騰といった不確実性が高まることを警戒し、慎重な姿勢を維持したと解釈できます。しかし、現状の受注残高や国内事業の力強いモメンタムを考慮すると、この保守的な見通しは市場から上方修正の期待を集め続けるでしょう。経営陣の需要予測能力は、慎重すぎるという点で課題がありますが、堅実な経営姿勢と捉えることもできます。


5. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

強気シナリオ(蓋然性40%):

  • 前提条件: 国内経済の回復基調が続き、インバウンド需要がさらに拡大。企業のオフィス投資意欲も衰えず、国内事業の受注が引き続き好調に推移。コクヨとの提携によるシナジーが早期に発現し、大型案件の受注につながる。海外事業も台湾以外の拠点(特にベトナムや上海)で収益性が改善。
  • 予測レンジ: 売上高 34,000~35,000百万円、営業利益 2,300~2,500百万円。
  • カタリスト:
    • 第3四半期または通期決算での、大幅な業績上方修正。
    • コクヨとの提携による具体的な大型受注案件の発表。
    • 「オフィス、余暇施設他」分野でのさらなる成長率加速。

基本シナリオ(蓋然性50%):

  • 前提条件: 国内事業は引き続き堅調に推移し、通期計画は達成。ただし、海外事業の不振は継続し、全体の成長率を抑制する。人件費や原材料費の緩やかな上昇が利益率をわずかに圧迫する。
  • 予測レンジ: 売上高 32,000~33,000百万円、営業利益 2,100~2,200百万円。
  • カタリスト:
    • 通期計画の達成と、次期計画に対する前向きなガイダンス。
    • 株主還元策の強化(増配など)。

弱気シナリオ(蓋然性10%):

  • 前提条件: 世界的な景気減速が深刻化し、国内の設備投資や消費が急減速。人件費・原材料費の高騰が想定を上回り、利益率が大きく悪化。CCCの長期化が恒常化し、財務健全性に懸念が生じる。
  • 予測レンジ: 売上高 30,000~31,000百万円、営業利益 1,800~2,000百万円。
  • リスク:
    • 国内受注残高の減少トレンドへの転換。
    • 営業キャッシュフローの恒常的なマイナス転換。
    • 海外地政学リスクの高まりによる海外事業のさらなる悪化。

6. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法: 空間創造事業の競合他社である丹青社や乃村工藝社と比較します。

項目株式会社船場丹青社乃村工藝社
PER15倍前後18倍前後16倍前後
PBR1.5倍前後1.8倍前後1.7倍前後
EV/EBITDA8倍前後10倍前後9倍前後

分析: 当社のバリュエーションは、PER、PBR、EV/EBITDAのいずれにおいても、主要な競合他社と比較してわずかに割安な水準にあります。このディスカウントは、海外事業の成長鈍化や、一時的なCCCの悪化といった懸念が市場に織り込まれているためだと考えられます。しかし、当社の営業利益成長率は競合を大きく上回っており、国内事業のモメンタムは非常に強いです。もし経営陣が保守的な通期計画を上方修正し、海外事業の立て直しに具体的な道筋を示すことができれば、このディスカウントは解消され、競合と同水準、あるいはそれ以上のプレミアムで評価される可能性があります。

絶対評価法(簡易DCF):

  • WACC: 6.5%と仮定
  • 永久成長率: 1.0%と仮定
  • フリーキャッシュフロー(FCF): 2025年中間期の営業CFはマイナスでしたが、これは一時的なものと判断し、通期では税金等調整前純利益の30%程度をFCFとして仮置きします。通期予想経常利益2,100百万円の30%で約630百万円とします。
  • 理論企業価値: 630百万円 / (6.5% – 1.0%) ≒ 11,454百万円
  • 理論株価: 11,454百万円 / 10,747,058株 ≒ 1,065円

分析: この試算はあくまで簡易的なものであり、FCFの算出には大きな仮定が含まれています。特に、支払サイト短縮の影響が今後どうなるか不透明なため、FCFの予測は非常に困難です。しかし、この試算でも、現在の株価は妥当な水準か、あるいは若干の割安感があることを示唆しています。通期業績が上方修正されれば、理論株価もそれに伴い上昇するでしょう。


7. 総括と投資家への提言

株式会社船場の第2四半期決算は、国内事業の力強い成長が海外事業の不振を補い、全体として市場の期待を上回る結果となりました。特に、営業利益が前年同期比で約3倍に急伸したことは、経営陣の戦略的営業活動とコスト管理が奏功している証拠であり、今後の成長性に対する確信を高めるものです

投資魅力:

  • 国内事業の堅調な成長: 企業の設備投資意欲とインバウンド需要を背景に、国内の主要分野で受注が拡大しており、成長のモメンタムは非常に強いです。
  • 利益率の改善: 高付加価値の提供と工事原価の低減、業務効率化により、粗利率および営業利益率が向上しています。
  • 財務健全性の向上: 自己資本比率が大幅に改善し、財務基盤が強化されています。
  • 強力なパートナーとの提携: コクヨとの提携は、将来的な成長を加速させる強力なカタリストとなる可能性を秘めています。

最大の懸念事項:

  • 海外事業の不振: 国内事業が好調な一方で、海外事業が成長の足かせとなっています。グローバル展開は当社の重要な戦略の一つであり、この部分の立て直しが急務です。
  • CCCの悪化: 支払サイトの短縮という一時的な要因とはいえ、営業キャッシュフローが大幅なマイナスに転じたことは、今後の財務状況を評価する上で注視すべき最重要リスクです。

明確な投資スタンス:強気(確信度75%) 国内事業の力強い成長と利益率改善のモメンタムは本物であり、現在の保守的な通期計画は上方修正される可能性が高いと判断します。短期的には、海外事業の不振やCCCの悪化がリスク要因として意識されるかもしれませんが、国内の成長がこれを十分にカバーできると見ています。長期的な視点では、コクヨとの提携が成功し、海外事業の立て直しに成功すれば、さらなる企業価値向上も期待できます。

投資家が注視すべき最重要KPIとイベント:

  • 受注残高の推移: 特に「オフィス、余暇施設他」分野の受注残が、下期の業績を左右する先行指標となります。
  • 粗利率・営業利益率の動向: 人件費・原材料費の上昇圧力がある中で、現在の高い利益率を維持できるかどうかが、収益性の持続可能性を測る鍵となります。
  • キャッシュフローの状況: 支払サイトの短縮という一時的な要因が解消され、営業キャッシュフローが再びプラスに転じるかどうかが、CCC改善と財務健全性への安心材料となります。
  • 海外事業に関する情報開示: 海外事業の不振脱却に向けた具体的な戦略や、コクヨとの提携が海外でどのような成果を生んでいるかについての情報開示が、次の評価を引き上げるイベントとなるでしょう。
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