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株式会社網屋(4258)2025年12月期 第2四半期決算分析:サブスク移行がもたらす利益構造の大変革と、見過ごされがちな潜在リスク


1. エグゼクティブ・サマリー

投資スタンス:強気(確信度85%)

株式会社網屋(以下、同社)は、2025年12月期第2四半期(中間期)において、売上高、営業利益、経常利益、純利益のすべてで前年同期比大幅な増収増益を達成しました。特に、営業利益は前年同期比87.2%増と驚異的な成長を遂げ、通期予想の修正後目標に対する進捗率は62.4%に達しています。この好調の背景には、主軸製品である「ALog」のサブスクリプションモデルへの移行が想定を上回るペースで進み、収益構造が大きく改善していることがあります。従来のフロー型収益モデルから、安定的かつ高収益なストック型収益モデルへの転換が成功しつつあり、今後、利益の質と安定性が飛躍的に向上すると評価します。

3行サマリー:

  • 何が起きたのか: 同社は2025年12月期第2四半期において、主力のセキュリティ事業が堅調に推移し、特にサブスクリプションモデルへの転換が奏功して、営業利益は前年同期比87.2%増と大幅な増益を達成した 。
  • なぜそれが重要なのか: 従来、季節要因で利益が低迷しがちだったQ2(4-6月)において、サブスク化による収益の平準化が顕著に進み、四半期営業利益は前年同期比で約6倍に急伸 。これは、高利益率のストック型収益が利益を牽引する、持続可能で強固なビジネスモデルへの転換が確実なものとなりつつあることを示している 。
  • 次に何を見るべきか: ALogのサブスクリプション化に伴う契約負債の積み上がりと、それに伴う将来の売上・利益貢献の本格化、および新規連結子会社であるASネットワークセキュリティが事業ポートフォリオに与える影響に注目する。

主要カタリストとリスク:

主要カタリスト(Positive):

  • サブスクリプション収益の本格化: 「ALog」製品のサブスク化が順調に進捗しており、契約負債が大幅に増加している 。これが今後の売上として計上されれば、年間経常収益(ARR)が飛躍的に増加し、利益成長を加速させる。
  • ネットワークセキュリティ事業の成長: 「Network All Cloud」サービスが、教育関連や製造業を中心に導入が増加しており、コスト削減とセキュリティ運用の自動化という顧客ニーズを的確に捉えている 。また、次世代セキュリティ「SASE」の売上貢献が本格化すれば、さらなる成長の起爆剤となる可能性がある 。
  • M&Aによる事業シナジー: IT技術者派遣事業を展開する株式会社ASネットワークセキュリティを子会社化した 。同社のサイバーセキュリティ人材育成ノウハウを活用することで、付加価値の高いサイバーセキュリティエンジニアの派遣事業を展開し、持続的な成長と企業価値向上に寄与する可能性がある 。

主要リスク(Negative):

  • サブスクリプション移行の失速: サブスク化は順調だが、市場の競争激化や顧客の移行に対する抵抗などにより、今後の新規受注件数やARRの伸びが鈍化するリスク。
  • 研究開発費の先行投資負担: サブスクリプションモデルは初期費用が低いため、サービス開発や人材への先行投資が先行し、短期的には利益率を圧迫する可能性がある。また、競合が同様のサービスを安価に提供した場合、価格競争に巻き込まれるリスク。
  • 買収した子会社のリスク: 新規連結子会社の事業が計画通りに進まず、のれんの減損リスクや、連結業績へのネガティブな影響を与えるリスク。

2. 事業概要とビジネスモデルの深掘り

同社は「データセキュリティ事業」と「ネットワークセキュリティ事業」の2つの事業セグメントで構成される 。両事業は「セキュリティの自動化」という共通コンセプトのもと、企業や自治体のセキュリティ人材不足という構造的課題に対応する製品・サービスを提供している

ビジネスモデルの評価:

  • 収益モデル: 売上高は、主に「顧客との契約から生じる収益」で構成される 。これは、製品・サービスの提供(Q)と、その価格(P)の積で表される。しかし、従来の「ライセンス売切り」と「保守」から、高収益の「サブスクリプション(ストック)」モデルへの転換が進行中であり、今後は収益の質が大きく変わる。
  • ストック収益の創出: 特にデータセキュリティ事業では、主力製品「ALog」のサブスクリプション化を2024年Q2より本格的に開始 。この結果、契約負債(前受金)が前年同期比で283,198千円増加し、契約負債の累計額は1,773百万円に達している 。これは、将来の売上として計上される安定的な収益源が着実に積み上がっていることを意味する。サブスクモデルの年間一括払いにより、キャッシュ・インが前年同期比1.4倍に増加しており、キャッシュフロー面での改善も顕著である 。
  • 競争優位性:
    • スイッチングコスト: 同社製品は顧客のシステムインフラの根幹に組み込まれるため、一度導入すると他社製品への乗り換えが困難となる高いスイッチングコストを構築している 。これは、安定した継続収益(ARR)の基盤となる。
    • 解約率の低さ: ALogサブスクの解約率は1%以下を維持しており、Network All Cloudの解約率も1%台を維持している 。これは、製品・サービスの価値に対する顧客満足度の高さを証明し、高い顧客生涯価値(LTV)につながる。
    • 技術的優位性: 17年連続で国内トップシェアを誇るログ管理製品「ALog」は、特許取得済みの「ログ翻訳変換」や「AIリスクスコアリング」技術により、多種多様なシステムログを自動で収集・分析・変換する能力を持つ 。この独自技術は、他社が容易に追随できない参入障壁となっている。

競争環境: サイバーセキュリティ市場は、富士キメラネットワークセキュリティビジネス総覧によると、国内だけでも8,078億円の規模を持ち、米国では経済安全保障の観点から市場規模が約3兆円超にまで拡大する可能性がある 。この市場には、国内外の巨大なプレイヤーがひしめき合っている。

  • データセキュリティ事業(ALog): 国内サーバーアクセスログ監査市場では、同社が71.6%の圧倒的なシェアを占めている 。直接的な競合は少ないものの、SplunkなどのSIEM(セキュリティ情報イベント管理)ベンダーが提供するログ管理ソリューションとは間接的に競合する。
  • ネットワークセキュリティ事業(Network All Cloud): この領域では、従来のVPNベンダーに加え、SASE(Secure Access Service Edge)市場のプレイヤーとの競争が激化している。同社の強みは「国産SASE」として、国内の企業ニーズに合わせたサポート体制と、ALogとの連携による包括的なセキュリティソリューションを提供できる点にある 。

3. 【最重要】業績ハイライトと徹底的な財務分析

P/L分析

項目2024年12月期中間期2025年12月期中間期前年同期比(増減率)計画(通期)進捗率
売上高2,235百万円2,746百万円+22.9% 5,750百万円 47.8%
営業利益259百万円486百万円+87.2% 780百万円 62.4%
経常利益276百万円478百万円+73.3% 770百万円 62.2%
中間純利益195百万円325百万円+66.2% 530百万円 61.4%

営業利益のブリッジ分析(2024年12月期中間期 → 2025年12月期中間期)

  • 2024年12月期中間期営業利益:259百万円
  • ① 売上高の増加による増益効果:
    • 売上高は511百万円(2,746 – 2,235)増加 。
    • 粗利率は2024年中間期が43.1%(964/2,235)、2025年中間期が46.5%(1,277/2,746)であり、粗利率が改善している 。
    • 仮に粗利率が横ばいだったとしても、売上増による粗利増加は511百万円 × 43.1% = 約220百万円。
  • ② 粗利率の改善による増益効果:
    • 粗利の増加額は313百万円(1,277 – 964)。
    • 売上増加による粗利増分を差し引くと、粗利率改善による増益効果は約93百万円(313 – 220)。
    • この粗利率の改善は、粗利益率の低いネットワークインテグレーションの売上が減少し、粗利益率の高いサブスクモデル事業が好調に推移したことによる 。
  • ③ 販管費の増加による減益効果:
    • 販管費は86.9百万円(791.4 – 704.4)増加 。
    • 販管費は売上高に対して+12%の増加にとどまっており、売上高の伸び率(+22.9%)よりも抑制されている 。これにより、営業利益率が大幅に改善した。販管費増加の主な要因は、新卒採用や研究開発の強化など、将来に向けた戦略的な投資である 。
  • 2025年12月期中間期営業利益:486百万円
    • 259百万円(期初)+ (約220百万円 + 約93百万円) – 86.9百万円 = 約485.1百万円。
    • この分析から、大幅な増益の主因は、高収益のサブスクモデルへのシフトによる「収益構造の改善」と、売上成長に比べて「販管費を抑制」できたことの両方であることが明確に示唆される。

B/S分析

  • 資産合計: 前連結会計年度末と比較して662,809千円増加し、6,078,049千円となった 。これは主に、業績好調に伴う現金及び預金の増加(+500,623千円)と売掛金の増加(+78,687千円)による 。
  • 負債合計: 247,743千円増加し、3,530,918千円となった 。特筆すべきは、ALogソフトウエアのサブスクリプションモデルへの変更により、契約負債が283,198千円大幅に増加したことである 。これは、将来の収益として認識されるべき売上が積み上がっていることを示す、非常にポジティブな兆候である。
  • 純資産合計: 415,065千円増加し、2,547,131千円となった 。これは主に、利益剰余金の増加(+323,856千円)と、NTTドコモビジネス株式会社からの第三者割当増資による資本剰余金の増加(+150,666千円)によるものである 。自己資本比率は41.8%と、前連結会計年度末の39.4%から改善しており、財務の健全性は向上している 。

CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)分析:

  • 売上債権回転日数(DSO):
    • 2024年中間期:売掛金(414百万円)/ 売上高(2,235百万円)× 365日 = 67.6日
    • 2025年中間期:売掛金(492百万円)/ 売上高(2,746百万円)× 365日 = 65.4日
    • DSOはわずかに短縮しており、売上の増加に比べて売掛金の回収は効率的に行われている。
  • 棚卸資産回転日数(DIO):
    • 2024年中間期:棚卸資産(87百万円+362百万円)/ 売上原価(1,271百万円)× 365日 = 129.5日
    • 2025年中間期:棚卸資産(40百万円+344百万円)/ 売上原価(1,468百万円)× 365日 = 95.8日
    • 棚卸資産(仕掛品、原材料及び貯蔵品)は絶対額も減少しており 、在庫の回転が大幅に改善している。これは、サブスクモデルへの移行により、ハードウェアやライセンスといった物理的な在庫を抱える必要性が減り、ビジネスモデルの効率性が高まっていることを示す。
  • 仕入債務回転日数(DPO):
    • 2024年中間期:買掛金(120百万円)/ 売上原価(1,271百万円)× 365日 = 34.5日
    • 2025年中間期:買掛金(158百万円)/ 売上原価(1,468百万円)× 365日 = 39.3日
    • DPOはわずかに伸びており、仕入れ先への支払いを遅らせることでキャッシュを社内に留保できている。
  • CCC:
    • 2024年中間期:67.6日 + 129.5日 – 34.5日 = 162.6日
    • 2025年中間期:65.4日 + 95.8日 – 39.3日 = 121.9日
    • CCCは大幅に改善しており、キャッシュフロー創出力が高まっていることを明確に示している。これは、利益率の改善に加え、サブスク化がもたらすビジネスモデルの効率性向上という、見過ごされがちな本質的な変化を物語っている。

キャッシュフロー(C/F)分析

  • 営業活動によるキャッシュフロー(OFC): 593,164千円の収入超過 。前年同期の467,399千円から大幅に増加しており、主因は税金等調整前中間純利益の増加と、契約負債の増加である 。純利益とOFCの乖離(アクルーアル)は、契約負債の増加という非現金項目に起因しており、利益の質は非常に高いと評価できる。
  • 投資活動によるキャッシュフロー(IFC): 68,868千円の支出超過 。主として、新規連結子会社である株式会社ASネットワークセキュリティの株式取得費用(38,586千円)と無形固定資産の取得によるものである 。これは、将来の成長に向けた戦略的なM&Aと技術投資であり、健全な支出である。
  • 財務活動によるキャッシュフロー(FFC): 21,915千円の支出超過 。長期借入金の返済が主因だが、自己株式処分による収入も得ている 。これは、負債の圧縮と資本の効率的な活用を両立させていることを示す。
  • 総評: 営業CFの力強い増加が、戦略的な投資CFを十分に賄い、かつキャッシュ残高を大きく増加させている 。キャッシュ創出力が飛躍的に向上していることが確認できる。

資本効率性の評価

  • ROE(自己資本利益率): 2024年中間期は(195百万円 / 2,132百万円) = 9.2%。2025年中間期は(325百万円 / 2,547百万円) = 12.8%。ROEは大幅に改善している 。
  • デュポン分解:
    • 2025年中間期:
      • 純利益率:325百万円 / 2,746百万円 = 11.8%
      • 総資産回転率:2,746百万円 / 6,078百万円 = 0.45回転
      • 財務レバレッジ:6,078百万円 / 2,547百万円 = 2.39倍
      • ROE = 11.8% × 0.45 × 2.39 = 12.8%
    • ROEの改善は、純利益率の向上(サブスク化による利益率改善)と、わずかながら総資産回転率の向上(ビジネス効率改善)に起因している。
  • ROIC(投下資本利益率):
    • 2025年中間期:
      • NOPAT(税後営業利益):486百万円 × (1 – 31.9%)* = 331.0百万円
      • 投下資本:総資産6,078百万円 – 無利子負債(契約負債1,773百万円 + 買掛金158百万円 + 未払金89百万円 + 未払法人税等152百万円 + 賞与引当金3百万円 + 役員従業員報酬引当金12百万円 + その他負債214百万円) = 3,677百万円
      • ROIC = 331.0百万円 / 3,677百万円 = 9.0%
      • *法人税率:2025年中間期の法人税等152百万円 / 税金等調整前中間純利益478百万円 = 31.9%
    • 同社のROICは9.0%であり、WACC(加重平均資本コスト)を上回っている可能性が高い。これにより、同社は事業を通じて株主価値を創造していると評価できる。特に、高収益のサブスク事業が拡大することで、ROICは今後さらに上昇することが期待される。

4. 【核心】セグメント情報の徹底解剖

データセキュリティ事業(DS事業)

  • 売上高: 前年同期比20.8%増の1,119百万円 。
  • セグメント利益: 前年同期比19.9%増の449百万円 。
  • 要因分析:
    • 市場環境: 経済産業省によるサプライチェーンへのセキュリティ対策強化の要請を背景に、ログ管理体制の整備ニーズが拡大 。
    • 製品ポートフォリオ: 主力製品「ALog」のサブスクリプション化が奏功 。従来の売り切り型モデルに比べて粗利益率が高く、利益貢献が今後本格化する見込みである 。
    • 顧客動向: 公共、金融、製造、IT業界からの受注が売上を牽引 。サブスクへの移行率は、2024年Q2の72%から2025年Q2には84%にまで上昇しており、このモデルが顧客に受け入れられていることを示す 。
    • ARR(年間経常収益): DS事業のARRは前年同期比57.7%増の1,511百万円と、驚異的な伸びを示している 。これは、今後の安定的な収益成長を保証する最も重要な指標である。

ネットワークセキュリティ事業(NS事業)

  • 売上高: 前年同期比24.3%増の1,626百万円 。
  • セグメント利益: 前年同期比51.0%増の458百万円 。
  • 要因分析:
    • 製品ポートフォリオ: 通信インフラをクラウド上で一元管理する「Network All Cloud」が堅調に売上を伸ばした 。
    • 顧客動向: 学習塾などの教育関連事業者や製造業において、インフラコスト削減やセキュリティ運用の自動化を目的とした導入が増加 。
    • ARR(年間経常収益): NS事業のARRは前年同期比20.7%増の1,821百万円 。DS事業に比べると成長率は低いが、安定的な伸びを維持している。
    • 今後の展望: 次世代セキュリティ「SASE」の売上貢献が今後期待される 。

ポートフォリオ・マネジメントの評価:

経営陣は、市場のトレンドと顧客の構造的課題(セキュリティ人材不足)を的確に捉え、主力製品のサブスクリプションモデルへの転換を迅速に進めている。これにより、利益率の高いストック型収益がポートフォリオ全体に占める割合が増加し、収益の安定性と成長性が同時に向上している 。また、IT技術者派遣事業の子会社化は、サイバーセキュリティ人材の育成という、同社のコアコンピタンスとシナジーを生み出す可能性があり、事業ポートフォリオのリスク分散と同時に、新たな成長機会を獲得する賢明な判断であると評価する


5. 経営計画の進捗と経営陣の評価

同社は、2025年12月期通期連結業績予想について、売上高は据え置きつつも、営業利益、経常利益、純利益を上方修正している

  • 売上高: 修正前5,750百万円 → 修正後5,750百万円(据え置き)
  • 営業利益: 修正前600百万円 → 修正後780百万円(+30.0%増)
  • 経常利益: 修正前591百万円 → 修正後770百万円(+30.3%増)
  • 純利益: 修正前425百万円 → 修正後530百万円(+24.7%増)

計画未達/超過の場合の要因分析と経営陣の評価: 今回の決算では、営業利益の進捗率が62.4%に達しており、通期計画に対する超過達成の蓋然性が極めて高いと判断する 。修正の理由として、粗利益率の低いネットワークインテグレーションの売上が減少した一方で、「ALog」や「Network All Cloud」といった高収益のサブスクモデル事業が好調に推移し、営業利益率が想定を上回ったことが挙げられている

この経営判断は非常に妥当である。従来の「売上高達成」という画一的な指標にとらわれず、利益率と収益の質を重視した戦略的判断が成功を収めている。通期計画を据え置いた売上高に対して、利益を大幅に上方修正したことは、経営陣が収益構造の改善という本質的な変化を正確に捉え、それを投資家に明確に伝える誠実な姿勢と評価できる。これは、単なる売上規模の拡大ではなく、持続的な利益成長を目指すという経営の強い意思を示唆している。


6. 将来シナリオと株価のカタリスト/リスク

強気シナリオ(蓋然性60%):

  • 前提: サブスクリプションモデルへの移行が想定を上回るペースで継続し、ARRが今後も力強く成長。国内サイバーセキュリティ市場の拡大が追い風となり、新規顧客獲得が加速。新サービス「SASE」の市場浸透が進み、売上貢献が本格化する。
  • 業績予測レンジ: 売上高5,800百万円~6,000百万円、営業利益800百万円~850百万円。
  • カタリスト:
    • 「ALog」や「Network All Cloud」のARR成長率が、市場予想を上回る四半期決算。
    • 大手企業や官公庁からの大型受注の獲得。
    • 海外市場での「ALog」の売上拡大。

基本シナリオ(蓋然性30%):

  • 前提: サブスクリプション移行は順調だが、そのペースは緩やかになる。サイバーセキュリティ市場の成長は続くが、競争激化により新規顧客獲得コストが上昇。新サービス「SASE」の売上貢献は限定的。
  • 業績予測レンジ: 売上高5,700百万円~5,800百万円、営業利益780百万円~800百万円。
  • リスク:
    • 販管費の増加(特に人材関連費)が、売上成長を上回る。
    • 市場での価格競争が激化し、サービス単価が下落。
    • 主要顧客のセキュリティ投資が鈍化。

弱気シナリオ(蓋然性10%):

  • 前提: サブスクリプション移行の失速や、高価格帯の製品・サービスが顧客に受け入れられない。景気後退により、企業のIT投資全体が縮小。競合他社がより安価で高性能なソリューションを投入。
  • 業績予測レンジ: 売上高5,500百万円~5,700百万円、営業利益600百万円~700百万円。
  • リスク:
    • ALogサブスクリプションの解約率が上昇。
    • M&Aで取得した子会社が期待通りのシナジーを生み出せず、のれんの減損リスクが顕在化。
    • サイバー攻撃の手法が進化し、同社製品の対応が遅れる。

7. バリュエーション(企業価値評価)

相対評価法: 同社は、従来のフロー型ビジネスから高収益のストック型ビジネスへの転換期にある。このため、PERやPBRといった従来の指標で単純に評価することは難しい。なぜなら、目先の利益は低く見えがちだが、将来のARRの積み上がりを考慮する必要があるからだ。よって、ARRやLTVといったSaaSビジネスの指標を用いた評価がより妥当である。

  • ARR: 2025年Q2時点で3,332百万円 。
  • ARRマルチプル: 同社のARR成長率(+35.1%)と、今後見込まれる利益率の改善を考慮すると、国内SaaS企業のARRマルチプル(一般的に5~10倍)の中でもプレミアムで評価されるべきだと考える。仮にARRマルチプルを8倍と仮定すると、同社の企業価値は3,332百万円 × 8 = 26,656百万円となる。これは、直近の時価総額に対して大幅なアップサイドを示唆している。

絶対評価法(簡易DCF):

  • 前提:
    • 永久成長率:今後のサブスク事業の成長を見込み、保守的に3%と仮定。
    • WACC:一般的なIT企業のWACCを5%と仮定。
    • フリーキャッシュフロー(FCF):2025年中間期から、営業CFが順調に成長すると仮定し、今後数年間のFCFを予測。
  • 評価:
    • 営業CFの急増と、戦略的な投資CF、そして契約負債の積み上がりを考慮すると、同社のFCFは今後数年で爆発的に増加する可能性が高い。この前提で簡易的なDCFモデルを構築すれば、現在の株価は割安に評価されるだろう。

8. 総括と投資家への提言

今回の決算は、単なる好業績の報告に留まらず、同社が「ビジネスモデルの変革」という最も重要な投資テーマにおいて、明確な成功を収めつつあることを証明するものだ。サブスクリプションモデルへの移行は、短期的な利益率を向上させただけでなく、CCCの大幅な改善に示されるように、キャッシュフロー創出力という企業の最も本質的な力を飛躍的に高めた。

私は、同社への投資スタンスを改めて「強気」と判断する。その根拠は、以下の3点に集約される。

  1. 収益構造の大変革: 高利益率のストック型収益が利益を牽引するビジネスモデルが確立されつつあり、これにより利益の質と安定性が飛躍的に向上する。
  2. 圧倒的な競争優位性: 国内トップシェアを誇る製品力、特許技術、そして非常に低い解約率が、強力な参入障壁と高い顧客生涯価値を構築している。
  3. 成長余地の大きさ: サプライチェーンのセキュリティ強化というマクロな追い風に加え、新サービス「SASE」や海外市場への本格展開が、今後の成長ドライバーとなる。

投資家への提言:

  • 最重要KPI: 今後、最も注視すべきは「ARRの四半期成長率」である。DS事業とNS事業の両セグメントで、ARRが継続的に高い成長を維持できるかを確認すること。
  • 注目イベント: 新サービス「Verona(SASE製品)」の本格的な売上貢献や、M&Aによる事業統合の進捗について、今後の決算説明資料やIR情報で詳細な情報が開示されるか監視すること。
  • 長期的な視点: 短期的な株価の変動に一喜一憂せず、同社が「セキュリティの自動化」というコンセプトのもと、収益構造を変革し、ARRを着実に積み上げていくという長期的なストーリーに沿って投資判断を行うことを推奨する。

本レポートは、提供された情報に基づいて作成されており、実際の投資判断は、ご自身の分析と専門家への相談に基づいて行ってください。

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